ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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少しの間(大体一年間)、留守にしてました。
ようやく時間が動き始めました....亀更新に付き合ってもらえたら幸いです。勇者シリーズに罪はないんだ...許してください、なんでもしますから!


第141話〜終わりの始まり〜③

 三千院家の長大な廊下を渡る、一つの光があった。

 

「・・・・各機械室点検、異常なし、と」

 

 仕事着であるメイド服が懐中電灯一つを持っている。 

 三千院家のメイド、黒羽舞夜は仕事終わりの屋敷に異常が無いかの点検業務に勤しんでいた。

 

「相変わらずこの屋敷は広い、ですね」

 

 この屋敷に来てもう一カ月以上経つというのに、いまだに屋敷の内部構造は知り切れていない。 地下浴場、廃止になった巨大サウナルーム、巨大釣り堀施設、ナギ専用ゲームセンターと、本当に個人の家なのかと疑いたくなってくる。

 

(地下には、たしかグラップラー達も集まる闘技場があるとか、ないとか)

 

 噂である。 だが、この屋敷での生活を体験してしまうと、その考えに対して否定的になれないのはここでの暮らしが長くなったせいだろうか。

 

 

 機械室や火の元となる部屋などの重要な部屋の扉を開けて、異常が無いか確認するという点検作業を一通り終えたところで黒羽は懐中電灯を消した。 黒羽の視線の先に、外へと繋がる扉が空いていた。

 

扉を開き、外を見る。 目の前には噴水があり、側には一つだけの長椅子が置かれているだけであった。

 

 

 三千院家の噴水、といっても、この屋敷で数十ある中の一つだ。 その中でもこの噴水は割と小さい方である。

 

「・・・休みますか」

 

 点検は終わっている。 本来であれば、仕事も終えている黒羽はすぐに部屋に戻って寝てもいい時間帯だ。

 そうしなかったのは、ただの気分なのか、それとも―――――。

 

 

 長椅子に腰を掛ける。 腰を落ち着かせて黒羽は夜空を見た。

 月が見え、星が見える。ごく当たり前の風景。

 

 

 夜風は一切なく、黒羽の長髪を揺らすことは無い。 耳を澄ましても、虫の音すら聞こえないというこの状況は酷く妙であるが、黒羽はこの静寂に包まれた空間が嫌いではなかった。

 

 静かな空間は、心を落ち着かせてくれる。

 

 静かな空間は、自分に安らぎを与えてくれる。

 

 

 

 静寂に身を任せ、溶け込んでいく。 頭の中を空っぽにして、うっすらと目を開けるくらいにしながら意識を外へと放り投げるような感覚。

 

(・・・・あ、眠る―――)

 

 その一歩手前、幽体離脱を成し遂げようとした時だ。 左側に気配を感じた黒羽が目をぱちっ、と開く。

 

 

「よぉ」

 

 男の声と共に、黒羽の鼻腔を刺激するものがあった。 それがコーヒーの香りだと気付くのに、時間はかからない。

 

「おっひさー」

 

 善立テルがコーヒーカップ片手に手を振っていた。

 

 

 

 

「いや、マジで久しぶりなんだよな・・・・お前もそう思わない?」

 

 テルは噴水の前まで歩み寄ると、石段の部分を摩りだした。黒羽はその様子を見て、

 

「久しぶり・・・・それは、だいたい去年の冬一月、”これから更新速度が遅くなるんで”、

という保険の元、ダラダラと他の作品に浮気したどこかの作者のせいで感想欄に執筆状況の心配までされたこと、再登場まで約一年以上かかった作者に対する皮肉と捉えていいでしょうか」

 

「いや、ちげーよッ!? 流石に一年くらいリアルに待たせたのはあるよ? でも誰もそこまで言ってねーよ!?

