「平塚先生、先程も部屋に入る時はノックをお願いしたはずですが」
「だから君はノックをしても返事をした試しがないじゃないか」
何このやり取り、超デジャブなんだけど。
てかこの掛け合いはまさか毎回やってるのか?この2人だけにしか分からない唯一無二の挨拶みたいな…?
……何かカップルみたいとか想像してしまった。悪霊退散、邪な事を考えたらまた怒鳴られる。
「それでそこのぬぼー、とした人は?」
多分これは比企谷君の事を指しているのだろう。ただ、ぬぼー、という表現にはちょっと無理があると思うけど。
むしろ彼はヒョロヒョロとかキョロキョロとかそんな感じだろ。今のこいつのオーラを見ると。
もうこいつのあだ名、二つ合わせてヒョロキョロにするか?
「彼は入部希望者だ」
「2年F組、比企谷八幡です…」
どうやら比企谷君も俺と似たような感じで平塚先生に容疑者の如く連行されて来たらしい。少し親近感が湧く気がしなくもない。個人的にはあともう少し目が澄んでたら親近感が沸いてたと思う。
その比企谷君はというと、平塚先生に小声で話しかけている。多分、「おいどういうことだ?」みたいな感じで問いただしているのだろう。無駄だと思うけど。
平塚先生に聴いても無駄無駄無駄ーッ!
そうして比企谷の事を観察していると、平塚先生はわざと大声にして比企谷に話し始めた。
「君には舐め腐ったレポートを提出した罰としてここでの部活動を命じる。…安心しろ、お前と同じ様な境遇の奴がもう一人いる、そいつと切磋琢磨し合って更正すると良い。これに関しては異論反論抗議質問口答えは一切認めない」
おお、なんか迫力あるぞ。
にしても最後の言葉、理不尽過ぎだろ。質問まで認めないとか絶対越権乱用だろ。
……まあその常識に縛られない感じが平塚先生クオリティだよな、うん。
…そして絶対切磋琢磨し合って更正するとかいう話題には俺は触れないぞ、絶対。
そんな事を決心していると、はっきり目に分かる程に比企谷君の目が腐っていった。まるでゾンビのようだ。
気のせいかオーラまで腐の匂いがする。超近づきたくない。
「見れば分かる通りこの彼は芯まで腐り切っているせいでいつも孤独の立場にある哀れむべき存在だ。そこでこの部活で彼を更生して欲しいというのが私の依頼だ」
へぇ、そうなんだ。
………ってそうじゃねえ!
「じゃあ俺はなぜ今この場に居るんですか?別に俺はそこに居る比企谷君のように腐って居るわけでもない上に人付き合いも人並みには出来てますよ?」
本当に何故俺はここに居るんだ。
別に俺は問題児でも成績不審者でもないっていうのに……。
早く帰りたい。
そんな俺の本心を読み取ってくれたのか、平塚先生はゆっくり丁寧に大声で俺の疑問に答えてくれた。
「先程も言っただろう?異論、反論、抗議、質問、口答えは一切認めない、と。
…さて、何か言ったか金沢?」
「い、いいえ…。俺は別に何も言ってません、ちょっと口から息吸ったら声が漏れちゃっただけです…」
次は無いと言っている気がした。
…てか度々思うけど何で平塚先生はそんな威圧感出せるの?覇王なの?覇気だせるのねえ?
そんな俺が下らないことを考えている間にも会話は進展を見せていた。
「先程の依頼の件ですが、お断りします。そこの男の下心に満ちた下卑た視線を見ていると身の危険を感じます。もう一人の方も意味不明なので嫌です」
待て、俺はどっちだ?
…まあ俺的には意味不明の方が良いかな?意味不明って要するにミステリーだろ?それに英語にしたらアンノウンとも言えるじゃん。ほらかっこいいかっこいい。
そうしていると、氷の人…改めて雪ノ下は俺たちを交互に見つつ小さく溜息をつく。…危ない、また氷の人って言うところだった。多分次バレたら今度こそ(社会的に)抹殺される……!
そんな戦慄を覚えてきると、平塚先生が口を開いた。
「安心したまえ。そこの彼のリスクリターンの計算と自己保身は中々のものだ。そっちは少し行き過ぎるところもあるが…、まあ悪い奴ではない。割り切ってくれ」
待ってくれ、これってフォローになってないよね…?
むしろ俺の繊細かつ崩れやすいハートを完全に撃ち抜かれた音がするんだけど。
もう一人の入部希望者である比企谷君の方を見ると、向こうも同じ様で、更に目が腐っているのが目に見えて分かる。それ以上腐ったらもうゾンビを超えてミュータントとかになれるんじゃないか?
「平塚の先生の依頼ですから無下にも出来ませんし、分かりました。その依頼引き受けます」
えっ?良いのか?
むしろ雪ノ下なら、「断固として断らせて頂きます」とか言うと思ったのに、意外だ。
もしかしたら平塚先生には何かしらのプラスの感情があるのかもな。
…ところで今まで疑問にしてなかったんだけど、この部活ってまさか毎日ある………とかじゃないよね?
どう見てもこの部室的には文化系だ。ガッチガチの文化系だ。
…まあこれは、日々強靭なボディービルダーを目標に体に鞭打って鍛えてます、とか雪ノ下が言ってこない限りの話だが。
まあ99%はここは文化系の部で正解だろう。因みに残り1%は、ボディービルダー部。ちょっとそんな部見てみたいという理由で1%に入れてみた。別に入りたいわけではない。
まあともかくだ、文化系で毎日部活あるのなんて演劇部ぐらいだ。だからこの部はそんなに厳しい部活じゃないはず…。
まあそう信じつつも後でこの部のことについて聞こうとした俺偉い、ノーベル賞取れる。無理か。
「じゃあ雪ノ下、後は頼むぞー」
気づけば平塚先生はいつの間にか教室のドアを開けて、廊下に去って行くところだった。流石、行動がキリキリしてて早いだけのことはある。
…ただ、俺には問題の全てを雪ノ下に丸投げして逃げた様にしか見えなかった。事実は違うと思うが。いや思いたい。
…まあ別にそれは良い、ただこれだけは言わせて欲しい。
「…平塚先生……ドアを閉めてから行ってください………」
そうして静寂な空間に3人、ポツンとドアが開きっぱなしの教室に残された。
次の投稿いつだろうか…