ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
「僕は…君が欲しいんだ(人質として)」
ナギとハヤテが運命的な出会いをしたクリスマス・イブの…出会いから1ヶ月ッ!
第22話~RAGING WAVES~
「ふむ…思ったより小さいな」
ここは東京湾。 車から降りたナギは一目見たソレに対して想像とは違ったと言った表情をする。
「………」
「………」
「あら? どうしました? ハヤテ君、テル君」
ナギの隣でハヤテとテルが逆に呆気に取られていた。
鞄片手にマリアはこれと言ったリアクションをする事なく、ナギと共に歩き出す。
「あの……これ本当に咲夜さんのモノなんですか?」
「ああ」
ナギが至極当然のように答えた。
テルは目の前に存在する巨大な物体を見上げて呟く。
「船……デカくね?」
ボーーッ
と海に浮かんでいる鉄の塊は海に似合うかのように陽気な汽笛を鳴らす。
「コレ、なんてタ〇タニック号?」
「どこかで見たことあるデザインのクルーザーですね……」
「いや、クルーザーのレベル越えてない? 世界一周ができそうな大きさを持ってる船をクルーザーで済ますのかお前は……」
もはや驚くばかりだろう。 ハヤテやテルの言うとおり、そのクルーザーはどこからどう見ても某映画に出てくる沈む船と形が一致していた。
「つーか咲夜って誰だよ」
「この船の所有者だ。 私の幼なじみでもある……ほら、お前等もさっさと乗り込むぞ」
テルの言葉に短く答えて、ナギは船へと乗り込んでいく。 その途中でハヤテが口を開いた。
「でも、お嬢様、なんでいきなり船旅なんですか?」
「へ? いや…その…」
何故だか理由を探すかのようなナギ。その場は適当な理由で凌いだが、本当の理由はコレだ。
――実は1日前。
皆さんは知っての通り、お嬢様のナギは執事のハヤテに恋をしている。
しかし、最近ハヤテが他の女になびくという事を危惧して、彼との恋愛に悩んでいた。
そんなナギにも打開策が見つかった。 それは自分の書いた漫画。
ナギの書いた漫画は一般人には到底理解し難い、多分理解すると相当ズレている証拠と言われる内容だ。 ナギが刮目したのは書いていた時の主人公キャラとその先輩。
専ら恋愛ものだが先輩のクールな性格が主人公キャラがときめいている。
「なるほど……」
ナギは書いていたノートを戻した。
(恋愛に必要なのはコレ……つれない態度か!!)
ナギに取って理に叶った要素だ。
(確かに恋愛は追いかけるより…追いかけさせた方が勝ちという…)
十三歳がこんな知識を知っていても生かせるかというのが疑問だが、それ以前にハヤテはナギの事を恋人として認識してはいない。
悪意の無いアウトオブ眼中なのだ。
ナギはコレを知らない。
そんな事を知らず知らず、ナギは『つれない態度』を生かした作戦を考えた。
こう見えて天才なのですぐ思いつくが、恋愛に関しては知識だけの素人だ。
取り敢えずハヤテがナギを頼ってしまうシチュエーションを用意するように考えた結果……
「うわ―――!! スゴい――イ!!」
太平洋を突き進む船上でハヤテが喜んでいた。
「クルーザーって初めて乗りましたけど…意外と速いんですね!!」
(予想通り初めてのクルーザーにテンション上がりまくりだな、ハヤテ……計画通りだ!!)
子供のようにはしゃぐハヤテを見て、自分の描いた脚本通り事が運んでいる事に笑みを浮かべるナギ。
「テルさん!! 見て下さいよ!! カモメが優雅に飛んでいますよ!!」
「オイオイ、こんなんではしゃいんでんじゃねーよ。 小学生かコノヤロー」
船の手すりに前からもたれるように、テルは遠くを眺めている。
「大体な、そうやって船の上でテンション高い奴に限って後半でずっとビニール袋片手に横になるんだよ」
「でも、貴重な経験ですよ? 気分が高まらない訳ないじゃないですか!!」
どこまでも気分上昇のハヤテは修学旅行の小学生のようだ。
ナギはどのタイミングで作戦を実行するか見計らっていた。
「お嬢さま、お嬢さま! あっちには何があるんですか!?」
(ここだ―――ッ!!)
