六等分の生き方   作:スターフルーツくん

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第5話「若者のすべて」

 

 

 数日が経ち、五月は風太郎の家に来ていた。目的は彼に給料を渡すことであり、家には風太郎の父、上杉 勇也もいた。

 

「あれ?父さん、らいはどこ行ったんだ?」

「ああ、らいはなら『友達と遊びに行く』って言って出かけたぞ。」

 

 風太郎が勇也に尋ね、勇也が答える。勇也は今日は非番であったために在宅している。程なくして、勇也も荷物をまとめてどこかへ出かけていった。

 

「それで、何の用だ?」

 

 風太郎がそう言うと、五月は自身のカバンから封筒を取り出し彼に差し出した。

 

「これは…?」

「今月の給料です。」

 

 風太郎は反射的に封筒の中身を見る。彼にとってはありえない枚数の一万円札は風太郎の手汗でしわくちゃになる。これなら借金も難なく返せるかもしれない。そう感じた風太郎だったが、突然封筒を返した。

 

「これは受け取れねぇ。」

「どうしてですか?」

「たしかに俺はお前たちの家に二回ほど行ったが、家庭教師と言えるような事は何一つしてねぇ。」

「何もしてない、なんて事はないと思いますよ。あなたの存在は五人の…間違えました!四人の何かを変え始めています。六華だけは変わらないようですが…。」

 

 それから風太郎と他愛のない会話をした五月は家に帰る事にした。しかし、そんな五月の隣には何故か風太郎がいた。

 

「何であなたがいるのですか…。」

「らいはがいないのが心配だ。給料もあるかららいはに何か欲しいものでも買ってやりてぇ。」

 

 妹を想う風太郎に五月は彼の中にある人間的な感情に感心する。そんな風太郎と五月だったが、この会話の直後思わぬ人物達と遭遇した。

 

「あれ?五月お姉ちゃん!それに上杉先生も!」

「あっ、お兄ちゃんと五月さんだ!」

 

 曲がり角を曲がろうとした二人の視界には、手を繋いでいる六華とらいはの姿があった。

 

「らいは!それに六華も!お前ら一体…。」

 

 その時、風太郎は父の勇也の言っていたらいはの友達が六華である事を知った。その途端、風太郎の目つきが悪化し六華に近づく。

 

「うちのらいはに手出したらどうなるかわかってるよな?」

「らいはちゃんの事はそういう目で見てないですって…。それに上杉先生みたくセクハラはしませんから安心してくださいよ。」

「あの誤解は解けただろ!!!まだ人のことをそういう目で見てるのか!!!」

 

 風太郎が未だに誤解している六華に掴みかかると、らいはが風太郎の足を蹴った。風太郎の無礼な態度に怒っているのだろう、と六華は推測する。

 

「らいはちゃん、次はどこ行きたい?」

「私、ゲームセンターに行きたい!五月さんももちろん行くよね?ダメ?」

 

 らいはの誘いに五月は断ることができず、不本意ながらも風太郎、六華と共に同伴することとなった。

 

「おかしい…。今の衝撃で落ちないのは物理の法則に反してる!あと一回あれば…!」

「お兄ちゃんもうやめとこ!」

 

 風太郎とらいはのやりとりを見た五月と六華は一体どちらが子供なのかわからない様子であった。

 

「じゃあ俺がやってみますよ。」

 

 六華はらいはの欲しがっていた物に狙いを定め、感覚で計算して打った。六華の打った弾は賞品に命中し、見事落ちた。

 

「六華さんすごーい!ありがとう!」

「いやいや、あれくらい普通だよ。」

「じゃああれを取れなかった俺は普通以下だって言うのか!?」

 

 憤慨する風太郎はらいはがなんとか嗜めた。その後も四人はゲームセンターを見て周り、満喫していた。

 

