ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
この構成考えるのにまた時間が・・・。 高尾山ハイキングもこれで最後です。



第103話~教えて欲しいこと~

 

「高いところから落ちる人間は惨めだ。しかし、高いところまで登れない人間はもっと惨めだ」=中嶋正宏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒羽は自分の足取りが確実に重くなっていることに気づいた。 数十分ほど前だろうか、前へ運んでいる足が思うように動かなくなってきている。 言わずともわかる・・・疲労だ。

 

・・・ペース配分は十分に配慮してきたはずですが。

 

やはりもともと体力が少なのが原因だろうか。 思えば、体力なしの自分がここまで来れたことすらまず奇跡に近い。 いつもなら山の半分も行かずにダウンしていたことだろう。

 

 

・・・いつの間にバッグの中に入っていたペットボトルとか、冷えピタのおかげでしょうね。

 

自分の首あたりに貼り付けている冷えピタがまだ冷たさを保っているのを確認しながら黒羽は上を見た。 ここまでくるのに時間がかかったが、頂上まではもう少しのはずだ。

 

・・・頂上についたら、何しようか。

 

そんな事を考えていた。 最初に浮かんだこととはやはり山でヤッホーだが、自分はそんなことをする気力はここを歩いている時点で既にない。 登り始めた時はやってみたいと思っていたが。

 

疲れてしまうとやる気が失せてしまうというのは自分がまだまだ心が弱いということだろうか。

 

 

・・・やはり色んな人に報告、でしょうか。 まずは誰に? 同じ班、たしか生徒会の皆とか、瀬川さん?

 

生徒会三人組は色々とやらかすのが日常茶飯事だが、無事に山頂に辿り着けているだろうかと小さく気になっている黒羽だ。

 

だが彼女は知らないだろう。 瀬川が雪路に連れられて山頂を登るどころの事態では無くなっていることを。

 

 

・・・では、身内に報告していくしかありませんね。 ナギ様にはここまで来れたことを認めてもらわなくては。 一応勝負は特に条件を決めていないということで、イーブンということでしょうか。

 

 

そうして歩いているうちにふと、テルの事を考えて足を止めた。 理由は少し前に休んでいた時に、自らが発思ったことだ。

 

 

『自分はテルに嫌われているのではないか』

 

 

貧血などで倒れているうち、最初は仕方ないと考えていたのが最近になってテルに迷惑をかけているのではないかと思ったのだ。 学校に行くのにも一苦労、体育の時間は見学になることが多い。

 

そんな時に保健室に誘導や教師との話をつけてくれる事をテルはいつもやっている。 たまにハヤテがやることもあるが、それはテルの比ではない。

 

黒羽はハヤテから聞いたことがある。 テルは結構面倒くさがり屋だと。 あの屋敷に来た時にハヤテが執事の仕事を完璧にこなしていたから、テルも完璧なものだと思っていたがそうでもなかった。むしろマリアやナギの評価を聞くとひどい時がある。

 

だから今も自分の仕事を覚えるのでも手一杯なのだ。 そんな時に自分の面倒を任されたのだ。 あのテルの性格上、面倒くさくない訳がない。

 

 

 

自分は確実にテルの重みになっている。 そして、そうなることを黒羽は良しとしない。

 

 

 

 

だから今回、宣言した。 この山登りを成功させたらテルを自分のお守役から解放すると。 もし成功させたらどれだけ喜ぶだろうか。

 

両手をあげて奇声で山頂で叫ぶテルの姿が簡単に浮かんだ。

 

 

・・・直接聞いてみてもいいだろうか。

 

その休んでいるときに、伊澄から言われたことだ。 聞いてみればいい、テルなら答えてくれる。 確かに直接聞き出すというのは簡単だ。 だが、その行為を自分は行うことに引け目を感じている。

 

何故だろうか。 理由は分からない。 だが、この山登りを終えてテルを解放すればそれで終わる。 そうすれば聞く必要もないし、接点も減れば、少なくともこれ以上嫌われる事は無いだろう。

 

 

そんな事を考えてた時だった。

 

 

「おっ、まだこんなところで歩いてたのかよお前」

 

「・・・・」

 

目の前にテルがやってきた。

 

 

 

 

 

