TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
あれから数日が過ぎた。
迷子の迷子のえいと君であるが、僕たちは無事に親御さんのところへ送り届けてあげました。
普通なら迷子センターなり係員の人なり相談するべきだったのだろうが、生憎にも僕は悪いお姉さんなので彼のことは手を繋いでお喋りをしながら勝手に連れ回し、はぐれた家族のことを直々に捜してやったのである!
ま、その方が断然早かったので構わないだろう。あの子も喜んでいたし。
捜し方は簡単。みんなでフェアリーランド名物の巨大ジェットコースターに乗り込み、「千里眼&サーチ」を使いながら高いところから園内を見渡したのである。
何たってジェットコースターの上から目当ての人物をチェックするのは、ジンの兄貴もやっていた由緒正しき捜索法だからね! 僕もそれにあやかってみたのだ。
「ビッグフェアリーマウンテン」というそのジェットコースターは、この園内を端から端まで縦横無尽に駆け巡るフェアリーランド最大の名物アトラクションだ。
えいと君も乗りたがっていたし、カロン姉さんもそわそわとジェットコースターの方を見ていた。みんなで楽しみながら同時にえいと君の家族を捜すことができる、一石二鳥の妙手だった。流石は僕。
実を言うとまだ五歳の幼稚園児であるえいと君は身長制限にバリバリ引っ掛かっていたのだが、そこは異能の蔓延るこの世界である。足りない身長は僕の力で補い、数センチだけ彼の背を伸ばしてあげることで強引に解決してやった。
異能による身長のかさ増しは規約的にはグレーゾーンらしいが、犯罪ではないし彼の身体に悪影響も無いのでヨシとする。えいと君も大喜びだったし、みんなで楽しむことができて僕も楽しかった。
もちろん、乗り終わったらすぐに元に戻しておいたけどね。えいと君は残念がったが、数ヶ月も経てばすぐに同じぐらい伸びるよと教えてやったら機嫌を直してくれた。
僕たちの手をグッと握りながらカロン姉さんを見て「おとなになったら、おねえさんよりおっきくなるよっ!」と告げた言葉は、幼くとも男の子だなと思った。僕は160センチあるか無いかぐらいだけど、カロン姉さんは日本人男性の平均身長より大きいからね……目指す目標としては丁度良いのかもしれない。精々いっぱい食べて、成長するといい。
と、そんな感じにフェアリーランド名物のジェットコースター、ビッグフェアリーマウンテンを存分に堪能した僕たちであったが、その結果僕はえいと君の家族を無事に見つけることができた。
うむ、僕としたことが楽しすぎて……と言うか楽しんでいるカロン姉さんとえいと君の姿が微笑ましすぎて、危うく途中から本来の目的を忘れそうになったけど、僕もちびっ子のことでガバるわけにはいかない。頼れるお姉さん的に考えて。
親御さんたちもえいと君のことを捜し回っていたのだろう。彼の家族らしき気配は、ジェットコースターからそう遠くない場所に見つけることができた。
ふふふ、ダァトの力を完全に取り戻した今の僕は、生き物が放つ微妙な気配の違いとかもZ戦士のように嗅ぎ分けることができるのだよ。特に家族とか親類の人からは似た気配が発せられているからね。9万人もの入園者数だろうと、えいと君の家族を捜し当てるのは簡単だった。
真面目な話、捜索の為にジェットコースターを利用するのは効率が良かったのだ。園内は飛行禁止だし。
そうして無事に合流したえいと君のご家族であったが……驚いたことに、なんと奥さんは
エルフの奥さんと、人間の旦那さんの夫婦だったのである。これには僕も驚いたが、僕以上にカロン姉さんが驚いていたものだ。よほど衝撃的だったのか、珍しく表情に出ていたほどだ。
話を聞くに、ご両親が出会ったのは今から十年前のこと。
フェアリーワールド第3の島「エロヒム」出身の奥さんはビナー様から密命を受けてこちらの世界に渡り、人間世界の動きを探っていたらしい。
すなわち、小さい頃の翼に出会ったラファエルさんと同じ理由でこの世界にやってきたわけだが……そこで当時高校生だった今の旦那さんと運命的な出会いをし、恋に落ちたのだと言う。
カロン姉さんいわくエルフ族の女性は他の人種よりも警戒心が強くて気難しい人が多いのだが、そんな奥さんを落とした旦那さんはよっぽど良い人だったのだろう。
見た目はイケメンと言うよりも人畜無害そうな平凡な青年と言った感じだったが、どことなくラノベ主人公的な雰囲気を感じなくもない風貌だった。奥さんの方はエルフの女騎士的な雰囲気を放つキリッとしたタイプだったので、色々と対照的な雰囲気を感じたものだ。
……うむ。ラブコメも好きな僕としては、そんな二人の間で繰り広げられたのであろう壮大なラブロマンスが実に気になるところである。一体どんな出会いをしたのだろうか?
