桜坂しずく。
国際交流科の1年生で演劇部、そしてスクールアイドル同好会に所属。元々青藍高校に通っていたのだが、確か最近
演劇部でも期待の存在らしく、演劇部長からも一目置かれているんだとか。
真面目で責任感が強く、将来の夢は女優…………ね。
「ま、だからと言ってどうって話では無いけど……」
この間、謎の美少女が眠っていたベンチに横になって、銀紙に包まれていたソフトキャンディを口の中に入れた俺はそのまま特に何もせずボーッとしていた。
「…………にしても昼ご飯食べた後ってどーしてこう眠たくなっちゃうのか…………「あー! やっぱりここにいた!」……げ」
突然の荒々しい声。
その声に嫌な予感を覚えた俺は、思わずベンチから起き上がり声の先を見た。
嫌な予感は的中。制服をラフに着こなし、セミロングの髪を靡かせながら現れたその女性はどんどんこちらとの距離を詰めてきた。
「まーたお前か。いい加減にしてくれよ……」
「いーやしない。今日こそはYesと言わせてやる」
「いや、やらねえよ。 なんで個人で小説書いてる俺が演劇部の脚本やらなきゃならねえんだよ」
「我が部長の思し召し」
「聞いたことあるようなフレーズを使うな」
説明が遅れたが、目の前の女は『愛川胡桃』。演劇部に所属し、小物やセットの制作等の裏方作業を主に活動している。ついでに言うと、同じクラスであり席も近い。
そんでもってどういう風の吹き回しかは知らないが、ここ最近『演劇部の脚本書いてみないか?』と誘ってくる。
「ていうかなんで演劇部の部長さんが俺を?」
「だってあんた、この間の学校の小説コンクールでなんか賞貰ってたでしょ」
「ああ、あれね。 ていうか貰ったって銀賞くらいだけどな」
「そ・れ・で! ちょーっとうちの部活、前の脚本担当者が辞めちゃってさ。 新しい人探してる時にあたしがあんたを推薦してみたの」
「で、手始めに話をしたいから連れてこいってか?」
「理解が早くて助かる」
要するに完結に言えば、演劇部の部長さんが俺を気に入った場合は演劇部に所属してもらうって辺りか。
「というかさ、なんで俺なの? 実際上の賞取った奴なら他にもいただろ。それこそ最優秀賞の人とかの方が良くないか?」
「えー。あたし的にはその人よりもあんたの作品の方が面白かったんだけど」
そう言った後、愛川は「それに……」と言いながらえらく真剣な顔をした。
俺は思わず唾を飲んだ。こいつがここまで真剣な表情をするとは…………なにか、大事なことでも言うつもりなのか……。
そう思っていた時、遂に愛川は告げた。
「なんか金賞以上の人って声掛けにくいじゃん!」
「帰るわ」
さっきの真剣な顔はなんだったんだと思う程の理由であったが故に愛川の横を通ってさっさと教室に戻ろうとした時、「ちょっと待ってー!」と
「ちょっと待て! 今なんて書いて愛川って読んだ!?」
「何言ってんの? お前」
「あ、そんなことより今日……」
と、何かを言いかけた時予鈴のチャイムが鳴り響いた。
予鈴に従い、俺はさっさと教室に戻ろうとした時、またしても愛川にその行先を阻まれた。
「とりあえず! 今日の放課後、あたしに着いて! じゃ!」
とだけ言い残し、奴はスタコラサッサとその場を去って行き。屋上は俺がただ1人残されただけという空白に近い空間となった。
「…………戻ろ」
まあ、話だけ聞いてみても良いか。
そう思いながら、俺も屋上を後にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
放課後。そいつは(一方的な)約束通り俺を捕まえ、演劇部の方へと連行した。
「部長〜! 連れてきました!」
「お疲れ様」
行き先にいた演劇部の部長に胡桃が挨拶をし、その流れで俺を突き出した。
いや、警察に捕まった犯人じゃないんだからもうちょいどうにかならなかったの?
「お疲れ様。後は私が話をするから」
演劇部部長にそう言われると胡桃はビシッと敬礼をし、部屋から去っていった。いや、だからなんでさっきから刑事ものの動きなんだよ。お前そんなに刑事ドラマとか好きだったか?
