TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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さらばオリ主……また逢う日まで

 創作に絶対的な正解はないが、二次創作小説を執筆する場合には気を付けなければならないことは多々ある。それは原作へのリスペクトは大前提として、基本的な文章作法とは別の話だ。

 

 原作が完結してからの方が書きやすい──ということは、当たり前の話ではあるが過去のSS執筆経験から彼が思い知った事実だった。

 

 特に原作が連載中、放送中の作品の二次創作は気を付けなければならない。確かにライブ感や閲覧する読者の熱量という点ではその時にしか得られない利点があるが、作者の気が逸ったが為に原作からお出しされた新情報に既存の解釈が打ちのめされ、それが原因でエタらせてしまった者は数多い。

 

 今この時、アニメ「フェアリーセイバーズ∞」のSSを執筆しようとしている男もまた、そんな悲しい過去を持つ二次創作作者の一人だった。

 

 とあるバトル漫画のSSを書いていた時のことだ。男は原作に登場していたキャラを一人、思い切って世界から抹消してしまった。そのキャラは連載当時では彼が書こうとしたオリ主と立場が被っていながらも、原作中では特に目立った活躍の無い扱いにくいキャラだったからだ。

 そしてそれは彼だけではなく、多くの二次創作作者が同じ認識を抱いていた。自分のSSでは同じポジションで完全上位互換となるオリ主がいるのだから、そいつ一人ぐらい存在を抹消しても大丈夫だろうという認識だったのだ。

 ただちょっと警告タグに「〇〇不在」と表記しておけば十分だと……当時の彼はそう思っていた。

 

 

 ……しかし原作の連載が進むに連れて、SSから抹消したそのキャラは実は後の展開において重要な伏線を抱えていたキーパーソン的存在であることが発覚し、彼の書いていた特定キャラ不在の二次創作は物語の設定が破綻。執筆が困難になり更新をエタらせることになったのが、話数にして30話ぐらい書いてからのことだった。

 自分の浅はかな考えがそのような、リアル追放物みたいな現象を引き起こしてしまったことを彼は後悔していた。存在を抹消したモブキャラは実は重要人物でした。後悔しても、もう遅い。

 

 だからこそ彼は、最近視聴したアニメの中で最も推していた「フェアリーセイバーズ∞」の二次創作を、頭の中では迸るパトスによっていい感じの構想が練り上がっていながらも、長編小説の執筆を始めるのは原作アニメが完結するその時まで律儀に待ち続けていたのである。

 

 特にこのアニメでは「T.P.エイト・オリーシュア」を筆頭に二次創作殺しのキャラが多い。現行の放送を追いながら執筆するには彼女らにはあまりにも謎が多く、後の展開によっては大事故を起こす危険があったのだ。

 それでも独自解釈で補完したR18小説や短編小説などは何作か書いたものだが、長編の連載には手を出せなかった。

 特にエイトの存在に関しては、先走った他のSS作者たちが案の定アニメ終盤で明かされた怒涛の情報開示に苦しめられる光景を見て、自身の判断が英断であったと感じたものだ。

 かつての自分のように、執筆を先走ったが為に原作の展開に背中を刺され、あえなく更新が停止したSSを読んで彼は呟く。「無茶しやがって……」と。

 

 その点、彼は自分がデキる男だという自負がある。

 

 故に、一度犯した過ちを繰り返すことはない。

 

 先日を以て遂に、全50話を超えるアニメ「フェアリーセイバーズ∞」の物語は完結した。旧作からのファンである面倒臭いオタクたちからも受け入れられた最終回の感動は、今もこの目に焼きついている。

 完結を迎えたことで二次創作作者最大の敵である「T.P.エイト・オリーシュア」の謎も大方明らかになり、長編のSSを執筆する分に必要な情報は出揃ったと見ていいだろう。

 となれば、もはやデキる男を止めるものはない。物語の完結を見届けるまで頭の中で温めに温め続けた創作欲を、今こそ解放する時だと彼はアクセルを踏み抜いた。

 

 

 ジャンル! 転生チートオリ主原作知識有りッ!

 

 ヒロイン! T.P.エイト・オリーシュア! 及びマルクトら女性大天使全員ッ!

