ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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 あれ、ヒロインって誰だっけ。


第131話~過去を消そうとする未来~

真っ暗な部屋の中で鳴り響く音がある。 カタカタと音を立てるそれはパソコンのキーボードを打ち込んでいく時の音だ。

 

 

「んー、やっぱり駄目でしょうか」

 

 

 いざ決戦が始まるという最中、そんなことも知らぬ三千院家。 それぞれの使用人たちは、各々が役目を果たすべくこの屋敷で仕事をしている真っ最中だった。 マリアもその一人である。

 

 

 今マリアは特別な事務仕事の途中だった。 この部屋は少々特別で、屋敷のごく少数の者しか知らない秘密の場所である。あのハヤテでさえ、この場所は知られていない。

 

「パソコンの画面見すぎたせいでしょうか、ちょっと目がしぱしぱします・・・・」

 

 周りのカーテンを全て締めて日差しもシャットアウトして、パソコンの画面を見ているのが原因なのは明白だろう、と目尻に手をやって少しばかり刺激を与えてあげた。 

 目の疲労は老化の証、というのをテレビでやっていたのを思い出して気落ちしかけたが、目的を思い出して再び画面へと視線を戻す。

 

 

この部屋の使用用途は、主に情報収集の為である。 三千院家に敵対する勢力と組織の情報を世界中からかき集めるための設備がこの部屋には設置されている。 確かこの周りにある器具だけでも億単位の金額が掛かっている筈だ。

 

 

・・・・ハヤテくんが知ったら気絶しますね、ええ、絶対に。

 

 ハヤテが泡を吹いて倒れる様が容易に目に浮かぶマリアだった。金銭に関しては人一倍に敏感な彼ならば予想がつくものである。

 

 マリアがこの部屋にて情報収取を行う理由は、ある事を調べ上げる為だった。

 

 

「白銀さんの情報がまったく出てきませんね」

 

 三千院家と愛沢家の間で一定の期間に設けられた執事交換研修。 テルと入れ替わりにやって来た白銀拓斗について、マリアは調査中であったのだ。

 

 

 執事としての出来栄えは最高クラスだ。 ハヤテや自身、本家の執事たちとも同等の実力を持つ彼は申し分ない。この研修が終わっても、手本としていきたいとも思っている。

 

だがその一方で。

 

「やっぱり何か怪しいんですよねー」

 

 キーボードに文字を打ち込んで、ファイルを開く。 数百以上はあるであろう男性の写真が羅列されていた。 これは東京都の練馬区に住む男性のリストだ。 その中から白銀拓斗という人物と一致する写真をクリックして、画像を検閲。

 

 

 マリアが調べて疑問に思ったことは、この白銀拓斗という人物の顔はこちらにて執事研修をしている長身、白髪の男性とはかけ離れた脂ののった中年男性の写真だった。

明らかに別人である。

 

 

・・・・・しかも三千院家の総力を挙げても、どこから来たのかも分からない人。

 

 最初は日本語の上手い他国のスパイ、もしくは暗殺者なのかと思っていた。 三千院家のデータベースにて調べ上げられる物は調べた筈だ。 

 だが、それでも白銀拓斗と名乗る白髪の男がどこから来たのかをマリアは分からない。 もちろん、総力というは本家にも捜査の依頼をしている訳だが、三千院 帝(さんぜんいん みかど)から数時間前に連絡をもらい、

 

 

『ぜんぜんダメじゃ。 ワケワカメ、それよりマリアよワシの新しいアイドルモノの二次創作小説見て貰えんか? タイトルは”モブライブ!!”といって――――』

 

と、捜査の依頼とは全く別の事を口走り始めたのでマリアはしたたかにその電話を切った。 

 

 

「テルくんを狙ったかのように追い出すようなやり方・・・・・別に悪い人には見えないんですけど」

 

 基本的に善人には見えたマリアだが、執事交換を促すまでの流れと、直後のテルへの仕打ちなどはマリアもナギや咲夜を通して把握している。明らかに茶化すにしてはやりすぎだ。 それを見過ごせないのである。

 

・・・・・ええ、別に他意はないのです。 同じ職場の同僚として、ですからね。

 

