ハヤテのごとく!~another combat butler~ 作:バロックス(駄犬
春の風が吹く。 それは四月特有の暖かい風だ。
女の子のスカートをめくってくれる、俗に言う春一番も春の風である。
そんな事はさておき、ここは三千院家。
「ゴホッ・・・」
寝巻きの姿で壁にもたれるようにしているのはナギだった。 咳き込んでいるが、どこかわざとらしさを感じさせる。 彼女にとっては今日は重要な日なのかもしれない。
「ゴホッ・・・ゴホッ! あ、なんだろコレ、カゼじゃないかな? うん、きっとカゼであろう」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
その演技を見て三千院家の使用人たちはもはや定番となったこのやりとりに呆れながらも、じーっとナギを見つめた。
「が、がはっ! こ、これはかなりの重症だ! 体がだるいし、体が動くことを拒否している! マラリアにかかったに違いない!」
どうして南米とかの病気にナギがかかる要素があるだろか。 というツッコミをすることも使用人たちは無かった。
そして一度だけため息をついて。
「じゃあ一通りナギの迫真の演技を眺めたところで学校行きますか」
「うおい! なんだその言い草は!! それでは私がまるで仮病みたいではないか!!」
「それだけ叫べるなら病気でも学校に行けこの野郎!!」
「えええ!?」
第90話~春と義腕と新学期~
「あー、ダルイ・・・新学期、超ダルイ」
白皇学院の職員室、朝の朝礼の三十分くらい前だろうか、桂 雪路は虚ろな目で自身の机に突っ伏していた。
「お前なぁ、それが教師の言うセリフか?」
インスタントコーヒーを片手に、白皇学院の体育教員、薫 京ノ介がため息混じりにだるそうにしている雪路に言った。
「うるさいわねぇ、怠いもんは怠いの。 怠いっていうことも怠いわ~。 これからはまばたきを三回したらダルイを共通の合図にすべきね」
「そんなやる気のないお前に、理事長からこれだ」
声もほとんど生気が感じられない雪路の机に、京ノ介が何かを置いた。
「え? なに? お金?」
誰かから贈られたものであればこの人物はなんでもお金だと勘違いするのだろうか。 お金と偽った時限爆弾をもってどこか走っていってくださいと頼んだら、喜んで時限爆弾を抱きしめてそのまま爆発してくれそうだ。 と、京ノ介は呆れる。
「ちげーよ。生徒名簿だ生徒名簿!」
顔を上げて見るその黒い本を見る。 京ノ介の言うとおり、その黒い本には生徒名簿と明記されていた。
「ん? 担任? 私が?」
更に雪路は下の部分に担任、桂雪路と書かれた文字を見つける。 それには京ノ介が答えた。
「そ。 新学期から副担任から担任に格上げだとさ」
「ああ、あったわねそんな設定」
オイ。 と京ノ介がツッコムが、雪路はこれまで後輩の天才教師、牧村により雪路の受け持つクラスの担任を副担任の役職に落とされていたのだ。
「ってことは、私の給料がUP!?」
「お前、ほんとお金のことばっかだよな。 頭の中」
この女はもしかしたら生前もお金の亡者だったのかもしれない。 と、京ノ介は思った。
「そういえば、早速だけどこの学校に転入生くることになったぞ? しかもお前のクラスだ」
「え? 転入生? それはまぁ、珍しくもないんじゃないかしら?」
「いや、善立といい綾崎といい、立て続けにこうも転入生って増えるもんなのか? それにこの生徒、かなりやばい臭いが」
どれどれ? と雪路は書類を受け取って、見る。 写真に写っていたのは一人の少年の姿。 京ノ介は生唾を飲み込んだ。
「ど、どうだ? け、結構危ないような気がするだろう!? この生徒、ちゃんと試験通ってきたんだってな」
ふーん。と雪路は頭を掻く。
「っていうか、アンタなにビビってんの?」
「だってコイツ恐いだろうが! 見た感じでもうゴッツ不良じゃん! 俺ちょっと変なことしたら夜道で後ろから狙われるかもって思っちまってんだぜ!?」
