六等分の生き方   作:スターフルーツくん

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前回から大分間が空いてしまい、申し訳ございません。
今回から中間試験編前編です!おそらく年内最後の投稿になるかもしれませんのでご了承ください。
それと、余談になりますがTwitterを始めました。よろしければフォローをお願いいたします。一応リンクを貼っておきますね
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第7話「戦いの始まり」

 

 

 花火大会から数日後、風太郎達の高校は中間試験を控えていた。四葉のみは林間学校に意識が傾いていたが、他の姉妹は風太郎と同様に中間試験対策に目を向けていた。

 そんな中、六華は心ここにあらずという状態であった。花火大会の翌日、風太郎は六華達の連絡先を交換するという課題を一花から出されていた。その最中で風太郎は翌日になって二乃の連絡先を交換した。

 その途中で六華は生徒手帳に入っている写真を発見した。その写真は金髪に髪を染め、不良の風貌をしていた少年時代の風太郎と五つ子の中の一人が映っていた。六華はその正体を看破したが、本人の心情を悟ったためそれを隠す事にした。

 

「そう言えば…。確か明日は上杉先生が泊まりに来るんだっけか。色々準備しとかなきゃな〜…。おっと、その前に夕ご飯の買い出しに行かなきゃ!」

 

 六華は泊まり込みの勉強会の準備をするためにエコバッグを片手に持ち、家を空けた。

 買い物を終え、しばらくしていると何やら男女が言い合いをしている声が聞こえた。

 

「貴方から教わることは何もありません!!!」

「お前に教えることは何もねぇ!!!」

 

 六華は気になって声のする方に足を運んだ。どこかで聞いたことのあるような声という印象を受けた六華は声の正体を探るべく、気配を消して近づいた。

 すると、そこには風太郎と五月がいた。二人の表情を見る限り、喧嘩でもしたのだろうと六華は推測する。二人が展開する険悪な雰囲気に対して気まずさを感じた六華はそそくさと踵を返した。

 その後、家に帰ってきた六華は先に帰宅していた一花と遭遇した。

 

「六華、どうかした?何かあった?」

「い、いや!?何でもないですよ〜…。」

 

 一花には悟られまいと六華はそそくさとスーパーで購入した食材を片付け始めた。その様子に一花は怪訝な様子を示し、しばらく六華の事を見張る決意をした。

 

「そっか。何かあったんだね。」

「え!?い、いやいやいや!何もないよ!?」

「六華は顔に出るからすぐわかるよ。それに、伊達に五年も六華のお姉ちゃんやってるわけじゃないよ。」

 

 六華が隠し事をしていることを見抜いた一花は六華に全てを明らかにさせようとした。六華も一花の眼差しに耐えきれず自身が見たものを話した。

 

「って、こんな感じかな。まぁ一部しか見てないから具体的にどういう事で二人が怒ってたのかはわからないけど。」

「なるほどねぇ…。ふふっ。」

 

 微笑む一花に対して五月にどんな言葉をかければ良いか悩んでいる六華は疑問を持った。

 

「今の話に何かおかしな箇所でもあったの?」

「いや、やっぱりフータロー君と五月ちゃんは似た者同士なんだなって。」

「似た者同士?」

 

 一花の放った言葉に六華は疑問を持つ。風太郎と五月の二人は性格が違う。衝突も多い。そんな二人に似たようなモノを感じるのだろうか、と六華は不思議に思う。一花はそれに構わず話を続ける。

 

「うん。言葉では上手く言い表せないけど…。“本質”が一緒なんだよ。どっちも不器用で、それなのに譲れないところがあって…。でもこの世に顔も性格も名前も、全く同じ人間は誰一人としていない。フータロー君と五月ちゃんも例外じゃないよ。二人にも違う部分があるからこそ、顔を合わせる度に喧嘩する。私としては、二人には仲良く喧嘩してほしいって思ってるんだ。だから、私達は私達にできるだけの事をしよう。」

「うん、わかった…!」

 

