ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
短編第三弾。
ガチャ、ガチャ。
「え? 潜入捜査がしたい?」
皿とスプーンが鳴り、食事をしていた木原は目を点にした。
その木原の言葉に黒髪の少女、黒羽が答える。
「現在の三千院家の内部を詳しく把握しておかなければならない」
「三千院家詮索、大きく出たもんだな。 確かにこれからの為に少なくとも必要な情報だからな……」
何度も奇襲を繰り返していくのは得策ではない。
攻めるだけが戦いではないのだ。 相手の住んでいる場所から行動パターンを割り出すことも重大な要素だ。
戦闘狂の黒羽にしてはなかなか名案である。
「それじゃあ今すぐ潜入しに行きますか」
「待って」
久しぶりにやる気を出す木原を黒羽が止める。
「潜入は基本単独、しかもあの屋敷には強力な執事が二人、極めて危険」
黒羽が言うのももっともである。 三千院家には高い金をかけたセキュリティがあるが、それよりも厄介な執事が二人いる。
「確かに、あの二人が居ればS〇COMも必要ないしな……」
「だから潜入に適任な人材を派遣する」
「え……」
その一言に木原は固まる。 自分と黒羽を除いて、仲間と呼べる人物は一人しかいないのだ。
『やー!』
「オゥフゥッ!」
直後、木原の体が突然と現れた小さな黒い影の衝撃により大きくよろめいた。
『やー!』
健気な声ともに黒羽の頭へと着地したのは身長10センチほどの物体、チビハネであった。
「私はこの子が適任だと思う」
木原を空中廻し蹴りしたチビハネを特に咎めることもなく、黒羽は頭からチビハネを降ろした。
「・・・どうして床に倒れているの?」
黒羽は地面を転がって返事もしない木原をじーっと見る。 木原はゆらりと身を起こした。
そしてチビハネの頬をぐいっとつかんで引っ張り上げる。
『に”ャー!』
「このチビ人形がぁ! 俺よりちっこいくせに生意気なやつだなこの野郎!」
グイグイと頬を引っ張る木原だが、チビハネも木原の親指にかぶりつく。
『「ぐぎぎぎぎいぎぎぎぎぎぃ!!!!」』
お互いに声を痛いという声を挙げずに唸るだけで済ませる。 だがその我慢比べもすぐ終わりを告げた。
黒羽が二人の間に割って入った。
しかしここでみなさんにしないで頂きたい。 ここで黒羽が平和的介入をするのかというとそうではないのだ。 特に話し合うということをする訳もない、彼女が行うその介入の仕方は・・・。
「やめて」
「ぎゃっふっ!!」
バチン。 乾いたような音が響く。 悲鳴を挙げたのはまっさきに木原だった。
黒羽が行なった介入方法。 それはただのデコピンである。
ただのデコピンではなく。 人一人が軽く吹っ飛ぶほどのデコピンだ。
「黒羽サン、ゴメンナサイ、許してください。 悪気があったわけではないです。ただちょっと調子に乗ったっていうか・・・スんませんでした」
なかなか強力な一撃を受けた木原は少し涙目になりながらその涙を見せることなく土下座で隠した。 上下関係はこれを見れば明らかである。
『やー!』
一方のチビハネは黒羽の肩の上で大いに笑っている。 『やー!』という言葉が『ざまぁWW』と浮かんでくるのは容易に想像ができた。
このちっこいの、もといチビハネはヒナ祭り祭りに参加した夜から黒羽の作り出した、謎の人形である。
見た目はもう黒羽がねんどろいど化したとしか言いようがない姿だ。 正確は黒羽本人に似ておらず、酷く元気、酷く五月蝿く、酷くわがままである。
ちなみに、身体能力もバカみたいにあり、木原との引っ張り合いも互角である。
「一体なんなんだよ、コイツ・・・」
「わからない。 黒曜が起こしてしまったバグ、イレギュラーの可能性が高い」
本来、黒羽が使用した黒曜の武器はほとんどが発動した後に残ることなく消滅する。 だがこのチビハネは何故か消滅しないのだ。 これが明らかに異常な状態だということを物語っている。
「この人形は自身の自我をもって行動している。 これは極めて奇妙」
「人形・・・かぁ、まぁ確かに」
人形と二人して言わしめているが、なぜか肌は人の肌のように柔らかく、生きているように見える。だがこのチビハネ、心臓の音がしないのだ。
それがこのチビハネを人形と言わせている理由である。
「しかし、これは小さいという利点を生かした情報収集活動が可能ということを表している。だからこの子が適任だと判断した」
