ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

68 / 150
前書き
なんだかんだこの時期が歩の全盛期だと思うんですよ。


第68話~普通とお嬢様~

さてさて、空の人外も陸の執事、列車のメイドと生徒会長の話を一旦止めて、別の場面へと切り替えたいと思う。 ここは海沿いの一般道路である。 午前中だというのに車が一台も通らないのは何か理由でもあるのかと思うくらい静かな道だ。

 

その道路を進んでいるのは一台の自転車だ。 オレンジ色のスポーツ型の自転車、マウンテンバイクはマナー悪しの二人乗りを行なっている。

 

ナギと西沢 歩だった。

 

『やー』

 

(こら、お前はもう少し静かにしてろ)

 

小さな声でナギは自身の背中につぶやく。 現在旅の同行者だったチビハネは歩のバックの中に入っている。 チビハネの存在を歩は知らない。

 

「・・・ちょっと」

 

後ろでそんなやり取りしてると前にいる歩から声をかけられた

 

「さっきからもの凄い黙り込んでるけどさ、大丈夫なの? どこか気分悪かったりする?」

 

「するか馬鹿。 ただぼんやりと海の方を眺めていただけだ馬鹿者め」

 

「な! そんな言い方はしなくてもいいんじゃないかな?」

 

しれっと返すようにナギは言うと今度は歩が不機嫌となった。

 

「迷子になっていたところを私が拾ってあげてなかったらどうなっていたことか・・・」

 

「別にお前がこなくてもハヤテがやってくるから別にいいのだ。 お前が来てすごいショックを受けたのだぞ? そうだ。 その時の気持ちを明確に表すならこうだ。 大物芸能人が来るみたいな広告を見て小さなホールに行ってみたらやって来たのはまさかのゲッツだったみたいな」

 

「な、なんかよくわからないけどもの凄いがっかりさせちゃったのは確かなようだね、うん」

 

ことの始まりはこうだった。 何キロ漕いだのだろうかと疲れていた歩がラーメン屋に来たとき、そこにはナギが居たのだ。 

 

ちょうどラーメンを食べ終わった後だったのか、店主からは『まいど』と声をかけられていたのを覚えている。

 

そしてぞんざいに扱われながらもナギの事情を聞き取るとこれがなかなか放っておけなかった状態なので今しがたナギを自転車に乗せて運んでいるという状態である。

 

「まったく、もう少し早めに言ってくれれば前の駅で家の人と合流させるとかできたのに・・・もう戻ることなんてできないよ?」

 

「う、うるさいな~ いいだろ別に、私だって別にただドジッたわけじゃないのだぞ? あの時はもう目の前の駅弁に目が眩んでいてだな・・・」

 

「はい」

 

自分の失態をなんとかごまかそうとしていたナギに歩むが後ろを向きながらあるものを手渡した。 黄色いオープン型の携帯だ。

 

「これでお家の人と連絡取りなさい。 携帯の使い方くらい分かるでしょ?」

 

流石にそれくらいできる。 馬鹿かこのハムスターは・・・。

 

と思っていたナギだが改めて歩に聞いた。

 

「なんか意外だな。 ここまで気が利くとは思ってなかったぞ」

 

「なんか良いことしてお礼言われてるのにもの凄い怒りたくなるのは気のせいかな?」

 

まったく。 と歩がため息をつくとそのまま話を続ける。

 

「だって放っておけないんだもの。 今頃ハヤテくんだって心配してるだろうし、自分のお嬢様の安否が一番気になるものじゃないの? 執事ってさ」

 

「む、むぅ・・・」

 

「それに放っておいたらなんか爆発騒ぎに発展する気がするんだけどね?」

 

「私はテロリストか!? ・・・いや、そうじゃなくてッ!!」

 

そしてナギは少し言葉詰まる。 この合間に歩が疑問に思ってゆっくりと後ろを振り向くと丁度ナギが口を開いた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

なんかもの凄い顔を赤くしたナギがそこにはいた。 ぞんざいに扱う相手だとしても助けられたらしっかりと礼を言うナギである。

 

「・・・普段からそれくらい素直ならもっと可愛げがあるのに」

 

「なんだと―――――!!」

 

「わぁ――――! 後ろで暴れないでよ――!」

 

身を揺らされたことにより自転車は右往左往とバランスを失うが、なんとか歩が自力で平常運転へと復活させる。

 

「もうっ! さっさと電話したら?」

 

「ふん! ハムスターに言われるまでもないわ!!」

 