 六華は一花の言葉を信じ、風太郎と五月の様子を見守る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六華が買い出しに戻った頃、六華達の家の近くで起こった殺人事件の調査が警察によって行われていた。

 

「今回の被害者の殺害方法も、どうやらただの殺しの手口じゃないな。」

「またしても超能力犯罪、ですかね?」

 

 殺害方法を気にかける河野に氷室が超能力者による犯罪の可能性を提示した。今回の被害者は街中を歩いていたら突然喉元から口内にかけて釘が現れ、それが原因となって死亡したという目撃情報が出ていた。

 

「テレポートか…。あり得るな。もし遭遇したら気をつけろよ。えーと…。そのキンプリセブンだっけ?」

「GP-7です。それと、キンプリは日本の男性アイドルグループです。」

 

 氷室は河野にそう教えると、再び現場周辺の捜索にあたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、四葉お姉ちゃんと同じ所に止まった!上杉先生、ご祝儀ください!」

「ったく、どんどん金が無くなっていく…。」

 

 翌日、風太郎達は試験前にも関わらず人生ゲームをしていた。今日は六華がかねてより準備していた泊まり込みで勉強を教える日であり、風太郎もその準備をしていた。

 しかし、現状は何一つ変わっていなかった。風太郎と五月は仲違いしたままである上に五人の学力が向上する気配は無かった。

 

「って、エンジョイしてる場合か!!自分の人生をどうにかしろよ!休憩終わり!さぁ、勉強の続きを始めるぞ!」

 

 風太郎は本来の責務を全うすべく一花、三玖、四葉の三人に試験勉強の対策を教え始める。

 すると、それまで黙っていた三玖が口を開いた。

 

「フータロー。何かいつもより焦ってる。私達そんなに危ない?」

「いや…その……実は…。」

 

 風太郎が事実を伝えようとしたその時、リビングに二乃が現れた。どうやらいつの間にか帰って来ていたようだ。

 

「あー!何だ、勉強サボって遊んでるじゃない。あたしもやる。ってお金少な!」

 

 二乃は風太郎の代わりに人生ゲームを遊ぼうとするが、その所持金の少なさに言葉を失った。

 

「フータロー、実は…。何?」

「いや、何でもない…。」

 

 三玖が風太郎の言葉の続きを尋ねたが、風太郎は口をつぐんだ。彼は五月達の父親であるマルオから次の試験で誰か一人でも赤点を取った場合、その責任を負って家庭教師を退職する事を半ば一方的に約束されたのだ。この事を五月達が知れば彼女達は余計な事を考え、試験に集中できなくなる。風太郎はそれを危惧し、敢えて黙秘した。

 

「アンタもまざる?」

 

 二乃が五月にそう呼びかける。今こそ一度崩れた関係性を修復するチャンス。風太郎はそう考えたものの、気まずさが災いして伝えたい言葉を伝える事ができないでいた。

 

「…私はこれから自習があるので失礼します。」

 

 五月はそう言うと自室へと去っていった。風太郎は五月を呼び止めるも、彼女は未だに意地を張り、それに応じなかった。

 

「ほら、アンタも今日のカテキョーは終わったでしょ!帰った帰った!」

「あ、あぁ…。」

「二乃お姉ちゃんストップ!」

 

 二乃が風太郎を部屋から追い出そうとした瞬間、六華が二乃に対して待ったをかけた。六華の突然の行動に一同は怪訝な表情で彼を見る。

 

「今日は俺たちの家で泊まり込みで勉強してもらえるって話でしたよね?」

 

 六華の発言を聞いた風太郎と二乃は声を荒げて驚いた。姉達はおろか風太郎すらも想定していなかった事だった。しかし、この六華の助け舟は風太郎にとっては嬉しい誤算となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「六華、さっきの話聞かされてないんだけどどういう事なの?」

 

 三玖は風太郎が風呂に入った途端に六華を問い詰めた。三玖自身は怒っているわけではなく、ただ単に自分達が知らなかった泊まり込みの勉強会の予定を何故六華が知っていたのかを知りたかっただけなのだ。あっけらかんと夜食を作っていた六華は一度手を止め、三玖の質問に答える。

