ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

101 / 150
前書き
the・修羅場であります。 (第一回目)


第101話~熊に死んだふりは効かない~

『山は歩かれているか』=冠松次郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷺ノ宮さん……」

 

 

黒羽は目の前の少女は出会うのは二回目だ。

 

 

・・・最初は確か、土手の道で。

 

 

テルに背負われていた時に出会ったのを思い出したが、あの時の自分は途中で気を失ってしまったのだ。

 

 

何故気を失っていたのかは覚えていない。 あの後は目が覚めたら三千院家にいたし、テルに聞いても疲れてたから、と聞かされた。

 

 

だから黒羽が伊澄と出会うのは二回目の筈なのだが。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「貴方と会うのは二回目くらいになりますが、私はそれ以上に会ってる気がしてならないのですが・・・」

 

「記憶にある事が事実では? 貴女が二回しか私に会ったことしか記憶に無いのなら、その通りなのでしょう」

 

と、キツイ口調で話を一方的に切られてしまった。 先ほど感じた違和感。 二回程度会ったくらいではない。 それはまるで。

 

・・・まるでもっと前にも会っているような。

 

そんな感覚。 実際にそんな記憶などは無い。 今頭で思い出せる記憶は殆ど無いのだ。この人物をあまり知らなくて当然だ。 と、黒羽は心で自分に言い聞かせる。

 

そして、伊澄が不意に口を開いた。

 

「屋敷での生活はどうです? 慣れましたか?」

 

「そうですね。 お仕事の方はまだまだですが、前ほど困らないほどに生活できるようになりました」

 

「そうですか・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

伊澄の言葉で二人に間が生まれた。 表情は変わりなく、それでいて何を考えているかが分からない。

そしてこの間で黒羽は一つの疑問を得た。 

 

「・・・何故か私を睨んでるように感じますが、それは気のせいでしょうか」

 

「気のせいですよ・・・それよりまた質問になりますが、今の屋敷での生活は楽しいですか?」

 

スっと笑みを向けた問いかけに黒羽は手に持っているペットボトルに視線を移した。

 

「楽しい・・・という感覚が、私にはよく分かりません・・高揚するとか、気持ちが高ぶるとか。 屋敷に来て、私でも分かった事が一つだけあります」

 

視線をそのままにして黒羽は続けた。

 

「私は皆さんのような『感情』と言う物がないのではないかと。 テル様やハヤテ様達の騒ぎなどをいつも見ている筈なのに、『うるさい』とも『やかましい』とも、そして『面白い』と感じることがないのです」

 

感情なしの人形のように。 と黒羽は自分で思う。 実は自分は人形なのではないのかと、寝ている間は何も夢を見ない。 朝が来れば起き、働き、学校へ行き、授業を受け、帰る。 自分に関することが何も分からないまま一日が終わり、また朝が来る。 そんな機械的な日々が続いている。

 

「こんな私は空虚な人間でしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな私は空虚な人間でしょうか」

 

目の前の少女の言葉に、伊澄は混乱していた。

 

・・・本当にこの人は私の知っている危害を加える危険な敵ではないの?

 

かつて、仮りにも自分とテルを負かした敵の発言とは思えないような弱々しさ。 脆さ。 普通の人間が持っていそうな人間としての弱い部分をこの少女は見せている。 

 

・・・だけども、私は認める事をしてはいけない。 この人の事を。

 

もしこれでテルの言うことに従ってしまったら、テルがもしこの少女にやられてしまった時に自分までもがやられてしまう。 冷静に確実に対処できるように自分が監視を続けてなくてはいけない。 そのために認めるということをしてはいけない。

 

 

・・・違う。 そんな理由じゃない。 そんな立派な理由ではない。

 

以前、テルとこの少女が一緒にいるという図式で自分は怒りを覚えた。 それは今も変わらない。 理由は簡単で、自分がこの少女の事を認めることはテルと一緒にいるという事を認めてしまうということだ。

 

テルがいつか自分から遠いところへ離れてしまうのではないか、心が離れてしまうのではないか、この少女に取られてしまうのではないか。

 

