ハヤテのごとく!~another combat butler~   作:バロックス(駄犬

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第75話~自分の話を他人がしているのを見ると腹が立つ~

「俺の記憶を消した? どういう意味だそりゃ」

 

「言葉の通りだってば」

 

木原の鋼鉄の義手とテルの鉄パイプが激突する。 激しい金属音を放ち、響いた。

 

「いったいそれはいつのことなんだか、ぜひ教えてもらいたいところなんだけどな」

 

「そんな暇があると思うか?」

 

鍔迫り合い状態の拳と鉄パイプはお互いに弾かれて二人は距離を取った。

その後ろからは新たな敵、黒羽の二段攻撃である。

 

「・・・・」

 

黒羽は右腕を短剣へと変化させてテルの目の前へと踏み込む。 力強い踏み込みが生み出した一撃は鉄パイプで受けたテルの右腕しびれさせた。

 

短剣を受け止めてまたしても鍔迫り合いに持ち込まれたがテルの側面に気配、そして衝撃。

 

「がっ・・・!!」

 

衝撃と共にテルは吹き飛ばされた。 いや、殴り飛ばされたのだろう。 あまりに体が浮き上がったため、吹き飛ばされたと錯覚してしまったのだ。

 

「流石に二体一はキツそうだな。 黒羽を相手している間にほかのことに気を回している暇はないだろ」

 

木原がテルを殴った右手をスナップを利かせて払った。 状況は今現在、圧倒的に不利な状況であることは間違いない。

 

「く・・・このままじゃテルさんが!」 

 

ハヤテも体を動かそうとするのだが、先程の銀華の鉄球を食らったダメージがあるためか体を動かすのがキツイ。 だがこれは同時にテルもかなり追い込まれている状態だった。

 

「卑怯・・・なんて言ってくれんなよ? 俺はお前の事を認めてるんだぜテル。 二体一の戦法なんてのは叩きのめす相手が本当に強いから数で圧倒することを基本としているんだからな」

 

木原の言うとおり、実力差のある相手を倒す方法とはなんだろうか。 ここで言ったとおり、それは数だ。ここにはかつてのテルに勝った黒羽と、一体一ではあのハヤテをも追い込んだ木原がいるのだ。 それがタッグを組んで戦われたらその戦力さは歴然。

 

「お前を片付けたら綾崎 ハヤテ、次はお前の番だ・・・すぐに終わらせてやるよテル。 お前の悪夢も、そして俺の悪夢も」 

 

「俺の悪夢?」

 

「そうだ。 ずっとお前は思ってきた筈だ。 自分の名前が分かるまで、思い出すまで、自分とは一体なんなのか。 この世で自分はただ一人ではないかってな・・・」

 

孤独。 その言葉がすぐ浮かんだ。 ラーメン辰屋に拾われて自分の名前を思い出すまで、自分が何者かを疑わなかった日はなかった。 

 

自分が生きている意味かさえも疑ったくらいだ。 朝も、昼も、夜も息を抜く暇なんてない。 常に背後には孤独の言葉が纏わりつく。

 

「そして名前を思い出したあとでも、自分の肉親のことすらも思い出せなかったはずだ・・・」

 

時間をかけて思い出せたことは結局自分の剣術とその剣術を教えてくれた師のことだけであった。 

 

「不安に駆られて、自分はこの世界では誰とのつながりをもてないでいるんじゃないかって」

 

勢いを付けて、木原が飛んだ。 体を大きく捻って豪快にアクロバットのかかと落としを振り下ろす。

 

「ナマいってんじゃねェ・・・腐れヤクザボーイ」

 

テルが睨みつけたその瞬間、木原のかかと落としは受け止められた。 誰に?  少なくとも人ではない。

 

(なんだ? これは・・・鎖?)