 

「あれは俺からの提案みたいなものだったんだよ。もうそろそろ中間試験も近いし。でも五月と上杉先生が喧嘩しちゃったし、二乃お姉ちゃんも追い出そうとしてたし。状況は思ってたほど良くないから助けようとして言い方を変えてみたんだ。」

 

 六華はそう言うと再びコンロの方へと視線を移し、三玖は六華の答えに納得する。すると、六華が気になっていた事を口にした。

 

「あれ?そう言えば二乃お姉ちゃんは?」

 

 現在リビングには六華と三玖以外に一花、四葉、五月がいる。集まっていない人物は風呂場にいる風太郎と行方の知れない二乃の二人だった。

 

「たしかにいない…。自分の部屋にでもいるんじゃないかな…。」

「だと良いけどね…。とにかく上杉先生に変なことしてない事を祈るよ。」

 

 しかし六華の祈りも虚しく、嫌な予感は既に現実となっていた。その事を二乃と風太郎以外は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませた後、風太郎は一花、三玖、四葉の三人に勉強を教えていた。残る二乃は携帯をいじり、五月は自室に籠って勉強をしていた。実は風呂場で二乃は風太郎を騙し、五人の中の誰か一人でも赤点となれば彼が解雇となる事実を突き止めたのだ。彼を邪魔に思っていた二乃には好都合であり、風太郎にとってはそれが事態の深刻化に繋がったように感じた。

 

「上杉さん!『討論』って英語で何て言うんですか!?」

「良い質問ですねぇ!debateこれは確実に今回の試験に出るぞ!『でばて』と覚えるんだ!」

 

 風太郎は敢えて良い家庭教師を演じる事で二乃に自身の有用性をアピールする。こうすれば二乃の事を解決できるかもしれない、と考えたからである。すると試験を受けないはずの六華が風太郎に尋ねてきた。

 

「じゃあ先生、好きな女子のタイプは?」

 

 六華の質問に一同は固まるものの、三玖だけは平常心を保っていた。そんな三玖の意図を探ったのか、六華は柔和な笑みで三玖を一瞥していた。

 

「六華、それ今関係ある…?」

「はいはーい!私は俄然興味あります!」

 

 六華の質問に当惑する風太郎に四葉が手をあげて知ろうとする。しかし、風太郎は伊達に成績が良いわけではなかった。彼はこの興味を利用し、三人の勉強を捗らせる策を練った。

 

「そんなに知りたければ教えてやる…。俺の好きな女子の要素トップスリー!ただし…。ノートを一ページ埋めるごとに発表します。」

 

 風太郎の言葉を聞いた一花、三玖、四葉の三人は急いで筆を走らせる。三人の扱い易さに助けられた風太郎は肩に入っていた余計な力を抜く。

 

「はいできた!」

「第三位、“いつも元気”!」

「はい次!」

「第二位、“料理上手”!」

 

 三人が順調に課題を終わらせていく中、二乃は様子が気になり耳を傾けた。興味本位ではあったものの、何故かそわそわし出した二乃は固唾を呑んで耳を澄ませる。心臓の鼓動が速く、大きくなるがそれは周囲に悟られていなかった。

 

「よーし、第一位…。“お兄ちゃん想い”だ!」

「それアンタの妹ちゃん!!」

 

 二乃の言う通り、第三位から第一位まで全ての要素が風太郎の妹であるらいはに該当している。そんな風太郎はランキングの内容を聞かれていたことに対して若干声を上げて驚いた。

 

「な、何だよ二乃盗み聞きして…。どうせならお前も勉強するか…?」

「聞きたくなくても聞こえるわよ。」

 

 風太郎と二乃がそんな他愛の無いやりとりをしている一方で三玖は三位から一位までの要素全てに該当していない事実に落胆する。そんな三玖を六華は背中を摩って慰めた。

 

「らいはちゃんだったなんて頑張ったのにズルいです!」

 