 

 オリ主の設定! 現代日本人男が転生した深淵のクリファ! 1話から人化して最終的には人間とも聖獣とも仲良しッ!

 

 原作アニメで唯一の不満点、最後まで果たされなかったアビスとエイトちゃんの交流(おねショタ)を描くッ!

 

 

 ……と、ざっくりとそんな感じの概要で構想を練っていた。

 

 アピールポイントは原作では終始生命の敵として扱われていた「深淵のクリファ」に、彼の考えたオリ主を転生させる点である。

 作中において荒らし・嫌がらせ・混乱の元という役回りで各勢力から敵意を向けられていたこの種族とエイトとの絡みこそ、二次創作で最も掘り下げ甲斐がある設定であるとベテランSS作者の自称デキる男は考えていた。

 オリ主物二次創作小説を執筆するにあたって、書きやすい原作と書きにくい原作がある。そして「フェアリーセイバーズ∞」はまさしく前者であると、彼は最終回まで見届けて思った。

 

 一つ、魅力的なサブキャラが多い。

 特にハーレム成立に人数的な無理が生じない、フリーの美少女キャラが多い点が重要である。旧作「フェアリーセイバーズ」では女性キャラ自体があまり多くなかった為その辺りは門外漢だったが、今作ではメインヒロインで一途な相手がいる光井灯を除くとしても、メアにエイト、マルクト、ティファレト、ビナーにカロン、ラファエル、アリスとそれぞれタイプの違う女性陣がよりどりみどりである。

 加えて大半が作中で恋愛関係を明言された特定の相手がいない為、オリ主とのカップリングに違和感が生じないのも都合が良かった。百合的なカップリングは別としても、ビジュアルの良い女性キャラが豊富な点は、SS界隈的にもプラス要素だった。

 

 二つ、原作沿いにしやすい。

 これは彼がこれまで読んできた二次創作から感じたことだが、SSの舞台となる原作は、オリ主を無理なく捩じ込みつつストーリーを考えるのが割と簡単な原作沿いの展開にしやすい作品が多い。

 特にラブコメ要素とバトル要素という男の子が好きな要素が組み込まれた学園バトル物の原作などは、オリ主を一生徒として無理なく編入させた上で原作のイベントをそのまま踏襲できる為非常にSS人気が高い。もちろん原作自体が人気のある作品であることは前提だが、オリ主という異物を混入させた上でお手軽に物語を回せる点は作者的には重要な要素だった。

 

 その点、「フェアリーセイバーズ∞」は学園バトル物ではないが、原作沿いのしやすさで言えばそれと同じぐらいやりやすい方だった。

 

 原作沿いの物語にしたいのならオリ主をセイバーズの一員にすればいいし、メアと同じ境遇のフェアリーチャイルドにするのもいい。

 聖獣サイドならオリ主をラファエルと似たような境遇の天使にするのもアリだし、何なら原初の大天使にしてエイトとカロン、二人と幼馴染設定にするのも美味しく、エイトヒロイン物では既に定番のポジションとなっていた。

 そして原作アニメが完結した今だからこそ、アビスというもう一つの勢力でも似たようなストーリー展開が可能だと判断した。

 

 それが三つ目、舞台設定の自由度の高さに絡んだ利点である。

 

 原作キャラと接点を持てるコミュニティーが豊富という意味では、「フェアリーセイバーズ∞」という物語の舞台設定は自由度が高く優秀だった。

 

 そんな要素が上手い具合に絡み合った為か、今現在彼が愛用している二次創作小説投稿サイトでは、原作「フェアリーセイバーズ∞」のSSがその掲載数を伸ばしていた。原作アニメが完結したことでその勢いはさらに加速しており、日間ランキングでも数多くの新作SSが顔を覗かせている。

 

 

 ──乗るしかない……このビッグウェーブに!

