ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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前書き
これぞ西沢 歩、最後の輝き!


第69話~夢の中より夢のよう~

「・・・・・」

 

もう何分立っただろうか。 この防波堤に座り込んでからは歩むが先ほど口にした母という単語が頭から離れなかった。

 

(母親か。 そう言えばちゃんとハムスターにもいるんだったな・・・)

 

誰にでもいる母親、子がいるなら親がいるのは確かだ。 それがいないのはちょっとそこ子供が特別な境遇になってしまった場合だろう。

 

(ハヤテやマリア・・・テルの親は・・・)

 

今ここにはいない三人のことを考える。 そう言えば三人とも現在事情から親が居ない。 なんだろう、三千院家はそう考えると偏った事情を持つ人間が使用人(同居人)になるのだろうか。

 

ピタ。

 

「ぬおおおおおおおお!!」

 

と突然左頬にもの凄い冷気を帯びた何かが当たったのがナギには分かった。

その刺激に体を仰け反らせてその人物の顔を見る。

 

その人物は先ほど先に行ったかと思われていた歩だった。

 

「何をするだーッ!」

 

「ん? 喉でも乾いてるんじゃないかと思ってね・・・わざわざ買ってきてやったのよ?」

 

ホイと、ナギに手渡した飲み物はポ○リ。 それを手に取るのを見ると歩は自分用に買っておいたジュースの蓋を開けて飲み始めた。

 

その姿勢にナギが歩に聞く。

 

「お前・・・人の話を聞いてなかったのか?」

 

ん? と歩が反応するが歩は半目で聞いて答える。

 

「なんで私があなたの言うこと聞かなきゃならないのよ」

 

それに。と歩は加えて続ける。

 

「私は物わかりも諦めも悪い女なんだから」

 

「ほう、物わかりも悪いから成績も悪いし、ハヤテのことも諦めきれないというわけか・・・」

 

「ハッキリ言うなぁ! 確かにそうだけどさぁ!」

 

と言ったところでお互いが何か納得したように見合った。 その表情はお互いが晴れ晴れとしたように爽やかである。

 

「ま、飲んだら熱海まで行くわよ――――」

 

パンッ。

 

その瞬間、歩の手にもっていた缶が音ともにその場を転がっていった。 右手にかかった力。 まさにもっていかれたという表現が正しい。

 

転がった缶にはまるで弾丸が撃ち抜かれたかのように丸い穴が二つできていた。 その間からは中身が溢れ出してきていた。

 

いや、違う。 これは弾丸だ。

 

と歩が判断したときに後ろの方でトリガーを引く金属音が聞こえた。

 

「いやぁ、いつも缶を撃ち込む練習ばかりしてたから思わず缶を撃っちゃったよ。 テヘ☆」

 

「おいおい、馬鹿いってんじゃねぇよ」

 

「OKOK,次は外さねぇぜ」

 

目に写ったのは黒い不審者と四人組の覆面男たち。 悪夢再びである。

 

「は、早く乗ってェ! さっさと逃げるわよォォォオ!!」

 

「お、おおお――――!?」

 

二人は自転車に乗ると、歩は再びスーパースタートを切り出した。 みるみる殺し屋達を突き放していく。

 

だが。

 

「ぜぇ! ぜぇ! 流石にもう体力が・・・」

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

ナギが見たのは今しがたスタートを切ったのにすでに息を荒くさせている歩の姿だった。

そう、歩にはここまで体力を使い果たしていたのである。

 

「もう私を降ろせ! お前だけでも・・・!!」

 

「良くない! さっきも言ったでしょ!? 私はあきらめの悪い女だって!!」

 

ナギの捨て身の提案を歩は受け入れる気は無かった。 この状態でナギを降ろしたりすればそれでこそナギの命はない。

 

(駅の近くに行けば・・・)

 

自分が少し頑張れば良い話だ。 流石にひと目に付くところならば殺し屋たちも迂闊には行動を起こせないだろう。 それまでの辛抱だ。

 

「なるほど・・・・だがそろそろ諦め時だぞ・・?」

 

だが追いついてしまった。 いくら漕げども車はその速度を上げて迫ってくる。 横にべったりとつかれてしまった。 覆面を被った男が顔を見せて、アサルトライフルの銃口をこちらへと向ける。

 

(このままじゃ・・・ハヤテッ!)