と、反抗するようにナギが携帯を開くと画面の下側に一枚のプリクラがあった。 

 

ん? まぁハムスターも一応女子高生だしプリクラくらいやっているか。

 

と考えていたナギだったがそのプリクラに写っている少年を見て思考をフリーズさせる。 なぜならそのプリクラに写っている少年は自分の執事、綾崎 ハヤテに他ならなかったからだ。

 

「これはどういうことだ―――!!」

 

「わぁあああああ!!」

 

突如の大声に歩は身を震わせて驚いた。 歩は慌てて振り返る。 そこには鬼のような顔をしたナギがいた。

 

「これだコレッ! このプリクラだッ! なんでお前がハヤテのプリクラを持っているのだァ!」

 

「わー! なに人のプリクラ勝手に見てるのよー!」

 

「この際だから言っておくが、ハヤテは私の物だからな!」

 

「ふ、ふーんだ! わがままなお嬢様のことなんてすぐに忘れちゃんじゃないかな!?」

 

「な、何をー! お前はアホの類だからな、なんせ自転車で伊豆まで行こうとしてるくらいだからな! ハヤテはアホの女は嫌いだぞ!」

 

「うるっさーい! いいから早く電話しなさいよー!」

 

歩が吠えるとナギはようやく大人しくなり渋々と電話をし始めた。 歩はそれを見て深い疲れを込めたため息をついた。 

 

(はぁ、そう言えば懐かしいな。 はやて君とプリクラ撮ったの・・・)

 

先程の口論の元となっていたプリクラのことを思い出していた歩。 そう、確かあれはバイトに行く途中のハヤテを無理に引き止めてまで撮った一枚だったはずだ。

 

 

今のところ世界で一枚しかないものである。

 

(あの時はバイト行っちゃう記念とかで無理に撮ってもらったんだよなー。 さっき三千院ちゃんにはああはいったけど私のこの壊滅的な頭脳・・やっぱ頭悪い女は嫌われる運命にあるのかな? その為に温泉の効能にすがりに来てるなんて・・・誰にも言えないじゃない!)

 

大丈夫です。 温泉の効能に釣られてノコノコとやってきているアフォ共はあなただけではありませんよ。

 

「おお! 流石だなハヤテ」

 

「え?」

 

え? 今ハヤテ君って言った? 言ったよね?

 

過去を振り返っていた歩はナギの電話の言葉に一瞬で現実へと戻ってきた。

 

「ちょっと、もしかしてハヤテ君ここに来るの?」

 

「ん? 当たり前だろう。 ハヤテは私の執事だ。 私のピンチにはすぐに駆けつけるさ・・・途中で電車から身を投げたらしいけどな・・」

 

「ええー!? 怪我してないの!?」

 

「うーん。 まぁハヤテは大丈夫だったが、もう一人は・・・重症だ」

 

「ああー」

 

なるほど。 と、歩は理解する。多分、重症なのはテルの方だろう。 だがそれよりも気になることが歩にはあった。

 

(しまったな~ハヤテ君に会えるのは嬉しいけど私ジャージだよ・・・もう少しマシな服来てくればよかったよ!!)

 

ああ、もうこのままこの目の前の海の中に飛び込んで死にたいと考えていると歩たちの側を黒い車が通った。

 

(・・・?)

 

歩はこれに違和感を覚えていた。 見た感じは普通の黒い車だ。 しかし、普通なら通り過ぎていくところをわざわざ速度までこちらに合せて尚且つ横に付くようにしている。 

 

これが俗に言う不審者ではないかと思っていた時に、不意に車の窓が開いた。

 

ゆっくりと開いていく窓。 その窓越しに見えたのは細長い黒光したモノ。

どう見ても銃にしか見えない。 というかこれ銃だろ。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「あ! こら! いきなり飛ばすな! 携帯が!!」

 

「電話なんかしてる場合かー! つーかなんぞアレェ!!」

 

歩は気付けばすでにペダルを漕ぎ出していた。 いや、漕ぎ出すというより逃げ出していたというほうが正しいか。 ただその爆発力は凄まじく、今なら世界で名を馳せたウ○イン・ボ○トに匹敵するくらいのスタートダッシュだった。

 

その一方で、自身の携帯が犠牲になってしまったということを歩は分かっているのだろうか。

 

「いや、私はお前が何を見たのかさっぱりだ・・・アレって?」

 

と、丁度速度を上げて追いついた車が再びナギたちの横に付く。 中にいたのはまぁ不審度Maxの覆面、全身スーツの男四人。

 

 

写ったのは四人組の男たちだった。 何故か帽子を被って顔が分からないように黒い覆面を付けていた。

 

――わーい、ビックリするほどの殺し屋ルックなんだけど仮装パーティの帰りかなんかかなー?

