ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
前回のあらすじ。 自身の会社復活の為に働きたいととうとうボケが回ったかのような発言から始まった千里のアルバイト雇用テスト。 目の前で華麗な手本を見せた黒羽の接客。そして次に、本命の千里の接客が始まるのだった!
カラン。 と扉が開き、客が来たと知らせるベルが響いた。 皆は固唾を飲んで見守るばかりである。
「入ってきたのは今度は普通の男性ですね。 ちょっと安心しました」
メニューで顔を隠しながらやってきた客を確認するマリア。 まだメニューなどは決まっていないのか、これは店側に迷惑ではないだろうか
「まだまだ油断できませんよ。 俺はいつだってテーブルが飛んできてもいいように鉄パイプを側に置いておきますから」
隣にいたテルがコーヒーを一口すする。 テルのすぐ側の壁にはテルの愛刀・撃鉄くんが立て掛けられていた。
「私もだ。 いつでもあの客がこちらに飛んできてもいいように私はハヤテの腕を掴んで離さない」
ジト目で冷静に分析するナギはハヤテの腕を掴んでいた。
「何が始まるんです?」
まるで臨戦態勢のような構えの一同を見て思ったかハヤテが聞くと、テルが持っていたコーヒーを置いて口を開いた。
「大惨事大戦だ」
〇
「いらっしゃいませぇ!」
千里が背筋を伸ばして、声を張った。 一瞬客が声の大きさに千里の方を向くが元気がいい店員なんだと理解して、窓際のテーブルに席を取る。
「なかなか掴みとしてはいいんじゃないですか?」
ハヤテが千里の最初の入りを見て、少しだが安心した表情。 だが他の三人はまだ緊張の色が見えていた。 テルが険しい表情で言った。
「まだだ。 問題はこれからだ」
視線を戻す。 大柄な男が客のいるテーブルの横で睨みを利かせて立っていた。
「あー、お客さんめっちゃ怖がってるぞ。 さっきからメニューと王様に目線が行ったり来たりしてる」
「見た目がアレなこともあってガンを飛ばされてると勘違いしてるんじゃないですか?」
「あれで本人はいたって真面目に取り組んでることを知ってしまうと悲しいよな・・・」
三人が眺めている間にも状況は変化する。 千里が注文をしない客に痺れを切らしたか、行動を起こした。
「どうした。遠慮することはないぞ、どんどん頼んでもよい。俺が許す」
「え? あ、じゃあ・・・」
ぽかーんとした顔でいた客の男性は目を数度瞬きしてメニューを慌てて見る。 そして決まったのか、メニュー表を閉じた。
「アメリカンコーヒーとオムライス、サラダとドレッシング、それとデザートでショートケーキ、あと砂糖とミルクも」
「・・・・・・・・」
「ん?」
千里が硬直していると不思議そうに店員が首を傾げた。 だがその姿を観察していたテルたちは見逃さなかった。 千里の体が小刻みに震えていたのを。
そして遂に。
「貴様ァ!」
「は、はいぃ!?」
千里はあろうことか、客に向かって叫んでいた。
「一度に大量に言われて、理解できるものかッ! 俺を愚弄する気か!」
「い、いや、遠慮するなって言ったのはそっちじゃ・・・」
「もういい! 貴様の食べる物はこの俺が決める! これとこれと・・・これだ!いいな!」
客の方も黙っていられなかったか、この千里の暴挙に立ち上がった。
「おい! お前どういうつもりだ! こっちは客だぞ!?」
「客だと!? この俺の前で料理を食べられる事を光栄に思え! ましてやこの俺がお前にその料理を運んでやるというのだぞ! いい気になるな客の分際で!」
もう限界だと、言わんばかりに客の男が千里の胸ぐらを掴む。 すると千里も相手の胸ぐらを掴んだ。 体格の差もあってか、千里が簡単に男の客を持ち上げる。
「成敗してくれる!」
「何やってんだテメェはァァァ!!」
怒号とともに振り返った千里の顔に、テルの飛び蹴りが炸裂した。
「ゴフゥッ!」
千里の手から客の男が離されて、そのまま床を転がる。 一発お見舞いしたテルは着地を決めると千里の側に走ってそのまま千里の首を後ろから腕を使ってフィニッシュホールドを掛ける。
「お客に手ェだしてんじゃねーよ! お客様はかぁみ様だァ!」
「ぐぐ・・・離せ善立! こいつはこの俺が・・・!」
「ち、畜生!こんな店、二度と来るかぁ――――――!!」
千里とテルが組合っている間に客の男は怒りの形相で店を出て行った。
