ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第4話~一流への道もまず基本から~

「この善立 テル! 三千院家の執事として働いてやろうじゃねぇか!!」

 

そうテルが宣言した翌日。 執事としての第一日が始まった。

 

―現在朝の五時。

 

「テルさん朝ですよ、起きて下さい」

 

ハヤテはベッドに転がるテルを起こしていた。

 

「がぁぉ、ごぉぉ……」

 

だが、テルは豪快ないびきをかいて起きる気配が無い。

 

仕方なくハヤテは窓のカーテンを開けた。 眩い光がテルの顔面に当てられる。

「ん、くわぁ……なんだよ、かあちゃん今日は日曜だぜェ、ったくおっちょこちょいなんだから~」

 

 

「いつから僕はテルさんのお母さんになったんですか?」

 

眠そうな瞳はまるで死んだ魚のよう。 目をゴシゴシと擦りながらテルはあくびした。

 

 

「今日から執事としての仕事が始まるんですよ、 そんなんでどうするんですか?」

 

 

ハヤテはふぅとため息をつく。 テルは頭を掻きながら眠そうに言った。

 

「俺朝弱いの。 朝だと頭のなかスッカラカン」

 

(大丈夫かなぁ、この人……)

 

ハヤテは早朝不安に駆られていた。 こんなにもダラシがなさそうな人が執事としてやっていけるのかと。

 

 

 

─場所は変わり屋敷の一室。

 

「どうですかテル君? 」

 

笑顔でそう聞くのはマリアだ。

 

「最高にピッタリですよマリアさん」

 

テルは今、自分の姿を鏡で見ていた。

 

黒いスーツに似た服はハヤテと同じ執事服である。

 

「これはマリアさんが仕立てたんですか?」

 

テルがマリアに聞く。 マリアは笑顔で頷き

 

「はい、でも大体ハヤテ君と同じくらいだったので」

 

テルとハヤテの身長は大体同じで特に変える所はなかった。

マリアはやがて話を切り出した。

 

「では今日から執事の仕事が始まりますがやってもらう事は……」

 

と取り出したのは一枚の紙。 テルはマリアから紙を受けとり、顔をしかめた。

 

「これは?」

 

「この屋敷の見取り図です。 今日はまず掃除から」

 

「あの~マリアさん? 掃除ってこの屋敷全部ですか?」

 

淡々と述べるマリアにテルが顔をひきつらせながら聞く。

マリアは笑顔で

 

「はい♪」

 

と言った。

 

「いや、でもこの屋敷って部屋が数百とかあるんですけど……」

 

「やってくれますよね?」

 

マリアの屈託のない何かを期待している笑顔を見たテルは

 

「よっしゃあァァァ! 掃除だろうが何だろうがきやがれってんだコノヤロォォォ!!」

 

 威勢良く叫んだテルはダッシュで扉を開けて、出て行った。

そして善立 テルの多忙な一日が始まる。

 

「しかし、この屋敷はどうなってんだ?」

 

あれから数分、テルは屋敷のなかを歩いていた。

 

「部屋の多さときたらなんだコレ? 数え切れないし、プ○ステ部屋とド○キャス部屋に専用部屋までありやがる」

 

 

テルは渡された見取り図を見て、改めてナギが金持ちだと思い知らされた。

 

「だが―」

 

紙をポケットに突っ込み、瞳をキリッとさせる。

 

「ここで働かなければ俺に明日は無い! ラーメン屋の時みたくいかないぞ! レディィゴォォォ!」

 

そう言うとテルは掃除を開始した。

 

 

しかしこれがとんでもないことになることを彼は知らない。

 

 

「で? 実際のところハヤテ君はどうしてテル君を助けようと思ったんですか?」

 

「なんですか急に……」

 

 

時間は戻り、テルが部屋を出て行ったあと、マリアはハヤテに質問していた。

テルが勢いよく出て行ったので樫の木でできた扉が開けられたままである。

 

 

「だって屋敷にはそんなに使用人は必要ないのに……まさかハヤテ君、男についに手を出すようになったんですか!?」

 

「ち、違いますよ! 有りもしないことを言わないで下さい!」

 

ハヤテは慌ててマリアの言葉を否定する。 ちなみにナギはまだ爆睡中。

 

「僕はなんかテルさんが似たような境遇にあったからですし、お嬢様も誘拐しようとした僕をこうして雇ってくれたんです。 そう思うとほっとけなくて……」

 

「分からなくもないですが……」

(ナギがハヤテ君を雇ったのはナギがあなたに好意を寄せているからなんですが……)

 

心の中でマリアは呟いた。 そして何か思い出したかのようにマリアは口を開く。

 

「それよりもハヤテ君はテル君に掃除の仕方を教えましたか? 」

 

「そういえば……」

 

「大丈夫でしょうか? テル君は前の店を辞めさせられたのは料理と家事のあまりのひどさときいたんですが……」

 