 

足に巻き付かれたのは銀の鎖。 先程の空中での勢いを完全に鎖に殺されて、そのかかと落としはテルの頭には至らなかった。

 

「温泉にいたときはなんら気の合う奴かと思ったんだけどな・・・」

 

目の前には鉄パイプを真横に構えたテルの姿があった。

 

「別にそんなことなかったぜ!!」

 

「マズッ――――」

 

木原が防御を試みるも、その防御を突き抜けたテルのひと振りは、木原の顔面を深い音と共に抉った。

 

体が三回ぐらい回転しただろうか、そんな滞空時間、木原は確信したことがあった。

 

(気に入らねぇけど・・・変わんねぇ・・その強さ)

 

体を背中から打ち付けて、モロに受身を取ることが出来なかった。 砂利は弾け、木原は即座に起き上がる。

 

起き上がると肩に鉄パイプを担いだテルがあった。 

 

だがそこに、いつもの表情はない。 

 

「俺が知らない俺のことを他人にとやかく言われるのは腹が立つな。 どうやらお前は本当に俺の事を詳しく知ってるようだ」

 

ブンと鉄パイプを払い、懐から伊澄が普段使っている梵語がしっかりと刻まれた札を取り出して、鉄パイプに巻きつける。

 

「その頭一回カチ割ってみるしかなさそうだな」

 

(それ俺を殺すつもりだろ)

 

と心の中で突っ込む木原。 もちろん、頭をかち割られる予定はないが。

 

「フェフェフェ・・・まず助けてやった礼ぐらいしてはくれんかのぅ」

 

声がした。 テルの背後からだ。 ゆらゆらと白い着物を着て、仮面を被った異様な何か。

 

「誰のせいでこんなに苦戦してると思ってやがる」

 

「誰のせいじゃ?」

 

「お前の鉄球のせいだこのクソババァ!!」

 

悪びれる様子もなく、銀華は無視した。 そして改めて木原と黒羽を見る。

 

「・・・こやつらの目的は綾崎 ハヤテのようじゃな。 そしてあの小僧は、お前か・・・」

 

「そんな感じだ。 なんか俺は女運より、男に付きまとわれるのが多いんだが」

 

「今はそんなことを言ってる場合ではなかろう。 ここからはワシも助太刀してやる。 あの黒い娘には伊澄がお世話になったらしいからのぅ」

 

ジャラ・・・と袖から鎖付きクナイが姿を見せる。 完全にやる気だ。 鷺ノ宮の戦闘狂とはコイツのことか。

 

「まぁ、いくら老婆心だからって無理すんなよマジで。 俺婆ちゃんの扱いはマジで苦手だから」

 

「テル様、大叔母様・・・お気を付けて・・・」

 

伊澄にそう言われ、銀華は小さく笑うと黒羽の所へと真っ直ぐ走り出した。

 

 

「・・・これは予想外な展開だな」

 

一部始終を見ていた木原は表情を歪ませた。 

 

「俺もまさかの展開だ。 アイツは勝手に来ただけだ」

 

テルが再び鉄パイプを構える。 

 

「なら、もう一ついいことを教えてやるよ。 俺はお前の記憶を消そうとしたわけじゃない。 嘘だ。 そんな事が出来るんなら俺はこんなところで血を流したりするよりはずっといい商売できる気がするからな」

 

軽く笑った木原の言葉に眉を動かす。そして木原は一息ついて。

 

「俺はお前を殺そうとしたんだ」

 

冷めた表情でそういったのだった。

 

 

 

 

鷺ノ宮邸別荘は、もはや温泉旅館としての姿をしてはいなかった。 そこは既に戦いの場と化していた。

 

今対峙しているのは鷺ノ宮 銀華と黒羽である。

 

「この前はウチの可愛い孫娘を可愛がってくれたそうじゃのぅ」

 

「・・・・・」

 

「ワシは伊澄ほど甘くはないぞ。 多少のケガは覚悟することじゃな・・・もっとも、ケガじゃ済まないかもしれないがのぅ」

 

「・・・・・」

 

「・・・お前たちの目的はなんじゃ?」

 

「・・・・」

 

無言。 さっきから一方的に銀華が喋ってばっかだ。 これではこちらの方が逆に恥ずかしい。 まるで人間にではなく、人形に話しかけているようだった。

 

「気味が悪いのぅ・・・まぁまずは・・・」

 

ジャラ。 と袖からクナイが姿を現す。

 

「小手調べじゃ!!」

 

 投擲。 袖から出したクナイを慣れた手つきで黒羽に投げつける。 その数六本。

投げられた六本は確実にこのまま動かなければ黒羽に当たる軌道だった。 黒羽はよける動作も見せないが。

 

「・・・・・」

 