まるで今がその時だと言わんばかりのタイミング。
(今回の私は一味違うぞ! ドアを押してもダメなら引いてみろという逆転の発想に基づいた作戦を見せてやる!!)
「知らん。 いちいち私に聞くな」
ナギはぷいっと素っ気なく返した。 どうだと言わんばかりに口元に笑みが浮かぶ。
だが予想とは打って変わって……
「あ…す、すいません……」
ナギが振り返るとハヤテがしゅんとした表情でナギを見つめていた。
(ば! ばかもの!! そんな捨てられた小犬のみたいな顔を……)
このままでは自分が悪いみたいだとナギはちょっとした罪悪感を覚えた。
「と…!! 取り敢えず私はあっちでコーヒーでも飲んでいる!! 船の中を見て回りたいなら一人で回れ!!」
一応、突き放す事に違和感を感じたか、ナギはそう言い残してその場を去った。
「また何かあったんですかね?」
「さぁ、いつもの事じゃないですか?でもなんか落ち込んでますし……」
テルとマリアが一人ショボンとしたハヤテを見てあれやこれやと考察をする。やがてテルが仕方ないと言った感じで口を開いた。
「んじゃ、フォローは入れてやりますかね……」
「大丈夫なんですか?」
マリアは冷静だが不安の色は隠せない。
だがテルは不適に笑って見せた。
「ま、見ててくださいよ。手はありますから」
マリアは苦笑いを浮かべながらもテルに任せて二人を見守った。
「…………」
立ち去ったナギを見てハヤテはテルの隣に着くように手すりにもたれかかった。
「どうしたよ? ブルー入ってんじゃん?ひょっとしてまださっきのこと引きずってんの?」
どんよりしたハヤテにテルは陽気な感じで話かける。
「僕、またなにかお嬢さまの気にさわるような事を………」
「あんま気にしないほうがいいっつーの、元々あんな奴だったじゃん。 あいつお前だけじゃなく、庶務課のレジ夫もチンしてんだよ」
「レジ夫って誰でしょうか? オフィスのOL同士による昼休みの会話の男バージョンですか?」
マリアがその光景を見て、静かに突っ込む。
「あいつもあんな奴だからお前も好きなようにするしかないじゃん……所詮は主従の関係だぜ、俺たちは……」
「エラく込み入った話になってるんですけど」
「甘ったれてんじゃないよォォォ!!」
「ぶっ!!」
次の瞬間、ハヤテにグーパンチが炸裂した。
「負けんなァ!! 強くなりなァァァ!! 東京に…自分に負けんなァァァ!!」
「…………」
テルの一撃にハヤテは気絶した。
「手は尽くしましたが修復不可能でした……」
「完全にフォロー出来てませんよね!? 気絶させる必要なんてありませんよね!?」
マリアも猛然と突っ込む。
「しかしホントどうしたんでしょうね。ウチのお嬢は……」
「まぁ、10月は改編期ですから納得いかない最終回でもあったんじゃないですか?」
「いや、リアルには今10月ですけど、作中は一月なんで……」
*これを投稿したときは実は十月だったんです。
〇
「しかしまぁサク、なかなか作りこんだ船だな」
汽笛が海空に響く。 ナギは船の上で豪華に設置されたテーブルの上でティータイムだ。
ナギの目の前でコーヒーを飲んでいるのは短髪に左の髪にヘアバンドをつけた少女。
「ああさよか。 そら良かったの~」
関西弁を使うサクと呼ばれる少女は不機嫌な表情でコーヒーを口につける。
(………)
ナギはそんな様子を見てか一言。
「別にお前が冷たい態度をとっても私はお前に惚れたりせんぞ?」
「なんの話やぁぁぁ!!」
少女は立ち上がって怒り気味に突っ込んで見せた。
「さすがだな、本場関西のツッコミは衰えず」
「まったく……愛沢咲夜をナメるなちゅう話や……しかしやな……」
咲夜はそう呟くと高らかに叫んだ。