 

もう終わりだ。 とナギが心の中で叫んだ時にそれは起きた。

 

「なんだっ!?」

 

覆面の男たちが真上を見た瞬間、ナギが釣られて上を見た。 上空には二つの飛来物がこちらに向かってくる。

 

その二つの物体はコンクリの地面に轟音と共に突き刺さった。 それは電柱であり、ナギと車の間に割って入るように刺さったそれは車の前に立ち塞がり、車は大激突する。

 

「な、なにっ!?」

 

突然の事に驚いた歩が急ブレーキをかけて自転車を止めた。 

振り返ったその視線の先には電柱二本が壁となり、車を大破しているという状況だった。

 

そして電柱のてっぺんに立つひとりの少年の姿を見て歩とナギは同時に声をあげた。

 

「ハヤテ君!」

 

「ハヤテッ!」

 

「お嬢様! 西沢さん! 無事ですか!?」

 

ハヤテがすぐさま電柱から降りると二人のもとに走っていった。 そしてあとから続くように電柱にしがみついていたテルがその場に倒れ込む。

 

「ああ、もう・・・なんでこんな強引な方法しかないんだよ」

 

「ふん、ワシは移動術はないもんでな。 しかし小僧、お主ずいぶんと弱っているように見えるが・・・」

 

後から降り立った銀華が倒れているテルを見た。 ここまで来るにいたってのテルの過程を知らないためである。

 

「さて、これで約束通りに綾崎 ハヤテの血を頂くことにしよう」

 

「わかったわかった。 このゴタゴタを早く終わらせればその分早く貰えるぞ?」

 

倒れていた身を起こしながらテルは銀華に言うと、銀華は不気味に笑うと仮面を頭なおした。

 

「なら、この先はオババに任せてさっさと先に行くがよい! 小僧、貴様は残ってろよ!」

 

「へ?」

 

「面白そうなのがこちらに来る・・・」

 

はぁ。 とテルは何がなんだか分からずに立ち上がった。 銀華の言葉を聞いてハヤテたちは先に進んでいる。 まぁ近くには駅がある。 そこでみんなが落ち合うことになるだろう。

 

「終わったぞ?」

 

程なくして殺し屋たちの掃除が終わった。 終わったと言っても殺したりしたのではない。 車の中から犯人を引きずり出し、出どころ不明の鎖付きクナイで犯人たちを縛り付けている。

 

「それで? 何が来るって?」

 

「まぁ、待て。 ホレ、噂をしてたらこっちに来たぞ?」

 

どこに。 とテルが辺りを見渡していると、刺さった電柱の上に一つの影が現れた。 翼を纏ったそれはゆっくりと電柱の上に舞い降りて静かな瞳をこちらへと向ける。

 

黒羽だった。

 

「あの野郎・・・こんなところまで来やがった。 とんだストーカーだな」

 

「フェフェフェ・・・コヤツがお前さんの手こずった相手かい。 実際に見るのは初めてじゃのう」

 

まるで獲物を見つけた狩り人のような瞳を銀華はしていた。 まさに今にでも食って掛からんとする状態だ。 

 その証拠に既に袖からは何本かの鎖付きクナイを垂らしている。

 

「オイオイ、そんな喧嘩腰にしてどうするよ。 そんなことだからすぐふけるんだぜババア」

 

「あいつより先にお主を冥土に送ったほうがよいかもな」

 

静かにクナイを構えた銀華を見てテルが慌てて止めた。

 

「アイツの目的は今回は、少なくともここでドンパチ起こそうっていう腹じゃないらしいぜ?」

 

ほう? と銀華が黒羽を見るとそれがすぐに理解できた。 こちらもただ武器を見せるだけでなく殺気というものを相手に感じさせている。 それなのに黒羽は動じず、武器も出さないでただ立っている。 