「私からは何も言えませんね。 ですが、あえて言わせてもらうなら自分で空虚だと思っている人は一生空虚な人間のままだと思います」

 

「では、鷺ノ宮さんがそう仰るのなら私は空虚な人間なのでしょう。 ええ、そうなのでしょうね」

 

・・・この人の考えがまるで分からない。 分かりたくもありませんが。

 

「・・・私はこれで失礼させていただきます。 あまりテル様には迷惑を掛けすぎないように」

 

「その事で、聞きたいことがあります」

 

「なんでしょうか?」

 

立ち去ろうとする伊澄を止めるように黒羽は聞く。 黒羽が伊澄に聞く、テルのこと。

 

「私はあの人に、色々と迷惑をかけているのかもしれません。 仕事を始めた頃はよく貧血になって倒れたのを看病してくれたり、嫌な事でありながらも私とわざわざ登下校してくれています。 私は、テル様に嫌われているのでしょうか」

 

「・・・」

 

数秒ほど、伊澄の体は硬直した。 そして胸の奥で怒りのような感情がこみ上げてくるのを感じて、直ぐに黒羽から背を向けた。

 

・・・こ、この人は、 常にテル様とそんな良い思いを、しかも、私と同じ呼び方。

 

聞きたくはなかった。 自分が知らない彼女が知っているテルの話など。 気付けば、またあの時と同じことを考えている。 土手で出会った頃のどす黒い感情に支配された時と同じ。

 

「それぐらい、自分で聞いてみては? テル様なら、正直に答えてくれると思いますよ?」

 

背を向けたままでの返答をして、伊澄はそのままその場を去る。少し足の歩が速い気がするがそんな事はどうでもよかった。 このままこの場に残っていたら自分が手を出してしまいそうだったからだ。

 

黒羽の姿が見えなくなったところで、歩むのをやめて伊澄は自分の右手を見た。 いつ握ったのか知らないが、その手にはいつもの妖怪退治のために使う札があったのだ。

 

・・・あのままあの場所にいたらどうなっていたか、感情の制御もできず、嫉妬にまみれた行動に出るところだったのでしょうか、私は・・・最低ですね。

 

息を落ち着かせて、俯いて、手にある札をしまう。 そして同時に周りから数十枚ほどの同じ札が伊澄の元に集まった。

 

・・・妖気探知用の札を私たちを囲むように張り巡らせていたのに、全く反応が無かった。 やはりあの人はシロ。でも、私の中で何かが引っ掛かります。 あれほどの力を持つ者がどうしてあそこまでの状態になったのか。

 

 

恐らく、原因は自分との最後の戦闘によるものだ。 記憶喪失も、能力使用不可も受けたダメージが原因で失われてしまったのだろう。

 

 

・・・ですが、私の中での引っかかりは、そういう物ではない。 憑き物がなくなった? 人格そのものが入れ替わったような。 まさか、アレが本来の人格なのだとすれば。 そして、黒曜とは。

 

一対一の話をしても謎は深まる結果に終わってしまった。 前を向いて、伊澄は歩くのを再開する。

 

 

・・・調べてみる必要がありますね。 場合によっては、あの人を消さなくてはならないかもしれませんが。

 

 

 

 

 

 

「そうだァこんな危険な状況を脱出するエクセレントな方法を今思いついたァ!誰か囮になってくれない?」

 

洞窟の中、木原の発言に三人の視線が突き刺さった。 木原はこちらに向かってきそうな三人を慌てて手で制す。

 

「いやいや、冗談だって冗談。 ブラックジョーク」

 

「こんな状況でとんでもないジョークを言い出しますね。 木原さんからその身を差し出してみましょうか」

 

「囮だと!? お前、それで綾崎に何かあったらどうするつもりだ! いや、それなら俺も一緒に囮になればいいのか? そうすれば綾崎が死んでも俺も一緒になって死ねば熊のお腹の中で一緒だし!」

 

ハヤテと虎鉄が顳かみに血管を浮き出させている他所で東宮は下を向いてしゃがみこんでいた。

 