 

――きっとそうじゃない? 手にもっている銃がもの凄い気になるけどアレきっと手品の道具だよ。 うん、中から鳩とかでてくるんじゃないのかな?

 

「あのー、スイマセン・・・我々、殺し屋なんですけどもー。 三千院 ナギはどちらで?」

 

言っちゃった。 言っちゃったよ!コイツら自分で自分のこと殺し屋だって言っちゃったよ! 隠す気zeroだよ! 証拠隠滅どころか、足跡付ける気満々だよ!

 

と、二人は同時に心の中でこの殺し屋たちにツッコンでいた。 一方で、殺し屋の四人はなにやら話し合っている。 きっと良くないことに違いないが。

 

「おいおい、特徴はツインテールって書いてあるぞ・・・うーん。でも両方ツインテールだしな・・・」

 

「でも片方のツインテールって微妙じゃね? どっちかというと金髪の方がナギじゃね?」

 

「いやいや、お前ツインテールの何かを理解してねーよ。 ツインテールはツインテールなんだよ。 髪結んで二つに分ける。 そこには長さも何も関係ない。 ツインテールに境界線なんてあってはならないんだ」

 

「うん。 取り敢えず・・・二人ともやっちゃうか!!」

 

「どっちにしろ殺る気満々――――ッッ!!!」

 

最後に☆マークがついたような気の軽さで男が発言したとき、歩は本日二度目の世界最速のスタートダッシュをして逃亡していた。 

 

(流石三千院家のお嬢様! どうしよう!本当に殺し屋に狙われてるんだ――!!)

 

(ていうか携帯落としちゃったけど・・・)

 

(うわーん! 本当にどうしようー!)

 

生死をかけたカーチェイスの始まりである。

 

 

 

「テルさん、早くしましょうよ! この道をまっすぐ走ればお嬢様たちがいるんですよ!?」

 

「お、おい、お前・・・今の俺の状態に本気で言ってるのか?」

 

ナギたちがデッドチェイスを繰り広げている中、ナギたちが通った道路をたどっているハヤテとテルの姿があった。 

 

「さっきマリアさんから電話があったんです! とても親切な人の自転車に乗って運んでもらっているって! だから急ぎましょうよ!」

 

「・・・・・・・」

 

もの凄い急ぐのはわかる。 何といっても自分の主だ。 しかもナギのことなのでいつ殺し屋に襲われているかも分からない。 執事である自分たちがいかないことに何ら間違いはない、間違いはないのだが・・・。

 

「というかテルさん、さっきから生まれたてのヤギのような歩き方してますけど・・・それに頭からそんな血を出すなんて。 どこか調子でも悪いんじゃないですか?」

 

――コイツ、この状況見て何ら思うことがないのか。 

 

キョトンとした表情のハヤテを見て、心の中でテルは明確な殺意が湧いた。 電車を無理やり降ろされて(超強制物理的)、コンクリに叩きつけられて無事に済むはずがない。 ハヤテは無事でもテルにはハードルが高すぎた。

 

そんなオーバーキル状態にある彼にハヤテはこういった。 さぁ、走って行きましょう、と。

 

まず最初は歩いていたが、ハヤテは遅いと見たかテルの手を取って走った。 もの凄いスピードのために一緒に走っていたテルは遂に力尽きて、最終的にはテルは強引に引き摺られるように移動していった。

 

それでもめっちゃ早い。 だけど早い分、テルに当たるダメージは本当は深刻だった。

 

どうやらナギのことになるとハヤテは周りが見なくなるらしい。 こんなことで実害を被っていたらこちらの身がもたない。

 

「もしかして・・・僕のせいで結構ヤバイ状態だったりしますか?」

 

「当たり前だよォォォオォ!!」

 

「いや、テルさんは僕と同じ次元の人間かと・・・刺されても平気でしたし・・・」

 

「メッチャ痛いからッ! アレ実はただの痩せ我慢だから!! 撥ねられても飛び降りてもケロッとしてるお前の方が別世界の人間なんだよ!!」

 

いかんせん、テルとハヤテでは耐久力が違う。 ハヤテが耐久振りのハピナスであるならば、テルは何も耐久ふりしていないゴローンぐらいの耐久の違いがあるのだ。

 

「分かりましたよ・・・じゃあ少しペースを落としますね」

 

