ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

36 / 150
短編その一は、原作のバレンタインデーのお話です。


第36話~それは誰かの陰謀~

「ふぃ~」

 

高そうなソファーにどっかりと腰を掛けるテルは優雅にカップに入っているコーヒーを飲み干した。

 

「うーん。 やはりここのコーヒーは最高だな。 全部が高級豆で味の種類も沢山ある……」

 

窓から入ってくる風のせいもあってか、一層コーヒーの風味が増す。

 

「授業なんて無ければもっと最高だ……」

 

「な~にナギみたいな事言っているの?」

 

「お、会長」

 

ソファーの後ろにはヒナギクが細い眼差しを向けていた事にテルは気付く。

 

「否定はしない……俺のリラックスタイムはこうやって休み時間にくつろぐ事なんだよ」

 

「だからってわざわざ生徒会室でくつろがないでくれる? 他にも場所はあるでしょうに……」

 

確かにヒナギクの言う通りだ。 学院内にはカフェテリアや日向のかかったまさにくつろいだりする場所はいくらでもある。

 

「理由はなんとなくだ。 ここなら俺のストレス、疲労が抜けると思ったんだよ」

 

「馬鹿は高いところが好き……と」

 

「あ? なんだとテメェ、触りまくって馬鹿移すぞ」

 

そんな感じのジェスチャーをした瞬間、テルの鼻先に木刀が突きつけられた。

 

「斬られたい?」

 

「ハイ、スンマセン」

 

名刀正宗を構えるヒナギクの目はもはや一人の武士(ものふふ)である。

 

「つーか、まだ持ってたんだその木刀……」

 

「なんか気に入られちゃってね……」

 

 

この木刀は元々鷺ノ宮家の物なのだが、前回の執事クエストの際に、正宗がヒナギクを偉く気に入ってしまい、持ち主は現在ヒナギクという事になっている。

 

 

「鷺ノ宮さんが困ってたけど、仕方ないわね……」

 

ふぅと溜め息をつくと、ヒナギクの手から正宗が消える。 なんと正宗はヒナギクが呼べば簡単にその場に現れてくれる万能武器なのだ。

 

 

「つーかこれ以上お前、そんなに強くなっちゃって、木刀も使い道あるの?」

 

テルの言う事も一理あり、鉄をも切り裂くこの木刀、前回はロボットを切るのに使っていたが、これから先にそういったのが現れるか甚だ疑問である。

 

「ん~そうね……宇宙人とか、新しい敵とか来るのかしら?」

 

「まさか……な」

 

ヒナギクの言葉に苦笑いのテル。2人の脳内には人の体内から孵化して飛び出る宇宙生命体や、宇宙生命体や人間を狩る狩人が浮かんだ。

 

「まぁそれはそれとして、そろそろ教室に戻ったら? 昼休みも終わっちゃうわよ?」

 

ヒナギクがテーブルの上に置いてある時計を指差す。

テルはカップをソーサーに乗せ、ソファーから立ち上がった。

 

「あーあ、いっそのこと時間なんてスイッチ一つで永遠に止めれればいいのに」

 

「くだらない妄言を言ってないで早く戻りなさい」

 

 

「へーい、生徒会長様は厳しいッスな」

 

 

「なんか言った?」

 

 

「なーんも……ん?」

 

テラスから学院を見渡していたテルは奇妙な光景が目に入った。

 

 

学院内の廊下にテラスから分かる程の人集りがあったのだ。

 

 

「なんだか祭りでもやってるのか会長」

 

 

「あぁアレ? ただの喧嘩よ」

 

 

ヒナギクはトントンと書類を整え、さほど問題なさそうに言う。 が、これはテルも驚いていた。

 

 

「この白皇で喧嘩ねぇ、こんな頭良い学校でもあるんだな…まぁそれぐらい若さがないと」

 

 

名門白皇でも喧嘩などの青春じみた事があることに少しばかり安心したテルであった。

 

 

「どらどら、その熱い青春を謳歌しているヤツらを見てこよう」

 