 

「山頂まであと200もないくらいだな。 どうだ調子は」

 

いきなり現れたテルに黒羽は言葉が出なかった。 彼女を悩ませていた渦中の人物テルが目の前にいきなり現れて、すぐさま声を出せるわけが無い。 だが、無言でいるということは印象が悪い。 黒羽は何か、と搾り出すように声を出した。

 

 

「一応、大丈夫ではありますが」

 

 

「お、そうか? なんか汗も結構掻いてるからちゃんと水飲めよ・・・って、なんか最初もこんなやり取りしたな」

 

頭を掻いたテルに黒羽は言われて額の汗を拭った。 考え事をしていたから気づかなかったのか。 

 

「・・・・」

 

「ん? どうしたんだよ」

 

横で腕を頭の後ろで組んでいるテルを見て黒羽は聞いた。

 

「止めないんですか。 最初に荷物を持とうとした時のように」

 

 

神妙な顔で聞く黒羽に、テルは目を数度見開いて聞き返した。

 

「え? なに、持って欲しかったの?」

 

「そうではありません。 どうして最初はそうしようとしたのに、今はそうしないのかと聞いているんです」

 

「あー、それな・・・」

 

静かに聞く黒羽に対してテルは意図を理解したのか少しだけ視線を上へ向けて言った。

 

「最初はどーかと思ったんだけど。 お前がこの山登るのさ、不安だったんだよな俺。 監督不行き届きでマリアさんに怒られるのも嫌だったしな。 だから必要なら、手伝うのもそうだし無理に止める事もやろうかとおもったんだけどさ」

 

頭の後ろに回していた手を解いて、テルは参ったようにその手を少しだけ上にあげた。

 

「お前、ここまで来ちゃったんだもん。 なんも言われなくてもさ」

 

テルは手を下ろして続けた。

 

「登山家みてーな目してそこまで一人でやりてぇならそのまま一人でやり遂げさせてやりてぇなって思っちまったわけよ俺。 迷子になったのはマジ誤算、想定外だけど」

 

ははっ、と笑っていたテルを見てか、黒羽は少しだけ落ち着いた。 その言葉の意味が、完全にこちらを見捨てたりといったものではないと分かったからだ。

 

「んで、いつの間にか頂上に来ちまったぜ」

 

「展開がとても早いのですね。 感動の欠片もありません」

 

200mという距離は長いようであっという間であった。 一人で歩いてきた時間よりもずっと短く感じられる。 話していると時間が早く過ぎ去るというのはこのことだろうか。

 

「まぁ俺来るの二回目なんだけどね。 俺も感動しねぇわこりゃあ」

 

「そうですか・・でも」

 

と、黒羽は景色を見る。 風が吹き、汗が冷やさせれて感じる心地良さ。 そして下の景色を見て、自分がここまで来たという事実がある。

 

「達成感・・・らしきものはあります」

 

 

「そうか、じゃあついでにひとつ聞いていいか?」

 

「なんでしょうか」

 

黒羽がテルと目を合わせると、同時に風が止んだ。

 

「なんで、そんな息つまるような方に進んでんの?」

 

能天気な彼が時たまに見せる真剣な顔で彼は言った。

 

 

 

「俺はさ、悪くないと思うのよね。 ナギみたいな生活さ」

 

黒羽の顔色を伺いつつ、テルは言葉を作り続ける。

 

「いい飯食えて、なんでも手に入って、側にはハヤテみてぇなスゲェ執事がいる。 何不自由ない暮らしってさ、俺結構憧れてたのよ。世話されたりする生活に・・・結局、世話する側になっちまったけどな」

 

テルは伸びをすると、飛び降り防止用の手すりに肘をかけた。 だが数秒、会話は突然止まってしまう。 見兼ねた黒羽が横を見ながら言った。

 

 

「結局何が言いたいのですか?」

 

「え? 分かんない?」

 

「殴ってもいいですか?」

 

右拳をグーの形にしているのを見てかテルが慌てた。 拳を解くとテルが苦笑いで言う。

 

「こういう機会、なかなかねぇんだぜ?」

 

「はぁ・・・」

 