 小さくため息をつく。 進む見込みのない捜査をしていてはこちらが本来こなすべき仕事もこなせなくなってしまう。 いったん切り上げて、元の仕事に戻ろうとパソコンをスリープ状態にした時だった。

 

『ニャー』

 

「あら、シラヌイ」

 

 出口の扉の隙間からの猫の声に気付いたマリアが電気を手元いあったリモコンのボタンを操作して、部屋のカーテンを動かした。 外はもう夕方である。 それでも数時間ぶりに見た外の光は真っ暗な部屋に閉じこもっていたマリアの目には十分な刺激を与えていた。

 

『ニャ』

 

ふと足元を見ると、シラヌイがちょこんと座っている。 尻尾を振って、愛らしくそう鳴いたのを見て、マリアは聞いてみた。

 

「どうしたの? お腹でも空いた?」

 

 そう言ってシラヌイを抱き上げた。毛並はいつも黒羽がブラッシングしているらしく、丁寧にされていたからか、艶のある綺麗な毛並であった。マリアがシラヌイを両手で抱えて高く持ち上げる。 その図を簡単に説明するなら高い高いをするようだ。

 

「シラヌイ、私実はとっても暇なんですよ」

 

『ニャン』

 

どうした? というニュアンスで受け取ったマリアは続けていく。

 

「今日はテルくんもナギも遅くなるって言ってましたし・・・・」

 

『ニャ』

 

「怪しい白銀さんも休暇貰っていないし・・・・」

 

『ニャ・・・・』

 

「クラウスさんはいるかどうか分からないし・・・」

 

『ニャー・・・・・』

 

「やっぱテルくんとかいないと、三千院家はフィーバーしませんね」

 

 

・・・・・私は猫相手に何を愚痴ってるんでしょうか。

 

 自身が猫相手に恥ずかしいことを喋っている事に、今更ながら気づいた気恥ずかしさからシラヌイから目を逸らす。

 

『ニャー!』

 

「やっぱり・・・・・シラヌイ”も”寂しいの?」

 

 問いに答えるように、シラヌイからの返事はある。 シラヌイはテルを気に入っていて、彼の頭を見ては乗っかろうと、何度もよじ登ろうとしている。 子猫なので、テルの頭に自力で上がる事ができないのを見て、いつもテルが仕方なくその頭の上にシラヌイを載せる光景はいつ見ても面白い。単に、テルが遊ばれているだけなのだが。

 

 

・・・・あと一か月かぁ・・・・・長いですねぇ、ホントに長い。

 

 

 研修が始まって二週間、あと半分は残っている。 最初はいつも通り仕事していればどうと言うこともない日数である。 一か月が長いと思った事はこれが多分初めてではないだろうか。

 

 

「シラヌイ、そろそろご飯でも食べますか? 今日はクロマグロの缶詰ですよ」

 

『にゃにゃ!!』

 

 好物の名が出たのを聞いて、歓喜にの鳴き声をシラヌイがあげたのを聞いて、他のペットたちの事を思い出す。どうせなら、全員に食べさせてあげなければ、と。

 

「よいしょ、と」

 

 シラヌイの身を抱き寄せて、マリアが振り返った先には夕日。 もうすぐこの夕日も暮れて、夜になる。いつも通り仕事をしていれば、また日は変わるのだ。 これがあと残すところ14回くらいか。

 

「早く帰って来ないかな」

 

『ニャ~』

 

マリアはひたすら待つのである。 この三千院家に帰ってくる人の事を。 

 

 

 

 

 

場所は戻り、白銀拓斗の結界内。 白銀拓斗を殴り飛ばした善立 テルはその拳を解くと、即座に横で息を切らしている黒羽へと駆け寄った。

 

 

「大丈夫か? おい」

 

「テ、ル・・・・?」

 

うっつらうっつらと瞼が上下に動いている。 息も若干荒いし、体力の消耗が見られる。そのせいか、瞳の方に力がない。

 

 

「ヒデェツラだ・・・・・こりゃあと20分で死ぬな。 オロC買ってこようか? 元気ハツラツしようぜ」

 

「・・・・・チッ」

 

「舌打ち・・・・だけ、だと?」

 

本来の黒羽ならここで舌打ちに加えて無言の手刀が繰り出されるほどのツッコミを披露してくれるはずだ。 だが、今回はそのキレがまったく感じられない。 それほどまでに余裕がないというのか。

