ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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 お待たせしました、構想だいたい六年くらいを掛けまして第三章は終了になります。


やった! 第三部完ッ!!


第135話~テル・ザ・リング、執事の帰還~

 小鳥囀る明朝に善立 テルは目を覚ます。 重い瞼を擦りながら身を起こしてベッドから降りるとヨロヨロとした足取りで窓際まで行き、カーテンを開けた。

 

「おー・・・・・」

 

 刺しこまれる朝日に丁度良い刺激を感じながらテルは大きく伸びをする。 するとベッドの枕の傍で小さい物体が動いた。

 

『やー・・・・・』

 

 カーテンの開く音と、日の光に当てられてチビハネが目を覚ます。 チビハネも大きく伸びをして欠伸をすると、数秒ほどボーっとしてからこちらを見て目をパチパチとさせて言うのだ。

 

 

『やー』

 

 

結局、何を言っているのか分からないが、”おはよう”という解釈で良いのだろう。 だが、にやりと笑ったテルは面白半分でその発言を曲解してみせる。

 

「”ゆうべはおたのしみでしたね”」

 

間髪入れずに目覚まし時計が顔面へと直撃した。 寝起きと言うのに見事なツッコミスキルである。

 

 

昨日、テルは一か月の執事研修の全てを修了した。 なので、今日テルが迎える朝は愛沢家で迎える最後の朝なのである。

 

 

 

 

 

「テル、忘れ物とかないな?」

 

「ああ」

 

 

 荷造りをしているテルの後ろでは腰に手を当てて、ハリセンを手に持った咲夜が居た。 なぜこんなところに咲夜がいるのか、という突っ込みはせずにテルは淡々と部屋を綺麗に片づけては私物を纏めていく。

 

 

「PSPとかGBとか置いてっても遅いかんな? ちゃんと確認せな」

 

「ああ」

 

「洗濯物、まだ畳んでないやん。 さっさと取り込んでキャリーにいれんと」

 

「ああ」

 

「伝説って?」

 

「ああ!」

 

「ふんッ」

 

予測可能回避不可能な展開と言った感じでテルの脳天に咲夜のハリセンがお見舞いされたのだ。 甲高いハリセンの音にテルが痛みに耐えながら唸る。

 

 

「なんでだよ! なんで最終日までこんな扱いされなきゃいけないんだ!! 追い出したいのか! 一刻も早く俺を追い出したいのか!!」

 

 

「五月蠅い! 家に帰るまでが執事研修や。 気ぃ抜いてたらアカン」

 

「引率の先生かよ」

 

不満を愚痴りながらもテルはひとまずキャリーケースの中身を整理して、言われた通りに洗濯物など私物などを全部まとめるとスッキリと何もなくなった部屋を一望した。

 

「いやぁ長かった長かった。 ようやく・・・・・ウゥ、ようやく解放される!!」

 

「泣くほどかいな」

 

 辛い日々の事を思い出して執事服の袖で顔を隠すテルに咲夜は呆れて、腕を組んだ。

すると、背後の扉を開けて入ってくる者たちがいる。 咲夜の兄妹、日向と朝斗である。

 

「テル兄ぃ、もう帰るんか?」

 

「もう少し一緒に居たかったんやけどな」

 

 

「お、お前たち! そこまで俺の事を・・・・!!」

 

余りの感動に涙を隠せないテルの肩が震える。 だが、彼らを抱きしめてやろう、というテルの純粋な気持ちが次の瞬間叩き割られることになる。

 

「テル兄ぃが帰ったらウチの対戦ゲーのレート上げの相手いなくなってまうやん」

 

と朝斗。

 

「PSのデジモンで便利くん出すタイミング分かるのテルだけやん、居なくなると困るねん」

 

と日向。

 

 南無阿弥陀仏。 心の中で諸行無常とテルは唱えた。 この兄弟、テルを私利私欲のための道具としか見ていなかったようである。

 

「くそぅ、くそう! 俺の愛沢家でのストレスの三割を担いやがって! もう来ないぞこんな家!」

 

 

「え? 来ないんか?」

 

「テル兄ぃ・・・」

 

 

