ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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悲報、ワルプルギスの廻天、延期


146話〜運命が動き出す音がした〜

怒号、喧騒、銃声、爆発。

 耳にタコができるんじゃないかと思えるくらい響いていたはずなのに、三千院ナギは未だに自身の命を狙うこの惨状に慣れないでいた。

 

 あぁ、またか。と思う。

 

 でも、耳と脳内に刻まれるダメージとかは別のものだ。

 屋外で銃が撃たれようものなら耳に響いてしばらく人の話が聞こえなくなる。

 爆発が近くで起こると、煙で服が汚れるし、結構擦り傷に見舞われる。

 そして、自分の命を狙ってくる殺意の瞳と憎悪に近い男の怒鳴り声というのは幼いナギにとって恐怖を刻まれるのは仕方のないことだった。

 

 いつもは自分を守ってくれているSP達が今はいない。

連れているのは三千院家選りすぐりの屈強な盾。必要であればナギのために命すら差し出して護り通す事もできる。

 

 だけど、いまはその盾は存在しない。すべては自身が独断で外へ出たことによるもの。いま三千院の別荘では執事長のクラウスを含めた使用人達が血相を変えて捜索しているのが目に浮かんだ。

 

 そして今ナギの命を護るのは、普段自分を護衛するSPよりも遥かに小さく、細い身の少年。腕自慢のSPに触れられれば小枝のように折れてしまいそうな細い腕の少年だ。

 

「大丈夫?」

 

 それなのに、なぜだろうか。

 

「あ、ああ・・・・お前の方こそ・・・・・」

 

 さきほどからナギを襲う銃弾爆撃の嵐を少年はナギを庇いながらすり抜けて、あまつさえ爆風や煙の類、細かい飛翔物からも護り続けている。現状、ナギの白いワンピースには傷も汚れも何も見当たらないまさしくダメージゼロであった。

 

「お前、なかなかやるな!」

 

「ふふ、ありがとうございます。執事として、冥利尽きるというものです」

 

 それは賞賛にに価するという言葉の意味。並のSPではハヤテのようにここまで気の回るものはいない。言葉遣い、主人を決して傷つかせないという鋼鉄の意志と鋼のような強さを併せ持つこの少年へ送る三千院ナギからの最大級の賛辞がこのセリフに極まっていることを綾崎ハヤテ本人も知る由もなかっただろう。

 

「一流のレディであれば、お日様のもとで遊ばなければ……これは言うなればデートというものです。お嬢様、どうです?どこか行きたいところはありますか?この綾崎ハヤテがどこまでも、お連れしましょう!」

 

「で、でででデートだ、デートだと!?」

 

 一応、注釈を入れておこう。

 綾崎ハヤテは人の心を先読みする。そして完全無欠な回答を用意する。かの有名な王族の令嬢とかがこんな言葉を聞いたらなら、エスコートの類と間に受けることなく、小さく笑みを浮かべて返すのが本当の一流レディーとしての矜持を保つことができただろう。

 

 しかし、相手は幼き少女。だけど恋愛ゲーやアニメなどのサブカルチャーなどに沼りかけのミーハーお嬢様。そんな彼女に漫画のような告白と情熱的なお誘いというシチュエーションが舞い込んできたのなら、もう動揺など隠せずに入られない。

 

 

「ば、ばかを言うな!そ、そんなこと、簡単に決められるわけないではないか!お、おまえ、お前が決めろ!どこへなりと連れて行くが良い!」

 

 そうですね、とやや困った表情を浮かべた颯は思いついたように言うのだ。

 

「なら、一緒に星を見に行きませんか?」

 

「……星?」

 

「はい。ミコノスの南部のビーチから見る星空は波の音を聞きながら静かに眺めることのできるとっても有名なスポットです。そこに行きましょう」

 

 きっと、とハヤテは付け加えて言う。

 

「素敵な場所ですよ。きっと忘れられないくらい」

 

屈託のない笑顔だった。自分だけでなく、少年自身の命も危険に晒されているこの状況でこんな笑顔ができるだろうか。

 

 

「そうだ。そうだな・・・・うん、行こう。連れて行ってくれ!ハヤテ!」

 