しかし、二人とも実際にテルのカオスっぷりを見てはいないのでそこまで心配はしていない。 だから

 

「だ、大丈夫じゃないですか? いくらなんでも……」

 

「高級品の扱いも知らないだろうし、何よりあの性格ですから……」

 

「う~ん……」

 

年がら年中ダルそうに死んだ魚の目をしている男だ。 本人はいざとなったら輝くと言っているが

 

「そう考えるとやっぱ心配ですね……」

さっきとは全く逆の意見になったハヤテ。 それだけ不安要素は思ってたより多いのだ。

 

「ぼ、僕ちょっと見てきます!」

 

そう言うとハヤテは扉を開け、テルの元へ走っていった。

 

「なんか嫌な予感しかしませんね……」

 

一人になったマリアは雲行きの怪しさを感じていた。

 

(そうならないことを願いますが……)

 

そんなことを願ったがいやな予感は的中してしまうのである。

 

 

 

 

「どうしてこうなった……」

 

顔をひきつらせながらながら小さく呟いているのはハヤテだ。

 

ここは三千院家の一室。 テルの掃除を心配したハヤテだったが……

 

 

(マリアさん、どうやら遅かったみたいです……)

 

ハヤテは目の前の惨状を見て辺りを見渡した。

 

高級品のカーペットはどんな洗剤を使ったのかは知らないが白い固形物が付いており、ハリネズミの背中みたいに逆立っていた。

 

絵画は床に落ちており、その他の壷は割れてはいないが本来の壷の色ではなかった。

 

(この壷って確か青色の花が描かれていたのに……なんで紫色?)

 

これは予想以上だ。とハヤテは考え、すぐさまその部屋を飛び出した。

 

「テルさぁぁぁぁん! 何処ですかぁぁぁぁ!」

 

もはや色々とカオスだ。 このカオスがこれ以上拡大する前にテルは止めること、それがハヤテの使命だと直感した。

 

 

 

一方そのカオスの源はというと。

 

「ふぅ。 掃除って素晴らしいな……」

 

輝かしい笑顔をしながら箒掃除をしていた。

 

「やっぱ、綺麗にするってのはいいよね~ 同時に心も綺麗になっていくみたいな……」

 

どうやら自分のやっていた掃除が当たり前だと思っているらしい。

 

「テルさぁぁぁぁん!!」

 

「ん? どうしたハヤテ、タンスの角に小指でもぶつけたか?」

 

テルは息を切らしているハヤテを見る。 ハヤテはテルの目の前に手に持っている何かを差し出す。

 

「何だコレ?」

 

ハヤテが持っているものは銅の色をした塊だった。

 

「テルさん、これは屋敷にあったコ○ン像なんですが……どうやって手入れしたんですか?」

 

ハヤテはテルに恐る恐る聞いた。 ハヤテの手にある銅像だったものは頭らしき部分が半分以上ドロリと溶けていたのである。

 

「えーっと、まず汚れを落とすために拭いたんだ」

 

テルは顎に手を当てて思い出しながら話す。

 

「……何で拭いたんですか?」

 

「ヤスリで……」

 

「それじゃキズだらけですよ!!」

 

「え、何?違うの?削れば新しい面が出てきて綺麗になると思ったんだけどよォ」

 

 

テルにとって銅像は固いからそれなりに削れるもので拭くことがベストだと思ったらしい。

 

「でもこれだけじゃこんな風になりませんよ。 後は何をしたんですか?」

 

「えーっと、拭いてたらキズができたから溶解液使って新しい面を作りだそうと……」

 

「もうそれ掃除じゃないです!! 掃除に溶解液使うってどんな掃除の仕方ですか!?」

 

 

―ダメだこの人、早くなんとかしないと……

 

ということを頭の中に浮かべるハヤテ。 それほどテルのカオスっぷりが身に染みて分かったのだ。

 

 

「やはりそうなってしまいましたか……」

 

場所は変わり三千院家屋敷内。 テルとハヤテがマリアにテルのカオスストーリーを話していた。

 

マリアは苦笑いで聞いていた。

 

「この屋敷にはそんなに高級品があるんですか?」

 

テルがマリアに聞く。

 

「そんなにというか全部です。 この銅像で数十万、あの植物で数百万、この壷だけで数千万……」

 

「あ、もういいです」

 

淡々とマリアが述べていく金額にテルはすぐさま話をストップさせる。

 

「あの部屋とか直すの大変だったんですから……」

 

 

ハヤテはふぅとため息をつく。 先ほどのカオス部屋は全てハヤテが修復した。 しかしハヤテでもかなり労力を有した。

 

「フッフッフ……俺は細かい作業が苦手だからな」

 

((大丈夫かなこの人……))

 

 

自慢するべきではない事を平然と言うテルにマリアとハヤテはそう思った。

 

