TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
僕は異能怪盗T.P.エイト・オリーシュア!
前世の姉で女神様っぽい人のカロン姉さんと遊園地に遊びに行って、財布の中の諭吉……諭吉を見てたら、背後で悲しそうな顔をしていた一人の男の子に気づかなかっ……気づいてる。気づいたんだけど、思いのほか迷子だった。
迷子は無いわー……迷子は辛いわー!
しかも遊園地! しかも、遊園地!(重要)
このまま放っておいたら、楽しい思い出を作る夢の国で、悲しい思い出を残してしまうことになる。
見かねた僕は、カロン姉さんの助言で(少年の前でオロオロしていただけだが)声を掛けてあげると、はぐれてしまった少年の家族の捜索を手伝った!
……ところで、僕の正体を知る者が……カロン姉さん以外にはいなかったわ。流石僕、ボロは出さないぜ。
生まれ変わっても魂は同じ! 見た目はオリ主、頭脳もオリ主! テンプレはいつも一つ!
『……? ???』
はい。丁度今、カロン姉さんと訪れた遊園地で厄介な難事件(ちびっ子の迷子)に遭遇したので、頭の中で例のテーマを流しながら某名探偵アニメのナレーション風に(まともじゃねえ方の)現在の状況を整理したわけである。唐突ですまない。
だから、その……姉さん? そんなに真面目な反応で困惑されると、僕もその……正気になって恥ずかしくなってくるので、軽く流してくれると嬉しいな。オリ主が即興で考えた思いつきのネタに、深い意味など無いのだ。
『わかった。これも、ノリという概念か』
サンクス。カロン姉さんも昔より垢抜けてきたね。
──と、言うわけでこんにちは。こちらはオリ主力の変わらない、三人で一人のT.P.エイト・オリーシュアです。
急で悪いが、今の状況をもう少し詳しく説明しよう。
──五年ぶりに帰ってきた人間世界は、面白いことになっていた。
それは人間の町に聖獣の姿をちらほら見かけるようになったのもそうだが、僕がこの世界を離れている間に起こった変化は数多く、その一つ一つがとても新鮮で興味深いものだったのだ。
カロン姉さん印の未来視能力はずっと封印中なので、もちろんその全てが僕にとっては未知の領域である。気分は原作知識が無いタイプの転生オリ主だった。
そんな世界に対する感想としては、本編終了後のエピローグをじっくり見れて楽しいー! と言う心境である。
アビス・ゼロの封印にこんなにも長く時間が掛かりすぎてしまい、危うく暁月夫妻誕生の瞬間を見逃しかける事態には陥ったものの、オリ主とみんなで勝ち取った平和な世界をこの目で見回るのは心が踊った。
ふふふ……何を隠そう僕は、RPGでもクリア後の世界を冒険できるゲームが好きなのである!
既に使命を果たした後だから、何かを背負ったり気構える必要もなく自由気ままにその世界を楽しめるからだ。
ん? 前から気ままに楽しんでただろって? それを言ったらその通りである。
そんな僕だがこの世界に帰還した後はしばらくの間封印を頑張った自分へのご褒美も兼ねて、カロン姉さんと一緒にこの世界を旅して回っていた。
僕もこれでオリ主すること以外にも、前世からやってみたかったこととか色々あるからね。前世の人生には満足している僕だけど、それはそれとして時間があれば色々やってみたかった。
例えば友達と海水浴に行ってみたり、アルバイトでお金を稼いでみたり、特に目的も無くぶらぶらと商店街を食べ歩きしてみたり……今日はその「やってみたかったことリスト」の一つとして、遊園地デートというものをやってみたのである! エスコートする相手はもちろんカロン様だ。
ここ、「明保野フェアリーランド」はセイバーズの本部があり炎たちの活動拠点でもある明保野市で最も大きな遊園地であり、ファンシーなマスコットたちがそこら中でお客さんたちを出迎えたり豪華なパレードをしたりする、前世で言うところの夢の国みたいな遊園地だ。
アルバイトで稼いだ諭吉さんを惜しみなく投入した僕は、怪盗らしからぬ正規ルートから入場した次第である。