「ああ、ケガとかするから止めておいたほうが良いわよ」

 

 

「なんで?」

 

「その喧嘩があなたが思ってるまさに青春謳歌の喧嘩だったら良かったけど、それは間違いよ」

 

ヒナギクが笑顔で続ける。

 

「一般生徒も巻き込んでしまい、挙げ句の果てには学校のガラスも壊しちゃうような危険な喧嘩よ」

 

 

「そんなクローズみたいな学園生活を送る輩がいるのか?」

 

 

「いるのよ」

 

ヒナギクが急に真顔になった。

 

「また誰か巻き込まれてるのかしら……」

 

最後に一つ溜め息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

その喧嘩が起こる数分前。

 

「なんか上級生のいる廊下ってなかなか新鮮な感覚があるなぁ」

 

 

 辺りを初めて見るかのようにキョロキョロする人物がいた。 ハヤテである。

実は昼休み、白皇学院の探索をしていたのである。

取り敢えずこの校舎、有り得ないくらい広い。

 

 

 

「やっぱり違うな~」

 

「何がだ少年」

 

 

「うわっ! 唯子さん!!」

 

背後からの声に慌てて飛び上がるハヤテ。

 

 

「なんだ、化け物が出たみたいに……」

 

「後ろから気配なく現れないでくださいよ」

 

「すまんな、気配を消すのはクセなんだ……それで、何が違うんだ?」

 

フッと笑うと唯子は話を戻す。

 

ハヤテは笑いながら答えた。

 

「上級生のいる廊下ってなんか雰囲気が違うな~って」

 

「確かに君の言うことも一理あるな。 我々も一年の廊下を通る時はなんとも言えない懐かしさを思い出してしまうからな」

 

笑いながらハヤテの言葉に頷く唯子。 長大な廊下を2人は歩いていく。

 

「そうだ」

 

 

やがて唯子がパンッと両手を叩いた。

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。 私が学内を出来る限り案内してやろうか?」

 

 

「え、でも唯子さんに悪いですよ。 せっかくの昼休みを―」

 

 

「黙れこの与太郎が」

 

「え?」

 

唯子の突然の言葉に、ハヤテが目を丸くした。

 

 

「この私が案内してやろうと言うのだ。 不服か? この美人なお姉さんと隣を歩けるのだぞ? イヤなのか?」

 

最後に唯子は首を傾げた。 ハヤテは慌てて両手を振って否定する。

 

 

「べ、別に嫌なんかではありませんよ! むしろ嬉しいくらいです!」

 

 

「ふむ。 素直でよろしい」

 

何やら慌てているハヤテを見て少し笑うと

 

「君は執事である前に、紳士としての自覚を持ちたまえ」

 

 

とハヤテに言うのだった。

 

 

 

 

「では行こうか、まずこの学内の名物を紹介していこう」

 

 

「名物なんてあるんですか?」

 

もう観念したか、ハヤテが抵抗なく聞く。

 

「勿論」

 

唯子はそう言うと指をさした。

 

 

「アレ」

 

「アレ?」

 

 

2人が見据えるのは一人の男。

 

なかなかの大柄の男だ。 そして白皇学院では珍しい金髪。

 

 

乙葉 千里である。

 

「千里さんですか?」

 

「ああそうだ。 まぁ見てろ」

 

 

言われるがままに千里を観察しているとやがて窓際から千里が動いた。 教室に戻るのだろう。

 

 

(大きい人だよな~あんなに背が高かったら入り口に頭ぶつけそうだな……)

 

 

ハヤテがそんな考察をしている間に、千里が教室に入ろうとしたその瞬間だった。

 

 

―ゴンッ!

