ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
「そこまでッ!」
道場内に、試合中止を促す声が響き渡る。
交えていた2人は竹刀を下ろし、互いに礼をする。
「また引き分けだな……メキメキと腕をあげおって・・・」
「唯子さん、ありがとうございます……」
お互いに防具を外す。 物凄い汗の量だ。
外した瞬間、湯気が出来るほどである。
「むぅ、私の速さに追い付くの構わないがここ数カ月、私は君に勝つ事すら出来ていない……」
「引き分けばかりですから……」
汗を拭った唯子は不満げに呟く。 ここ数カ月というもの、ヒナギクと唯子の試合はヒナギクが言った通り引き分けだけだ。
最初こそ唯子が勝ちを納めていたものの、ヒナギクがメキメキと力をつけ、男子顔負けの実力を身に付けた。
「だが私もそろそろ勝ちたい……という訳で、負けてくれないかヒナギクくん」
「嫌ですよ。 そんな八百長みたいなこと」
その一言に一蹴された唯子は「冗談だ」と笑いながら返した。
そして一瞬、唯子が右手首をさする。ヒナギクが不思議に思ったか尋ねた。
「どうしたんですか唯子さん?」
「いや、大会もあるからな……今日はこのぐらいにしておこう」
まるで気にしなかったように、唯子はタオルで汗をふく。
その日の練習はそれで終わった。
―練習後。
(何だったださっきの違和感は……ちょっとピリッとしたぞ)
帰り道、自然と右手首に目がいく。 練習中、ちょっとだけだが何か違和感があった。
それは痛みとも言えない微々たるものだったが。
(……ラーメンでも食べるかな)
その時はあまり気にせず、そこにあったラーメン屋に入っていく唯子だった。
―唯子宅。
「ふんっ!はっ!」
自宅の庭で一人竹刀を振るう唯子。
ただひたすらに、見えない敵を浮かべて自分の型を暗闇に向けて繰り出す。
(見えない敵と言っても、明確な敵はいる……)
それは最近の新入生であるヒナギクだ。
体に染み込ませるように鍛錬を重ねる。
その鍛錬はどれほどの物だったかのか?
あの数ヶ月では計り知れない。
(どうしてあそこまで強いのか・・・才能の差なのか)
ライバルとでも言っていいが、相手は年下。
仮に部長である唯子がそれを見て、焦らない筈はない。
だが顔には出さないようにはしていた。
この力の拮抗を崩すにはこちらの鍛錬を増やすしかない。
だから唯子は今までの倍の時間、竹刀を振るう時間が増えた。
全てはヒナギクに勝つため。
―翌日。
白皇の二年の教室で、唯子は一人自分の机で本を読む事に没頭する。
「唯子さん」
「ん?なんだ書記くんか」
灰色のポニーテールの少女が用紙一枚を持ってやって来た。
「何読んでるんです?」
「剣豪、宮本武蔵の本だ 君も見てみたまえ、これを読むと最終的には戦わないで敵に勝つ方法がわかるぞ」
「変わったのを読んでるんですね……」
「何を言う、剣道を志すなら誰でも一度は彼を知りたいと思うだろう。 まぁ好んでこの本を読む人間は私くらいだが」
「たしかに剣道好きでもそんな活字だらけの分厚い本を読む人はそうそう居ないかもしれませんね……」
「ふむ。それより、私に何か用か?」
「ああ、そうでした」
書記はそう言って一枚の用紙を差し出す。
「委員会の要項ですよ」
「分かった。 後で……ッ」
用紙を右手で握った瞬間、唯子の右手首に痛みが走った。
昨日より若干だが強い。
(……むぅ、アイシングはしたんだがな)
ここで一抹の不安が生まれた。
そして時間が経つにつれて不安は確実な物となっていく。
「やぁッ!」
ヒナギクの突きが唯子の胴目掛け繰り出されるが、唯子は竹刀で横に弾く。
バシッ!