 

殺気も感じられないのだ。 いったいどうしてなのか。

 

その理由はすぐ分かった。 テルたちの横を走りながら抜けていく物体が一つ。 それはチビハネだった。 いつの間にか歩のカバンから抜け出していたらしい。

 

『マスター!』

 

やー。という声を上げながらチビハネは黒羽の元へとジャンプした。 それを黒羽は両手でキャッチする。

 

『うおおおおおおマスター! ようやく会えたですよー! 落とすなんてあんまりでーす!』

 

少し涙を浮かべながら頬ずりしてくるチビハネに黒羽は優しく撫でる形で返事をする。

そして一度だけこちらを見た黒羽は翼を広げると飛び立っていった。

 

「・・・・な?」

 

「ふむ・・・」

 

銀華は立ち去っていったのを見ると少々残念そうにクナイを仕舞った。

 

「小僧、相手の気を理解できるとはなかなか良い目を持っているな・・・」

 

「なに、昔からの教えで戦う相手と戦わない相手の見極めをできるように叩き込まれたからな」

 

「ほう。 お前さんにそれを教えた師は誠に良い師だったのだなぁ・・・」

 

「・・・まぁな」

 

と言葉に詰まるテル。 実際にこれを教えてくれたのは自身に剣術を教えてくれた先生。 だが、その人物と自分がどんな関係だったのかをテルは何も思い出せていない。 

 

(しかし、あの女がこっちに来てるってことは・・・あの野郎もこっちに来てるってわけか。 なんだかこの旅行、ただの旅行で終わる気がしないな・・・)

 

この行先にたどり着いた下田で一体何が起ころうとしているのか、テルは一抹の不安を覚えたのだった。

 

 

 

「ああ、もうナギ! 心配かけないでくださいよ」

 

「す、すまんなマリア」

 

その後、一同は駅にて一度集合することとなった。 出迎えにいたのはヒナギクとマリアである。 ナギが来るとマリアは心配していたようですぐさまナギの元へと駆け寄った。

 

「でも二人とも無事で良かったですよ」

 

「ああ。 それもこれもコイツのおかげだ・・・」

 

と指で自分のことを指された歩が少しむすっとした顔で返す。

 

「こ、こいつって・・・私には西沢 歩っていう立派な名前があるんだからね三千院ちゃん」

 

「ナギで良い」

 

へ? と歩は言葉を一度それがどういう意味か分からなかった。 聞こえていなかったと判断したのか、ナギがもう一度言う。

 

「私の名前は三千院 ナギ。 だからナギと呼べ馬鹿者」

 

「・・・え?」

 

それ以上は何も言わなかった。 しかし、ハヤテの方を見るとハヤテはそれを見てとても笑顔の様子。

 

(まぁ、打ち解けられたって思えばいいのかな?)

 

と、心の中でつぶやく歩。 まぁそれでも年下に馬鹿呼ばわりされることには変わりないが。

 

「ああ、そうだ。 この携帯、西沢さんに返しておきますよ」

 

とその場で歩に携帯を手渡すハヤテ。 歩はどうして自分のかと分かったのかが気になっていたが。

 

「その、すいません。誰のかわからなくて・・・中身を」

 

と、行った瞬間に歩は開いた携帯の画面の下の方にその理由があったのだと理解した。

 

「うわぁあああ! あのね! これは、その!」

 

一気に顔の色を赤へと変化させた歩はなんとか誤魔化そうとしたがその姿を見たハヤテも自分の事なので思わず顔を赤くする。

 

「・・・チッ」

 

「ナギ、ちょっとアイツの飯にこっそり毒盛らね? 俺最近、イイ毒売ってる場所見つけたんだ」

 

「ちょっとそこ! 何物騒なこと考えてるんですか!」

 

黒い野望を渦巻かせていたナギとテルに対してハヤテは慌てる。 その間を仲介すべく、マリアが西沢にお辞儀をした。

 

「それにしても西沢さん。 本当にありがとうございました」

 

「いやいや、そんな大したことありませんよ」

 