 裏切られたと感じた四葉は頬を膨らませて風太郎に迫る。二人がそんな事をしている最中、六華は三玖のある変化に気づいた。

 

「おっ、三玖お姉ちゃんもう課題終わらせてる!」

 

 六華の言葉通り、三玖は既に課題を終わらせていた。それを聞いた一花は風太郎にある行為を持ちかけた。

 

「フータロー君、頑張った人は褒めてあげないと。ね?三玖。」

 

 すると一花は風太郎の左手を強制的に三玖の頭に乗せ、摩った。その光景に三玖は顔を赤らめ、下を向く。

 

「ほーら、はい頑張りました。よしよし。どう?ドキドキしない?」

「別に。」

 

 しかし風太郎は三玖同様顔を赤らめて心臓の鼓動を高鳴らせている…。などという表情ではなく、むしろ冷めた表情をしていた。その事実に一花は頬を膨らませる。

 

「四葉チェック。」

「わーっ!」

 

 四葉が風太郎を追いかけている最中、三玖は自分にも頭を撫でるよう頼み込んできた六華の頭を撫でる。するとそこに自室に籠っていたはずの五月がやってきた。

 

「騒がしいですよ。勉強会とはもう少し静かなものだと思っていましたが。」

 

 突然の五月の登場に風太郎は驚きのあまり静止する。五月は特段憤慨しているわけでもなく、無表情で風太郎達を一瞥する。

 

「ごめんねー。」

 

 一花の謝罪に乗じて風太郎も五月に謝ろうとするが、何を考えているのかわからないほど無表情な五月の顔を見て余計に言いづらくなり口をつぐんだ。

 

「三玖、ヘッドホンを貸してもらって良いですか?」

「良いけどなんで?」

「一人で集中したいので。」

 

 三玖とそんなやりとりをする五月に対して風太郎はやっとの思いで声をかけた。しかしそれは彼が今一番彼女に対して言いたい言葉では無かった。

 

「お前の事、信頼していいんだな?」

「…足手纏いにはなりたくありません。」

 

 五月は歯牙にも掛けない様子で風太郎にそう告げると再び自室へと戻っていった。そんな彼女の様子に風太郎は疑問を持つ。

 

「待てよ五月!じゃあ何で…!」

「フータロー君、見て。星が綺麗だよ。ちょっと休憩しよ。」

 

 一花は風太郎をベランダに連れ出し、三玖と四葉は勉強を再開した。そんな彼女達を見守っていた六華は五月の部屋に向かい、彼女の真意を知ろうとした。

 六華は五月の部屋の扉を叩き、五月に対して部屋に入る事を告げる。

 

「五月お姉ちゃん、入るよ?」

「ど、どうぞ。」

 

 五月の上擦った声での返事を聞いた六華は何があったのか確認するため、すぐさま扉を開いた。すると、メガネをかけヘッドホンを付けた五月が六華を見た。ノートには何かしらの液体で濡れた跡があり、五月の頬には涙が伝った跡があった。それに加えて五月の目が若干腫れていた事から六華は五月が泣いていたのだろうと推測する。

 

「どうしたの?」

「六華…。」

 

 五月は現状に耐えきれず六華に抱きついた。五月は自身が涙した理由を六華に打ち明けた。実は五月は父親から改めて電話の事について聞き出した事で風太郎の事情を知っていたのだ。仮に風太郎が家庭教師を解雇されれば彼だけでなく妹のらいはまで家庭の事情で苦しめてしまう事になる。それを阻止すべく一人で奮闘しているが、思うようにいかず自分の不甲斐なさを痛感しているのだ。

 

「五月お姉ちゃん。」

「六華…?急にどうしたんですか?」

 

 話を聞き終えた六華は突然五月を抱き寄せると、右手で彼女の頭を撫で始めた。

 

「な、なんか恥ずかしいです…。」

「こうしてると落ち着かない?俺は記憶が無いからこういう事されたかどうかすらもわからないけど、温かい気持ちになれる事だけはわかるよ。」

 

