ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
aaa
─そして時は戻り現代へ
「あれから片腕も動きません。この通り、右腕だけでの生活」
よく見ると左腕は今もだらんとしていた。今まで右腕だけ使っていたのは左腕が使えなかったからだ。
「私はその日を境にマユミお嬢様の執事になりました。 といっても執事の知識もなかったため色々と苦労をしましたが・・・・・」
「おお、俺と同じなんだな・・・・・」
「出来が違いますが・・・・」
マリアがボソッと呟く。
「私の勝手なことですが・・・・お嬢様を救い出してもらえないでしょうか」
頭を下げるシュトロハイム。 あのお嬢様思いの執事であるこの執事が頭を下げるとは思いは強いようだ。
「・・・・人の玄関勝手に壊した揚句、うちの執事さらったり、うちのご主人様泣かせておいて良く言うぜ・・・」
「私も最善を尽くしたんです。 ですがもう・・・・」
「勝手なことほざいてんじゃねぇよ」
テルは静かに呟く、先ほどと違う雰囲気を感じたシュトロハイムは頭を上げた。
「マユミの親父が残した願いを簡単に手を尽くしただ、限界だとかであきらめてんじゃねぇぞ。 親父さんの願い、マユミを笑顔にできるのはお前しかいないんじゃねぇのか」
目を細めるテルは背もたれにかかり、そのまま続ける。
「そいつは俺でもハヤテでもできやしねぇ・・・・お前が今そいつの側に居てやんなくてどうする?」
そう言うと、テルは急に立ち上がりシュトロハイムに背を向ける。
「ま、俺には関係ねぇわけだけど? とりあえず馬鹿ハヤテを連れ戻さなきゃなんねぇからな。お前のお嬢様はお前がなんとかするこった」
頭を掻きながら扉を開ける。 樫の扉が閉まるとその場にいたマリアが口を開いた。
「バカはどちらかというとあの子なんですがねぇ・・・・」
「はぁ・・・・」
シュトロハイムは頷く。
「普段からちゃらんぽらんで起きてくる時間なんてお昼だったりするんですけど・・・・」
(それは執事としてどうなんだろうか)
と直感的に思ったシュトロハイムだが敢えて口には出さない。
「でも・・・・やる時はやる子だったりするんですよ♪」
マリアがそう思ったのは今までやってきた結果からの期待。 仮にだが、彼は絶望的な頭脳を持ちながら白皇の試験に合格しているのだ。 なぜか携わったあの行動力。 何をしでかすか全くわからないが、一応期待はしてしまうのだ。
(私が今しなければならないこと・・・・)
シュトロハイムは再び思う。 今自分がしなければならないこと時間が関係を解消してくれるの待つのか、ましてや人に頼るなど以ての外。
シュトロハイムもまた立ち上がった。
「ん? どうしたタマ?」
廊下を歩いていたテルはナギの部屋の前にいた白い生物、タマを見つけた。
「そうかそうか、お前も主人が心配なんだな・・・・」
テルは噛まれないように静かに近づく。 こんなに獰猛な生き物であるが主を想う事ができる優しいペットだとテルは感じていた。
が、その瞬間。
「気安く話かけんじゃねーよ借金野郎」
ふと声が聞こえた。 奴の、タマの口から。
「お前みたいな奴が俺に話し掛けるなんざ百年早ぇーんだよ」
「…………」
テルは目をパチパチさせた。 全国何万人が『虎は喋るか?』というテストを出しても全員がNOと答える。
だがそこに居る虎は喋っていた。
「待たせたなお嬢。 あの借金執事に泣かされたってな、俺が付いてる─」
「フオオオァア!」
「ぐおっ!?」
テルは気付けばタマに跳び蹴りを放っていた。己の幻想、『虎は喋らない』という森羅万象の掟を守るため。
