TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 10話ぐらいと言いましたがもっと伸びそうです。


劇場版特有のカーチェイスパート

 その夜見た悪夢は、自分の存在が両世界の者たち全てから否定される夢だった。

 

 人間たちからは「人間のフリをした化け物」と一斉に罵られ、聖獣たちからは「天使様のフリをした紛い物」と拒絶される。

 庇ってくれる仲間は誰も居らず、知人や友人、家族さえもメアの存在を否定する。

 どこへ向かっても彼女を受け入れてくれる場所は無く、孤独な少女は果てしなく続く暗闇の世界を彷徨っていた。

 

 ──違う。メアの知っている人たちは、こんなことを言わない。

 

 それが出来の悪い悪夢であることを、メアは今この瞬間もはっきりと自覚していた。

 メアが出会った者たちは皆、優しい人ばかりだ。

 捕まえなければならない悪いことをする人も確かにいるが、それは彼らが自らの悲しい出来事や度重なる不安によって、ほんの少しだけボタンをかけ間違えてしまっただけなのだと思っている。

 だからメアはどんな人にも感情がある限り、優しい心はあるのだと頑なに信じていた。

 

 そんな彼女の思いを嘲笑うように、どこからともなく「声」が聴こえた。

 

 

『君は恐れている』

 

 

 ──違う。

 

 

『人に優しいのも、人を救うのも、君自身が周りの人たちを恐れているからだ』

 

 

 ──違う! 

 

 

『人間でも聖獣でもない自分は、せめて優しくなければ誰からも愛されないと思っている。可哀想なメア……』

 

 

 

 暗闇の夢の中でメアの前に現れたのは、現実の世界では会った覚えのない灰色の髪の少年だった。

 身長は五年前のメアと同じぐらい小さく、その姿はほとんど人間の子供のように見える。褐色の肌の、中性的な容貌の少年だ。

 しかし彼の特徴を表す二つの要素が、一目で彼の異様さを表していた。

 

 宝石のように美しい色をしているのに、一片の輝きも放たない銀色の瞳。

 そして──背中から生えている、カラスのような二枚の「黒い羽」だ。

 

 彼の羽はT.P.エイト・オリーシュアが持つ片側の羽と、同じ色をしていた。

 整った容貌と背中の羽という点だけを抜粋すれば、フェアリーワールドにいる天使のように見えるだろう。

 しかしメアは一目見た時から、彼が聖獣とは根本的に違う存在であることを理解していた。

 

 

『僕は君を理解しているよ。僕たちはあの時まで、ずっと一緒だったんだから……そうだろう? メア』

 

 

 ──……貴方は……

 

 

 灰色の髪の少年は伏し目がちになりながら、小さく息を吐く。

 メアの姿を見つめるその眼差しは、酷く悲しげに見えた。まるでこの世の全てに絶望しているかのような光の無い目は、かつてメアたちが対峙したサフィラス十大天使の王ケテルを彷彿させる。

 

 

『君は君以外の存在を買い被りすぎている。人間も聖獣も大した存在じゃない。みんな自分勝手な存在なのに、僕たちだけが否定される。今の世界に、僕たちの居場所は無いんだよ』

 

 

 ここ最近、メアの見る夢に彼が出てきたのはこれで何度目になるだろうか。

 メアは名前も知らない少年の声に対して、何故か親しみを感じていた。

 まるで彼が、「もう一人の自分自身」とでも言うような、奇妙な親しみだ。

 そんな彼がメアの心の中を代弁するように語る言葉は……受け入れたくはないが、当たっている部分があった。

 

 聖獣でも人間でもない、周りと違う自分。周囲を取り巻く者たちの優しさを感じるほど、そんな自分がここにいて良いのだろうかと──ふとした時に思うことがある。

 この五年の間で少しずつ乗り越えていったと思っていた自分自身の存在に、メアは時折どうしようもない孤独感を感じていたのだ。

 夢の中で寒さに震える幼子のように蹲り、自らの身体を抱きしめる彼女に向かって、黒い羽を持つ灰色の少年は続けた。

 

 

『君が優しいと思っている人たちだって、誰も本当の君を理解していない。ダァトだって……いや、彼女は違うか。確かにあの人だけは、唯一本物の天使と言えるだろう。でも、だからこそ……』

 

 

 やめて……と、力無く吐いたその言葉を彼は聞き入れなかった。

 

 

 

 

 

『君は決して、ダァトにはなれない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが自分を呼び掛ける声が大きくなるほど、少しずつ意識が戻ってくる。

 

「メアちゃん!」

「……っ!?」

 

 やがて声がはっきり聴き取れるようになった瞬間、メアはその場から跳び上がるように立ち上がった。

 その行動にビクリと肩を震わせたのは、先ほどまで隣から彼女の名前を呼び掛けていた闇雲アリスだった。

 