「じゃあかしいぃ!!」
ドスっと京ノ介の右の脇腹に雪路の肘内が抉るように入った。 一瞬折れたのではないかと心配する間もなく京ノ介の体が崩れ落ちる。
「そんな第一印象で全部決めるもんじゃないわよバカ。 そういう決めつけってかなりの確率でイジメとかに繋がるもんよ。本人が気にしてることかもしれないじゃない? アンタそれでも教師なの?」
「お、俺は・・・ちょっとは心配してんだぞ!?」
「他人の心配する暇あんのか。 それにいちいち見てくれにビビっているようじゃ教師なんて職業、務まるわけないわ馬鹿ノ介」
「ば、馬鹿にするなぁ! み、見てろぉ! ビビらずにちゃんとコミュニケーションして且つフレンドリーになってやる!!」
その意気込みかけるや、戦時中の爆弾三勇士が最後の特攻を仕掛けるための決意の顔。 しかし、その表情は一気に崩される事になるのだ。
「失礼しまーす」
職員室の扉が開き、一人の生徒が入ってくると同時、京ノ介はすぐさま自身の机の中に身を隠したのだった。
〇
朝のHR、新学期早々に善立テルは机に両肘を付けて頭を抱えていた。
「えー皆さん新学期、進級おめでとう。 あたしが二年のあんたたちを担任する桂 雪路よ。 さてさて、春眠暁を覚えず、春は出会いを呼ぶ季節。 なんて言葉があるように、君らに新しい転入生をご紹介しましょうか」
雪路が笑顔で教卓に出席名簿を置いて隣の一人の少年をさした。 白皇のブレザーを着た少年は雪路に促されて姿勢を正して言った。
「どうも。 この度、転入してきた木原 竜児です。 年齢は17、趣味は体を鍛えること」
・・・なんでだよ。
とテルは机に倒れる込むように頭突きした。 ゴッという音と共に机が少しだけ前へ傾く。
このクラスの生徒に凛々しくも挨拶する男、木原 竜児は一度九十度の角度で体を折り曲げた。一礼のつもりであったが。
・・・オイオイ、前列の東宮が失神してるじゃねーか。
不幸な事に丁度木原の目の前に居た同じクラスの東宮は一礼の時に迫ってきた木原の表情に恐怖してしまったのだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
教室内に沈黙が流れた。 気絶してる東宮は放っておいて、一同は声を発することもできないのだ。
その理由はただ一つ。
彼の、木原の表情がとても怖いのだ。
「色々とご迷惑を掛けると思うけど、皆ヨロシク」
木原が笑う。 だが、その笑い方はもうただの悪人が人を殺すときに浮かべるニタついた笑だ。
・・・ご迷惑をかけるって、つまり現在進行系で?
・・・ヨロシクっていうのはこっちの夜露死苦でいいのかしら・・・。
・・・きっと服の下に武器持ってるよ。
・・・多分目を見たら即死だよ。
木原のガチのスマイルを見た生徒がざわつき始めた。 こそこそと話す者と、東宮と同じく口から泡を拭いている人だっている。
「はいはい、盛り上がるのはそれまでにして。 木原君、じゃああの空いている席に座ってね」
「分かりました」
会釈して、雪路に示された空いている席へと歩いていく。 やはり歩いているだけでも周りの反応は著しい。 彼が歩くその道の机が一センチくらい移動している気がする。
・・・ああ、なるほど。 ここの席ってそういうことなのね。
テルがチラッと横目で見ると、そこには主人のいない机があった。
「・・・・」
その主のいない机の横に、木原がつくと無言のまま座った。
「なんでよりによって俺の隣なんだよ」
「ここの理事長さんはどうやら俺たちの事を知っているみたいだったぜ。 それでこういう組み合わせにしてくれたらしい」
ヒソヒソと、二人は周りに悟られないように会話する。 ここの理事長は、白皇学院の理事長は何人かの人間によって構成されているらしいが、その中の誰かがこちらの事情を知っている人間だとテルは考えたが、木原を放っておくということは特に害はないらしい。