「ありえないあり得ないアリエナイ。いやいや、アリエナイ」
「いてーな。 お前調子乗ってんじゃねーぞ」
タマは頭部をさすりながら体を起こす。
「そうかオレが喋れるのは初耳か? だったらお嬢達にはあんま喋んなよ。 俺の支持率低下になるからな」
「無理だ。 今の日本の政治並みの支持率の低さだからどうすることもできん」
更にテルを驚かせたかったのか目の前のタマは二足歩行になった。
「この小説のマスコット的な能力に惹かれちったか? いずれ俺はfi○maで爆発的な人気を生み出すだろうよ」
タマはどこからともなく薔薇を取り出して口に加えた。 ちなみにfi○maは『よく動く、キレイ』で有名だ。
「いやいや、『よく動く、キモイ』の部類だな」
「俺をどこぞの球団のコアラと一緒にすんじゃねぇ!……っとそれよりもだ」
タマはナギの部屋の取っ手に手をかけて開けようとした。
「悲しみに沈んでいるお嬢を救えるのは俺しかいねーからな」
器用にドアノブを回し、開けて、部屋に入る。
「お嬢……アレ?」
中を見るとナギの姿が見当たらなかった。 どこかに行ってるのかと思っていたテルだが
(まさかあいつ……)
「テル君、どうしたんですか?」
テルが考えているとマリアとシュトロハイムがやって来た。
「マリアさん、ナギが居ないんです!」
「やはりですか……」
「やはり?」
分かっていたかのようなマリアの台詞にテルは反応する。
「先程SPからの連絡でナギか一人で出掛けたと言う報告を受けました」
「いつも思うんですけど、三千院家のSPは何やってるんですか? こうもナギの外出を許すとは……」
「今屋敷のSPはケガ人が多いですから、ナギの行動を把握するのは難しいかと……」
「まぁ誰がやったかは分かるけど……」
テルがシュトロハイムを見るとゴホンと咳をしていた。
「取り敢えずテル君はナギを追っかけてください。 多分ナギは日野寺家の屋敷に行ったと思いますから……」
「アイツ無計画にも程がある……」
「ですので、地図を渡しておきますので宜しくお願いしますよ?」
マリアは手の紙切れをテルの手に押し付けるように渡した。
「……分かりました。 後マリアさん、一つ聞いていいですか?」
「何でしょう?」
マリアは神妙な趣で聞くテルの質問を聞いた。
「喋る虎っていると思います?」
「………」
マリアは一度、テルの額に手を当てて少しだけ残念そうな顔をした。
「ナギを追いかける前に病院に行く事をお勧めします」
「いや! ちょっ! そんなミジンコを見るような目で見ないで下さい!」
テルが慌てているその横で不敵な笑みをタマは浮かべていた。
「誤解ですから! 決して頭やっちゃったりはしてませんから!」
「じゃあ私は健闘を祈ってますんで……頭の」
「いや、体を気遣うのは分かりますけどピンポイントに頭とか言わないで下さい!」
テルが必死に弁解するがマリアは聞く耳を持たずといった感じで去って行った。
「なんてこった……俺は遂にマリアさんに『頭やっちゃった』のレッテルを貼らされてしまった……」
床に手と膝を着け、沈んでいると目の前にはシュトロハイムが。
「テル殿、何をしているのですか? 沈んでいる場合ではありませんぞ」
「お前までなんの用でい」
スッと立ち上がるとテルはシュトロハイムに聞いた。
「いえいえ、こんな所で時間を食っている暇はないかと。 早くナギお嬢様の所へ行って下さい。 私も後で行きますので……」
先程とは違う雰囲気を感じたテルは首を傾げる。
「俺に任せるんじゃなかったのかい」
「アナタみたいな人に任せていてはこのシュトロハイム一生の恥。 何よりは私はマユミお嬢様の執事ですから」