 六華の言葉を聞いた五月はしばらく彼の体の温もりに身を委ねる。それから数分後、我に帰った五月はゆっくり六華の体から離れた。

 

「俺にこうして素直になって甘えられたんだ。上杉先生に対しても素直になれる筈だよ。素直になるって難しい事だけど、素直になれたら後は気持ちが楽になるよ。だって素直になるってそれだけで美味しい事だもん。」

「六華、ありがとうございます。けれど…。今日はずっとそばにいてくれませんか?素直になるという事を、もう少し知ってみたいんです。」

 

 五月の頼みを承諾した六華はその後、寝るまで彼女と一緒に部屋にいた。しかし、そんな出来事が過ぎた深夜の時でも彼を呼ぶ者がいた。六華はその正体を探るべく、五月の部屋を出て現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六華が普段のように素顔を隠した格好で現場である廃墟に向かうと、そこには既に超能力者の気配は無かった。六華は自身の感覚を疑うも、真偽を確認するため辺りを見渡した。

 

「おかしいなぁ…。俺の感知が確かならさっきまでここにいたはずなんだけど…。まさかまたあの怪物が…!」

 

 六華はしばらく廃墟の中を捜索するが、誰も見かけなかった。すると、外から人の呻き声が聞こえてきた。

 それを聞き逃さなかった六華は声のする方に駆け寄った。廃墟の外に出ると、ドラム缶に隠れている男が鎖で縛られている光景が見えた。六華は急いで男のもとへ駆け寄り、鎖をほどいた。

 

「大丈夫ですか?何があったんですか?」

「あぁ、ジョーカーか…。お前と争う気はねぇよ…。」

 

 ジョーカーの単語を口にした事から六華は男が超能力者である事を認識すると共に自身の感覚に狂いが無かったことに気づいた。

 

「警察の奴でも、ブルタルでもねぇ変な男だった…。とにかくサングラスとイヤリング付けたチャラい感じで…。まぁ俺が人を殺そうとしたのがいけなかったんだがな…。」

「…警察に行きましょう。罪を贖う意思があるなら大丈夫です。」

 

 六華は男を連れて警察署の前まで向かった。年齢が分からないとは言え、六華の見た目は怪しい上に中高生程度の年齢と思しきものである。警察官に見つかれば危うい状況である事を理解していた六華は男を警察署の途中まで向かわせるとそのまま家へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おはよー。」

「おはよー六華。今日はアンタの代わりに朝食作っといたわよ。」

「ああ、二乃お姉ちゃんごめんね。」

 

 翌日、六華は珍しく朝遅くに目を覚ました。普段であれば誰よりも早く起き、朝食を準備するのだが昨夜は超能力者と関わっていたため事情が違ったのだ。

 

「あれ?一花お姉ちゃん早いね。普段は一番遅いのに。」

「あはは…。いや、それがね?昨日三玖が私の部屋で寝ることになったでしょ?それが朝になったらいつの間にかベッドからいなくなっちゃってたから慌てちゃって…。」

 

 既に食卓に顔を出していた一花が答える。それを聞いた六華は三玖を心配し、ひどく狼狽出した。

 

「三玖お姉ちゃんが!?どこに行ったんだろう…。」

「落ち着いて六華、今四葉が探しに行ってるよ。それに三玖は夢遊病じゃないんだし、家の中にいるとは思うよ。」

 

 三玖の行方を四葉が探しているという事実を知り、六華は安堵する。それと同時に六華の頭の中にある一つの疑問が浮かび上がった。

 

「あれ?そういえば上杉先生は?」

「さぁ…。まだ寝てるんじゃない?」

 

 その質問にも一花が再び答えた。急遽泊まる事になった風太郎はその場の意向で三玖のベッドで寝る事になり、三玖は一花の部屋で寝る事になる事が決定した。まだ寝ているという事は風太郎は三玖の部屋にいる。そう判断した六華はそれ以上は風太郎の事を語らなかった。

 

