◆◆◆
心地よい潮風にカンナは目を覚ます。
「ん....眠ってしまったのね」
気が付けば夜になっていた。開かれた窓から月明かりが差し込んでいる。
「綺麗な景色ね」
月明かりに照らされて美しく輝く浜辺に思わず目を細める。
ギィギィ
「あらジュペッタ。あなたも景色を見たいの?」
ギィ...
「ん?元気ないわね。何かあった?」
ジュペッタは項垂れた様に首を振る。
「ねぇ、私と少し浜辺を歩いてみない?こんなに月明かりが綺麗なんだもの。きっと気分がよくなるわ」
浮かない顔をするジュペッタをカンナを抱きかかえる。ひんやりする身体とは裏腹に柔らかく、何故だか心が落ち着く気がした。
「さっ、行きましょう」
二人は夜のホテルを抜け出す。昼間はトレーナー達がバトルをする浜辺も、今は静かで波のおとしか聞こえてこない。
腰を下ろし、手で砂を掴んで月にかざしながらサラサラと流して行く。キラキラと光ながら流れ行く様は美しかった。
二人は暫くの間、その穏やかな時間を噛み締める様に過ごした。
ウウッ..
「なにっ!?」
不意に近くの茂みで呻き声を聞きカンナは身体をビクリとさせる。
ウウッ....ウ
「だ、誰かいるの!?」
返事はない。恐怖を覚えたカンナはジュペッタを強く抱きしめながら茂みへと近付いて行く。
「ひっ!」
思わず後ずさる。そこには木にもたれ掛かって意識のないリンドウと、白髪に黒いローブを着て、首もとに赤いキバに見立てた様な赤い襟巻きを身につけた人の形をした何かがいた。
黒い何かは、カンナに目もくれずリンドウを凝視している。
「ウウッ....グ..ウ..」
リンドウが苦しそうに呻き声をあげる。
「や、やめて!リンドウに近寄らないで!」
震える脚をなんとか前へ出して声を絞り出す。その時、月明かりがカンナの首に掛けられている氷の結晶をかたどったアクセサリーに反射して黒い何かを捉える。
ギロリ
「!」
黒い何かが初めて反応を見せた。振り返った時に視界に飛び込んできたその瞳はとても冷たくもの悲しい。
サビシイ ダレカ ソバニイテ
「あ、ああぁ!」
彼女は絶叫した。 孤独 絶望 そして切望
それらが入り交じった感情が自身の存在を削って行くような失格を覚え、心が締め付けられる。
それでも尚、彼女が引かないのは元四天王としの矜持なのだろう。黒い何かは諦めた様に闇へと溶けるように消えていった。
脚に力が入らず、思わずその場にへたり込む。ジュペッタもカンナの腕の中で震えていた。
「あれは一体なんなの!?」
そこまで言って、リンドウの容態が気になったカンナはかれの元へ近付く。額に汗が滲んでいるものの表情は穏やかで、呼吸も落ち着いていた。どうやら眠っているらしい。
「あなたの見る悪夢の正体はこれだったのね」
彼の腰を下ろして木に寄り掛かる。
「ホント、知らない事だらけだわ。世の中の事も、あなたの事も」
視線を横に向ける。穏やかに眠るリンドウの顔は同い年と言うよりは少し年下の弟の様にも見えた。
「リンドウ。アタシ、ずっと一人で力を磨いてきた。勿論リーグの皆も一緒だったけど、でもそれは逃げだったのかもしれないわね。もっと人と接して、色々な所を見てみる事も大切なのかもしれない」
肩を寄せ、互いの頭をくっ付ける。自分とは違う体温を感じる事がカンナの心の氷を溶かして行く。
「ねぇ。短い期間だって言ってたけど、もっと私と一緒に旅をしてみない?もっと世界を知ってみたいの。あなたとのバトルもお預けになっちゃってるし。でも....」
ハハハ....
