六等分の生き方   作:スターフルーツくん

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第1章
第1話「三つの物語」


 今からおよそ八年ほど前、不可解な事件が起きた。被害者の名前は真辺 咲夜。河川敷で倒れているところを偶然通りかかった一般人に発見された。病院へと運ばれたが、既に彼は死亡していた。死因は窒息死。首を絞められるようにして殺されたのだろうと警察は予期していたが、被害者の首に首を締めつけられたような痕跡は全くなかった。溺死だと判断しても、近くに水が出るようなものがなかった。次に薬物によって他殺に至ったのではないかと推測されたが、死体の中から薬物は検出されなかった。この事件は解決の糸口が見つからず、滞っていた。しかし、ある日を機にその事件が再び日の目を見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!お姉ちゃん達今日学校でしょ!!起きて起きて!転入生として新しい学校に行くんだから遅刻しちゃダメだよ!」

 

 中野家に住んでいる中野 六華が自身の姉五人の部屋を強めにノックして起こす。彼の姉達は五つ子である。同じ生年月日に生まれた姉妹、彼の姉にはそれが五人もいた。

 

「もう、わかってますよ…。さすがに初日で遅刻はしませんから。あっ、危うく言い忘れるところでした。おはようございます六華。」

 

 最初に部屋から出てきたのは中野 五月。両側に星の髪飾りを付けている。五人の中で一番の大食漢であるものの、性格は五人の中で最も真面目である。

 

「うん、五月お姉ちゃんおはよう!あっ、今日のお弁当はお姉ちゃん達のために特別な感じにしたから!昼休み楽しみにしててね!」

「ありがとうございます…。六華は優しいですね。よしよし。」

「えへへ…。」

 

 六華は五月に頭を撫でられる。六華は他者に頭を撫でられる事を好んでいる。特に姉に頭を撫でられる事はそれ以上である。

 

「ねぇ六華!私達の制服は?」

「あー、ごめん!調整がまだ済んでないらしくてさ、明日には届くよ!!」

 

 次に部屋から出てきたのは中野 二乃。同じ長さに切られた前髪をしており、蝶の髪飾りを付けている。髪の長さは現段階で姉妹の中では一番長い。素直な性格ではないものの、姉妹や弟を思う気持ちはかなり強い。

 

「仕方ないわね、前の学校の制服で行くしか…。」

 

 二乃は独り言を呟きながら階段を降りる。六華はそんな二乃を見て「二乃お姉ちゃんなりに楽しみなんだろうな」と想像していた。

 

「六華おっはよー!」

「おはよう、四葉お姉ちゃん!」

 

 三番目に部屋から出てきたのは中野 四葉。緑色のリボンのようなカチューシャを頭に付けている。スポーツが得意で、お人好しでなおかつ明るい性格をしている。ただ六華はそのお人好しの性格故に頼まれたら断れないという四葉の癖を心配していた。

 

「おはよう六華。」

「三玖お姉ちゃんおはよう…。って、あ!制服にゴミ付いてるよ!もう…。身だしなみはきちんと、ね?」

 

 四番目に部屋から現れたのは中野 三玖。青色のヘッドホンを付けている。引っ込み思案な性格ではあるものの、成績は五人の中で最も良い。あくまで五人の中で。

 

「うん…。ありがとう六華。」

「いいっていいって。それよりも…。一花お姉ちゃん!学校だよ!ってちょっと!またこんなに散らかして!もう…。ほら起きて一花お姉ちゃん!」

「うーん…?あら、おはよう六華。」

 

 六華は最後の一人、一花の部屋に無断で入り布団を強引に奪った。中野 一花は五人の中で最も髪が短い。また、その容姿から女優もやっている。長女であるためか、色々と我慢しがちであり、その事を見抜いていた六華はやはり不安を抱いていた。

 

「おはよう。ってそんな事より朝ご飯できてるから急いで食べて!じゃないと学校に遅刻しちゃうよ!」

「はーい…。相変わらず六華はえらいね。」

「もう、からかわないでよ…。」

 