ニカッと笑うシュトロハイムはまた何か決意したような瞳をしていた。
それを見たテルは頭を掻きながら背を向け、歩き出す。
「随分な言われようだな、やれやれだぜ……」
「時にテル殿、綾崎
ハヤテに勝つ算段はありますか?」
勝手にしろと言わんばかりに、テルは去ろうとした時に不意にシュトロハイムに呼び止められる。
「……ねぇよ」
答えは単純、NOだ。 頑丈さなら張り合えるが殴り合いはアッチの方が上と言っていい。 今回の最大の敵、綾崎 ハヤテをどうするか。
「でしょうな……ですが真っ向なやり方は避けるべきです」
「と言うと?」
テルが聞くとシュトロハイムは人差し指を立てた。
「あのアンテナをどうにかしましょう。 あのアンテナがハヤテ殿を操っているのは分かっているでしょう……」
「やっぱりそうかよ……」
テルは溜め息をつく。
「アレは脳に電波を送り、人間の体を司る部位の脳を操ります。 アンテナをどうにかしなければ勝機はないでしょう」
「じゃあそのアンテナをぶっ壊せばいいんだな?」
「違います」
「違うのかよ!」
テルがずっこけるがシュトロハイムは続ける。
「電波を当てられた人間はアンテナが無くなっても頭に残った電波があれば体を操る事は可能なのです」
「ホワッツ?」
訳が分からんという顔をするテル。シュトロハイムは軽く溜め息をつき
「分かりやすく言うと、私がハヤテ殿にやられた後にすぐ立ち上がって動く事ができました。 あの時私は確実に気絶しています。 しかし電波があったから動けたのです。 無意識で」
「なるほど」と、漸く分かった顔のテル。
「じゃあどうすればハヤテは意識を取り戻せる?」
「それは……分からないのです」
「お前……殴っていいか?」
テルは額に青筋を浮かべるのを見たシュトロハイムは慌てて咳払い。
「あ、あれはマユミお嬢様が一人で作られた物です。 私がアンテナについて知っている訳がないでしょう!」
「じゃあどうすんだ? あのアンテナどうにかしなきゃハヤテは元に戻らないんだろ?」
それを聞くとシュトロハイムは自身の髭を摘んだ。
「実はあのアンテナは不完全なのです。 これは私が屋敷にまだ居た時の話ですが……」
「ふむふむ……」
シュトロハイムから語られる言葉をテルは黙って聞いた。 今は少しでも情報が欲しい。 ハヤテを助ける事ができる情報が
全て聞き終えると、テルは屋敷を自転車で飛び出してナギを追いかけた。
夜の闇が……
街を覆っていく。
全ての闇を……
覆い隠すように……
だから………
「ここはどこだ?」
とても迷子になりやすい。
「あのマユミとかいう奴の所へ行くにはどうすればよいのだ?」
暗い夜道、ナギは一人日野寺家目指して歩いていた。 が、道が分からないため当然迷子に……
「うぅ……さぶっ!」
華奢な体に凍てつく風が当てられる。 まだまだ季節的には冬みたいなものだった。
「……熱いおでんが食べたい」
この寒さを打ち消す事ができるのは奴しかいないと思ったナギ。 ちょうどお腹も減ってきた。
しかし周りにはおでんの屋台も無ければ財布も無い。
「このままでは凍え死んでしまうのだ! くそう、ハヤテの奴め! 私以外の女にホイホイついていきおって!」
不機嫌な表情を浮かべながらそこにあった缶を蹴る。
甲高い音を立てながらアルミ缶はコロコロと転がった。
「まったく、ハヤテはまったく! 私を置いて遠くに行きおって!」
さっきから怒ってばっかりの理由はマユミだ。 ハヤテの事を考えると高笑いをしながら自身を見下ろしているマユミの姿が頭にチラつく。
「オ~ホッホッホ!」
「ガアアアアッ!」
「何一人で叫んでんのお前?」
不意に後ろから声が掛けられた。 気づいて振り向くと自転車に乗り、一人熱いちくわを食べているテルがいた。