 

「………」

 

唯子とハヤテがその音に沈黙。 その光景を見た教室内も一気に沈黙した。

 

 

千里が入り口に頭をぶつけたのである。

 

「………」

 

千里は一歩下がり、廊下から教室内を見渡す。

 

 

鋭い眼光が獲物を睨みつけるように、教室内はいつものように活気を取り戻した。

 

 

みんな何も見なかった事にしているのである。

 

「……ご覧の通り、なかなか入れない男の悲劇という名物だ。 どうだ?」

 

「どうと言われましても……」

 

 

「……ッッッ!?」

 

 

その会話が聞こえたか、千里が素早く踵を返し、唯子達を視線に捉える。

 

 

そして怒りの形相で指をビシッと唯子にさし、叫んだ。

 

 

「勝負だァァァッッッ!!!!」

 

 

「ええええええっ!!?」

 

 

突然の宣戦布告に思わず叫び返してしまったハヤテ。

 

「貴様ァ、さっき笑っただろう?キングであるこの俺を!」

 

 

顔を真っ赤に、いや、怒りの形相に染め上げた千里はドカドカと唯子に詰め寄る。

 

「は? 誰が貴様なんか見て笑うかゴキブリ」

 

鼻をならしながら返す唯子に千里は更に怒りが募る。

 

 

「イヤ、俺の本能が告げている! キングである俺の本能がな!」

 

「いいがかりもよせ、と言いたいが話をして分かる脳細胞ではないからな」

 

 

フッと笑うと、その顔は冷徹極まりない、冷めた表情になった。

 

どこからか竹刀を取り出し、構える。

 

「断罪してやろう」

 

 

唯子が不敵に笑う。いつの間にか周りは野次馬で溢れかえっていた。

 

 

後にハヤテが知ることになるのは、この情景がいつも通りの事であること、意味不可解な理由で千里が唯子に喧嘩を売るのはいつもの事だった。

 

 

「そらそらそら!」

 

 

唯子が竹刀を薙ぐ。 鋭い一撃が横腹に決まると、すかさず千里が拳で応戦。

 

 

「片腹痛いわ!!」

 

ぶんッ!と振るが、拳は空気を掴むのみだ。

 

唯子がいつの間にか千里の後ろに移動していた。

 

「ほらほら、私はここだぞ」

 

 

「ぬぅ!」

 

 

唇を噛み締めた千里が手招きで挑発する唯子に拳を伸ばす。

 

 

今度も唯子を捉えれなかったが

 

 

バリーンッッ!

 

 

代わりに窓を捉えたのだった。

 

 

「ったく、2人もよくやるよな……」

 

ハヤテの耳に野次馬の会話が聞こえた。

 

 

「あの2人のせいで毎回窓ガラスが壊れるんだよな」

 

 

「まぁ、見てて面白いからいいけど」

 

 

ある意味、この喧嘩は他の生徒達にとって一つのイベントと化していた。

 

 

(この人達、もう無茶苦茶だよ)

 

 

そう苦笑いを浮かべたハヤテだった。

 

 

 

轟音が響く。 左右から絶え間なく響く。

 

教室では机の上にある書類を整える書記の姿が。

 

 

「今日も平和ですな~」

 

トントンと書類を整え、呟くのだった。

 

 

 

 

 

「ん? 会長よ、つかぬ事をお聞きしたいのだが」

 

「何かしら」

 

「今までスルーっていうか、放課後にここに寄ったらお前のテーブルには昼までなかったご丁寧に包装された小箱がたくさんあるんだが……なんだ?」

 

「………」

 

ヒナギクはテーブルの上に山積みされている小箱を眺めて一言呟いた。

 

「……バレンタインのチョコ」

 

「俺が思うに、バレンタインは確か女が男にチョコを上げるイベントじゃなかったのか?」

 

 

耳を疑い、山積みのチョコをじーっと眺める。

 

「私だってそれくらい知ってるわよ……」

 

パキッとヒナギクがチョコを食べる。

 

「毎年毎年こうなのよ、何故かしら、年々量が多くなっているんだけど……」

 

 

「ヒナは男子よりかっこいいからモテるのよ」

 

 

いつの間にか居たのか、美希が説明する。

 

「いつかいたんだ?」

 

「最初からいたのよ」

 

 

そう会話をしているとヒナギクが眉を細めた。

 

「でもおかしいわ。ていうか陰謀よ。 私、こんなに女の子らしくしているのに……」

 

 

「え、お前マジで言ってるの?」

 

バキャ!

