TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 あけおめ投下


メアのセイバーアカデミア

 明保野異能学園はその名の通り、学童の異能開発を目的とした特殊なカリキュラムを組まれた明保野市の学校施設である。

 通常の学校と同様、無能力者及び普通科の生徒も受け入れてはいるが、大半の生徒は将来異能関係の職業を目指す者たちばかりであり、中には既に現役で活動している生徒もいるほどだ。

 そう、言うならば異能使いの養成施設。前世の僕が通っていた学校とは何もかもレベルが違っていた。

 

 ──まず、施設の充実っぷりがファンタジー染みている。

 

 敷地内には生徒たちが思う存分力を発揮できるように東京ドーム並の大きさのアリーナや広大なグラウンドが幾つもあり、実習棟には科学者志望の生徒たちが扱うよくわからない凄そうな設備が至る所に見えた。

 いずれも僕の知らない施設であり、炎たちはこんな良いところに通っていたのかと大分ビビったが、調べてみたら彼らが通っていた学校はこことは別の近所の公立校だった。そちらの名前は明保野高校。

 そりゃそうだよね……灯ちゃん異能使いじゃないし。そう考えるとカケル君すげーな。

 

 この学園が創立されたのは今から大体二十年ぐらい前になるようだが、これも五年前の事件を機に訪れた異能社会の急速な発展故か。異能使いの養成学校もまた、ここ数年で創立当時とは比べ物にならないほど発展しているらしい。

 

 

 

 さて、本日はそんな名門私立学園で植林されているオシャレな大木の上からこんにちは。罪状を取り消されし異能怪盗ことT.P.エイト・オリーシュアです。

 

 今日はそんな僕の、不本意に上がりすぎてしまった善人要素を適切なレベルに調整する為、学園への不法侵入という悪事を犯して参りました。

 ふふふ、流石は僕。我ながらロックな行動──えいとざろっくである。……うん。オリ主たる者、エイトちゃんは世間の流行にも敏感なのだよ。

 

 とは言うものの、流石にロックンローラーのようにギターを弾くことはできないので、代わりと言っては何だが久しぶりにハープを取り出して一曲演奏してみた。聴いてください……帰ってきたオリ主の歌。

 おっと、翼との約束は忘れていないよ? こうして適当な曲を気ままに弾いている内に新曲のインスピレーションが湧いてきたら良いのだが……中々上手くはいかないね。

 

 それはそれとして木の上に腰を落ち着けながらハープを弾き鳴らす僕の姿はとても神秘的でカッコいいのでヨシとしよう。服装も、今日はこの学園に潜入する為にいつもの怪盗衣装ではなく高等部の制服を着てみたぜ。

 空色のブレザーに桜色のネクタイ。チェック柄の赤いスカートが特徴の少し派手めな女子制服である。

 魂の年齢はともかく、今の僕の姿は誰がどう見ても十代の美少女である為、手鏡で確認した限りはとても似合っていた。おかげで誰にも違和感を持たれることなく学園への潜入に成功してしまったJKエイトちゃんである。

 

 そんな僕は今、勉学に励む彼らを他所に一人、しんみりとした音楽を奏でている……ともすれば教室で授業中の生徒たちを眠りの世界に陥れかねない子守唄テロをこの場所から行っていた。

 

 ……うむ。これは擁護できない悪事である!

 

 これならば再び指名手配を受けて、元の敵か味方かわからないミステリアスなポジションに返り咲くには十分なムーブではないか? カロン姉さんはどう思う。

 

『無理だと思う』

 

 ……そうかな? 

 うーん、今の世間は随分と僕に感謝しているようだからね。確かに彼らの認識を改めさせるには、このぐらいではまだ足りないか。

 でもなー……このご時世、ガチな迷惑行為を働くのは気分が悪い。せっかく平和を取り戻したのだから、セイバーズのみんなにも今まで頑張ってきた分、楽をさせてあげたいなと思っている自分も確かに存在していた。どこにも属さない中立的なポジションは守りたいが、人を不幸にすることはしたくない。これがどうしても、難しい塩梅である。

 

『そう思う時点で、汝は……いや、何でもない』

 

 なんだよー、そこまで言ったら最後まで言ってよ姉さん。

 ……まあ、言いたいことはわかるよ? 「そう思う時点で汝は悪事に向いていない」とか、そう続けたかったんだよね。

 

『そうだ』

 

 僕たちは以心伝心の仲良し姉妹だからね。心なんか読まなくても、考えていることは大体お見通しだ。

 しかし、いくら姉さんの言葉でも、僕のことを「悪いことができない甘ちゃん」だと思われるのは少し心外だ。

 僕だってやる時はやるTS美少女なのである。僕は必要だと判断した場合には、誰かにとって大切なものだって盗んでしまえる存在なんだぜ?