「二人とも、なんか付き合わせちまって悪いな。らいはには家の事情でいつも不便かけててな、あいつ遠慮してるだけで本当はもっとやりたい事があるはずなんだ。あいつの望みは全て叶えてやりたい。」

 

 風太郎は五月と六華に向かってそう話した。二人が上杉家の境遇の事を思っていると、らいはが三人に声をかけてきた。

 

「お兄ちゃん、五月さん、六華さん。最後に四人であれやってみたいな!」

 

 そう言ってらいはが指をさした方向には最新のプリクラ機があった。妙な悍ましさを感じた風太郎はプリクラ機がある方向とは別の方向に指をさす。

 

「ら、らいは…。それよりあっちの方が楽しそうだぜ…。」

「まぁまぁいいじゃないですか。五月お姉ちゃんも一緒にらいはちゃんのやりたい事させてあげようよ。」

 

 意外にも乗り気な六華の誘いに風太郎と五月は仕方なく応じ、プリクラを撮った。らいはと六華は満面の笑みを浮かべていたが、風太郎と五月は引き攣った笑みを浮かべ、六華に爆笑されていた。

 

「お兄ちゃん、五月さん、六華さんありがとう!一生の宝物にするね!」

 

 らいはが満足感に浸され、共に帰っている中で五月と六華はとある用事を思い出して別方向へと向かおうとする。

 

「私達はここで…。」

 

 五月の態度から訝しげな印象を受けた風太郎は五月と六華の後をついていく。

 

「なんだ、怪しいな。宿題は済ませたのか?」

「わーっ!ついてこないでください!」

「そうですよ!二乃お姉ちゃんにストーカーだって言いますからね!」

 

 そんな騒がしいやりとりをしている三人に対して、落ち着いているらいはが突然声をかけてきた。

 

「お兄ちゃん。五月さんが四人いる。」

 

 三人がらいはの方を向くと、そこには浴衣を着ていた四葉、一花、三玖、二乃がいた。

 

「集まったし早くお祭り行こう。」

 

 浴衣を着てもなおヘッドホンを装着している三玖が一番最初に口を開いた。

 

「わー!上杉さんの妹ちゃんですか?これから一緒にお祭り行きましょう!」

 

 四葉が脳内で情報の処理をしているらいはを祭りに誘う。しかし、それを快く思わない人物が一人いた。彼女の兄、風太郎である。

 

「待て、お前ら宿題は…!」

「ダメ?」

「もちろんいいさ…。」

 

 風太郎は五人に宿題をさせようとしたが、肝心なところで兄馬鹿な一面が作動してしまい、祭りに行く事となった。しかし、彼のもう一つの思惑はまだ終わっていなかった。

 

「だがお前らは宿題を済ませてからだ!!!」

 

 風太郎が五人に宿題をさせている間、らいはと既に浴衣に着替えた六華は祭りを満喫していた。

 数分後、宿題を済ませた五人は早速六華とらいはのもとへと合流した。

 

「やっと終わったー!」

「みんなお疲れ様!」

 

 宿題を済ませた五人にらいはが労いの言葉をかける。そこには嫌味一つなく純粋に皆を労うらいはの健気な態度が見受けられた。

 

「花火って何時から?」

「十九時から二十時まで。」

 

 花火の時刻を知りたい二乃の質問にここに来てもなおテンションの低い三玖が答える。

 

「じゃあまだ一時間あるし屋台行こー!!」

「いいね!まずみんなで回りたいとこあるんだよ!」

 

 全員何故かいつにも増して騒がしく、風太郎それに対して頭を痛める。勉強嫌いなあの五人がすんなりと宿題を終わらせていた事に風太郎は疑問を抱いていた。何故彼女達はそこまでして花火を見たいのだろうか。

 

「なんですかその祭りに相応しくない顔は。」

「俺はなんて回り道をしてるんだと思って…。」

 

 風太郎にそう声をかけてきたのは五月だった。髪型を変え、浴衣を着ている五月を六華が一眼レフでこれでもかと言うほど撮影する。

 

