TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 この秘密が決め手でリッキーを引き換えたので劇場版編開始です


チート原作主は完璧じゃなくてもいいそうです
実は、ちびっこたちの初恋ハンター


 黄金色に輝く満月が、少しずつ肌寒くなってきた秋の夜空を彩っている。

 

 時刻は夜中の九時であり、子供たちは夕食も入浴も終えて後は明日に備えるだけと言った頃。

 その日、高層マンションの上階に住んでいる小学一年生の少年は、寝室に置いたタブレットと向き合いながら一人アニメを視ていた。

 現在彼の年代の子供たちの間で流行している怪盗物のアニメであり、内容は善良な民から奪い取った財産で私腹を肥やす悪党権力者たちを義賊の少女「アハト」が成敗し、彼らから宝物を頂戴していく勧善懲悪もののストーリーだった。

 一話完結形式で起承転結をスッキリとまとめられた物語は、子供たちから大きなお友達まで幅広い年齢層に支持されており、実在の異能怪盗をモデルにしたとされる主人公のビジュアルも併せて巷では高い人気を誇っていた。

 少年もまたそのアニメのファンであり、この日の夜は布団に入る前に放送された最新話に見入っていた。小学一年生の、ちょっとした夜更かしであった。

 

「ヒデト~、もう寝なさーい」

「はーい」

 

 普段なら眠り始めている時間でもまだ部屋の灯りが点いていることに気づいた母親が、そんな少年に就寝を促す。丁度アニメの再生が終わった直後だった為、少年の話は存外素直だった。

 そのアニメの内容だが……今回も主人公の怪盗少女が悪者をやっつけ、悪政に困窮する人々を鮮やかに救ってみせたものである。

 「どうかいかないで、アハト様! この町に残ってください……!」と呼び止めるゲストヒロインに対して、怪盗少女は被り直したシルクハットの裏に微笑みを隠しながら、ヒラリと手を振って踵を返す。

 

 

《ありがとう、お嬢さん。だけどボクは闇の世界の住人……ようやく灯りを取り戻したこの町に、いてはいけない存在なんだ》

《そんなこと……》

《だけどそんなボクの存在を必要とする町が、この世界にはまだまだ溢れている。そんな町から悲しみを頂戴するのが、ボクの役目さ。アディオス、キミたちに祝福があらんことを》

 

 主人公アハトの決め台詞を最後に、このアニメの様式美である「止めて引く演出と共に流れるいい感じのエンディングテーマ」を締めにしてその回の物語は幕を下ろす。

 主人公の力は常に誰かを救う為に振るわれているが、彼女自身は自らの存在を正義の味方と名乗らない。

 自身は光の世界で生きられない闇の世界の住人と称しながらも、暗闇に苦しむ人々を放っておくことができないのが彼女の愛嬌だった。

 悪ぶっているように見えて、持ち前の優しさが隠せない。ヒロインでヒーローな彼女こそが、このアニメの主人公である義賊少女アハトの魅力であった。

 

 

「今日も面白かったなぁ……」

 

 そんな主人公の活躍に今回も目を輝かせていた少年は、満足げにアニメの感想を口漏らしながらタブレットの電源を落とす。

 明日は今視聴したアニメの話を、クラスの友達と存分に語り合う予定である。

 しかし今は、良い子はもう寝る時間だ。少年は消灯してベッドに向かおうとしたところ、まだ部屋の中に仄かな灯りが残っていることに気づいた。

 

 快晴の夜空に浮かぶ満月の光が、窓の向こうから溢れている。

 

 カーテンがまだ、半開きだったのだ。

 少年が持っている異能は先ほど視たアニメの主人公と同じく、闇を操る。故に彼は、寝る時はいつも豆電気も使わず部屋の中を真っ暗にしていた。その方が何となく、気分が安らぐのだ。

 

 そんな少年は閉め忘れたカーテンをしっかりと閉め直す為に窓際に向かい──見た。

 

 窓の向こう側──部屋伝いのベランダの先にヒラリと舞い降りた、一人の女性の姿を。

 

 月明かりに照らし出された輪郭が動き、二色の色を持った双眸が、窓越しに少年の目を見つめてくる。

 エメラルドのような翠色の右目と、純金よりも透き通った黄金の左目。

 綺麗だ……と、思わず少年は目を奪われた。

 

 

「おねえさん、怪盗……?」

 

 

 女性が纏うロイヤルブルーのマントと夜空のようなロングスカートの裾が、涼やかな夜風に煽られて静かに揺らめいている。

 幻想的かつ神秘的な光景を前に、気づけば少年は窓を開き、女性に問い掛けていた。

 知らない人に近寄ってはいけません。知らない人をお家に入れてはいけませんとは両親からもしっかりと言いつけられていたが、女性の姿はそんな少年さえも自然と警戒心を解いてしまうような、不思議な安心感を与えてきたのだ。

