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ずぶ濡れになった身体が妙にうっとうしく感じたのは、彼が苛立っているからだろう。だが、厳めしい表情とは裏腹に、リンドウはカンナを巨木の家へと担ぎ込んだ。
「冷たいな。まるで氷みたいだ」
中に入ると、暖炉の火がパチパチと音を立てて揺らめいている。なんだかとても安心した。
冷静になり肩を担いでいるカンナに視線を向けた。
「服が濡れている。脱がせた方が良いのだけど困ったな」
そこまで言って、カンナの腰の辺りにモンスターボールが備え付けてある事に気付く。
「仕方ないな。力を借りよう」
リンドウはカンナを床にそっと寝かせると、腰元のモンスターボールを取って外で放った。カンナの手持ちポケモンが一同に介する。彼等は一様にリンドウを威嚇するように唸った。どうやら先程のやり取りでカンナを見捨てようとしていたのを見ていたらしい。
リンドウは溜め息をついてから表情を緩めた。
「君たちの言いたい事は解る。でも今はご主人を救わなければね。だから仲直りしよう。必ず救うから手をたたく貸しておくれ」
ポケモン達は互いを見合い、それから疑いながらもコクリと首を下げる。
「了承は得たか。だが、身体が大きすぎる。衣服を脱がせる手足もなさそうだが。ん?」
「ジュラルーーン!」
ルージュラが前へと進み出る。
「うん。君なら良さそうだ。濡れた服を脱がせてベッドの中に寝かせてやってくれないか?暖炉もあって部屋は温かい。数時間もすれば目を覚ますだろう。他の皆は戻ってくれ、着替えが終わったらボールをご主人の側に置いてあげる。君たちが付いていれば彼女も安心するだろうさ」
ポケモン達は訝しげではあるが納得したようだ。ルージュラが急いで家の中へと入って行く。
リンドウはポケモン達をボールへと引っ込めた。ラプラスを除いて。
「君はまだだ。傷ついているからね。少し回復の手伝いをさせて欲しいのだけれど」
しかしラプラスはリンドウを睨み付けたままだ。彼はラプラスを刺激しないようゆっくりと後ろへ下がると、扉の側に置いておいた木の器を手に取る。温かな湯気が立ち上るそれはスープだった。
「見たところ嵐を進んでくる間に雷にでも打たれたんだろう?動きで解るよ。このスープには木の実が入っている。君の身体に残る麻痺を取って殻だの回復効率を上げてくれるんだ。どうだい?食べてくれないだろうか」
リンドウが一方通行前へと進むと、ラプラスは来るな!とでも言いたげに唸り声を上げてヒレをバタつかせる。
彼はラプラスから目を離さずに努めて穏やかに語りかけた。
「君は彼女との絆が一番深い様だね。だから解るだろう?ご主人が目覚めたとき、君が傷だらけだったらどんな顔をするか。心の痛みはどんな傷よりも直し難い。ご主人が起きた時に元気な顔を見せて上げるのが一番の薬なんだ。俺を信用出来ないのは解ってるさ。だからこれはお願いなんだ。食べてくれるね?」
ラプラスは未だ懐疑的な表情を浮かべている。リンドウはラプラスを刺激しないようゆっくりと近付いて器を置いた。
「大丈夫。毒なんか入ってやしないさ。信用できないなら俺がまず一口食べるよ」
リンドウは指でスープを指に付けて舐めて見せる。そこへブッキーも寄ってきて器のスープを一口舐めてキュッキュと、嬉しそうに鼻を鳴らした。それを見て漸く信用したのか、ラプラスはゆっくりとスープへ口を付け、少し驚いた様にリンドウを見つめた。
「気に入って貰えたかい?ゆっくりとお食べ。食べれば気分も良くなるよ」