「お前、普通三千院家って言ったら練馬60%敷地の富豪。 そこで何不自由ない暮らしが許されてるのはそこに住んでる令嬢、ナギのはずだけど、お前はアイツと同じみたいな?・・・羨ましいよ。 普通の一般人がだぜ?」

 

黒羽はそれを聞いて言ってやった。

 

「私はそれを良しとしません」

 

口調を静かにしたまま彼女は続ける。

 

「最初は良くても、何度も倒れたりしてる内に、分かっていきました。 これが『普通ではない』ということに。 それがいつまでも良くならない事を快く思っていない人々がいるのは事実です。 知ってます」

 

少なくとも、目の前にいるこの男はそうではないのか。 と黒羽はテルを見た。その本人は、困ったそうに頭を掻いていた。

 

「・・・」

 

「前にもいったはずです。 貴方をこの無駄な主従関係から解放すると」

 

それを聞いたテルが『はぁ』、とため息をついた。

 

「やっぱりそれか・・・」

 

テルと黒羽を結んでいる主従関係に、黒羽は以前良く思っていなかったのをテルは知っている。 登校途中で話した時の事を未だに引きずっていたのだ。

 

 

「ここに来る間にも考えさせられました。 長い道を歩いていると人は物思いにふけるのですね」

 

だから、と、黒羽は言う。 今日、心の中で躊躇っていたこの問いを。

 

「聞きますテル様・・・貴方は私の事が嫌いですか?」

 

 

 

 

夕日が傾き始めている。 テルは目の前にいる少女の言葉に少なからずの動揺を受けていた。

彼女は続ける。 己の心を打ち明けるように。

 

「貴方は私を嫌っているのではないでしょうか。 ええ、そのはずです。 こんな手の掛かる女を毎日世話していて、面倒に、そして嫌いにならないわけがありません。教えてくれませんか」

 

「そうかい、じゃあハッキリ言ってやる」

 

彼は不機嫌に目を釣り上げて言ったのだ。

 

「だいっきらいだ」

 

 

 

 

・・・・やっぱりそうだったのですか。

 

と、黒羽は思う。 聞いた所で自分がどう思うのか、考えたのだが何も感じなかった。 思っていたことが本当だっただけだ。 ただ、何かが失われた感覚を除いては。

 

「なら―――」

 

「この仕事」

 

自分の言葉を紡ぐ前に発せられたテルの言葉に彼女の動きが止まった。

 

「朝5~6時起き、身なりを整えて掃除洗濯料理学校授業帰宅、三千院家ペットたちに餌やり、仕事、課題。 せっかく頑張っても周りが凄すぎて評価はいつも下の下! 報われない努力! 俺のイライラ募るばかり! 嫌いだよこの仕事!!」

 

「あのぅ、聞いているのは仕事の事ではなく、私個人の事なんですが・・・」

 

質問と大きく違う答えに、黒羽が改めて聞きなおす。 すると彼はこちらを向き直した。

 

「なんでお前のこと嫌いにならなきゃいけねぇの?」

 

逆に聞き返された。

 

「それは・・・いつも仕事に追われてるのに私の世話まで任されて、その落ち度をマリアさんに怒られていましたから。 その原因は私です。 嫌いにならない訳がありません」

 

「いや、それ俺の落ち度じゃん。 いくら仕事に不満持ってるからって、俺は他人にその落ち度の原因を押し付けるつもりはねぇよ」

 

それに。と間を置いてテルは言った。

 

 

「人間的要素で、お前を嫌いになる要素ねぇじゃん。 そうか、つまりお前アレか! 俺の目は節穴だと思ってたろ!人のを見る目はある方だと自負してるつもりだからな! ただ見せ場がないだけだからな!」

 

「・・・」

 

黒羽は思う。 自身が一番問いたい事を、彼に問い。 それで彼の答えが拒絶ならば、それはそれでとどうでも良かった。 ただ受け入れるだけでいいのだから。

 

 

 

だが、彼の問いは自身の予想をしていた答えとは裏腹のもので、それならそれでとただ受け入れるだけだったが。

 

・・・良かった、と思っている。 何故だ。

 

理由は分からない。 明確になった筈なのに、まだ分からない。 知らないならばどうするか?知らなければならない・・・それは。

 

 

「教えてくれませんか・・・」

 