「なんでウチがこんなに遅く登場してんのやあああ!!」
「ザコキャラだからじゃないのか?」
「なんやとぉおお!!」
怒り気味の咲夜はドカッと椅子に座り込んで続ける。
「可笑しい話やと思わんか? なんでウチを最初の方で登場させなかったんや! 幼なじみの中でもウチが最後やと? ウチを生かすギャグパートならいくらでもあったやろォォォ!!」
(うるさいなホントに……)
ナギは咲夜の叫びを聞きながらそう心で呟いていた。
「あ―イラついたらブラックじゃ足りんかってん、巻田、国枝、アールグレイ持って来てな」
「はいよ」
ゴト。 とテーブルに一杯のカップが置かれた。
「おおきにな……ん?」
咲夜が自分の執事の顔をみて一瞬顔を歪めた。 咲夜の知っている顔の執事ではなかったのだ。
「あんた誰やねんッ!!」
「ぐはっ!!」
咲夜はどこから取り出したか分からないハリソンで相手の頭を叩いた。
パシーン!と甲高い音が響く。
「あぁサク、紹介が遅れたな。 コイツがハヤテ以外にウチで働いている執事、善立 テルだ」
「へ? コイツが?」
咲夜が驚いた顔でテルを見る。
「こんな死んだ魚の目した奴がか?」
「あんだとゴラァ!!」
テルは今にも食ってかかりそうな勢いだ。
後ろでは執事の巻田と国枝が日本刀を構えようとしている。
「変わった執事やな。 だがウチは笑いが取れなきゃ意味がないで?」
「ほう、そうかそうか……ならそのコーヒーを飲んで貰おうか」
「なんやねん、コーヒーで笑いが取れるかって……あん?」
「うわ、なんだコレ……」
ナギもカップの中をのぞき込んで嫌な顔をする。
カップのアールグレイは何故か異臭を放つ鼠色の液体だ。
「なんなんや…コレ」
「ふっふっふ……セメントだ」
バリィィィン!
「ブルアアアアッ!」
カップが割れる音と共にテルは床を転がった。 咲夜はセメント入りカップをテルに思いっきり投げつけたのだ。
「なんつーもん飲ましとんのや! ウチが頼んだのはアールグレイやっちゅうねん! グレイやからか!? グレイやからか!!」
「さすが本場関西のツッコミ……威力ともに半端じゃない……」
「今ので笑いが生まれるのかテル?」
「さぁな、全国の斎藤さんは笑ったと思うぞ」
ナギが静かにコーヒーを飲みながら言うとテルは腕を組ながら答えた。
「斎藤!? 斎藤って誰やねん!? なんでピンポイントな奴しか笑い取れへんのや!!」
咲夜はまたしてもハリセンを振り回す。テルはそのツッコミ力には感心したようで
「素晴らしいツッコミ力だ。 銀〇でなら新〇に負けず劣らずのツッコミになれるはずだ」
「誰があんな地味なキャラになるかァァァ!!」
悪魔で自分はツッコミだと、新〇のようにまでキャラが薄くなるのは御免と言い張る咲夜。
「しかし、ウチにツッコミさせる技量はあるってことやな……」
「単にコイツが馬鹿なだけだ……」
ナギがボソッと一人呟いた。
その呟きのすぐ、ナギは咲夜に尋ねる。
「ところで一応伊澄も読んだと思うんだが……」
「どーせ伊澄さんは迷子やろ? この船広いし」
「一行も出ていないのにやるな伊澄」
いつ何処でも迷子になれる伊澄、そのスキルは成長するばかりだ。
「ところで……」
「ん?」
「アッチにいるのは誰やねん?」
咲夜が指をさすと近くの手すり付近で巨漢と一人の少女がいた。
何故か少女は赤ジャージを羽織っている。
「太陽が……渇いている…」
風になびくのは赤ジャージとエメラルドの色の髪。
テル達はよく知っている。
日野寺 マユミだった。
「とうッ! 」
マユミは盛大にジャンプするとアクロバティックにナギの前に現れる。
「ナギィィィッ!! いざ私と勝―」
