ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
テルたちが居酒屋で飲み始めて30分だろうか、それくらいの時間が経過していた。 客足は一向に衰えないようで、むしろこれからだと言わんばかりに客が入ってきて、飲み始めていた。酒は進み、日本でのちょっとした出来事と、泉たちの大学生活を話し合いながらまた時間が進んでいく。
「すいませーん」
「はーい! 今いきまーす!」
次の飲み物を頼もうとテルが手を上げる。 向こうからやってきた店員が元気に声を上げてやって来た。
「お待たせしました! ご注文は――――ってテルくん!?」
こちらの顔を確認すると同時に、目の前の女性が慌てふためくと持っていたメモ帳を落としていた。 その反応を見せられたテルが首を傾げながら目の前の女性を凝視。しかし、どうしても思い出せない。
「ん? えーっと、アレ、誰だっけ?」
「え?」
女性はぽかんとした表情だ。
「んー? なんか高校の時に小動物の名前をしたような女が一人いたような・・・・」
「それハムスター! ハムスターだよテル君! って違う! 私だよ私! 西沢 歩!!」
一人でノリ突っ込みをやってのけた歩に言われて、テルが完全に思い出した。
「おお! なんだハム子じゃないか!!」
「違う! テルくんそれ絶対違うキャラ! 違う漫画の序盤のキャラ!」
そこからは西沢歩が落ち着くまで約五分。
「ビックリしたよ、まさかこの場所でテルくんに出会うとは・・・・幻術にでも掛かったのかと」
なんて言い草だ、とテルが言うより先に隣で夢心地にテーブルに伏していた泉が手を上げた。
「すいませーん! テキーラ! テキーラタソお願い歩ちゃん!」
「もう、泉ちゃん。 飲みすぎだよ、また金魚鉢頭に被りたいの?」
「だからこの店で一体何があったんだよ!」
突っ込まずにはいられなくなったテルが堪らずそう叫ぶ。この居酒屋での泉はかなり有名人として通っているらしい。
「お前も大学生?」
うん、とテルの問いに歩は頷いた。
「ヒナさん達とは別の大学だけどね。 この居酒屋は私のバイト先だよ」
「我々も歩くんとは一年の頃から良く会う中でな。 ヒナと泉を飲みに誘う時は必ず彼女がシフトに入っている日にしている。 ビール一杯無料にしてくれるからな」
「マジか」
「嘘っ! そんなサービス一回もしたことないからね! テルくん信じちゃだめだよ!!」
慌てる歩を見ながら悪しき笑みを浮かべる美希は得意げにジンジャーハイを口にすると歩の肩を叩いて見せた。
「いやぁ、歩くんは相変わらず面白い。 言うこと成す事が大抵普通なのだがな」
褒めてるのだろうか、けなしているのだろうか、よくわからないテルだった。
○
恐らく、その場に居合わせた美希たちが確実に思っている事だっただろう。それは口を閉ざしているテルでも分かっていることである。 この五年間の自分のことなど。 どうして彼女らがそれを聞いてこないのかはテルには分からない。
まったく音信不通だったという訳ではない。 旅の途中、おせっかいな”付き人”のせいで日本の方には情報は伝わっており、自分が元気だということは知られているのだ。
「なぁ、お前ら高校の時のクラスメイトの事、ちゃんと覚えてっか?」
「何をいまさら」
「もちろんだとも」
こちらの言葉に美希と理沙が鼻で笑って答えた。 高校を卒業したといってもまだ五年ほど前の話だ。美希がクラスの一部の人間の話を始める。
「えーっとまず誰から言えばいいか・・・・・まずは東宮だ」
「あぁ、あのヒナギクのおっかけの」
ぶっちゃけそこくらいしか記憶にない。
「そうだ。 現在も追っかけを継続中だよ。 大学の剣道部の男子部員の下から数えた方がいいくらいの実力しかないから毎日泣いてるらしい」
思わず吹き出しそうになったテルだ。 しかし、大学まで根気よくヒナギクを追い続けているというのはまさに一途。 単に恋は盲目なのかもしれないが、彼の恋が実る事を切実に願うばかりである。
「あと虎鉄くんだけど・・・・」
次に陽気な口調で泉が口を開いた。 焼き鳥の皮串を手に取って生ビールと一緒に口へと運ぶ。
「お前そろそろストップしとけよ、また週刊誌噛みちぎるぞ」
理沙の言葉に、もう何が起きても不思議じゃない。 そう感じてきたテルだった。
「んで? 虎鉄がなんだって?」
そうそう、と泉がビールを一気飲みしてから彼女は一息つく。
「・・・・・女の子になったの」
「ファッッ!?」
「ウソウソ、ウソでーす! テル夫くんったら引っかかってるぅー!」
あんぐりと開けていた口を閉じて、けらけらと笑っている泉に初めて殺意というものを抱いた。酒のテンションとはどの国であってもめんどくさい。 美希がやれやれと言った顔で代わりに説明する。