まるで捨てられた子猫のような甘い目をする朝斗と日向にテルは目を背けて回避しようにもその顔を一度でも見てしまえば抵抗できなくなってしまう。 

 

「く、くやしい! でも可愛いから許しちゃう!」

 

と二人の頭を撫でまわすテルに咲夜は冷徹な視線を送りながら思うのである。

 

 

・・・・・コイツちょろいわ。

 

 

馬鹿正直と言うものは不便な物だ、と咲夜はこの時だけ同情したのだ。

 

 

「まぁ、長いようで短かった一ヶ月でしたが・・・・・」

 

「おお、ハルさん」

 

 愛沢家の専属ミニスカメイドことハルがいつの間にか咲夜の隣にいた。

 

「二人はテルくんと遊んでいる間、どうやら退屈しなかったようです。 お笑い番組を見ている以外であんなに楽しそうにしている二人は私、見た事ありませんでしたから。

 面倒見が良いという点に関しては、彼の長所なのかもしれません・・・・・そのほかは壊滅的ですが」

 

まったくだ、と咲夜とハルは同じくして肩を竦めてみせる。 和気藹々としているテルに咲夜は手を二、三度叩いて意識を向けさせた。

 

「んじゃ、行くかテル。 送ってくで」

 

 咲夜のテルに対するこの配慮は一か月間の研修を終えて疲れているであろうテルへの優しい配慮だった。外に行けば巻田と国枝が車を用意しているのが容易に予想できる。

 

「いや、俺は歩いて帰るよ」

 

 テルは意外にもこの咲夜の申し出を受け取らなかった。 きょとん、とした咲夜を余所に隣のハルがテルに問う。

 

「テルくん、咲夜さんの御好意をそのように無碍になさっては・・・・・得体の知れぬ天罰が下りますよ。 主に私がこれから三千院家とか鷺ノ宮家に掛け合って”テルが咲夜さんに無礼を働いた”と一言告げれば、ええ。 

 どうなるかお分かりでしょうね?」

 

 

「あんれ? 俺今脅されてる? 脅されてるのコレ」

 

後半の内容だけではどうにも他人にいらぬ曲解した解釈を与えてしまう。そうなれば、確実にテルの執事生活よりも人間としての生活の危機であった。

 

「ありがたいと思ってる・・・・実際こっから車で帰った方が楽だからな。 でもここから三千院家に帰るまで、考えたいことがあってさ」

 

「考え事?」

 

 首を傾げた咲夜が見たのは、一瞬だけのぞかせたテルの表情だった。 小さく笑っている彼の顔はどこか思いつめたようなものがあり、それを垣間見た咲夜に小さな不安を抱かせた。

 

「執事研修・・・結構、嫌だったりしたんかテル?」

 

 頭を軽く、咲夜は掻きながら困り顔をしていた。

 

「確かにキツイ事いっぱいあったかもしれへんけど、それで執事辞めるなんて・・・・・ウチは嫌やからな」

 

「おいおい、なんで俺がこれから職失する流になってるんだ」

 

 困り顔のテルの裾を咲夜に掴まれたテル自身、この研修はかなりキツイものであったのは確かだろう。 

いつもの三千院家とは違い勝手が効かないし、愛沢家の狂犬ことハルがテルのサボりを見逃さない。そして何より、テルの癒し担当マリアがいないのだ。

 

 だが、たったそれだけでこの仕事を辞めるという理由にはテルにとってはあり得ないのである。

 

「いや確かにキツイもんではあったけど、いつもと違う場所で仕事するってのは中々いい経験になるもんだな、と俺自身この研修には感謝してるくらいだ。 俺ぜってー今回の研修で掃除と料理レベル20,30くらいは上がった気がするから」

 

「おかしいですね。 私はレベル20,30以上上がっている人が卵焼きをエメラルド色にする筈がないような・・・」

 

 その光景を思い出して口の端を吊り上げていたハルの突っ込みに密かにダメージを受けたのは言うまでもないだろう。 だが、それを無視するように、咲夜の額を人差し指で小突く。

 

「とにかくだ。 この職離れたら俺の生活がままならなくなっちまう・・・・辞めように辞めれねぇのよ。

だから俺はそう簡単にどっかにはいけねぇの」

 