二人は主に奥さんの特殊な立場故に長らくお忍びで交際していたのだが、五年前に両世界の間で和平が結ばれたことによって、晴れて人目を憚ることなく付き合えるようになったのだそうだ。
程なくして長男であるえいと君を授かると、上司であるビナー様もそんな彼女を祝福し、笑顔で送り出したそうな。こんなところでも株を上げるとは流石はビナー様である。
そんなビナー様に仕えていた奥さんは、当然のように僕たちの正体に気づいたようで、『あの……貴方がたは……』と恐る恐る声を掛けてきた。
緊張でガチガチになっていた様子が不憫に見えたので、僕たちは彼女にだけ聴こえるようにテレパシーで応えてあげた。
『なに、ボクらもキミたちと同じさ。「家族」で一緒にこの世界へ遊びに来た……ただの仲良し姉妹だよ。だよね?』
『……そうだな』
僕の顔はビナー様とそっくりだからね。
聖獣である彼女からしてみれば大天使と関係のある僕たちを見て気が気でなかったのかもしれないが、今はプライベートの時間ということでどうか、気を楽にしてくださいとお願いしておいた。
『っ、……息子のこと、ありがとうございました! 五年前のことも……ビナー様とセイバーズ……そして貴方様には、夫共々本当に感謝しています。本当に……何とお礼を言えば良いか……!』
「……さて、何のことやら。キミが幸せを掴めたのは、キミたち自身が頑張ったからだろう? まっ、お子さんに付けた名前ほどの感謝は頂戴しておくよ」
『あ、あはは……』
「因みにそちらの子は?」
『長女です。この世界の言葉で暁に美しいと書いて、「あけみ」と名付けました』
「ああ、この子はエンにあやかったんだね……」
『貴方がたのおかげで、私たちは家族になれたので』
大恋愛の果てに結びついた聖獣と人間のご夫婦は今でも変わらず良好な関係を築いており、奥さんがその手で押している乳母車にはすやすやと気持ち良さそうに眠っている赤ちゃんの姿があった。玉のような可愛らしいハーフエルフの女の子は、えいと君の妹となる二人目の子なのだそうだ。
その赤ちゃん──あけみちゃんの寝顔には僕も癒やされたが、特に地母神の如き穏やかな目で見つめているカロン姉さんの横顔が印象的だった。
『そうか……』
元々子供好きなのもあるのだろうが、彼女にはフェアリーワールドをずっと見守ってきた立場として色々と込み上がってくる感慨があったのだと思う。
『……新しい時代が、訪れたのだな……』
そう呟いた彼女の声に、僕は微笑みながら頷きを返した。嬉しいか? 新時代が。僕もだ。
人間と聖獣が愛し合い、家庭を築いた。異なる種族の共存が可能であることをその手で示してくれた仲良し家族の姿に、姉さんは何か達成感のようなものを感じている様子だった。
同じように、僕の中のダァトもえいと君たちを見てとても喜んでいるのがわかった。
ご両親がえいと君とはぐれてしまったのは、二人が泣き出してしまった赤ちゃんをあやしている間に人混みに呑まれ──という経緯だったようだ。
言ってみればえいと君が迷子になったのは、両親が二人して妹さんに構いきっていたことが原因になる。もちろん二人とも長男のことを大切に想っており、彼と再会するなり自分たちが悪かったと怒濤の勢いで謝り倒していた姿を見れば、僕からSEKKYOUするようなことは何も無かった。
お母さんなんて、えいと君を連れてきた僕たちに泣きながらお礼を言ってきたほどである。