実はこの遊園地、アニメ「フェアリーセイバーズ」でも作中の舞台として登場している為、僕にとっては聖地巡礼的な訪問でもあった。
あれは何話だったっけ? 物語の前半にあった日常回で、炎と灯ちゃんの貴重なデート回だったことを思い出す。
作中で炎が黒ずくめの男の怪しげな取引を目撃するようなことはなかったけど、例によって事件は発生したものだ。チンケな男のひったくり事件とかそういう感じの、いつもよりしょっぱい事件だったが。
アニメでも登場した特徴的な形のジェットコースターや観覧車の姿や、ちびっ子たちに熱いファンサービスを贈る人気マスコットの「ふぇあり君」の姿を見て、僕は「ああそう、こんな感じだった!」と流石に薄れてきた原作知識をデジャブ的に思い出す。
そんな数々のアトラクションに興味津々なカロン姉さんと共にゆるりと気ままに、楽しく園内を巡っていた。
『エイト、あれは?』
「プニキのボールハントだね。ハチミツの壺に乗って移動しながら、プニキが打ったホームランボールをキャッチするアトラクションだよ。全部捕れたらプニキへの挑戦権を得られるとか」
『そうか……プニキ。その存在は知っている』
「行ってみる?」
『汝が望むのなら』
「おっけー」
どう見ても行きたがっているのはカロン姉さんの方だが、今日の僕は紳士モードなので何も言わないでおいた。
カロン姉さんは「あれに乗りたい!」「あそこに行きたい!」と強く主張することは無いものの、興味を持ったアトラクションなどには露骨にじーっとした視線を送ってくるのでとてもわかりやすい。あざといぜ、さすおね。
そんな俗世に疎い彼女のことをイケメンオリ主的にエスコートしてあげながら、僕自身も童心に返って久々の遊園地巡りをワイワイキャッキャと楽しんでいた。……誰? お前はいつも童心だろって言ったの。
──園内で迷子の男の子を見つけたのは、そんな時だった。
と言っても、最初に見つけたのはカロン姉さんなんだけどね。
初めて触れた遊園地という概念に興味津々な姉さんは、外見こそ僕と同じクールでミステリアスな美人さんだが、未知への好奇心故に誰よりも忙しなく周囲の様子を窺っていた。そんな彼女だからこそ、ベンチの前でポツリと悲しそうな顔で佇んでいる子供の姿に気づくことができたのだろう。
『私が気づかなくても、汝が気づいた』
そうかな? それはどうだろう。今日は怪盗衣装も着ていない完全オフモードだから、そこまで感覚が働いていたかは少し怪しいところだ。だから今回は姉さんの功績だよ。
『そうか』
そして迷子に気づいた以上、僕が少年を無視するのはあり得ない。
オリ主どうこう以前に、普通に可哀想だからね。
「もし。ぼうや、一人かい?」
「……え?」
見知らぬお姉さんが五歳ぐらいの子供に話し掛ける様子は現代社会では事案っぽいが、生憎僕は怪盗なのでそもそも善人ではない。
なに、通報されたら逃げればいいだけだし、その時は駆けつけた誰かがこの子のことを親御さんのところに送ってくれるだろうからそれはそれで良しとする。
『…………』
何も、特別なことではない。オリ主たる者、小さい子には優しくするのが当然なのである。
『……む……』
なんやカロン姉さん? そんな微妙な顔して。また僕何か変なこと言っちゃいましたか。
『いや……変ではないのだろう』
? ま、それはともかく今は少年である。
僕の腰よりも小さな身長から判断して、まだ小学校に入る前の年齢と見受けられる。そんな明らかに迷子っぽい少年は目線を合わせた僕の存在に気づくと、驚いた様子で目をぱちくりと見開いた。
僕としては警戒させないように柔和な顔を向けているつもりだが、いきなり知らないお姉さんに話し掛けられたら誰だって驚くだろう。寧ろ問答無用で逃げ出さなかっただけ気持ち的にはありがたい。
そんなことを考えていると……少年は驚いたことに、膝を屈めて声を掛けた僕に対して逆に問い掛けてきた。
「おねえさんたち、てんしさま?」
……坊や、鋭いね。
僕とカロン様の姿を見て一言目にそう問い掛けてくるとは、とても良い感覚をしているようだ。頭良さそう。