そう? とマリアは頬に手を当てながら続けた。

 

「この子ったら勝手に歩き回るわ、他人をぞんざいに扱うわで大変でしたよね? その気になればこの子、家一つ爆発させる子なので」

 

「だから私はテロリストじゃないって――っ!!」

 

マリアの言葉にナギが顔を真っ赤にしながら突っ込んだ。

 

その光景を見て、歩は思う。 流石にこれ以上いられると向こうの人たちに迷惑だ。 あっちの都合を考えるにこちらもこの場を去るべきだ。

 

「じゃ、じゃあ私はここで・・・」

 

「お前・・・本当に自転車で下田まで行く気か?」

 

とそそくさに去ろうとしたときにナギが呼び止めた。

 

「む、話の解らん奴だ。 お前の力じゃ無理だというのが解らんのか? それ以上無理したら死んじゃうかもしれないのだぞこのバカハムスター!」

 

「む! バカじゃないもん!無理じゃないもん! 絶対に無理じゃないもん!」

 

「無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ!!」

 

「無理じゃない無理じゃない無理じゃない無理じゃない!無理じゃない!」

 

この二つの無理の応酬。 お互いが息を切らすほど言い合ったころ、これに区切りを付けたのはナギだった。

 

「ええい無理だと言っているだろうが!! ―――だからハヤテ!!」

 

「は、はい!」

 

いきなり呼ばれてハヤテは身を固くする。

 

「こいつを後ろに乗せて・・・代わりに下田まで漕いでやれ!」

 

「へ?」

 

「ま、こいつなら確実に下田まで付くしな。そこらへんの列車よりだったらコイツの方が断然早いし」

 

テルがきょとんと惚けている歩の肩を叩く。

 

「ちょっと待ってください! そしたらお嬢様たちはどうするんですか!?」

 

声の主はハヤテだ。 

 

「そうよ! そんな事しなくても私は自力で!!」

 

(そりゃあハヤテ君と一緒に行けたら嬉しいけど・・・)

 

だがそんな良い話、簡単に通るはずがない。

 

「それにまたあなた達が迷子にでもなったら・・・」

 

と再びナギとマリアの方を少し見たが・・。

 

「「え?」」

 

「いや、『そんなバカな』みたいな顔しなでくださいよ!」

 

とツッコんでみる歩だ。 それにハヤテと二人乗りなんてそんな都合のいい話、叶えてくれるのならそれでこそ女神による導きが必要だ。

 

「ナギとマリアさんは私とテル君が連れていくわ」

 

だが、その女神は目の前にいた。 ヒナギクである。

 

「私も下田に家族でいく途中だし・・・テル君も暇でしょ?」

 

「へいへい、暇ですよ。 そうです暇ですよ。 暇で暇で仕方がありませんよ会長」

 

と、隣でテルが手をヒラヒラしながら了承する。

 

「ね?だから大丈夫。 ハヤテ君は彼女を送ってあげなさい」

 

「で!! でもヒナギクさん!」

 

と、ハヤテが未だに事の意味に気付かないのにヒナギクも遂にブチ切れたか、ハヤテの足の甲をブーツで思いっきり踏み付ける。

 

「―――――ッッ!!」

 

「うわぁ・・・アレめっちゃ痛いだろ」

 

声にならない悲鳴を上げながらハヤテが身を震わせているとヒナギクがやれやれといった表情で言った。

 

「ハヤテ君、あなたバレンタインのチョコもらったんでしょ!? ホワイトデーだって近いのよ!!だったらお礼くらいはしなさい!!」

 

その言葉にはもの凄い意思が込められていた。 恐らく女間でしか理解できない、入ることもできない不可侵領域というやつだろう。

 

「そうですね。 分かりました。 ではお嬢様を宜しくお願いしますヒナギクさん」

 

「あれ? ハヤテ君? テルさんは入ってないの?」

 

「では西沢さん・・・」

 

「また無視ィィィイ!?」

 

どうせあなたは寝るに決まってるとハヤテは判断したのだろう。

 

「ではしっかり捕まっていてくださいね西沢さん」

 

「う・・・うん」

 

と恥ずかしさを隠せずに歩は後部座席に乗った。

 

(うわー、よくわからないけどハヤテ君と二人旅なんて・・なんかこれって青春って感じじゃないかな?)

