ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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 実に4か月ぶりぃぃ!


第143話~終わりの始まり~⑤

地面から見上げる空と言うのは、自分を矮小なものだと思いださせるくらいに広いと、善立テルは思った。

 

「く、そ……がッッ」

 

 激痛が節々に起き、自身の歯が割れんばかりに力を込めて身を起す。

 同時に目線の先に据えるは黒の異形。

 

 黒羽を連れて帰る為に迎えに来たその異形を、黒羽本人は父と呼んでいた。

 

「お、お前のパパさんよぉ……人外だったなんて聞いてねェンだけど」

 

 鉄パイプを杖代わりに立つが、それだけで精一杯だ。

 

 

 向こうの異形から仕掛けてきたことで始まったこの戦闘。

 テルはこの黒の異形に挑んでは、全て打ちかえされ、地面に叩きつけられている。

 

 その数、五回。

 

『……』

 

 黒羽が父と呼ぶその黒の異形は、よく見れば見るほど不気味な存在だった。

 人の形をしているが、眼や口は見当たらず、一見すれば全身黒タイツ、ストリートファイターのラスボスとして出てきそうな外見だった。

 

 

「ウォーズマン……むしろ、ヴェノムみてーな―――ッ!?」

 

 直後、テルに向けて迫りくるものがある。黒の異形の腕だ。

 骨も無い軟体動物の如く軌道を惑わせ、高速で迫るソレは、無限軌道の槍。

 

 当たれば死は免れないと悟ったテルが身を捩る。

 だが、避けられないものではない、テルにとってその攻撃は見慣れた物だ。

 

 それは執事服を掠め、だが異形の爪は衣服だけでなく、その下の皮膚もまとめて引き裂いていく。

 

「――ッッ! んなぁろッッ!!」

 

 苦痛に顔を歪めるも、テルは前へと踏み出す。

 地面を蹴り、鉄パイプを構え、異形が伸ばした腕が元の場所に戻る前に決着をつける、その覚悟でテルは駆ける。

 

 

―――とったッッ

 

 相手の腕が戻るよりも早く、距離を縮めたテルが狙うはその異形の頭部。

 袈裟懸けに鉄パイプが振り下ろされ、それがこの戦いの決定打になるであろうと、テルは踏んでいた。

 

 

 そんな淡い期待など、しない方が良かったかもしれないが。

 

 

「―――へ?」

 

 テルの口がまさにへの字になる。 

 振り下ろされた鉄パイプ、撃鉄の軌道は確かに異形の頭部を直撃するものだった。

 

 だが実際はどうだろう。

 鉄パイプは異形の頭部に届く前にその動きを止めてしまっている。

 

 まるでその場に力場が発生しているように、頭部と鉄パイプの間に壁を挟んだかのように、

 どんなにテルが力を込めて鉄パイプを押し込もうにも、強大な力に阻まれてはその一撃は届くことは無い。

 

 黒羽がまだ敵だったころですら明確に目視できる黒の壁や腕を作って防御していたのに、

 この異形は完全にエスパー染みた事を技を披露してくる。

 

 明らかに、この相手は規格外すぎるとテルの口の端が小さく上がる。

 

 

「ば、バリアなんぞ使いやがって―――」

 

 直後、異形の剛腕が振るわれる。

 軟体の如き動きをした腕が、今度は丸太の如く太くなり、空気の壁を突破したような音と同時に拳がテルの顔面を直撃。

 

 

 その威力、はテルに覚えがある。いつだったか、車に撥ねられた時のような衝撃、あれと同じだ。

 

 二転三転して地面を転がるも揺れる視界を頭を振って立ち上がる。

 だが、頭を振ったことで地面にぽたり、と色濃く垂れたのは赤い滴。

 

 鼻の骨が折れ、粘着性を持ったテルの鼻血が溢れてきたのだ。

 

「テル……もういいです! 逃げて!」

 

 今にも泣きそうな、いや、もう泣いているだろう黒羽の声が耳に届く。

 

「うるせーよ」

 

 当然の如く、テルはそれを否定する。

 

「この筋肉マンとかマーベルさんに喧嘩売ってるふざけたデザインのクソ親父、これから叩き潰してやるんだからよ」

 

 だから、

 

「心配すんな」

 

 

――――黒羽を頼むぞ。

 

