◆◆◆
夢を見ている。
その自覚はあった。
いつだってそれは悪夢で、俺の精神を疲弊させた。
今日はどの夢なんだ。いい加減やめてくれ。
そう願っても悪夢は湧き出してくるのだ。
これは誰かの目線だ。視線の先にはカラカラがこちらを笑顔で見上げて来る。
黒い服を着た何者かに囲まれる。殴られ、蹴られる。
棒の様な物が振り下ろされ、自身の被っていた骨が砕けて皮膚を突き刺す。
痛い 痛い痛い!
だが、黒い服の者達に押さえ付けられこちらを泣き叫びながら見つめる我が子の顔を見るのは更に痛い。
許さない。絶対に.. . .
意識が遠くなり、視界が暗転する。
怒りが渦巻き、支配される。
コロス コロス コロス
吐き気がした。俺は当事者ではない。これはアノ時に伝わって来たカラカラの母親の残滓なのだ。
赤い瞳の少年が目の前に立っている。
ジャマヲスルナ タチサレ ココカラ タチサレ
一瞬の閃光 そして 赤の瞳が言っている『大丈夫だから』と
安堵が心と自身を溶かして消して行く。
光に包まれて登って行く。
少年が尚もこちらに視線を向ける。まるで、責めているかの様に。
『逃げるな』と言っているかの様に。
◆◆◆
鬱蒼としげる森の中にひっそりと佇む巨木の中から、温かな光が漏れ出てくる。
どうやら木をくり貫いて家を作ったらしい。中は簡素な作りではあるが木の温もりを感じる様相であった。木が吸い上げた水を利用して要るのだろうか、小さなキッチンスペースもある。
その穏やかな空間に一人の青年が木の椅子に腰を掛けていた。膝の上には黒い猫に長いウサギの耳が付いた様なポケモン『ブラッキー』が丸まって眠っており、彼の手持ちであろう他のポケモン達も各々にリラックスして過ごしている。
黒い髪にそれと対応した黒のスラックスとグレーのシャツが、彼の白い肌と紫色に光る瞳をを一層強調している様に思えた。
男の名は『リンドウ』ポケモントレーナーである。
彼は、カントー本土から遠く離れたここ根の島に一人ひっそりと暮らしていた。
閉じていた瞼を開き、辺りを見渡す。どうやら眠ってしまっていたらしい。
指で目頭を触ると、僅かに涙で濡れていた。
外は先程からの嵐で風雨が強まり、雷鳴が轟いている。
静かな夜も良いが、こうして自然の音を穏やかな気持ちで耳を傾けるのも悪くはない。
リンドウは眠っているブラッキーのフワフワとした身体を優しく撫でてた。
その時、
「ん?」
リンドウは外から得たい知れない気配を感じた。ポケモン達も仕切りにドア方へ視線を送り、眠っていたブラッキーも起き上がってなにやら警戒している。
その黒い身体に入っている青白い月輪紋が淡く光ったのを確認したリンドウは、自身の感覚が気のせいではないのだと確信した。
コン....コン.....
ドアがノックされる音がした。明らかにヒトがするようなノック。しかし、ここは離島でありリンドウ以外の人間はいない。
コン..コン.....
まただ。ノックの音は抑揚などなく全く同じ間隔で打たれている。
背筋が粟立つのを感じた。ヤバいこれはヤバいぞ。
不意にノックが止み、一同が顔を見合わせたと同時にそれは始まった。
ドンドンドンドン!ガチャガチャガチャガチャ!
「!!!!?」
リンドウは絶叫しそうになるのを必死に堪えた。破壊されるのではないかと思う程激しくドアが叩かれ、ドアノブがグルグルと回されたのを見たポケモン達は混乱状態になり、部屋の中を走り回っている。ブラッキーだけはドアを睨み付け唸り声をあげていた。
不思議な事に、相手は中に入って来ようとはしなかった。鍵すらもないドアだと言うのに。いや、入れないのかと彼は思った。
家と言うのは、それそのものが外界と内側を仕切る結界であり、招かれない限りソレは中に入る事が出来ないと言う言い伝えを思い出した。
故に彼はノックの音に「誰ですか?」とか「止めて下さい」などのアクションを起こさず頑なに押し黙っていたのだ。
だが、いつまでもこうしては置けないと、彼は立ち上がりドアの外を確認して見ることにした。
「.....」
ノックの音が止んだ。まるで、そんな音など最初から無かったかの様に静寂辺りを包んでいる。
幻聴だったのだろうかと、彼が椅子に腰を下ろそうとした時に再びノックの音が再開し、身体がビクリと跳ねた。
(おかしい.....)