 殺すKAKUGOではないが、オリ主たる者、優しさだけではなくそう言った「クールさ」も併せ持たなければならないのた。

 

 だから僕のことは、みんなも警戒してほしい。この際先生でも生徒さんでもいいから、ここにいる不審者に詰め寄ってきていいんだよー? 

 

 

「キューッ!」

 

 

 ……と思っていたら、先生でも生徒でもなく、僕の乗っている木の上に一匹の小動物が駆け寄ってきた。

 ウサギのような長い耳に額に煌めくルビーのような宝石。僕のいるところまで弾丸のような速さでよじ登ってきたモフモフの毛玉は、嬉しそうな鳴き声を上げながら僕のお腹にダイブしてきた。

 

 ぐふっ、見事な一撃だ……流石だぜカバラちゃん。……カバラちゃん? カバラちゃんじゃん、久しぶりー! 

 

「やあ、元気にしていたかい?」

「キュイッ!」

 

 コイツはカーバンクルのカバラちゃん。伝説上の生き物だ。ああ。

 

 五年間会っていなかったけど、元気そうで良かった。

 ……って言うか、君はあんまり変わっていないねカバラちゃん。前よりちょっと大きくなった気がしないでもないけど、相変わらずの人懐っこさとモフモフぶりで僕も嬉しい。癒される……

 

 カロン姉さんもそんなところで物欲しそうな顔していないで触ってみなよ。

 

『……いいのか?』

「キュッ」

 

 いいってさ。

 

『感謝する』

 

 カバラちゃんを前に居ても立っても居られない様子で実体化したカロン姉さんが、僕の膝の上で目を細めながら耳を倒し、進んで撫でられ体勢に入った小動物の頭を恐る恐る撫でていく。うむ、どちらも微笑ましくて大変眼福な光景である。

 カバラちゃんはてっきりフェアリーワールドにいるものだと思っていたけど、こっちの世界にいたんだね。それも学園の敷地にいたと言うことは、この子もメアちゃんの様子を見に来たのだろうか? 

 

 そう考えているとカバラちゃんが姉さんに撫でられながら僕の方に目を向け、その額の宝石から淡い光を解き放った。

 

 ──瞬間、僕の脳内に「記録」が流れ込んでくる。それはこの子が僕のいない五年間で集めてきた情報。カバラちゃんが見てきた両世界の記憶だった。

 

 それは、この子たち「カーバンクル種」が備えている特殊能力である。

 カーバンクルは元々、世界の管理者である天使に下界の情報を伝達する為に生み出された世界樹サフィラの端末的な存在だったとは、ビナー様が言っていた話だ。

 律儀にもカバラちゃんはその能力を使って、この五年間で自分が集めてきた情報を僕に与えてくれたのだ。

 見事な忠犬もとい忠幻獣ぶりに、僕はエラいエラいと讃えながら感謝のブラッシングをしてやる。久しぶりだが僕の撫でテクは衰えていないぜ!

 

『ふふっ……』

 

 しかしこの子、前から思っていたけど僕のことをサフィラス十大天使と同じか、それ以上に慕っているよね?

 実際のところ僕自身は天使ではないのだが、この身体がダァト要素とカロン姉さんの要素を併せ持つ以上、今となっては誰よりも本来の天使に近い存在であることは否定できない。故に、カーバンクルから送られてくる情報を何の問題もなく飲み水のように受け取ることができたわけだが……なるほど、これは便利な力である。さすカバ! 