リンドウはスープに口を付けるラプラスを穏やかな表情で見つめながら身体の側面へとゆっくり移動し、傷の付いた肌をみやる。
そして、傷に向かって手をかざし、心を落ち着けてゆっくりと目を閉じた。
「静かな時を生きる。其の御霊。私は畏れ敬い御申す。供御として捧げられし一片の光を。お恵み召されません事を。畏れ敬い御申す」
静かに彼が呟いた時、辺りの草木が優しくざわめいた。ブッキーの月輪紋が淡く光を放ち始めると同時に、草木の葉から蛍の様な儚い光が飛び交い、リンドウのかざした手の先へ収束してラプラスの傷へと送られて行く。
傷が少しづつではあるが癒えて行った。ラプラスは心地良さそうに目を閉じ、そして瞳からは一筋の涙が雫となって流れていた。今まで気を張っていたのだろう。きっとカンナが助かると知っての安堵から来る涙だったのかもしれない。
「安心して。これはヒーリング"みたいな"ものでね。"先生"から習ったものだ。自然に蓄えられた力をホンの少しだけ頂くんだよ。だから完治はしない。でも、あとは君の身体が回復をしてくれる筈だ」
ラプラスは瞳を閉じたままゆっくりと頷いた。そしてそのまま、穏やかな表情で眠るのだった。
「目が覚めたら君もご主人もきっと良くなっているよ。だから今はゆっくりお休み。ラプラス」
リンドウはラプラスをボールへと戻す。それと同時にルージュラが扉を開けて出てきた。
「ありがとうルージュラ。君も戻って休んでくれ。他の皆と一緒にご主人の近くに置いてあげるよ」
カンナの全てのポケモンをボールへ戻したリンドウは、部屋へと入って行く。彼女はベッドの中で静かに寝息を立てて眠っていた。
リンドウはモンスターボールを彼女の枕元へと置き、その表情を見詰める。
眼鏡を外した彼女は、整った顔立ちこそしているものの、最初の印象よりも少し幼く見えた。溜め息を付き、リンドウは椅子へと腰掛ける。
「全く、忙しくなりそうだ」
ブッキーはその独り言に首を傾げる。彼はそれに構わず彼女の寝ているベッドに視線を向けた。性格にはカンナの枕元にいつの間にか鎮座しているジュペッタにだ。
「さて、事情を聞こうか。君は俺に何をして欲しいんだ?まさかこれで終わりって事はないだろう?」
考えてみればそうなのだ。カンナの救助だけを乞うならば
わざわざ誘導する真似など必要無かった。リンドウが扉を開けた瞬間に必死の様相で訴えれば良かったのだ。
だがジュペッタはそうはしなかった。わざわざカンナの倒れている場所へ誘導し、リンドウの意思を彼女へと向けている間に自身は準備を整えていたのだ。
呪いの術式を確実に発動するために。
結果としてリンドウは、ジュペッタの言うことを聞かざるを得ない状況に陥った。そしてそれはカンナが助かった今でも続いているのだ。
結論としては、ジュペッタは尚もカンナに関してリンドウに何かをして貰いたいと暗に示している。
身振り手振りをし始めるジュペッタをリンドウは制した。
「必要ない。イメージするだけで良い。俺と手を繋いで事情を思い浮かべてくれ」
ジュペッタは彼の喪とにフワリとやって来て手を触れて来た。ぬいぐるみの様な外見とは裏腹に不快な冷たさを感じて、少しだけ鳥肌が立つも、それでも表情を変えずにリンドウは相対した。
「それじゃ頼むよ」
彼の頭の中にイメージが入り込んで来る。
◆◆◆
温かい。とてもフワフワとして気持ちがいい。
カンナは自身の部屋に飾っているぬいぐるみ達を思い出していた。だが、直ぐに違和感に気付く。
温かい?なんで?
