ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
『ここはディズニーランドではないのだ』 岩崎元郎
「なぁ?」
「ん?」
「熊の肉って美味いのか? 普通の肉とは違ってどんな味がするんだ?」
目の前の大熊を見上げながら聞いてくる虎鉄にテルがうーんと唸ってから答えた。
「確か先生が言ってた話だとかなりマズイって話だなァ。 熊肉ってかなり生臭くて普通の犬が嗅いだらその臭いで食えないって言ってた」
「マタギと一緒に狩猟すると気に連れてる熊犬って最初に熊の肉を食うことから訓練はじめるらしぞ」
木原がうんちくを語り、随分と博識なようだと、ハヤテは口をへの字にする。自然に囲まれた環境で育った二人にとってはこういった知識は豊富なのだろうか。
「どーでもいいけどさぁ、ぶっちゃけコイツに勝つ算段あるの木原くん?」
うんちくを聞いてる一同に対して雪路が木原に聞くと、木原は自信有りと言った表情で腕を組む。
「先生、確かに熊ってのは全身が筋肉の塊で普通の人間が戦っても勝ち目なんてありません。 ボクサーがパンチで熊を殴っても絶対に勝てません。 銃を持ったりしていない限り、霊長類がコイツに勝つ方法はないでしょう」
けど、と木原は続けた。
「熊に急所はあります。 それは眉間です」
「いや、ドヤ顔で決めてるところですけどソレ漫画の話じゃ・・」
ハヤテが突っ込んでいるところで痺れを切らした熊が突如、腕を上げて襲ってきた。
「き、きたわよ!」
雪路が慌てながらも声を出して、全員がその場から飛び退く。 一番先に狙われたのは木原だった。
爪が真っ直ぐ木原をめがけて伸びるが木原は数歩下がりその爪は先程まで木原がいた場所に突き刺さった。
今度は木原が下がったところから一気に地面を蹴り、下がっている熊の頭めがけて右手を振りかざした。
「ドラァッ!」
鋼鉄の義手による拳の一撃は熊の頭から鈍い音を発した。 そのまま後方へととんぼ返りして距離を取る。
『ガゥ・・・』
「き、効いてないんじゃ・・・」
熊は頭を摩ってなんともダメージを受けていない。 ハヤテは希望が少し見えたのだが、一瞬で絶望へと変わる・・・だが。
テルが既に動いていた。
動くテルを見て、熊が再び爪をテルに向けて大きく振った。 横殴りのように振られた腕はテルを横から引き裂こうとするがテルは宙へと飛び、爪のすれ違いざまにパイプを合わせて打ち込む。
『ガァゥ!』
空を切った爪を再び構えて今度は斜めに腕を振り下ろした。 テルは力の流れに逆らわず、少ししゃがんで爪がテルの背を通り過ぎる瞬間に全身をバネのように捻り、爪にまた鉄パイプを打ち込んだ。
そして次の瞬間。
『ガアッ!?』
熊が自分の身に起きた事に驚愕した。 いつの間にか、熊の右手の爪が一本だけ折られていたのだから。
そしてテルはこの一瞬の隙を見逃さず、後ろから熊の背を駆け上がり飛び上がるとその巨大な頭に鉄パイプを振り下ろした。
「脳天ッ!!」
熊の眉間に鉄パイプが炸裂するとまたしても鈍い音。 そして、その一撃で熊の巨躯がとうとう揺れたのだ。
「や、やるじゃ~ん! 二人とも凄いじゃない! もうあんたらだけでやっちゃいなさいよ~」
「いや、ダメです」
雪路の半笑いに木原が首を振ると一撃離脱したテルが戻ってきた。
「やっぱデカさが問題だよなぁ・・・急所で一番筋肉が薄いところを突いたけど、あそこの部分バッチリ筋肉で覆われてんだよね」
「スンマセン、デカいこと言って申し訳ありません。 もう終わりです」
「いや、急にネガティブになられても困るんですけど!? 前回の良い雰囲気はどこいったんですか!?熊狩るんじゃなかったんですか!?」
怒鳴るハヤテの問いにテルが頭を掻きながら答えた。
「やっぱり熊狩るのは犬の役目だよ。 十万匹くらいの犬の軍団連れてくればコイツに勝てんじゃない? ハヤテ、連れてきてよ」