「五月お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!似合ってる!!!似合ってるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「あ、あんまり撮らないでください…。」

 

 五月の浴衣姿を見て興奮する六華に五月は顔を赤らめる。

 

「誰だ?ただでさえ顔が同じでややこしいんだから髪型を変えるんじゃない。」

「五月です!どんなヘアスタイルにしようと私の勝手でしょう!」

 

 五月の浴衣姿に興味を示さない風太郎の発言に五月が憤慨する。そんな二人の仲裁に入ったのは六華だった。

 

「まぁまぁ五月お姉ちゃん。上杉先生、女の人が髪型変えたら褒めてくださいよ。ていうか褒めなきゃダメですよ。そんなんだからみんなに嫌われるんですよ。」

「余計なお世話だ。」

 

 六華の言葉に風太郎は多少苛立ちを募らせるが、ここでまた六華のことを怒れば姉五人が黙っていない。それこそ全員勉強する気を無くすだろう。

 

「一花どうしたの?はぐれちゃうわよ。」

「ごめんねー、ちょっと電話。」

 

 一方、一花は携帯の電話をかけてきた番号を見て妹や弟のもとから離れようとする。

 

「らいは、あまり離れると迷子になるから袖つかんでろ。」

「はーい、あのねお兄ちゃん見てー。四葉さんが取ってくれたの!」

 

 らいははそう言って数多くの金魚が入っている袋二つを風太郎に見せてきた。そのあまりの多さに風太郎は若干引く。

 

「四葉…。お前もう少し加減できなかったのか…。」

「あはは…。らいはちゃんを見てると不思議とプレゼンしたくなっちゃうんです…。」

 

 四葉ははにかみながら風太郎に向かって言う。五月と六華同様、四葉もまたらいはの事を気に入っている様子であった。

 

「お兄ちゃん、これも買ってもらったんだ。」

「それ今日一番要らないやつ!!!」

 

 らいはが持っていたものは点火させるだけで簡単に楽しめる花火セットだった。これから花火大会を見に行くという目的のもと参加している今、誰がどう考えても最も不要なものであった。

 

「だって待ちきれなかったんだもーん。」

「はぁ…。四葉お姉ちゃんにちゃんとお礼言ったか?」

「四葉さんありがとう!だーいすきっ!」

 

 らいはが柔和な笑みを浮かべながら上目遣いで四葉に抱きつく。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁらいはちゃん可愛すぎますぅぅぅぅぅぅ私の妹にしたいですぅぅぅぅ!!!」

 

 四葉はらいはに頬擦りしながら抱きつき返す。するとその会話を聞いていた二乃が何やら早とちりし、風太郎に迫ってきた。

 

「あんた、四葉に変な気起こしたらタダじゃ済まないわよ!」

「ないから安心しろ!」

 

 二乃が迫ってきた事で風太郎は一歩ずつ後ろに下がる。すると彼の左肘に何やら柔らかい感触が当たる。風太郎が後ろを振り向くと、彼の肘に三玖の胸が当たっていた。

 

「す、す、すまん!」

「い…いいっ…。」

 

 風太郎と三玖は顔を赤らめ、お互いに視線を合わせなかった。すると、風太郎のワイシャツの首元を何者かが掴んできた。風太郎が後ろを振り向くと、そこには菩薩のような笑みを浮かべながらも怒りに満ちたオーラを漂わせた六華が立っていた。

 

「おいてめぇコラてめぇコラてめぇ…!」

「ろ、六華!落ち着け!これは不慮の事故で別に故意にやったわけでは…。をろあ!!」

 

 六華は何も言わないまま風太郎を裏の方に連れて行った。すると、二人の向かって行った方からドゴッと鈍い音が聞こえ、風太郎の声で「をろあ!!」という断末魔のような叫び声が聞こえてきた。裏の方から出てきた六華は先程の笑みを崩さず、両手をハンカチで拭いていた。何が起きたかある程度想像できた想像できてしまった六人は六華に恐怖する。