 

「ありがとね、カバラちゃん。キミのおかげで色々知れて、助かったよ」

『……はじめから、この子に頼るべきだった』

 

 それな。 

 これならネカフェで微妙な気持ちになりながら地道にエゴサーチを掛けるよりも、手っ取り早く精度の高い情報を集められたわ。

 なんだかんだ言っても、困った時はSNSの集合知よりも身近な友達に頼むのが一番だねー。そう思いながら僕は、頼れる友に対して感謝の気持ちを伝えた。

 

「これからもよろしくね」

 

 その言葉に対する返事のつもりなのか、カバラちゃんはぴょいっと僕の肩に飛び乗ると、僕の頬にスリスリと自らの頭を擦り付けてきた。

 うむ、いい感触だ。あざといぜ……しかし、それがいい。猫とか犬とかもそうだけど、こうして動物が相手から擦り寄ってきてくれる瞬間って、なんだか自分の存在が世界から許されたように感じて心に染み渡るよね。

 

『……そうだな』

 

 姉さんもそう思う? エイトもそう思います。

 つまり何が言いたいかと言うと、カバラちゃんもふもふ可愛いヤッターということだ。突発的に訪れたこの学園でまた会えるとは、僕もつくづく運が良いオリ主だった。

 

 

 

 

 ──と、そんな感じにカバラちゃんメモリから情報を受け取ったことで、僕は人伝に聞いた噂話よりも正確に、メアちゃんたちの近況を知ることができたわけである。

 

 

 そして知ったことだが……カバラちゃんは今、例によって天使から任務を受けて行動している最中だったのだ。

 

 その任務とは、ずばりメアちゃんの監視である。

 

 尤も「監視」という言葉から受けるイメージほど、やっていることはそう堅苦しくない。

 人間でもなく、聖獣でもない。しかし両方の性質を併せ持つ彼女の成長経過はフェアリーワールド側からしても気になっているようで、ある「依頼人」がカバラちゃんに対して、それとなく彼女の様子を見ておくように頼んだのである。

 

 それはメアちゃんと仲の良いカバラちゃんも望むところだったようで、快く任務を引き受けて今に至る。

 そのような事情もあってか、ここ数年のカバラちゃんは専らメアちゃんの通うこの学園の敷地を活動拠点にしており、日々学業に励む彼女のことを木陰や木の上から見守っていた。お昼休みには直接会って遊んだりもしているようで、割と悠々自適な幻獣ライフを満喫しているようだ。

 そんなカバラちゃんの存在はメアちゃん以外の生徒にもバッチリ認識されており、今では学園に棲むマスコット幻獣として皆から可愛がられているそうだ。

 ……少し大きくなった気がするのは、色んな人から餌付けされているせいだったんだね。

 

「おやつもほどほどにね」

「……キュ」

 

 ほっぺたの肉をみょいーんと引っ張りながらそれとなく釘を刺しておくと、カバラちゃんは申し訳なさそうに小さく鳴いた。

 

 うーん……なんだか、嫉妬しちゃうなぁ。

 

 カバラちゃん相手ではなく、この学園の生徒たちにである。「異能」を正式なカリキュラムに組み込まれた専門学校というだけでも心が踊ると言うのに、テーマパークに来たみたいなぐらい恵まれた施設に、カバラちゃんまで付いているとは……もはや至れり尽くせりという言葉では足りないほど充実した学園に就学中の子供たちのことを、僕はすこぶる羨ましいと感じていた。「こんな学校で青春を過ごせるなんて、なんて贅沢なんだ!」と。

 SS界隈における唐突な学園編は三大エタフラグの一つとして数えられているが、それを理解してなお踏み入りたくなるほどに、現実離れしたファンタジー的な学園生活は魅力的だということか……!

 

 

 ──よろしい、ならば潜入だ。

 

 

 僕の手に掛かれば一般生徒の誰かになりすますことで堂々と通学することはできる。が、それはなりすました相手が可哀想なことになるのでやめておく。

 故に僕は、あくまでT.P.エイト・オリーシュアとして、この校舎に慎ましく侵入することにした。

 目的は授業参観及び、体験授業である。

 メアちゃんたちの様子自体はここからでも千里眼なり使えば覗き見ることができるが、それでは味気ないからね。やっぱりこういうのは、直に見なきゃ。

 と言うわけで行くよ、カロン姉さん、カバラちゃん! あっ、姉さんは忍ぶの下手だから、少しの間霊体化しておいてね。

 

『わかった』

「キュッ」

 

 カロン姉さんのくっそ目立つ姿が肉眼では観測できなくなったのを確認したところで、僕はカバラちゃんを抱えて木の上からスタッと飛び降りた。

 わっ、スカートめっちゃめくれた……誰も見ていないから良いけど、やっぱ短いよここの制服。アニメに出てくる女子高生の制服って見映えを重視してかことごとく短いから困るよね……見る分には最高なんだけど、自分が着る側に回った途端意見を翻すダブスタエイトちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才色兼備(さいしょくけんび)──優れた学識やスキルを持ち、なおかつ容貌が美しい、その両方を持ち備えた人物のことをそう呼ぶ。