「せやかてテル・・・・」

 

「おう、ツンデレかな? 心配してくれてんのかな?」

 

 ニヤニヤとした表情を浮かべてテルの人差し指が咲夜の頬を突かれて、それをウザがった咲夜が顔を若干赤くさせてその手を払う。

 

「てい、ていていてい! ツンデレ! ツンデレ!」

 

「つ、ツンデレ言うなし! さっさと行けこのスカポンタン!」

 

「おう、そうさせてもらうぜ。 また機会があったらお邪魔するからよ」

 

ハリセンで無双乱舞をお見舞いしてくる咲夜を交わして、テルは愛沢邸を後にするのだった。 姿が見えなくなったところで咲夜は腕を組み、顔を膨らませて、

 

 

「ウチがどんな気かも知れんで・・・・・呑気な奴やな!」

 

道端に転がっていた小石を咲夜は蹴とばした。 

 

 

 

 

 

 

 愛沢家から徒歩十分程歩いた所からバスを乗り継いでいく形でテルは帰路についた。 乗車券を取って席を探そうと見渡した時に予想してた通りに人が居なかった為、さほど席を探すのには困らない。 選び放題であった。

 

 クッションの効いていない固めの感触を手で確かめながらテルが座ったのは一番後ろの窓際。この場所が一番彼にとっては落ち着くポジションである。 

 バスが動き出して、景色がスライドしていくのを眺め、ぼーっとした瞳のテルは考える事がある。

それは勿論、執事研修よりも優先して考えなければいけない事であった。

 

 

 

―――――遊園地で起きた未来の自分自身、白銀拓斗との戦いのその後についてである。

 

 

 

 

 

 白銀拓斗、未来から来た善立 テルを撃破した後の経緯を簡単に説明すると訳が分からないくらいに丸く収まる結果となってしまった。 というのも、白銀が消えた直後にハヤテやヒナギク、伊澄や咲夜も白銀拓斗の事を覚えてもいなかったのだ。

 

 ハヤテは遊園地でデート中に空から落下したヒナギクをキャッチしていたことになって、寄生獣モドキを征伐してた木原はアイエェェェ!と叫びながら暴れまわる不審者として夢の国の憲兵に連れて行かれていた。

 

 伊澄と咲夜も最初は疑問を持っていたがテルが暫くした後様子を見に行ったときにはメリーゴーランドで遊んでいた。

 

 だが、テルと黒羽は白銀拓斗の事を覚えている。 彼の正体から、目的に至る全てを知っているし、忘れてもしない。この違いはどういう事だろうか。

 記憶を覚えている者同士、一度だけ黒羽とその事について聞いてみたが、黒羽は首を小さく傾げており協議してみた結果、一番身近にいた人物だからではないか、という結論に至った。 正直、全く納得していないし問題の解決をしていない。

 

 

――――どんな事が起きてもお前はお前の中にある大事な物を絶対に見失うな

 

 

 未来のテルが最後に言っていた言葉。 それが意味するものを今のテルは知る由もない。 戦闘なんかせずに黙ってこれから何が起こるとか聞いておくべきだったと今更ながら後悔するのであった。

 だが、未来の彼が言うのであれば近い内に大きな出来事が発生するのは間違いないのは確かだ。その時の為の言葉なのだろうか、または別の意図を持ったものなのだろうか。結局これもまったく分からず、その時が来るのを待つしかない。

 

 

・・・・それでも。

 

 

 それでもだ、と。 テルは心の中で二度続ける。 未来のテルが見た絶望した世界へと進んだりはしない、と。

そして、必ず黒羽を死の危険から守り切って見せる、と。 そのために未来の自分を否定して、打ち勝ち、約束したのだ。

 

 

男と男の約束を違えるつもりはテルには毛頭なかったのである。

 

 

 

 

 

 

 バスを降り、まだ若干寒さを持った風に身を震わせながらテルは商店街を進んでいく。 賑わう商店街を通るのもテルにとっては久しぶりである。 丁度この付近にはラーメン辰屋があり、中では暴君シスターに大盛りをせがまれるバルトとそれにイラつく辰屋次郎の姿が容易に想像できた。