そんな二人を相手に当のえいと君もしっかりしており、怒るどころか安心した顔で二人の胸に飛び込んでいった。妹相手に嫉妬することもなく、彼は「おにいちゃんだもん、はぐれちゃったぼくがわるい!」と長男の度量を見せたのだった。
ええ子や……流石は僕と同じ名前を持つだけのことはある。将来大物になるわこの子。
「偉いね、キミは」
『良い、お兄ちゃんだ』
「へへっ」
カロン姉さんもそんなえいと君の兄たる姿を見て感銘を受けたようで、自分自身も長女として苦労してきたことから思うところがあったのか、手つきは不慣れながら彼の頭をなでなでして褒め称えていた。顔はお父さん似だけど髪はお母さん似なのか、ハーフエルフであるえいと君の髪はとてもサラサラしていて撫で心地が良さそうだった。
『これからも……家族を大切にな』
「? うんっ!」
親御さん方は始めは恐縮そうな顔をしていたが、普段は表情の変化が乏しい姉さんの穏やかな目を見てほっこりしていた。僕もニッコリである。
長い戦いが終わったことでずっと背負ってきた肩の荷が下り、あれから姉さんも少しずつ変わってきているのかもしれない。
……まあ、それはそれとして一つ困ったことがある。
タイトルを付けると、こんな感じだ。
~人間世界へ五年ぶりに帰還しましたが、そこでは僕がスーパーヒーロー扱いされていました~
はい。夢の国「フェアリーランド」で思う存分姉さんと遊び歩いてから数日経った今、僕は今の世間でのT.P.エイト・オリーシュアの扱いを理解した。大体事情はわかったぜ。
察していた通りエイトちゃんはサフィラス十大天使との関係をはじめ、セイバーズと協力してアビスと戦ったこととか、聖獣の世界であるフェアリーワールドの守護者ケテルとの対話を仲介し、二つの世界が戦争になるのを止めた最大の功労者として広まっていたのである。
そこにはいかにも世間受けしそうな脚色も混ざっていたが、五年前にやらかした僕の行動は概ねこの世界に伝わっていた。
まあ、それはいい! 僕は目立ちたい系のオリ主だからね。
やれやれ、僕は隠していたんだけど、みんなにバレてしまったな……僕としたことがあまりに活躍しすぎて、一般の方々にもエイトちゃんの偉大さが浸透してしまったようだと、照れくさいが思わずニヤニヤしそうになったほどである。
人知れず世界を救ったクールなヒーローポジションというのも悪くはないが、素直に功績が広まるのもまた、それはそれで今まで積み重ねてきたことに対するカタルシスがあって気持ちいいのだ。
しかし、問題はその規模だ。
加減しろ馬鹿と……そうツッコみたくなるほどになんか、世間では想像以上に英雄視されていたのである。
ネットカフェでエゴサーチしてみれば、出るわ出るわ謎の有識者たちの語る「T.P.エイト・オリーシュア」の逸話の数々。
出版業界からは「T.P.エイト・オリーシュア烈伝」なるものがベストセラーになっており、書面にあることないことおびただしく書き綴られていた。
どうやら取材元はセイバーズやケテルらサフィラス十大天使のようだが、彼らも無駄に義理堅く、僕に対する悪い噂は一切流さなかったようである。寧ろ、ここぞとばかりに盛大に美化している気さえした。むず痒いわ。
『エンたちもケテルも、汝のことが好きなのだ』
……それは、うん……嬉しいんだけどね?