「え?何を?」

 

目の前の男に聞けば分かるだろうか。 

 

 

 

 

 

 

「自分が空虚な人間か・・・だって?」

 

「はい」

 

黒羽はテルに明かした。 自分が考えていた己に対する疑問。 他人と同じく笑ったり、泣いたり、そういう人間らしい事が出来ていないことも。

 

「う~ん・・・そりゃあなぁ」

 

テルは腕を組んで考え始めた。 この問をしたときに、なぜこの男にしたのか。 最初は見ず知らずの他人、今は同じ仕事仲間で同級生。 話すことには自然なのだが、それならヒナギクでもハヤテでもいいかもしれな。 この男を選んだのか? 

 

・・・期待をしているからなのか。

 

自分の望む答えが彼なのだとしたら、と黒羽は考えた。 果たして彼の言葉は自身の問いに答えを出すものなのか。

 

「じゃあ聞くけど」

 

テルは聞いた。

 

 

「お前は感情って必要だと思う?」

 

「人を形成する上で必要なのでは?」

 

黒羽の返しにうーんと、テルは唸った。両手を広げてテルは言う。

 

「俺はいらねーんじゃねぇかなって思うんだけど。 だって『辛い』って感じたらへこむじゃん。 楽しんでたら後で悲しさ倍じゃん。 怒ってたら喧嘩になるじゃん・・・そんな感情でいちいち左右されて立ち止まってたら時間の無駄だと思わね? だからさ」

 

言う。 それがあたかも真実なのではないかという表情で。

 

「感情って必要ねぇんじゃね? 邪魔じゃね?」

 

「そうなの・・・ですか」

 

言葉を、意味をまとめる。 テルの言うとおり、感情で行動を左右されてしまっていては『ダメなのだろう』。 だったら無感情のまま、今まで通りのまま、あるがままを受け入れていけばいい。

 

 

機械のまま動ければ楽だろう。 苦痛な事をされても流していしまえばいいだろう。 関わりを持たなければ余計なことに巻き込まれる事は無いだろう。

 

 

今までそう思ってきたのならそれを続ければいい。 空虚のままでもいい、追加で私に感情は必要ない。

 

 

・・・それでいいのだろうか?

 

心のどこかでふと生まれた新たな疑問。 

 

「あなたは私に感情が必要だと思いますか?」

 

「俺じゃねぇ、お前だ」

 

謎の返し。 初めて、テルがわからなくなる。 この『問い方』ではダメか。 と考えていたが。

 

待て。 なぜ、自分は『問い方』のことばかり考えているのか。

 

 

自身の思考の方向にストップをかける。 こうすれば良いのか、どうすれば答えが得られるか考えていては永遠にその答えは見つけられない。

 

 考えろ、自分で考えて見つけろ。 さっきテルは言った。 俺ではなく、お前だと。 この言葉の意味。話を1からまとめ直す。 一番最初の自分の行動理由。

 

自分はなぜテルとの関係性を早くなくそうと思ったのか。

 

・・・自身の自立のためか。

 

違う。 考えろ。

 

・・・それが彼の為になると思ったか。

 

違う。 近いが、もっと根底にあるもの。 そして黒羽は思い出したのは、一番最初にテルに質問したときの事、『自分の事が嫌いか』という問いにテルが答えた時に自分が感じた違和感。

 

 

・・・私がこれ以上嫌われたくないと思ったから。

 

 

世話を掛けて、彼の迷惑になるなり、不満を溜めていく彼を見て、これ以上嫌われたくないと思ったから。

彼だけではなく、他のみんなにも。

 

「そうか――――」

 

漸く出た。

 

「誰かが離れていくのが怖かった・・・のですね」

 

最初は仕事でやっていてもいつしか痺れを切らして放り投げてしまうだろう。 執事以外の、今は笑顔で接している泉たちでさえ、最後は離れていくのではないか。 これが嫌だったのだ。 怖いというのは悲しい感情だ。 自分が初めてここに負の感情があったのだと理解する。

 

自分はちゃんと、感情を欲していた。

 

 

「しかし、悲しい負の感情しかないのであれば他の感情は・・・?」 

 

「だったらさ、黒羽よう」

 