その六本のクナイは金属音と共に、黒羽に当たることなく、宙を舞った。

 

「ほぅ、それがお前の力か・・・」

 

銀華がうすら笑いを浮かべる。 やがてそのクナイは地面へと力なく落ちた。 

 

そのクナイは黒羽が取り出した黒い槍により防がれていた。

 

「ならば・・・・!!」

 

もう一度、と。 銀華はクナイを投げつけた。 今度は鎖付きで自由自在に方向を変えられる。 四方八方からのこの攻撃はどう防ぐか。

 

「・・・・」

 

黒羽は特に慌てることもない。 いや、慌てるという概念すら、この黒羽には必要ないのだろう。

 

左手から黒い棒が伸びてきた。 先程の黒い槍だ。

 

 これで黒羽は先ほど出した槍を合わせて二本持っていることになる。

二槍を携えた黒羽は、鎖付きクナイの包囲網のなか。 

 

クナイがついに黒羽へと襲いかかる。最初は人間の死角とも言える真後ろ。

 

「・・・・」

 

右手の槍を後ろへノールックで振って弾く。 一本目。

 

次、右斜めからの時間差付きの二本。 これを左手の短い槍で弾きながら体を捻って右手の槍でクナイの横腹を叩く。 二本、三本目。

 

真上からのクナイは横一歩踏み込んだだけで躱されて地面に突き刺さった。 同時に来た横と前ののクナイは右手の槍を軽く回して弾いて五本、六本目。

 

(こやつ・・・人間なのか?)

 

銀華はただ唖然としていることしかできなかった。 十を超える数のクナイをたった二本の槍で軽くいなされているのだから。 

 

最後の一本はハエたたきのように真上からクナイを叩きつけられた。 叩きつけたと同時に、クナイは愚か、地面の砂利が激しく舞う。

 

「・・・・やりおる」

 

「・・・・」

 

黒羽は二本の槍を音を立てて振ると、銀華に向けて踏み込んだ。

 

(速い!!)

 

バックステップで距離を取る。 あの近接力、変に近場まで持ち込まれたら厄介だ。

自分の能力と戦闘方法では近接に持ち込まれたらかなり不利だ。

 

だがそれでも黒羽は速い。 たった二歩で銀華がとった距離を詰められたのだ。

 

「うお――――!!」

 

 無言で繰り出された長槍のひと薙ぎを小ジャンプで真上へと飛んで躱す。 だが今度は左手に持っていた短槍が銀華に迫る。 

 

突き出された短槍をクナイを滑らせながら銀華の体は真横へと飛んだ。

 

(正攻法はキツイか、相性は悪いようじゃの・・・なら)

 

歳を感じさせない二回、三回の跳躍を重ねて距離を取る。 黒羽もそれを追うが。

 

「・・・・?」

 

黒羽の動きが止まる。 両足には先ほど黒羽が撃ち落としたクナイの鎖が黒羽の足元に巻きついていた。

 

「今じゃ!」

 

動きを止めている今が好機。 銀華はありったけの鎖付きクナイを地面へと突き刺した。

 

「どりゃああああああ!!」

 

気合の一声と共に鎖が地面を引っ張ると、どういう原理か分からないが巻き付いた地面の一部が見事に浮き上がったのだ。 

 

大きさ4、5メートルはくだらない大岩が黒羽めがけて投げつけられる。

 

「どうする!? 槍で弾くには今度は大きすぎるぞ!? それとも鎖を引きちぎって逃げるか?」

 

対する黒羽は鎖を引きちぎるどころか、よける動作も行おうとしない。 ただ変わりに槍を構えたのだ。

そう、普通にやり投げの選手が槍を投げるようなフォームを作って。

 

投げる。大岩めがけて。

 

投げられた長槍はまるで豆腐を突き抜けるかのように岩の面を激しく突き進む。 そして次の瞬間、大岩は派手に砕け散った。

 

「・・・!!」

 

突き抜けた槍は銀華の頬をギリギリかすめることなく消えていった。 あと右に一センチでもいたら見事突き刺さっていただろう。

 

「・・・・・」

 

再び槍を作り出した黒羽は銀華の鎖を軽く薙いで破壊する。 銀華は唖然とした。 黒羽は最初からよけようと思えば、簡単によけられたのだと。

 