 

テルの言葉の返答はグーパンだった。

 

 

「確かに昔に比べたら……」

 

「止めてよ、一応、反省はしてるんだから……」

 

 

2人して昔のヒナギクの武勇伝を思い返しているらしい。

 

 

「でもこんかに食べたら太るわよ?」

 

美希が話を元に戻し、ヒナギクに言う。

 

「わかってるけど捨てられないじゃない……」

 

食べるのを一旦止め、山積みのチョコを見た。

 

 

「一つ一つ…女の子の想いがこもったものなんだから……」

 

 

「なんなら幾つか俺にくれ」

 

「却下」

 

テルの言葉をヒナギクはピシャリと切り捨てた。

 

「畜生! バレンタインデーにチョコ貰うヤツらなんか爆撃されて死んじまえ――!!」

 

「少なくとも、テロに遭わない限りはなさそうね」

 

 叫びながらテルは一直線にエレベーターに転がり込んだ。

ガコンッとエレベーターが降りていく音が聞こえた。

誰も居なくなり、ふぅと美希が息を漏らす。

 

「じゃ…私からも…」

 

「な!!」

 

ずいっと美希から差し出された小包を見てヒナギクの表情が曇る。

 

「いじわる……」

 

「はは。 でも太ったりしてはダメよ」

 

涙目のヒナギクを面白く笑いながら美希は言った。

 

「ヒナは…どんな時でもかっこよくなくちゃいけないんだから……」

 

ドアノブに手をかけた所で振り返る。

 

「ところでヒナ。 今日は誰かにチョコとか渡したのか?」

 

突然の質問にヒナギクは戸惑いながらも

 

「い、いえ……渡してないわよ?」

 

と返す。

 

「ホントに?」

 

「ホントよ」

 

「ホントのホントのホントに?」

 

「しつこいわよ……なんか怖いわよ」

 

 

「なら良かった……」

 

最後に笑顔を浮かべるとバタンとドアを閉めた。

 

 

そんなこんなで本日はセントバレンタインデー。

 

 

 

 

 

---白皇学院校門。 その巨大な門はがらんと開け放たれている。 千人の生徒を出し入れしたりするのだからこれくらいの大きさがあって当然だろう。

 

その巨大な門を前に一人たたずむ少女がいた。

 

「噂以上じゃないかな・・・この規模は」

 

制服姿からして学生、しかし白皇の生徒ではない。県立潮見高校のジミーこと西沢 歩である。

 

(しかし義理と本命の二つのチョコを持ってきて・・告白、どうしようかな)

 

もはや地の文にすらツッコム余裕もないのか、片手にもつ紙袋を広げては中を覗き、また閉じて、また覗くを繰り返している。

 

(と、とりあえず中に入ってみるか? 門も開いているし・・・いいよね?)

 

周囲をくまなく警戒しながら門の内側へと足を踏み入れる。 スニーカーが平らな地面に触れた瞬間。

 

「お嬢さん、不審者ですね?」

 

「・・・・」

 

茂みの中から黒服で強面の男たちがぞろぞろと現れてきた。

 

いつか体験したことがある。 たしかあれは三千院家を訪れた(不法侵入)時だったか。 見つかった時、同じような男たちに捕まったのだった。 

 

西沢 歩は瞬時に悟る。 またこのパターンかよ!と。

 

言葉を発するより早く、歩の体は動いていた。 身を翻して颯爽と逃げようとする・・・が、それよりも早く、黒服は歩の右腕を掴み取った。

 

その瞬間、持っていた袋が地面に落ち、中からチョコが二つ飛び出す。

 

「は、はなして!!」

 

(このままだと私、この小説では決してやってはいけないような展開を迎えてしまうのでは!?)