 

 勿論、素通りせずに入って昼食を取ろうと思っていたテルであったが生憎、自身が抱えている問題に集中すべくその場を後にしたのであった。

 

 

『やー』

 

執事服のポケットに収まっていたチビハネがのそっ、と顔を出した。

 

「ん? どしたのお前」

 

『やー、やーー』

 

少々不機嫌そうな顔で両手を振っているチビハネのジェスチャ-は恐らくこうであろう。

 

「”お腹すいた”?」

 

『やー』

 

コクリ、と顔を動かしてこちらを睨むチビハネの頭をテルは人差し指で撫でて諌める。

 

「ちーっと我慢してろぉ、家帰ればお前の大好きなクッキーが俺の部屋に残ってた筈だから」

 

 

・・・・・ん? そう言えば俺の部屋のことでマリアさんがなんか言ってなかっただろうか。

 

 

ポケットにいるチビハネが両手を上げて嬉々としている様を見るやテルは頭の中で何か引っかかる物を感じた訳だが、きっと気のせいであろうと深く考えず進むことにしたのである。 

 

 

その時であった。

 

 

 

「どーん」

 

「お!?」

 

 突如背中を押されたのである。 突き飛ばしにしては威力は抑え目でテルの足が二、三歩ほど前に出たがその程度の威力だ。 押されて前のめりになった姿勢を戻しながら振り返ったテルは思わず頭を掻きながらポケットのチビハネを奥へと押し込んで隠す。

 

 

「お帰りなさい・・・・テル君」

 

 

 テルの様子を見て笑ったマリアがそう言った。

 

 

 

 

「油断しましたねテル君、今あの背中を押された瞬間、私がヒットマンだったら確実にテル君は死んでましたよ」

 

買い物袋を後ろに回してこちらを下から眺めるようにマリアは悪戯ぽい笑みを浮かべていた。 テルは小さく肩を竦めて手を伸ばす。 それは簡単言うと買い物袋を持ちましょう、というサインだ。

 

 

「優しいですねー、何も出ませんよーお給金せがんでもダメですからねー」

 

「棒読みなのはなぜなのです?」

 

二人して小さく笑ってマリアは最初こそは自分が持つ、と言っていたがここで引いたら男が廃る、と考えたテルが再三申し出た結果、マリアの意志を折る事に成功し、買い物袋を持つことに成功したのである。

 

「研修、お疲れ様でした」

 

「あ、いえ・・・まぁ一カ月なんて俺にかかればチョロイもんです」

 

 

頭をいまだに掻きつづけているこの男の内心はと言うと、

 

 

・・・・・一カ月ぶりのマリアさん! マリアさんッッッ!!

 

 一か月ぶりにその目にするマリアの姿にどこかの緑のマスクを被った男の心臓が飛び出さんとする勢いであった。だがその哀れな姿を表に見せることなく冷静を装ってテルは続ける。

 

 

「咲夜からも聞いていたでしょう。俺の華麗なる活躍ぶり」

 

その言葉を聞いてマリアが、ええ、と頷いて見せた。

 

 

「勿論ですよ。 初日から何日か引きこもってニートになってたとか、あとテル君が来てから愛沢家の壺とか絵画が総額300万くらい無くなっていたとか・・・・・なんか不思議ですね~泥棒でも入ったんでしょうか」

 

「た、多分・・・・キッドかルパンあたりがやってくれたんですよ。 ええ、俺は知らない、知らないシラナイ、ボクジャナーイボクジャナーイ」

 

「いやですねぇ・・・・・誰もテル君が犯人だなんて一言も言ってないじゃないですか」

 

意味ありげな視線を送るマリアにテルは今まさに心臓を握られている気分である。 生殺与奪はいま彼女の手にあった。

 

 

「でも咲夜さんが言ってましたよ。 レベルが2、3くらいは上がったんじゃないかって」

 

「え、それだけですか?」

 

 笑顔で頷かれ、他人の評価とは自分が思っていたより残酷だったと知ったテルであった。 だが、落ち込むよりも早くテルの前をマリアが歩いて続ける。

 