文句タラタラだけど!? ・・・・ってガチでメタイ話するの止めてよ ォ黒羽サン!!」

 

「鬱系勇者シリーズにグラップラーをミックスさせるというヤベー闇鍋作品」

 

「やめろォ!」

 

 じゃなくて、とテルが気を取り直して。

 

「俺が言ってんのはこの場所だっつーの。 

ここ、俺が屋敷の修繕頼まれて、初めて成功した場所なのよ」

 

 テルが摩る石段には少しだけ粗いセメントによる修繕の跡が見られた。 

 

「セメントが辺りに散ってて見た目が悪すぎる、肝心の修正した場所の削りが甘すぎて座ったら刺さりそうなくらい不出来・・・・」

 

「やめて・・・それ以上言わないで」

 

「よくナギ様が許しましたね」

 

 修繕の状況は、一流のプロが見たら”これ、ちゃんと補修したの?”というレベルなのと、苦情の電話を入れて訴えれば、絶対勝てるんじゃないか、というレベル。 それを見た屋敷の主、ナギが良く許したものである、と黒羽は思った。

 

 

 テルは頭を掻いて、

 

「いやー、ダイナマイトを使うという俺の斬新な発想によって修繕されたこの噴水を、ナギも手放すのは惜しいとおもったんじゃねぇか?」

 

「あなた馬鹿ですか」

 

「即効でぶった切られた!」

 

 当然だ、と黒羽は心の内で思う。 何故この男は、創るという前提を飛び越して、というか逆行させて、破壊する、という行動が先に出てきてしまうのか。

 

「破壊と創造は表裏一体、とでも?」

 

「・・・・」

 

 無言は肯定を意味する。 ガチでその考えだったのか、と黒羽は呆れた。

 

「ふぅ・・・」

 

「ため息つくなし! 俺だって頑張ったんだぞォ! 超スローペースだったけど、ちゃんと設計図作って頑張ったんだぞォ! マリアさんだって褒めてくれたんだぞ!・・・・苦笑いだったけど」

 

「あの人、一応女神属性ですし」

 

 怒るという事すらも貴重と言われるあのマリアを苦笑いさせるとか、この男の底が知れない。

 

 

 

「んで、お前は何してんの」

 

 唐突に、テルに聞かれる。 黒羽は暫く月を見ながら、

 

 

「・・・・ぼーっと、してました」

 

 彼に対しては、特に端的な理由であっても、取り繕う必要はないのである。

 

「へぇ・・・・そう」 

 

 コーヒーを一口、息をゆっくりと吐いた。 暫くして、黒羽の方から、

 

「ちなみに、あのお昼休みの伊澄さんとは? 幼女を襲うなんてことしてませんよね」

 

「ぶっふぉっ!」

 

 二口目のコーヒーを口にしている所に繰り出された黒羽の問いに、テルが盛大にコーヒーを吹きだした。

 

「その反応・・・察するに、テルは強引に年下の女の子に手を出す、変態屑野郎に・・・・」

 

「してねーからッ!」

 

「まぁ、世の中には女の子と廊下でぶつかってスカートの中に顔を突っ込むジャンプの主人公とか、

女の子とドキドキするシチュエーションになると

ヒスって強くなるラノベの主人公がいるくらいですし・・・テルもそれくらいの需要を満たしていかないと」

 

「俺何処まで夢特性をふんだんに詰め込んだ主人公になればいいの? そういうのはハヤテにやらせておけば」

 

「ハヤテ様はある程度条件満たしてますし、その気になれば女性キャラにもなれますし・・・パーフェクトです」

 

 ヒナ祭りしかり、そういう状況に遭遇するたびに死んだ魚の目をしたハヤテが屋敷に帰ってくるんだが・・・憐れなりハヤテ。、とテルは彼の天性の不幸を嘆く。

 

 

「まぁ、あの後ただ伊澄の横で突っ立てただけだったんだが」

 

「・・・・ふむ、それで?」

 

「アイツ、顔をスゲー真っ赤にさせててさ。 向こうから喋ろうにも口を金魚みたいにパクパクさせてて・・・それで昼休みが終わった」

 

 ふむ、と黒羽は少し考えて、

 

「ちなみに、なんで伊澄さんがそうなったのか原因はわかります?」

 

「え、顔真っ赤だったし・・・あぁ、おでこ触ったらメッチャ熱かったからな・・・・風邪か!!」

 

「お前、死ねば?」

 

「ついに”お前”呼ばわりされたッッ!?」

 

 凄いナチュラルに恋する少女の額を触るとか、その反応を見て何も察することができていないあたり、この男―――

 

「・・・まるで成長していない」

 