ま、まあ、彼らが僕のイメージ良化に貢献し、この世界にいつでも帰って来れるように手を回してくれたのはありがたいことである。
だけど、僕がさも二つの世界を救う為に我が身さえも捧げた聖母みたいな存在として語るのはやめてほしかったと思うエイトちゃんであった。
『……違うのか?』
違うのだ。
って言うか、こんなに僕のことを吹聴するならその半分でもカロン姉さんのことも語ってほしかったものである。
セイバーズの皆さんは接点少なかったからまだしも、ケテルさぁ……ダァトに対する激重感情の少しでも姉さんに分けてあげて。
『私に対する憎しみが、僅かでも和らいだ……その事実だけで十分だ』
健気……っ! 圧倒的健気……!
カロン姉さんは昔から名誉とか一切興味の無い、奥ゆかしさMAXのパーフェクト大天使様だからね。まさしく僕と足して二で割るのが丁度良いぐらいの謙虚さである。
しかし、問題だ。この状況にはやれやれ系オリ主的なフリではなく、真面目に困ったことがある。
それはこの僕、T.P.エイト・オリーシュアとしては死活問題である。
──英雄視されすぎたせいで……ちょっと、悪いことがしにくくなったなって。
そう、ご存知の通り僕はミステリアスなチートオリ主。確かに状況次第では表舞台で脚光を浴びることもあるが、基本的には世間から一歩身を引いたところにいるポジションなのである!
敵か味方かさえ定かではなく、俗世から切り離された世界で独自に暗躍するクールな存在。そんな風に少し捻くれた立場にいる方が、僕的には一番美味しいと考えている。ストレートなヒーローポジは炎君たちで間に合っている以上、オリ主には他のみんなに無い独自性が求められるのだ。
なのでこう……俗世から普通に英雄として持て囃されるのはなんかこう、僕の理想像ではなかった。
子供たちからキラキラした目を向けられるのは構わないけど、いい大人からもそういう目で見られるのは落ち着かんのである。
そもそも僕は怪盗だからね! 指名手配は解除されているが、この世界でやってきたことはバリバリ犯罪なのである!
……だから警察屋さんとか、前みたいに追ってきていいんだよ? この前なんか誰かが落とした財布を交番に届けてやったら、何故かお巡りさんにサイン求められたし。
このままでは駄目だ。
いや、さらに有名になったのは良いが、こういうのはなんか駄目な気がする。そ、そうだ……僕は孤高のオリ主なのだ。他の誰かと馴れ合ってばかりいては駄目だ。
『私と馴れ合うのもか……?』
いやいやいや。もちろん、姉さんはいいんだよ? 僕は孤高だけど孤独ではないからね。
しかし僕は、俗世に染まらないオリ主なのである。
万人に親しまれるのはオリ主として方向性が変わってしまう。これでは悪いお姉さん(笑)じゃないか。
──なのでここらで世間に対し、わからせてやる必要がある。そう思ったわけである。
今一度、「コイツは油断ならないぞ」というミステリアスな印象を知らしめてやろうと思うのだ。
大天使ダァトの親しみやすい部分だけではなく、異能怪盗T.P.エイト・オリーシュアの超然的で底知れない雰囲気を見せる為に……僕は久しぶりに、悪いことをしようと思う。
「そうだ、学校へ行こう」
手始めに強固なセキュリティーを怪盗らしく嘲笑いながら、未成年たちの集う学園に不法侵入してみることにする。
『……何故?』
ふふふ、学園に集まって日々学業に勤しむ英雄の卵たちに向かって茶々を入れながら、彼らの力を上から目線で見下ろしてやろうと思うのだ。これって何か、凄く何かを企んでいそうでミステリアスじゃない?
そう、僕は久しぶりに、怪しさ満点の怪盗キャラとして暗躍したいのである!
『汝は……メアたちの様子を見たいだけなのではないか?』
本心を見抜く姉さんは嫌いだ。
『!』
嘘だよ。
『そうか……』
からかおうとした言葉の全てを真面目に受け止めてしまう為に、からかうにからかえない姉である。
まあ、そこが良いんだけどね。からかい下手なエイトちゃんでした。