 これまでの一連のやりとりでわかるように五つ子と六華の仲は良好である。家族というものの温かさを感じられるほどに。

 しばらくして朝食を済ませた五人は支度し、玄関に向かう。

 

「じゃあ、行ってくる。」

「うん、何かあったらすぐ俺に連絡するんだよ!」

「六華、過保護だね。」

「そりゃあ、お姉ちゃん達が大好きだからね!気をつけていってらっしゃい!」

 

 五人がそれぞれのタイミングで行ってきます、と言った後、六華は六人分の茶碗を洗い始めた。常人が見ると信じられないほどに手際が良く、なおかつ六華の顔が反射して見えるほど綺麗に洗えている。

 実はこの中野 六華という男、大のシスコンである。五人と一緒に風呂に入る事もあれば、五つ子のうちの誰かと同じ布団で寝る事もある。とにかく、彼女らが何をするにも同伴するのだ。それでいてまだ「自分はシスコンじゃない」と言い張っている。これまでのエピソードを知ってからこの発言を聞くとあまりにも無理がある。

 

「さてと、まずは一花お姉ちゃんの部屋を片付けるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、東京都で殺害事件が起きていた。被害者の名前は上島 春樹。死因は窒息死だと推測された。しかし、死体からは外傷も濡れた痕跡も薬物も検出されなかった。

 

「まるで、八年前と同じ事件ですね。」

 

 東京都警察の警部補である氷室 晶が先輩の刑事である河野 智浩に言う。氷室は地方の交番勤務をしていた頃からこの事件を追っていたためこの事件の謎を遂に解き明かせるかもしれない、と気持ちが昂っていた。

 

「こりゃ同一犯の可能性が高いな、複数の人間がこんなあり得ないような事ポンポンできるはずがない。超能力でも使えなきゃな…。」

 

 氷室の上司にあたる河野 智浩はそう推測する。河野は捜査一課のキレ者であり、キャリアもベテランの域に達している。

 

「河野さん、もし超能力が本当に存在するとしたらどうですか?」

「うーむ…。非現実的ではあるが、超能力があるものだと仮定すると納得のいく推測はできる。ただ憶測の域を出ていないから何とも言えねぇけどな。」

 

 八年前の事件の犯人は未だに逮捕されていない。時効まではまだ七年もの時間があるものの、既に時効の半分を切ったという事実が警察の内部を急かしていた。犯人が捕まっていない、という事実だけで現状は何も進展していない。

 

「とりあえず、近隣の住民に話を聞く事が一番だな。それしか方法がない。氷室、お前は事件当日の現場周辺にいた市民に話を聞け。」

「了解しました。」

 

 上司からの命令ではあるものの、氷室は事件を解決できる事に喜びを感じていた。そうでなければ彼はあの少女に顔向けができないからだ。絶対に犯人を捕まえる。それができなければその約束は嘘となってしまう。氷室はいつも以上に気合を入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩、中野家に住んでいる五人の少女と一人の弟は和気藹々と食事をしていた。

 

「ところでお姉ちゃん達、学校はどうだった?馴染めそう?」

 

 六華が食事中に学校の話題を持ち出すと、五月が突然箸を止めてゆっくりと茶碗の上に置いた。

 

「本当に最悪でした!あの人のせいで学校生活台無しです!」

 

 五月の不満を聞いた五人は事情を聞き出す。彼女の不満の原因はどうやら上杉 風太郎という人物にあるようだった。彼女が先に見つけた席を「ここは俺がいつも座っている席だ」と言って譲らず、挙げ句の果てには勉強を教えてくれという頼みも断った。この上杉 風太郎という男の悪行は瞬く間に五人の間に広がった。

 

「あははっ、随分面白そうな子に出会ったわね五月。」

「私は面白くも何ともないです!」

 

 面白い、とは一花の評。五月は女子の中でも特に顔立ちが整っている。その五月相手に臆する事なく我を貫いた上杉 風太郎という人物が一花にはどうも気になっていたようだ。

 

「何よそいつ!すっごく感じ悪い!」

 

 二乃は当然の反応をする。噂を聞けば信じる者は少なからずいる。この人間社会においては特にそうだ。

 

「…美味しい。」

 