だが勢い余ってマユミはナギの頭に頭突きをかましてしまう。 ゴチンといった音がした。
「なんやテル、知り合いか?」
伸びている二人を見て咲夜がテルに聞く。
「まぁ知り合いだ。 というか俺呼び捨てなんだな」
「まぁええやないか。 ウチはハヤテの事も呼び捨てやで」
「あまり図に乗るなよチビダヌキ、関西のノリが全国で受け入れられると思ったら大間違いだ」
「誰がチビダヌキやァァァ!!」
咲夜は本日何回目となるぐらいのツッコミを入れた。
「マユミお前! なんでこんな所にいるのだ!?」
「ハッ! 言ったでしょう? あんた達だけに主役を張らせないで私も本編に絡むってね!!」
ナギとマユミもお互いに頭を押さえながら言い合う。
「そして何より……私のユ〇ノオー達のリベンジよ!!」
マユミは懐からDSを取り出した。
「ほう面白い! 私の新しいパーティーに勝てるか?」
ナギもDSを取り出して対戦開始。 咲夜はその光景を見ながら
「へぇ、あのナギに同じ年の友達がねぇ……」
「ま、友達というかゲーム仲間…か?仲が良い事に変わんねえけど」
「まぁええことなやいか、ナギが楽しいならそれで……な?」
咲夜は自然と笑みを浮かべて楽しそうな二人の姿を見つめた。
「おやテル殿、良きクルージング日和ですな」
突然、テルと咲夜の影が更に大きな影に飲まれる。
振り返ると巨漢が。テルはまた忘れてはいない人物だ。
「なんだよシュトロハイム、お前も来てたのか?」
「当たり前です。 私はマユミお嬢さまの執事ですから」
シュトロハイムはニカッと歯茎が見えるほどのスマイル。
「うわ……デカいやん」
咲夜はシュトロハイムの迫力に圧倒されていた。
するとどうだろう。シュトロハイムは咲夜を見るなり、咲夜に近づいてきた。
「あなたが愛沢 咲夜さまでしょうか?」
ずいっとシュトロハイムは膝を織り、低い大勢をとる。
「え? あ、そうやけど」
膝を織っても咲夜の身長よりまだ上だ。
シュトロハイムはゆっくりと口を開いた。
「今回許可なく咲夜さまの船に乗り込んだ事をお許しください。 マユミさまがどうしてもナギさま達に会いたいと……」
「私はそんな事言ってないわよシュトロハイム!!」
遠くでマユミの声が聞こえたが咲夜は無視した。
「ええんよ。ナギの友達なんやろ? だったら大歓迎やで?」
「おお、なんと寛大なお言葉……シュトロハイム、感激です…」
シュトロハイムは嬉しい表情で頭を下げた。
咲夜は腰に手を当てながら高らかに言い放った。
「まぁ大船に乗ったつもりでいればええんや!」
「大船…ねぇ。 それよりタヌキ」
「誰がタヌキや、なんや」
咲夜がテルに睨むように返す。
「大丈夫なのか? その、このあからさまに沈みそうなデザインで……」
テルが危惧しているのはデザインだ。 これで沈んだらまさに呪いとしか言いようがないが。
「アホか!! デザインで船の性能決めんな!!」
咲夜は頑なに否定して続けた。
「ええか? タイタニック号の『タイ』は……タイガースの『タイ』やねんで? せやから無敵やっちゅーねん!!」
咲夜は人差し指を立てる。 このザ・大阪ダジャレには一同が口を揃えた。
「「「「沈むなこの船……」」」」
「沈むかぁ! 沈んでたまるかぁ!!」
咲夜はバンッとテーブルを叩いた。
「この船は莫大な金がかかっとんねん!!テロリストに占拠されん限り、ウチの゛タイ゛タニック号が沈むわけは――!」
その時青空に、それこそ船の外にいる人間に聞こえるくらいの銃声が響いた。
○
一方その頃。
雲が流れる海空に響く一発の銃声。 船の外にいたものは誰しもがその銃声を聞いた筈である。
しかし、それは逆に
「あっれ~ おかしいな~ ここってすごい広いよ」