だが、敢えてやらなかったのは相手の力を完膚なきまで叩き潰すため。 

 

 

「くっ・・・小僧! ちょっと手を貸せ! コイツ、訳が分からんわ!!」

 

荒々しく吐き捨てる銀華は戦意を喪失しては居なかった。 精神力が少しでも低かったら、ここで戦意喪失していただろう。

 

「ぐへっ!!」

 

銀華の返事に答えるようにテルが地面を転がってきた。 

 

「おいこら小僧! 何を手こずっておるのじゃ!」

 

「いてて・・・んなこと言われてもなぁ アイツの攻撃のやり方、めっちゃやりにくいんだよ」

 

頭を抑えながらテルは起き上がって構える。 テルと銀華は背中を合わせた。

 

「・・・お互いに、まずい状況なようじゃな」

 

「やな感じだな・・・」

 

どこかのアニメのキャラのセリフを吐きながらテルは生唾を飲んだ。

 

「ふん、だがこんな時でもお前は冷静なんじゃな。 お前の考えていることがなんとなくわかるぞ」

 

「なんだよ。 お前はエスパーにでもなったか? じゃあ当ててみろよ。 当てたら後でコラーゲンたっぷりの皇○でも買ってやるよ」

 

「そんなもの食ったらワシが老いているの認めるようなものじゃ! 要らんぞ、せめてお前の血を寄こせ」

 

背中越しにニヤリと二人は笑った。 

 

(何をする気だ?)

 

木原は警戒心をとかない。 この時に何か考えつくのがテルだ。 コイツはそういう男だ。 

 

(早めに・・・潰す!)

 

ほぼ同時に、黒羽と木原は飛びかかった。 銀華には槍が。 テルには鋼鉄の義手による抜き手が迫る。

 

だが、お互いが見たその二人の表情は・・・不敵に笑っていた。

 

「「せ~の」」

 

と、ノリノリな合図で二人は反転。 こうすることで、二人の位置は完全に入れ替わり、黒羽の前にはテルが、木原の前には銀華が退治する形となる。

 

「しまっ―――」

 

これが狙いか。 と気づいた時にはもう遅い。 銀華は鎖を放つと突き出された腕にそれを巻き付かせた。

 

テルは向かってくる一本の長槍を対妖怪用に強化された鉄パイプで横腹を叩いて弾くと黒羽の懐に潜り込む。

 

「「しゃああああああ!!」」

 

二人の気合が響く。 木原はとんでもない力に鎖で固定されたまま投げつけられて地面へと叩きつけられる。

 

黒羽はテルの袈裟斬りが炸裂し、防御をしつつもその防御を貫いて飛ばされる。

 

「よく気づいたな。 お互いに相性が悪かったら、相性のいい方と入れ替える」

 

「お前はワシを脳筋かなんかと勘違いしているのか? 馬鹿にするでない。 ま、お前にしては上々策じゃったがな・・・フェフェフェ」

 

これほどまでに上手くいったと奇妙な笑い声を上げる銀華。 とった作戦はただお互いが入れ替わっただけ、だが結果は二つの脅威を見事に対処することができた。

 

黒羽と戦闘経験があるテルは黒羽と相対し、基本拳や従手を用いて遠距離が有効な木原は銀華と相対。

 

一瞬の判断で一気に戦況は変わる。 これがいい例だ。

 

「って! ただのBL○ACHネタじゃないですかぁぁぁぁ!!」

 

「あ、なんだハヤテ居たのか!」

 

「いましたよ! 凄い戦闘してたんで会話に入れなかっただけです!!」

 

「わ、私もいました・・・」

 

ハヤテに続いて、伊澄が恐る恐る手を上げる。

 

「だってネタねぇんだもん。 一般ピーポーの頭の容量じゃ戦闘のバリエーションに限界が・・・」

 

「メタ発言は禁止禁止!!」

 

シリアスな空気を見事に破壊される。 まったく戦闘のなかだというのに、全く緊張感がない連中である。

 

 

 

だがこの時、一同は気づいていなかっただろう。 

 

「・・・・」

 

ただ一人、吹き飛ばされた黒羽がじっとハヤテを見ていたのを。






後書き
黒羽さんが槍を持ったよ。 ランサーになったから死ぬなんて事は多分ないよね!
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