TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 導入として実際便利。


劇場版特有の急に湧いてくるテロリストたち

 異能新世代。

 

 五年前に結ばれた異世界フェアリーワールドとの和平条約を機に、マスメディアなどは今の時代をそう呼ぶようになった。

 実際、この明保野市における日常風景は、それまでと比べて大きく変わったと言えるだろう。町の中には人間だけではなく聖獣──フェアリーと呼ばれる異世界の住人たちが闊歩するようになり、彼らとの交友により人類の異能研究はこの数年で飛躍的に進んでいる。

 異能社会においてはまさにブレイクスルーと言える、転換期を迎えた時代である。その恩恵は一般社会にこそ大きく、若年層の異能使いたちの質も一昔前とは比較にならないほど高まっていた。

 

 そんな新世代の日常であるが、町は常に平和そのものというわけではない。

 

 寧ろ転換期を迎えたこの時代だからこそ、異能を行使する治安維持部隊を必要とする「悪」の存在は絶えなかった。

 

 

 ──まさに今、町中で起こっている反聖獣派のテロリストによる暴動がそれである。

 

 

 時刻は朝の九時。

 週明けの平日朝に起こったその活動は、明保野市にあるフェアリーワールド大使館を狙った大胆不敵な犯行だった。

 事件を嗅ぎつけたセイバーズが即刻出動するものの、テロリストたちは中の職員やフェアリーワールドの要人を人質にしている為、迂闊には手を出せない。状況はテロリストたちが立て篭もった大使館を複数人の戦士たちが警察と共に包囲し、睨み合った状態で膠着していた。

 

 被害者たちにとって不幸だったのは、この日のセイバーズの機動部隊には主力である暁月炎と力動長太が不在だったことだろう。

 或いはテロリスト側がその情報を事前に掴んでいたのかもしれないが、今明保野の町は音に聴こえた救世主たちの庇護を離れていた。

 

 

 

「我々が求めるのは、我が国からの聖獣たちの即時退去である! 人間の世界の秩序は、人間によって築き上げられるべきなのだッ!!」

 

 

 大使館の中では、この施設を制圧したテロリストの首魁が威圧的な態度で叫んでいる。

 その言葉通り、反聖獣派を公言する彼らの要求は聖獣たちの退去である。

 五年前の出来事を機に、政府はフェアリーワールドとの関係を共存路線に舵を取った。その結果が、多くの聖獣たちの姿を見掛けるようになった今の日本だ。

 中でも人間の異能と似て非なる強力な力、「聖術」の存在や高位聖獣たちの持つフェアリーワールド独自の知識は、異能社会にとって莫大な恩恵をもたらし、新たな時代を告げる光となった。

 

 ──しかし光が強まれば、そこには陰が生まれる。

 

 聖獣たちの協力で異能の研究が進むほど立場が悪くなる者もいれば、そもそも人間以外の知的生命体の存在を許容できない者もいる。

 彼らのようなテロリストはまさしく後者であり、常日頃から「聖獣は人間の世界を壊す!」と異能新世代の在り様を危険視していた。

 

『……それは、君たち全員の総意かな?』

「そうだ! 仮初めの平和に酔いしれる愚か者共には思い知らせねばならん! 我々は違う存在なのだとッ!」

 

 実際、五年前まではあちらの世界から迷い込んできた聖獣たちが人々に危害を与えたという記録が散見されている。

 例外はいるが、基本的に聖獣は人間よりも強い。

 かつての戦いは元々「PSYエンス」という人間側の行為が発端になったものではあるが……かの「コクマー来訪事件」が代表するように、力のある聖獣が天罰を下せば大勢の人々が脅かされかねないのは事実の一つではあった。

 

 しかし。

 

「……いつの時代の価値観だよ……」

「何か言ったか!?」

「…………」

 

 人質の一人が、嘲笑を浮かべて呟く。直後にその青年はテロリストの仲間に睨まれたことで口を噤んだが、大使館の大広間に集められた他の人質たちも同じように、首魁の主張に対して呆れ顔を浮かべていた。

 ヘイトスピーチの対象である聖獣たちはもちろん、人間たちもである。

 善良な聖獣たちと人々の尽力によって、今や大半の者がお互いを良き隣人として受け入れている。

 この大使館もまたそんな両世界の友好の証の一つであり、あちらの世界にも人間世界に対する同様の施設があった。

 

 時代遅れの思想犯たちによる無謀なテロ──この場にいる誰もがそう思っていたところである。

 

 しかしこのテログループには、厄介なことに並外れた力があった。

 特に首魁の持つ「茨の鎖」の異能は強力で、捕らえた相手の力を封じ込め、弱体化させる厄介な力の持ち主だった。護衛の網を掻い潜った彼が、その鎖でフェアリーワールドの要人を捕らえたのがこの事件の始まりである。

 

「ふん……親善大使殿の護衛にしては、手緩い守りだったな!」

『ぐっ……大使様、申し訳ありません……』

 