 

もはや身の危険以外感じられないと思い、この際に相手の腕をかじってでも逃げるかと考えていた矢先。

 

「どうかなさいましたか?」

 

その言葉に、黒服の男たちの動きが止まる。

 

「こ、これは桂お嬢さま・・・いえ、不審者を捕まえたので・・・」

 

「不審者?」

 

男が頷くと、ヒナギクの視界に地面に転がった二つのチョコが入った。 ヒナギクはそれを見て、その少女がここに何をしに来たかをだいたいは察することができる。

 

「こんなかわいい不審者ならウチの男子生徒は大歓迎よ?」

 

転がった袋とチョコを丁寧に拾い上げ、袋に再び入れる。

 

「とにかく、後は私が引き受けますからその子を放してあげてください」

 

「まぁ、桂お嬢さまが仰るのなら・・・」

 

ヒナギクの言葉に男は頷くと、男はパッと歩を手放した。

 

(すごいなこの人・・・)

 

先ほどのしゃべり方、黒服の男たちを簡単に退けるほどの人間だ。相当偉い人に違いない。

 

(おまけにすごいキレーだし・・・)

 

「はいコレ。 まったくバレンタインだって言うのに気の利かない人たちなんだから・・・」

 

「あ・・・ありがとうございます」

 

手渡された紙袋を受け取り、お礼をいう歩。

 

「でもチョコ二つも持ってるみたいだけど・・・もしかして二人に?」

 

ヒナギクがクスリと笑って冗談めかしく聞くと、歩は両手を振って否定した。

 

「ち、違います!!ずっと一人!! 一人だけです!!」

 

顔を真っ赤にして答える歩にヒナギクは少し、冗談を交えて聞くのは止めようと考えた。 かなり本気の想いを感じたからだ。

 

「でもココ結構広いから探すの大変よ?」

 

「うっ・・・」

 

ヒナギクの言葉に歩は顔をひきつらせるを得ない。 本気で悩んでそうなのでヒナギクはその少女にある提案をした。

 

「なんだったらその幸せ者と二人っきりになれる場所にその子を呼び出してあげましょうか?」

 

「え?」

 

歩はその提案に遠慮することはなかった。

 

「じゃ、じゃあお願いします! 一年生の・・・綾崎 ハヤテくんを・・・!!」

 

「え?」

 

その幸せ者の名前が知っている人間だったのでヒナギクは驚いていた。

 

 

-----生徒会室、天球の間。

 

「ス、スミマセン・・・ヒナギクさん・・・」

 

「・・・何をいきなり誤っているの?」

 

生徒会室に呼び出したハヤテが最初に言った第一声は謝罪の言葉だった。

 

「いや、分かりませんけど・・・また怒らせるようなことを僕がしたんじゃないかと・・・」

 

「なんだか遠まわしにバカにされてる気分だわ」

 

目を細めて、ハヤテを睨む。 

 

これ以上イライラが募る前に、早々に要件を言い渡すことにした。

 

「それよりも向こうの部屋でお客様がお待ちよ」

 

指をさして言ってみたものの、ハヤテはさらに困惑している。

 

「あの・・・やはりなにか怒らせるようなことを・・・」

 

「うるさい!! つべこべ言わず行きなさい!!」

 

イライラが頂点に達したか、戸惑うハヤテの背中を押し、無理やり生徒会室の客室へと入れさせ、扉を閉める。

 

「に、西沢さん・・・」

 

「ハヤテ・・・くん」

 

ほどなくして、お互い顔を確認したのだろう。 これ以上聞くのは野暮というものだ。

 

「下へ行ってようっと」

 

扉から手を放し、エレベータを起動させる。 エレベータを待っている間、ヒナギクはポケットから小包を取りだした。

 

女の子の気持ちがこもった大切なものだ。 実際自分も受け取っているから分かる。 しかし、本気の想いを目の当たりにしたとき、この2月14日と言う日を改めて考えさせられる。

 

「女の子が・・・男の子にチョコを渡すイベント・・・か」

 

ちん。という音がして、エレベータが開く。乗り込もうとしたその時であった。

 

「え?」

 

突如として客室の間が開き、一人の少女が駆け込んでくる。 見間違えるはずもない。 先ほどの少女だ。

 

「・・・・・」

 