船内にいたハヤテには全く聞こえていないのも事実だった。
複雑に入り組んだ船内に翻弄されながらハヤテはさまよっている。
洋風のイメージがそのまま具現化された船内はまさしくあのタイタニック号。 これなら伊澄が迷子になってしまうのも頷ける程だ。
まぁそんな事は置いといて、ハヤテは別の懸案事項があった。
(お嬢さまの今日の様子、僕が何かしたとしか考えられない……見当なんて全然つかないけど)
理不尽な理由で売られそうになった事もあるくらいだ。 しかし、執事として主に粗相があってはならないという責任感がハヤテにはあった。
(なんとしてもお嬢さまの信頼を……)
取り戻すんだ―! と言わんばかりに廊下を駆け抜ける。 決意を胸にハヤテは船内を回るつもりだ。
そしてハヤテが通り過ぎた道に隠れる人影が一人。
「あれはあの時の執事か……」
まるでコナンのシルエットのような人物だが実際は黒スーツの男だ。
「さてさて読者の皆さん、俺の事を覚えている人はいるかな?」
否。 多分この小説に目を通してくれた読者は誰もが口を揃えることだろう。
―アンタ誰だ?
「……酷いとしか言いようがないな。 この華麗な誘拐犯、兼工作員のバルトを忘れるとは……」
―だから誰だよ?
とまたしても眉をひそめる読者の反応が予想される。
仕方がない。なんせ彼が初登場をしたのはこの小説が始まった1~6話ぐらいしか出てないのだ。
「だが俺とて考え無しにここにいるわけではない」
バルトはポケットから黒い塊を取り出すとペタッと壁に貼り付けた。
「この作戦を生かせば俺も出番が増えるはずだ!!」
もはや流れ作業と言ってもいいほどぺたぺたと壁に黒い塊を貼り付ける。
果たしてこんな地味な事をしていて目立つ事ができるだろうか?
「地味なんかじゃないバルトだ!」
〇
さて、場所は変わり甲板だ。
「あー! あー! 乗組員に告ぐ!! たった今この船は我々デ〇ーズ・フリートが占拠したァ!」
テル達の目の前には覆面をした完全武装の男が三人。
取り敢えず先ほどの銃声が人に向かっていなかった事が幸いだ。
「オイオイ、なんかヤバい事になってんぞ?」
テルが状況を見て呟いた。
「あいつ等あんな事言っているがどうするのだ?」
「世の中には命知らずの冒険野郎がいるもんやな~」
「取り敢えずナギ、もう一回勝負よ。 砂パと晴れパ、どっちがイイ?」
そんなテルをよそにナギ、咲夜、マユミは至って冷静だ。
「あー、テロリスト諸君」
「なんだ小娘! お前のようなチビに用はないぞ! ロリはよそに行け!」
ナギの言葉にテロリストの一人が挑発するようにあしらった。
その瞬間、ナギの怒りが頂点に達した。
「乗組員や客には手を出すな。 人質なら少ない方がいいだろ?」
「え?」
このナギの発言にはテロリストだけでなく、テルもそう思った。
あれだけ言われてナギがキレない訳がない。 しかもその言い方はまるで自分が人質になると言わんばかりだ。
「お、おいナギ…お前まさか……」
「なんだ小娘、お前、人質を買って出ようってか気か?」
咲夜が冷や汗を浮かべ、テロリストだけは若干バカにするようにナギを伺っている。
「ああ。 適任だと思うぞ」
ナギは悪魔でも冷静だ。 その瞳には確固たる決意が見受けられる。 そして真顔で言い放った。
「なんせコイツがこの船のオーナーだからな」
「――って!! ウチが人質になるんかい!!!」
ナギが指差したのは紛れもなく咲夜だ。 しかし咲夜はその振りに動ずることなくツッコミを入れる。
「このように小さなボケも見逃さず見事にツッこむキレのよさ……」
「なに冷静に推薦しとんねん!!」
「そうだな。 この状況であのツッコミができるなら将来芸人にもなれる……」