 

 

 デキる男は原作の完結効果で読者の熱量も高いこの好機を逃さなかった。

 彼が今まで書いてきたSSはことごとく読者との致命的な解釈違いが発生し、その気は無いのにアンチヘイト作品認定を受け微妙な炎上を続けてきた。心無い読者たちからは挿し絵だけ描いてろと辛辣な感想を貰い、その度に項垂れてきたものである。

 しかし、ここから先はそうじゃねぇ! 男は奮起した。

 

 今回のSSは100話を超える大長編を予定している。

 手元にあるのは原作アニメが完結するまで、今か今かとアイデアを温めてきた渾身のプロットだ。特に「フェアリーセイバーズ」は彼にとって思い入れのある原作であり、作中設定に対する知識量にも自信がある。

 「流行に便乗しているだけの昨日今日のSS作者とはわけが違うんですよ! 僕が一番上手くフェアリーセイバーズのSSを書けるんだ!」と叫び、ありきたりなテンプレ小説に対して謎のマウントを取りながら、彼は早速第一話の執筆に取り掛かった。

 

 

 しかし、彼の描いたその物語が完結することはなかった。

 

 執筆開始から僅か一ヶ月後に更新が止まり、それ以来、物語が続くことはなかったのである。

 

 決して人気が振るわなかったわけではない。寧ろ最初の数話時点では高評価を得ることができ、彼としては好調のスタートを切ることができたと言えるだろう。

 それでも更新が止まってしまった原因は、何ということはない。アニメ「フェアリーセイバーズ」の制作を行っている公式のホームページから、一枚のイラストが公開されたからだった。

 

 

 【劇場版フェアリーセイバーズ∞公開決定!】と──知らない少年と手を繋いでいるメアとエイトの後ろ姿を描いた原作者描き下ろしの意味深なイラストが、長編SSの執筆を躊躇わせる新情報として彼の心を揺さぶったのである。

 

 さらに数日後、劇場版の副題も決まり原作者や監督からのコメントが怒涛の新情報ラッシュとなり、デキる男に二つの悲鳴を上げさせた。

 一つは、終わったと思った「フェアリーセイバーズ」の物語を再び堪能できるという嬉しい悲鳴。

 

 そしてもう一つは──

 

 

「俺が考えた妄想を比べ物にならないクオリティーで公式がお出ししてきた件」

 

 

 面影を残しながらも可愛く、カッコ良く成長したJKメア。

 アビスと、エイトのおねショタ。

 

 アビスと、エイトのおねショタ(重要)。

 

 自分が書こうとしたSSと同じコンセプトの作品を、公式が完璧な解釈で出してくれるのなら……それはもう、執筆するのは公開されるまで待つしかないだろ常識的に考えて、と。彼は常識的な友人の言葉を借りてそう思った。

 

 二次創作はどこまで行っても二次創作。公式には勝てないというのが、何にでも噛み付いていた中学二年生時代のマインドを忘れないながらも……彼が理解したこの世の摂理だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これは、蛇足である。この物語の最後に明かされたところで多くの者たちから余分なものと言われ、知る必要も無かったであろう……語るに足らない裏話だ。

 

 

 

 それは、暁月炎たちが生きる地球でも、ケテルの統べる聖獣の世界でもない異なる次元に位置するとある世界線の話である。

 

 都市部や住宅街からも離れた閑散とした海沿いの町に、一軒の広大な屋敷があった。

 

 窓の向こうに見える海原の波は穏やかで、上を向けば見る者の目を思わず吸い寄せ、心に一瞬の空白を作り出すほどに深く美しい、透き通るような青空の光が屋敷を照らしている。

 

 その屋敷の一室に、一人の壮年の姿があった。

 

 窓から太陽の光が射し込む部屋の中で、右手に色の無い筆を携えながら一枚のキャンバスと向かい合っている。今は下書きを終えたところで、自らの描いた絵と見つめ合うことで着色の構想を練っている様子だった。

 仕草の一つ一つがまるで画家に対する一般的なイメージを反映したもののように見えるが、しかし彼の職業は画家ではない。

 

 

 ──壮年は、漫画家だった。

 

 

 青年時代に描いたデビュー作が千万部を超えるヒットを生み出し、今も根強い人気を博し再アニメ化にも至った少年漫画「フェアリーセイバーズ」の原作者である。

 本来はキャンバススタンドではなく、デスクと向き合ってその筆を原稿に走らせるのが彼の仕事であったが……この時間は自己の時間。正真正銘、趣味で描いている絵だった。

 デジタル化が進んだ昨今、漫画の作画すら紙面ではなくタブレット端末に描き込むことができるようになったこの時代であえてアナログ的なキャンバスに絵画を描くのは、文明の利器に対する挑戦などという高尚な理由ではもちろん無い。