「アイツもいまだにハヤ太くんの追っかけだ。 大学に来てまで、彼もいい迷惑だろう。 最近でも大学の噴水前に十字架磔の姿で晒されている事がデフォルトと化している」
「ラブアタックいつもしてるからねぇ虎鉄くん。 ”お前の事が好きだったんだよ!!”っていっつも言ってるの。 大胆な告白は女の子の特権だからね!!」
「泉、それは違うと思う」
今度は声にして突っ込んだ。 そうしなければ自分は気が済まないだろう。次に口を開いたのは理沙だ。
「伊澄くんも大学で茶道部だ。 時々我々も菓子を食べに行っている。 相変わらずテレポートが得意でな、この前は学園祭中にカンボジアに行ってたらしいぞ」
迷子癖はいつもの事なのだな、と不安を通り越して逆に安心してしまった。
「そうだそうだ、ナギくんとハヤ太くんだが・・・・聞いているか?」
無論、と小さく頷いて見せる。 こちらとしても情報を知らないわけではないのだ。
自堕落で引きニート同然の三千院家ナギは大学ではなんと。
まだ引きニートだった。
「いやぁ・・・・我々もたまげたなぁ、まさかあの年齢になっていまだに引きニート気質だとは」
「大抵ああいうキャラって数年くらい経ったら大人っぽくなるだろうよ。 それが王道だろうよ未来を想定したハヤテ系の小説はさぁ・・・・まさかの変化ナシッ!!」
・・・・・おう、メタい発言はヤメろ。
と美希と理沙の強い口調にテルも苦笑い。
「講義中は見事なPSPの画面ガン見、授業は大学の講義の構造上一番上の窓際の座席でガンスルー、ニコニコ動画の上級者、VIPPER・・・・と、いつもヒナの手を焼いている・・・・それでも大学の欠席回数も限界だが、ちゃんと来るのはやっぱりハヤ太くんがしっかりしてるからだろうな」
三千院家の遺産相続問題と言うのはまだ三千院帝が駄々をこねて延長勝負というのを持ち込んで未だに続いているらしい。 メールなどではよくハヤテの方から日本の情報が送られてくるのだが、その文面にはひっそりとだが日々の仕事に対しての愚痴のような物が感じられる。 彼も苦労しているのだろう。
・・・・さっさと結婚してしまえい、あの馬鹿野郎ども。
と、泉に対抗心を持ってビールを口にする。 自分が思っている通りであの二人の関係は全く進展していない、かのようにも見える。
だが、実際は違う。 二人の関係はこの数年で劇的に変わっていたのだ。
基本の部分は変わらわない。 鈍い天然ジゴロハヤテとツンデレお嬢さまナギの部分は。
去年あたりのクリスマスだろうか、とある国に滞在中でハヤテから連絡を貰ったのを思い出す。それはナギへのプレゼントの相談だった。
○
『お嬢さまのプレゼントってどうすればいいでしょう』
いや知らねーよ。 いつも女子に振る舞ってた通りにチョコでもなんでもやればいいじゃねぇか。
去年のクリスマス、たしか国際電話に出ていた自分が眠いのを理由にそう一言告げて電話を切ろうとした時だ。
『でも、それだけじゃ・・・・・今のお嬢様に対する気持ちが伝わりません』
どこか苦しそうな口調にだが、電源を切る動作を止めるには当然の意味ありげな台詞にもう一度携帯を耳に当てる。
『最近、お嬢さまを見ていると落ち着かなくて・・・・・ざわつくっていうか、後期の手乗りタイガーを見ているような』
ロリコンかな? と茶化そうとしたが、ため息が聞こえてきて流石に気を使った。 真面目に聞いてみる。
「お前ェ、そりゃいつからだよ。 早く言えよ、三秒以内に言わないと切るぞ」
『そんな唐突な』
「ま、言わなくても分かってたさ。 お前のメール、結構愚痴多いけど、楽しそうな感じがしたからな」
『・・・・・』
沈黙する電話。 だが、それを自分は肯定と受け取る。
『なんでですかね。 ミコノス島から帰って、テルさんが居なくなって・・・・・いっぱい色んな事があったんですよ。 屋敷追い出されたり、コミケでたり・・・・兄に会ったり』
もちろん、それは知っている。 旅の途中も咲夜を通して日本の情報は教えてもらっているのだ。 特に、自分が世話になった三千院家に関しての情報は最初に伝えてもらえるようにしている。
・・・・・お前のメイドコスの写真はどの世界でも高くついたぞ。心の中で感謝だ。
『お嬢さま、何回か挫折しそうになってて、でも最後は自分の意志で前に進むようになったんです。 ガラにもないんですが、こう思っちゃったんです。 カッコいいなって』
男であるハヤテがそう思ったのだから、多分その時のナギの前向きな姿勢は余程印象に残っていたのだろう。 自堕落で世話の焼く子供、あのナギが自分の力でやり遂げる為に立ち上がったその姿を見て、ハヤテはさぞ嬉しかったことだろう。