その客が帰っていった所で、場にひときわ高い音が響いた。 音に反応して取っ組み合いを止めてその方を見ると、どんぐりのマスターが笛を鳴らしていた。
「はーいそこまでよお二人さん。 千里くんも、もう結果は分かるわよね?」
「・・・・・」
押し黙る千里にマスターが続けた。
「お客に対して上から目線の注文はNGよ。 さっきテルちゃんが言ったように、お客様は神様。 私たちはお客あっての商売なのよ。 そのお客様に暴力を振るうなんて、あってはならないことなの」
最後に顔を引き締めたマスターは一人の社会を知るものとして、千里へ告げた。
「あなたには、相手を気遣う心を知る事が大切そうね」
〇
「・・・・・」
「あー、まぁ気にすんなって。 王様」
道中、テルと千里は店をあとにして次の場所へと向かっていた。 マリアやハヤテ、ナギや黒羽の面々は既に屋敷へと帰っている。 本来なら、ここで一旦終了して後日改めて次のバイト先を探しにいきたいところだったが、千里がまだ続けると聞かないのでテルが残った。
「俺も飲食店業ではかなり迷惑掛けてたって。 いつも最高のラーメンを作ってる筈なのに食中毒者が日毎に量産されていくという事件が起きてだな」
どう考えても事件原因が彼にあるのはご存知の通り。
「あー、王様?」
笑い話のハズだったが、千里がノーリアクションである。 マスターに言われて不合格になったのがそんなに効いたのか。
・・・王様っていつも堂々としてるからこれくらでへこたれるヤツじゃないと思ったけど、意外にもセンチなのか?
と思っていた時だった。
「まだだ・・・」
「へ?」
「まだだと言ったのだ!」
いきなり街中で千里が叫んだ。
「この俺が、簡単に折れてなるものか! これが宿命と言うならば、甘んじて俺は受けよう! 拒む者、望まぬ者、俺は全てを従えて見せる! ついて来い善立! 俺の覇道は始まったばかりだ!」
「お、おう・・・」
熱い闘志を宿した瞳にテルはそう頷くしか無かった。
〇
かくして、千里のアルバイト探しはテルと共に続行。 数々のアルバイトを回っていった。
「あーっ! お店の勝手に食べちゃダメでしょ!」
「いいだろう一つくらい。 これくらい許容できなければ大器を成す事はできんぞ」
あるときはコンビニのアルバイト。
「ちょっと! なんでただのティッシュ配りなのにノルマ達成できてないの!? ゼロじゃん!?」
「知らん! 誰も受け取ってくれんのだ!」
あるときは街頭でティッシュ配り。
「お、王様! 流れてくる出来損ないのパンだけを弾けばいいんだって!!」
「五月蝿い! こんなもの、俺から見て加賀美がいつも焼くパン以下の出来損ないだ!!」
あるときは某有名パン製造工場でのライン作業。
「あらお兄さん。 いい体してるね~。 どう? いいお仕事あるよ・・・30分で、5万。 どう?」
「おお、なんて素晴らしいバイトだ!」
「そっち行くな馬鹿野郎ォォ! お前はこの小説R指定に変更させたいのかァァァ!!」
あるときは街での怪しいキャッチ・・・これは全力で阻止しました。
以下、彼が挑戦した仕事は数知れず。 結果は誰もが見ても全戦全敗。
「はぁ~」
「・・・・」
そして現在。 テルと千里は負け犬公園でその体を休めていた。
「あれから一件もかすりもしねぇな・・・王様、元気? まだ息してるぅ?」
「お、おう・・・なんとかな」
この世の終わりのような顔をしている千里はベンチで地面のしたばかりを見つめている。 片手に持っていた缶コーヒーが小さく揺れていた。
「てゆーか、王様。 接客業見てて思ったけど、仕事の内容覚える大変か? 一応白皇の成績は上のクラスだろ?」
「確かにそうではあるが・・・この分野で学校の成績は関係ないのだと、俺は初めて知った」
・・・なんとなく分かってたけど。 とんでもなくブキッチョな奴だよなぁ。
バイト先ではまず第一に仕事を覚えなくてはならない。 飲食店なら店のメニューを全て覚え、客の要望に応える、不測の事態に対応するなど、一通りこなせるようになることが重要だ。
頭が良くても、要領が悪ければそれは使えないのと同等と言われたりすることが有るのでこういったバイト先では学校の成績は全く関係ないのだ。
「思えば難しい事の連続だ。 その中で初めて分かった事がある・・・俺は多分、人と話すのが苦手なのだ」
