虹ヶ咲学園。
この辺りでは言わずと知れたマンモス校。その校舎の大きさはかなりのものであり、噂によればあまりの広さによって、いつも通っているのに迷ってしまう……という生徒もいるとか居ないとか(知らんけど)
そんな事はさておき、俺はそんなバカでかい校舎を歩き、宛もなくブラブラしていた。
マナーモードにしているスマホの画面に流れてくるクラスL〇NEの他愛もない会話をスルーし、そのまま屋上へと向かう。
そこから歩くこと数分間、俺は人気のない道を通り屋上へと繋がる扉を開けた。
今日は利用者がほとんどいないのか、ガランとしており、まさに静寂という言葉が似合う空気だった。
「ふう……」
そこから何時ものベンチに腰掛けるべく足を進める。スマホをポケットにしまい、
「……………………」
「…………すやぁ〜」
「(……なんかいる)」
と、そのベンチには既に先約がいて、紫と白の縞々模様のクッションを枕に気持ちよさそうに寝ている。
……まあ、こういうのは早い者勝ちというのが暗黙の了解ということもあり、そのままその人をスルーして、来た道を引き返した。
……仕方ない。今日は反対側の端っこで読むか。
その気持ちと共に、俺は何時もの場所とは反対側に位置するスペースでアプリを開き、画面上に記された『続きを読む』というボタンに触れた。
それからどれくらい時間が経っただろうか。
時間も忘れる程に、作品を読んでいた為か周りの景色は、透き通るような青空から、うっすらとしたオレンジ色へと変化していた。
「(……あ、もうそんな時間か)」
早く学校出ないと……と思いつつ、スマホを閉じ、重い腰を上げて早足に屋上への階段を下って行った。
「さーて、帰ってアレを書き上げなきゃ。……あ、でもこの間の続きも読みたいんだよなぁ……。
うーん……正直行き詰まってるしなんか参考になるかもだしなぁ……」
1人でボソボソと呟きながら階段を駆け下り、そのまま1階の廊下に出た。
5月中旬とはいえ、室内にいて動いていればそれなりに暑い。階段を駆け下りた際に流れた汗をハンカチで拭きながら、歩く足を進めた。
「……やっぱ無理にやってもいい作品にはならないし、今日はあの小説の続き読み進めようかな…………
……ん?」
ふと窓の外を見ると何やら謎の動きをしてる女の子が1人。学校指定のジャージ……もとい体操服を来てなんか手を真っ直ぐに伸ばしたり、横に大きく開いたり…………ダンスか何かか?
そこから、なんとなーくだけどその少女を見ていたのだが、あんまりそういうのは良くないかなと思いその場を後にしようとした
その時、気の所為かもしれないが少女と目が合った。……否、気の所為ではない。バッチリと目が合った。
ガラス越しに互いを目視する男女。
一見、ドラマとかで良くありそうな展開なのだが……実際のところそんなことは無い。というかここでこっちから話しかけに行くのが定番なのか、社交辞令として正しいのか分からないけど、個人的にはただ1つの感情に辿り着いた。
速やかにここを去ろう。ただそれだけだった。
少女に軽く会釈だけして俺はそそくさとその場を去って行った。
◆◆◆◆◆
次の日の朝、俺はあの変わった女の子を見た廊下を歩いていた。
ここに来た目的はその女の子が気になったとか忘れられないとかではない。
ただこの間落としたハンカチを探しに来た。それだけの話だ。
俺の記憶では、屋上の階段を駆け下りてその時流れた汗を拭くためにハンカチを取り出した。そしてその後、ポケットに戻した筈なのだが、帰って洗濯機に入れようとした時見当たらなかった。
つまり、ハンカチをポケットに戻したつもりが上手く入らず、若しくは入り方が中途半端だった為、途中で落としてしまったと言うことだ。
まあそんな推測も虚しく、ハンカチはどこにも見つからなかった。登校の時も昨日通った道を探しながら来たし、学校内でも同じ廊下を通って探した。