「テル! アンタまでそう言うんか!!」
(…………)
いつの間にか緊張状態は溶けてしまっている。 テロリスト達は覆面で表情は分からないが唖然としているだろう。
「まぁ、この船を占拠するならス〇ーク辺りを使うんだったな」
ナギの言葉に咲夜がうんうんと頷く。
「せやな。 ま、ここにいる奴らはヒドく言えばアンタらよりおっかない連中やからなぁ~」
咲夜がニッと笑うとテロリスト達は周りを見て、自分達が黒服に囲まれている事に気付いた。
~ここからは音声のみでお楽しみ下さい。
「ギャアアアア!!!」
約三分後。
「ぐはぁ――!!」
船の床を転がるのはテロリスト達だった。 その様子をみる限りボロボロである。
そんなテロリスト達に、三人の男が一際目立っている。
「まったく……最近のテロリストは、鉄砲を持てば勝てるつもりでいる」
そう言いながら薬莢を拾うのは白髪のカイゼルヒゲの老人。 彼の名は三千院家の執事長クラウス。
「まったくなってないです……」
「功夫がたりませんよ」
クラウスの言葉を肯定する台詞を言っているのは咲夜の執事である巻田、国枝。
「ぐ…な、なんて強い連中だ…」
「なのにどこか紳士的な態度…お…お前たちはいったい……」
テロリスト達は強さと同時に合わせ持つ男達の態度に言いようがない圧倒感を覚えていた。
「愚か者め。 我々が何者かも知らずにこの船に乗り込んでくるとは……いいかよく聞け」
クラウスは眼鏡を光らせて言い放った。
「我々はお嬢さまを守る…一流の執事だ!!」
「お嬢さまを傷つけようとする連中は我々が全力で排除する!! よく覚えておけ!!」
去り際に拾った薬莢を親指で華麗に弾く。 決まったと言わんばかりの男達の背中である。
「な―んてカッコつけても、連中の侵入を許したドジは消えへんで?」
ギクッとさっきまでジェームス・ボンドのようなクールな男達は背中を震わしていた。
「私の出番はなかったですな……」
「まぁ無理しなくていいんじゃないかしら? アナタ片腕だし」
眺めていたシュトロハイムとマユミ。 シュトロハイムは陽気にもははっと笑っている。
「なんや、意外と好戦的なんか?」
「いえいえ滅相も、まぁこうして平和に終わったのですからいいではないですか」
咲夜が悪戯っぽく聞いたがシュトロハイムは笑いながら返した。 年の功である。
「んなことより、早くこいつ等縛り上げて吐くこと吐かせちゃえよ」
「まぁ、それはそうね。 ナギ、早くテロリスト達を捕まえなさいな。 そして今度は私と組まない? アナタと私ならスーパーマルチトレインも100連勝も夢じゃないわよ?」
「お前は早くポ〇モンから離れろ」
テルは溜め息をつきながらDSを片手に持つマユミに突っ込んだ。
「!!」
その時、テロリストの一人がマユミに目をつけて覆面の下でニヤリと笑った。
「ん?」
テルが見たのは懐に手を入れているテロリストの姿だ。
ぞわっと肌が震える。 銃をまだ隠していたか、またそれに準ずる何か
「オイ!」
テルが声を上げたが、テロリストは動じることなく何かを投げた。
投げた筒状の物体はある程度の高さに浮いてからコロンと床を転がり、大量の煙を吐き出した。
「な? 煙幕だと!!?」
クラウスの声が聞こえる。 周りは煙に包まれている。
「ゴホッ、ゴホッ…な、なんなのだ?」
ナギの咳き込む声。 船の上だから数も少ないし煙はすぐ晴れるはずだ。
なら短時間で奴は何をする気か?
「きゃ! ちょ、アナタどこ触ってるの? 離しなさい!!」
やがて煙が晴れて、聞こえてきたのは聞いた事のある声。
テルはその人物を見て頭に手をやった。
テロリストに首をかけられているのはマユミだった。
多分、マユミが活躍するのはこの話だけでしょうね