 

「ろ、六華…?」

「ん?何でもないよ?さ、行こっか。」

 

 六華は六人のもとに合流した後、頭に包帯を巻いている風太郎も七人と合流した。

 

「しかし、この人の量半端じゃないぞ。これじゃ花火も満足に見られん。」

「二乃お姉ちゃんが近くのお店の屋上を借り切ってるんで二乃お姉ちゃんについてけば大丈夫です。」

「ブルジョワかよ…。」

 

 風太郎達は改めて中野家の持つ財力に驚くとともに、二乃の借り切っている店に向かう。すると二乃が「待ちなさい」と全員を呼び止めた。

 

「せっかくお祭りに来たのにアレも買わずに行くわけ?」

 

 二乃の呼びかけで一花、三玖、四葉、五月、六華の五人が一斉に反応する。

 

「そういえばアレ買ってない…。」

「たしかにアレが無いとお祭りに来た意味ないね。」

「あ、もしかしてアレの話してる?」

「アレやってる屋台ありましたっけ…。」

「早くアレ食べたいなー!」

 

 六人は「せーの」の合図でそれぞれが一斉にアレが何かを答える。

 

「チョコバナナ!」

「りんご飴。」

「かき氷。」

「焼きそば!」

「人形焼き。」

「たこ焼き!」

 

 結果的に全員の言うアレは誰一人としてかぶっていなかったが、全て買いに行くこととなった。その様子を見ていた風太郎は六華はともかく他の五人が本当に五つ子なのか疑わしく思っていた。

 そして数分後、五月が頬を膨らませて一花と帰ってきた。

 

「機嫌直しなよ〜。」

「何度考えても納得いきません!あの店主、一花には『可愛いからオマケ』ともう一つあげたのに私には何も無しなんて!同じ顔なのに!」

 

 五月の愚痴を聞いた一花は「まぁまぁ」と彼女を嗜め、三玖は「複雑な五つ子心」と独り言を呟いた。

 

「ちょっとアンタ達!ボサッとしてないでついてきなさい!ってあれ?四葉と妹ちゃんと六華は?」

 

 二乃が後ろを振り向くと、人が一気に雪崩れ込み、それに巻き込まれてしまい一花と三玖と五月からどんどん遠ざかっていく。

 

「しっかり捕まってろ。」

 

 そんな時彼女を引っ張っていったのが彼女が現時点で最も毛嫌いしている風太郎だった。今は彼を頼る他ない。現在の状況からそう判断した二乃はひとまず彼を自身の予約した店の屋上まで案内した。

 

「あ、二乃お姉ちゃん。」

「ろ、六華!?あんたいつの間に!?」

 

 二乃の予約した店の屋上には既に六華が到着していた。もちろん、六華は二乃の予約した店の所在は知らなかったが、千里眼で風太郎と二乃の進路を把握し、そのルートから二人が行くと推測した店の屋上に瞬間移動で到着し、予め待機していた。

 

「いやー、来ちゃった。」

「『来ちゃった』じゃないわよ!一体どうやってここに辿り着いたの!?あたし店の場所教えてないわよ!あっ…。」

 

 六華と話しているうちに二乃は自分が他の姉妹に予約した店の場所を知らせていなかった事に気づいた。

 

「二乃、お前はここで待ってろ。六華。ちょっと来い。」

 

 風太郎は突然そう言うと、六華を連れ出した。六華は何の事で呼ばれたかはわからなかったものの、風太郎に一定の信頼をおいているため話を聞くことにした。

 

「六華、花火大会が始まる前までにという前提条件付きでは流石の俺でもあいつらを探し出すことは無理だ。そこでお前にも協力してもらいたい。いいな?」

「わかりました。じゃあ、先生と俺で手分けして探しましょう!二乃お姉ちゃん!そこで待っててね!」

 