「でも今まで以上の働きをこれから屋敷で見せてくれるんですよね? あの三千院家で」

 

マリアが視線を逸らして手を組んだ。

 

「ほら、やっぱり職場っていうのは通い慣れた場所でないと・・・・・ハヤテくんもナギも黒羽さんも、皆さん一カ月テル君が居なくて寂しそうでしたよ?」

 

「へー・・・・・」

 

「ゴ、ゴホン・・・・それにですね」

 

 偶然起きたかのように見せかけたワザとらしい咳の後マリアがまたしても視線を逸らしていた。 だが今度はその表情にもテルは着目している。 ジト目でこちらに視線を合わせない彼女の顔は少しばかりか紅潮しており、いうなれば恥ずかしそうであったのだ。 その状態でマリアは言う。

 

「私だって・・・・・待ってたんですから」

 

「・・・・・・・」

 

 

ちら見、その一瞬で再び視線逸らしたマリアは前を向いて歩き出す。 だが、その姿を見るやテルにはある感情がその脳内を駆け巡っていたのであった。

 

 

 正直、ハヤテやナギ、黒羽がこちらの事を心配していたとか言うのは天地がひっくり返っても無いだろう、”日常系アニメが突然とエンディング直前で実はゾンビが出てくるホラーアニメでした!”というぐらいの詐欺と言っても良い。

 三千院家に帰ったらハヤテとかをどうとっちめてやろうか、とかそんな冗談を全く考えられないほどにその時のマリアは。

 

 

――――超絶可愛かったのだ。

 

 

そう例えるなら、動画サイトなら迷わずキーボードを操り赤文字で”ぶひいいぃぃぃい!!”とコメントを永遠と打ち続けるくらいにテルは内心発狂しそうなものである。

 

「お、おお・・・・・」

 

 ここまでマリアに心配されていたとはその事実を知れただけでもテルは最高に幸せだろう。 今日まで生きてきた甲斐があったといっても過言でもない。

 

「と、ところで・・・・マリアさん?」

 

「ええ? なんでしょうかテルくん」

 

二人が話題をそっと逸らす。 このままでは赤面が屋敷まで続くことになってしまう。 嫌でもこのほんわか気分を脱する必要があった。

 

だが、これはテルが確認しておきたいことでもある。

 

「俺が執事研修に行ってる間、俺の代わりに三千院家に厄介になってた白銀拓斗っていう男を・・・・知りませんか?」

 

「え・・・・・」

 

 

そう言われて、マリアは熱が冷めた様に首を傾げて少し考え込む。 心当たりでもあるのではないかとテルが心配したその直後、マリアの口が開かれて。

 

「ん~、誰ですかねぇ・・・・執事研修中はパン屋さんが何回か屋敷に来たくらいで、それ以外はいつもと変わらない人達が居たのですが」

 

きっぱり、そう告げられた。

 

「でもテルくんが一カ月いない間・・・・確かに何か違和感があったような・・・・・何か”おかしい”ような、テルくんの代わりに誰かがいて・・・・私、お茶をいつもより一つ多めに作ったりとかありましたし・・・・」

 

 

 それはマリアがあまりやらかさないミスだ。 普段完璧超人マリアが病んでも居ない限りはそんなミスは起きないはずである。つまり、だ。

 

 

――――白銀拓斗は確かに居て、テルとの戦い後、この世界から完全に存在を消した、と言う事だろうか。

 

 過去のテルが未来の彼の結末について、知る事は出来ない。だが、こちらの過去が勝ってしまった今となっては未来の彼の世界を変える手段と言うのは無くなってしまった。 その上、この世界での痕跡も何一つ忘れられて、誰一人として彼の事を記憶している者はいない。これでは、あんまりではないか。

 

 

「マリアさん、今度お茶とか間違って一つ余分に出しちゃった時は俺にください。 全部俺が片付けますんで」

 

「え、はい・・・・テル君がそう仰るなら」

 

 正直、この上なく面倒な事だとテルは思う。 だが、これは彼を負かして、その存在を否定し、尚且つ彼の存在を覚えている者の果たすべき義務なのではないのではないかとも思ったのだ。

 

 