・・・・・分かってる。

 

 男と男が交わした過去と未来の約束。

 テルはそれを不義にするつもりはない。

 

 全身全霊を。

 それでこそ差し違える程の勢いでテルは駆ける。

 

 

『―――』

 

 対する異形は無言。 

 だが、テルの動きに合わせるように鞭のようにしなる腕と、鋭利な爪が迫る。

 

 

 弾丸の速度など比ではない、先ほどまでより速度を上げた爪の二連撃をテルは躱せない。

 

 

「だったら」

 

 だが、躱す必要はないのだ。

 鉄パイプを肩に担ぎ、前かがみに倒れ込むようにして加速。一直線に目標を目指す。

 

 爪がテルの肩を、脇を通り過ぎていく。

 しかしそれは肉を確実に削ぎ落とし、執事服と共に三千院邸の芝を赤く染め上げる。

 

 それでもテルは止まらない。止まるつもりもない。

 

 彼はいつもそうだった。

 愚直にまっすぐで、ここぞという時ほど捨て身に掛かる。

 

 元々頑丈なのが取り柄でもあるし、幼少で鍛え、車に撥ねられても大丈夫だったという自負心が彼にはある。

 だからこそ、これまで切り抜けてきた難所の数々。

 

 故に、テルにはこれしかないのだ。

 頑丈さと、捨て身と、剣術しか。

 

 10を捨てて、1をもぎ取る。それがテルの戦い方だった。

 

「らぁああああああああっ!!!」

 

 痛みをこらえるのではなく、声に出すようにして振り下ろした鉄パイプが異形の頭部直前で停止する。

 バリバリとスパークが発生するように、せめぎ合いが生じ、その余波はテルの全身へとダメージとなって返ってくる。

 

 

・・・・・もう、一押しッッ

 

 押し通る。否、押し通す。

 力任せに前へと踏み出し、打ち込まれたその一撃がこれまで異形を護っていたであろう空間に変化を来した。

 

 何もない空間に、小さく、亀裂の入る音をテルは確かに聞いた。

 

 

『――!?』

 

 異形の表情は理解できなかったテルだったが、

 今の鉄壁の防御に亀裂が入った事実はここで初めて、異形の焦りを誘うことに成功したことにニヤリと、笑みを浮かべる。

 

 

・・・・・このまま、もう少しでッッ

 

 

 打ち破れる。この堅牢な防御を。

 そう確信し、亀裂が一際大きく広がった所で―――、

 

 

 

 

 

 

 

『さすがは善立……あの男の息子か』

 

 

 

 

 

 それは確かに男の声で発せられた一言であり、

 テルの気を完全に引かせるワードであり、

 

 熱くなっている身体に冷や水を急にぶっかけられるように。

 血の気が引いていくように。

 

秒数にして、1秒と満たないくらいか、

 異形が初めて口にした言葉を問う間もなく。

 

 

 

 テルはいつのまにか、その異形の右腕で胸を貫かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血は鉄の味がするらしい。

 どっかの漫画でそんなセリフがあったな、とテルは思い出す。

 

・・・・・全部イチゴ味だったらよかったのに。

 

 

 口に一杯広がるそれは間違えることも無く、テルの血だ。

 噴水の如く口から溢れ、頬から首筋を掛けて伝い、もう充分血の味は分かったからとと身体に訴えるも、それでも内側から溢れるのが止まらぬ血の濁流にむせ返りながら後ろへと倒れ込む。

 

 

 ぶちゅり、と果物に刺さっていたナイフが抜けるような音に違和感を覚えながらテルは大の字で地面に倒れた。

 

・・・・・あー、ねぇな。

 

 虚ろな視界が空を見上げる。

 震えるような手つきでテルが身体を、刺された胸を探すように手を置くと、ちょうど溝尾あたりだろうか。

 

 

 ない。

 

 

 拳大ほどの大きさで、穿たれたその場所にあったはずの、

 服が、

 皮膚の感触が

 肉の厚みが、、

 骨の硬さが、

 

 存在しない。

 

 

 物理的な喪失感から推測するに、異形の腕はテルの胸を背中を掛けて貫通させていたのだろう。

 抜かれた異形の腕には今もテルの血が滴り、その真下の地面に赤い滴が地面を点で染める。

 

 