「ど、どうしたのメアちゃん急に? すっごい怖い顔……」

「……え?」

 

 よほど酷い形相だったのだろう。立ち上がったメアの姿を恐る恐る窺うアリスの姿は、下級生だった頃よりもしおらしく見えた。

 そんな彼女の姿を見て、メアはハッと我に返り再びシートに座る。

 今自分は、何をするつもりだったのか……? 右手には髪から抜き取った青色のリボンが、武器化する直前の状態で握られていた。

 

「……ごめん、アリス。ちょっと寝ぼけてた……」

「そ、そう……大丈夫? 疲れてる? それとも「この人」に尾けられていたの怒ってる?」

 

 今のメアは普段のパッチリとした目つきとは異なり、どこか疲労感が滲んでいる様子だった。そんな彼女の様子を気遣うアリスの言葉に謝りながら、メアは両目のまぶたを猫のようにごしごしと擦って意識の覚醒を促した。

 

 ……どうやら自分は、人前で一瞬だけ眠ってしまったようだ。ようやく状況を認識したメアは、沸き上がってきた羞恥心にほんのりと頬を赤くしながら、アリスに「この人」と呼ばわりされた目の前の青年へと頭を下げた。

 

 

「翼さんも、すみません。せっかく会いに来てくれたのに、ぼーっとしてしまって……」

「いいよ。色々と忙しい身の上だろうし、お嬢さんの言う通り疲れが溜まってきてるんだろう。それまで疲れを感じていなかったのに急にピークが来るのは、俺も経験がある。こんな風に呼び止めておいてなんだが、今日は帰ったら早めに寝とけ」

「……はい。そうします」

 

 

 時は、フェアリーワールド大使館を狙ったテロ組織の事件を二人の少女が解決した日の翌日。

 この日の授業も無事終了した今、学園を後にした二人がいるのはとあるファミリーレストランだった。

 女子高生らしい小洒落た店ではないが、道行く人に「ファミレスと言えば?」と聞けばトップ3には名前が出てくるであろう定番の店である。

 二人が今そこにいるのは、元々下校時に外食していく予定があったからというわけではない。全ては帰り道に遭遇することになった、メアの義兄の()同僚に誘われたのがきっかけだった。

 その遭遇経緯を思い出しながら、闇雲アリスが嬉しそうに言う。

 

 

「しっかし驚きましたよー! 私たちを尾けていた変態かと思ったら、まさかあの風岡翼さんだったなんてー!」

「……俺としてはバレるとは思ってなかったんだけどな。寝不足のくせに、一体どんな感知能力してんだか……イイ蹴りも貰っちまったし」

「ええ、パンチラも喜べないえげつないハイキックでしたね」

「それな」

「やめて……やめて」

 

 くすみがかった長髪の青年の名前は「風岡翼」。五年前にメアと暁月炎、力動長太と共にフェアリーワールドの戦いに赴いた英雄の一人である。

 あの戦いの一年後、今から四年ほど前に彼はセイバーズを脱退し、元々持っていたもう一つの顔である私立探偵に専念することとなった。

 表向きの理由は「元々探偵業に専念したかったのと、聖獣たちとの和平が成ったことで自分が戦う必要性が薄れたから」というものであったが……メアを含む彼をよく知る者たちは「真の理由」が別にあることを知っている。だからこそ彼らは、彼の優秀な能力を惜しみながらも比較的円満な形でセイバーズの脱退を受け入れたのだ。

 

 そんな彼とメアが年に会う回数は、多くても年に数回か一年間全く会わないこともある。

 最後に会ったのは数ヶ月前の義姉と義兄の結婚式のことである為最近のことではあったが、その日はT.P.エイト・オリーシュアの帰還という最大のサプライズがあった為お互いに余裕が無く、今のように面と向かって話し合う機会が無かったのが記憶に新しい。

 

「ま、元気そうで良かったよ。しかし、時の流れは早いねぇ……あの小さかったメアちゃんが、随分と立派になってまあ」

「翼さんだって、まだ二十五歳でしょう。そんなこと言ってたらお父さんに怒られますよ?」

「ははっ、そいつは勘弁だな。俺だって、明宏さんにまたどやされるのはごめんだ」

 

 五年前の戦いのこともあり、年の離れた戦友二人は昔話に花を咲かせながらファミレスの一スペースで談笑する。和やかな二人の様子を見れば、つい先ほど二人の間でちょっとした行き違いがあったことなど到底想像できないだろう。

 