自身の気持ちと向き合ってい、それでも悩む彼女に、テルは言った。

 

「悲しいってことは嬉しいってことと同じ意味だって考えてみね?」

 

「それは新しいMの思考ですか?」

 

「違うって。 確かに言葉の通りに捉えれば悲しい事が楽しいみたいな事に聞こえてくるけど!ってそうじゃねぇ!」

 

と自分にツッコミを掛けてテルは続けた。

 

「俺が昔に親亡くした時な。 あ、俺を産んでくれた本当の親は別にいてその人たちももう死んでるんだけど、今は飛行機事故でなくした方の話な」

 

「ええ。 わかっています。 さっさと続けてください」

 

ひどい。 と小さく呟いて再開。

 

「その人死んだときな、『もうどうでもいいや』って思ってたんだよ。友達もどっか行っちまって一人になってさ・・・んで、何も残ってないまま歩いてたら『死のうか』って思ったわけ、でもいざ死のうかなって思ってもなかなか死ねなくてなー」

 

それは本来人間が持つ正しい感情だ。 負の感情が間違っているとは限らない。

 

「その人がいたらこう俺を殴って言ってくれてるんだろうなって、俺が死のうとしてる横に無理やりその人がいるって想像しただけでな。 逆らっていこうかなって思ったらここまで来てた」

 

だからさ。とテルは言った。

 

「お前のそれも同じだよ。 俺との主従関係も流れのままに世話されるのが、流れるままに生きるのが嫌だったから、今までの自分に、感情がないと思ってる自分に『逆らって』みたんだ」

 

テルの後ろの奥の方。 そこから既に到着した生徒たちの談笑が聞こえてくる。 

 

「みんな同じだ。 負の感情に浸り続けないで、逆らってる。 千里とかハヤテとかマジで分かりやすいよな。 会社潰れて、親も消えてもなんだかんだここまで人生捨てずに生きてる。 お前も、形としては俺の為に、嫌な事を振り払おうとして臨んだ今日の山登りがあるんだ。だからお前はちゃんと負の感情だけじゃなくて、正の感情も持ってるんだよ・・・それに気付く『きっかけ』がないだけだ」

 

テルは再び笑って言った。

 

「見つけていこうぜ、そのきっかけってヤツ。 俺だけじゃなくても、みんなでな」

 

この人は、かなり波乱な道を歩んできてるのだと黒羽は思う。 だがここまで逆らった分、心が強いのだ。

 

「私は今日で、自分がかなりめんどくさい女だという事を自覚しました。 それでも貴方は私との関係を望みますか?」

 

黒羽の澄んだ瞳がテルを真っ直ぐに見つめると、テルは体を山の景色の方を向き、顔はこちらを見て言った。

 

「人って、悩んだりそれでめんどくさい位がちょうどいいと思わね?」

 

「テル様―――――」

 

「あー、あとソレ」

 

唐突に指を差されて黒羽は喋るのを中断。

 

 

「『様』とかもうやめね? お前伊澄とかと俺の呼び方同じだから被ってんの!俺が勝手に決めてることだけでこれは皆には言ってねぇんだけど」

 

と、テルは自身の頭に手をやり彼は言った。

 

「あの屋敷にいる皆、俺は家族みてぇなもんだと思ってんだ。 あ、言うなよこれ。 ナギとかに言ったら俺絶対バカにされっから」

 

「ではなんと呼べばいいのですか?」

 

「は? 普通にテルでいいだろ。 そのほうが俺も気が楽だからさ」

 

黒羽は登山の途中で会った伊澄の事を考えて、何故か分からないがさらに彼女から警戒されるのではないかと一瞬考えて目を泳がせた。

 

「――――分かりました。 それではこれから、宜しくお願いします・・・テル」

 

「俺だけじゃなくて、皆も・・・かな」

 

とテルが首で奥を示すと、同じ班だったナギや、ハヤテ達がやってきた。 生徒から水を奪い大量のペットボトルを抱えた雪路もいた。

 

「ほーらアンタたち、そろそろ集合の時間よ」

 

「生徒から水奪って何してんだアンタ」

 

「水分補給よ。 熊との戦いでかなり消耗しちゃったからねー、ビールだったら良かったんだけど」

 