彼女はゆっくりと瞳を開く。目の前に黒い猫の様な生き物の金色に光る瞳が覗いていた。どうやら自分はこの子を抱きしめて眠っていたらしい。そこで更に感触の違和感に気付いた。
この直接肌にフワフワとした毛が触れる感じは、もしかして私裸なの!?とそこまで思って飛び起きようとした時だった。
「お目覚めですか?申し訳無いが今飛び起きられると厄介な事になりますのでどうかそのままで」
男の声が聞こえた。ベッドから身体が出てしまわない様にボヤけた視界で辺りを見回すと、近くの椅子に男が腰かけているのが解る。
カンナは顔が急に熱くなるのを感じた。男はそれを察したかのように、両手を手を左右に降る。
「誤解しないで頂きたいのですが、ずぶ濡れで貴女が倒れていたのをここまで運んだのは確かに私です。しかし衣服については、勝手ながら貴女のポケモンに力を借りました。疑うようなら後でルージュラに話を聞けば解るでしょう。私は家を出ていますので、その間に着替えを済ませて下さい」
男はそう言うと、部屋を出て行く。
カンナは手探りで眼鏡を探して掛けた。焦点が合い像を結ぶ。そこはまるでお伽の世界の家に登場するような木をくり貫いて作った部屋だった。暖炉で薪がパチパチと音をたて、釜戸にかけられた鍋から良い匂いが漂っている。
「キュー!キュー!」
「ん?、あっごめんねっ!今おろすから」
カンナは腕に抱いていたポケモンの事を思い出した。良く見るとそれはブラッキーであり、カンナの知るソレとは色が微妙に違う。蒼白い月輪紋と金色の瞳が夜を司るこのポケモンに似合う気がした。
彼女は優しくブラッキーを押してあげると、ドアの前まで走って行き、爪でカリカリと引っ掻いている。どうやら外にいるご主人の下へ行きたいらしい。
「ごめんね。少し待っていて。直ぐに着替えるわ」
カンナは近くに掛けてあった自身の衣服を手早く着るとドアを開けてあげる。ブラッキーが外へと飛び出した瞬間に男が入って来た。
「!」
カンナは一瞬たじろいだ。ブラッキーと同じ闇に溶ける用な黒髪と黒を基調とした服装に白い肌。そして何より彼女の目を引いたのは、闇の中でも淡く光る薄い紫色の瞳だった。
年はカンナ自身と同じ位に感じる。
「ブッキーお疲れ様。もう遅いけど、もう少しだけ付き合って貰えるかい?色々と準備も必要だしね」
ブッキー?ニックネームだろうか。
かなり懐いているのが解る。男はブッキーを優しく撫でるとカンナへ視線も向けずに中へと入り、鍋の中身を器はと取り分け始める。
「あ、あの。助けて頂いたんですよね?ありが....」
「お礼も挨拶も結構。取りあえず食事を済ませて下さい。ああ、貴女のポケモン達ならご心配なく。ラプラスもこちらで処置させて頂きました。眠っているでしょうが、目が覚めたら元気になっている筈です」
「え、は、はぁ....」
ぶっきらぼうな言い方にムッとくるものの、彼女はテーブルへと腰掛ける。男が目の前にスープとパンを置いた。良い香りに思わずスープを口に運ぶ。
「おいしい....」
芳醇な木の実の香りと僅かな塩味が疲れて冷えた身体に沁み込んで来る。夢中になってスープを啜っていると、彼がこちらを見ている様な気がして顔を向けるも、素早く顔を背けられてしまった。気まずい雰囲気を何とかしようと、カンナは手を止めて言葉を繋ぐ。
「あ、あの。私はカンナと言います。お礼は良いと言われたけどやっぱり悪いわ。助けてくれた上に美味しい料理まで。本当にありがとう」
「いや....まぁ知ってますよ。四天王なのでしょう?」
やはり知っていたかとカンナは思う。だが、取り入ろうとしている訳では無さそうなので一先ずは安心した。
「いえ、元よ。四天王は降りたの。最近、色々と集中出来なくて」
「そうでしたか....」
「あの、失礼だけど先程から随分考えて込んでいるよう見えるけど何か?」
「いえ、こちらの事情ですので.....あっ、食べ終わりましたら食器をお下げします」
「ええ、ありがとう」
カンナは食器を下げようと、此方に近付いて来る彼の顔をじっと見つめた。正確にはその瞳を。薄い紫色の瞳は決して彼女を見ようとはしない。
カンナは少し考えて行動に移す事にした。
ガタン!