「……ッッ」
右手首が痛んだ。 思わず、顔を苦痛に歪める。
防具越しには余り見えないのが救いだ。
今、弱みを見せてはいけない。
(私は剣道部の……なんだ…)
部長だろ。 と自分自身に言い聞かせた。
繰り出されるヒナギクの一撃を竹刀で受けながら防ぐ。
今は部長という理由が彼女を突き動かしていた。
「そこまで!」
結局、今回は唯子が攻めに転じる事はなかった。
「………」
唯子は防具を外す。 歪んだ顔はない。
しかし、今までにない激痛があった。
だが弱みを見せる事はなかっただろう。
しかし、
(唯子さん、今日は攻め切れてなかったな……)
(ああ。 桂さんに防戦一方だった)
(桂さんココ最近実力つけてきたからな……唯子さんを抜く日も遠くはないぞ)
ヒソヒソ話が聞こえた。 傍観者達は私が弱くなっているという事実だけが目に映っていたのだ。
それは歯がゆいものだった。
「唯子さん、大丈夫ですか? 汗凄いですよ?」
「汗が多いのはいつもの事だよ」
確かにいつもの事だが、苦痛に伴った汗もある。
(弱くなったな……私も)
虚勢なんて張る人間ではない。
出来ることは大抵やって見せた。
そういう人間だったから、自分は。
怪我は酷くなる一方で、唯子は自宅の鍛錬を止めなかった。
鞭に鞭を打つ。
今止めたら、自分は死んでしまうのではないか……そんな思いに駆られながら。
今は負ける事が怖い。
失うことも……だ。
そして事件は起こる。
それはヒナギクとの模擬試合の時だ。
その日は三本勝負であり、その日の勝負で団体戦の大将を決める物だった。
俄然気合いが倍入った。
試合は始まり、激痛を伴ってでの勝負。
「小手ッ」
「ッッ!!」
開始直後、ヒナギクの小手に唯子の素早い竹刀の技。
見事な小手である。
その一発で頭が冷えたか、ヒナギクも二本目から凄まじい攻めを見せる。
そして……
「小手ッ」
「ぐっ……!」
ドクンッ―。
心臓が跳ね上がるかのような激痛が右手首を駆ける。ヒナギクのお返しとも言える小手。
今の唯子の右手首は焼けるように熱い。
激痛が支配している。
その右手首に小手だ。 悪意は全く感じられないが、やり方としては頂けなかった。
「やるな……」
だが唯子は平然を装わなければいけない。
ズキズキと右手首が痛む。 意識が朦朧としてきた。
ヒナギクが三人になる。 周りが白く、ぽーっと溶けていた。
「始めッ」
最後の勝負……だが、唯子は完全に上の空だった。
「………」
景色が、視界が定まらない。 それが唯子を動かさかった。
それを好機に、ヒナギクが踏み込んでくる。
唯子は漸く視界が定まったか、目の前には今にも面をねらうヒナギクがいた。
(私は負けたくない……)
意識がはっきりした時点で彼女の覚悟は決まっていた。
(ここで負けたら……何も、何も……)
振りかざされた竹刀を、先に弾く。
「え……」
振り下ろす前に弾かれた為、ヒナギクが一瞬仰け反った。
これだ。この瞬間だ。
痛みなど忘れて、一気に踏み込む。
(せめて……これだけは!!)
願いも加えた一撃。 何を願ったのか? 失う事を拒んだか、勝利をか? または別の何かか?
通じたのか、
パシンという音が道場内に響き渡る。
見事に唯子の面が決まったのだ。
(勝った……)
漸く手に入れた勝利。 掴んだ大将の座。
周りは歓声に満ちていた。 唯子完全復活を祝うもの、大会の予想など。
弱いというイメージを無くさせるように……
「唯子さん…完敗です」
防具を脱いだヒナギクが寄ってくる。 負けはしたがとても清々しい顔だ。
「私も負けませんよ。 また強くなりますから」
「うむ。 では楽しみ…に?」
「……?」
その時、痛みが全身を駆け巡った。 痛いの比ではない。 雷くらったかのような……
ドサッ。
「唯子さん!?」
倒れた唯子を前にヒナギクが悲鳴を上げる。
(……私は、どこへ行くんだ?)
暗闇の世界は光をささないのだ。生き甲斐なんて見付けれるだろうか。
夢であってほしい。
その瞬間、唯子の意識は完全に閉ざされた。
〇
「私の思った通り、医者は私の右手首は手遅れと申告した」
そして現在に至る。
「明らかな私の自業自得だ。 管理の悪さだ……」
「だが彼女はそれを自分のせいだと思ってる。 説明はしたんだが」
ヒナギクは責任感が人の倍強い。 それがあの関係を作り出してしまったのだろう。
「もう剣を握れないのなら、居る必要はないだろう? だから……」
「退部した……」
テルが答えるように言った。
「結局、私が最初から我欲だっただけだ。 いざ自分の身が危うくなると、その身を守ろうとして、周りが見えなくなる……」
そう言うと、唯子は竹刀を拾い上げ、地面に刺した。
「つまらん話をしたな」
「お前の人生にどうこう言うつもりはないが……一つだけ言わせてくれ」
テルが口を開いた。
「世の中には似たような奴らがたくさんいる」
頭を掻くとテルは鉄パイプを肩に担いだ。
「諦めるなよ。必ず追ってこい……」
そう言い残すとテルは走り出した。
「不思議な少年だな……」
走りながら目に入るのはテルの背中。
彼は何を背負っているか、今は誰も知らない。
当の本人もあまり知らない訳だが……
「さて……」
唯子はスッとダイナマイトの導火線に火を点けようとライターを取り出す。
だが……
ジュッ!ジュッ!