「そんな回転しながら突っ込んで熊の首をぶっ飛ばす犬、全国探してもいませんから!!」
「どうしよう、俺の鉄パイプも軽く曲がっちゃったし、どうしようかなぁ?」
爪の攻撃を受け流していた鉄パイプが軽く曲がっていることに嘆いているテルを見てハヤテは頭を抱えた。だが、少しだけ頭を冷やして考えてみると一つ閃が走る。
「そうだ・・・効果は少しだけあったんだったら、四人で同時にあの額に打ち込めば・・・」
「けど、そんな隙簡単に作れなくね? 俺らだって躱して当てての戦法で精一杯なんだからさ・・せめて動きが止まってくれればなぁ」
熊が鈍重な生物だと考えられているようだが実際は機敏な生き物だ。 あの熊は巨大なだけ当てやすいのは確かだがそれでもスピードは段違い。 テルや木原たちも慣れていなければ避けきれなかっただろう。
その時だ。
「おい!」
目の前の熊に悪戦苦闘している四人はその声を発した方へと振り返った。
「熊は動く物に気を取られるんじゃないか?」
巨大肉を抱えた東宮がそこには立っていた。
〇
・・・こんな役、やだ!
東宮は己の置かれている状況を激しくそう思う。 思えば不向きなアウトドア行事に参加した時点で今日の運勢は決まっていたのだはないか。
何か仮病とかで休んでればこんな事にはならなかったのではないか。
いつもならフォローしてくれる野々原もいない。 行く理由はどこにもない。 だが来てしまったのはなぜか。
・・・野々原に認められるような男になりたい!
彼がいなくなった日に別れ際に言われたあの一言を思い出すとどうしても今の自分が許せなかった。 彼にフォローを任せきりで逃げ出しているような自分が。
野々原がいない東宮は考えた。 また逃げ出してもいいのかと。
「東宮くん! 無茶ですよ! それは勇気とかじゃないですから! ただの蛮勇ですから!」
・・・綾崎だって、俺の事をかばって怪我したのにまだ戦おうとしてる。
「ヘタレ宮、ハヤテの言う通りだ。 さっきまで腰が抜けてたお前に何ができる」
・・・木原、僕はもうビビってないぜ? いつまでもカッコつかないことしてられないさ・・・嘘、まだビビってます。
飛び入り参加したテルや雪路先生もあの巨大な物から僕を守ろうとしてる。 いつまでも影に隠れてていいのか? 確かにこの役は嫌だ。 下手をすれば自分の命だって危ない・・・だが。
「誰かがやらなきゃならないんだろ?」
そう不敵な笑みを作って言ってみたものの足はまだ震えてる。 無理してるのが丸分かりだ。なにせ今まで逃げ続けてきたせいで逃げ腰が癖になってしまっている。
・・・僕はこいつらを助けるんだ!
いつまでも守られることを野々原は絶対に望んではいない。 ならやることは一つだ。
「そぉーらクマ公! 僕について来い!」
テルたちの止めが入る前に自ら動く。 足が震えてることをこれ以上悟られる訳にはいかない。
・・・案の定追って来やがった。 そんなに人の肉が欲しいのか?
昔野々原に聞いたことがある。 人の肉を食べてしまったが最後、その熊は頻繁に人を襲うようになるのだと。
「だけど!」
手に持っている巨大肉をチラつさせると、熊が視線を泳がせているのが分かった。 どうやら腹が相当減っているせいかこの餌に美味く食いついてきそうである。
・・・僕が上手く谷のほうまで誘導して、谷底に投げた肉に反応してくれれば!
『ガアアアアア!!』
「のわぁーーーーー!」
身を転がして迫っていた爪を東宮は躱していた。 これは予測でもなんでもなく、声にビビってから体が回避運動に移っていたため、タイミングよく躱すことができたのだ。
「ヘタレ宮! 無茶するなァ!」
・・・五月蝿い、僕に指図するな。 今、僕はやっているんだ。 強い男になるために。
足を動かして、土まみれになりながらも、目的地まで走る。 そして遂に谷底が近づいてきた。
・・・やった、あと少しでッ!