 

舌打ちだけでも十分傷つく要素ではあるのだが。

 

 

「無事ここまでたどり着くとは、大した奴だ」

 

視線を元に戻すと、先ほど殴り飛ばした白銀が起き上がっていた。 口元を切ったのか、そこから流血が見られる。 だが、それもあまり気にしていなかったのか軽く拭うだけであとはいつものように小さく肩を竦めていた。

 

「おかしいな、さっきので仕留めた筈だったんだけど」

 

「なに、頑丈なのが取り柄でな。 未熟なお前の技など効かん」

 

 余裕そうに喋るその様に眉間に皺が寄り、腹の底で業、と燃え上がる物を感じた。

 

「そーかそーか、だったらもっとヤベーのくれてやるよ。 さっきの俺、全然全力じゃねーから」

 

「笑わせる。 言っておくが、俺もさっきは本気じゃなかったぞ」

 

ほう、とテルと白銀は歪んだ笑みを浮かべて、

 

「俺は五割だった」

 

「私は三割」

 

「いや二割五分ッ」

 

「・・・・・・」

 

 途中、黒羽から、お前ら自演乙やってないでいい加減に話進めろよ、という痛々しいものを見るような視線がこちらに送られているのだとお互いが理解して、つまらないメンチの切り合いをここでいったん終了させる。

 

「答えろよ未来の俺。 なんでコイツを助ける為に俺を殺す必要があるんだ」

 

「答えてあげよう過去の俺」

 

間髪いれずに白銀からの返答がくる。彼は済ました表情で距離を縮める為にこちらへ歩み出した。

 

「お前が消える事で、救えなかった者を救える未来へと向かう事ができる・・・・私が下した未来への選択は、間違ったものだったッ」

 

「なに―――――ッッ!?」

 

 気づいたときには、既にテルの目の前に白銀はいた。 瞬間移動、そんな事を思わせるかのような現象について今は考える余地はない。 

 今考える事は、白銀の攻撃をどう躱すかどうかだ。

 

 

 繰り出されたのは、意外にも手刀。 貫手の構えでこちらの身体目がけて、打ち込んできている。 冷静にするように、鉄パイプで迎撃を試みる。 流石に生身の腕に鉄パイプを当てられれば痛いの向こうの方だろう、そう思っていた時期が、テルにはあった。

 

 

丁寧に狙ったのは突き出された中指の腹の部分、このままいけば白銀の指はあらぬ方向へと曲がるだろう。無謀とも呼べる攻撃方法に何か裏を感じさせるがテルはこのままいく事に何も疑問を持たない。

 

鉄パイプを一気に振り下ろしたその直後だ。 テルは信じられない物をその目で見た。

 

「――――は?」

 

 テルは驚愕した。 間違いなく聞いたのは、金属音。 鉄パイプで殴っているこちらが生み出したのではなく、明らかに殴られた白銀の手の方から聞こえた重々しい金属音。 その証拠に、反動で途轍もなく固い物体を叩いたときに感じる手の痺れがテルを襲う。

 

 

「鉄で出来てんのかお前はッ!?」

 

「よく言われる」

 

 

 距離を取ろうとバックステップで下がるテルに対して白銀は追撃の手を緩めない。 もちろん、追撃の手段は手刀。 今度は両手でテルをしつこく狙う。

 

「おおッ!!」

 

 脚を止めてしまったのが失策だった。 本来なら構わず躱しきるために下がる事が必要だったが、立ち止まったことで白銀の攻撃の嵐を受けるという状況に陥ってしまう。 

 

 当然、鉄パイプでその手刀を捌いていくが一撃一撃が凄まじく重く、鉄パイプを持つこちらが一発一発の衝撃に武器を落としてしまいそうであった。 

 

 殺傷能力の差は歴然である。 白銀の貫手がこちらの頬を掠めただけで皮膚が引き裂かれ、出血する。 もはや既に刀の領域である。

 

 

「功夫(クンフー)が足りないな」

 

 それだけの単語だけで済ませるのは説明不足な気がするが、悠長にしている場合ではない。 白銀の手刀による戦法は鉄パイプと言う長物の武器よりも接近戦向きな物である。 テルも近距離だが、白銀のはリーチが短い分小回りが利くのでテルよりも手数の多さを生かせる超接近戦に特化したものだ。