(まぁ、ちょっとした仕返し、出来たので良しとしますか)

 

 伊澄がテルに好意を抱いているのは知っている。これまでの自身が起こした件の清算も兼ねて、伊澄をテルと一緒にする機会を与えたのだが、まるで進展もなかった。 

 

しかし、黒羽にとっては伊澄にご褒美を与えるだけでなく、今まで物理的に色々とあったので、その仕返しも少しできたとも思っている。

 

 

「もう少し、テルは人の心を読む力を身につけましょう」

 

「それアドバイスなの? 俺にエスパーになれと?」

 

「サイコパスになってください」

 

「犯罪者目指すの? ナンデ!?」

 

「似てませんか? エスパーとサイコパスって」

 

「二文字しか合ってねーよ!!」

 

 この男は、あまりにも鈍感すぎる。そんな事では、これから先、女性トラブルを多く引き起こす事だろう。

 身近な例で例えるなら、虎鉄みたいな・・・・あ、これホモ展開だ、やっぱなしで、と胸の内で秘めておく。

 

 

 

 

「ちなみに、知ってるか? ゴールデンウィーク中、なんか海外旅行行くみたいだぞ」

 

「ほう。 場所は?」

 

 そう聞く黒羽の手にはカップが追加されていた。 テルに作らせ、少し熱かったので冷ましている最中である。

 

「んーん、なんでも海が見える場所みたいだ」

 

「あまりにも情報が少なすぎませんかね」

 

 ちゃんと話を聞いていたのか、と疑いたくなるレベルの内容だ。 海が有名な海外スポットなど探せばどれだけあるだろうか。 

 メジャー、ローカル、隠しなどの数をファイリングしてたら多分人を殴殺できるくらいの厚さで出来るんじゃないかと思う。

 

「冗談冗談、たしか・・・・巫女がどうとか、巫女巫女ナースとか・・・」

 

 ギャグを言うには少々古すぎるな、と黒羽は思いながら、思考する。 するとテルの一言をヒントにある場所が浮かんだ。

 

「もしや・・・ミコノス島では?」

 

 おお、とテルが思い出したかのように両の手を叩く。 まさしくそれだ、と言った感じで。

 

「・・・・スゲーよ、黒羽は」

 

「私にオルフェンズを強要するのはやめて貰えませんか」

 

 話が逸れ始めてきているな、と思う黒羽だった。

 

「まぁ、三千院家程の金持ちであればゴールデンウィークという長期休暇を利用して、特級コースの

海外旅行に出かける事も造作もないでしょう」

 

 

 使用人である自分らにはあまり関係のない話だ。 そう思っているように見えたのだろうか、テルが笑っていた。

 

「何嗤ってるんですか・・・・こわ」

 

「なんとだな、黒羽。 今回の旅行、俺達も行けるんだってよ」

 

 は? と、黒羽が首を傾げる

 

「”俺達”とは・・・・」

 

 決まってるじゃねぇか、とテルは続け、

 

「俺に黒羽に、ハヤテやマリアさん、あと執事長のクラ・・・なんとかさん・・・」

 

 

 ”クラウスだッ”と屋敷のどこかでそんな突っ込みが聞こえた気がした。

 

「屋敷は残ってるSPに任せるらしいから、メイドと執事、ご主人様一同で海外旅行が楽しめるぞ。

さしあたって、お前に問題がある。 パスポート、お前持ってないだろ」

 

「・・・・まぁ、持っていませんが」

 

 黒羽がこの場所に居るのは、真昼間に河で打ち上げられていたのをテルに拾われたからだ。

 当時の黒羽は自分の事を覚えておらず、故に身分を証明するものなどはどこにもないわけで、つまり、海外旅行に行くために必要なパスポートが無いのだ。

 

「だから今度マリアさんがお前のパスポート作るからその手続きやるらしいぞ。 良かったな」

 

「・・・・・」

 

「あん? なんだよ、急に無言になりやがって」

 

「それは・・・」

 

 黒羽の胸を締め付ける物がある。 ゴールデンウィークの時期をこの日から逆算するにして、3週間とないくらいか。

 

 

 

――――多分、その頃には私はもう。

 

 