 

 ただ彼は、初心を忘れたくなかったのだ。

 

 かつては自分が漫画家になるなど思ってもみなかった少年の頃、彼は誰に見せる気も無く今のようにただ漠然と絵を描いていた。

 

 そんな彼が漫画を描こうと思うようになったのは彼が「この世界」に馴染み始めた青年の頃のことであり、特殊な事情により体調が悪化したことで通うことになったある病院で、一人の少年と出会ったことがきっかけだった。

 

 

 その日出会った少年は──自分と同類だった。

 

 

 しかし、この世界に生まれ変わっていた彼女は、自分の知る女性ではなかった。

 遠く離れた異世界の大天使の魂を宿した少年は自分とは違って前世の記憶を持っていることもなく、純粋で無垢な、平凡な人間の男の子だったのだ。

 

 看護師──当時は看護婦と呼ばれていたか。看護婦の女性から名前を呼ばれるまで待合室で退屈そうにぐずっていた少年は、父親と思わしき男から「しばらく掛かるだろうからこれでも読んで待ってろ」と言われ、一冊の本を手渡されていた。

 

 瞬間、少年は目の色を変えた。

 

 わかりやすくも急に静かになり、じっと見据えた本をペラペラと捲っていく少年の顔はページの一枚ごとに喜怒哀楽の感情をストレートに表わし、その本──漫画の世界に没入していった。

 それだけならまだ小学校にも通っていない幼子のことだ。さして珍しい話ではないだろう。

 

 しかし異世界の大天使の魂を宿した少年は、彼にとって特別だった。

 

 

 漫画を誰よりも楽しそうに読んでいた少年の姿に──彼は見たのだ。

 彼の中で共に笑っている天使──ダァトの姿を。

 

 

 ダァトとの関係は、当時は彼にとって相容れぬ敵同士だった。

 しかし彼女と共にあの世界から消滅し、何の因果かこのような異なる世界線に「人間」として生まれ変わった彼は、前世とは違う一つの生命となったことで、かつて彼女が説いてくれた「感情」というものを……今度こそ正しく理解することができたのだ。

 

 そんな彼が今、彼女に抱いている思いはかつて向けていた憎しみや怒りではない。

 

 人間になったことで、自らの行いを省みることを知った今、彼はただ彼女に謝りたいと思った。

 

 しかし、自分は彼女を殺してしまった大罪人だ。今更どの面を下げて生まれ変わりの前に現れ出ようものかと、後ろ髪を引かれる思いがあった。

 

 そんな彼の複雑な胸中の、言い方は悪いが逃げ道となったのが「漫画」だったのである。

 

 「異世界の出来事」を漫画に描くことで、少年を──生まれ変わったダァトを楽しませてやりたいと。

 何も覚えていないのなら、せめてもの罪滅ぼしとして彼はそう決意したのである。

 

 絵を描くのは好きだった。人間に生まれ変わってから画材を持てるようになり、初めて趣味と呼べるものを手にした彼は、その筆で前世の景色や思い出など、フェアリーワールドであったことを手当たり次第キャンバスに描いた。

 絵の趣味は元々、彼が前世の出来事を……「アビス」である自分が遺した罪を忘れない為に行っていたことであったが、彼女の生まれ変わりと出会ったことで、道は変わった。

 

 漫画家として歩んだ人生は楽しかった。少年のことを抜きにしても、自分の描いた作品で誰かが笑顔になるのはとても嬉しいことなのだと、元アビスである彼は理解した。

 物語の取材を行う為に今生の虚弱な身で異世界を観測する「能力」を使い、その度に何度も死の淵を彷徨っては死に損ない、それでもなお辞められないほどに。

 

 彼はこの世界に生きる人々にも、自分が生きたかつての世界を知ってくれることが嬉しかったのだ。

 尤も肝心の「ダァト」の存在を漫画内に描くには、今の自分では力量不足だ、彼女を描くのはおこがましいことだと二の足を踏み続けたものだが。

 

 そして、ようやく自分の中で及第点を与えられる「ダァト」を描けるようになった頃には、生まれ変わりの少年がこの世を去ったと知り、世の無情さを前に失意の底に沈んだものである。