「ふーん」
実際、電話越しのテルでさえも言葉に反してあまりにも嬉しくて小躍りしたくなる気分だった。
つまり、だ。 とテルは推測する。 綾崎ハヤテは、心の底から三千院ナギに惚れたのだ。
「まずは最初に飯を食う」
『テルさん?』
「何でもいいからプレゼントを渡して、そして雪が降る中、ライトアップされたなんか良さげな所で景色を見ながら”俺とお前で便座カバー”と言いながら愛を囁き合う」
『冗談じゃないんですか?』
ふふ、残念だったなハヤテ。 俺はこんな時はあまり冗談は言わないのだ。 受話器越しにだが、ニヤニヤしながらハヤテの現在の幸せにちょっと嫉妬する。だが今ぐらいは祝って、後押しくらいはしてやろう。
「愛は囁かなくてもいい。 ただ二人でどこか行って、いっぱい色んな事話してみな。 今の事とか、これからの事とか。 そうすれば、お互いどうしたいのかが”ちょっと”くらい分かってくるからよ」
『ちょっとくらいしか分からないんですか?』
ああそうだ、と自慢げそうにテルは言う。
「ちょっと話しただけで女の全部が分かると思うなよ? 女ってのはブラックボックスだ。 パンドラの箱だ。 理解したつもりで接していたらどうなると思う?」
『どうなるんです?』
「真冬のテムズ河に突き落とされる。 しかもパンツ一丁、簀巻きにされてだ」
『あっ・・・・・』
聞く内容に覚えがあったのか、察したハヤテは深く言及しなかった。 今でもこの事を思い出すと、全身から鳥肌が立つ。
ともあれ、
「もういいんじゃねぇか。 気づいている事に、見て見ぬフリして誤魔化すのはさ」
今のハヤテを行動させるにはもう少し背中を押す必要があった。 二人はお互いの気持ちに気付いている筈である。 だがナギはツンデレ具合から、ハヤテは過去の罪の念から自身の気持ちを前に出すことが苦手だった。
「素直になれハヤテ。 自分の今の気持ちに嘘をつくなよ? お前は多分、お前が思ってる以上にソイツの事を大切に思ってるさ」
「テルさん・・・・」
言いたいことだけ、言ったこちらに対してハヤテが何かを言いかける。 こちらは長く話をするのはあちらの決心を揺るがすだけだと考えたテルは受話器越しに、まだ寝癖が出来ている頭を掻きながら、
「元気でやんなよ元同僚」
最後に優しく告げて、電話を切ることにした。
○
あれから一年くらいが経つ、とテルは感慨にふけっていた。 今年になって何も連絡がなかったのが寂しいが、爆砕したかいい意味で爆発したかのどちらかだ。 良い方に転がっていることを願うテルである。
「見よ! 胡蝶の舞!!」
こちらが回想をしている間に、完全に泉は出来上がってしまっていた。 彼女のテーブルの周りは空いたグラスで埋め尽くされており、飲み放題にしたことを最善の判断だったと思うばかりである。
「泉、そろそろいい加減にしないとまた展示用の水槽の中に突っ込むぞ?」
「ふぃー、ちょっと風にあたってくる。 席外すわ」
もはや突っ込むことは放棄している。 こちらも少々酔っている事もあってか、テルは外へと向かった。
なんだかんだで、かつての学友たちとこうして酒を飲みかわし、ワイワイ騒ぐのは悪くない事である。 このまま楽しい思い出を抱いたまま、この店を離れていくのも悪くはない。
本来なら、この場所に寄る予定はなかった。
――――ただせめて、今年はあの人の元気な姿を見ようと思っていたのだ。
冷気に嬲られて、息を吸って吐くと先ほどの酔いが若干覚めたか、視界が安定していく。 後ろからはいまだに泉たちのどんちゃん騒ぎを窺わせる景気の良い声が聞こえていた。
「いくか」
荷物はどんちゃん騒ぎをしている間に持ってきた。 案外バレないものである。 バックれるというのは気が引けるが彼女たちなら許してくれるだろう、そう思って先を行こうとした時だ。
脚が見えた。 酔いと寒さの影響で身を屈めていたからか、最初に映ったのが他人の脚だ。 ブーツ、コート、腰辺り、やけに薄い胸部そして見えてしまったピンクの長髪に嫌な予感を察知したがその予感は的中したようで。
「久しぶりね、テル君」
真冬の寒空の下、こちらの鼻先に木刀・正宗を突きつけた桂ヒナギクは殺気を込めた笑顔でそう言った。
東宮と虎鉄はマジでいつまでもヒナギクとハヤテを追いかけてそうだ。 歩はなんか途中で頑張るけどナギからの相談とかいっぱい受けて、察して自ら身を引いていくスタイル・・・・とらドラのみのりんみたいじゃないか。
ヒナギクは自分の負けは絶対許さないマンだから決定打が無い限りはナギとバトルしてそう。 ワタルとサキさんは・・・・もうあいつら夫婦じゃないか。
他にもキャラで色々と考えてたけど、異常がこの作品で私の考えていたハヤテのごとくの登場人物の未来でした。