カンナは少し困った様な顔で微笑んだ。
「きっとリンドウは嫌がるでしょうね。『四天王となんて御免だ』って。でも一人は嫌なの。そう、一人は本当にイヤ...」
ゆっくり瞳を閉じる。心地よい温かさが彼女を再び眠りへと誘うのだった。
◆◆◆
リンドウは何やら違和感を感じて目を覚ます。辺りは明るく、水平線の向こうからは朝日が見え初めていた。
ふと横を見て飛び上がりそうになる。
「な、ななっ!」
カンナが自身に身体を預けて眠っていた。
「寝相悪すぎだろ....」
彼の皮肉にジュペッタが口のチャックを閉めて『静かにしろ』のジェスチャーをする。
「あーハイハイ。解りましたよ」
自分のフードコートをカンナに掛けて立ち上がる。伸びをしてからポケットにしまってある煙管を取り出して火を付け、朝日に向かって紫煙を吐いた。
「さて、いよいよ本拠地か....」
リンドウは密かに拳を強く握った。
◆◆◆
二人は船着き場にやってくる。
「済まないが船を出して欲しい。流氷が見える地点まででいいんだ」
「申し訳ありませんお客様。当船では個人的な依頼による運航は行っておりません」
「あ、あのぅ...」
申し訳なさそうにこちらに歩いてきたカンナの姿に受付がざわめいた。
「もしや、あのカンナさん!?ほ、本物ですか!?」
「え、ええ本当よ。無理を言って申し訳ないのだけど、どうしても世ノ島に戻らなければならないの。掛け合って頂けないかしら?」
「しょ、少々お待ち下さいませ!」
暫くのすると、上役であろう初老の男が現れる
「これはこれはカンナさん!この度はシーギャロップをご利用頂きありがとうございます!」
「挨拶は良いわ。それよりも出港は可能かしら?」
「だ、大丈夫ではございますが、流石にカンナさんの身に何かあっては責任を負いかねますぞ?」
「心配は要らないわ。ボディーガードもいるし」
「ボディーガードと言うのはそちらの?」
訝しげな視線を向けられ、リンドウは またかよ...と溜め息を付く。
「ええ、サバイバルのエキスパートである彼なら世ノ島まで送り届けてくれる筈よ」
「そう仰るなら....」
「ありがとう。ではすぐに乗船させて貰うわ」
話を終え、二人は船へと乗り込む。シーギャロップ号が船尾から泡を吹き出して前へと進んでいった。
「流石だな。四天王サマサマってところか?」
「元よモト。でも流石に無理をいってしまったかしら」
「いいんじゃないか?たまにワガママ言ったってバチは当たらないだろ。それよりも....」
リンドウはカンナの服装を半目で見た。
「その服装はなんだ?」
「冬服だけど?」
「......」
リンドウは呆れた表情をしている。彼女の服装は黒い女性用スーツに黒いストッキングとハイヒール。そして、首もとには大きなリボンがあしらわれていた。
「これから氷の海を渡ろうって時に、なんで学校の先生みたいな格好なのさ」
「どこかおかしいかしら?厚手のスーツだし平気よ。ストッキングも履いたから問題ないわ」
「そう言う問題じゃないんだけどな....」
首を傾げているカンナをリンドウは呆れた顔で見ていると彼女が前方を指差した。
「見えたわ!」
見渡す限りの白い氷の世界が姿を表した。元々温暖な地域にできた氷の為か、所々にヒビが入っている。
「ラプラスなら問題なく進めるわ。準備するから船員の人に船を止めて貰うよう頼んで頂戴」
「へいへい」
彼はダルそうに船内へ消えて行く。暫くして船が止まり、カンナはラプラスをくりだした。
「リンドウ!行くわよ!」
「急かすなって」
二人は船長にお礼を告げてラプラスの背中に飛び移る。
「それじゃあラプラス。お願いするわ」
二人は氷の海を軽快に進んで行く。凹凸が激しい氷の海での航海はかなり派手に揺れる。平然とした様子のカンナとは対照的にリンドウの顔は真っ青になっていた。
「チッ!なんて乗り心地だ....これならケンタロスの背中の方がまだマシ...ウッ...プ」
「だらしないわね!もうすぐ流氷地帯を抜けるわ。そうすれば少しは楽になるわよ」
「嘘だ!もう下ろしてくれ!」
「あら?前にアタシがそう言っても下ろしてくれなかったじゃない。お返しよ」
「あの時降りてたら死んでただろ....」
「ダーメ!散々怖がらせた罰よ!もう少しなんだから我慢なさい!」
「これだから四天王はっ...お、おぇ!」
えずくリンドウを尻目にカンナは世ノ島に向けて一層速度を上げた。
◆◆◆
変わり果ててしまった故郷を見たカンナの目には、横で青ざめているリンドウの事など最早全く入っていなかった。
集落は雪と氷に埋もれ、植物は生き絶えている。
猛烈な吹雪が吹き付け、顔に容赦なく氷の礫をバチバチと打ち付けてきて痛さで顔をしかめてしまいそうだ。
「ここって、こんな気候だったか?凄まじいな...」
酔いが完全に醒めていないリンドウがフラフラとやって来て辺りを見渡す。
「前に帰ってきた時もそうだったわ。昔はこんなこと無かったのに....」