 

 

 ──しかし、少年は再び転生した。

 

 

 カロンという彼女の姉が少年の魂、すなわちダァトの魂との接触に成功したという話を聞かされた時、彼は初めて少年の後を追わなくて良かったと安堵した。

 そして再び、異世界を観測する「能力」を使い「新しい彼女」が辿る未来を知った彼は、その出来事を正確に描こうと思い至ったのである。

 

 壮年期になった今ではかつてよりも能力の代償が重く、青年の頃のように長期連載を行うことはできなかったが、それでもかつての実績により新アニメ「フェアリーセイバーズ∞」の監修の座を手に入れることができたのは奇跡的な僥倖だった。

 

 

 この世界の人々の目に彼女の物語が届けられるようになったのには、そんな蛇足の裏話がある。

 

 そしてさらに蛇足を語るのであれば、失意の底にいた彼に少年の転生、ダァトの再転生を報告してくれた存在は今彼の真後ろにいた。

 屋敷の主に勧められた椅子に座り、キャンバスと向かい合っている壮年の背中を見つめていた金眼の青年が、おもむろに口を開いた。

 

 

『今もまだ……罪の意識を抱いているのだな。深淵の王【バチカル】』

 

 

 ……不思議なものだ。

 この世界に生まれ変わってたかだか四十年程度しか経っていないというのに、青年が告げた呼び名が酷く懐かしいもののように感じた。

 

 

『それは汝が「人間」という存在に変わった証であろう。今の汝は深淵の王の魂を宿した人間であり、存在の性質も変化している』

 

 

 壮年はキャンバスに目を向けたまま、頭から直接聴こえてくるその声に視線を返さない。

 それは遥々異世界から、それこそ思念体の身になってまで(・・・・・・・・・・・)会いに来てくれた客人に対して無礼な対応であったが、青年の方は特に意に介した様子は無い。

 寧ろ過去に与えた仕打ちからお互いに負い目があり、引け目を感じ合っている間柄である二人にとってはこのぐらいの雑な距離感の方が居心地が良かったのだ。

 しかし掛けられた言葉には応じ、壮年が語る。

 

 

「たとえ存在は別物に変わっても、私が私であることに変わりはない。今もこれからも、私は彼……いや、彼女の物語を描き続けるだろう。能力の大半を失っても、数多の世界線を観測するこの力だけは失わなかったのも、それが私の為すべき義務だからと感じている」

『……それが汝の贖罪か』

「それに……こんな私の描く物語でも、笑ってくれる子供たちがいる。その感情が「嬉しい」ということなのだと、私はこの世界で学んだ」

 

 

 そこまで言って、壮年は振り向いた。

 痩けた頬からは疲労感が滲み出ており、クマの浮かんだ目元も酷くやつれている。

 しかし、それでも壮年の眼差しには光があった。確かな未来を見据えた上で、それでも立ち向かいたいと願うような強い光が。

 

 

「彼女は怒るかもしれないが、な……」

 

 

 ただ、その言葉だけは取り繕うことができないほど弱々しく、まるで娘に叱られている時の父親のような目をするものだと、金眼の青年は思った。

 そんな彼に向かって青年は、彼に共感したように寂しげな笑みを薄く浮かべて言った。

 

 

『赦すさ。過去ではなく、まだ見ぬ未来を心待ちにするあの子は、汝の断罪を望んでいない。我々はそんなあの子たちの未来が、幸福なものであることを信じるとしよう。古き者の、せめてもの役目として……』

 

 

 今日はこれで、時間切れか……そう呟いた彼の姿が霞のようにぼやけた次の瞬間、椅子の上から青年の姿は移動の痕跡も無く何処かへと消え去った。

 

 そんな彼のこの世界では(・・・・)非現実的と言われる退出を見届けた後、自分と彼が穏やかに会話をしたという不思議な感慨に浸り、漫画家の壮年が彼の名前を呟いた。

 

 

「……アイン・ソフ……」

 

 

 フェアリーワールドを古の時代から守り続け、最期は大天使カロンと入れ替わる形で世界樹と同化した聖なる龍神。

 漫画家の壮年──かつては深淵のクリファ「バチカル」と呼ばれた彼と先ほどまで語らっていたのは、人の姿をとって彼の世界から訪問してきたかの神の思念体だったのである。

 

 時はテレビアニメ「フェアリーセイバーズ∞」の放送から数日後。

 能力で観測した情報から推測すると……あちらの世界ではそろそろ、最終回のラストシーンが始まる頃合いだろうか?