その瞬間、東宮は自分の体が無意識のうちに浮いていたことに気づいた。 数十センチほど地面から離れて体は数秒もせず地面へ落ち、転がる。
「・・・えっ?」
一瞬だけ頭が真っ白になって、振り返ると小さな石が。 ああ、引っ掛けたのか。 転んだのだ。
『グルルルルル!!』
獲物を漸く追い詰めた熊の目の色が変わり、その巨大な牙をちらつかせた。
・・・絶対絶命?
まさに言葉の通りだ。 目的を達成できないままこのまま終わるのか。 目の前の熊が爪を振り上げた。
「東宮ァ――――――ッ!!」
遠くでテルの叫びがゆっくりと聞こえるのを東宮は感じた。 足は動かない、ならば体を転がしてでもと試みることもなくただ地面から一センチも動けずにいた。
・・・野々原! 助けて野々原!
まただ。 最終的にやっぱり自分はここでも野々原を頼ってしまう。 絶対に来ないこの状況でもだ。
『私が手を引っ張っていては・・・坊ちゃんはいつまでも・・・』
残した彼の言葉が過る。 それと同時に、熊の爪が東宮に向かって振り下ろされた。
その時だった。
一発の銃声が響いたのは。
〇
「なに!?」
突如として鳴り響いた銃声をテルは聞いた。 東宮を襲おうとした熊の腕は止まっている。 よく見ると熊の肩から血がたれている。
・・・音が近い!
その音の出処が自分らの真後ろだったと感じたテルは即座に振り返った。 そこには一人の人がいた。
全身を黒のライダースーツを来てフルフェイスのヘルメットを装着したバイクに跨る人物がいたのだ。
「え・・・誰?」
雪路が目を点にした。 他の皆も突然の状況の変化についていけない。
だが。
「テルさん!」
「ああ! 熊の動きが止まったッ!」
ハヤテの呼びかけに呼応するように、テル達が一斉に熊に走り出す。 しかし、ここで動きを止めていた熊が背後に感じた殺気に振り返った。
だが、ここで引くわけには行かない。東宮が決死の覚悟で作り出したチャンスだ。 他の三人も余裕はない。ここで決めねばと、不敵な笑みだが覚悟を決めている。
「いくぞ!」
木原が言い放ち五人が地を蹴り
「こんな状況だけども!」
虎鉄が笑い五人が構えて
「ピンチはチャンス!」
雪路が拳を握って
「これ勝機ッ!」
ハヤテが何かを見切り
「一発デカイの喰らいやがれェェェ!!」
テルが叫ぶのと同時に、五人の渾身の一撃が熊の眉間に炸裂した。
『ゴルゥゥゥゥ!?』
鈍い音ともに熊の巨体が吹き飛び、地面へと叩きつけられる。 そして同時に地面が割れる音。
「なっ! 地盤がもろくなってやがった!!」
「テルさん! このままじゃ東宮くんがッ!!」
熊の近くにいた東宮は地盤の崩落に巻き込まれていた。 このままでは命が助からない。
「うわああああああああ!!」
東宮の体は宙に浮き、重力に従って真下へと落ちていくのを感じた。 熊とのやり取りを回避したと思ったらこれだ。
・・・僕は、僕はまだ!
死にたくない。 好きな人もできないで生涯を終えたくない。 落ちていく中、東宮は手を伸ばす。
「・・・ッ!」
伸ばした手を誰かが掴んだ。
・・・野々原?