それに……「男装している今の僕」を一目でお姉さんと呼ぶとはね。やるじゃない。
因みに今のカロン姉さんの姿は僕の力で完全に実体化している為、よほどの実力者でもなければ違和感すら感じ取ることはできない。服装も普段の女神様っぽい浮世離れしたドレスではなく、僕がコーディネートした花柄の白いエプロンドレスを着ている為、今の彼女はめっちゃ美人な清楚系銀髪巨乳お姉さんにしか見えない筈である。今日は暑いので生地の薄めな夏物の奴を着ている為、本人の気質では包み隠せないほどに色気があるよね。
……うん、この時点でくっそ目立つわ。女神様っぽさとは関係なく。
彼女と僕が一緒にいる時点で、歩いているだけでもウェーイ系のナンパ男とかが寄ってきそうである。実際、この間闇雲さん家の兄妹と海に行ったら出くわしたんだよね、チャラ男さんに。
あの時は僕が連中をしばく前にカケル君がスマートに解決してしまったので出る幕は無かったが。あの時のカケル君はとても男らしくてカッコ良かったので、うんと褒めてあげました。五年も経つと、男の子も立派になるよね。頭を撫でられるのも嫌がっていたし、思春期真っ盛りの様子だった。
海や遊園地で遭遇した頭の悪そうなナンパ男を華麗に撃退するのも、イケメンオリ主には外せないテンプレである。何なら商業作品でもよく見た。僕としても憧れがないわけではないが、遊びに行った先で何度も同じ目に遭うのも芸が無いと感じたわけで。
僕は賢いので、今回は色々と目立ちすぎる姉さんにお約束的なナンパイベントが発生することがないように作戦を練ってきたのだ。
それがこの、「男装作戦」である。
それは僕自身がパッと見男性に見えなくもない装いをすることで、この姿から放たれるイケメンオーラで悪い虫を寄せ付けまいとする作戦である。イケメンオリ主が彼女をエスコートすることで、生半可なチャラ男さんたちを気後れさせる狙いだ。
参考にしたイケメンムーブはイェソド君とかハニエルさんとかその辺りである。イェソド君とは最近会ったけど生で会ったらすっごい紳士的で驚いたわ。五年前は僕が見ていないところで大活躍していたのを労ってあげたら、とても喜んでくれて良かった。
そんな今の紳士的な王子様ファッションのエイトちゃんイケメンモードを前に、初手で性別を見抜いたこの少年は評価に値する。500エイトちゃんポイントを進呈しよう。
『……もはや服装を変えた程度では、汝の性別は偽れない。汝が擬態するよりも、私が霊体化する方が確実だと思うが』
やだ。何が悲しくて姉さんの美貌を隠さなければならないのか。それに……僕もせっかくなのでこの機会に、いい感じの男装とかしてみたかったのである!
諸事情で性別を偽ったりするオリ主とかギャグでもシリアスでも割と見たことあるし、僕も一度やってみたかったんだよね! そもそも僕はTSオリ主だろというツッコミは無しの方向で。
それに……力を使わなくても、僕としては結構いい感じに擬態できてると思うんだけどなぁ。王子様っぽさを意識したこの服装も、シルクハットはいつものを使っているが袖口の長い白いブラウスとか、青いケープとニッカーボッカー風の半ズボンなんかは僕が前世でよく着ていた服と似た感じだし。
もちろん「擬態」の異能を使った方が確実だけど……服装を変えただけでも案外、結構な人は騙せるんじゃないかなと思う。この少年には通じなかったが。
『……なるほど』
と、そんな今の僕たちの装いである。
しかし、そんな男装さえも看破し、あまつさえ僕たちの正体を天使と言い当ててみせた将来有望な少年に向かって、僕はあえて問い掛けてみた。
「どうしてボクたちのことを、そう思ったのかな?」
「? バレバレだったから」
「そんなに」
そんなにか。お姉さんちょっとショック。
むむむ……王子様ファッションで男装していても、僕の美少女ぶりは包み隠せなかったのか……それはそれで少し嬉しいと思ってしまうのが、我ながら万能なTSオリ主である。
しかし性別はともかくとしても、天使であることまでバレてしまうとは驚きだ。今の僕たちは羽も生やしていないと言うのに、そんなにわかりやすいかな?