 

そして始まる二人旅。

 

 

青いそらと青い海・・・。 沿道には春の訪れを告げる桜の花が咲いている中・・・。

 

好きな人と二人、自転車に乗って優雅な旅を――――――――。

 

 

 

「ってぇ――――!! ハヤテく―――――ん!!ちょっとスピード出しすぎじゃないかな――――!!」

 

―――してはいなかった。

 

沿道をとんでもないスピードで突っ走る自転車がここにある。

 

「でもこれくらいじゃないと下田には着きませんよ?」

 

「だけど―――――!!」

 

言葉もあまり聞き取れない。 そしてしっかりハヤテを掴んでいないと命がない、そんな気がしたのだ。

 

「あ、お嬢様たちの電車ですよ。 手振って見ます?」

 

「無理――――――――!!」

 

(ていうか電車追い抜いてますよ―――――!!)

 

――注意、この小説は法定速度をギリギリ守っています・・・多分。

 

「はは、じゃあしょうがないですね。 では少しスピードを落として・・・」

 

とハヤテがペダルに込める力を弱めてスピードを落としたとき、後ろから一台の車がきた。 また殺し屋の類かと思ったが、今回は普通の車のようだ。 オープン型の赤いスポーツカーである。

 

中の外人がハヤテと歩を見てなにやら言っている。

 

「ヘイ、ハニー見てごらん、こんなところを自転車で走ってる男女がいるぜ」

 

「まぁホント、自転車に二人乗りだなんて・・・なんてビンボー臭いのかしら」

 

見た目があのディランの芸人に似ている人物、そしてもう一人のキャサリン似の女性からの一言に二人は胃の部分にある何かがキレた音がした。

 

「HAHAHAHA!! オイオイハニー。それは違うよ、彼らは本当にビンボーなんだ」

 

ブッツン。

 

「やっぱこんな日はオープンスポーツカーだよね!!」

 

「ということだ少年君も買いためえ、一万と二千年後に。 HAHAHAHA!!」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

ギアを一気に変えてその場を爆走していくスポーツカー。 そのスピードにより舞い上がった煙がハヤテたちを包んでいく。

 

「ハヤテ君・・・」

 

「ええ、分かっていますよ西沢さん」

 

煙が晴れたとき、二人の思いは決まっていた。 ハヤテはペダルに力を込める。二人が目指すのはあのスポーツカー。

 

そして息を合わせる。

 

「「絶対に許さない」」

 

その瞬間、遠藤における謎の二人乗り自転車の最速伝説が生まれたのであった。

 

 

 

 

「はぁ・・・ようやく着いたか」

 

貨物列車に捕まっていた木原は連結器の上で絶妙なバランスを取りながら座ってた。 

 

「まったく、黒羽の方が先に付くと思ってたのに出迎えはなしかよ。 アイツどこかで油売ってるな」

 

さて、と。 止まった列車か降りた木原は悠々と歩いて近くの倉庫を通っていく。 そして奥の非常口について扉を開けると、人が多い場所に出た。

 

「・・・帰ってきたぜ」

 

ちょうどそこは駅の近くだったのでそこにある看板を見て改めて理解した。 ここが下田なのだと。

 

「・・・」

 

『遅いのですこの野蛮人!』

 

看板を見ていると、横から見知った顔が近づいてきた。 黒衣のローブはこの地で来ているのは恐らくこいつだけ。

 

「あれ黒羽? なんだよ。 やっぱり最初に着いてたんじゃん。 俺はてっきり俺が最初に着いたのだと・・・ってそれ何?」

 

木原の目に写ったのは黒羽の手にある一冊の本だった。 黒羽はそれを木原に見せる。

 

「下田のガイド」

 

「なんで?」

 

「ユニーク?」

 

「疑問形で言われても・・・それよりも今日の宿はどうする?」

 

