あれから3日が経った。
図書室で借りてきた本をあれこれ読み、演劇にピッタリ合いそうな設定を幾つか考えたがこれと言ってピンと来ない。
正直、殆どが俺が書きたいと思う題材なので演劇に合うかどうかも微妙なところ。
逆に演劇向きに書こうとするとこれまで読んできた本に近いストーリーとなってしまう。
「で、台本の構成は?」
「出来てるわけないでしょ」
そんなこともお構い無しに俺の席に来た愛川は進捗状況を聞いてきた。とりあえず言いたいことは山のようにあるが俺の席の机に座るな。
「とりあえずある程度幾つか題材はノートに上げてみたんだけど」
俺からノートを受け取り、中身を閲覧した愛川は「うわぁ」と声を漏らした。声のテンションからして良い意味での反応では無さそうだ。
「見事にバツばっかり」
このバツというのは個人的にボツにしたネタの数々だ。
実際に書き進めはしたものの、どうにも途中で行き詰まるし、最初の部分は書けても話を繋げた際に違和感しか無くなってしまう。
「ついでに言うとそれらを何とか書きあげたやつをいくつか部長さんに持っていったんだけど、無理やり書きあげたこと見抜かれて見事に全部ボツ食らった」
「マジか…………。で、どうすんのさこれ。 締切までに間に合うの?」
「知らん」
愛川からノートを取り上げ、そのまま教室から立ち去った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
作品作りに行き詰まった俺が向かった先は、以前何度か桜坂さんと遭遇した場所に来てみた。
彼女に会いたい、とかそういう気持ちではなくこの場所に来れば何かを掴めそうな……そんな気持ちがしていた。
「ま、そう上手く事が運べば苦労しないってもんみたいだけどさ」
そこには彼女の姿は無く、ただ静かな景色が広がっていただけだった。
とりあえず近くのベンチに座り、ポケットに潜めていたソフトキャンディーを取り出し、銀紙を剥がして口に入れる。ほのかに口内から香る甘い匂いが脳にいい刺激を与えてくれている気がする。
それはそうと現実問題どうするか。
このままではまともな作品が書けない。そうなると相手からしても期待外れもいい所だろう。
「桜の舞う季節に歌う演劇少女……。ダメだ。どっかで観たぞ」
ここまで来ると完全にスランプである。しかもかなり重症ときた。
とりあえずここでじっとしてても良い案は浮かびそうに無いし、適当にそこらじゅうを歩き回っていればもしかしたら良いネタが見つかるかもしれない。
そう思ったらそこからの行動は早かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で、特に何も収穫は無し……っと」
結局、台本のネタを思いつかないまま放課後になった。
現在俺は前と同じベンチで横になり、そのまま寝ていた。
「またこんな所で寝てるんですか? 空乃くん」
「……ん?」
目を開けると、そこにはこの学校の生徒会長『中川菜々』がいた。
「……何してるんですか?」
「それはこっちの台詞です。……またスランプですか?」
「ま、そんな感じ」
そうですか、と言うとそのまま彼女はベンチの空いているスペースに腰掛けた。
補足しておくが中川さんは俺が趣味で小説を書くことを知っている。そのきっかけについては…………そのうち語ることになると思うから今は端折させて貰いたい。
「それで、今回はどんな作品にするつもりなんですか?」
「いやそれがさ、そこで躓いてんのよ」
「成程。本格的なスランプですね」
創作をするということはかなりの一大事だ。
何しろゼロから作り上げるのだから、自身のアイデアと知恵を振り絞って面白いものを作り上げねばならない。それに、今の俺には縁遠い話だろうがそれを商売で行う場合、自分の好みで作るだけではそのうちやっていけなくなるなんて話もよくある事だ。
「それにしても…………なんか中川さん、雰囲気変わった?」
「え? そ……そうですか?」
「うん。なんか肩の荷が降りたような感じになってる」
これでも昔は堅物……というか笑ったところを見たことが無いってレベルで接しにくいイメージだった。しかし、ある1件で仲良くなったのだが…………まあ、この話もまた別の機会にさせて頂こう。
「でも……やっぱり大好きな事を共有できる人達がいるってとても嬉しいことなんだって改めて感じましたね」
「大好き……ねぇ」
大好き。その言葉で思わず考えた。
大好きな事を迷いなく貫くことが出来ればどれほど幸せなことだろうかと。
だが、この世の中は十人十色とはよく言ったもの。価値観なんてものは1人1人違ってくる。価値観が違うことは仕方ない。だが、それによって起きる悲しい事実もある。
「…………どうしました?」
気がつけば俺は上の空になっていて、中川さんの話に気が付かなくなっていた。
「ごめん、ちょっと考え事をね」
「そうですか? なにか悩み事でも?」
「いや、悩みって訳じゃないんだけど……まあ、ちょっとな」
俺の言葉に「そうですか」と言うと彼女はベンチから腰を上げた。
「なにか悩み事があるなら私も可能な限り力になります」
「ありがとう」
「では私はこれから用があるので失礼しますね」
そう言って彼女はそのまま去っていった。彼女に続くように俺もベンチから腰を上げ、その場から立ち去った。
好きな事を貫くこと、それは楽しいだけではない。
その好きな事を本格的に否定されれば心が折れることもあるし、それで大きく挫折すれば最悪の場合立ち直れないことだってある。
それでも、時々考えてしまう。
自分の好きなことを貫き、信じられる者はその中でどんな幸せを見ているのだろうか……と。
「…………やってみるか」
ふと、持っていたメモ帳の少しだけ書いていたページを見た。
そのページに書かれていたのは簡単なテロップのようなものだ。
主人公は自分自身を隠し、周りに適応出来るように生活している。その事に大きな不満は抱いていないが、本当は自分を曝け出したいと願うことがある。
書かれていたのはただこれだけだ。正直、この設定をここから先どう活かし、どのような結末を描くべきなのか。それがわからずに行き詰まっていた。
人の感情と言うのは簡単ではない。美しくとあると同時に醜いものでもある。
だからこそ、それを文面で表現するという事は甚く難しいのだ。
だからこそかも知れない。
俺が書く作品に出てくる人物像という物は何かしら弱さを抱えているのは。
そして、そこに俺が見たいものもきっとそこにあると思う。
「よし、気が変わらないうちに始めるか」
思い立ったが吉日。その場から移動し、帰宅するとすぐにペンと作文用紙を取り出して物語を書き始めた
その日の筆はいつも以上に進んだ。
これまでとは違い、構想を考えると直ぐに文字へと変換されていった。その様子は、これまでのスランプが嘘かのように感じた。
「出来た……」
そして推敲を重ねること数時間。
日はとっくに沈み、暗みがかかっていた。思っていた以上に集中していたのだろう。
「……あ、ヤバい。風呂入らないと」
完成した原稿を綺麗重ねて部屋を出た。
1番上の紙にはこの物語のタイトルが書いていた。
そのタイトルは
『荒野の雨』
今回ヒロイン出てないけど許してヒヤシンス
良かったらコメントなどお願いします。