「で、君が噂の空乃くんね」
そして凛々しい態度で改めて俺と向き合う演劇部部長。そんな彼女の態度に、思わず身構えてしまう。
「そんなに身構えなくてもいいよ。別にとって食おうって訳じゃないし」
そう言うと「まあ座ってよ」と椅子を持ってきてくれた。
「とりあえず、君の作品には目を通させて貰ったよ」
「それはどうも」
と、目の前に置かれたのはウチの学校で少し前に小説コンクールで募集された文作の中から審査員の目に止まった物が賞みたいな感じで載せられている。って言っても、これ企画したのも審査員も確かライトノベル研究部だったか、ライトノベル同好会だったか、そんな名前の部活動だった気がするし、まあ正式ななんかのコンクールじゃないから審査員の好みとかも選別対象になってる可能性もあるからなんとも言えないけど。
「結論から言うと面白い作品だったよ」
「そうですか」
いきなりのお褒めのお言葉。これは嬉しい限りだ。
「この作品を見る限りだとあなたの発想力とストーリーの構成力は十分。でも、それを演劇に持ち込めるものかと言われたらそうじゃない」
確かに。今回俺が書いた作品はファンタジー色が強いものだった。まあ元々こういう事を前提で書いた作品じゃないと言えばそれまでなのだが。
「そこで1つ、貴方に課題を出すわ」
「課題?」
「舞台で使うことも出来る作品を書いてみて欲しいの」
「なるほど。まずは小手調べって事ですか」
「そういうこと」
「どうかな? やってみる気はある?」
まあそうなるわな。ただ小説を書いてるってだけですんなりと採用されるわけが無い。まあ、採用して欲しいって俺から言い出した訳じゃないんだけど。
「……わかりました。 やってみます」
でもなんか面白そうだと思った。
俺の発想力が、どれだけ通用するのか試してみたい。
そう思った俺は、その誘いを引き受けたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で、勢いでああ言ったのは良いけど……」
正直、ネタが無い。
さっきも説明したと思うが、今まで書いていた作風はファンタジー色の強いものだったからいざ演劇よりの作品を書こうとしても右も左も分からない…………いわば手探り状態でやらなければならない。
とりあえずなにか本を探しに図書室へ行き、何冊か参考になりそうな童話や小説を何冊か借りようと思い足を進めてる。
そして図書室へ向かう途中、声が聞こえた。
どこかで聞いたことがあるような、それでもなにか違うような声が。
声に導かれるようにその発信地へと向かう。
辿り着いたのはあの時の校舎裏。
そしてそこで見たのは、1人で台詞のような言葉を発している桜坂しずくだった。
その光景に思わず俺は見とれていた。
そこにいるのは、桜坂しずくか。
それとも彼女が演じる人物なのか。
そう思うほどに彼女の演技力は高いものだった。
暫くその様子を見ていると、またあの時のように彼女と目が合った。
「先輩、みてたんですか?」
「ああ……ごめん」
彼女に聞かれて俺は思わずバツが悪そうに返事を返した。その返答に対して彼女は「気にしないでください」と微笑みながら言った。
「そういや、前もここでなにかやってたけど……もしかして劇の練習?」
「劇というより演技の練習です」
そっか、そう言えば桜坂さんは演劇部所属だったっけ。
「それにしても凄かったよ。もしかしてずっとここで練習してるの?」
「はい。ですが私もまだまだなのでもっと頑張らないと……」
タオルで汗を拭きながらまた彼女は微笑んだ。
彼女はなんだか本当の女優のように笑顔を絶やさない様に感じた。流石としか言いようがない。
「そう言えば、確か桜坂さんって同好会も掛け持ちしてるんだっけ?」
「はい。スクールアイドル同好会です」
「演劇部に……スクールアイドル?」
「はい。スクールアイドルでの経験を演劇に活かしたいと思いまして」
「へえ〜。色々と考えてるんだね」
正直なところ、演劇とアイドルがどう繋がるのかは分からないけど彼女なりの考えがあるんだろう。
…………もしかして、ミュージカルとかかな? 2つを合体させると。
と、考えていると聞きなれない音が聞こえた。その音に反応し、桜坂さんはスマホを取り出していた。
「すみません、同好会の方から連絡があって……」
「そっか。頑張ってね」
そう言うと彼女はお辞儀をしてその場を去っていった。
その背中を見て、俺も改めて自分のやるべきことを頑張らないとなと決意を新たにした。
東京オリンピック、皆さんは楽しんでますか?
どうもキズカナです。
前回からの投稿からだいぶ間が開きましたが、ようやく第2話です。
ぶっちゃけ、1番苦戦したのは演劇部部長ですね。本命わかんないし、口調とかちょっと不安あるんですけどこれで大丈夫ですかね?
とりあえず次回も頑張って書き上げようと思いますのでどうぞよろしくお願いします。
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