 しかし明保野異能学園高等部一年「光井メア」に対しては、それと同音の造語で表現されることが多かった。

 

 彩色剣美(さいしょくけんび)

 

 誰がそう呼び始めたのやら、気づけば学園ではそのような呼び名が広まっていた。本人的には気恥ずかしいだけの誇らしくもない異名であったが、実際のところ異能発動時の彼女の戦闘スタイルにピッタリと当てはまっていたのだ。

 

 彩色──彩色(さいしき)という読み方が一般的ではあるが、その言葉は彼女が自らに着色する多彩な「色」を意味する。

 日常生活を送っている時の彼女の髪は黒く、穏やかな眼差しに儚げな影を纏った大和撫子と言った印象を受ける。しかしひとたび自らの能力を解放した瞬間、彼女の髪はその意思に従って三つの色に変化するのだ。

 

 それは恐らく、この世界で唯一無二と言える光井メアの固有特性。

 世間的には「天使化」の異能として扱われているが、厳密には人間が持つような通常の異能とは似て非なる別種の力だった。

 

 

 その発動が今、学園のアリーナで披露されていた。

 

 

 広大なバトルフィールドのほぼ中心部に、光井メアの姿がある。

 その背中には八枚の羽が広がっており、天井という設備上の制限こそあるものの、彼女はその空を思うがままに翔け回っていた。

 そんな彼女の今の髪色は、八枚の羽の色と同じ純白の色をしていた。羽ばたく度に羽根が舞い散り、三本のリボンで結ばれたポニーテールが左右と揺れ動く様はまさしく天使のようで、ギャラリーの目にはこの世の物とは思えないほど神秘的に映った。

 そんな彼女がヒラリと舞う度に、先ほどまで彼女がいた場所を漆黒の弾丸が通り抜けていく。それは彼女と相対している異能使いが放つ「砲撃」の嵐だった。

 

 

 ──この学園に通う生徒同士による「実戦訓練」の光景である。

 

 

 先にクリーンヒットを当てた者の勝ちというシンプルなルールのもとで執り行われた異能バトルであり、それを実戦形式の訓練として二人の生徒が繰り広げていたのだ。

 

 八枚の羽を羽ばたかせる、高等部一年生の光井メア。

 相対するのは、彼女と対照的な漆黒の力を操る中等部の三年生、闇雲アリスである。

 

 互いに学園指定の運動着を身に纏った二人は本来であれば学年が違う為に相まみえることはないのだが、この日は特別に……闇雲アリス側の要望によりマッチアップが実現した。

 

 ……と言うのも、この戦闘はアリスにとっての「試験」だったのだ。

 

 彼女が中等部から高等部へのランクアップを通常よりも早く繰り上げる──いわゆる「飛び級試験」が行われていたのである。

 

 

 闇雲アリスはこの世界屈指の天才異能使いである。

 

 元々飛び級を認めていなかった学園が例外的に試験を認めるほどに、中等部ながら彼女の存在は同学年の中で突出していたのだ。

 具現化した闇を操る異能「闇の呪縛」の力を持つ彼女は、己の意思で自在に操作することができる「闇人形」を召喚し、通常の異能使いでは実現不可能な物量で押す戦法を得意とする。

 自らのキャパシティーが及ぶ限り次々と闇人形を召喚し、自分自身の力で生み出した軍勢を差し向ける姿から、世間は彼女に「闇の人形遣い」という少々ダークチックな異名を与えた。本人的にはこれをとても気に入っている模様。

 そんな彼女は十四歳にして既に異能使いの極地たる「フェアリーバースト」を会得しており、実技面においては学園で教わることはほとんど残っていない天才児だった。

 

 そんなアリスの相手になる同学年の異能使いは──学園はもちろん、この日本には存在しない。

 

 しかし、一つ上の年にはそんな彼女をも上回る天才がいたのだ。それが光井メアという少女である。

 

 

「どうですか、私の闇人形兵団は……! 前に見せた時より凄いでしょ?」

 