エレベータの扉が閉まり、下の階へ移動していく。 ヒナギクは乗り込むことができなかった。

 

ヒナギクは何が何だか分からない状況だ。

 

「・・・・どうしたの?」

 

部屋から出てきたハヤテにヒナギクは聞く。

 

「へ? いや・・・別に何もないっていうか・・・義理チョコ貰っちゃいました」

 

戸惑いの笑みを浮かべながら渡されたそのチョコの形は・・・・長方形の箱。

 

「・・・? 義理?」

 

「はい。 ずっと友達でいようって・・・そんな気を使わなくてもいいのに・・・・」

 

ヒナギクは聞いたハヤテの説明から少女のある言葉を思い出す。

 

---ずっと一人!! 一人だけです!!

 

(なるほど・・・そういうことか・・・)

 

まったくもってこの少年はバカだ。ヒナギクは拳を握りしめる。 そんな事を察知もできないのか、鈍感すぎる。

 

まだ間に合うはずだ。 なら自分に出来ることは一つしかない。

 

「今すぐ追いかけて、交換してもらいなさい」

 

本当は今すぐにでもぶん殴ってやりたいという気持ちを抑えてヒナギクは言う。

 

「へ?」

 

キョトンとするハヤテ。 まだ分からないのかと、ヒナギクは怒声を飛ばした。

 

「つべこべ言わず追いかけなさーーーーい!!」

 

「は、はいーーーーーーーーー!!」

 

ハヤテが慌ててエレベータに乗って下に行くのを見ると、ヒナギクはため息をつきながらイスにドカッと座り込む。 残った仕事を片付けるためだ。

 

(選択は正しかった?)

 

自問自答しながらもヒナギクは書類の整理にかかり始めたのだった。

 

 

 

校内を飛び出し、歩を追いかけることにしたハヤテ。 しかし、途中で彼女を見失ってしまう。

 

「くっ! 一体どこに行ったんだ西沢さん!」

 

もうダッシュで町を駆ける中見知った顔を見つけた。

 

「あれ、ハヤテじゃねぇか」

 

善立 テルである。

 

ダッシュを止めて激しい土ぼこりが舞う。 そんな事を気に留めずハヤテはテルに聞いた。

 

「て、テルさん・・・さっき、西沢さんを見かけませんでしたか?」

 

「ゴホッゴホッ・・・いや、見てねぇけど」

 

土ぼこりを払いながら、ハヤテに答える。 ハヤテはしゅんとした顔になるが改めて顔を引き締める。

 

「ありがとうございます。 ではこれで」

 

「ちょっと待てよ」

 

再び走りだそうとしたところをテルは呼びとめる。

 

「俺に任せな」

 

そう言うなり、テルはどこからか持ち出したか鉄パイプ、撃鉄くんを取りだす。 テルはその場に撃鉄を立たせて一本の指で鉄パイプを支える。

 

「ほいっと」

 

その支えていた手を放すと、鉄パイプはコロンと音を立てて転がった。

 

その倒れた先を確認してその方向に指をさす。

 

「あっちだ」

 

「いや、それただの勘ですよね」

 

「大丈夫だ。 こいつは見た目は腐った鉄パイプだが、実質霊刀だったらよかったのになぁ~」

 

「途中からただの願望になってるじゃないですか!!」

 

「人間は時に勘に頼る一瞬ってのがあるのさ・・・」

 

フッと笑うテルにハヤテはえーという表情。

 

「つべこべ言わず行けよコノヤロォォォォ!! 俺はどうせ負け犬だろうがァァァ! この

負け犬の意見ぐらいたまに聞けってんだよコノヤロォォォ!!」

 

「は、はぁぁぁい!!」

 

ヒナギクに似たようなことを言われたが後半は明らかに殺意がこもってたので慌ててその方向へと駆けだした。

 

「ったく・・・バレンタインなんて中止になっちまえよ」

 

頭をかきながらテルは歩きだした。

 

 

 

場所は変わり、歩は橋の下の壁に手を当てて項垂れていた。

 

(ていうか・・・私はバカなんじゃないかな?)