「それは"カンナ様"あなたが、この村での"巫女"の役割を放棄したからで御座いますよ」
二人は声の方角を見やる。そこには髭を携えた老人が杖をついて立っていた。
「村長....」
「カンナ様。もうどこへも逃がしませんぞ!早急にあの御方の怒りを静めて貰わねばなりませぬ。明日の夕刻より『婚氷の儀』を執り行いまする!お支度めされませ!」
「え、ええ....」
「それよりも....」
老人はリンドウを睨む。いい加減にしてくれよ...と思うも宿屋の店主や運送船の上役とは明らかに違う明確な敵意を感じた。
「こ、この人はアタシのボディーガードをしてくれたの。根の島からアタシを助け出してここまで送ってくれた恩人よ!」
「ほぅ」
老人はリンドウの元へ行くと、杖で思い切り頬を殴りつけた。悲鳴を上げるカンナなどお構い無しに、起き上がろうとするリンドウの喉元を杖で突き、鈍い音と共にリンドウがうめき声をあげる。しかし、彼はやり返そうとはしなかった。
「貴様!カンナ様に何をしたっ!怪我1つでもさせていたなら殺されても文句は言えんぞ!このゴミがっ!」
「や、やめて!本当に助けて貰ったのよ!お願い!やめて頂戴!」
「カンナ様!あの御方の不敬を買えば、村が全滅しかねん状況なのですぞ!あまりにも軽率過ぎまする!嗚呼...こんな事なら、あの時、赤い目バケモノと刺し違えてでもカンナ様をお止めしておけばこの様な事にはっ!」
尚もリンドウをなぶり続ける老人にカンナの中で何かが切れた。
「ルージュラ!冷凍パンチ!」
カンナの気迫に気付いた村長は身を翻してかわすも、追撃で放たれたサイコキネシスによって身体が宙を舞う。
「か、カンナさまぁあああ!これは一体どういう事でございまするかっ!」
「恩人に手を出すことは許さないわ!手当てをしたいからアタシの家へ連れて行くけどいいわね!?」
「な、成りませぬ!その様な男を招き入れるなどあってはなりませぬぅうう!」
「解っているわ。手当てをするだけよ!それなら良いでしょ?」
「し、しかしぃい!」
「お願いよ村長!もうどこにも行ったりしないから、もうこれで最期にするから!少しだけ、時間を貰えないかしら」
村長は唸り声をあげると、ようやく漸く納得したようだった。カンナはルージュラにサイコキネシスを解かせる。
「わ、解りました。少しの間だけです。その後はわしの家で泊まって貰い必ず島を出て行かせる。それでよろしいですな?」
「ありがとう。それでいいわ」
村長はリンドウを睨み付けながら去って行く。
「ごめんなさい!怪我をさせてしまったわね。直ぐに手当てを...?」
目の前に立つリンドウは全くの無傷だった。
「ど、どういう事なの!?」
「え?変身と身代わりだけど?」
「人間に変身できるの!?」
「一緒にいた時期が長ければ出来るよ。今のは相棒のブッキーにメタモンが変身する。記憶を含めた全てを読み取るから、その記憶を元に俺の身代わりを作り出すのさ。それで違和感のないもう一人の俺が出来上がるメタモンは柔らかいから怪我もしないし、俺の変身をさせるだけだとボロがでるんでね。って、あれ?なんか怒ってない?」
「知らない!」
カンナは頬を膨らませている。
「言わなかったのは悪かったよ。雰囲気的に話をしてくれる状況じゃなかったし、この村の事情を聞く時間が欲しかったんだ」
「本当に心配したのよ....」
「あーもー負けだよ負け。悪かったから機嫌を直してくれ。察するにあまり時間がないんだろ?」
「解ったわ....とにかく家へ急ぎましょう」
リンドウ達は取りあえずカンナが生まれ育った家へ行く事にした。
◆◆◆
カンナの家は村外れに存在した。とても小さいが、温かみのあるある家だ。村人が手入れをしているのだろうか、辺りは荒れ果てた様子は見られない。
「ただいま」
カンナは噛み締める様に呟いてドアを開けた。埃っぽい空域から流石に村山も家の中までは入っていないようだ。
スイッチを押し、明かりが灯る。
「ホウ....これが四天王の部屋ね」
中には可愛らしいぬいぐるみ達が複数並べられている。
「お父さんとお母さんに買ってもらったものよ。は、恥ずかしいからあまり見ないで!」
「ん?ああ....」
そう言いつつも、リンドウは一体の古びたぬいぐるみに目を向ける。長い時間手入れをされていなかったのだろう。ホコリをかぶったパウワウ人形がある。
「成る程な...漸く解ったよ」
「ん?なに?」
「いいや、なんでもない。それより時間が惜しい。カンナがどういう理由でヤツと縁を結んだのか聞こうじゃないか」
カンナは厳しい面持ちで椅子へと腰をかけた。
お読み頂きありがとうございます。
ポケットモンスター 天
四天王 『シバ』
好きな花言葉『強い 逞しい』
戦闘開始の掛け声「ウーッ!ハー!」
特性 半裸
エキスパートタイプ 格闘
性格:ガンバり屋な性格 鏡を見るのが好き
H 80
A 110
B 90
C 35
D 70
S 87
持ち物 カンナ人形メタリック
技
かかと落とし
ビルドアップ
チョークスリーパー
寝技