 気づけば、テルの顔の真横に黒羽の姿がある。

 先ほどまでの涙は無かったが、眼を見開き、歪な顔で肩を震わせていた。

 

 まるで、見てはいけないモノを見てしまったような。

 

「――――ッッ!!」

 

 

・・・・・なーに言ってんだよう、聞こえねェよ。 あと揺らすな、色々と出ちゃうから、内臓とか。

 

 

 口を開き、こちらに問いかけてくる黒羽の言葉をテルはその耳で解することが出来ない。

 反応がないから、今もこうして彼女はテルを揺らしている。だが、それは逆効果というものだ。

 

 

 黒羽の視線の先はテルの腹部にあった。テル自身には分からないが、見下ろしている黒羽には見えているのだろう。穴の内側、肉の断片が、臓物が。

 

 

 それと同時に、血が止まらない。

 

 

 身体には切られてはいけない血管がいくつかあるらしい。それが見事にヒットしたのだろう。

 

 

 押さえようにもそれが叶わない程に空いた穴から溢れる血。

 芝生のお蔭で分からないが、恐らく自分を浸すくらいの量が流れたのは間違いない。

 

 

 

「―――-ッッ!!」

 

 

・・・・・そんな顔スンナって、お前に何回刺されてると思ってんだ。 これくらい……アレ?

 

 自分の現状に絶望しかけている少女を安心させるべく身体を動かそうとしたテルだったが、動かない。

 

 

 指一本動かすことも叶わない。

 代わりと言わんばかりに、開けっ放しの蛇口のような勢いで血が溢れだす。

 

 テルの心臓のリズムが弱くなるのを感じる。

 瞳も虚ろに、呼吸も小さくなってきた。

 

 

・・・・・死ぬの、え? マジ、で。

 

 朦朧とする意識、確実に迫る死にテルはこれと言って抗う術を持っていなかった。

 

 

 何の為に約束をしたのか。

 俺が死んだら、誰が黒羽を護るのだ。

 

 そんな思考ばかりが、自分を顧みない思考を巡らせるだけで、死の瞬間がその身へ確実に訪れつつある。

 

 

 その最中――、

 

「大丈夫です……私が」

 

 首だけ動かすようにして、僅かに虚ろな視線が黒羽を捉えた。

 

「なんとか、しますから……」

 

 無理して笑っていた。

 決意したような表情で、黒羽はその場を離れると、テルを貫いた異形と向き合う。

 

 

 何か会話をしているようだった。

 

 

 テルは耳もついには遠くなり、小さくなった黒羽たちの言葉を聞くのは難しい。

 暫くして、異形がテル達から背を向けるようにして歩き出す。

 

 何故に、とテルが答えを察する前に。

 

 黒羽も異形を追いかけるようにして歩き出す。

 

 

 そして察する。黒羽がさっき行っていた一連のやり取りは、テルを救うための交渉だったのだと。

 

 

・・・・・バカが!

 

 火事場の馬鹿力か、全身を滾らせるように身体に力が戻る。

 口と胸から赤い血を飛散させながら、絞るような声を出して、

 

「勝手に……いくな」

 

 身を起す。

 

「消えんな」

 

 がくがくと震える足に喝を入れ、

 

「俺の前からいなく、なるんじゃ……ねぇ、よ」

 

 立ち上がる。だが、それが限界だった。

 一歩も踏み出すことが出来ない。

 

 

 前へ、前へといつも進んでいた足が、鉛に巻きつけられたかの如く進むのを拒む。

 ただただ、黒羽とテルの距離だけが開いていく。

 

 

 

 去りゆく黒羽に伸ばしたテルの手が虚しく空を切ったその刹那で、

 

 

「―――ごめんなさい」

 

 

 何か諦めたような、悟ったような表情を浮かべた黒羽の一言を最後に、テルは意識を手放した。

 

 

 




 多分この作品で初めてのグロMax描写になったのかと思います。まだまだ手ぬるいですが。
 今回で『終わりの始まり』編は終了。
 次回、エピローグの一話だけやって、二部終了、そして、晴れて終章のミコノス島編やってきますよー、みたいな感じです。

 黒羽パパは見た目はウォーズマンかヴェノムみたいな感じなので、なんだったらコナンくんの黒タイツで想像してもらっても構いません。

 年内完結いけるのか微妙なところですが、頑張るぞい。
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