虚しく火打ちは小さな火花を作り出すだけで点火に至らない。
ジュッ!ジュッ!
「………」
完璧な燃料切れ。 ライターは 最初から使い物にはならなかったのだ。
「「「オオォ……」」」
目の前にはゾンビの大軍が迫っている。
「………」
唯子はポイッとライターと箱を投げ捨てる。
「これは逃げるのではない……」
そのまま後ろを向き
「敵に背を向け、全速力で走り出すッ!!」
世間一般ではそれを『逃げる』という。
「お前ェェェッッ!!何格好良く決めようとしてたのにすぐ戻って来てんだァァァ!!」」
「フハハハハ! まぁ問題ない問題ない」
唯子はあの場で一分と時間を稼げず、テルと共に併走していた。
「追い付いたぞ」
「こんな形で追い付いて欲しくはなかったよ!」
愚痴りながら2人は走る。 幸いにもゾンビ達はテル達よりペースは遅く、このままなら振り切れそうだ。
「では、改めてハヤテくん達の救出に向かう。 さきほどの2人は遠くに行ってはいないはずだ」
〇
「ハヤテ!大丈夫か?」
「ええ…でも気を付けて……これ、なんか毒が塗ってあるみたいで…」
「毒!?」
ゾンビ達を振り切り、一先ず安全な場所に身を隠したナギ達だが、ハヤテは先ほどくらった矢に毒が塗ってあると言う。
「あ、でも全然平気ですよ。 あれ大丈夫ですかお嬢さま、なんか固くなりましたね……」
ハヤテは大丈夫そうにナギに触れるがハヤテが実際に触れているのは狸地蔵だ。
はっきり言うとヤバい。
(いかんハヤテがなんか壊れてる!)
「セ〇セタの花を!! 不治の病も一瞬で治るあの花を探さないと」
「落ち着け!! ここはイー〇じゃない!」
ナギが慌てるがそれをワタルが落ち着かせた。
「そうだ。 まずは落ち着きたまえ」
「え?」
不意に声が聞こえ、その人物は現れた。
その人物は額に傷があり、首からは十字架を下げ、神父が着そうな服に身を包んでいた。
「お前は……?」
「この教会の神父、リィン・レジオスターです」
そのリィンという若い男は、基調ある言葉で話す。
「呼びにくいなら秋葉のロード・ブリティッシュとでも呼んでくれ」
((絶対嫌だ!!))
ナギとワタルも御免被るという表情だ。
リィンは更に続ける。
「その毒は弱いがあまり動かさない方がいい。 一歩動けばHPは一つずつ減っていく」
「ド〇クエかよ」
「セ〇セタの花は迷宮の一番奥だ」
「あるのかよ」
もはや驚く事をしないワタル。
「なんにしても、私が仕掛けた毒で少年が死ぬのは忍びないので……急いで取って来た方がいい…」
ガツンッッ!