 パレットから着色した筆を手に、再びキャンバスに向き直った彼は下書き済みの絵画に目を移す。

 

 

 彼の描いたその絵画は、「フェアリーセイバーズ∞」で放送されたラストシーンの一幕である。

 

 

 真ん中に描かれているのは、大人になった暁月炎と光井灯の姿だ。それぞれ白いスーツとウエディングドレスを身に纏っているのは、その光景が彼ら二人の結婚式であることを意味している。

 そんな彼らを囲むように並んでいるのは、セイバーズの一同や彼らと交流のある友人たちの姿だ。風岡翼や力動長太ももちろん一緒であり、同じくメア改め公的に「光井メア」となった少女もそこにいた。

 かつては幼かった彼女も高校生になったことでその姿は大きく印象が変わり、女性らしい美しさが一段も二段も開花したビジュアルになっている。

 そんな彼女の横にはたった数年程度では変化がある筈も無い大天使、マルクトの姿がある。その横には天使体のケセドと甲冑を脱ぎスーツを纏ったホド、ビナーにネツァク、ハニエルや親交のあった聖獣たちの顔ぶれが続く。

 

 

 祝いの席の中に人間と聖獣、二つの種族が一堂に会した本作のエピローグを象徴する一枚と言ってもいいだろう。

 しかしこの絵の主題は結婚式に集まった総キャラクターというところではなく、その構図である。

 

 灯が放り投げたブーケを、思いも寄らない人物が掴み取った──もとい、盗み取ったという点にこそ、これを描いた彼の意図があった。

 

 

「どうか彼女らの行く末に、幸多からんことを……」

 

 

 アニメ「フェアリーセイバーズ∞」のラストシーンは、放たれたブーケを未婚者たちの前から鮮やかに掴み取った黒髪の少女が、そのブーケを手近なところに立っていた子供の来客に譲り渡すところからエンディングテーマが流れる。

 茫然と立ち尽くす一同の視線に対して少女はイタズラっぽく笑うと、新郎新婦に手を振った後、詰め寄ろうとする一同から踵を返して逃走し、画面は次回作──劇場版主人公であるメアが浮かべた笑顔を映すのだ。

 

 

「……おかえりなさい、エイトさんっ……!」

 

 

 五年間行方不明だった彼女の帰還に安堵の笑みを浮かべるメア。

 それは視聴者の感情とリンクする場面でもあり……アニメの監修であり原作者である彼の、お気に入りのシーンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──僕の名前はT(トリプル).P(プロミネンス).エイト・オリーシュア。ご覧の通り転生者だ。

 

 

 例によって女神様っぽい人からチート能力を貰い、アニメの世界に放り込まれたかと思えばそうでもなかったような感じの完璧なチートオリ主である。

 

 女神様っぽい人ことカロン姉さんが言うにはやっぱりと言うか、アニメの世界がこの世界になっているのではなく、この世界をアニメ化している猛者があちらの世界にはいたのだそうだ。

 その猛者、というか「フェアリーセイバーズ」の原作者様なんだけど、何だか僕の存在に感銘を受けたからみんなにも知ってもらいたいと思って描いたのだそうだ。

 

 僕の好きだったアニメが実は深淵のクリファの生まれ変わりが描いたものだったとは、ここ最近知った事実では最大の驚きである。

 

 まっ、彼が僕の物語を「フェアリーセイバーズ∞」としていくら書き綴ろうと、ここが僕たちの生きているれっきとした現実世界であることに変わりは無いし、寧ろどんどんやってくれと言うのが僕の気持ちだ。ただし、僕をヒロインとして扱うのは解釈違いなので無しな!