「なるほどね。 分かったよ、そこまで言うなら、コイツに任せるしかねぇわな。 おいチビ、無理して帰ってこなくてもいいんだぜ?」
嫌味たらしくチビハネに言い放つが対してチビハネはジト目で木原を見た後。
『ペッ』
べちゃ。
「・・・・」
無言のまま、顔に吐かれた唾を拭き取る木原、そして。
「調子乗ってんじゃねェェェぞ三下ァァァァァ!!!」
この抗争はこちら側ではお決まりのものとなりそうだ。 そして再び、黒羽がワンショットキルのデコピンを発動させて事態は事なきを得たのだ。
―――――――――――――――――
AM8:00 三千院家。
「テルさん、そこのフォークとってください」
「ほい」
朝の小鳥も囀る声が聞こえてきそうな清々しさ。 三千院家食堂では使用人であるマリアやハヤテ、そしてテルが自身の食事を済ませていた。
ナギは使用人たちよりも食べるのが必然と先になるので既に終えて一室で日曜のテレビをダラダラと見ているに違いない。
「おお、今日の朝食は結構力入ってるなー」
「そうですかテル君、お代わりはありますから遠慮なく食べてくださいね?」
テルは箸の動きを止めることなく、三千院家の自家菜園から作られた漬物を口へと運ぶ。
ハヤテは三千院家の広大な湖から釣れている紅鮭を食べていた。
ここで言うのもなんだが、野菜や魚介類などの食材は三千院家の敷地内ならば困ることはないのである。
何故か湖には全4.5メートルは超える淡水魚だっているのだ。
「こうやってしっかり食卓に並んでいるご飯も今だけだと思うと切ねぇな」
「そうですね。 そのうち自分一人で用意しなきゃなりませんからね・・・どうして今そんな話を?」
ハヤテの問いにテルはたくわんをかじりながら続けた。
「いや別にな? 現役高校生が大学に行くために地元を離れて一人暮らしをすると自分の作った料理と大量に並んでいたあの頃と比べちゃうんじゃねぇかと思ってな」
「う~ん。 僕は別に困りませんけど、確かに一人暮らしの人って自炊大変そうですから」
「そうなんですか?」
ハヤテの言葉にマリアが反応する。
「まぁマリアさんはあんま知らないと思いますけど、大学生にとっては三千円は一万円と同じくらいの価値へと変わってしまうほどの環境の変化があるんです。 買い物も自分一人でやらなきゃいけないし、チーズの価格が低いのを狙って別のスーパーを巡るのも当たり前になるんです」
「ところで大学生って・・・まだ先のことを言われても仕方ないんですけど」
「そう言うなよ。 俺もお前も後二年くらいすれば白皇卒業するんだ」
「まぁ、テル君はちゃんと三年間在学できるか際どいラインですけど・・・」
「そ、それは・・・努力します」
向かいでのマリアの呟きにテルがぎくりと固まる。 この前の期末テストも、実は一週間徹夜で望みなんとか赤点ラインギリギリを死守したのだ。
「あの時はさすがに死ぬかと思った。 当日自分に自己暗示かけたのが明暗を分けたな」
「それだったら普段から授業で寝ないで勉強してくださいよ。 テスト期間間近になってノート写させて苦労するのは僕なんですから」
「涼宮ハ○ヒはボーッと黒板を眺めていれば頭に自然と内容は入ってくるって言ってたぞ」
「テルさん、それは頭のいい人の天性的な才能ですよ」
どこまでも勉強というのが嫌いなテルに対してハヤテはふぅと呆れながらも突っ込んだ。
「まぁ、こうしてテスト明けな訳ですよ。 これで俺を縛る鎖ってヤツはもうないわけですよ。 俺はフリーダムなわけですよ!」
テスト明けの高校生はもの凄いテンションが高いというがこれが典型的である。
「だから今日はぐだって寝ます! 二人とも、掃除は任せた!」
「「待てい」」
同時にマリアとハヤテの手が食器を片付けてさっそうと部屋から出ようとするテルをキャッチする。
「またぁ♫ 逃げちゃダメですよテル君、そんな身勝手なことが使用人の分際でできると思ってるんですか?」
人をも殺せそうな笑顔がテル心臓を射抜く。 胸キュン的な意味でドッキリしたわけじゃない、ドッキリはしたが、思わず呼吸も止めてしまいそうな状態になるマリアの笑顔は・・・怖い。
「い、嫌だなぁマリアさん俺は最初から冗談で言ってたんですよ・・・ハハ」
絶対的上下関係にあるマリアにそんな願いも叶うはずも無く、力なく笑うテルであった。
しかし、そんな日曜日の三千院家。
テルは自身の身に降りかかる『不幸』を未だ知らない。
『やー・・・』
そしてその『不幸』の源は既に侵入しているのだった。
後書き
チビハネちゃん、マジ天邪鬼。