「なんだお前か」
「なんだとはなんだ。 お前探すのに苦労したんだぞ」
「ちくわ食いながらか?」
「いんや、こんにゃくとか、はんぺんとか食ってた」
「真面目に探す気あんのかお前……」
ナギは溜め息混じりに呟くと歩き始めた。
「コラ、待て」
ガシッとナギの頭を掴み、動きが止まった。
「離せバカテル」
「バカはお前だ。 場所も聞かずに一人で出るとは……浅はかなり」
「うるさいぞ」
顔をしかめてテルを睨みつける。
「仕方がないではないか……ハヤテはいないし、頼れる執事はいないし」
「俺は頼れる執事の内に入っていないのね……」
テルは頭をガクッと下げた。
「それに不安なのだ……このままハヤテが私のことなど忘れて遠くに行ってしまうことが……」
テルは表情を見た。 暗く沈んだ顔。 空の星眺めて気を紛らわせていたのが分かった。
「実はな……いい情報がある」
「なんだ?」
テルの言葉にナギが視線をもどす。
「実はな……」
「ハヤテ、ハヤテはいるかしら……」
「はい、お嬢様」
ここはマユミの屋敷、部屋にはマユミとハヤテがいた。
辺りには無数の本棚。 机の上にも無数の本。 医療に力を入れる日野寺家、周りは全て医学に関する本ばかりだ。
「ハヤテ、私の名前は分かるかしら」
自身の意の傀儡と化したハヤテを見据える。 ハヤテは口を開いた。
「……ナギお嬢様でございます」
「!!」
ハヤテの至極当然のような答えにマユミは歯軋りした。
「もう下がっていいわよ……」
ハヤテは言われた通りに部屋から出て行った。
「よほど忠誠心が強いのね。 前の主人が忘れられないのかしら……」
一人部屋に残ったマユミは忌々しげに呟く。
「やっぱり忌々しいわ、三千院ナギ……」
(私の名前をしっかりと呼んでくれるのあの人しかいないのかしら……)
そう呟くマユミの手には一枚のコインが握られていた。
「シュトロハイムの話によれば、ハヤテは一度もマユミの名前を呼ばないでお前の名前を呼び続けているらしい……」
「そんな、なんで……」
テルの言葉にナギは驚いていた。
「忘れるわけねぇだろ。 一緒にいた時間は短くてもその間にあるデケェ絆は、例え操られようが断ち切れやしねぇんだよ」
ナギは思い出す。 短い期間でも自分とハヤテが築いていた絆は固いと。ハヤテが信じているなら自分も信じなければならない。 そして何より
(私にメロメロなハヤテが忘れる訳がないからな!!)
「まぁそんな所だな。 と言うわけで早く乗れ」
テルは自身の自転車を指差した。
「お前まで付いて来るつもりか?」
ナギはムスッとしながら言う。
「大事なモン取り返しに行くんだろ? そのためだったら俺ァ何だってするぜ? 主殿」
何故だろうかその言葉から感じられた物は安心感だけでなく頼もしさを感じる。
「だから俺を信じろや。 変な事は考えんなよ」
「分かった。 信じてやる……だがその前に」
ナギはテルの持っている物を指差した。
「おでんをよこせ! 腹が減っては戦は出来ぬぅ!」
ナギはテルからこんにゃくやらちくわを貰い食べきると、自転車の後ろに乗った。
「さぁ行くぞ!」
「へいへい……捕まってろよ! ラ○ディングデ○エル・アクラレーション!」
自転車のペダルに力を込め、壊れんばかりに漕ぎ出した。
「んでもって、着いた訳だが……」
ナギが見つめる視線の先には巨大な門だ。 黒い檻のような門の前には黒服二人が立っている。
「打開策はあるかテル?」
ガサガサ
「え? なに?」
ナギが視線を移すとダンボールを被ろうとしているテルがいた。
「馬鹿かお前はァァァ!」
「ぐへっ!」