 まるで先ほど見ていたアニメの主人公のような馴染み深さを、少年は彼女に対して感じていた。

 

 

「ふっ……」

 

 

 シルクハットの下で微笑みを浮かべながら、彼女はそんな少年の問い掛けに微笑みを返す。

 答えは、肯定だった。

 

 

「そう……ボクは怪盗。あの月よりもずっと遠い……遠い世界から、キミの大切なモノを頂戴する為にやってきた──」

 

 

 膝の裏で丁寧にスカートを折り畳みながらしゃがみ込んだ黒衣の女性は、小さな少年と目線を合わせる。

 おもむろに手を伸ばした彼女は、息も忘れて茫然と佇んでいる少年のうなじに指先を当てながら、耳打ちするように言い放った。

 

「──悪いお姉さんだよ」

「あ……」

 

 透き通るような眼差しに息の当たる距離から見つめられたその瞬間、少年の胸が今までに感じたことの無い、不思議な高鳴りを覚えた。

 そして。

 

 淡い光が、少年の身体を包み込んでいった。

 

 彼女が触れた瞬間、暖かな光が瞬くように広がったのである。

 優しささえ感じる光の中で微睡みながら、少年は見た。微笑みの中に彼女が浮かべていた、儚くも悲しげな眼差しに。

 

 そうして、少年の意識は夢の中に落ちていった。

 

 バタリと倒れ込んだ少年の身体を抱き止めた女性は、そのまま彼の身柄を抱き抱えるとベランダ伝いに寝室に上がり込み、物音も立てずにベッドの上へと下ろす。

 静かな寝息を立てて眠る少年に毛布を掛けると、彼女はシルクハットを締め直して踵を返した。

 

 

「いい眠りを……おやすみ、ボウヤ」

 

 

 愛しむように呟いた彼女は、再びベランダへと出て窓を閉める。同時にパチンと指を鳴らせばひとりでにカーテンが閉まり、窓の施錠が完了する。念動力による戸締りは、怪盗たる彼女なりの被害者へのアフターケアだった。

 

 

「今宵も……月が綺麗だ」

 

 

 ふと夜空を見上げながら、彼女──T.P.エイト・オリーシュアが呟く。

 満月の光にそっと手のひらをかざした後、ベランダの柵に足を掛け、跳んだ。

 

 風に飛ばされないように頭の上からシルクハットを押さえながら、エイトは夜の明保野市を縦横無尽に駆けていく。

 蝶が羽ばたくようにヒラリ、ヒラリと。高層マンションの上から躊躇いもなく飛び出していった彼女は、高層ビルの屋上から高層ビルの屋上へと、数十メートルある筈の距離をいずれも一回のステップで跳躍していった。

 月明かりと街灯に照らされてはぼやけていくその姿は、まるでこの世のものとは思えないほどに神秘的だった。

 

 そんな彼女が程なくして足を止めたのは、この町で一番の高層建築物であり、名物的な電波塔でもある「明保野タワー」の上だった。

 

 明保野市全体を見渡すことができる展望台の、さらに上の立ち入り禁止フロアに降り立った彼女は、肌寒くも心地良い夜風に目を細めながら、眼下に広がる景色を見下ろして言った。

 

 

「夜の街というのは、星の光のように眩しいよね」

 

 

 異世界の住人「聖獣(フェアリー)」。その存在と友好的に交流するようになって以来、この明保野市は急速に発展している。

 元々賑やかな町ではあったが、こうして上から一望してみるとその発展ぶりがより一層随所に感じるものだろう。

 彼女が耳をすませればこの場からでも町々を行き交う人々の賑わいが聴こえてくる。人間だけではなく、エルフやオーガのような聖獣たちの声もだ。彼らはこの町でみんなが仲良く──とまではいかないようだが、思い思いの時間を過ごしているのがわかった。

 

 あの光の一つ一つに人々が集まっているのだと思うと、夜の街を彩る街灯の光も、夜空に浮かぶ星々と似たようなものなのかもしれない。感傷的な微笑みを浮かべながら、エイトは背後を振り返った。

 

 

「今や文明の光は、あの空の煌めきにも並びつつある……それはとてもロマンチックで──おこがましいことだとは思わないかい? アカツキ・エン」

 

 

 彼女が問い掛けるその先に──一人の青年が姿を現す。

 翠と黄金、二つの色を宿したオッドアイが見据える先に立っていたのは、彼女がこの場所にやってくるよりも早く訪れていた暁月炎だった。

 お互い顔を見たのは、先日彼女が乱入してきた彼の結婚披露宴以来のことである。

 この五年で暁月炎は二十歳を過ぎ、心身共に立派な大人となった。

 濃紺を基調とした落ち着きのある色合いのバトルジャケットは、彼らセイバーズが纏う成人用の正装である。

 

 