 自身の身体に膨大な闇を纏わせたアリスの姿は、茶髪のツインテールと勝ち気そうな顔つきも相まり、まるで少女漫画に出てくる悪役令嬢もかくやと言わんばかりの風貌である。

 尤も、彼女は飛び級の申請を例外的に受け取って貰える程度には品行方正な優等生であり、いかにも気の強そうな外見に反して同級生にも友達が多い、人懐っこい少女であった。

 アリスは自身の纏う闇を粘土のようにこね回すと、そこから次々と闇の人形を造り出していく。

 総勢数十体もの闇人形たちは一斉に散開すると、主の意思に従って空を舞うメアを追い掛け包囲していく。人形の姿はそれぞれウサギやネコ、カラスと言った動物を模した造形がされており、その種類によって異なる能力が付与されていた。

 飛行能力を持つカラス型の闇人形たちがメアの進路を塞ぐように牽制すれば、高く跳躍したウサギ型闇人形がその牙で噛み付こうと飛び掛かっていく。

 そしてネコ型の闇人形たちはこれはまたバラエティー豊かな造形となっており、中にはヘルメットとつるはしで武装した作業員風のネコもいれば、先ほどメアに向かって闇のライフルを放った軍人風のネコの姿もあった。いずれも当然のように二足歩行であり、コミカルな動きでフィールド内を駆け回っていた。

 

「……アリスって、そんなに猫好きだったの?」

 

 空から地上から、矢継ぎ早に襲い掛かってくる闇の人形たちの攻撃を紙一重で避け続けながら、少し苦笑した様子でメアが問い掛けてくる。

 カラス型の闇人形とウサギ型の闇人形を相手には慣れた様子で対処している彼女だが、武装ネコ人形たちの攻撃パターンは全く未知であったが為に、心なしか戦いにくそうな様子だった。

 そんなメアの動きを見て活路を見出し、アリスは次々にネコ型の闇人形を増産していく。

 

「動物全般好きですけど、特に猫は大好きですよ! リアルのもフィクションのも、どれも地球が生み出した奇跡ってぐらい可愛いじゃないですか!」

「アリスの人形は、あんまり可愛くないけど……って言うか、ちょっと怖い。白目剥いてるし夢に出てきそう」

「むっ……そんなことないですよ! 鳴き声が「にゃー」じゃなくて「キヱアアアッ」って感じだけど、これはこれで愛嬌があるんだから。私の言うこと、ちゃんと聞いてくれるし!」

「──!」

 

 アリスの言葉通り子供の悲鳴にも似た甲高い鳴き声を上げながらも、ネコ型の闇人形たちは主の命令を忠実に守り四方からライフルを連射していく。

 絶え間無く撃ち放たれる砲撃に隙間は無く、的確な狙いをつけて徐々に逃げ場を塞いでいく戦法は、明らかにメアの自由を封じている様子だった。

 

 そして数発の弾丸が直撃コースに入った次の瞬間──メアの髪色が変わった。

 

 

「なら……ホドフォーム」

 

 

 おもむろに左手を振り上げたメアが、その手で自身の髪を結う三色のリボンの中から一本──変化した今の彼女の髪と同じ「橙色」のリボンを引き抜く。

 瞬間、リボンの姿が一瞬にして円形の「大盾」へと変化した。

 

「ホドシールド!」

 

 橙色のリボンが、メアの身を守護する盾になったのである。

 構えた大盾は彩色された橙色の髪と共に淡い光を放つと、さらに強固なバリアを展開してアリスの弾幕を遮断していった。

 

 これがメアが持つ特殊な力の一つ──「ホドフォーム」である。

 

 それは、かつて彼女がその身に宿したサフィラス十大天使、栄光の大天使ホドの力を引き出した形態だ。

 特に防御力に優れた形態であり、対応する媒体(橙色のリボン)に力を注ぐことで、かの大天使が扱っていた大盾と同種の防壁を発動することができる。

 

「っ、相変わらず、鉄壁の守りですね……! 先輩の男子たちが言っているのとは別の意味で」

「何のこと言ってるのアリス……」

「だけどっ!」

 

 その姿となることで前方からの砲撃を完全に防ぎきってみせたメアを相手に、アリスはそれでもとさらに闇人形を増産し、より分厚い弾幕を形成していく。

 

 さながらそれは、空から飛来してきた人ならざる神聖な存在を相手に地上の軍隊が明日無き決戦を仕掛けているかのような光景だった。

 