ナギはテルの頭に拳を振り下ろす。
「なにすんだよ! この作戦が信じられれねぇのか?」
「目の前に移動するダンボールがあったら誰だって不自然に思うだろうが! 信じられるものにも限界がある!」
「お前、ダンボールの有用性をなめんなよ? 俺はこのダンボールで白皇に侵入できたんだからな!」
「なる程、だから不審者扱いされたのか……」
頭に手を当てて溜め息をついているナギをよそにテルはさらに大きなダンボールを出した。
「今回は俺とお前が入っても大丈夫なよう、スーパーLサイズを持ってきた」
「……どっから?」
目の前に出されたダンボールは確かに二人が余裕で入れる大きさだ。
しかし、この大きさは逆に不自然。
「よし、じゃあ行くぞ」
「は? マジで言ってんのか!?」
「つべこべ言わず被れ」
テルは半ば強引に自身とナギにダンボールを被せた。
「うわあああ! 暗い!暗い!」
突如ナギが叫びながらテルの執事服を掴んだ。
「お、おい大丈夫かよ……」
「暗いのはダメなのだ! どうしてもダメなのだ!」
そう答えるナギは本当に怯えているようで暗いから表情は分からないがブルブルと震えていた。
「ああ、悪い」
と直ぐにダンボールを持ち上げる。 案の定、ナギは涙目だった。
「まさか暗いのが苦手とは……意外だな」
「誰が暗いのが苦手だと言った?」
「いや自分で言ってたじゃん」
ここで強がっていても意味がないがナギは涙目で強がってみせる。 なにがあったかは聞かないでおこう。
「しかし参ったな……これじゃ中に入れん」
こりゃ参ったと言わんばかりに頭を掻く。 それを見ていたナギは考えていた。
(私が我慢すればいいのか……)
そうしなければハヤテを助け出す事はできない。 そう思ったナギは決心した。
「テル、さっきの作戦で行ってくれ」
「けどお前、暗いのは苦手なんじゃあ……」
「だが私が我慢すればいいのだ。 そうしなければハヤテを助ける事はできない」
「無茶しなくてもいいんだぞ?」
「くどい……私がやると言ったらやるのだ」
ナギの目はつり上がってテルを睨んでいた。 テルは仕方ないといった感じで溜め息をついて了承した。
「んじゃ、いくぞ」
「う、うむ……」
流石に暗闇が苦手すぎた為、ナギは目を瞑りながらテルの手を握ってダンボールの中にいることにした。
ダンボールはテクテクと歩き、徐々に門に近付いていく。
例え怪しがれても
「なんだ?」
「「………」」
ピタリと動きを止めて静かにすれば
「なんだ、ただのダンボールか……」
と奇跡のスルースキルで流せた。
(すごい、上手くいっているようだな)
目を瞑っているため実感はなかったが前に進めている事が分かった。
(早く、ハヤテをたすけねば!)
想いの強さに足が早足になる。 テルはバランスを崩し
「お、お前押すな押すな!」
「うわっ!?」
ダンボールはゴロンと転がった拍子に取れてしまった。
「誰だ!」
門番の男が気付き、テルとナギの姿が完璧にバレてしまった。
「ま、マズいぞ……」
ナギの言った通り、事態は最悪だ。 ここで人を呼ばれればそく捕まってしまう。
「何者だ? 怪しい奴だな……」
男が不審な人物を見るような目でテル達を見る。
テルはスクッと立ち上がった。
「いや~僕達、今日ピザの注文されたんですけど」
(お前それには無理があるだろうがァァァ!)
心の中でのみ、ナギは激しく突っ込んだ。
見た感じ執事服の人間をピザの宅配に見たてれるだろうか。
「いや、嘘をつくなよ。 ピザ持ってないじゃん。 ピザ屋ならピザ出しなよ」
案の定、無理だった。
「仕方ねぇな……ほらよ」
と手のひらにはいつの間にかピザが二枚あった。
(だからどっから出した!)