 

「なら、その腕を叩き折るまでよッ」

 

 攻めに転じて、手首の部分に横水平に鉄パイプを振りぬいて見せるが白銀は避けるどころか微動だにせず、

 

「フンッ」

 

鼻息一つと共に、片腕でその一撃を受け止めて見せた。

 

「弱い・・・・・」

 

何か苦虫を噛み潰したかのように口元をゆがめると、いつの間にか構えられていた白銀の拳がテルの腹部を目がけて突き出されていた。 貫手ではない、拳を作っているので殺傷能力はないかもしれないが鉄パイプを素手で受け止める強靭な腕だ。 それを食らうのはマズイ。

 

避けなければ、そう回避を試みたテルが背後に感じた違和感。 

 

「あり?」

 

 後方へ飛ぶことで拳を避けようとしたのだが、まるで壁があるかのようにそれ以上、後ろに下がる事が出来ない。 ゆえに、回避することもままならず避ける事が出来たであろう白銀の拳を

 

 

「ぎっ・・・・・!!」

 

 

 食らう。 鉄パイプを受け止める事が出来る強固な腕が生み出すボディブローをまともに。 しかも腕を捻って溝尾の部分に捻じ込んでくるあたりがタチの悪さか。 

 突き刺さった拳を引き抜くと、にぃ、と笑みを浮かべた白銀がテルから距離を取っている。 挑発しているのか、痛みを感じるよりもその行動に怒りが湧く。

 

「て、テメェ・・・・なんで」

 

 攻めるのを止めた、と言おうとした時だ。 白銀の離れたその真意をテルは身を持って知る事になる。 直後、胃から食道、喉へと競り上がってくる異物に気付いたとき、咄嗟に口を押えようとしたが最早手遅れだった。

 

吐いた。

 

 

口から噴出した物をは全てこの遊園地内で胃の中にいれたものである。 焼きそば、ポップコーン、チキン、なんか甘そうなドーナッツ。 空腹だったのを理由に暴食したのが裏目に出てしまった。 

 

 

「おえぇ・・・・・」

 

 吐いた後の妙な感覚があった。 頭の中がボーっとして、目の前が霞む感覚。 風邪を引いたときなど、体調が悪い時の嘔吐の後と同じだ。 

 今回は激痛も相俟って思わず膝を地面についている。 吐瀉物との距離が近づいた為にテルの鼻に自身のグロテスクな元・食べ物の異臭が襲いかかる。 とてつもなく臭い。

 

「情けない男だ」

 

 白銀の一言の直後、放心状態同然のテルの顔面を強烈な痛みが襲った。 白銀の足裏によるヤクザキックが炸裂したのである。 受け身も取る事ももままならず、残りカスとなった吐瀉物を辺りにまき散らしてテルが地面へと横たわりるのは必然。

 

「いかに未熟だったかが分かる」

 

 

そして、追撃もまた必然。

 

「過去の俺がいかに弱かったか」

 

 

 横たわるテルの視線、ちょうど目の前に白銀の足が見えた。 彼はこちらの空に向かっている肩の部分を足で押すようにして、テルの身体を仰向けにした。

 

「脆弱ッ」

 

 顔面へと突き刺さる右足。 ストンピングという奴だろうか、曖昧な思考しか出来ないのも吐いた後だからかもしれない。

 

「貧弱ッ」

 

 白銀の足が顔に踏み込まれるたびに、こちらの顔面の骨全体が軋む。 全力で踏みつけられているのだ。 しかも相手はブーツだ。 破壊力は計り知れない。

 

 

 以前テルが呼んでいた格闘漫画にこんな事が掛かれていた。 横たわっている大人に全体重をかけて顔面を踏みつけてれば、小学生でも勝つことができるらしい。 

 

 

「かっ・・・へっ」

 

 

 テルが激痛を感じながらも心得ていたのはこの状況でも最低限の怪我を回避することだった。 

顔面を強打されるなどで一番恐れられる負傷は間違って自身の舌を噛み切らないことだ。 下手すれば残った舌が丸まって気道を塞ぎ窒息死なんてよくある事らしい。

 