「あいつ、本当に泊まったのね。ま、それもあと少しの辛抱だわ。」

「二乃お姉ちゃんも勉強会参加すればいいのに。昨日見てたけど楽しそうだったよ。」

「お断り。五月、アンタは絆されるんじゃないわよ。」

 

 二乃の言葉に五月は沈黙をもって応えた。五月を見ていた六華は彼女が昨日の一件を引きずっているように思えた。今の彼にはそんな彼女が素直になれる事を願う事しかできなかった。

 

「…素直になればいいのに。」

「どうも彼とは馬が合いません。この前も諍いを起こしてしまいました。些細な事でムキになってしまう自分がいます。私は、一花や三玖のようにはなれません。」

 

 五月は自身の思いを一花達に吐露した。その場にいた者達が五月にかける言葉を失う中、一花はある事を閃いた。

 

「なれるよ。」

 

 すると一花は立ち上がるや否や五月の髪を弄り始めた。しばらくして、一花はようやく五月の髪を弄る手を止めた。

 

「ほら、三玖の出来上がり!」

「わ、私は真剣に言ってるんですが!」

「あはは、ごめんごめん。五つ子ジョークだよ。」

 

 冗談を言う一花に対して五月は抗議する。突然、そんな二人のやり取りを見ていた二乃が立ち上がった。

 

「一花!髪の分け目が逆よ。もっと寝ぼけた目にして。」

「この毛が邪魔だなー。」

「私で遊ばないでください…。」

 

 二乃も一花と同様に五月の髪を弄り始める中、六華は昨夜の事を思い出していた。サングラスとイヤリングを付けた男性。そのような者と六華は会った事がない。仮に過去に会ったとしても記憶を失っている六華にはこれ以上の手がかりが無かった。

 

「ちょうど三玖もいないし、これでフータロー君騙せるか試してみようよ。」

「え、マジ…?あいつに私達の区別なんて、できるわけないでしょ。」

 

 一花と二乃がそんなやりとりをする中で、六華はひとまず三玖の部屋にいる風太郎を起こしに行こうと決めた。せっかくの客人に対して冷めた朝食を出す事は彼の良心が痛む事に繋がっていたからだ。

 六華が三玖の部屋のドアノブに手をかけようとした次の瞬間、彼女の部屋の扉を開けて風太郎が姿を現した。

 

「六華…!」

「ああ、起きてたんですね上杉先生。朝ご飯できてますよ。」

 

 すると、風太郎は顔色を変えた。六華は彼の視線が自身に向けられたものではなく、後方にいる三玖の真似をした五月に向けられたものだと推測する。

 

「ど、どうした五月…。」

「わかるんですね…。」

「あの…。今度の中間…。」

 

 すると、三玖の部屋から何やら物音が聞こえてきた。風太郎は扉の前にいるため物音を立てる事は不可能である。そうなると必然的に別の何かが部屋にいるという事になる。五月と六華は物音の正体が気になり、部屋を覗こうとする。

 

「よ、用が無いならもういいかな?」

「え?ちょっと…!」

「ほら!着替えるから!」

 

 風太郎は物音を聞くや否や慌てて扉を閉めた。風太郎の態度を誤解した五月は頬を膨らませ、目を三角にして怒った。

 

「もう結構です!!」

「あっ、五月お姉ちゃん!」

 

 三玖の部屋の前から去って自身の部屋へと戻っていく五月の背中を六華が追いかける。

 

「あーあ、やっぱり怒らせちゃったか…。」

 

 六華は五月後を追う事を諦めると、普段姉達と会話する程度の声量でつぶやいた。部屋の外から出て話を聞くだけでも十分な選択であった事に気づき、風太郎は自身のとった行動に後悔の念を抱く。

 

「フータロー君、大丈夫?」

「あ、ああ…。」

 

 風太郎が部屋から顔を出すと、一花が声をかけてきた。

 

「そう言えば三玖がどこに行ったか知らない?」

「あー…。えーっと…。図書館…かな。」

「じゃあ私達も気分を変えて図書館で勉強しよっか。」

「そ、そうするか…。」

 