「でもお前、自己紹介で「体を鍛える」ことはねーよ。それ絶対一番最初の自己紹介で失敗したパターンだって」
「そうか? 体を鍛えることは大切だぞ?」
木原の自己紹介がなんなく終わり、新学期の初授業がスタートした。 なんなく授業を終えて、既に四時間目が終わったあとのことだ。
どこで昼食を取ろうかと考えていたところにハヤテたちがやってくる。
「あ、テルさん。 今日は皆で食べますか? 木原さんとも色々と話とかをしておきたいですよ」
と言われて、一同は白皇学院のカフェテリアにて昼食を取ることにしたのだ。
〇
「しかしまぁこの白皇学院ってこんなにデカかったんだなぁ・・・たまげたなぁ・・・」
カフェテリアにて椅子に座った木原の後ろには巨大な白い時計塔、それを囲む壁が一キロほど続いている。 そのどこかの有名な宮殿並みの規模に木原は心底感嘆していたのだった。
「なんだお前、一回くらいここに潜入とかしておるのであろう? 今更驚いているのか」
ナギが木原の方を見ると木原はナギの方を見る。 ナギは特に怯えることはないのが木原にとって少しだけ救いである。
「まぁな。 あの時は凄いお祭り騒ぎだったし、ここを詳しく回る暇がなかったんだよ。 なんか俺途中で寝落ちしてたし」
「ヒナ祭りですか・・・なんだか懐かし響きですね」
「ホントだな。 あれからそんなに経っていない気がするんだけどな・・・思い出したくなかったのに」
「人間爆弾と女装か」
「ナギ、それは言うな」
ヒナ祭りの話は色々とこちらの気が重くなるな、とテルは思う。 二人にとって生死の狭間を歩かされた火だった。 ハヤテは体面上の『死』とテルはリアルな『死』である。
「それにしても、今まで争っていた人間同士がこうやって食事するなんて夢にも思いませんでしたねお嬢様」
「そうだなハヤテ。 大抵のロープレものの敵が仲間になるのは物語の終盤か、ラスボスと戦う時だ。 それをお前らそんな型破りも大概にしろ」
「オイオイ、悪いけどオレらはそんなユーザ達の期待に応えられるような事は出来ねぇんだよ。 そんな王道ご都合の話じゃねーんだ」
「そうだとも。それにリアルとゲームをごっちゃにするな」
テルと木原が同盟を組んだかのように腕を組んで返す。 コイツらかなり仲がいいのではないかとナギは思った。
「そう言えば、今木原さんはどこに住んでるんですか?」
ハヤテが話題を変えて木原に聞いた。 木原は購買部で手に入れたパンをひと齧りして、それを飲み込んでから口を開いた。
「今は住み込みの仕事しながらやってる。たしかホラ、学年主任の牧村先生だ」
その話を聞いて木原以外の一同は身を固まらせた。木原はそのまま続ける。
「俺の義手に目を付けた牧村先生が手を直してくれる代わりに研究所で手伝いしてくれって頼まれてさ。 見ろよコレ、もうほとんど人間の肌に近い素材で出来てんだぜ?」
と木原が見せる右腕は以前のように黒い鋼鉄の義手ではなく、普通の人間の手になっていた。
「やべぇよ、コレ。 マジで感激した。 今でも腕は簡単に取り外しできるけど、これでサビとかの手入れには困らねぇぜ」
・・・めっちゃ嬉しそうだなオイ。
とテルは右腕をさする木原を見てそう思う。 やはり重いだけのただの鉄の義手では色々と不便があったのだろう。 と、木原が思い出したかのように手を叩いた。
「そう言えば牧村先生が俺の為に特別なアタッチメントを付けてくれたんだった。 見たいか? 見たけりゃ見せてやるよ」
「別に見せてとも言っていないのに見せる辺、相当自慢したいようだな」
ナギが呆れたように頬杖を着く。 木原はニヤリと笑みを浮かばべながらその義手の腕に手をかけた。 どうやら外すには仕組みがあるらしく、半分くらい腕を回すと音が小さく鳴り、外れた。
「どうだいコイツは?」
外された義手の中に隠されていた物を見て、一同は口を開いた。
「アウトだろアウト―――――――!!」
ナギが手を上げて叫びを上げる。 対して木原は両手を平行にして構える。