言い終わると同時にナギのパンチがリィンの顔に炸裂した。
「ああ、そうさせてもらう。 責任持ってお前はハヤテを看病してろ!! ハヤテに何かあったら殺すぞ!!」
「ひ…引き受けた……」
わなわな震わしていた拳を解き、ナギは先に進もうとした。
「だ!!ダメですよお嬢さま!! お嬢さまだけをそんな危険な目に遭わすわけには!!」
当然、ハヤテは主人の無謀とも呼べる行動を黙って見過ごせない。
「心配するなハヤテ。 主には、仕えてくれる物を護る義務がある。 その義務を果たさなくては……」
「ですがお嬢さま……」
「いや、それ狸地蔵だから……こっちだっつーの」
相変わらずハヤテは幻覚を見る始末。
「とにかく急ぐぞワタル!! 解毒剤をとりにいくのだ!!」
「おお!!」
ナギとワタルがハヤテの解毒剤を取るために更に奥へ進んでいく。
「お、お嬢さま……くっ、くそ……」
ハヤテも慌てて追うとするが体の毒のせいで上手く動けない。
「あまり無理はしないほうがいい。 その毒は一応猛毒だ……私も一度食らってね。君のように助けてくれる人が近くに居なくて困り果てたよ」
「え?でも……」
リィンの話に一つだけ疑問が浮かんだハヤテ。
「助けてくれる人がいないのに…どうやって解毒剤を?」
「ああ、だから……」
リィンは岩場にもたれかかっている何かに指を示した。
「私はこの通り死んだ」
「ええ!? 死んだの!?」
指差したリィンだった骸骨は、見事に頭に矢が突き刺さっている。
(これって即死なんじゃ……)
頭部に矢が刺されば毒の効果も関係無いのではないかと思ったハヤテであった。
「だがそれ以来この教会には悪霊が住み着くようになってね……」
「いやいや!! 悪霊はあなたが悪霊なんじゃないですか!?」
「違う、悪霊は……あいつ等さ」
更に神父はある方向を指差して言う。
そこにはゾンビの大軍と、水木し〇るが描いたような百鬼夜行が……
「正直まずいが……逃げられそうか?」
「ぐ!!そ……そんな!!」
リィンの提案に顔を苦くするハヤテ。
まだ体の毒がハヤテの自由を奪っている。 動けそうにない。
「でも、お嬢さまの所にも悪霊が!?」
「いや、悪霊はあいつ等だけだが……」
ハヤテの問いにリィンが続けて答える。
「迷宮の奥には私の配備した全長3メートルのA〇BO型ロボットが……」
「先に言えぇ――!!」
絶叫するハヤテ。リィンは平然と続ける。
「というか来たぞ」
「ひぃ!!」
口論を展開している間にゾンビと妖怪の大軍が押し迫ってきていた。
〇
「わあああああ!!」
一方ナギ達。 ハヤテの解毒剤を求めて迷宮奥へ来ていたのだ。
最初こそ順調だったものの、リィンが言っていたように妨害ロボットに追われていた。
「SONYの技術は世界一ィィィィ!!」
「うおおおっ!!」
ロボットの迫る拳を寸前で回避するナギ。
しかし、外れた拳は地面をえぐり、轟音を響かせた。
人間が食らっては一溜まりもない。
「なんなのだアイツは!?」
「巨像じゃねーのか巨像!!」
「あんな神聖な雰囲気のない巨像があるかァァァッ!!」
ガツッ。
「うわっ!」
「ナギ!!」
話をしながら走っていた為か、ナギは石に躓いて転んでしまう。
「そこに痺れる憧れるぅ!!!」
そこへロボットの容赦ない一撃。
無機質な機械の腕が振り上げられ、ナギに振り下ろされる。
「ナギ逃げろ――ッッ!!」
ワタルが叫ぶが、ナギは完全に恐怖で動けないでいた。
「ひっ!!」
(ハヤテ!!)
(お嬢さま!!)
場所は離れていても危険な場面に変わりはない。
お互いが名前を心の中で叫んだ。
そして次の瞬間。
ナギに拳はいつまで経ってもやって来なかった。変わりに……
ガシャンッ!!
無機質なロボットの腕がキレイに切断され、ガラクタ同然に地面を転がる。
その人物はナギ達もよく知る人物だった。
〇
「オオォ……!!」
ハヤテ達に遅いかかった悪霊達はハヤテ達に襲いかかる前に極太の紫の光に包まれた。
光が無くなるとそこには元から何もなかったように悪霊達は消滅していた。
「あなたは……?」
ハヤテが尋ねた人物は和服姿に札を構える。
そして言うのだ。
「通りすがりの……」
ハヤテの場には伊澄が。
「正義の味方♪」
ナギ達の場にはヒナギクが居た。
戦いは、ここから更に激化する。
〇
「あ~、お宝ないかな~」
場所は変わり、迷宮のどこか。 お忘れかと思うが一応メンバーの桂 雪路。
お宝求めて、メンバー達など目も暮れず一人単独行動。
まぁ、メンバー達もいつの間にか居なくなっているという認識しかない。
一応、彼女もヒナギクの姉。 そのスペックもまたヒナギク譲りなのだ。
まぁ結果的にヒナギクが圧勝するのだが。
「ほんとこんな所にお宝なんてあるのかしらね? なんもなかったら私これからチーカマだけで生活しないといけないわ……」
近場にあった石を蹴る。 可哀想な石はサッカー選手も顔負けのスピードで宙を駆ける。
―カツン。
それは遠くで何かに当たった。
「ん?」
そしてその瞬間、眩い緑の光が雪路を包み込んだ。
「オオオオッッ!?」
眩い光の中で雪路が見たもの、それは巨大な機械の顔だった。
この時に唯子が食べに行ったラーメン屋がテルがお世話になってたラーメン辰屋だったりします。どうでもいいですけど。