「いや、それはあるだろうけど。 多分一般論的な物が欠けてるんだと思うけど・・・俺も人のこと言えないけど」
接客業などは最早その仕事に慣れるしかないのだろうが、千里の場合は接客などの仕事は向かないタイプなのだろう。
「もっとお前のそのガタイを活かせるような仕事があればな。 少なくとも、体力だけはあるんだし・・・新聞配達とか・・・」
「・・・・ふぅ」
・・・あっれぇ~。 なんか凄い沈んでるんだけど。 俺からすればとてもやりづらい感じなんですけど。ため息とかつかないでくれよ。
「俺はなぜこんなところにいるのだ・・・今頃俺は乙葉家の社長のイスに座って・・」
・・・Oh、あまりのショックに現実逃避をしてる。 どうすればいいよ。 俺になにか知恵を教えてくれい。
自分でこういう時に何も出来ないことが、もどかしいものだと、テルは思った。 自身も接客などのバイトをしていて色々とあってこの執事という仕事をしている。 難しく、周りから出来ない人だと言われても、自身の背負った借金の事を考えると今更やめる訳にはいかないのだ。
自分の事を考えればまだ仕事を選べる千里は良い方なのかもしれない。 だが、この男にとってただの小遣い稼ぎをするためのバイトではない。 その先に見据えているのは社会を大きく揺るがすような巨大な夢だ。
「今日はもう・・・やめにすっか」
「そうだな・・・」
コーヒーを全て飲みつくして二人は立ち上がる。 もう日も暮れてきた。 次の日にまた出直すとしようとした時だった。
「おっさ~ん、ちょっとお金だしてくれないぃ?」
目線の先には一人の老人が数人の男に囲まれていた。 囲まれている老人は焦った表情で逃げようとしていたが、自分より大きな若い男が行く所に立ちはだかる。
「あ、あの。 どいてくれませんか? そ、そろそろ仕事に戻らなきゃならないんで・・・」
「いやいや、俺らにお金渡すのが最初の仕事でしょ?」
ニヤニヤと笑いながら言う男達。 それを見ていたテルと千里が当然黙っていられるはずがなく。
「まだ居るのかよあんな世紀末的セリフ言いながら恐喝する奴ら・・・」
「・・・おのれ下種がッ」
一歩踏み出していたのは、千里だった。 テルよりも早く、動き出した千里はもはや直感というべきほどの反応であった。
囲んでいる男ひとりの背中に千里の手が掛かる。 気付いた男がすぐさま振り返ると、千里が腕を振り上げていた。
「え?」
「この下種野郎ぉぉぉぉおお!!」
怒号と共に突き出されたその拳は真っ直ぐにその男の顔面に直撃して、男が派手に宙を舞った。
「な、なんだこの男は!?」
一人の男が一歩引いて驚いていると、千里が男たちを睨みつけた。
「一人のご老人に、大人数でかかるとは何事かッ これはもはや弱者のすること。 そんなことも分からん奴等にはこの王である俺が直々に成敗してくれるッ」
・・・ヤバイ。 ここでアイツが暴れたりしたら。
と咄嗟にテルがポケットから携帯を取り出した。 携帯を掲げながら大声で今にも乱闘が起こりそうな現場に向かってテルは叫ぶ。
「はーい皆さん。 今僕警察呼びましたァ。 将来気にしてビビってる人がいたらそっこく逃げてくださーい。 居座ってたらお前ら殺されちゃうよー! さっさとイ行け馬鹿どもォ!」
「ま、マジかよ! 逃げろ逃げろ!」
テルの言葉を聞いてか、その場にいた男たちは殴り飛ばされた男を抱えると一目散にその場を走り去っていった。
「善立ッ 余計なことをするな!」
鬼の形相で今度は千里がこちらを見た。 テルが電池切れの携帯をポケットにしまう。
「余計なことって・・・お前、あそこで本格的にやりあっていたら俺らが通報されたぞ。 お前ひとり殴り倒してたから結構アウトかもしれねぇけど。 これから会社立ち上げる男が、警察にお世話になりましたって経歴作ったらダメだろ?」
「・・・だが、俺はどうしても許せなかったのだ!あれは卑劣だ。 勝負もすることもなければ、ただ甚振るだけの行為! 王はそれを見逃すことはできんッ!」
拳を震わせて千里は言う。 この時、テルは思った。 この男は、どこまでも真っ直ぐな心を持った男なのだと。
「ああ、二人とも、ここで喧嘩はしないでください。 私が不注意だったんです・・・」
テルと千里の間に割って入ったのは先程襲われた老人だ。
「おお、ご老体。 お怪我はないか?」
「この通りです。 ありがとうございました」