 三玖は会話に混ざらずただひたすら六華の作った料理を口に入れる。単にこの話に興味がないだけなのだろう。六華は愚直に夜食を食べ進める三玖を見てそう思った。

 

「へー!一回会ってみたい!」

 

 一花に続き、四葉も面白がる。しかし、興味を示しているだけで一花のように弄んでみたいというような様子ではない。

 

「んー、でも何かちょっと不安だなー。五月お姉ちゃん、もしその人に何かされたらすぐに言うんだよ。」

「ええ。わかりました。それと、ごちそうさまでした。」

「食べるの速っ!!!」

 

 まだ食事を開始してから数分しか経っていないはずであるが、五月が一番先に食事を済ませたという事実に六華は弟ながら驚いていた。

 

「あー…。お義父さんに今月の食費継ぎ足してもらわないと…。」

「今さらっと失礼な事言いませんでした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、家庭教師である神成 遼駕は自宅でしばしの間療養をしていた。神成が受け持った生徒は百パーセントの確率で東大に受かっている。神成の家庭教師としての技量は他のどの家庭教師よりも秀でていた。今日も彼が受け持っている生徒の自宅に向かおうとしていたが、急な体調不良に襲われ、結果的にドタキャンという形になってしまった。

 自宅にいる神成は窓のカーテンを開け、外の景色を見る。そして学校へと向かう五つ子を見てつぶやいた。

 

「中野家は誰もが羨む理想の家族だろう。が、あの家の本質がどうかはまだわからない。もしかしたら俺の見込み通り欠陥だらけかもなぁ…。彼女達の父親に探りを入れてみるか。」

 

 中野家がどんな家族か、それを知るために神成は中野家の家庭教師として潜り込むことにした。緻密な計画を練り、成功しようが失敗しようが思い通りに進むシナリオを構築した。

 

「ん?あれは…。」

 

 その時、彼が見つけたのは五つ子に笑顔で手を振る一人の少年だった。おそらくは彼女らの弟なのだろう、と神成は推測する。

 

「こりゃあワクワクしてきたねぇ…。」

 

 神成による中野家崩壊の計画はこの時から既に進行していた。そして間違いなく成功していた。この中野 六華という弟の存在さえ無ければ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ!上手く出し抜けたと思ったのに…。」

 

 高層マンションの入り口の前で上杉 風太郎は悔しがっていた。元々は二乃達を欺いて五月と会い、謝罪をするつもりであったが二乃の反射速度が風太郎のそれを上回ったがために入れなかった。もちろん、五月に謝罪する事も目的であったが一番の目的は彼女の、いや彼女達の家庭教師だった。風太郎は五月と同じクラスメイトではあるものの、現時点では五月が五つ子である事は知らない。数時間前までに出会った一花、二乃、三玖、四葉を風太郎は友達だと思い込んでいたのだ。

 

「あれ?どうかしたんですか?」

「ん?」

 

 そんな風太郎に声をかけたのは購入した食料を入れたエコバッグ二つを両手に持った六華だった。五月から話を聞いていたものの、顔まではわからなかったため、彼が偶然声をかけた相手が上杉 風太郎だという事は知らなかった。

 

「おお!助かった!救世主だ!!」

 

 風太郎は喜びに打ちひしがれる。六華の容姿を見て自分よりも幼いと判断した風太郎は初対面である六華に対してタメ口で接した。

 

「なんだ、三十階に行きたいんですね!俺もそこに行くんでよかったら一緒に行きませんか?」

 

 風太郎から事情を聞いた六華はマンションのドアを開け、風太郎と共にエレベーターに乗った。

 

「ここに来るの初めてですか?」

「あ、あぁ…。ていうか、お前は何で学校行かずに買い物してるんだ?」

「ああ、それはですね…。おっ、着きましたよ!」

 

 六華が自身の事情を話そうとした時、エレベーターが三十階に到達した。六華は食料が詰め込まれたエコバッグをそれぞれ片手で持っていたが、無理のない柔和な笑みを浮かべていた。そんな六華の様子が風太郎には少々気味悪く感じられた。

 

