ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
「ギャアアアアアア!!」
─朝。 断末魔に近いような叫びを上げながらテルはベッドから飛び起きた。
「夢……か…」
静かな一人部屋の雰囲気を感じて何もなかったという事を実感する。
(なんか……サ○ヤ人が出てきてなんだかマリアさんが……)
なんかそこから思い出してはいけない気がした。 と言うよりも思い出したくないと言うのが正しいか。
ダルそうに身を起こし、顔を洗う。 時刻は6時。もうハヤテやマリアは起きている頃だろう。
階段を降り、台所に繋がる扉を開ける。
「あ、テルさん。お早うございます」
扉を開けたテルに気付いたハヤテが声をかけた。
「おお……」
「どうしたんですか? そんな疲れた顔して……」
テルの顔色を見たハヤテが尋ねる。 死んだような瞳がいつもより死んでいたからだ。
「なんでもねぇよ……ただブ○リーが」
「ブ○リーですか?」
「あらテル君、どうしたんですか? 早くお仕事を……」
ハヤテの言葉を遮り、マリアが話に入る。 一瞬、マリアの顔を見てテルは顔を引きつらせたがすぐに気を取り直して仕事に移る。
「そうですわ、ハヤテ君。 そろそろ支度を、ここは私とテル君でやりますので」
何かを思い出したマリアはパンっと手を合わせてハヤテに言った。
「いいんですか? 僕だけそういう訳には……」
ハヤテは戸惑いながらマリアに聞くがマリアは構わないと言わんばかりに返す。
「大丈夫ですよ。私が付いていれば酷いご飯はできませんから」
「フッ……俺の料理を朝から食べれば最高にhighになれるのに」
「テル君? 自分で自分の料理を食べてみますか?」
マリアの一言にテルは自身の行動を自粛。
「ハヤテ君、早くナギを起こしてきてください。準備もありますし」
「わ、分かりました」
ハヤテはエプロンを脱ぐと扉を開けてナギの元へ向かった。
「ではテル君、こちらも支度をしますか」
「了解です」
マリアとテルは手際良く準備を進めていく。
(しっかしまぁ、アイツが受かるとはねぇ……)
ここら最近の説明をすると数日前、受験したハヤテだがどうやら受かったらしい。
最初は点数が足りなくて不合格だったのだが、マリアの推薦状を足して合格点を貰ったのだ。
その時は何やらパーティーやってたらしく、不合格の通知を聞いた時のハヤテ失踪事件は誰もが慌てた。
それからと言うもの、ハヤテの表情は輝いている。
「えへへ……」
いや、輝いていると言うかどうやら幸せの余韻に浸っている状態である。
今でも朝食を済ました後にもう学校へ行くだけなのだが、カバンやら何やら見つめている。
よほど学校に行ける事が嬉しいのか。
「おいハヤテ、早く学校行けよ」
テルはカバンを見つめてニコニコ笑っているハヤテに促す。 ハヤテはテルにニコニコとしながら返した。
「あ、テルさん。 実はこれから学校に行くんですよ」
「イヤ、知ってるけど……それはそうとしてナギが待ってるぞ」
テルは扉に立って待っいるナギの方を指した。
「テルさん……」
「なんだよ……」
「白凰が僕の母校なんですよ」
「だーッ!! お前は一体何なんだよ! もう何回も通ってんだろうが!!いつまでも一人でふわふわ時間楽しんでんじゃねぇ!!
」
「おーいハヤテぇ!何をしているのだ? 早く行くぞ!」
遠くからナギの声。ハヤテは返事をしてナギと共に学校へと向かった。
(アイツ、学校にまた通えるから嬉しいんだろうな……ふぁ~寝み……)
楽しそうに学校へと向かうハヤテを見て、テルは二階の窓から心の中で呟いていた。
何故かは知らないがハヤテと一緒にいるナギも心なしか楽しげな表情をしていた。
普段から引きこもりがちでアウトドアという言葉とは全く縁が無く、学校にはなかなか行きたがらないあのナギが。
(ハヤテといい、ナギといい……一体どうしたっていうんだ?)