彼女にとってビールが回復剤らしい。 そんな生徒からの強奪行為を見かねてか雪路は即座にヒナギクに粛清されたのだった。

 

「もう・・お姉ちゃんったら。 黒羽さん、大丈夫? 何もされてない?」

 

「オイ会長。 なんで俺が手出した前提になってんだ?」

 

「ええ大丈夫ですよヒナギクさん。 出されてもちゃんと拒否りました」

 

「ちょっと! こんな時に悪ノリすんな―――!!」

 

「数々のテルの手助けを悉く受け付けなかった事を言っているのですが?」

 

「あー、もうめんどくせ――――!!」

 

投げ出したかのように叫んでどっかに行っていると今度はナギが。

 

「ふっふっふ、勝負は私の勝ちのようだな黒羽!」

 

「ナギ様。 この勝負、そもそもどうすれば勝ちなのか細かく決めていませんでした。 ですのでこの勝負、ノーカンです」

 

「な、お前! 地下労働所ハンチョーみたいな言い訳を・・・ってまぁその通りだしな。 取り敢えず帰ったらスマブラな」

 

「スマ、ブラですか?」

 

「し、知らないなら私が教えてやるから!」

 

腕を組んで照れ隠しに上を向いているナギだが、背が低いためその様子はまるわかりである。

 

そしてその一方で。

 

「あ、綾崎ぃ―――――――!!」

 

「ちょ、やめてくださいよ本当に!!」

 

「嫌だ! お前の事が好きだったんだよ!!」

 

「殴りますよ本当に!」

 

と迫真のホモ展開を見せつける輩や。

 

「グラップラーとして、ゴキブリダッシュとかやって見せてくれないか?」

 

「いや、体液体化させるのはちょっと・・・」

 

偶然のラッキーに出会った輩の面々が騒いでいる。

 

 

「なんか、せっかく清々しい風景なのに騒がしいったらありゃしないわね」

 

この光景を見てヒナギクが呟くと、隣にいた雪路は笑っていた。

 

「いいんじゃない? これから一年・・・面白おかしく過ごすメンバーなんだから」

 

皆が、これからの事を思い、笑みを浮かべていた。 そしてテルが一人手をあげて。

 

「よーしっ。 これから帰ったら親睦会やろうぜ! 親睦会! 場所はマックで」

 

「なんでマックなんですか。 もっとマシな場所ないんですか?」

 

「馬鹿、オメっ、知らねぇのかよ。 今マックで無料券貰えるキャンペーンやってんだぜ!? ポテト塩抜きとか無理にセットメニュー頼んで無料券貰おうぜ!」

 

「む? たしかそれは二時までのやつじゃないのか?」

 

「細かいこたぁいいんだよ! 学校とかなんかの行事の帰り道寄ってく所っつたらマックかゲーセンだろうが! 行くぞぉ!」

 

ハヤテや唯子などの意見をものともせず右手を大きく突き上げて他の皆が流れのままに突き上げた。

 

「勿論今回は皆さんはお金を出さなくても結構です。全てはテルのおごりで」

 

「ちょ、ふざけんな! 俺今月色々買いすぎてキビしーんだよ!」

 

「やったー!」

 

その場にいた雪路を含める全員が歓喜の声を挙げる。 なぜ教師も参加しようとしてるのか突っ込んではいけない。

 

 

こうして白皇の様々な始まりを描いた高尾山ハイキングは終わりを告げたのである・・・そして。

 

 

 

「アレ? そういえば泉は?」

 

 

「ん・・・あ、忘れてきちゃった」

 

「オチもってったぁ!!」

 

高尾山には今日もどこかで一人取り残された少女のすすり泣く声が響くのであった。

 

 

 

 




後書き
やっと終わりましたよ。 これで黒羽さんとか木原くんに新しい展開が期待されます。 また、これからのお話の要点をまとめると・・・・ちょっとだけ距離が近くなったテルと黒羽や、まだ千桜の本性を知らない木原、黒羽の事を心配するナギや、マリア。 唯子の秘密や、会社の倒産の原因を探る千里、そして山に現れた謎のバイク乗りの男とかがからんだ話になります。

あと、ドロドロブラック修羅場二回戦も予定。
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