「お帰りなさい、六華。ってあれ?あなたフータロー君?」

「なっ!?お前は…!」

「ああ、紹介しますね。俺のお姉ちゃんの中野 一花です。」

 

 学校で一度顔を合わせた一花と風太郎が再び対面する。一花がここにいたという事実と一花と六華が姉弟関係にあるという事実に風太郎は顔を歪める。

 

「騒がしいわね…。あら、六華。今帰ってきたのね。お帰りなさ…。ってアンタはさっきのストーカー!!」

「お前さっきの!!てかストーカーじゃねぇよ!!」

「あ、この人は俺のお姉ちゃんです。中野 二乃。」

 

 驚きがまだ風太郎の胸中に残っている最中に二乃が現れる。二乃は風太郎の事をストーカーだと思っているようだ。

 

「六華お帰り。重そうだから荷物持つ。あ、あなたさっきの…。」

「お前…。」

「この人、俺のお姉ちゃんです。中野 三玖。」

 

 落ち着きを取り戻せずにいる風太郎に六華は三玖を紹介する。紹介された三玖は二乃ほど辛辣な態度をとってはいないものの、風太郎の事を訝しげな目で見ていた。

 

「六華お帰りー!あっ、上杉さん!」

「お前は…。たしか…。四葉だったっけな…。あはは…。」

「この人も俺のお姉ちゃんです。中野 四葉。」

 

 驚きの連続で思考を放棄した風太郎に畳み掛けるように六華は四葉を紹介した。どうやら四葉は二乃のように風太郎の事を邪魔な存在だとは思っていなかった。むしろ一花のように彼のことを肯定している素振りを見せていた。

 

「四葉、一体どうしたんですか…。あら、お帰りなさい六華。ってあなたは!!」

「あっ!ようやく見つけたぞ!!」

「あのー、取り込み中すみません。そしてこの人が俺のお姉ちゃんの中野 五月です。」

 

 遂に風太郎は探していた五月と会うことができた。しかも彼女は六華の姉だった。そしてこれまでの話を聞いて風太郎はある仮説を導き出した。

 

「ん?待てよ…。ということは…。」

「はい、俺のお姉ちゃん達は五つ子なんです。」

「はあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お茶をどうぞ。」

「ど、どうも…。」

 

 六華は風太郎から諸々の事情を聞いた。六華は姉五人が落大寸前で風太郎のいる旭高校に転入したという話こそ聞いていたが、父が家庭教師を雇ったという話は聞かされていなかった。しかもそれが五月の言っていた上杉 風太郎という人物だった事は六華はおろか五人の姉すらも知らなかった事であった。話によると、風太郎は素点の成績が非常に優秀で、四葉や五月の見たテストは百点であった。無論、学年のトップは彼以外にはいなかった。もちろん平常点も優秀ではある。

 事情を知った六華は笑顔で接し、風太郎を快く迎え入れた。

 

「しかし、家庭教師だとは驚きました!てっきりお姉ちゃん達の誰かの彼氏なのかなって。あははは…。」

「そんなわけねぇ。五月は昨日、他の奴らは今日会ったんだからな。ていうか、俺はくつろぎに来たんじゃない。勉強を教えに来たんだ。」

「あっ、そうでしたね!じゃあ俺と四葉お姉ちゃんと一緒に残りのお姉ちゃん達呼んできましょう!」

「いいね!じゃあ行こっ!」

 

 風太郎は四葉と六華と共に残る一花、二乃、三玖、五月を部屋から出そうとした。最初に説得しようとしたのは五月だった。

 

「だ、大丈夫かよ…。」

「はい、五月お姉ちゃんは真面目なんで余程の事じゃない限り協力してくれますよ!」

 

 風太郎は五月の部屋の扉をノックした。五月は扉を開けて視界に入る三人の様子を見る。

 

「嫌です。」

「あれ!?」

「お姉ちゃん!?」

 

 勉強の提案を持ちかけられた五月だったが、きっぱりと断られた。そもそも風太郎はまだ五月に対して辛辣な態度をとった事を謝ることができていないため、五月は未だに風太郎を拒絶していた。

 

「なんだよ、昨日は勉強教えてほしいって言ったじゃん。」

「気の迷いです忘れてください!」

 