 六華はそう言うと、風太郎と別れて早速姉達を探す事にした。六華がまず先にした行動は携帯を使って電話をかける。しかし、運が悪いことに六華が確認した時点では圏外となっており、仕方なく自力で探索する他なかった。六華はまず千里眼の能力を使用し、辺りを見渡した。

 

「いやー、こんな大勢の人の中から探すの面倒だなぁ…。」

 

 千里眼はあくまでも遠くの場所まで見渡せる能力であり、特定の個人を探し出すためのものではない。ましてや、人の多い花火大会の場所で二乃以外の姉を見つけ出すのは不可能に近かった。

 すると、六華は時計台の近くのベンチに座っている偶然四葉とらいはを見かけた。

 

「四葉お姉ちゃんにらいはちゃん!どうしたの?」

「六華!今ね、疲れてたから休憩してたところなんだよ。」

「一花お姉ちゃんと三玖お姉ちゃんと五月お姉ちゃん知らない?人多すぎて見つからなくってさ。」

 

 六華は二人に問いかけるも、二人は「知らない」と答えた。六華は大体の状況を判断すると、残りの姉達を探すべく四葉とらいはに時計台の近くを離れないように言い、その場を後にした。しばらくすると、六華は左足に怪我をした三玖に出会った。

 

「三玖お姉ちゃん!一花お姉ちゃんと五月お姉ちゃん知らない?」

「六華…。一花は用事があって今は無理。五月はフータローと一緒にいる。」

 

 六華は一花の事を三玖から語られた際に喉元まで出かかった言葉を口を噤む事で抑え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは風太郎が家庭教師として中野家に来る数日前の出来事である。六華は夜中に起きると喉の渇きを感じ、姉達を起こさない程度の足音で台所へと向かった。台所でコップに注いだ水を飲んでいるとと、何やら妙な物音が一花の部屋から聞こえた。六華は怪しげな雰囲気を感じつつも、物音を立てずに一花の部屋に入り込んだ。そこには、台本を片手に演技をする一花がいた。

 

「一花お姉ちゃん何やってんの?」

「え?うぁっ!?六華…!」

 

 六華に自身の芝居を見られた一花は彼に全てを話した。自身が女優の卵である事、少しずつ仕事が貰えている事、自身が芝居で大きな成果をあげるまで妹達には黙っておいてほしい事。その全てを打ち明けた。

 

「そうなんだ、すごいね!」

「全然だよ。ちゃんとした成果も出せてないし…。」

「でも今を頑張ってるだけで十分凄いんじゃない?俺にとっては一花お姉ちゃんが凄い存在に思えるよ。」

「六華…。ありがとう。」

 

 しばらく二人で他愛のない会話をしていると、六華は以前から気になっていた事を口に出していた。

 

「ねぇ、一花お姉ちゃんは俺の記憶が戻ったらどうするの?」

 

 一花はしばらく唖然としていたが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。

 

「安心して。記憶が戻ったとしても六華は六華。私たちの大事な家族だよ。」

「一花お姉ちゃん…。」

 

 六華は自身に対する一花の愛を知った。姉として、末弟の六華の事を思っている事が彼女の言葉から伝わってきた。その日の事を六華は今でも忘れてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この一件依頼、六華は姉達に一花の事を黙っていた。一花の面目を守るために。全ては自分を優しく迎えてくれた一花のために。

 

「三玖お姉ちゃん…。ありがとう!俺行かなきゃ!」

「え、六華!」

 

 六華はすぐさま人混みをかき分け、風太郎と五月のいる所へ向かった。先程から千里眼を使って捜索していたため、発見するまでにそう時間はかからなかった。

 

「五月お姉ちゃん!あれ、先生は?」

「六華。上杉君なら一花の所へ行きましたよ。」

 