 正確には、その時期を迎える前に、の方が正しいのだろうか。 自分の頭の回転の良さを呪う。 

 

テルに見えないように、力なく笑った。

 

「旅行中は執事服もメイド服も着ないで自由にしていいってよ。 せっかくだから、お前も羽くらいのばそーぜ・・・・黒羽だけに」

 

 

 変なギャグを使うな、と言いたかった。

 

 

「楽しみなのですね」

 

「そりゃなぁ」

 

 と、テルは上機嫌だ。 それもその筈である。 ほぼ一般人であるテルにとって海外旅行など普通行けるものではない。

 使用人であるテルたちはその屋敷で手配された交通手段で行ける事もあり、実質、旅費というものはほとんどないのだ。

 

 

 なにより、この旅行ではマリアだっている。 彼の事を考えれば、この旅行はテルにとってまさにパラダイスと言ってもいいのではないか。

 当然だろう、想っている相手と海外旅行というロマンス溢れる時間を過ごせるのだから。

 

 

「黒羽とも一緒に行けるからな」

 

 

 その一言に、一瞬だけ固まって。

 

「・・・・・は?」

 

 時間も止まったかのような感覚から脱し、黒羽から漸く発された言葉はそれだった。

 

 

 テルは腕を組みながら、

 

「最近、お前は酷く疲れていると見える。 分かるぞ・・・テルさんも、この仕事に早慣れて数か月・・・そんなベテランでも気疲れする事は多い。 もちろん、お前だってそうだ」

 

 さらにテルは続け、

 

「お前も漸くその領域になったってワケだ。 つまり、ここで俺とお前は対等、イーブン、つまり職場で同じ悩みを持つ者同士となった訳だよ。

これは完璧超人のハヤテには理解しえない事だ。 こういう旅行は同じ境遇を持つ者たちと一緒にいく事で楽しみ倍増するってわけ」

 

 両手を広げて、ドヤ顔で語るテルを見て、黒羽は心底呆れる。今の発言は後の説明が入れられなければ、完全にソッチ系の発言だ。

 

(そういう台詞を吐く相手はまず私じゃないでしょうに)

 

 だが、一瞬残念だと思ったのは何故だろうか。と、考えていた矢先にテルが口を開く。

 

「それに――――あるヤツと約束したんだ」

 

 いつものような軽い口調、だけどそこにはどこか重みがあって。

 

「・・・・とにかくだ。 連れて行く以上、お前も全力で楽しみやがれ! 俺も手伝う!」

 

 不器用に、気恥ずかしそうに、そういうテルを見て黒羽は思う。

 

 

 未来の約束。 あの遊園地で交わした、未来のテルとの約束。

 

 

男と男の約束を彼は覚えていたのだ。

 

 律儀に守ろうとする辺りが、彼らしいというのか。 それを誤魔化そうとして、誤魔化しきれていないのも、彼らしい。

 

 

 だが、そんな彼を不器用でも、完全にヒーローになれない彼を黒羽は嫌いになれなかった。

 そんな彼だからこそ、信頼に足る人物なのだ、と。

 

 

「――――テル」

 

 

 だから、頼ってしまう。 せっかく、心を押し殺して、黙っていようと思っていたのに。

 

 

「質問があるんですが・・・」

 

「なんだよ。 なんでも言ってみろって、テルさん、可能な限りなら神対応して見せっから」

 

 呼吸を整えて、唾をのみ込み、胸に手を置く。そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし間もなく、私が消えちゃったりしたら・・・・どうします?」 

 

 力なく笑いながら、黒羽はそう言った。 

 

 

 

 

 

 

 




時期的には海外旅行のチケットをかけてハム子が文とかとクイズ大会してる頃の出来事。
最近の自分の作品の傾向でギャグ寄りに上げて、最後らへんに強引に落とす流れができつつある...

この2人のやりとり、書くの久しぶりだったから、盛大に黒羽さんには毒を吐いてもらった。 テルと黒羽さんの会話を想像すると物語シリーズでいう阿良木クンと戦場ヶ原サンとのやりとりに似てきている気がしてならない。
多分いつからかそれを意識して書いてたんだと思う。


何度も言いますが、このお話はミコノス島、アテナ編まででございする。

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