 それを防ぐようにして歯と歯を噛み合わせて舌をできるだけ歯の付近に置かないように喉奥まで引っ込ませていた。 だが、それだけではちゃんとした対応が出来ている訳ではない。 こうして踏まれている間は確実にダメージが身体に刻み込まれているのだ。

 

 

・・・・か、体が動かねェ。

 

 

溝尾への一撃とゲロというコンボは予想以上にテルの体力を奪っていた。 指一本動かせない等訳ではない。 だが、今まさに与えられているスタンピングのダメージが蓄積されているのだ。 

 

 

「まだやるかい?」

 

 もう顔面の攻撃は止み、今は足の裏全体がテルの顔面を圧迫している。 見事に踏みにじられている状態だ。 途中、足を動かしているのでそのたびに靴の固い部分が顔にグリグリと押し込まれている。

 

 

 正直、痛いとかそういうのを表現する範疇のものではない。 今の白銀の言葉すら遠く聞こえ、視界も顔が腫れあがっている為か、よく見えない。

 

 

「そうか」

 

何を勝手に納得したのか、白銀の足が持ち上がる。 すると、何かやけに禍々しい棒状の何かを取り出した。恐らく最後のトドメでもしようというのか、そういう意図は簡単に分かる。

 

 

「お前が諦めてくれるなら助かる。 こうすれば黒羽も、未来で悲惨に会う人たちが多く救われるのだ」

 

 

 そういうものなのか? と考えてしまうのは、ダメージの深さから来るマイナスな思考ゆえのものだろうか。

 

 

 自分が死ぬことで”未来が救われる”その言葉を聞いたとき、未来の自分は一体、どんな絶望を背負ってきたのだろうか。 

 黒羽が死ぬだけでは終わらなかったのがテルの未来だ。 目の前の男は身が裂けそうなほどの苦痛を背負い、抗うが為に未来を超えてきた。 そして今、過去の自分を殺してまで未来の結末を変えようとしている。

 

 

 この時テルは思ってしまった。今の自分が敵わない程の、未来の自分が見た未来が、己の犠牲一つで救われるなら、安い物なのではないのか、と。

 

 

そうしたら、妙に納得してしまった。 そうすれば少なくとも、黒羽だけは助かる事が分かっているのだから。 だから、抵抗する気も自然と無くなって体が死を受け入れようとし始める。 

 

 

 逆手に持ったその棒が狙いをこちらに付けたのが分かったが、全く避けようという気がしないのも、そのせいだろうか。

 

 

「覚悟」

 

 何かが振り下ろされてくるのがぼんやりと見える。 全体がスローモーションだ。 だが、それが途轍もなく殺気を持っているのを感じたゆえに分かった。 あれを食らえば、確実にこちらは死ぬ。

 

 だが、痛みなど無い筈だ。 それを感じる事も出来ないほどに感覚というものは麻痺している。 多分、もう既に刺さっているのかもしれない、そんなギャグを考えていられるくらいにテルは冷静だった。

 

 

 まだか? と、眼を完全に閉じていたテルは死の瞬間と言うのをひたすら待っていたわけだが、ソレはどうやら一向に訪れていない。 心臓は動いているし、痛みも感じている辺りはまだ自分が完全に生きてるということを教えてくれていた。

 

 

 身を起こそうとする、が、やはり体は動かなかった。 だが今回の動かないは”違う”。 痛みによって動かないではなく、上から何かが乗っかっている為に動かすことが出来ない。

 

 

 

 疑問に思ったテルの眼が、現状を確認すべく薄目で開かれた。 同時に、痛みでやられていた全身の筋肉が機能して、テルを覚醒させていく。

 

 

 

眼が認識したのは人が居たということだ。 白銀ではない、別の誰か。

 

「何をしてるか、分かっているか」

 

「・・・・・分かってます」

 

 

己の耳が覚醒して聞いた言葉は白銀の物だ。 テルは、完全に覚醒した視界で目の前にいる人物を見て、驚愕する。

 

「でも私は、この人を死なせたくはありません」

 

 

黒羽舞夜がテルを覆いかぶさるようにして白銀のトドメを阻止していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 




 主人公ピンチ早い気がした。 そう言えば白銀編になってからマリアさんあんま出てなかった気がするゥ・・・・・。
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