テルの疑問は深まるばかりだった。
そして数時間後。 マリアからテルは呼び出されることになった。
「マリアさん。どうしたんですか? 何か問題でも?」
「はい、実はテル君に頼み事が」
マリアはそう言うとテーブルの上に色鮮やかな二つの重箱を置いた。
「これは?」
「ハヤテ君達のお弁当ですよ。どうやら忘れてしまったみたいなんですよね」
ふぅ、と溜め息をつく。 あのミスをなかなかしないハヤテが珍しい事もあるものである。
「まぁ、最近アイツすんごい仕事上の空でしたからね……」
「はい。 よほど嬉しかったんですね、学校に行けるのが……」
テルとマリアはお互いに頷く。 退学させられたり、不幸に見舞われたりとあったのだ。 ハヤテにはこれ位の幸福は致し方ないだろう。
まぁ、結果的にこういうミスが起きてしまってはいるが
「ったく、ハヤテの奴め…仕事と学校のスイッチのON/OFFぐらいちゃんとしろっつーの」
「生活のスイッチのON/OFFが出来ていないテル君に言われてはハヤテ君もおしまいでしょうか……」
「マリアさん、それは酷いッス」
「テル君、前なんて朝の11時に起きてきましたね?部活の無い大学生じゃないんですからもっとしっかりしてほしいですね」
「はい……」
テルはマリアのダメ出しにはそれぐらいしか返せなかった。
テルはテーブルの上に置いてある重箱を布に包んで手に持った。
「それじゃあ俺はこの弁当を届けてくればいいんですね?」「ええ……あ、そうだわテル君」
急ぎ足で台所から出ようとしたテルをマリアは呼び止めた。
「白凰はほんとに有名な高校なので、これを機に少し白凰を見学でもしてみてはいかがですか?」
「え? ああ、はい……」
一瞬マリアが何を言っているのかが分からなかったがテルは了解し台所を後にした。
台所にはぽつんと一人残ったマリア。
(これでテル君も何かしら変化があればいいのですが……)
そう心の中で呟くマリアの手には一枚の封筒が握られていた。
○
─白皇学院。
前に一度、買い物帰りに大きくそびえ立っている時計塔を見たことがある。
色んな飛び級生やお金持ちの生徒が通う『超』がつくほどの名門校。
そこにナギやハヤテは通っている。 今思うが、ハヤテにとってここは場違いじゃないか? と考える。
だがまぁここ数日、楽しそうに帰ってくるハヤテを見ているとそうでも無さそうだ。
「しかしまた……大きな所だなぁオイ」
三千院家の執事、善立 テルは普通の高校よりも大きく、デザインの凝った門の前に居る。校門だ。
「我が家の敷地といい勝負をしてるんじゃないか? イヤどうだろうか……ウチの家の方が上かも……」
率直な感想。テルは上空から見た写真を見たことがないからこんな比べ事をするのである。
三千院家の屋敷の敷地は練馬区の65%。 だから実際、三千院家の方が大きいかも
「っと、あんまり長話してるとまた不審者に間違われそうだ。 とっとと弁当渡して帰って寝よ」
あんまり興味津々という訳でもなく、テルは眠そうな瞳をシパシパさせた。ちなみに明らかに職務怠慢の台詞があったがこんな事すれば彼はジャンク決定である。
両手に持った弁当を持ち、校門内に入ろうとした。
その時である。
「待ちなさいこの不審者!」
「あん?」
後ろから聞こえた甲高い声に反応し、テルは振り返った。
振り返ると居たのは20代は越えているであろう水色の髪をした短髪の女性。
「誰が不審者だ。見なさいこの洗練された輝いている瞳を」
「誰が信じるかァァァ!」
テルの一言に女は辞書を取り出してテルの頭を抉るかのように叩き付けた。
スコーンとではなく、ドゴッという音と共にテルは叫んだ。
「痛ぇなこの野郎、出血したらどうすんだ!辞書の角はなァ、上手に使えば立派な凶器なんだよ!」
両手に弁当があるため頭を抑えることは出来ない。 女は辞書を構えながら返した。
「いいのよアナタ不審者だから、私もう既に辞書でアナタをぶん殴ってるし、『コレで不審者じゃなかったら不味いかな~』と思ってるけどそんな事は関係無いの」
「だって」と付け加えた女は高らかに言い放つ。
「もし本当に不審者だったアナタを取り逃がしたら減るじゃない、私の給料が!」
「だから俺は不審者じゃねぇつーの! 俺のどこ見てそんな事言ってるの!? 教えて!? ねぇ教えてェェェ!?」
「うっさいわね!その瞳が死んでいるのが何よりの証拠よ!」
「アンタの不審者の基準は目か! 明らかに適当な理由付けてるだけだろうが!」
テルは女に突っ込む。 なんというデタラメな女か。
「そんな事はいいとして、私には教師として生徒を守る義務があるの」
「教師?」