「T.P.エイト・オリーシュア……」

 

 

 いずれも人工物による街の光を見て、皮肉と言うより素直な感想を述べたようなエイトの呟きに炎は神妙な眼差しを返す。

 数拍の間を置いて、彼は絞り出すような声で告げた。

 

 

「貴方を……捕まえに来た」

 

 

 

 現役の戦士の中で誰よりも強く、誰よりも多くの異能犯罪者を倒してきた男が今の暁月炎である。悪党の誰もが恐れるその力で、数多の人々を救ってきた。

 そんな彼が不本意さの滲んだ苦渋の表情で、T.P.エイト・オリーシュアの姿を見据えている。

 

「それは、いいことだね」

 

 心なしか少しだけ嬉しそうな目で見つめ返し、エイトはその背中に十枚の羽を広げた。

 片側が黒で、もう片側が白。相反する二つ色の羽を持つその姿は、原初の大天使二人の力を併せ持つ彼女の本当の姿だった。

 サフィラス十大天使さえも凌駕する、この世に二つと無い原初の大天使の本領。

 そんな彼女に唯一対抗し得る存在としてこの場を訪れた炎は、躊躇いの心を隠しながらその力を解放した。

 

 

 ──インフィニティーバースト。

 

 

 虹色の焔が、瞬く間に夜の街を朝へと染め上げていく。

 灼熱の色に輝く焔の鎧が彼の全身を覆い、右手には紅蓮の、左手には蒼炎の剣が生成される。

 背中には虹色の光輪が二つ──∞の字を描く眩い羽が、太陽の如き輝きを放ち続けていた。

 五年前より精度の上がったその力を前に、エイトは感嘆するように言い放った。

 

「流石だね……あれからも、ずっと鍛えていたんだ」

 

 仕事も私生活も、この五年間は非常に多忙な時を過ごしていた炎であるが、自らの力の研鑽を弛めることは無かった。

 その努力を戦う前から見抜いてきた彼女の観察眼に何か安心のようなものを感じながら、しかしポーカーフェイスを保って炎は彼女に問い掛けた。

 

 

「何故、子供たちを狙う?」

「…………」

 

 

 それは、彼がこうして彼女と対峙することになった事実への問い掛けだった。

 

 かつてセイバーズと共に二つの世界を救った英雄、T.P.エイト・オリーシュアは再び暗躍を始めた。

 

 五年前と同じく、異能怪盗として。

 

 被害者は確認されただけでも1000人を超える、世界中の子供たちだ。

 

 子供たちは全員「闇」に関係する力を持つ将来有望な異能使いの卵だった。

 そして五年前と違うのは、彼女に盗まれた異能が返ってこないことである。

 T.P.エイト・オリーシュアが盗んだ異能は、時間が経てば復活する。その認識が根本的に崩れ去ったことで、彼女の存在は誰にも止めることのできない目的不明の危険人物となった。

 

 彼女自身が世間的な人気の高いカリスマ的な存在であることから、今はまだ世の混乱を避ける為にその事実は大々的に公表されていない。

 この世界で唯一彼女に対抗し得る力を持ち、同じ英雄として面識のある暁月炎に特殊任務として命令が入ったのは、そう言った経緯だった。

 あまりにも不審な点が多すぎる彼女の行動に対して、炎はその目的を訊ねる。

 

「俺は貴方を信じている……だから、理由を話してくれ。五年前、誰よりも世界の為に戦っていた貴方が、意味も無くこんなことをする筈が無い。今また人々の力を必要とする理由はなんだ?」

 

 五年前に彼女が異能怪盗をしていたのはあくまでも自身の力を取り戻す為だったからであると認識している。

 であれば、原初の大天使としての力を完全に取り戻した今のエイトにはもはやその必要は無い筈だと。

 そんな彼女が子供たちの異能を奪う理由を──エイトはどこか、悲しそうな目で答えた。

 

 

「……廻り始めてしまったんだ。世界の輪廻が、ね……」

「っ!」

 

 

 言いながらエイトが振り下ろした闇の剣と、迎え撃つ炎の焔の剣が重なり合う。

 打ち付け合った二つの力の波動は明保野市の夜空に広がっていき、星の海に0の字を描きながら拡散していく。

 高まり合った神聖な力のぶつかり合いは、その余波を次元の壁の先にまで伝えるに至った。

 

 

 

 そして──次元の遥か先の彼方にて、それを感知した灰色の星が動き出す。

 

 

 

 まるで二人の力に引き寄せられているかのように、灰色の星は次元の海を泳ぎ進んでいた。

 

 虚無から解き放たれた古き者の影──その存在を人類はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  【フェアリーセイバーズ Nightmare Reincarnation

 

 

 

 

 






 今回の章は10話以上続きそうなので一旦連載に戻します
 一通り終わったらエイト視点になりますが、しばらくはsideメアでいきます
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