「!!?」
彼は驚いた顔をしている。無理も無い。カンナがいきなり椅子から腰を浮かせて自分の視界へと飛び込んで来たのだから。互いの顔があと少しで触れあう距離にまで。
「驚かせてごめんなさい。でも、キチンとお礼がしたかったの。自己紹介もまだ終わってないしね。改めてだけど。私はカンナ。ナナシマ諸島にある『世ノ島』出身なの。あなたは?」
彼は観念したかのように溜め息をついて、今度はしっかりとカンナと視線を合わせた。
「外へ....」
「え?」
「急いで、今ので完全に気付かれた。恐らく貴女を助けた時点で疑問には思っていた筈の事が確信に変わったと思う。遅かれ早かれ辿られるなら今の方が良い」
彼はカンナの手を掴んで外へと連れだそうとする。
「ちょっと待って、意味が解らないわ!」
「ここでも良いのですが、なにぶんアノ婆さんは派手好きなので、家が吹っ飛ばされ兼ねない。申し訳ありませんが急いで下さい」
二人は飛び出す様に外へと駆け出した。彼はカンナの手を離すと距離を取って向かい合う。
「確かに、元とは言え四天王だった貴女に名を名乗らないのは失礼でした」
どうしてだろう。空気が重くなった気がする。カンナは額に汗が滲むのを感じる
「私の....いや、俺の名前は」
ダメだ!カンナはそう直感した。だが、男は尚も彼女を真っ直ぐ見詰めている。苦悩に満ちた表情を浮かべながら。
「リンドウ。シオンのトレーナーだ」
リンドウが名乗った瞬間大気が弾けた。凄まじい轟音と供にカンナとリンドウの間に火柱が立ち上る。
ただの炎でない事は明らかだった。紫色に怪しく光るそれは正に鬼火のそれなのだ。
鬼火は徐々に小さくなり、ヒトの形に凝り固まって行くように見える。やがてそれは杖をついた小さな老婆の形を取っていた。カンナにはその正体が解っていたのだろう。表情は明らかに動揺していた。
「フェ フェ フェ!久しぶりだねぇ~随分とタッパだけはデカくなったじゃないか。泣きベソ小僧は卒業かい?リンドウ」
「バァさん....」
リンドウの表情はまるで仇でも見るかのように歪んでいる。
「フェフェ、四天王なんてつまらないと思っていたがね、"縁"ってのはどこで繋がるか解らない。全く愉快なもんだよ」
老婆の形をした鬼火はカンナへと視線を向けているようだった。
「答えて下さい!何故!何故あなたがここに要るの!!?」
叫ぶ様に訴えるカンナに鬼火の老婆は口を割けんばかりに広げてニヤリと笑った。
「キクコさん!」
以上ですが、私のイメージするカンナに一番近かったのはpixivに投稿されていた絵師の Y さんのカンナです。
ポケットモンスター 冥
元四天王 『キクコ』
好きな花言葉『やぶれた恋』
戦闘開始の掛け声「お前に本当の絶望って奴をを教えてやる!」
特性 縁結び ※縁を結んだヒトやポケモンの居どころ把握する。回避率の5%上昇及&命中率5%上昇
使用タイプ ゴースト どく
性格:執念深い性格 墓場巡りが好き
H 70
A 40
B 60
C 120
D 60
S 100
持ち物 遺骸の杖
技
うらみ
おきみやげ
ちょうはつ
夢喰い
元四天王にしてボスキャラクター 姉御肌 かなり好戦的で執念深い。リンドウに影響あたえた人物の一人 シオンタウン出身