その言葉にテルは反応した。
「アンタ、ここの教師なのか?」
「ええそうよ、当たり前じゃない」
自信を持って言うが果たして、一般人でも自身の給料の為なら構わず殴りに掛かる人物を教師と呼べるのか。
「まぁ、それはいいとして……じゃあここの生徒の三千院 ナギって知ってるか?」
「ナギちゃんを知ってるとはアンタ、何者?」
その教師は少し探るように聞いた。さっきよりも疑り深く。
「俺は三千院 ナギの執事。 善立 テルだ。弁当を忘れたから届けにきたんだよ」
テルは一つの安心感を覚えてた。事情を説明したからには誤解も解けるだろうと。
─しかし。
「アナタ不審者じゃなくて誘拐犯ね!」
「なんでそうなるのォォォ!?」
「だって私そんな死んだ魚のような目した執事絶対見たこと無いもん! いたら親絶対泣くもん!」
「オイィイ!お前今絶対言っちゃいけない事言ったよ!」
誤解は一向に深まるばかり。 教師は笑いながら
「大丈夫。アナタを仕留めるのにこんな得物は要らないわ」
「ねぇ俺の話聞いてり!?俺の話聞く気ある!?俺の言葉届いてる!?」
テルの言葉など毛頭聞く気もない女教師はパッと辞書から手を放すと更に続ける。
「私が武器を使うのはねボウヤ…むしろ相手を気遣っているという事なのさ」
そう呟くと教師はテルと向き合いテルと同じポーズを取る。
「残念だよボウヤ……奇しくも同じ構えだ」
(なんでス○ック?)
テルは呆れながら心の中で呟くが近づいていく事が出来なかった。 教師の放つ凶悪極まりないオーラの為である。
お互いに距離を取りながら円を描くように動く。
(このままじゃ近づけな……ん?)
テルはここであることに気付く。二人は今互いの出方を伺いつつ円描くように動いている、つまり現在のテルの位置は必然とそうなるわけで
「お、もう抜けてら」
間合いを取り続けていた結果、見事テルと教師の位置は入れ替わり、校門の中に入る事に成功した。
「あばよエキセントリック教師」
「あ! ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
叫ぶ教師を無視してもうダッシュで校内へと侵入していくテル。 教師は顔をしかめた。
(い、いけない!このままじゃ不審者の侵入を許したとして私の責任になることは必然的! そうなれば私の給料が危ない!)
真顔で言うが内容は自身の事しか考えていない。
しかし彼女にとっては死活問題である。今月の給料日の金も毎晩飲みや飲みに明けくれ豪遊した結果、既に財布の中はカップ酒とチーカマしか買えないほど寂しくなっていた。
(一体何故無くなるのかしら……)
注・理由は明白である。
教師はそんな明白な疑問を浮かべながらも指を勢いよく鳴らす。
パチンと音が鳴るとどこからともなく黒服の男達が現れた。
「雪路様。どうなされましたか」
男達の一人が雪路と呼ばれる女に聞いた。
「凶悪極まりない不審者の出現よ! 私の給料……じゃなくて、生徒を守るために不審者を捕まえるわよ!」
もはやテルを普通の一般人と見るとかの前提は存在していない。 一方的な判断であった。
「了解しました」
男達は頷くと一瞬にして四方八方に散っていった。
「テル君、大丈夫ですかね~」
場所は変わり三千院家の屋敷。 台所ではいつも通りマリアが掃除をしていた。
(さすがにハヤテ君みたいな不幸体質ではありませんがここちょくちょくトラブルに巻き込まれていますし……心配ですね)
マリアはテルの心配をしていた。 彼がハヤテのようなトラブル体質ではないと分かってはいた。
実際今までの失敗の中で少なくとも彼自身の失敗ではないというのはしっていた。 実際、この前の伊澄の一件は伊澄本人から事情を聞き、そういった類の失敗だったと分かっている。
だからいくらかの失敗の中でも彼に落ち度ないのは知っているのである。
それでも失敗の数は多いが
(ここは以前のハヤテ君の事もありますし、電話しておきましょう)
マリアは携帯を取り出すとテルに電話をした。
すると近くのテーブルの本からバイブ音。
「………」
マリアは本をどける。そこにあったのは案の定、テルの携帯だった。
(テル君、携帯電話は持っていなきゃ携帯電話じゃないじゃないですか!)
もはやマリアは彼の無事を祈るしかなかった。
「さ~て、行きますかな」
白皇学院に潜入したテルはこれからナギ達の元へ行く。
暗雲渦巻く白皇学院。 名門校に現れるグータラ執事は一体何をもたらすか。
波乱万丈奇々怪々、奇想天外ビックリ仰天。 次回もお楽しみに!
「ミッション(任務)スタートだ」
後書き
次回はあの生徒会長の登場です