それとも何か、隠しきれないオーラみたいなものが出ちゃってるみたいな? やれやれ、原初の天使は辛いぜ。かーっ!
『何故、嘘を吐く?』
はい、嘘です。僕は目立つのめっちゃ好きだし、ダァトのことを知った今となっては他の人から天使扱いされるのも抵抗がありません。部分的には本物の天使なんだし。
しかし僕のことを天使と当てたこの少年は、年代的には僕のことを知らない筈である。
少年の年齢が五歳ぐらいだとしたら、僕が大々的に活躍していたのは生後間もない赤ちゃんの頃か、そもそも生まれていない時代になるからね。そう考えると五年はやっぱり長いなと思う。
「ママ、いってた! フェアリーランドには、きれいなてんしさまがあそびにくるって」
「……なるほど。ビナーのせいか」
少年がママさんから聞かされていたらしいその話は、ネットカフェでここの下調べをしていた時に記事を見かけたので僕も知っている。
と言うのも、戦いが終わった五年前からどうにも、この遊園地「明保野フェアリーランド」には年に一回ぐらいの頻度でフェアリーワールドから天使が遊びに来ていたらしいのだ。そんなほのぼのニュースだった。
最初に訪問した天使は元々人間世界の文化に興味津々だった理解の大天使ビナー。今度自分の島にも遊園地を建てるから、その為にこのフェアリーランドへ視察に来たらしい。その様子は当時のニュース番組でも報じられたとか何とか。
「テレビでみたてんしさま、おねえさんとそっくりだった!」
「あの子とボクは親戚みたいなものだからね」
「おねえさんのほうがちいさいけど、めがきれい!」
「ふふ、そうだろうそうだろう? このオッドアイはボクの誇りなんだ」
『照れる』
ビナー様がこの遊園地に来た時は得意の擬態能力を使うこともなく堂々と来園してきた為、国内でもかなり話題になったようだ。
特に彼女のご尊顔は僕とそっくりなのもあって、それはもう目立ちに目立ちまくったらしい。それは多分彼女のことだから意図的に、人間世界への無害アピールも兼ねて目立つ振る舞いをしていたのだろうね。今度本人に会いに行こうかな?
因みにフェアリーワールドでも彼女を経由して人間世界の遊園地「フェアリーランド」の評判が伝わっているらしく、今では彼女以外にも施設に興味を持った天使さんたちがお忍びで来園したりするらしい。この子のママさんが言っていたというのはそういうことだろう。驚きの宣伝効果である。
僕も興味があったので調べてみたけど、サフィラス十大天使ではマルクトやティファレト、ホドの姿が園内で目撃されたようだね。口では「遊園地なんて私たちが行くべき場所ではありません」とか興味無いフリをしながら、いざ来てみると誰よりも楽しんでいるマルクト様ちゃんの姿は物凄く想像できる。ホドまで来ていたのは意外だけど……あの甲冑を着たままジェットコースターとか乗ってたら、ちょっとシュールだ。
だけど、まあ……彼らがここを気にいるのはわかる気がする。
「ここはとても楽しいところだからね。雰囲気もどこかあちらの世界と似ているし、みんなも落ち着くのかもしれない」
「おねえさんも、てんしさまのせかいからあそびにきたの?」
「そういうことになるね。みんなには内緒だよ?」
「うん! おしのみ、だね!」
そうそう、お忍びということでここは一つ。しーっと人差し指を立てて口止めをしておくと、少年から快い返事が返ってくる。うむ、物わかりがいい子で助かる。
僕は異能怪盗、すなわち悪いお姉さんだから、自分から目立つわけにはいかんのだよ。だけど全くバレないのもそれはそれで寂しいので、君のような勘の良い子に気づかれるのは僕としても嬉しいのである!