 五月はそう言うと勢いよく扉を閉めた。しばしの間、沈黙が続く。いきなりこれでは先が思いやられる、と風太郎の心の中にある種の焦燥感が湧き上がる。

 

「五月お姉ちゃん、ドア閉めるのあまり強すぎると壊れちゃうよ。」

「そういう問題!?」

 

 六華が五月に対して言い放った言葉に風太郎と四葉がツッコむ。

 

「次、行きましょう!三玖は私たちの中で一番頭がいいんです。」

「まぁ、お姉ちゃん達の中だとね。」

 

 六華の言う通り、五つ子の中では点数が取れる方である。しかし、だからと言って成績が良いかと言われればそうではない。

 

「こら六華!」

「痛い痛い!!四葉お姉ちゃんごめん!」

 

 四葉に頭をグリグリされた六華は素直に謝罪する。四葉も姉としての役割を果たしているな、と風太郎は少し関心していた。

 

「嫌。」

 

 三人が三玖の部屋に入り、三玖が放った第一声がそれであった。暗黙の了解であるのか、何故か三人は仁王立ちする三玖の前で正座していた。

 

「何で同級生のあなたなの?この町にはまともな…。」

「わかった!さっきも聞いたそれ!」

 

 五月と同じセリフを言われ、風太郎の心のダメージは深刻化した。が、そのダメージを少し回復する出来事が起きた。

 

「いてて…。あっ、今日の星座占い一位は正座だって!」

 

 六華の大して面白くもないギャグに場が静まり返る。三玖と四葉は呆れた目で六華を見ていたが、ただ一人は爆笑していた。

 

「アッハハハハハハ…!正座とっ…!星座…!ウハハハハハハハハハハハハ…!!」

「上杉さん笑いのツボどうなってるの…?」

 

 明らかに他とは違う笑いのツボの方向性に三玖と四葉は六華と同じ目で風太郎を見るが、六華は心なしか嬉しそうであった。

 

「つ、次行きましょう…。二乃は人付き合いがとっても上手なんですたくさんお友達がいるので上杉さんもすぐに仲良くなれますよ。」

「そう言えば、二乃お姉ちゃんの友達が家に来た回数だと一番多かった気がするなー。」

 

 風太郎は恐る恐る二乃の部屋をノックするが、反応が無かった。

 しばらくすると、二乃が扉の隙間から三人を覗き込み急いで閉めた。

 

「会釈すら無し!?」

「二乃お姉ちゃん、そんなに強く閉めるとドア壊れちゃうって。」

 

 五月に言った事と同じ事を六華が言い、三人は最後の一人である一花の部屋へと足を運んだ。

 

「自信無くなってきた…。」

「大丈夫です!まだ一花が残ってます!一花は…。」

「何その間!?」

 

 風太郎と四葉が他愛のないやりとりを聞いている最中、六華は嫌な予感を察知した。

 

「まさか…!」

 

 六華が急いで一花の部屋の扉を開けると、そこは洋服で散らかっており、足の踏み場が無かった。

 

「一花お姉ちゃん!昨日片付けたばっかりなのに何でこんなに散らかってるの!?」

 

 六華は少々怒りながら部屋に散らかっている衣類を片付け始める。たった一日経過しただけで足の踏み場も無くなるほど部屋を散らかされれば、たまったものではない。

 

「ここに人が住んでるのか…?」

 

 一花の部屋の悲惨な状況を見た風太郎が思わず口にする。

 

「人の部屋を未開の地扱いしてほしくないなぁ。ふぁ…。おはよ、まだ帰ってなかったんだね。」

 

 そんな風太郎の独り言を聞いていたのか、一花が起きて彼に言い放った。一花の反応からどうやら三人が来るまでは寝ていたようである。

 

「いや、一花お姉ちゃん。せめて散らかさない努力ぐらいはしようよ。ってそれどんな表情…?」

 

 六華の言葉に一花はイエスともノーとも言っていないような笑顔で反応する。彼女はこれで乗り切れると思っているのか、しばらくその表情を崩さなかった。

 