 六華は再び考え込んだ。おそらく風太郎がここまであちこち移動する事になっているのは何かしら原因がある。心当たりがあるとするならばそれは逸れてから未だ会っていない一花にあるとする他ない。仮に彼女に何かあるとすると、ドラマか映画のオーディションに違いない。それが何を意味するか。現在の時刻から判断しておそらく一花は花火大会には間に合わない。六華はそう判断する他なかった。

 

「うーん…。どうすれば良いんだろ…。」

「六華…。」

 

 五月に呼ばれて六華が振り向くと、既に花火大会が始まっていた。雲一つない夜空に花火が光り輝き、全員で見られなかった悲しみが各々の胸中に込み上げてくる。

 

「うーん…。あっ、そうだ!」

「どうしたんですか?」

「アレを使おう!四葉お姉ちゃんが買ってた花火セット!」

 

 花火大会が始まる直前、四葉は花火セットを購入していた。その時こそ不必要とされていたが、花火大会を全員で見られなかったという現状を考えると必要なものになっている。

 

「さてと、それはそうと他のお姉ちゃん達を集めなきゃいけないね。あの花火セットをやるにはここじゃ難しい。えーと…。」

 

 六華はそう言うと、スケッチブックを取り出して準備を始めた。六華のやろうとしている事を察知した五月は口を開いた。

 

「まさか…。六華、念写を?」

「うん。まずは二乃お姉ちゃんを探さないといけない。えーと…。多分まだいると思うけど念のために…。って、ここじゃ書けないね。こっち行こう。」

 

 六華と五月は建物の間に行き、人目のつかない場所へとたどり着いた。六華は再びスケッチブックと鉛筆を準備し、念写を開始した。しばらくの間、沈黙が続く。必死に筆を走らせる六華を五月はただひたすらに見守った。

 

「よし、まだあそこにいる。五月お姉ちゃん、行こう!」

「はい!」

 

 六華と五月は離れないように手を繋いで二乃のいる店の屋上へと向かった。

 

「五月!六華!今までどこに行ってたのよ!」

「まぁまぁ。それよりも、多分一花お姉ちゃんはもう間に合わない。外せない用事があるらしいんだ。だから花火大会の花火は見られない。」

 

 二乃と五月もいるその場に気まずい沈黙が流れるも、六華は話を続けた。

 

「でも、自分達で花火をする事はできると思うんだよね。だから一緒に来て!」

「え?ちょっと、六華!?」

「何で私の腕まで〜!?」

 

 六華は二乃と五月を引っ張って時計台の近くへ行き、四葉とらいはと合流した。

 

「よかった!二人ともまだいたね!」

「六華!どうかしたの?」

「その花火セット使いたいんだけど、いい?」

「わかった!でも、一花と三玖と上杉さんは?」

「一花お姉ちゃんは上杉先生に任せておけばいいよ。それよりも三玖お姉ちゃんは…。」

 

 六華は五月以外の全員に見られないようにこっそりと念写を開始した。チラチラと見てくる者がいれば五月が止めてくれる事を信じていたため、六華は安心して念写を行う事ができた。

 

「ねぇ、六華は一体何してるの?」

「静かに!今大事な事をしてるんです!」

 

 六華が何をしているかを知ろうとする二乃を五月が制止する。二人がそうこうしている間に六華は絵を完成させていた。

 

「ぶほぁあ!!」

「六華、どうかしたのですか?」

 

 五月が六華の描いた絵を見ると、そこには髪型を変えた三玖と風太郎と一花が描かれてあった。

 

「なるほど、六華はこれで…。」

「尊い…。尊すぎるよぉ…。」

 

 三玖の美貌に心を打ち抜かれた六華を見た五月は呆れたが、六華はすぐに平静を取り戻した。

 

「四葉ちゃん、らいはちゃん。今閉まってる商店街の方へ行ってくれないかな?そこに上杉先生達がいるから。あとその花火セットを俺に渡して。」

「え?どうして六華さんがそれを…。」

「説明は後。五月お姉ちゃんは俺と一緒に来て。二乃お姉ちゃんは三玖お姉ちゃんに連絡を。」

 