「そういう問題じゃねんだよ」

 

「あ、マリアさんの電話番号が表示された携帯を見つけました!」

 

「聞く気もzeroか。 よろしい、後で覚えてろよ」

 

最近テルに対してハヤテの扱いが酷い。 なんかハヤテが外道と化している気がするが気のせいだろうか。

 

そんなことを考えている間にハヤテはその親切な人間の携帯を調べ始めた。 こいつ、本当にデリカシーがない。

 

(このプリクラってたしかあの時の・・・ってことはこの携帯って西沢さんのだよな・・)

 

画面の下の方に記憶あるその一枚にハヤテは動きを止めた。 少し考えてそこで携帯をしまう。

 

「持ち主はわかりました。 それではすぐにでもお嬢様のところへ・・・」

 

『待てー! 綾崎 ハヤテーッ!』

 

どこからも聞こえた甲高い声にハヤテとテルが同時に聞こえた方を見た。 見たのは平面ではなく、空だ。

 

響いた叫びとともにこちらに飛来する物体が見えた。 空を切り裂くような勢いで飛来してくる物体はでかい。 慌ててその場を離れる。 

 

『チッ・・外したか』

 

飛来した物体はなんと電柱だった。 二本の電柱を抜き取ったかのようなあとを残している。 そして恐らくその電柱をこちらへと『飛ばした』であろう人物は静かに電柱の上に降り立った。

 

「あなたは・・伊澄さんのところの!!」

 

そこに現れた小さな人物は鷺ノ宮 銀華であった。

 

「おお、いつか刀渡してくれたやつじゃん」

 

「アレ? お前あの時の小僧?」

 

お互いが顔を合わせて驚愕する。 以前、黒羽との再戦のときに対抗策を講じてくれた人物だった。

 

「あの時は顔を見せてなかったから知らなかったけどお前がガキだったとは・・・」

 

「いいえテルさん、あの人は見てくれはアレですが実質は御婆ちゃんなんですよ?」

 

「え? マジで?」

 

はい。とハヤテは頷いた。 実はハヤテ、下田に行く前に一度だけこの銀華と遭遇している。 襲われた上に血を限界ギリギリまで吸われるという被害を食らったのは今では良い思い出だ。

 

(そう言えば一回だけもの凄いやつれて帰ってきた時があったよな・・・)

 

そんなことを思い出していたテルであった。 今思えば、あれは献血というレベルを超えていた気がする。

 

「なにやら急いでいるようじゃないかえ? 三千院の執事よ」

 

銀華が右手にクナイを構えるのを見るとハヤテは身構えた。 しかし、ハヤテ本人に戦闘の意思はない。

 

「お嬢様と西沢さんが大変なんです! だから退いてください! ここで足止めをされるわけには・・・ッ!」

 

ハヤテの「ナギ」という言葉に銀華は反応したがフッと笑い。

 

「帝のあの孫娘か。 あのクソガキの孫など知ったことか・・・それよりも今日こそお前の血を伊澄に・・・」

 

ジャラ。 と銀華の袖口からクナイが数本垂れる。 ゆらゆらと揺らしながらこちらを伺いながら笑みを浮かべている。

 

(くそっ! こんなことをしている場合じゃないのに・・・!!)

 

焦ったハヤテは考える。 出来るだけ早くナギたちの所にたどり着かなければならない。 話し合いで応じる相手ではない。 もうその時点で半ば戦闘は避けられないものとなっている。 そうなれば時間がかかるのは必至。

 

仕方なく戦闘に応じようとしていたその時だった。

 

「なぁババア。 なんで伊澄に血を飲ませる必要があるんだ? 何? そんな趣味あるのお前ら」

 

テルだった。 さらっと告げる一言に銀華は笑って捨てる。

 

「なにも殺すまではいかん。 今回は伊澄が元気になるにはコヤツの血がどうしても必要なんじゃ・・・」

 

なにやら深い事情が関わっているようだ。 そして銀華は向き合い言った。

 

「なんとしても、伊豆にいる伊澄に届けねば!!」

 

え? とハヤテとテルが反応した。 そしてハヤテが銀華に言う。

 

「えっと・・・僕たちも今日そこに行く予定なんですけど・・・」

 

「なぬ?」

 

ハヤテの言葉にキョトンとするのだった。

 

「あれ、ババアも伊豆いってんの? じゃあもう解決策は出てんじゃん。 俺らがコイツの血を献上させる代わりにちょっとババアに手伝ってもらうってことでいいんじゃね?」

 