その掴んだ手の主を東宮は確認する。
「東宮さん・・・大した、勇気でしたよ」
「まったく、でもお前、最高に輝いてたぜ」
ハヤテだった。 そして、ハヤテだけではない。 ハヤテの後ろにはテルが、テルの後ろには木原が、木原の後ろには雪路が体を掴んで人間ロープとなって東宮を支えていた。
・・・野々原、僕・・・ちょっとは強くはなれたかもしれない。
〇
「た、助かった~」
東宮を引き上げて一同が地面に尻餅をついた。
「なんで高尾山に来てまで命の危険に関わらなきゃならないのよ! しかもお金がもらえるわけでもないのに!!」
「なんつー教師だ」
テルのジト目が雪路に突き刺さったのが聞いたのか雪路が手を振った。
「ウソウソ。 アンタら大事な生徒だからね、担任のアタシが簡単に生徒放り出せるわけないじゃないの」
「珍しくまともな事を聞いた気がする」
「僕もです虎徹さん」
「アンタら、あたしをどんな目で見てたのよ!」
先程の緊張感がなくなり、難所を乗り越えて一同は和んでいたのだが、テルがさきほどのライダースーツの人物を思い出して辺りを見渡す。
すると、バイクに跨った男が今まさにエンジンを駆けていた。
「お、おい! アンタ!」
「・・・・」
テルの声に反応して人物はテルの方を見た。 顔はフルフェイスのため分からないが、体つきからして男だろう。
「礼を言いたいんだ! ありがとな!」
何も喋らないことに不気味さを感じたがテルは礼を言う。 ライダースーツの人物は顔を正面に向けるとアクセルを握り、バイクを走らた。
「お、おい!」
重い音ともにバイクはテルが駆け寄る前に去っていってしまった。 テルはその後ろ姿が消えるまで視線を動かさなかった。
「な、なんだったんだアイツは?」
「さぁ? ライダースーツ着たマタギじゃないの?」
そんなマタギいるか。 と心の中でテルは突っ込んだ。
「ともあれ、あの人物のおかげで東宮が助かったのは事実だ。 感謝しなくちゃな」
「でも誰だったんでしょう。 フルフェイスヘルメットでしたし、なんでわざわざ顔を隠すようなことを?」
虎鉄の言葉にハヤテが考える。 そもそもこんな山に、しかも熊の存在を察したように用意されたあの装備。ただものではないのは丸分かりだ。
「まぁ謎ではあるが、そろそろ山頂に行こうぜ。 俺たち、色々あったせいで結構時間ロスってるからなぁ」
「そうですね。 急ぎましょう」
テル促してハヤテが頷くと一同は山頂目指して進みだした。
〇
「山だぁぁああああ!!」
「頂上だぁあああああ!!」
「着いたぁあああああ!!」
一方その頃、ヒナギクたちと共に行動していたナギ達は山頂に到着していた。 山頂から眺める景色から叫んでいるのは千里、花菱、そして理沙である。
「いやぁ、何事もなく終わって良かったな千桜くん」
「体力ありますね唯子さん。 私はもう疲れましたよ」
山頂で笑顔を崩さない唯子に対して千桜は肩で息をしていた。 他の生徒たちも次々と山頂に到着している。 二、三年が集まるとここもかなり狭くなるなと感じた。
「そりゃあ基礎体力作りはしてるからな・・・それよりも、テルくんたちはまだ到着していないようだが」
「そうですね。 まぁ雪路先生とかいれば問題ないと思いますけど・・・あ、来た」
と、千桜は歩いてくる木原たちを見て少々首をかしげてみせた。 何故かあちこちに怪我をしている人がいたり、ボロボロの人間がいたからだ。
「えーっと、最初に聞いてもいいか? なんで綾崎くんは包帯巻いてるの? あと東宮君がキミをを掴んで離さないのは?」
「えーっと、これには色々と深い事情というか・・・」
とほほ、とハヤテは頭に手をやり困った顔。 そこに、ナギが駆け寄ってきた。
「おーい、ハヤテ! なんだお前、無事――――じゃなかったな」
ナギがハヤテの様子を一目見て、察した。恐らくこれはまたとんでもないトラブルに巻き込まれたのだろうと。
「まぁ、ちょっと襲ったり、襲われたりですね・・・」
「ふーん・・・!!」