 しかしそれほどの物量を持ってしても、メアのホドシールドの守りを崩すことはできない。

 物理的な意味でも、もう一つの意味でも……光井メアという少女の鉄壁ぶりは中高共に、学園では有名だった。故にその身持ちの固さは数々の相手の心を折ってきたものであったが……ここまでは、アリスには想定の範疇である。

 ネコの射撃は効かない。しかし彼女の注意を逸らせれば、それだけで意味がある。

 

「その盾は対策済みです!」

 

 闇の弾丸の嵐を橙色の大盾一つで遮断していくメアの背後から、鋭い牙を剥き出しにした大型のウサギ型人形が三体、突っ込んでいく。

 

 彼女の「ホドシールド」はあらゆる攻撃を遮断する鉄壁のバリアを展開するが、あくまでもそれは盾を構えた前方だけのことだ。盾の届かない背後からの攻撃には無防備である為、決して完全無欠な守りというわけではなかった。

 故に、アリスは彼女が大盾を構えるこの瞬間を狙っていたのだ。避けきれない弾幕を張り、彼女が前方への防御に意識を集中させた隙を突き、弾幕に紛れて潜ませていた別働隊の闇人形を背後から仕掛ける──という作戦だった。

 

 ──しかしメアは、背後から急迫してくるウサギたちに目をくれることもせず、盾を構えたままその奇襲に対処してみせた。己が持つ、第二の力を使うことによって。

 

 

「サフィラフォーム」

 

 

 橙色の髪色が、再び「純白」に変わる。

 

 瞬間、彼女の髪を結う純白のリボンが、その先端を槍のような形状に変化させると──ひとりでに動いたのだ。

 

 

「読んでいたよ、アリス。サフィラテール!」

「そんな……?」

 

 

 メアの髪に結ばれた白いリボンが蛇の尾のようにうねりながら、目にも留まらぬ速さで三体のウサギたちの胸を串刺しにしていった。

 メアに対する本命の一撃として用意されたウサギたちは、三体とも他よりも体格が大きく、頑強に作られたものだ。パワー自慢の異能使いであっても正面から相手取るには手を焼くと、中等部の教師たちからも絶賛された特別製である。クラスメイトたちからは「ムキムキウサギ」と全く可愛くないあだ名を付けられたのは不本意だが、それはともかく。

 

 自慢のウサギ型強襲用闇人形でさえも、メアの白いリボンが繰り出す一突きの前では一撃で消滅してしまう有様だったのだ。それは彼女とアリスの間にある明確な力の差を意味していた。

 

「うそー……」

 

 思わずと言った心境で、アリスの口から唖然とした声が零れ落ちる。

 そんな彼女の今の攻撃に対して、純白の姿「サフィラフォーム」になったメアが先輩目線で論評した。

 

「貴方の力はエイトさんみたいに色んなことができるのが強みだけど、色々なことに手を出している分、力のリソースが分散して一つ一つの威力が落ちている。それと……奇襲を仕掛けるにはちょっと、素直な性格が出過ぎているかな。私の死角に他とは明らかに違う大きなウサギを配置していたら、良いタイミングで何かしてくるってバレちゃうよ」

「……目を逸らす為に、インパクトのあるネコさんを用意してたんだけどなぁ」

 

 光井メアが彩色する二つ目の姿──戦闘開始時点でも見せていた純白の髪の姿は、「サフィラフォーム」と言う。

 

 三つの形態の中で攻守速共にバランスが良く、戦闘時において最も安定した基本形態とも言える姿だ。

 その力を対応する媒体(純白のリボン)に送り込むことで、蛇の尻尾のように自律行動して敵を迎撃するリボンの刃、「サフィラテール」を最大威力で扱うことができる。

 

「それと……」

 

 サフィラテールを純白のリボンに、ホドシールドを橙色のリボンに戻したメアが、空いている右手を使って三本目のリボンを髪から抜き取る。

 

 

 ──その直後だった。

 

 

「っ!」

 

 アリスの額に、青色の細剣の切っ先が突きつけられる。

 

 それから数拍遅れて巻き起こった突風が、アリスの髪を荒々しく吹き煽っていく。それは今しがた目の前まで飛来してきた彼女のスピードが、風よりも数段速いことを意味していた。