「なんでお前らそんな余裕あるんだよ~。 普通ならもっと怖がるだろ~」

 

「いや、コイツら普通じゃないし」

 

変な組織に所属していた片腕義手のお前が言うか。 と、ハヤテと虎鉄は同時に突っ込んだ。

 

「野々原~、野々原~」

 

「なぁ、アイツの言ってる『野々原』って誰?」

 

「東宮さんの執事ですよ。 白皇卒業しちゃって、今はイギリスに留学してるんです。いつも困ったときは野々原さん頼りでしたからね」

 

ハヤテの答えに木原は唸る。 どうりでさっきから情けない声を上げてると思えば、この男はどうやらこういった厳しい状況に一人で立ち向かったことがないのだろう。 だが野々原という男も東宮が成長することを信じて、イギリスに旅立ったのではないのだろうか。

 

・・・まぁ、心配だったらわざわざ留学なんてしないよな。 その野々原って人も、ただ甘くしてたわけじゃないんだよな。

 

執事なら留学を止めてその場に残るだろう。 だがそれをしなかったのは自身の主の見たことのない強い姿を見せて欲しいからだ。 自分が帰ってきた時に。

 

「いつまでも野々原野々原って言ってんじゃないよ。 ここで泣いてたって意味がないだろ~?」

 

「だって、だって! 僕にはお前らのような身体能力持ってる訳じゃないんだぞー!」

 

東宮の予想通りの返しに木原はため息をついた。 どうりでテルからも『ヘタレ宮』と呼ばれていることだけはある。

 

「そんなん知るか。 それに別に身体能力つけなくたっていいんだから。 ただビビらない度胸を身につけろって言いたいんだよ」

 

「じゃ、じゃあ僕は今すぐあの熊に向かって勝負挑んでくればいいのか!」

 

ノンノンノン、と木原が指を振って東宮に答えてみせる。

 

「お前、食われるの解ってて口あけてる恐竜の中に突っ込んでいくのか? 違うだろ~? 度胸ってのを身につけるにはデカイ山場を潜るのが一番だけど、その場の空気に呑まれない、逆にこの空気を支配していやる位の気概でいるってのも手だ」

 

「イメージ沸かないなぁ」

 

「じゃあこうしよう」

 

と木原が両手を広げる。 この空間を示すようにしているのだろう。

 

「ここでお前と、お前の好きな人が一緒にいる。 目の前にはあの熊が、お前らを喰おうと必死に入ってこようとするんだ」

 

「ぼ、僕と桂さんがッ!!?」

 

・・・こいつ、さらっと自爆してるけど、まぁいいか。

 

妄想で顔を赤くしてる東宮を無視して話を続ける。

 

「んで、隣で震える女がいるわけじゃん東宮くん。『怖いよ~、どうしよう!』なんて震えてる女にお前が『大丈夫さ。 落ち着いて、助けは必ず来るよ』的なこと言うとさぁ、どうよ」

 

「どうって・・・・」

 

東宮は頭の中で空想世界を繰り広げた。

 

『東宮くん、どうしよう・・・私、怖い』

 

『はは、桂さん。 大丈夫ですよ。 僕がついてる、それに助けだって必ずくるよ。 何があっても桂さんは僕が守るさ!』

 

『東宮くん・・・!』

 

『桂さん!』

 

頭の中での展開に目が蕩けてきている東宮を見て木原が首をかしげるが現実に戻ってきた東宮が目を輝かせて言った。

 

「最高じゃないか!」

 

「だろ?」

 

「まぁまずヒナギクさんに限ってそんなことありえないかもしれませんけどねぇ・・・」

 

「俺も同感だ。 あの負けずきらいがそんな簡単に男の前で『こわい』とか言わなさそうだからな」

 

とハヤテと虎鉄も同意見だったがあの夢を見る瞳を見て察したのか。 

 

「幻想を壊すような事はやめよう・・・」

 

「ええ、せめて夢の中だけでも・・・ヒーローに」

 