 一花は三玖を探しに行っていた四葉を呼び出し、共に図書館に行くように伝えた。当の三玖は未だに自室のベッドで寝ており、二乃は自分の部屋に戻った。そんな中、五月と六華は一緒にリビングにいた。

 

「五月お姉ちゃん、昨日は眠れた?」

「え、えぇ…。まあ…。」

 

 長い沈黙の間、六華は皿洗いをしながら五月に声をかけた。五月の返答は嘘のものであった。徹夜で勉強をしていた事はもちろんだったが、最も大きな原因として昨日の風太郎との諍いが彼女の胸中に蟠りとして残っていた事であった。

 

「六華、先程も話しましたが彼とは馬が合いません。やはり素直になる事は私には無理なのでしょうか…。」

 

 視線を下に向け、両手の拳を握る五月に対して六華はいつも通りの優しい声色で彼女に言葉をかけた。

 

「そんな事ないよ。素直になろうとする事は良い事だけど、無理に変わろうとしちゃいけないんだ。一歩一歩、段々変わっていくのが一番良いんだよ。」

 

 六華の言葉を聞いた五月の視線はいつの間にか下ではなく、彼の方を向いていた。彼の言葉によって五月の心の中にある曇りが晴れ、同時に目頭が熱くなった。すると六華は何かに気付いたかのようにその場を離れようとする。

 

「じゃあ、俺は自分の部屋に戻ってるね。」

「え?ちょっと、六華!?」

 

 しばらくして、五月の中にある緊張の糸が解け、五月は緩やかな安らぎを覚えて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 五月は辺りを見渡し、口を開けて驚いた。自分は先程まで自宅のリビングにいた。それが今、草木一つ生えていない荒野に一人立ち尽くしているのだ。何故そうなったのだろうか…、と五月は白い半袖のワンピースを一瞥して考える。

 

「ここは…。私はワープしてきた…?いや、私は六華のように超能力者というわけではないからそんな事は…。」

 

 五月が現在の状況について考察していると、岩山の向こう側から爆発音が聞こえた。気になった五月は岩山を登って音のする方へと向かった。

 そこには大量のヒトの亡骸があった。辺り一面には武器が刺さっており、爆発によって生じたであろう炎が燃えている。そんな凄惨な状況を目の当たりにした彼女が次に目にしたモノは宙に浮いている人型のシルエットであった。その存在は光を放っていたために、容姿は判別できなかった。しかし、五月はその者の名を知っていた。そして最後にその者の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…い。おい、起きろ。」

 

 リビングでいつの間にか眠っていた五月は何者かが身体を揺さぶる事で目を覚ました。そして先程の出来事がただの夢であった事に気づく。眠気で重たい瞼を擦りながら覚醒した五月の眼前にいたのは図書館に行ったはずの風太郎であった。

 

「あ、ああ…。すみません…。あ、あの…。」

「やっと見つけたぞ…。三玖!」

 

 風太郎が五月の名を呼び間違えた事で五月は動揺する。しかし、彼女が自身の首に付けている三玖のヘッドホンの存在を確認した事で彼が名前を間違えて呼んだ事に対して納得する。

 

「勉強サボって俺から逃げてただろ!許さねぇぞ!」

「ええっと…。」

「ほら!ペン持て!」

「あの…。」

「教科書広げろ!」

「私は…。」

「罰として今日はスパルタ授業だ!!!お前には絶対赤点を回避してもらうぞ!!」

 

 風太郎は五月の言葉に聞く耳を持たずに勝手に話を進め、挙句の果てには個別授業を始めた。そんな風太郎に対して五月は自身は三玖ではないと切り出そうとする。

 

「だから私は三玖じゃ…!」

「そういや、五月の姿が見えねぇなー。今も部屋で勉強頑張ってんだろうなー。間違ってもうたた寝なんて事は無いだろうなー。」

 