 先ほどまでメアの姿は、アリスの立っている場所よりも80m近く離れた場所にあった筈である。

 それを彼女は、闇人形の軍勢で固めていた包囲網を純粋な飛行速度だけで掻い潜り、本体であるアリスの目先までその細剣を突きつけたのだ。

 そのまま振り抜いていれば、アリスに対して致命的な一閃を浴びせていたところであろう。誰が見ても、勝敗が決したと判断できる光景だった。

 

 それを可能にしたのがメアの三つ目の戦闘形態、「ケセドフォーム」である。

 

 「防御力のホド」、「バランスのサフィラ」と言う表現に当て嵌めるのなら、ケセドフォームは突出した飛行速度が特徴である。

 

 ホドと同じくかつてその身に宿していた大天使ケセドの力を引き出すことで、メアの髪色は青色に変わり神速の速さを得ることができるのだ。

 

 そして対応する媒体(青色のリボン)にその力を送り込むことで、リボンは聖なる力を宿した細剣「ケセドフェンサー」へと変化し、その刃を十全に振るうことができた。

 

 彼女の異名である「彩色剣美」の後半部分も、主にこの力がもたらす部分が大きい。聖なる細剣を創り出す能力のみならず、練り上げられた彼女自身の剣技もまた誰もが認めるほど鋭く、美しかった。

 その剣先と同じ真っ直ぐな眼差しでアリスを見つめながら、立会人から「そこまで!」という言葉が響いたのを受け取ったところでメアは口を開いた。

 

「アリスは前より人形を造るスピードが速くなったし、一度に出せる数も増えたね。だけど、貴方自身の立ち回りが課題かな? こうして力押しで守りを突破されてしまうと、勝負が決まってしまうのはもったいない」

「……人形遣いなんだから、そこはしょうがなくない?」

「? アリスならできるでしょ?」

「……ぐうの音も出ませんね……参りました。あーあ、一発ぐらい入れられると思ったのになぁ……」

「精進あるのみ、だね」

 

 決着の判定が出たところでアリスが不服そうに頬を膨らませると、そんな彼女の頭にポンと手を置きながらメアが引き締まった頬を緩める。

 そこでようやく、右手に携えた細剣を元の白いリボンに戻した。

 

 純白のリボンはサフィラテールに。

 橙色のリボンはホドシールドに。

 青色のリボンはケセドフェンサーにとそれぞれ変化するが、非戦闘時には何の変哲もないリボンである。……素材には一部特別な繊維を用いられているが、詳細は割愛する。

 

「んー……あれ……? んと……あ、あれ?」

 

 背中の羽も消して非戦闘時の黒髪に戻ったメアは、その手に残った橙と青のリボンを自らの髪に結び直すべく両手を後頭部に向けようとした。

 これらのリボンは戦闘時には武器として扱う為、即座に髪から抜き取ることができる結い方をしているのだが、戦いが終わった後には再び結い直さなければならない点だけは不便である。

 

「何わたわたしてるんですか……手伝いますよ。勝ったんですからそのぐらい、私に頼んでくださいって」

「ん……ありがと。助かるよ」

 

 鏡を使わずに髪を結ぶことに微妙に手間取り四苦八苦していたメアの様子を見かねてか、アリスは小さく嘆息しながら後ろに回ると、慣れた手つきで彼女の髪を結ってあげた。

 

「うわぁ、先輩の髪すっごいサラサラ……シャンプーとか何使ってたらそうなるんですか?」

「最近は、エロハからの輸入品を使ってる」

「えっ!? あの異世界産の!? エロハって美の島って呼ばれてる島でしょ? いいなー」

「欲しいなら、売ってるお店紹介するよ? ちょっと高いけど」

「……ブルジョワめ……」

「ふふん、私、稼いでるから」

 

 アリーナの真ん中で和気藹々と駄弁りながら身だしなみを整え合う二人の少女の姿は、どちらもつい先ほどまでコロシアムでも見かけない苛烈な戦闘を繰り広げていたようには見えない様子であった。

 それが周囲に対して年相応の微笑ましさを感じさせるか、却って底知れなさを感じさせるかは人によるだろうが、彼女ら自身としては至ってマイペースだった。

 

「アリスだって、結構稼いでいるでしょ。この前だって賞金を貰って……──ッ」

 

 

 ──メアの様子が突如として変わったのは、アリスが彼女のポニーテールに三色目のリボンを結び終えたその時だった。

 

 

 

 

 

 アリーナの端──150m近く離れた観覧席からこちらを眺めている一人の少女の姿に気づき、途端にメアは驚きに目を見開いた。

 