「だったら僕はビビらないで今からお前らの囮になるぜ!」

 

「「「いや、その理屈はおかしい」」」

 

東宮以外の三人が同時に息を合わせて言った。 どうしてそんな結論に至ったか真意を知りたいと木原が思っていると東宮が勝手に喋りだした。

 

「だってそういう度胸を身につけるにはデカイ山場をくぐり抜けるのが手っ取り早いんだろ? 僕はすぐにでも桂さんと付き合いたいんだよ!」

 

・・・確かにそう言ったけど。 自ら死にに行けとは言ってない。

 

と、既に東宮が熊の腕と洞窟の出口の合間を縫って勢い良く外に飛び出していった。

転がるように体を丸めて立ち上がって熊を睨むと堂々とした表情で言い放った。

 

「さぁこの熊野郎! 僕を追いかけてきなよ! そのまま谷に沈めて・・・・」

 

テンションが一気に下がっていくように東宮の口からセリフが続くことはなくなった。 彼は面と向かって殺意むき出しの獣の目を見たことがなかったのだ。

 

「・・あ、ああ・・・!」

 

簡単に言えば足が竦んでしまったのである。

 

「畜生!やっぱりあいつヘタレじゃねーか!」

 

「ああもう! 誰のせいでこうなったと思ってるんですか!!」

 

三人が洞窟から一斉に飛び出していたが熊の動きは以外に早く、その巨大な腕を高く振り上げていた。 その爪は、目の前の獲物である東宮に向けて一直線。

 

「うわああああああああ! 死ぬ―――――――!!」

 

「そう言ってる奴に限ってなかなか死なねぇのさ」

 

爪が東宮にかかるよりも早く、その場を駆け抜ける黒い物体があった。 黒い物体は熊の爪に衝突し、クマは腕を引っ込める形で距離を取る。 熊の横に突き刺さっていたのは一本の鉄パイプであった。

 

さらに。

 

「人の生徒に手ェ出すんじゃねぇ獣がァ!!」

 

怒鳴り声と共に現れた一人の女性はその熊の後頭部に不意打ちの蹴りを打ち込む。駆け抜けた重い衝撃はその巨躯を大きく揺らした。

 

「あ、あれは・・・テル!」

 

「それに先生も!!」

 

木原とハヤテの目の先には爪を弾いた時に投げた鉄パイプを拾うテルの姿と、ハイヒールからシューズへと履き替えた雪路の姿がそこにあった。

 

「ハヤテ絡みになるとこんなトラブルにしか遭わねぇよなぁ。 俺に安息の日々はないのか!」

 

「東宮くん! どこかに隠れて、隙あらば遠くまで逃げなさい! ここは私たちが」

 

と、雪路がファイティングポーズをとって熊と向き合う。 東宮と違って、熊のプレッシャーに呑まれる事はない。 

 

「なんとかするから・・・・」

 

雪路とテルを加えた五人は熊を睨むように囲んでいた。 そしてテルが遠くの木原にむけて鉄パイプを振ってみせる。

 

「おう竜児、あのヘタレ宮がいる手前で本気だせなかったろ~! 今なら本気出せるぞ!」

 

「そうだな。 それじゃ久しぶりにやるとするかァ・・・デカイ相手だけど始めようぜぇ」

 

「「ゲヘヘヘヘヘ・・・・熊狩りじゃぁ」」

 

「なんかコイツらガチで熊に勝つつもりでいるぞ」

 

「でも不思議と負ける気はしないんですが・・・要は気合ですかね?」

 

「じゃあ、それくらいの気合に私たちもなるか!!

 

虎鉄、ハヤテ、雪路もおかしなテンションに触れて乗せられたか不気味な笑いを浮かべて。

 

「「「「「熊狩りじゃぁ・・・・!!」」」」」

 

『???』

 

いつの間に熊は四方八方からどす黒い殺意に囲まれていた。

 

 







後書き
黒羽さん、BADENDは回避できました。 しかし油断してはならない! 伊澄さんはいつでも消しに来る!
そして何故か熊に立つ死亡フラグ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。