「まさかフータロー君が私たちの先生とはねー。それで五月ちゃんを見てたわけだ。」

「いいから居間に戻るぞ。」

 

 風太郎が一花を部屋から引き摺り出そうと一花の布団を奪い取ろうとする。

 

「あー、ダメダメ。服着てないから照れる…。」

「何でだよ!」

 

 一花ははにかみながら風太郎に言った。服を着ていない事を知った六華はさらに怒り出した。

 

「もう、一花お姉ちゃん!家庭教師の人来てるんだからさすがに服ぐらいは着てよ!!」

 

 六華は部屋を片付けながら一花の服を探す。六華同様、一花の着る服を探していた四葉は派手な下着を見つけた。

 

「うわっ、一花…こんなの持ってるの?お…大人…。」

 

 四葉が顔を赤らめながら下着を持っている傍ら、風太郎は気づかれないようにそそくさと部屋から退出する。

 一花と四葉が会話をしている中、風太郎は三玖と遭遇した。

 

「フータロー、聞きたいことがあるの。私の体操服が無くなったの。赤のジャージ。」

「そうか、見てないな。」

「さっきまではあったの。フータローが来る前はね。盗…。」

「ってない!」

「あ、それなら二乃お姉ちゃんが着てるの見たよ。」

 

 風太郎の無実を証明したのは一花の部屋を片付けていた六華だった。三玖と風太郎が二乃を見ると確かに彼女の着ているジャージの名前に三玖の文字が入っていた。二人が二乃を発見したところで六華は安堵していた。五人が以前まで通っていた黒薔薇女子の話題をここで持ち出されたくなかったためである。六華自身、黒薔薇女子に通っていた身ではないものの暗黙の了解を理解していた。

 

「何で私のジャージ着てるの?」

「えー?今からクッキー作る予定なの。汚れたら嫌じゃん。」

「今すぐ脱いで。」

「ちょっ、やめて!」

 

 二乃と三玖が喧嘩のような事を始めたのを察した六華は一花の部屋から現れ、階段を急いで降りる。

 

「わかったわかった。二乃お姉ちゃんはそのジャージ三玖お姉ちゃんに返して。クッキーなら俺が作るから。」

 

 六華は自ら台所に向かいエプロン、マスク、三角巾を着けて材料を用意した。

 

「はぁ…。六華には逆らえないわね。ジャージは返すけど、あいつの前では脱ぎたくないから私の部屋に来て。」

 

 二乃の言うあいつとは誰でもない、上杉 風太郎である。当たり前ではあるが家族以外の男の前で着替えるなどという行為はできないだろう。しかも年頃の女子高生ともなれば尚更である。

 

「さてと…。エクリチュールはどこかなー…。あ、上杉先生は待っててくださいね。」

「え?上杉先生?」

 

 六華に先生と呼んでもらえたのがよほど嬉しかったのか、風太郎の顔から笑みがこぼれる。その様子を三玖は気持ち悪がって見ていた。

 

「お待たせ、できたよ!」

「わぁ!美味しそう!」

 

 しばらくして、六華が出来上がったクッキーをテーブルに運んで来た。五月を除いて全員が揃ったところで風太郎は小テストをさせる事にした。

 

「よし、これで五人だな。五月はいないが始めてしまおう。まずは実力を測るためにも小テストをしよう!」

 

 風太郎はそう言ったが、誰も話を聞いてなどいなかった。唯一風太郎の意見に耳を傾けてくれたのは四葉だったが、本人は小テストの用紙に名前しか書いていなかった。

 

「ん?五人って事は…。もしかして俺も入るんですか?」

「そうだ。一応お前の学力も測っておきた…。」

「いい加減にして!!!」

 

 六華に小テストをさせようとする風太郎に二乃が怒号をあげた。その場にいた全員はしばらく硬直し、動けずにいた。事情を知らない風太郎は何が何だかわからない、という表情をしていた。

 

「…ごめんなさい。お水持ってくるわ。」

「まぁ、気にしないでください。クッキー食べてくれたらお姉ちゃん達に勉強させますから。」

 

 状況を一転させようとなんとか六華が場を和ませようとする。風太郎は仕方なく六華の作ったクッキーを口に運ぶ。

 