「なんでだよ。 どこがアウトなんだよ。セーフだろセーフ」
「いやいや、アウトだからお前! それアレだろ? 某宇宙海賊が腕に付けている精神力を弾にして撃つやつだろうが!!!」
木原がドヤ顔で見せつける異形の物体を示してテルが突っ込んだ。 右腕から飛び出た筒丈のそれはどう見てもあの某週刊少年誌で連載をしていた宇宙海賊の男の銃ではないのか。
「やっぱ男の憧れだよなサイコガンは。 でも出るのはなんとベタに花束なんだわ、残念」
「いや、俺は内心ホッとした。これで海賊ギルドに追われる羽目になるのはゴメンだからな」
ため息と共に、木原が右腕を付け直した。 この場面を見かけられていないことを祈るばかりである。白皇学院に宇宙海賊の銃を付けた男がいるなど、人気者になること間違なしだが。
「まぁ絶対に他人には見せないけどな。 俺も面倒なことは好きじゃねぇし」
そこらへんの自制心は持ち合わせていたようだ。 これにはテルやハヤテたちも笑みをこぼす。
「それと。 俺が白皇で学園生活を送るにあたって牧村先生から一つだけ条件を提示されてる。 さっき言ってた研究の手伝いのヤツなんだけどさ」
その言葉を聞いてその場にいた一同の髪の毛が逆立った。
「ま、まさか研究の手伝いを良いことに牧村先生にエロいことする気かよ!!」
「そ、それはしてはいけません!! してはいけませんよ・・・!!」
「マジで死ねばいいのに。 取り敢えず警察を呼ぼうじゃないか。 お前の罪状は強制猥褻行為だ。 取り敢えず暫くは私たちに話し掛けないで」
・・・えらく曲りに曲がった誤解を受けてるよなぁ。
と木原は肩を落とす。 確かに自分の顔は明らかにその手の人間の顔だが。 内心はとても穏やかな人間だと木原は自負している。 ここまで曲がった、むしろ悪意に満ち足りた解釈を受けられるのは御免だ。
「お前ら、取り敢えず落ち着けって。 俺がやっている研究の手伝いは、ある実験データの収集だ」
「実験ッ!?」
その言葉に一同が首をかしげる。 まさか本格的に体をサイボーグにして宇宙海賊からターミネーターのクラスにジョブチェンジする気なのか・・・と思いを馳せるナギだったが。 次に木原が口にした言葉は。
「戦闘・・・だそうだ」
次の瞬間、目を丸くしている一同の数メートル先の地面に何かが轟音をたてて墜落してきた。
「な、なんだぁ!?」
慌ててテルが椅子から立ち上がる。 墜落した砂煙のあがる場所から、機械音と共に何かが近づいてきた。
「おっと、そろそろ時間のようだ」
缶コーヒーを飲み干した木原はテーブルの上に静かに置くとゆっくりと席を立った。
『ウオオオオ――――!! 木原ァァァ!! 今日こそぶち殺してやるワァァア!!』
物騒な事を叫んでいるのは見た目がまるで昭和の遺産とも言えるようなボディをしたロボットだった。 その姿を見るやハヤテがこの姿に見覚えがあった。
「あっ。 このロボット、僕たちの家にきたロボットのエイトじゃないですか?」
「おお、そう言えばそんな気がするな。 今まで出てくることもなかったから忘れてたぞ」
「え? 何あれ? ちょっと教えろよお前ら。 俺だけ取り残されてんじゃん、放置プレイやるのって良くないと思いまーす」
テルだけが話について行けなくなり、右手を上げて主張する。 説明を求めるテルにハヤテが色々とハブって説明を行う。
「あれは牧村先生が作ったロボットのエイトですよ。 最初は僕と戦ってたんです・・・確か廃棄処分に鳴った筈なんですけど」
『俺の先生への愛は誰にも止められなァァァイ!! 俺と先生の愛の巣を邪魔しようとする輩はこの俺が直々にデストローイ!!』
アームを動かして殺意を振りまく様を見ると元気に帰ってきている。 だがテルが細めでその体の数字の横に何か小さく書き足されている事に気付いた。
8ver3.1。
・・・なんか良くわかったけど。 修正パッチ当てられただけじゃあ・・・不遇だなオイ