 

その姿はまるで上杉勝也が死んだときの朝倉南の姿によく似ている。

 

(せめてもう一度想いを伝えるくらいのことは・・・こんなチャンスはもう・・・)

 

ないだろう。これで自分の青春は終わった。 後悔が残ったまま灰色のまま終わるのだ。

 

 

そう考えていた時である。

 

「西沢さん……」

 

振り返るとハヤテがいた。

 

なんとテルの感も捨てた物じゃないらしい。

 

しかしビルを超えたり走っている車も飛び越えてきたというのは秘密だ。

 

 

「……ハヤテ、くん」

 

その顔を見たとき、ハヤテはどう言ったものか戸惑った。

 

歩が涙を浮かべていたからだ。

 

「あの……その…」

 

ハヤテが何から話したらいいか、そう思っていた瞬間。

 

 

がしっ。

 

「えっ?」

 

ハヤテの体が少しだけ後ろに傾く。 歩が前から抱きついてきたのだ。

 

「え…にし……」

 

「返事は…言わなくていいから……ただ…想いを伝えたいだけだから……」

 

しっかりとハヤテを抱きしめていた歩は本当にその場でハヤテの口から聞きたいことを言わせずに一つの小包を渡した。

 

 

「これを……受け取ってください…」

 

 

 

 

(私はきっと正しい選択をした……正しい選択をした……)

 

 

なんとこの会長。仕事始めてから帰宅までの道中、自問自答を繰り返していた。

 

小包のチョコを取り出し、チョコを少しだけ眺めるとひとかじりした。

 

(……にが…)

 

「あ、あの!!」

 

 

急に呼び止められたので振り返ると、そこには息を荒くしている歩がいた。

 

「さっきは…ありがとうございました!! それで…その…あの…」

 

 

疲れているから言いにくいのか、恐らくはハヤテにチョコを渡す手引きをしてくれたことの感謝だろう。

 

 

そうヒナギクは考え、笑顔で向き合う。

 

「想いは伝えられた?」

 

 

「は……はい!! それであの……お礼がしたくて来たんですけど…その、渡せるのがこれしかなくて……でもこれ…一度人に渡したので…その……」

 

 

チョコの形を確認して、ハヤテが最初に貰ったものだと確認して少し安心するヒナギク。

 

「お名前は?」

 

「あ!! 西沢です!! 潮見高校一年 西沢…歩…」

 

ヒナギクはそのチョコを受け取る。

 

「私は白皇学院一年、生徒会長の桂 ヒナギク。 これ有り難く受け取っとくわ西沢さん。 ではごきげんよう」

 

その凛々しい姿に歩は見とれてしまう。ヒナギクはそう言い終えると髪を翻して去っていく。

 

「……え? 生徒会長? 白皇の?」

 

 

2、3秒ほど遅れて歩が聞き返すが、すでにヒナギクは既に遠くまで歩いていたのだ。

 

 

(でもかっこいい人だな……あんな風にカッコ良くなれたら…ハヤテくんも振り向いてくれるかも……)

 

そんな願いが生まれ、自然と笑みが浮かんだ歩。

 

 

「そんなふうに男らしいところを見せるから、年々チョコが増えるのよ?」

 

「はっ!!!そういうことか!!!」

 

今までの一部始終を見ていたか、美希に言われてヒナギクはしまったという表情。

 

 

実は本日のこの歩とヒナギクのやりとりにおいて大きな誤解が生まれているのを二人は知らない。

 

 

 

一方主人公ズ。

 

 

「テルさん、愛ってなんですか?」

 

 

「……知らん」

 

 

一方ヒロイン。

 

「ナギ?これはなんですか?」

 

 

「鉄鍋のチョコレート包み……」

 

「食べごたえありそうですね……」

 

朝から学校を休んでまでチョコ作りに励んでいたお嬢様は失敗したようで。

 

 

2月14日は過ぎていったのだった。








後書き
チョコなんざもらえなくても別に死にはしないから
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。