露骨なアピールはしないが注目はされたい。僕は欲張りなのだよ。
『……サフィラス十大天使の名は、この世界でも広まっているのか』
カロン姉さんが呟いた言葉に、僕も同じ感慨を抱く。
五年前、謎の天使型聖獣として初めてコクマーが来た時なんかは、「異世界から未知の怪物が現れた!」みたいな緊張感だったんだけど、今ではこんな小さい子にまで天使の存在が広まっているとは中々ジェネレーションギャップを感じるものである。
僕も彼らに対する一般地球人の皆さんたちの印象を軽く調べてみたけど、概ねこの少年のように賛よりの意見が多いようだった。
どこかのサイトで行われていた人気投票を覗いてみても、一位がイェソド、二位がビナーで三位がティファレト、僅差の四位五位にマルクトとケセドが続く感じで、大きく離されてその他五人という感じだ。票数もちゃんと入っていたので、一般人の評価としては有用な情報だった。
もちろん、十人の内全員が表立ってこの世界に来たことがあるわけではない為、人気がある天使は順当に、多くの人々から実際の活躍を見られている順に好印象を受けているようだった。
イェソド人気の圧倒的な高さは、五年前にアビスの襲撃からこの世界を守っていた姿が人々の記憶に新しいのが影響していると見える。そう考えるとこの世界で表立って行動するようになったのはつい最近のことなのにこの位置にいる女性天使たちも大概凄いというか……みんな美女や美少女に目が無いんだなと安心する。
ま、僕はさらにその上を行く「殿堂入り」扱いされていたけどね! ……いや、なんでだよ。嬉しいけど僕怪盗だよ? それでいいのか地球人……
『エイトが人気で、私も嬉しい』
よせやい照れるじゃないか。僕としては、カロン姉さんのこともみんなに知ってほしいんだけどね。今後はその辺り色々と計画を練ってみようかね。
しかしこの五年の間にそれだけ広くみんなの存在が伝えられ、親しまれていると思うと僕も鼻が高い。僕の前世の前世であるダァトは自分が名声を残すことに対してはビックリするほど興味が無かったけど、エイトちゃんは自己顕示欲が高いのでどんどん存在感を申し上げたいのである。
そうだね……ここは、久しぶりに名乗ろうか。
「ボクの名前はT.P.エイト・オリーシュア。こっちは、姉のカロン。次元の壁より参上した……光と闇の大天使さ」
「わぁ……!」
挨拶がてら異空間に繋がるアイテムボックスから花束を取り出すと、それをポンッと少年の目の前に差し出す。インチキ染みた種ではあるものの、彼の目にはどこからともなく花を出現させるスタイリッシュなマジックに見えたことだろう。
僕のなんちゃってマジックを見て無邪気に驚いている少年の姿をカロン姉さんと一緒に微笑ましく見つめていると……少年は言った。
「おねえさんも、エイトっていうんだ! ぼくのなまえも、エイトっていうんだよ?」
「へぇ、それは奇遇だね」
格好つけて実際カッコいい僕の自己紹介に対して少年は、親御さんの教育が良いのだろう。舌足らずながら丁寧に名乗り返してくる。えらいえらい。
しかしエイト……えいとか。漢字で書くと瑛斗くんとか、そんな感じかな?
寧ろそう書くと珍しくもない、割とメジャーな男の子の名前だよね、エイトって。
「あと8にん、ほいくえんにエイトがいるよ! おとこのこが3にんで、おんなのこが5にん!」
いや、思ったより多いな! そんなにいるのか……
そっか、そっか……この世代の子供たちの間ではそんなにありふれた名前だったのか。お姉さん、自分の名前の希少価値が思ったほど無くてちょっと残念です。
オリ主の名前は覚えやすい方が良いけど、個性的な方がプレミア感が出て嬉しいのである。
「だけど男の子より、女の子の方が多いのか……それも意外だね」
「うん。みんな、「エイト」っててんしさまみたいな、ないているこにやさしくしてあげる、やさしいこになってほしいからって……さとうエイトちゃんと、たなかエイトちゃんがいってた!」
「……うん?」
それは親御さんたちが、お子さんにエイトちゃんと名付けた由来かな? それって……えっ、マジ?