 

 

 ……まあ、そんなこんなで僕が転生したこの世界は、誰が何と言おうとこのエイトちゃんを完璧なチートオリ主にしてくれる世界なわけですよ。今もこれからも、ね。

 

 

 人間の世界では超能力的な異能が日常化しているし、異能犯罪を取り締まる特殊部隊「セイバーズ」に所属する主人公たちは、聖獣の世界「フェアリーワールド」との和平が為された今も新造の悪の組織をはじめとするワルモノたちと戦っている。

 

 そんな由緒正しいヒーロー物語なのである。僕たちが生きる世界は。

 

 

 

 

 

 ん? なんで今更になって物語の第一話みたいな妙に改まった語りをするのかって?

 

 

 ……それはね。実は僕、つい最近この世界に戻ってきたばかりなんですよ。

 

 

 何もかんもアビス・ゼロが悪い。いやあ、アビス・ゼロは強敵でしたね……マジで。

 はい。強敵すぎたから結局倒すことはできなかったし、カロン姉さんと一つになって最強になった僕ですら、みんなと力を合わせて次元の彼方に再び封じ込めることしかできなかったのである。やっちまったぜ。

 

 いやね……封印を完成させる為には、どうしても誰か一人が次元の彼方に残らなくてはならなくなったのである。仕方なかった。仕方なかったんや……

 

 ……で、その役目を誰が全うするかで揉めに揉めてね。

 

 もちろん誰も犠牲にしたくなかったのでその場には僕が残ることにして、渋るみんなはチートパワーで追い出したりしたんだけどさ……まあ、それでもケテルと翼は力業で最後まで抵抗してきたのはビビったけど、二人にはなんとか説得して納得してもらった。

 「ボクは必ず帰る。ボクも今は、ボク自身が大切だからね」とか言ってね。

 

 実際封印さえ完成すれば自力で帰るのは簡単だったし、僕だって彼らと今生の別れをする気はさらさら無かった。

 完璧なチートオリ主は帰るまでがチートです、ってね。それまで独りぼっちだったら流石に寂しかったけど、僕にはカロン姉さんがいるし何ならダァトとも話すことができるので封印が完成するまで一人で次元の彼方にいても心細くはなかった。

 

 

 

 ……まあ、完成に五年ぐらい掛かってしまったのは完全に誤算である。

 一人残って裏ボスと対峙する完璧なシチュエーションの筈が……! と悔やんだのが、次元の彼方から帰還してこの人間世界に戻ってきてからのことだった。あっ、ケテルには真っ先に会いに行って生存報告してきた。彼の方は僕が死んでないことはわかっていたようだけど、それでも心配を掛けて申し訳なかったよ。彼のトラウマを抉りに抉ってしまう形になってしまったが、どうやら思っていたより精神的に安定していたらしく再び暴走することはなかったようだ。

 

 しかし、あれから五年も経つと世界も色々変わったみたいで……特に人間の世界の方は著しい変化である。

 町を歩くと人間の世界なのにエルフ族やオーガ族、鳥人族の姿をちらほら見かけた。どうやら無事に二つの世界は和平を結べたようで、今もお互いの種族がわかり合えるようにと交流が進んでいるとのことだ。

 

 あっ、カケル君やアリスちゃんにも会ってきたよ? 二人ともすっかり大きくなって、美男美女に育ってお姉さん感動したよ。

 特にカケル君は無能力者なのにコロシアムでも大活躍していて凄いと思いました。将来はセイバーズになると言っていたけど、「キミならなれるよ」と激励して胸をトンと叩いてあげた。

 尤も、あの歳で既にバースト状態をコントロールしてフェアリーバーストも使いこなしている妹のアリスちゃんの方が強いと言うのは言わないであげた。あの子天才すぎでしょ人間こわっ……

 

 

『汝が導いた子供たちは、立派に成長しているようだ』

「ふふっ……いいよね、ボクも嬉しいよ」

『私も嬉しい』

 

 

 ダァトも嬉しい嬉しいと言っています。

 ふふふ……成長と言えば、メアちゃんも十五歳ぐらいになって何と言うか、美少女さにますます磨きが掛かっていたよね。

 向こうでやってるアニメ「フェアリーセイバーズ∞」が続編でもやるなら、多分次の主人公は彼女になるのではないかと僕は思っている。

 

 だって今のあの子、ビジュアル的に可愛いのはもちろんだけど凄くカッコいいんだもの!