「お任せください、お嬢様」

 

 だが、その笑顔と、自信はナギの信頼を買うには十分であった。見ず知らずの少年に全幅の信頼を三千院ナギは寄せていた。

 ハヤテも、未来の雇い主という手前もあったかもしれないが、彼女が自分を頼ってくれることに最大限の敬意を払った。

 

 

 

 

「過去でも、未来でも・・・・僕が君を護るから!」

 

「ああ、信じてるぞ!」

 

 

 

 

⚪︎

 

 

「ふぃー、つかれたつかれた」

 

 一方で、ハヤテ達とは逆方向で殺し屋達の足止めをしていたテルはまるでひと仕事を終えたように息をついた。彼が居る周辺には崩れ落ちた家屋やバラバラに破壊された武装ヘリの残骸、気を失った殺し屋達が転がっていたのである。

 

 比喩表現ではない、テルは言葉の通りまさにひと仕事を終わらせたのである。戦闘能力に関しては高い方ではあるが、超人とか霊能力者とかいるこの界隈では少し物足りないの現状。しかし、並の殺し屋を撃退することはお茶の子さいさいであった。

 

 

「もう少ししたら騒ぎを聞きつけた警察が来るのも時間の問題だろう。その間に、ハヤテ達と合流させてもらうとするかね」

 

 気絶している殺し屋達は全員大きな傷は無い。不殺の信念によるものだが、この規模は抜刀斎を凌駕したのではないかと思わず頬がニヤリとなる。

 

「さて……」

 

 少しだけ静かになったミコノスの道をテルは歩いていく。歩きながら思うのはテルやハヤテ達がこの過去の時代に呼ばれることになった理由だ。

 

 いくら超常の類が許されるこの世界だけど、流石にタイムスリップは想定外である。伊澄などのガイドがいればなんとかなりそうな展開であったが、生憎彼女は過去とはいえ、今日もシベリアあたりで迷子のはずだ。となれば、解決はテルが導き出す必要がある。

 

(今はナギを守ってるから、これがキッカケでナギが死なずに未来で俺らと出会う辻褄が合うから、これは理由の一つではありそうだな。まぁ、ハヤテに任せておけば、おおよそ上手く行きそうではあるが……ナギを守っていれば未来に帰れたりするのか?そんな都合の良いことある?大雑把すぎない?どこかの ニノクニみたいに批評食らってもテルさん知らないよ?)

 

 気になることはまだいくつかある。

 そして少ない脳の細胞を総動員させてあれこれ考えている内に、テルは開けた場所に出た。海が見える、波止場のようなところだった。

 

 そういえば、ミコノスの海にはヌーディストビーチがあると聞いたことがある。青く澄んだ海面を眺めながら、テルの脳内は既にマリアとヌーディストビーチを走り回る光景を浮かべながら、過去の世界で鼻を伸ばしていた。

 

「ムフフ・・・」

 

 そんな脳内ピンク状態のテルは見る。海を眺めている、たった一人の少女を。

 

 まるでこの世界にいるのが不自然だなと、直感で捉えるこの違和感。

 容姿は幼く、ナギと同じくらいだろうか。そしてとにかく黒が目立つ。

 

 伊澄のように長く艶のある黒髪。

 魔法使いのような神秘的な黒のローブ。

 陶磁器のような白い肌はこの炎天下のミコノスで肌を曝け出していても日焼け跡が一切ない。

 

 バリアでも展開しているのかのような、まるで不思議な力に守られたような、不思議な少女をテルは見つけた。

 

「……不審者ですか?」

 

「失礼なやつだなオイ」

 

 こちらを見るなり、そんなことを開口一番に言う少女を見ていて、テルは違和感をまた感じたのである。

 

 はてさて。

 

 まるでこの少女と、どこかで会ったような気がする。

 とても懐かしくて、大切な事のような気がして。

 

 

 音が聞こえた気がした。

 運命の歯車が、動き出した音が。

 




ハヤテくんがしっちゃかめっちゃしてる間にテラくんが謎の黒髪幼女と出会いました。お前まで過去の世界にフラグ突き刺したくスタイルかよォ!
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