老人は両腕を掲げて、元気そうに力こぶを笑顔で作ってみせた。 千里は目を背けて腕を組む。
「ふ、ふん・・くだらん。 礼などいらん。 王としての責務を果たしたまでだ」
・・・いい所、持ってんじゃんかよ。王様・・・・・・。
常人なら普通に声を出して止めることも難しい。 だが、この男は後先考えず突っかかって行った。
王としての責務だとか、そんな物ではなく、ただ単に本人が言っていた通り、ただ許せなかったのだ。その勇気を千里は自覚してはいないだろうが、紛れもなく誰よりも誇れるものである。
”王は人の心が分からない。けど、王は人の心の事を考えている”。
〇
場所は変わり、ここは愛沢邸。 愛沢家のお嬢様こと、愛沢 咲夜は居間にて寛いでいた。 主に彼女のくつろぎと言えば。
「ぶわっはっはっはっは! やっぱおもろいなぁ~」
お笑い番組の鑑賞であるが。 彼女にとって、笑いというのは生活に欠かせないものであり、これを無くそうものなら自分を失ってしまうほどの大切なものである。
そんな彼女にとって日頃のお笑い番組をチェックすることは最早日課なのだ。
「お嬢様。 ナギお嬢様からお電話が来ていますが・・・」
樫の扉が開かれて入ってきたのはこの愛沢家に使えている執事、巻田と国枝だ。
「ん~? なんやって?」
液晶テレビの音量を下げて、咲夜が二人に問いかけた。 問いかけには国枝が答えた。
「面白いものが今日Amazonから届いたと・・・仰っておりました」
「ほー! 面白い物かッ! それで詰まんなかったら許さんでナギ。 飛びつかん訳にはいかんなぁ」
にひひ。と笑みを浮かべるとその様子を見てか巻田が聞いた。
「では、すぐ支度なさいますか?」
「せやな。 ナギのことだからネットの動画見て影響されたもんでも手に入れたんやろ。 すぐ行くで」
と、昨夜が立ち上がる咲夜に巻田と国枝がきらりと笑みを浮かべた。
「で、では! 我々も参ります! 二人で参ります! 巻田と国枝が参ります!」
「あー、別に今回は二人ともこなくてええで?」
その言葉を聞いた瞬間、巻田と国枝は身を固まらせた。 まるで石化の魔法でも掛けられたかのように。
笑いながら咲夜は続ける。
「ナギに行くついでや、ウチの新入りを紹介しとかないといかんしなぁ。 だから今回は来んでもええや」
「そ、そんなお嬢様に何かあったら・・・!!」
石化状態から解放されたか、巻田が言うと咲夜はまたしても笑いながら言うのだ。
「大丈夫や。 アイツ、二人よりも強いから」
「がはっ!!」
「あべしっ!!」
物理的な攻撃ではないが、二人は見えないダメージを喰らい、床へと倒れ込んだ。 すると、樫の扉がまた開き、入ってくる人物がいた。 巻田や国枝と同じ執事服の男は倒れている二人を一瞬見て何かあったのかと推測したが深く考えないようにした。
「おお! ちょうどエエ所におるやないか。 今まで何してたんや?」
男に気付いた咲夜はその男の肩をバシバシと叩くと少々困った表情で男は答えた。
「なに、別にいつも通りさ。 掃除洗濯、その他雑務をこなしてたぐらいだ・・・」
「そっかそっか! この仕事に随分なれてきたようやな。そこで伸びてる二人も舌を巻いてたで」
咲夜の言葉に男は小さく笑みを浮かべた。
「それは嬉しいことだが、あいにく私は二人からは少々嫌われてるみたいだがね」
「気にせんでええんや。 その内収まるやろ。 ちょっとしたジェラシーみたいなもんかもしれんな・・・あ、そろそろ出掛けようと思ってたんや。 ナギん家いくんで宜しくな」
三千院家という名を聞いて、男の眉が動いた。 一瞬だけの反応に咲夜は気づかない。するとコクりと頷いた。
「了解した我が主殿。 初めての人に紹介されてしまうのは些か緊張してしまうな」
「はっはっは! そんなめっちゃ落ち着いてる風にしてる奴が言うセリフか!!」
バシンッ。 と一際強い力で男の肩を叩くと少々強かったか、男の顔が歪んだ。
「むぐっ・・・君は少しツッコミにおいても加減というのを知るべきだと思うのだが・・・」
「気にしない気にしない! さぁ行くで新入り!」
意気揚々としている咲夜を見て、男は肩を抑えていた手を下ろして小さく呟いた。
「やれやれ・・・困ったご主人様だ」
王様はまたしても無職王の座に居座り続ける。 そして何げ新キャラ。 登場すっごく遅くなってしまったけど、これが以前巻田と国枝が噂してた執事です。