「っ…!美味い…。」

 

 一度六華の作ったクッキーの味を知った風太郎は手を止める事なくクッキーを口に入れ続けた。

 

「気に入ってくれたみたいよ、六華。」

「六華の作るものにハズレは無いから当然。」

 

 一花と三玖が個々に思った事を述べるが、それだけではなくどこか嬉しそうな表情をしていた。二人の台詞の言い方にさえも上機嫌である様子が伺える。

 

「はい、お水。」

「ああ、ありがとう。」

 

 風太郎は二乃の持ってきた氷水を飲む。それまでクッキーを食べていた分、口も乾いていた。

 すると、水を飲んだ風太郎は急に眠気に襲われそのまま倒れた。何も知らない一同は二乃を疑う。

 

「えっ、ちょっ!?二乃お姉ちゃん何やってんの!?」

「決まってるでしょ。このストーカーを追い出すのよ。五月、アンタ手伝いなさい。さすがに六華一人じゃ厳しいだろうし。」

「何で私なんですか!?」

「アンタこいつと同じクラスでしょ?」

 

 二乃と五月の話し合いの末、結局六華がマンションの外まで風太郎を連れて行き、五月がタクシーを呼んで彼を自宅まで送っていくこととなった。

 

「はぁ…。二乃お姉ちゃんも人使いが荒いんだから。」

 

 六華はそう言い、部屋のベッドに寝転ぶ。その時、六華は不穏な気配を感じた。距離こそ近くはないが、こちらに近づいてくるのは時間の問題だった。五月を除く姉四人がリビングにいるのをいいことに六華はある行動に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分前、氷室は単身でもう一度現場周辺の捜査をしていた。現場の周りであれば確証が掴めるものが出てくるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて周辺を捜索する氷室であったが、それが裏目となった。捜査が難航し閉口していた氷室は一人の女性と出会った。その女性が漂わせる怪しげな雰囲気が気になった氷室は声をかけることにした。これが俗に言う刑事の勘というものなのだろう、と思いながら氷室は女性に声をかける。

 

「あの、すみません。私、警部補の氷室という者なのですが、最近この辺りで事件が起きた事を知っ…。ウッ!」

 

 その女性に近づいた瞬間、氷室は急に息苦しさを覚えた。この女性は只者ではない。本能的に察知した氷室は拳銃の引き金を躊躇う事なく引く。しかし、銃弾は女性の前で急速に勢いを失い止まってしまった。

 

「あなた、何者?」

「決まっているだろう…。人間だ!五年前の事件と今回の事件の犯人はお前だな!」

「五年前…。ああ、あれか。あれは私ではない。」

 

 氷室は女性が今回の事件について否定しなかった事から、信憑性はそう低くないと判断した。しかしそれをいつまでも考えている余裕は彼にはなかった。

 氷室は全速力で逃げたものの、すぐさま追い詰められた。

 

「プレデターではないようだな。ならば死あるのみ!」

 

 女性が力を発動し、氷室を殺そうとした次の瞬間、謎の人影が女性に飛び蹴りを喰らわせた。氷室も何が何だかわからないという表情で座り込むことしか出来なかった。謎の人影は黒い長袖に黒い長ズボン、顔にはガスマスクを着けていた。

 

「ブラックレジスター…!」

 

 女性は立ち上がり、ブラックレジスターと呼んだ存在に力を発動する。しかし、女性が力を発動した瞬間にはブラックレジスターは彼女の背後に回り込んでいた。ブラックレジスターは女性に蹴りを喰らわせ、右腕の骨を折った。

 

「はっ!」

 

 ブラックレジスターはすぐさま自らの力を発動し、謎の光線を女性に浴びせた。

 

「っ…!ふんっ…!力が使えない…。貴様、まさかジョーカーの一族か!」

 

 ブラックレジスターは氷室を一瞥すると、瞬く間に闇の中へと消えていった。氷室はブラックレジスターを追えないと判断すると、女性に駆け寄り彼女の手首に手錠をかけた。

 

「知っている事、全部警察署で話してもらいましょうか。」

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