彼はこの現象の違和感に気付いた。
ソレは中に入ろうとしているのではない、彼を"外へ連れ出そうとしてる"とそう感じたのだ。
リンドウは立ち上がり、ドアノブに手を掛けて一気に扉を開く。
外には何も居なかった。日が落ち、嵐の音だけが響く暗い森が辺りに広がっている。
外へ脚を踏み出そうとしてブラッキーに足下の裾をクイクイと引っ張られる。「外に出るな」と言いたいらしい。
「大丈夫だよブッキー。君はそこで待っててくれ。今は何も感じないから」
リンドウは優しく微笑む。対する相棒ブッキーは諦めたように裾を離し彼の隣に立つ。付いて行くと言いたいらしい。
彼は一瞬苦笑し、それから表情を引き締めて外へと踏み出した。日が暮れた森は暗く、激しい風雨の音が耳を刺激する。辺りを見渡しても、やはり誰も見つける事は出来なかった。戻ろうかと彼が踵を返した時、ピーンと言う頭に直接何かが繋がったかの様な感覚に襲われ、思わず顔をしかめて頭を押さえる。
少女らしき声が聞こえてきた。
『やだよ....1人はイヤ!お父さん!お母さん!』
『貴女様は選ばれたのですアノ御方に』
『みんな....行ってくるわね』
ギロリ
「う、うぷぅっ!」
リンドウは近くの木に手を付いて吐瀉物を撒き散らした。
「なん...だ。あのイメージはっ!」
部屋の中で一人涙する少女
その少女を羨望の目で見詰める大勢の人々
部屋のぬいぐるみ達に暫しの別れを告げる眼鏡を掛けているらしい女
そして
この世のものとは到底思えない恐ろしい深紅の瞳
「あれは人間の目じゃない。ポケモン....だ。いや、本当にポケモンなのか!?だとすればバケモンだ!」
リンドウは吐き捨てるように叫ぶ。
氷の様に冷たく、そして恐ろしく美しい深紅の瞳。
この世あってはならないのに、ソレが物体として形を持って生きていると言う吐き気をもようす齟齬。
リンドウは直感した。アレは幽霊とか魂とかそう言うモノではなく人知や常識が根底から通用しない"神"に近しいモノなのだと言う事に。
「こいつぁヤバいな....」
リンドウの頬にジトリと汗が伝う。
関わるべきではないと彼が決意したと同時に、ブッキーが森の奥の方を睨み付け、キーキーと警戒した声を上げてナニかを追い掛けて行った。
「お、おい!ブッキー!何処へ行くんだい!!?戻っておいで!」
ブッキーの小さな身体が彼の叫びに構わず森の中へと消えて行く。黒い体毛が闇に溶けてしまっても、淡くもしっかりと光る青白い月輪紋が彼の進んだ方向を確固として知らしめていた。
「全く、何が起きてるってんだよ!!」
リンドウは苦虫を噛んだ様な表情で家へ飛び込み、急いでフード付きのロングコートを引ったくる様に手に持つと、月輪紋の光を追って嵐の森へと駆けて行った。
◆◆◆
目の前の光景にリンドウは絶句した。
女が倒れていた。
黒いインナーの上着とタイトスカートにヒール。絶海の孤島にはあまりにも場違い過ぎる格好であった。相棒のブッキーは女の周りを警戒しながらクルクルと回り、時折クンクンと匂いを嗅いでいる。
「遭難者か?それにしても何でこんな所に。ナナシマからでもかなりの距離があるぞ!?」
彼が疑問を口にしたと同時に女の身体がゆっくりと動き出した。思わず全身の警戒センサーがビリビリと不快な音を立てて危険を知らせている事が分かる。
いけない!この女と"縁"を結んじゃいけない!
本能が絶叫していた。女がゆっくりと顔を上げてこちらを見ようとしているのが分かり、心臓の音が早鐘をならしている。
ダメだ!見てはダメなんだ!
分かっている。分かってはいる。しかし、視線を彼女から切る事が出来ない。いや、そうさせて貰えないと感じた。
そして、女が虚ろな顔をリンドウへと向け、手を伸ばして来る。
「おね...がい...」
「!!!」
リンドウは一瞬で理解した。若きトレーナーにして、神秘に包まれた氷使いの四天王カンナ。カントーに住むものなら知らぬ者は居ないだろう。彼も勿論その1人だ。
虚ろで酷く衰弱した表情を差し引いても、その整った顔立ちは氷の様に儚くも美しい。
この様な状況でも、相手が彼女ならば迷わず助けて恩を売り、あわよくば教えをこうたり、媚びを売る者は数多居るだろう。
目の前のこの男以外ならば....