 六華の指示を受けた四人はそれぞれがなすべき事をし出した。三玖に連絡を入れた二乃は五月と六華とともに近くの公園へとたどり着いた。その後、水の入ったバケツやゴミ袋などを用意し、三玖を連れてきた四葉とらいはと合流した。

 

「よし、後は一花お姉ちゃんと上杉先生を待とう。」

「うん!」

「はーい!」

 

 それぞれが好きな事をして待ってから数分後、ついに風太郎と一花が現れた。

 

「一花お姉ちゃんに上杉先生!お帰り!」

 

 姉妹全員が揃った事に喜ぶ一同だったが、突然一花が頭を下げて謝罪した。

 

「みんな、ごめん!私の勝手でこんな事になっちゃって本当にごめんね…。」

「全くよ。」

 

 一花の謝罪の後、しばらく沈黙が続いたがその沈黙を破り口を開いたのは二乃だった。

 

「今回の原因の一端はアンタにもあるわ。あと、場所を教えてなかった私も悪い。」

 

 二乃は一花を非難したが、それと同じほど自身の非を責めていた。今回の事を後ろめたく感じていたのは自身だけではなかったことに一花は気づいた。

 

「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました…。」

 

 二乃に続いて反省の意を述べたのは五月であった。五月自身も心の中で己の過ちを悔いていたのだとその場にいた全員が知る。

 

「私も、今回は失敗ばかり…。」

 

 五月の次は三玖が反省する。

 

「よくわからないけど、私も悪かったって事で…。屋台見てばっかりだったし…。」

 

 三玖の次に四葉が反省する。

 

「みんな…。」

「はい、アンタの分。」

 

 全員の優しさに心を打たれた一花は二乃から差し出された花火を受け取る。自身の落ち度を受け入れ、許した二乃の優しさに一花は目頭が熱くなる。

 

「お母様がよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越えること。誰かの幸せは五人で分かち合うこと。」

 

 五月の言葉を聞いて、五人は一斉に花火に火を灯した。

 

「喜びも…。」

「悲しみも…。」

「怒りも…。」

「慈しみも…。」

「私達全員で五等分ですから…!」

 

 すると、もう一つの花火が火を灯し辺りをより明るく照らした。

 

「五つよりも六つ。六等分もいいけど、六倍で笑い合うのもいいんじゃないかな。」

 

 六華の一言で五人の姉は微笑み合った。こうして公園にいる全員で花火を満喫した後、風太郎らが独自で開催した花火大会はお開きの時を迎えていた。中野家の六人が楽しんでいる様子を見守っていた風太郎はベンチの上で眠っているらいはを見つめる。しかし、そのうち段々と眠気に襲われ、ついには目を開けたまま眠るという状態にまで陥った。

 

「頑張ったね、ありがとう。今日は……お休み。」

 

 そう言って一花は自身の太腿の上に風太郎の頭を乗せた。言わずもがな、その事実に激怒した六華を止めたのは他の姉妹達であった。こうして、波乱万丈な花火大会は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、一人の男が公園で風太郎達がいる事を確認し、携帯の画面でブラックレジスターのニュース記事を見ていた。男は黒髪にマスク姿であり、服装は黒い薄手の長袖の上から白い半袖のシャツを着ている。腰にはチェック柄の長袖のシャツが巻かれており、肩にはバッグを提げていた。そんな男は公園にいる六華の存在を把握し、携帯の電源を切った。

 

「…なるほどね。アレが中野 六華、ブラックレジスターか。例のモノを手にするにはもう少し連中の素性を探るべきかな。」

 

 男はそう言うと、踵を返して何処かへ去って行った。男の欲している物は一体何であるのか、男の目的は何か、男は何者なのか。それは六華達が彼と遭遇する時に明かされる…。




次回はオリジナル回です。その後、中間試験編となります。中間試験編は前編と後編で分けてやります。
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