「エイトさん……?」

「え? エイトさん来てるの!?」

 

 思わず呟いたその女性の名前に、アリスもまた大きく反応する。

 今のメアの人格形成に大きな影響を与えたその女性の存在は、アリスにとっても感謝に絶えない大恩人である。

 そんな双方の事情を、二人は互いに理解していた。

 年齢こそ一つ違うものの、メアとアリスはアリスがこの学園に入学した頃から交友がある、お互いに気をおけない友好的な関係だ。メアの方はアリスのことを可愛い後輩であると同時に数少ない親友の一人だと思っており、アリスの方もメアのことは憧れの先輩であると同時に生涯のライバル……親友だと思っている。

 

 ──だからこそ、と言うべきか。

 

 メアは今しがた見えた……見えたような気がした存在を、見えなかったことにしておいた。

 それは恐らくこの学園にはお忍びで訪れたのであろう「彼女」の思惑に配慮して、自分の一言で事を大きくすることを避けたかったからだ。

 アリスに対しては誠実ではないかもしれないが、「彼女」に対しては誠実な判断であった。

 

「……いや、気のせい。ちょっと似ているけどよく見たら全然違う、三年生の人だった」

「ちょっと似ている~? はあ……メア先輩、ダメですよ? 貴方ともあろう人があの人を見間違えるなんて。エイトさんはね、誰よりも強くてカッコ良くて、ミステリアスなの。他の誰かと見間違えるなんて、それはあの人に対するぼうと」

「ごめんね! わかった……わかったからそこまでにして」

「まったく! ……わかりましたよ」

 

 この後輩……いや、数日後には同級生(・・・)になっているのであろう闇雲アリスという少女は、「彼女」が今ここにいることを知ったら学園中を巻き込んでこの場所をお祭り会場にしかねないと思ったのである。

 アリスがそれほどまでに度を越した、抑えの利かない憧れを彼女──T.P.エイト・オリーシュアに抱いていることはもはや、メアのみならず学園の生徒全員の間で周知の事実だった。

 暴走を阻止することができて良かったと安堵しながら、やや引きつった声でメアは話題を変える。

 

「ともかく、実技試験お疲れ様。勝ったのは私だけど、先生は結果より貴方の力の使い方を見ていると思うから……多分、合格だと思う」

「協力していただいたこと、ありがとうございました。だけど完勝した先輩にそう言われるとイヤミみたいに聞こえますねー」

「ふて腐れないの。……帰りに何か、奢ってあげるから」

「あっ、じゃあ最近できた喫茶店に行きたいです! 私の家の近くにできたんですよー!」

「ふふ……あ」

 

 無事アリスの興味を引きつけることに成功したメアは、もう大丈夫かなと先ほどまで見ていた観覧席の側に視線を戻す。

 そこには苦笑いしながら小さく手を振る黒髪の少女と白銀の女性、見慣れた小動物の姿があったが……次にまばたきした頃にはもう、彼女がそこにいたことがまるで幻だったかのように居なくなっていた。何の痕跡も残さず、鮮やかなまでに。

 

 得意のテレポーテーションを使ったのだろう。次の瞬間には、彼女の「気配」はアリーナから離れた実習棟──音楽室にあった。

 

 

 ……そう。今のメアははっきりと、彼女の発する気配を掴んでいた。五年前は影すら掴むことができなかった彼女を、前よりも確実に、強く感じることができている。

 

 それは間違いなく、今のメアが五年前よりも成長している証だった。

 

 

(私も……少しはあの頃より、強くなれたかな? ……エイトさん)

 

 

 それが人間としての強さか、天使としての強さかはわからない。

 未だどっちつかずの自分だが……そんな自分を見て彼女がどう思ったのかを想像すると、メアは少し憂鬱だった。

 

 もちろん──彼女の前でカッコいいところを見せられたかなと、人並みに誇りたい気持ちもあったが。

 

 そんな光井メアも、書類上では十五歳。朗らかな雰囲気の中に儚さを含んだ彼女は、自身が思っている以上に多感な年頃だった。






 ぼっちざろっくが面白かったので、ぼざろを中心にダイナミックコードにフォーカスした人気バンドアニメ同士のクロスオーバーSSを考えていたら頭がおかしくなったので投稿が遅れました。卍戦士の休息卍……ってやつかもね

 
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