ナギはまたしても突っ込む。 男達は驚いたがピザを見て眉をひそめる。
「イヤ、明らかに不味そうなんだけど、ピザが紫になるって何? 紅芋でも使ったの? 人殺せるだろコレ?」
「ああ、殺せるぜ? 死ぬほどの極上の味だ」
「イヤイヤ、ないない」
「取り敢えずここを通す訳にはいかんな」
と二人が門に完全に立ちはだかる。
「だったら……」
とテルは思いっきりピザを構え
「とくと味わいやがれェェェ!!」
男の顔にぶちまけた。 その瞬間、ジュウウウという音がしながら男達は卒倒する。
遂には動かなくなった。
「おお、あまりの美味さに気絶したか……」
「いや、どう見ても変だろ! 明らかに泡吹いてるだろ!?」
「それはあまりの美味さに体が悲鳴をあげてんだよ……ほれ、行くぞ」
「いいのかこれで……」
二人は倒れている見張りを後目に屋敷の扉に辿り着いた。
「さ~て、こっからが本番だぞ」
「この中にハヤテが……」
ナギは自身よりも明らかに大きな扉を見つめる。
「いいか、中に入っても勝手な行動をするなよ? 初めて来る所は迷子になりやすいからな」
「お前は引率の先生か!?」
ナギは突っ込みを入れると扉を開けて中へと侵入。
「アリ?」
中で待っていたのは黒服の集団。
「見事にお出迎えされてるぞ……」
ナギは辺りを見渡して状況を確認する。
すると奥にはマユミとハヤテがいた。
「待っていたわよ三千院ナギ。 あなた達の動きは監視カメラで見させてもらったわよ」
マユミは滑稽なものを見るように笑って見せた。
「やはりバレてたか……」
「当然でしょ?」
ナギに対してマユミは笑って返す。
「……油断したぜ」
横では苦い顔しているテルがいた。
「くそっ! さ…さすが日野寺家だぜ! よくぞ俺の変装をみやぶったな!」
「マヌケッ! 一目で分かるわよ! 客観的に自分を見れないのかしら?」
「あ゛あ゛ぁ! なんだコラァ! チビがいきがってんじゃねーぞゴラァァァ!」
「ふぅ、ホントに執事なのかしら……」
マユミはテルを見ながら溜め息をついた。
「おい、ハヤテを返してもらうぞ!!」
ナギがマユミを指差して見る。
「ええ返してやるわよ。 私に勝ったらね?」
薄く笑うとマユミは男達を下がらせた。
「付いてきなさい。 決着はそこでつけましょう……」
(三千院ナギから敗北を認めさせなければハヤテは私の物にならないわ)
マユミはハヤテと共に部屋の奥へと消えていった。
「ま、待て!」
ナギはそれを追いかけて中へテルもナギに続いて中へ行く。
「なに企んでやがる……」
そこからはひたすら階段を下に降りていった。 周りには沢山のロウソクが灯されており、完全とは言えないが明るかった。
そして最初にナギが階段を下りきって到着。
「ぬわっ! 暗い!」
そこはロウソクやライトも何もなく、先が見えないほど真っ暗だった。
思わずナギは頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
「うわ、なんだコリャ……」
やっと着いたのはテル。 同じようにあまりの暗さに驚いた。
「早くこんか馬鹿者─ッ!」
「ぶふっ!」
ナギは取り敢えず声のするほうに適当に頭突きを決める。 テルの声が聞こえたと言うことは直撃したようだ。
そして体が地に着く。 テルは不思議な感触を手に感じた。
「ん……砂?」
手にあるそれは形は分からないがサラサラしている事が分かった。
そしてテルが辺りを探っている時、突然光に包まれた。