 怪しい覆面で顔を隠したメンバーたちも皆優秀で、軍人のような統率された動きから大使館はものの数分で占領されてしまった。

 何より捕らわれたフェアリーワールドの要人があちらの世界からの親善大使であったが為に、人質に危害が及ぶことを恐れ護衛たちが思うように動けなかったのが痛手であった。

 

『なら、その程度の存在に過ぎぬワシらはもはや、お主の言う「人類の脅威」にはならんのではないかな? ワシ自身、あっさりと拘束されたわけでもある』

「都合の良いことを言う! 貴様らとて弱き人類を恐れ、排除しようとしていたではないか!」

『ううむ、これは困った……』

『大使様……』

 

 少しバツの悪そうな表情になりながら、茨の鎖に拘束されたコボルド族の老人が呻る。

 フェアリーワールドからの親善大使である彼は、第1の島「エヘイエー」からの使者であり、サフィラス大天使の王ケテルの部下でもある為、五年前に聖獣側が起こそうとしていた計画も知っていた。

 それ故に彼としてはテロリストの首魁の言葉もあながち全てがデタラメと切り捨てるわけにはいかず、興奮する彼にどう対処すれば良いか判断しかねていた。

 

 コボルド族の親善大使はこの状況を抜け出す為に必要な、今この場で最も穏便な方法を熟考する。

 その結果、彼は自分の為に今すぐにでもテロリストたちに飛び掛かろうとする護衛たちを制しながら、今は大人しく無力な人質を演じることにした。

 

 と言うのもこの町は、かの「王」が見込んだ救世主たちが守護する町だからだ。

 

 であればこの程度の状況、こちらが手を出すよりも被害の少ないやり方で切り抜けてくれるだろうと──そんな信頼が彼の胸にはあった。

 

 

 そしてその信頼に──彼女らは応えた。

 

 

 はじめに起こった異変は、テロリストたちの足元を小さな何かが横切ったことだった。

「ウサギ……?」誰かがその物体を見て呟いた瞬間、突如として出現した黒いウサギが天井まで高く跳び上がり、爆ぜた。

 

 爆発したのである。それこそ爆弾のように。

 

「っ、何事だ!?」

「ボス! 突然現れたウサギが爆発しました!」

「見ればわかる!」

 

 爆発したウサギは、もちろん動物のウサギではない。ウサギにそのような能力は無いし、爆発したことによってぶち撒かれたのは臓物でもなかった。

 

 煙幕である。それも、異能による闇の煙幕だ。

 

 ウサギ型の黒い物体が爆発した瞬間、早朝にも拘らず大使館の大広間を一瞬にして暗闇に染め上げた。

 

『ふむ……これは、異能か』

 

 突如として視界が真っ暗になったことでテロリストたちは狼狽え大使館内が慌ただしくなるが、夜目の利くコボルド族である親善大使はその暗闇の中でも問題無く室内の様子が見えていた。

 

 そんな彼は、闇の中でこちらを見つめている一人の少女の存在に気づいた。

 

 目が合った少女の方も、彼が自身の存在に気づいていることを理解しているようだ。彼女が人差し指を口元に当て、「しーっ」と黙っているようにジェスチャーすると、親善大使は大人しくその指示に従うことにした。

 

 ──さて……新世代の救世主のお手並みを拝見させてもらおうかの、と。今回のテロの被害者にしては些か落ち着きすぎた様子で、彼は流れに身を任せることとする。

 

 そしてその判断は、すぐに正しかったことが証明される。

 

 一瞬だけ浮遊感を感じた次の瞬間、親善大使の身柄は逞しき二の腕によって抱き抱えられていたのだ。

 この身を拘束していた忌々しい茨の鎖も、気づいた瞬間には綺麗さっぱりと消え去っている。

 

 断ち切ったのだ。風よりも速く繰り出された──青色の一閃によって。

 

「なっ……」

「貴様、人質を!」

 

 数秒後、闇の煙幕が消えたことで人間の目にも周囲の様子が見えるようになったところで、ようやくテロリストたちが状況に気づいたが……もう遅い。

 コボルド族の親善大使の身柄はテロリストの首魁がいた場所から遠ざかっており、周囲には彼の護衛たちがその名誉を挽回するようにガッチリと警備を固めていた。

 

 

「ナイスな手際だったよ、ムキムキウサギ1号!」

 

 

 親善大使を抱き抱え、猛スピードで彼らの元に駆け戻ったのは聖獣から見ても中々にユニークな物体だった。

 愛くるしいウサギの顔の下に、身長2mを超すオーガのような屈強な肉体を持つ闇の人形。

 少女の可愛らしい声から「ムキムキウサギ1号」と呼ばれたその物体は、獲物を狩る猛獣のような笑顔を浮かべながらツインテールの少女とハイタッチを交わし、安全圏に親善大使を下ろした。

 

 

『変わった力を使うのう、お嬢さん。だが、とても洗練されている』

「あ、わかります? 特に1号は私のお気に入りなんですよー」

『ホホッ……最近の人間怖っ』

 