「え? なんかもう僕が生贄にされること前提にしてませんかソレ?」

 

「うん、冗談抜きだぜ」

 

まるでこれまでの仕返しをするようにテルはニヤリと笑みを浮かべる。 それももうもの凄いどす黒いヤツだ。

 

「まぁ今回は俺の顔を立ててくれないか? この前は大事な孫娘をちゃんと手助けしてやったんだからな」

 

「クッ、なかなか外道なやつ・・・普通主人公はそんなこと自分で言わせないで他人に言わせるものだぞ!!」

 

銀華が悔しそうにクナイをしまった。 テルはへらっと笑って返す。

 

「生憎、俺は普通の主人公じゃないんで」

 

自分で言うことじゃないだろう。 と思ったのはハヤテだけではないだろう。

納得してしまったか、銀華は嘆息ついて地面へと飛び降りる。

 

「よっと・・・では向こうにつくまでは休戦という訳で良いな」

 

「ああ、それでいい。 早くやればそれだけコイツの血が早く飲めるからな」

 

「二人とも、なんか僕の事はお構いなしに話を進めていますね」

 

もうこれ以上は何を言っても意味がないと感じたか、ハヤテはその光景を黙ってみているだけであった。

 

 

 

 

「ぜー!ぜー! な、なんとか逃げ切った・・・」

 

息を切らしながら自転車をこいでいた歩は一つの危機感を覚えていた。 先程の殺し屋たちを撒くことには成功はしたものの、この通りに体力をかなり消費してしまっていた。

 

果たしてこのまま伊豆・下田までたどり着けるだろうか。

 

「お前、大丈夫か? そんなに疲れていて本当に下田までたどり着けるのか?」

 

「うるさいな―――行くっていったら行くの!」

 

ナギに頭の中のことを勘ぐられ歩は似つかわしくない意気地を張った。 しかし、撒いたと言っても相手は車だ。 すぐに追いつかれるかもしれないために油断も出来ない。

 

「まったく、こんな自転車なんか捨てて電車で行けば良いものを・・・」

 

「そういうわけにも行かないの!! この自転車、高校入学の祝でお母さんに買ってもらったものなんだから」

 

お母さん? というその単語にナギが僅かに遅れながらも反応する。

 

「女の子の入学祝いにマウンテンバイクっていうのはどうかと思うけど・・・一応大事にはしてるのよ?」

 

――――何かあったら私が星になって、お母さんがあなたをちゃんと見守っているわ。

 

(そうか。 これはハムスターと親の絆か・・・)

 

歩の言葉にナギは昔に自分の母が言っていてたことを思い出した。 

 

「あなたにだってお母さんくらいいるでしょ―――?」

 

と、歩が言ったとき。 自転車のペダルに掛かる重みが一気に軽くなった気がした。 後ろ振り返った歩が見たのは自転車から降りたナギの姿だった。

 

「な!! ちょっと、急に何を――――!!」

 

「私のことはもう気にするな。だからもうお前は行け」

 

突然として言われたことに、歩は訳が分からなかった。 だからこの反応は必然となる。 後ろの方にはさきほど撒いた殺し屋がいるのだ。 迂闊に待っていれば危険だというのがわからないのか。

 

だが、歩が言うより早くナギが言った。

 

「私を狙う者との争いに巻き込まれたら大事な自転車が壊れちゃうだろ? 親から貰った大事な自転車だからな」

 

それとも。とナギは付け加えて

 

「その小汚い格好をハヤテに見せたいか? ハヤテは服とかのセンスには詳しいぞ。 お前のジャージは流石にないよなぁ」

 

「うっ!!」

 

自分が気にしていることを明確に当てられたのか、歩は反撃できなかった。 そしてナギは右手を振って告げる。

 

「だからさっさと行け。ハヤテが来るから・・・お前はもう不要だ」

 

ナギの高圧的な態度は明らかに歩の反感を買っていた。 

 

しばらくお互いが黙って見つめていったところで歩が動いた。

 

「あっそ。 分かったわよ、せいぜい気を付けてよね」

 

「ああ。お前こそせいぜい頑張れよ。 無駄な挑戦に栄光あれ」

 

ナギの言葉を聞いて、歩はペダルを漕ぎ始めた。 視界から居なくなるのを確認してから、ナギは近くの防波堤にストンと座り、どこまでも青い空を見上げてこう呟いた。

 

「お母さん・・・か」







後書き
ひとり暮らしをしてると思うのです。 意味嫌っていた母親の手料理が食べてみたい・・・と。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。