 風太郎のこの言葉で五月は彼がわざと自身を三玖だと勘違いしている事に気がついた。風太郎と五月は似た者同士。過去に一花が指摘していた事を五月も感じていた。おそらく風太郎は自身と同じで素直になる事が難しいからこんな嘘をついているのだろう、と五月は推測する。

 

「…どうした?三玖。」

「何でもありま…。何でもないよ…。」

 

 風太郎と同じようにする事で自分も一歩を踏み出せるのではないか。そう考えた五月は敢えて彼の嘘に付き合う事にした。

 

「…じゃあ始めよう。今はどこやってんだ?」

「せ、生物だよ…。」

「そのまま続けるか。わからなかったところはあるか?」

「ええっと…。」

 

 五月は参考書を開いて自力で解く事が困難な箇所を風太郎に教える。指導をしている最中、突然風太郎は五月に対して声をかけた。

 

「あ、そうだ…。…一昨日は悪かった。」

 

 思いがけないタイミングでかけられた言葉に五月は面をくらった表情をし、返す言葉を見失いかけたが、すぐに我に帰った。

 

「な、何のこと?」

「あっ、そうだな。はははっ、三玖に何言ってんだか。」

「…私こそごめんね。」

 

 風太郎に続いて五月も謝罪の言葉をかけた。五月の言葉を聞いた風太郎も目を見開き、言葉を失いかけるがすぐさま我に帰った。

 

「三玖こそ、何言ってるんだ?」

「そ、そうだね。ははは…。えっと、ここがわからないんだけど…。」

「なんだ。もうそこまで進んでいるのか。そこは…。」

 

 風太郎は五月の苦戦する問題の答えをすぐさま理解すると解法を彼女に対して丁寧に教えた。そして彼が付け加えた一言は五月の心の問題すらも解消した。

 

「…一人でよく頑張ったな。」

 

 一方二階ではそんな二人の様子を二乃と六華が見ていた。二乃は不機嫌な表情をして見ていたが、六華は二人の大きな一歩を誰よりも嬉しそうな表情で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四日後の夜、六華は超能力者の気配を感じ取り、いつものようにブラックレジスターとなって現場である公園に向かっていた。しばらく辺りで探索を続けていると、六華は宙に浮いている男性を見つけた。男性は短髪で肩幅が広く、三十代程度の見た目であった。超能力者ではあったものの、以前見かけた超能力者が対峙した者ではない事は彼がサングラスとイヤリングを付けていない事で明らかになっていた。

 

「っ!あれか…!」

 

 六華は自身の能力で得た未来視の能力を使って男の攻撃を見切ろうとする。男は翼を広げ、六華に向かって突進してくる。しかし六華はそれを未来視で見切り、男の腹部に蹴りを入れる。

 

「わ、悪かった!俺が悪かった。警察にも自首する。だから殺さないでくれ!」

 

 己の敗北を悟った男は六華に対して命乞いをした。自身の良心に従った六華は男に対して手を差し伸べる。男が六華の開いた手を取ろうとした次の瞬間、男は六華の鳩尾にパンチを浴びせた。

 

「がはっ…!」

「甘いな、ブラックレジスター。ブルタルのように殺す気でかからなければ貴様が死ぬぞ。」

 

 形勢を逆転させる事に成功した男は隙を見せた六華に対し、強烈なパンチとキックを次々と浴びせていく。最後の回し蹴りが六華に炸裂すると六華は公園の敷地内にある噴水の中にまで飛ばされ、ブラックレジスターとなる前の服装に戻った。

 

「これで邪魔者は一人減ったかな。」

 

 六華を倒した男はそう言うと翼を閉じ、踵を返した。六華は身体中の痛みを堪えて家に帰ろうとする。今回は普段と事情が違った。明日は大事な中間試験であり、自身には彼女達のサポートを行うという役割がある。自身の役割に対する使命感が六華の体を動かすが、それも一時的なものでしかなかった。六華の身体は限界を迎え、噴水の中で力尽きた。




次回、中間試験編後半戦となります。
ここからもうちょっと更新頻度上げていく努力をしていきます。
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