 昨日彼女が町に現れた暴漢をしばいている様子を見たけど、今のメアちゃんは通常時は黒髪で、状況に応じて白くなったりオレンジ色になったり青くなったりするのである。八枚の羽を生やして。

 

 

 ちゃっかりホドが分離して元の状態に戻っていたところを見るに、今の彼女はもう自分以外の存在を宿していないようだ。

 しかしそんな今の彼女にもかつて宿していた天使たちの力の残り香が残っているみたいで、彼女はこの五年間で成長した自身の異能によりその力を解放することでそれぞれ「サフィラフォーム」、「ホドフォーム」、「ケセドフォーム」の三形態に自由に変身できるらしい。

 

 それでいて事件に遭遇したのが登校中だったからか、高校の制服を纏った状態で披露したそれぞれのフォームの姿は何と言うか──「もうコレで一本書いた方がいいんじゃね?」と思うぐらい、贔屓目無しに活力に満ち溢れていて、非常に映える姿だった。

 うむ、これは間違いなく主人公ですわ。前作でマスコットポジションだった子供が成長して主人公になる続編アニメ、いいよね……いい。

 

 

 

 ──というわけで、僕は今後メアちゃん改め光井メアちゃんを次の原作主人公と判断してオリ主ムーブを行っていく所存である。

 

 

 

 アビス・ゼロを封印したことでフェアリーワールドのアビスたちもこうして大天使たちが出張できるぐらいには大人しくなったみたいだし、ケテルも和平を受け入れたようで五年前より世界は平和になっている。

 しかし、それでも二つの世界にはまだまだ問題は残っているからね。その全てにちょこちょこ顔を出して存在感を申し上げるのが、僕たちチートオリ主の使命である!

 

 もちろん世界が完全に平和になったら、メアちゃんのドタバタ☆学園生活を後方オリ主面で見守っていくのも乙なものである。彼女の通う高校にはカケル君たちも通っているし、退屈はしなそうだ。

 

 だが……

 

 

「待て、エイト! T.P.エイト・オリーシュア!」

 

 

 僕はミステリアス系のクールなオリ主な為、結婚式などという華やかな場所に居続けるわけにはいかない。新郎新婦と皆さんへの生存報告の為に顔見せだけしておいたが、そもそも僕は異能怪盗でお尋ね者である為、長居は無用だった。

 しかし追い掛けてくる相手も歴戦の強者なわけで……この場から逃げるのも、流石に楽ではなかった。

 まあテレポーテーションすればいいんだけど、久しぶりに会ってそれは味気ないからね。僕は流石のスピードで真っ先に追い掛けてきた風岡翼に向かって、ニヒルに笑いかけてやった。

 

 

「おっと、何だいツバサ? あんまり久しぶりって気はしないけど、久しぶりだね。それと、ごめんね……まだ約束の曲完成していないから、また今度でいいかな?」

「……っ、あんたは……っ、本当に……! あんたは……! はぁ……」

 

 

 ? なにそんな溜め息ついて……また僕何かやっちゃいましたか?

 

 ふっ……やっちゃうんだよね、僕は! 何故なら僕はオリ主だから!

 

 だから君たちも、僕に気持ち良く振り回されてくれ。

 原作キャラとしてではなく、この世界で生きる僕の──友達として、ね。

 

 

 

『それが、私たち』

「ボクたちのテンプレートだ!」

 

 

 

 というわけで、レッツ・オリ主ライフ!

 

 ボクたちの物語はエタらない。しかしそれは、永遠である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──クールでカッコ良くて、優しくて……

 

 

 

 そんなオリ主が、みんな大好きだったから……──

 

 

 

 

 

 

 

   TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです

 

 

   【T H E  E N D(おしまい)








 フェアリーセイバーズ∞の最終回は、Aパートまでに決着がついてBパートでエピローグをやるタイプの最終回だったようです。
 一年ちょっとの更新でしたが、ここまでお読みいただき、応援していただきありがとうございました! これにて完璧なチートオリ主は完結です!
 後書きとか補足とか、長々と色々と書きたいことは活動報告に書いておきました。
 要望があればまた掲示板回や短編おねショタ回を書くかもわかりませんが、今は一言……お疲れ様でした! 
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