その時、ハヤテの袖を掴んで離さない東宮を見てナギに電撃走る。 なぜハヤテと東宮が二人でこんな状態になっているのか。 しかも東宮の方を見ると少しだけ涙目だ。 そしてハヤテの先程の言葉、これらを元にナギが連想させる腐のイメージはまさにこれしかない。
「お、襲ったのかッ!?襲われたのかッ!?」
「え?」
訳が分からない二人をよそに、顔を真っ赤にしたナギは慌てて二人の間に入って離れさせる。
「は、離れるのだッ そんなッ リアルでダメなのだッ 男同士で・・・そんなッ!!」
「あー、なにやってんだか」
その光景を眺めていた木原はため息をつく。 先ほどの熊との戦いとは違ってこの緩い雰囲気のギャップに安堵したのだろうか。
・・・あー、こんなんじゃただ野郎と野蛮人とハードな山登りしに来ただけだったよ。 なんもなかった! せめて、せめて春風と一緒の班が・・・・・・。
ほとばしる青春を駆け抜ける一ページを妄想していた時だった。
「木原くん」
「あー、なになに。 サイコガン持ちのプロフェッサー木原はここですよ・・・って春風ェェェ!?」
目の前に現れた千桜に対して木原は体を震わせて叫んだ。 大声に対してか、千桜の方も引いてしまうくらいに驚く。
「び、びっくりした・・・。 どうしたんですか、その化物を見たようなリアクションは」
「あ、ああ。 いやぁ、さっき巨大熊と戦ってきたせいかどうにもまだ気を張っちゃっててさ」
・・・うわ、俺キモ。なに言ってんの。
笑いながら言ってみる冗談にしては冗談で受けられる境界線をかなりオーバーしている気がして木原は内心青ざめた。 きっと嘲笑した返事がくるのだと。
「えっ。 もしかして眉間ひたすら狙って倒したパターン?」
・・・えっ。 なんか食いついてきたよ。 なんで?
急に目の色を変えてネタに食いついた千桜を見て木原は困惑。 少しだけ様子を見ることに。
「ま、まぁ4,5発殴って弱ったところを谷底に落としてきた」
「・・・熊の眉間って本当に弱点だったのか。 やはり鷹村さんは間違ってなかった」
・・・急に自分の世界に入り込んじゃったけど。 どうするよ。
一人でブツブツと言い始めてる千桜に木原は思う。 この今の雰囲気と普段の千桜の雰囲気はギャップが激しい。 口調の変化もだ。
「あっ、そうだ」
唐突に千桜がポケットから取り出したものがあった。 小さな手帳だ。 だがその生徒手帳は自分の顔写真が貼ってあった。
「あ、それは!」
「この前落としましたね? あんな仮面つけてきて証拠を残していくとは・・・結構ドジなんですか?」
・・・しまった。 完璧な演出をしていたと思っていたのに、これじゃ全て台無しだ!
「でも、恩人に対して言う言葉ではないですね。 改めて言います。 あの時は、どうも」
「あ、ああ」
こちらにあまり言わせたくないのか。 流れるような手順で千桜は頭を下げた。 困惑の度合いが大きくなるが、千桜はまたしても目の色を変える。
「ところで、やっぱり君はリアルグラップラーなのかな?」
「えっ?」
「百人組手とか、大猿相手に命懸けの死闘とか繰り広げてきたのか、君は」
「えっ?」
「実はゴキブリの動きを参考にした必殺技があるとか・・・ハッ!!」
と、気づいたように口を慌てて抑えて千桜はひと呼吸を奥。 そしていつものような落ち着いた表情を取り戻して言った。
「ま、まぁスポーツは男子の嗜みといいますか。 あ、ちなみにさっき言っていた事は忘れてくださいね?」
「あ、ああ。 わかったよ、うん」
少々威圧じみた言葉に木原が頷く。とはいえ、思わぬ幸運に心の中で神にこの瞬間を感謝している自分がいた。 そして千桜はあることに気付いたか、辺りを見渡して木原に聞いた。
「えーっと、君の相棒がいないけどどこにいったんですか?」
「え? ああ、テルのこと? なんか途中で一言残して別行動してる」
「別行動? なんでまた」
千桜の問いに木原は両手を組み、首を傾げ、テルがまだいるであろう方角を向いて答えた。
「んー、『俺の仕事しに行くわ』っていってたな、そう言えば」
後書き
高尾山編は次回で最後です。 なんかえらく長く引っ張っちゃいました。 色々と新しいキャラが出てきましたし。 ライダースーツの男・・・一体何者なんだ?