 

 闇の「異能」で作られた自律行動をする人形。一目見てそれが並外れた技量の賜物であることに気づいたコボルド族の親善大使は、その人形を使役することで見事自身をテロリストの手から奪還してみせた少女に畏敬の念を払う。

 その異能使いは、先ほど闇の煙幕の中で目が合った少女だった。

 

「ご無事ですか? 怪我は……大丈夫そうですね」

『ああ、手荒な真似をされる前に来てくれて助かったわい』

「いえいえ、それが私たちの使命ですから。……って言うか、凄い落ち着きぶりですね……やっぱりフェアリーワールドの親善大使様って肝が据わってますね」

『こんな立場じゃ。この程度の修羅場には慣れておるよ』

「ほえー……」

 

 この状況でも落ち着いた様子を見せる親善大使の姿に彼女は驚いていたが、彼の方からしてみれば鍛えた使い手たちすら尻込みするこの状況においてごく自然体であっけらかんとした顔をしている少女の姿にこそ感心していた。

 彼女の顔は知っている。実際に対面したのはこれが初めてだが、有望な若手異能使いとして彼女はこの町では有名な存在だったのだ。

 その姿にテロリストたちが驚き、名を呼んだ。

 

 

「貴様は闇雲アリス! 貴様……民間人が何故ここに!?」

「私、嘱託隊員。普段は学業優先だけど、やむを得ない事情がある時は任務に参加できるんだよねー」

 

 

 少女──闇雲アリスは意表を突かれた彼らの様子を見て得意げな顔を浮かべながら、警察手帳にも似た「セイバーズ」の認定証をひらひらと見せびらかす。

 そんな彼女の姿は今まさに登校中だったことがわかる明保野学園の制服を身に纏っており、なおさら戦場へのミスマッチ感が拭えなかった。

 

「セイバーズめ……! 子供を戦わせるとはどこまで傲慢で腐った組織なのだ!」

「ああ、そういうのいいから。ってか、貴方がそれを言わないでくれる?」

「ぬぅ……!」

 

 未成年を危険な場所に送り出すセイバーズに対して憤る──と言うよりも、どこかそう言った主張をする自分自身に酔いしれているような様子のテロリストの首魁に対して、アリスは明るい口調に反して冷え切った氷のような視線を返す。

 年相応の小柄な筈の姿が放つプレッシャーにたじろぐ彼に向かって、アリスは問い掛けた。

 

「でもオジサン、私に構ってていいの?」

「なに?」

「もう貴方の下っ端、みんな伸びてるよ」

「──!」

 

 盤面は既に、固まっていた。

 噂以上の手際だと、優れた嗅覚で現在の状況を正確に把握していたコボルド族の親善大使が、心の中で惜しみない拍手を送った。

 

「この場所が私の暗闇に落ちたのが十秒。貴方の意識が私に向いていたのが八秒……そんなにあれば、制圧するのは簡単だよ」

「何……!? まさか……っ」

 

 ピッと立てた指を丁寧に折り曲げながらそう語るアリスの言葉に、テロリストの首魁がハッと何かに気づき、慌ただしく周囲を見回す。

 

 その瞬間、先ほどまでその場を威圧的に包囲していた彼の配下たちが──十人はいた筈の武装兵たちが糸の切れた人形のように次々とその場に崩れ落ちていった。

 

 外を守っていた配下たちも含めれば、総勢五十人にも上る人数がいた筈である。いずれも彼と思想を同じくする腕利きの異能使いたちであったが……それが今、全て薙ぎ倒されたと言うのだ。

 

『……! あのお方は……』

 

 信じがたいその光景に人質たちさえ騒つく中で、コボルド族の親善大使はその人物の気配を感知した。

 

 ──瞬間、ヒラリと制服のスカートを翻しながら、青色の髪の少女が降り立つ。

 

 白い羽根を舞い散らして広がっていく八枚の翼は、誰もがその姿を「天使」と認めていた。

 

 

「ね? メアちゃん」

「アリス、喋りすぎ」

 

 

 メア──闇雲アリスからそう呼ばれた少女は、右手に携えた青色の細剣を構えながら、威風堂々たる姿でテロリストの首魁と対峙する。

 速すぎて見えなかったが、親善大使を縛っていた鎖もあの剣によって断ち切られたのだ。音も無く。疾風の如く。

 

 そんな彼女のポニーテールに結ばれた髪は、次の瞬間には混じり気の無い純白の色に切り替わっていた。

 その色を認めた瞬間、親善大使の中で一目見た時から彼女に対して抱いていた疑念が、確信に変わった。

 

 

『ああ、ここにいらしたのですね……姫』

 

 

 第1の島エヘイエーの守護天使にして、フェアリーワールドの光を統べる王。

 彼女の髪の色も、神聖なるオーラも……フェアリーワールドの要人たる彼が忠義を尽くす王「ケテル」と、ことごとく一致していたのである。

 

 


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