上からは無数の照明が照らしている。 よく見ると辺りは砂に埋もれており、その砂場から何かが逃げ出さないよう木の塀で囲まれている。
「これは昔の党首が趣味で作った闘技場よ」
向かいの方にいるのはマユミとハヤテだ。
「闘技場?」
暗くなくなった事でナギは復活したのか、マユミを睨みつけるように聞く。
「そうよ。 ここでは数多くの格闘家達(グラップラー)が血と汗、涙を流した場所なの」
「オイ、まんまバキじゃん……」
テルが突っ込んだがマユミは無視。
「貴方には私の執事、ハヤテと戦って貰いましょう。 勝てば私の負けでハヤテをあなたに返すわ」
「なんだと?」
ナギに突きつけられたのはテルとハヤテが戦ってテルが勝利すること。
「あら怖じ気付いたのかしら?」
「ムッ!」
と挑発してくるマユミにナギは簡単に乗ってしまった。
「テル、いけ」
「お前、俺を殺す気か?」
「このままでは私がする前から負けを認めた事になる。 安心しろ、私の思い描いた勝利の方程式は出来上がっている」
「俺は既に蹴り飛ばされる方程式なら出来上がってるけど?」
やる前からこう断言してしまうのは無理はない。
相手はシュトロハイムを倒したハヤテだ。 だがナギは気にする素振りも見せず
「お前は実は戦闘民族だろ? 三回ぐらい変身できるから」
ナギは疑うことのない瞳でテルを見つめた。 テルは横に手を振る。
「いやいや、俺地球人だから。 ギャグでもそんな設定ないって」
それを聞き少しナギは黙ると一言。
「お前はなんだ! なんの為のオリキャラだ!」
「身も蓋もないことをいうな。 オリキャラ補正にたよるんじゃねぇ」
「そろそろ始めたいんだけど……」
二人が言い争いしているとマユミが苛立ちを見せていた。
(ん?あれは……)
テルが一瞬だけ見た物。 何か四角い箱のような物だ。
(アンテナを起動するためのリモコンか?)
テルは考える。 今できる最善の方法を。 やたら賭けに近いがこれにヤマを張ってみるしかない。
(ナギ耳貸せ……)
(な、なんだ?)
ナギは突然耳打ちしてきたテルに戸惑ったがテルは続ける。
(さっきマユミが明らかに怪しいのを持ってた。 四角い箱だ)
(箱? )
(ああ、多分リモコンかなんかの類だろ? アレなんとか奪ってこい)
(アレをどうにかすればハヤテは元に戻るのか?)
(確証はないがやってみる価値はある。 正直ハヤテとまともにやり合ったら命がゴキブリ並みにあっても足りねぇ)
(……分かった。 あの四角い箱だな)
一瞬だけナギにも箱が目に入る。 形は把握した。
(任せたぜ……)
テルはそう言うとナギの頭に手をポンと置いてハヤテと向き合った。
「ようやく準備ができたようね……ハヤテ、いきっ! ……行きなさい」
一度噛むとマユミは静かにハヤテに命じた。 それを聞き、ハヤテはテルと向き合った。
二人の執事は対峙する。周りは不気味な程に静まり返っていた。
「ハヤテ、俺達はいつかこうなると思ってたんだ……」
「………」
テルの言葉にもハヤテは全く反応しない。 マユミは目を細め、高らかに言い放った。
「ハヤテ、そのテルという執事を始末しなさい!」
ゆっくりとハヤテが動き出す。 操られた人形のような動きは真っ直ぐとテルの方へ
「さーてかかってこいよ」
(ま、俺は明らかに時間稼ぎだけどな……ナギ、ハヤテ、お前らの絆は簡単に壊させやしねぇ……)
テルもまたゆっくりとハヤテに近づく。 強き意志を持った瞳はマユミに向けられていた。
例え命燃え尽きようとも、その身が砕け散ろうとも、その身を賭けて、善立 テル、推して参る!