……そう言えば、聞いたことがある。赤ちゃんの命名についての雑学だ。
赤ちゃんにどのような名前を付けるかは、出生したその年の世情が傾向として強く反映されるのだそうだ。
わかりやすい例を挙げると、その年に活躍した有名人の名前なんかも影響したりしているようで。金メダリストや甲子園のスターとか、その年に活躍したスポーツ選手にあやかって同じ名前を付けたり、そういう奴である。
ゲームとかでも自分の操作キャラに推しのキャラの名前を付けたりするのも、言ってみれば同じことだからね。行き過ぎるとキラキラネームみたいな社会問題になってしまうが、親子さんたちがその年に受けた感銘が赤ちゃんの名前に影響を与えるのは割とありふれた話らしい。思えばマイフレンドの子供もそうだったし。
それを踏まえて考えてみると、この少年の名前は……
「ぼうやは今、いくつになるのかな?」
「5さい!」
「そっか、五歳かぁ……」
思った通りの年齢に、僕はある仮説を立てる。
僕がチートオリ主的活躍をしたのは、今から五年前。丁度この子が生まれた年だね。
勘違いなら恥ずかしいけど……これ、偶然じゃないよね?
『汝にあやかったのだろう。何も、恥じる話ではない』
え……? えー……
……もしかして世間での僕の印象、派手に良かったりする?
いや、それだけの存在感を示せたのは嬉しいんだけどさ……この照れくささはなんだろう。なんか、すっごいムズムズする……なにこの気持ち。
いたたまれない変な感情で視線を彷徨わせていると、そんな僕に対して少年のキラキラした眼差しが襲い掛かってきた。な、なんだよー?
「おねえさんが、みんながいってたエイトさまなんだね!」
そういうことになった……のだろうか?
どうしよう、そんなに曇りの無い目で見られると適当な言葉を返せないぞ……
……ともかく僕はクールで頼れるカッコいいオリ主である。デレデレするのも、恥ずかしがるのもなんか負けたみたいで嫌だ。
故に、僕はこの心の動揺を見抜かれないよういつものように微笑みで誤魔化しておいた。
「さ、さあ、どうかなー?」
やべ、ちょっと声が上ずっちゃった。久しぶりの動揺で気が抜けていたのかもしれない。クールなオリ主はポーカーフェイスを忘れたらいかんよ、いかん。知り合いの前じゃなくて良かった。
僕が今この世界でどんな扱いになっているのかは後で調べるとしても、今はこの子のご家族を捜さないとね。さ、行こうか! ちゃんと手を繋いで、はぐれないようにねー。
「うんっ!」
だけど、僕の評判か……ちょっと怖いけど、今度ネットカフェでエゴサーチでもしてみるか。
僕が前にこの世界にいた頃よりも有名人になっている気がするのは町を歩いていても何となく感じていたが、細かいところまでは調べていなかったのだ。
思えばさっき言ったサフィラス十大天使の人気投票に何故か僕の名前が殿堂入りの枠に入っていたことからも察せられるように、世間には割と詳しい事情まで公表されているかもしれない。
僕とサフィラス十大天使の関係とか、フェアリーワールドで戦った五年前の貢献とかそういうのとか。炎とか翼とかが義理立てして広めてくれた可能性はある。
いや、僕は目立ちたい系のオリ主なので多くの人たちの話題になるのは別に良いのだが……これに関しては何か、僕が思っていたのとはちょっと違う伝わり方をしているような、そんな気がした。
『私から、通行人の思考から読み取った汝の評価を、教えてもいいが』
「やめて」
それはなんか怖いのでやめてください。姉さんの読心は精度が良すぎて、知りたくないことまで知っちゃいそうだから。
自分の評価なんて、過剰に気にし始めたらドツボに嵌まってしまうものなのである。
それこそ──評価を気にしすぎてエタってしまった、悲しい物語のようにね。
その辺りの感情も、自分の意思でコントロールできるオリ主で在りたい。以上、T.P.エイト・オリーシュアでした。
エイトのフェアリーワールドでの活躍は良かれと思ってセイバーズの皆さんとケテルが広めてくれたようです。やさしいせかい
今更ですがたくさんの感想をありがとうございます!
色々あって返信を止めてしまって申し訳ありません。もちろん全部目を通してはいるので、今後は空いた時間に追って返信していきたいと思っています