しかし、それでも見つからないとなると風でどこかに飛んで行ったか、もしくはゴミと間違えられて捨てられたかだろう。多分だけどあれをこっそり持ち帰る物好きはいないだろうし。
一応、職員室に行って落し物を聞いてみるか…………と考えながら窓の外を見ると……
…………例の女の子がいた。
茶色の髪、赤いリボン、服装は昨日とは違い制服を来ていた。
うん、間違いない。
とはいえ特に何か用事がある訳でもないし、向こうもこちらに気がついて無さそうだしこのままスルーでもいいかな、と思っていたらまたしても目が合った。しかも向こうはこっちに気付くや否やこちらに向かって来たではないか。
「あの、すみません!」
そしてそのまま窓の向こうからこちらに声をかけてきた。
「昨日の夕方、ここを通られましたよね?」
「そうですが……」
「もしかしてこちらのハンカチ、貴方のですか?」
彼女が差し出したのは、白色の生地の端っこに犬のシルエットが刺繍で付けられていたハンカチだった。
…………って、これ俺のじゃん。
「そうですね……。探してきたので助かりました。拾ってくれたんですか?」
「はい。教室に戻る時、この廊下を通るんです。その時に落ちていたのを見つけたんです」
「そうですか。ありがとうございます」
その流れでハンカチを受け取り、念の為確認をした。
「……シワが伸びている?」
「多少汚れがあったので洗濯したんです」
「ほんとマジですみません」
なんだろう。めちゃくちゃいい人なんだが。普通ハンカチ拾ってもそこまでしないでしょ。
「…………あの、ちょっと待ってて貰っても良いですか?」
◆◆◆◆◆
俺は近くの自動販売機でペットボトルのお茶を買って、彼女の元に向かった。
「あっ……」
少女はこちらに気付くとまた俺の方に歩いてきた。
「あの、私に何か?」
「いや…………これ、お礼にどうぞ」
俺は彼女に自販機で買ったお茶を差し出した。麦茶と緑茶で悩んだが、カテキンを多く含まれているし、喉に良いとか聞いた事あるし、なんかちょっとリッチな感じするし緑茶にしとけば間違いないはない…………筈。
「え? あ……あの、私そんなに大したことは……」
「いや、拾ってくれただけじゃなくて洗ってアイロンまでかけてくれたんですし」
「それじゃあ、いただきます」
「………………」
「…………あの、どうかされましたか?」
「あ、いや……緑茶で良かったのかな……って」
「大丈夫です! ありがとうございます!」
満面の笑みで俺から緑茶を受け取った。
その笑顔に一瞬、桜のような華やかさを感じたような気がした。
「あ、そう言えば……」
何かを思い出したかのように呟く少女に思わず見とれていた俺は、意識を元に戻した。
「自己紹介がまだでしたね。私は桜坂しずくって言います。国際交流学科の1年です」
と、ご丁寧に自己紹介をしてくれた。1年ってことは…………年下だったんかい。
おっと、いけない。向こうが自己紹介してくれたのにこっちが何も言わない訳にはいかないな。
「自分は……空乃伊月といいます」
ふと無くしたハンカチ、そして重なった偶然。
これがこの物語の歯車を動かすことになる…………という事はまだだれも知らない。
初めましての方は初めまして、そうでない方はボンヌ・レクチュール。キズカナと申します。
これまで、別原作の方で色々と二次創作作品を上げさせて頂きましたが、この度私もラブライブの作品に手を出させて頂きました。
虹ヶ咲からラブライブにハマった者なので色々と噛み合わないかもしれない点などあるかもしれませんが今後とも暖かく見守ってくださると恐縮です。
それでは皆様、今後ともよろしくお願いします。
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追記
ボンヌ・レクチュールってフランス語で「良い読書を」って意味らしいですね。私も最近知りました。