「それじゃあ、早く屋敷に帰りましょう。 皆さんも待ってるんですから」

 

 こちらの意図するところではなく、マリアの手がテルの手を掴んだ。 目の前にもう屋敷が見えていたからであろう、そのままテルはマリアと手を繋ぎ、三千院家へと引っ張られていく。 

 

 手を繋いでいるマリアがこの上なく楽しそうな顔をしていたので、テルは抵抗する気は起きなかった。もともと、抵抗する気もないのだが。

 

 

 

空を見上げて、テルはその彼方に願う。今はどこかにいるか分からない、未来の己に対して。

 

 

 

――――未来の俺、今度は未来を捨てないで、護るものは護り通せよ。 俺は絶対、お前が見た結末にたどり着かねェからな。 

 

 

 

 過去と未来、一つの節目が着いた今、暫くは安息の日々を得ることが出来るだろう。 テルは日常に戻り、世界は・・・・その普遍の日々は回り続けていく。 だが、彼だけはまだ知らなかったのだ。

 

 

 

 

 

『世界の変革』がもう既に始まりかけていたということに。

 

 

 

 

 

 

~FIN?~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――エピローグ―――

 

 

一カ月という長い期間を経て、ようやく居城に帰還したテルはスキップし、嬉々とした表情で自身の部屋の前に立っていた。

 

 

「い、一カ月ぶりの俺の部屋だ・・・・・」

 

 

『やー』

 

「いいかチビ。 クッキーは中にあるが鮮度が分からん。最悪、賞味期限切れてたら俺が今日買ってきたラムレーズンやるからそれで我慢な」

 

 

『ヤー!』

 

「それにしても、扉の向こう・・・・誰か隠れてんのか? なんか変な声がするんだけど」

 

 

奇妙な音はなにやら背筋に冷ややかな汗を感じさせた。 泥棒とか、変態とかそんな半端な物ではない、もっと別の何かがいると、テルに伝わったのである。

 

 

 

 

 意を決して、ドアノブを捻る。 ゆっくりと開けて目に飛び込んできたのはまず”黒”という事だった。

不思議でならなかっただろう、昼間だというのにカーテンも閉じている訳でもないのに、なぜか部屋は黒く薄暗かったのだ。

 

 

 だが、その正体がただの暗闇なのではなく、ある生物の身体の色だというのが分かったのは斜め四十五度に視線を上げたからだ。 

 

 

『じょうじ・・・・・』

 

 

テルを見下げる筋肉質の黒光した物体。 頭部には二本の触覚、そしてつぶらな瞳。

 

 

―――――どこかの漫画で見たことある宇宙ゴキブリだ。

 

 

そう言えば、とマリアは思い出したことがある。 以前研修中にメールでマリアとナギが送ってきた内容の事だ。

 

 

 

『オマエの部屋にゴキブリを2,3匹放っておいた』

 

と書いたナギ。

 

 

『テル君の部屋にコケを置いておきました』

 

と書いていたのはマリア。

つまり、二人の偶然かワザとなのか分からない行為が見事にマッチして、あのゴキブリが誕生してしまった。

 

『じょうじ』

 

『じょうじ』

 

『じょうじ』

 

『じょうじ』

 

『じょうじ』

 

「アイエエエエエエ!!?」

 

『ヤーーーーー!!!』

一匹見かけたら100匹はいると思え、その教訓を今一度この身に思い知らされることとなったテルであった。

 

 

『ジョウジッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

~FIN~

 

 

 

 

 

 

 




 何年待たせるのだ、という想いを漸く終わらせることが出来た気がします。 一応不足な部分がいくつかあると思いますが、最終章への軽い伏線をいくつかばら撒いて、これにて第三章は完結という形になります。

 当初は三千院家内で決着つける予定だったり、ラスボスが実はマリアさんだったりと、今となっては大きく変わった部分がいくつかありました。 コマンドーネタは変わりません。

別の作品を進めながら、少し構想を練り直してから最終章を作っていきたいと思います。それまで皆さんがこの作品を覚えていてくれたらですが。





ちなみに、皆さんもう気づいているかもしれませんが同じく投稿されたもう一つのお話も見ていってください。

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