「いや、でも次からは何とかなりますよ。 焦らずいきましょう」

 

「そうだな、ここでやっていくには最低限覚えておかなきゃならんことがあるし……俺も今から心を入れ替えていくわ」

 

ハヤテのこれから『じっくりやっていこう作戦』にテルも仕方なくだが同意。

 

(先輩と後輩みたいですね……同年で同じ仕事やっている人は少ないからハヤテ君も楽しそうですわ)

 

二人を見ながらマリアは心の中で呟いた。

実際ハヤテのように執事をやっているものは少ない。

 

特に同い年で同じ屋敷でやっているいわば同僚仲間である。

 

今の所の男友達もレンタルビデオ店の店長とかそのくらいか

なんにせよ友達ができるのは良いことだ。 とマリアは安堵の笑みを浮かべた。しかし、その笑みも数分後には崩れることになる。

 

 

「………」

 

ここは三千院家の食堂。 マリアとハヤテは現在のテルの行動に愕然としていた。

 

「………」

 

 

ナギに関しては額に青筋を浮かべいる。

 

「ヤベ、このベーコンうまっ、クセになるわ」

 

言っておこう彼、善立 テルが食べているのは自分の食事ではない。 ましてやマリアやハヤテのでもない。

全てナギの昼食である。

 

「おい、テル」

 

「あん?」

 

テルはパン食べながら体から怒気のオーラを放つナギを見た。

テルとしては何故ナギがそうなってるか分からなかったのでパンを食べながら続けた。

 

「どーも、昨日配属されました三千院家の執事、善立 テルです。 お嬢様、何か不備でもございましたか」

 

「不備はお前の頭だァァァ!!!」

 

ナギの怒号と共にハンマーが豪快にテルの顔面を捉えた。

衝撃でテルは乗っていた椅子ごと吹っ飛ばされた。

 

「イタタタッ! 鼻折れたァ! 今絶対鼻折れたァ!」

 

吹っ飛ばされた時に後頭部も打ったのか鼻と後頭部をテルは抑えながら床を転がった。

 

「さぁて、このアホはどうしてやろうか……」

 

ナギがハンマーを持ち替えたりしている。 テルは鼻を押さえながら

 

「どうしてやろうかってもうやってるじゃねーか!! 俺はまだ朝、なんも食わないで昼を迎えたんだよ!! 人間1日一回以上は食事しなきゃいけねーんだぞ!!」

 

「誰が決めたそんな事! 1日何も食わずとも生きていけるぞ!!」

 

「お嬢様! それはダメな考え方です!!」

 

二人の間にハヤテが割って入る。 これまでのナギを見てきているのでそんな自堕落な生活は送らないと思っているが起きてきたのは昼だ。

 

その内、夜に起きてくるということもあり得る。

 

 

お互いが少し落ち着いたのを見て、ハヤテが話を切り出す。

 

「テルさん、主と使用人は一緒に食事はしないんです」

 

「な、なんじゃそりぁぁぁぁ!!」

 

テルは太陽に吠える位驚いた感じで叫んだ。 ナギは未だに目をつり上げている。

無論、彼がこうなるのも無理はない。 昨日配属されたばかりということもあるが何より彼は頑丈さを取ればそこらの一般人と変わらない。

当然、執事などという貴族絡みの世界との縁は全く無いのだ。

 

 

ちなみにハヤテとマリアはナギが食べ終わった後に食べている。

 

「私も堪忍袋の緒が切れた!! お前なんぞクビにしてくれるわァァァ!!」

 

「ちょっと待てェェェ! 権力横行にも程があるぞォォォ!! どこのお嬢様だコノヤロォォォ!!」

 

「実際に私がお嬢様だ!!」

 

「そうだった……世も末だなオイ」

 

「カーペットは汚すわ、銅像は溶かすわ、カオスな掃除にも程がある。 お前にこの仕事が務まらない理由がこれ以上あるか!!」

 

ナギは指ビシッとテルに指した。

 

「く、お嬢様権力に物を言わせやがって……」

 

核心突かれてしまってテルは反論する事もできない。

 

 だがナギの攻撃はまだ続く。

 

「三千院家の使用人は完璧でなければならない! お前は掃除すら出来ていない! 故にここで働いていく資格は無いのだ!」

 

「ぐぼおぉぁぁぁ!!」

 

ナギの言葉にトドメを刺され、テルのライフはゼロになった。 膝ばかりか床に手をつけて顔を下げてしまっている。

 

「さぁ、出て行くがいい」

 

もはや一方的なワンサイドゲーム。 遊○王で言うならライフゼロからの追加攻撃だ。

 

ここに無惨にも一人の少年の生活が閉ざされようとしていた。

 

 

 




後書き
どうも。 まぁ執事の話ですし、こういった執事の仕事してるっていう日常の話もちょっとずつやっていければなんて思ってます。
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