と木原が提案したときに黒羽の肩で騒ぐ物体が居た。 チビハネだ。

 

『オッシャー! 下田じゃ下田じゃーい! 下田といったらなんだぁー!? 温泉だろうがべらんべー!!』

 

「五月蝿い」

 

と木原がてしっとチビハネを叩いて鎮めた。

 

「さて、今日から忙しくなるな・・・」

 

と、楽しそうに拳を片方の手に合わせる木原だった。

 

 

 

 

 

「あははははは―――!! ハヤテ君! スポーツカーって大したことないねー!!」

 

「あんなの楽勝ですよ楽勝!!」

 

こちら、場面戻って沿道の二人。 狙いに定めたスポーツカーは気の済むまで思い知らせることができたのか、ハヤテと歩は高笑いしていた。

 

「カーブで抜かれた時の外人の顔!! 溝落ちカーブだっけ? アレは凄かったよ!!」

 

「隣の女の人も起こってましたねー」

 

「あんなチャラいカップルなんて別れちゃえばいいんじゃないかな!?」

 

「あはは、そうですね!」

 

いつぶりだろうか。 こんな風にハヤテと会話し、笑いあったのは。

 

もしかしたらこれが初めてなのか、それにも関わらず歩の心は暴走するわけでもなく、とても澄んでいた。

 

 

(空が青い。 風が輝いているみたい)

 

駆け抜けて行く中、咲いていた桜の花びらが舞う。 

 

「ハヤテ君」

 

「はい?」

 

歩に呼ばれてハヤテが答える。

 

「私・・・ハヤテ君とこんなふうに笑える日が来るなんて思わなかったよ」

 

「・・・・・」

 

この時にハヤテは迷っていた。 このことを話すべきか、話してよいものか。

 

だが、意を決して話すことにする。 それが彼女の為にもなることであるからだ。

 

「・・・実は夢の中で、西沢さんに会ったんです」

 

「え?」

 

過去にハヤテは夢の中で歩と会っていた。 歩としてはかなり嬉しくも恥ずかしい話だ。 なんせ、好きな人の寝ている中まで自分が現れたのだから。

 

ハヤテは続ける。

 

「その中でいろいろ話して・・・僕は西沢さんに、何かプレゼントするって決めたんですけど・・・」

 

「・・・・」

 

ハヤテにはとても真剣な話だ。 だが、歩はその話を聞き、一つの疑問が頭を過ぎっていた。

 

『好きな男の子から何か心のこもった物を貰えれば・・・嬉しいっていうか・・・』

 

―――あれ? 私は何が欲しかったのだろう?

 

『ただ、想いを伝えたいだけだから・・・』

 

―――何が。

 

『綾崎君が好きです!!』

 

 

(ああ。 そうか・・・)

 

分かった。 自分は今まで大切なことを見失っていた気がする。

 

この、時間。 この時間こそが大切なのだと。 好きな人と一緒にいられるということ。

 

プレゼントもした。 告白もした。 そうしてきた相手がこうして同じ時、場所でいられるだけで・・・。

 

「それで・・・西沢さんはホワイトデーがどんな・・・」

 

だから歩は言った。

 

「いらないよ」

 

え?と疑問を浮かべたハヤテが振り返ると、そこには笑顔の歩が。

 

「もういらないの。 だって・・・」

 

立ち上がって体に当たる風は透き通るように心地よい。 その暖かい風は自分の心を満たしていくように。

 

「もう、十分・・・もらったから」

 

両手を広げてさらに風を感じる。 全ては、思えばあの坂での出来事から始まっていたのだ。

 

多分それはこれからも終わらない。 終わらせたくない。

 

春の風に、桜の花びらが舞っている。

 

それはひとりの少女を祝福、または後押しするように。

 

 

「さぁハヤテ君、下田まで全速力だ―――――!!」

 

「お―――――! 飛ばしますよ西沢さん!!」

 

 

 

――――君と一緒に、また新しい季節が始まる。






後書き
ハムスターが進化した。 装備は強化外骨格に身を包んでブームショット持ちのギアーズ兵士。
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