不覚にも心の中でテルは、あのロボットに軽く同情してしまった。 あのロボットも序盤の勢いが無くなって他の出番が減ってきたストーリーのテコ入れみたいな扱いで登場するという不遇の扱いを強いられているのだと。
「なんか俺が住み始めた頃から凄い俺に突っかかってくるんだよ。 適当にぶん殴り続けたら先生が『なんかキミ面白いし、次の重火器の構成の研究に役立ちそうだから続けてて~』って」
「つまりアレか。 戦闘データの収集ってそういうことか」
テルが納得すると木原は軽く笑って見せた。
「いやぁ、俺の事を面白いって言ってくれた人久しぶりだぜ。 世の中捨てたもんじゃねぇな」
「よく考えろ、お前最終的に人体実験のサンプルにされてんだからな」
テルが言うのを喜びで聞こえていないのか木原は腕をくるくると回しているやる気が満々のようだ。
と、突然木原の動きが止まった。
「そうだ。 もう俺を飯とかに誘わなくてもいいぞ」
「あ? どういうことだよ」
木原の突然の言葉に、テルは眉を潜めて返す。 対する木原はやるせなさそうに続けて。
「どういうことって、俺みたいなガラ悪そうな生徒とつるむところ他の生徒に見られてたらマズイだろ。 金持ち令嬢の体面上、そういうの良くねぇだろ」
拒絶の言葉を詰まることなく述べる木原。 彼は今日の自己紹介の時点で自分がこれまでと変わらない批難の目で見られていると理解した。 別に彼自身はそのことには慣れているので耐えられる。 だがその彼とこうやって話をしているテルやハヤテたちも同じような人間と見られるのではないのか。
木原は自分の批難により知人が巻き込まれるのを避けたかったのだ。 巻き込まれれば、テルたちも自分のように今まで普通に接してきた人間から一線を置かれるかもしれない。 下手すればイジメなども。
それだけは避けなければならなかった。
彼はこうしてテル達と共に学園生活を送ることができる。それだけで良いのだと思っているのだ。
だが、そんな彼を見てテルは頭を掻いた後、言った。
「オイオイうちのお嬢様。 なんか言ってる奴がいるけどさぁ・・・そこんとこどうよ」
「いんや、別にいいんじゃないか? もうすでにやばい奴と一緒にいるようなモンだし」
「まぁそうですね。 はっきり言ってテルさんは色んな意味でヤヴァいですから」
ナギとハヤテのダブルパンチにテルは苦笑い。
「・・・とまぁ、こいつらも言ってるんだ。 あんま見た目やらなんやら気にすることもねぇと思うぞ。 一番お前が言ってたことじゃん。 『人を見かけで判断しない』ってよ」
それにさ。 とテルは続ける。
「俺はまた、お前と一つテーブル挟んで飯を食えればいいと思ってる。 それでもお前が嫌だって言うんなら仕方ねぇ、こっちも無理に言わねぇよ? でもこっちはいつでもウェルカムだぜ?」
その言葉を聞き、木原は目柱が少しだけ熱くなるのを感じた。 寸でのところで超えてはいけない見せてはいけない一線で踏みとどまることができたが。
「実はテルさんもホモなんじゃ・・・」
「あーこわいこわい。 そういうのはハヤテとかでも十分間に合ってるのにな。 あれ? ハヤテはメイド要因? ホモ要因だっけか?」
「そこ、場面を台無しにするようなことを言うな」
そのやり取りを見て、木原は安堵した。 そして同時に心の中でこう思った。
・・・あの時よりもいい場所に来たな、俺。 ああ、間違いなく。
「ま、俺と同じくらいにヤヴァイ奴が言うんだから、な。後悔すんなよ? 遅いからな?」
「ま、お前より酷い奴の方が多いしなこの学校。 ほら、さっさと行けよ。 待ってるぞ」
テルに促されて、木原は無言で向かう。殺気立ったエイトが待ち構え、お互いが対峙した。
・・・取り敢えず昼休みまでには終わらせよう、うん。 しかしまぁまだ小腹がすくな。
ランチが少なめだったので少し食べたりなかった。 今度はちゃんと一杯持ってこないといけないなと木原は思いながらエイトに向かって駆け出した。
彼の止まっていた時間が、漸く動き出した気がした。
後書き
次回、カオス回。