リンドウは、苛立ちに自身の表情が歪むのを隠さなかった。勿論、カンナ自身に私怨などない。彼にとって重要なのは彼女肩書きの方なのだ。
四天王。そう、彼女は四天王に属する者なのだ。彼にとってその事が何よりも忌々しい事なのであった。
「悪いな。アンタに恨みはねぇよ。だが、まだダメなんだ。覚悟が出来てねぇからさ。だけどアンタだってポケモントレーナーだろ?旅に出てりゃあこうなる事くらい解ってた筈だ。運命って奴さ。反吐が出る言葉だけどな」
リンドウは感覚にカンナに背を向け歩きだそうとした。
「!!?」
無意識にであろう。カンナはリンドウの裾を掴んでいた。
彼は絶叫した。錯乱し苛立ち、カンナの手を乱暴に振りほどく。
彼女はそれ以降まったく動かなくなった。体力が限界なのだろう。放っておけば明日の朝には死んでいる。
そこまで考えて彼はもう一度カンナへと視線を向けた。
「その手を取れば俺は....いや、やっぱりダメだ」
リンドウは今度こそ踵を返して歩き出す。
ドン ドン ドン
ノックの音が聞こえた。いや、これはノック音などではない。リンドウは、背筋が寒くなるのを感じた。
ドン ドン ドン
先程よりも近い。これは、木に釘を打ち付けている音に似ている事に気付き、リンドウは胸の辺りに鈍い痛みを感じて手で抑える。汗が、震えが止まらない。
ドン ドン ドン
直ぐそこにいる。生臭い強い潮の香りのする息づかいが聞こえた。胸に激痛が走り、リンドウは膝を付いてうめき声を上げる。
呪われている。
彼はそう確信した。
気付くべきだったのだ。ノックが自身をこの女まで誘導したと言う一連の流れにだ。
リンドウは後ろを振り返る。カンナが伏している脇にぬいぐるみの様な物が立ってこちらを見詰めていた。瞳は菱形の形をしていて、口に見えたのはチャックで、縫い付けられている様だ。
「お前か、元凶はっ!」
縫い付けられた口のチャックをゆっくりと開き「エギャア!エギャア!」と、まるで赤ん坊や幼児の様な声で嗤った。満面の笑みで。
その余りにも醜悪な嗤いに思わず吐き気をもようす。
「ジュペッタか....」
稲光と共に見えたのはゴーストポケモン『ジュペッタ』であった。どうやら呪いは、このポケモンによって掛けられたらしい。
ジュペッタはニタニタと不気味な笑みを浮かべながらカンナへと歩みより、先程リンドウを掴んでいた手をツンツンとつつく。彼から一切目を離さずにだ。
「俺にこの女を助けろってのか?」
首を後ろと前にもげてしまうのではないかと思うほど激しく振り乱してジュペッタは頷いた。頷く度に骨が砕ける様なゴリゴリグキグキと不自然な音をたてながら。
彼にはカンナと関り合いたくない事情があった。しかし、関わらなければ"死"
選択の余地は無かった。
リンドウは諦めて表情をジュペッタに向ける。
「解ったよ。降参だ。助けりゃいいんだろ?但しだ、俺のポケモンにも協力して貰うからな。そのくらいいいだろ?この様子じゃあ時間は余り無ぇからな」
ジュペッタは少し首をかしげて考えた後、再び気味の悪い音を立てて頷いた。リンドウは呆れた様な表情を浮かべてモンスターボールを取り出す。
「さぁ、おいで!マリルリ!ロズレイド!シャンデラ!」
水ポケモンのマリルリと草ポケモンのロズレイド、そして、まるでシャンデリアの様な形をしたゴーストポケモンのシャンデリアが飛び出してきた。
「マリルリ、その人を救助する。君の力を貸してくれ。ロズレイド草笛でアイツを読んでくれ!」
ロズレイドの草笛が森に響きわたる。数分もしない内に、暗い夜空から巨体が音も無く飛来した。
ドラゴンポケモン『サザンドラ』だ。
「ロズレイド!もういい。戻っていいよ。サザンドラ呼び出して済まないね。この人を家まで運ぶから乗せて貰えるかい?」
サザンドラとシャンデラは、何故かジッとカンナを見詰めている。
「おいおいエサじゃねぇぞ。さぁマリルリ、その人の脚を持ってくれ。俺か脇を持つ。ブッキーとシャンデラは身体を温めてやってくれないか」
其々が頷き、カンナを乗せたサザンドラが黒い翼を開くと、羽ばたく訳でもなくその巨体が宙を舞って空を進んで行った。
リンドウを宜しくお願い致します。
ポケットモンスター 冥 (HELL version)
ポケモントレーナー 『リンドウ』
好きな花言葉『悲しんでいる貴方を愛する』
戦闘開始の掛け声「さぁ、おいで」
特性 影隠れ ※影に溶け込む様に隠れ、ポケモンへの指令を相手に悟らせない。ポケモンの回避率が10%上昇
使用タイプ タイプに規則性は無いが、あく ゴースト どくタイプが手持ちに多い 耐久性が高いポケモンを好んでいる ※6体以上のポケモンを所持している
性格:面倒臭がりな性格 撫でるのが好き
H 100
A 50
B 110
C 40
D 120
S 60
持ち物 霊界のコート※影に入り込める ハーブ煙管※ハーブを使った煙でポケモンに掛けられたデバフを無効
技
のろい
イカサマ
夢喰い
ヒーリング
主人公であり、複数のパーティーを持っている。ポケモンからも懐かれる性格。好戦的ではなく人とあまり関わろうとしない。関わった人との影響なのかバトルに関しては非常に害悪なパーティーが多く、行動不能や常態異常を与えたり、耐久力の高いポケモンで遅延を謀るなど真っ向勝負はあまりしないが、サポート能力があるポケモンを多く所持しているので、本人は不本意ではあるがカンナをサポートするのは向いている。
エキスパートタイプなら ゴースト あく どく みず じめんでパーティーを組む。
旅パーティにはとある人物の影響か草タイプを所持している。