 彼との再会は、メアにとって思いがけない形となったものだ。

 下校中、誰かに尾行されていることに気づいたメアが咄嗟にアリスを背中で庇いながら前に立つと、その瞬間路地裏から何者かが飛び立った。

 常人では目で追えないほどのスピードで逃げ出した不審者を追い掛けると、メアはケセドフォームを駆使した壮絶なデッドヒートの結果、取り押さえる際に勢い誤って蹴りを入れてしまったのが二人の再会の一部始終である。

 遅れて合流してきたアリスからは、「先輩、やりすぎ……」と昨日の意趣返しのようなお叱りを頂いたものである。

 

 その直後に不審者の正体が風岡翼であることが判明すると、彼の提案により手近なファミレスに寄って話をすることになったのがこれまでの経緯だった。

 

 メアとしては何とも気まずい形の再会になったが、「元をと言えばコソコソストーカーみたいなことをしていた俺が悪い」と翼が先に頭を下げたことでメアも「わ、私こそやりすぎてごめんなさい!」と頭を下げ、行き違いのあった二人の和解は速やかに成立した。

 歳下が相手だろうと潔く自分の非を認める翼の姿は立派な大人のようで……しかし女子高生二人を尾行していたのは紛れもない事実である為、立会人となったアリスはどう反応すれば良いのかと困惑していたものだ。

 

 風岡翼が一つずつ奢ってくれたメロンジュースを一口飲んだ後、メアは花の咲くような笑顔で彼に問い掛けた。

 

 

「で、なんで私たちのこと尾けてたんですか?」

 

 

 その顔は同級生以下の男子どころか成人男性も見とれるほど綺麗なものだったが、見る者が見れば威圧的にも感じる笑顔だった。

 もちろん彼女は尾行されたことを怒っているわけではなく、その笑顔の裏に隠している感情は何も無かった。

 かつての戦友との再会を素直に心から喜んでいる笑顔は、しかし彼にとっては良心の呵責的に効果的だったようで、観念したように苦笑して答えた。

 

 

「……依頼でT.P.エイト・オリーシュアを追っている。彼女が闇雲アリスの異能を狙う可能性が高いと、お嬢さんの周りを張り込んでいたんだ」

「え? エイトさん? 私を? ???」

 

 

 その顔に複雑そうな感情を宿した彼の返答を受けて、薄々予想はできていたメアは「そう……」と納得する一方で、事情を知らないアリスは何がどういうことだと困惑していた。

 そんな彼女らに対して、翼は不可抗力とは言え年頃の少女二人を尾行することになった罪悪感からか洗いざらい事情を語ってくれた。

 

 彼が今、ある依頼主からエイトの捜索、または捕縛の依頼を受けていることを。

 

 これまでの犯行の傾向から彼女が現れる場所を推理した結果、そう遠くない日に闇雲アリスの元へ彼女が現れる可能性が高いということを。

 

 

 

 

 

 

「……エイトさんが異能怪盗に戻った? 闇系異能使いの子供を集中的に狙っている? ……そっか……ファンクラブ会員の間で流れてた噂は本当だったんだ……」

 

 

 翼が語ったことで初めて異能怪盗T.P.エイト・オリーシュアの暗躍を知ることとなったアリスは、少なからずショックを受けている様子だった。

 誰よりも深く、エイトに対する尊敬を声高にしていた彼女だ。彼女が再びセイバーズや警察に狙われる身の上となったと聞いたら、心中穏やかではないだろう。

 

「アイツがどういう理由でまた動き出したのかはわからないが、闇の異能使いの子供が目的ならお嬢さんのところにも来る可能性は高い。いや、既に接触しているんじゃないか? 匿っているとは思わないが」

「し、してませんよ!? いきなり家に来て一緒に海に行ったこと……はありますけど、あの時は夏でしたし」

「……マジで会ったことあるのか」

「あ」

 

 アリスの異能「闇の呪縛」は、闇に関連する異能の中でもトップクラスの力を誇る。確かにこれまでエイトに異能を盗まれた子供たちにそのような傾向があるのだとしたら、彼女をターゲットにする可能性は十分に考えられた。

 翼が問い詰めるとあっさりボロを出して「これちょっと私らヤバいかも……」と焦るアリスを見て、メアは彼女を安心させるように寄り添ってあげた。

 

「大丈夫だよアリス。翼さんも上の人たちも、エイトさんのことを信じてる。捕縛って言うのは本当に最後の手段で、エイトさんが目的を話してくれたら命令も無くなる」

「……ま、アイツが動いたってことは間違いなく何かあるんだろう。おあつらえ向きに、海外には「邪悪の樹」なんていう不気味なもんが生えてきたしな……理由次第では依頼も撤回されるかもしれない。盗んだ異能を全部持ち主に返すのは前提だが」

「……そうですか……」

「って言っても、俺たちが全力で挑んでも大人しく捕まってくれるタマじゃないけどな」

「それもそうですね!」

「急に元気になったな」

「そう考えたら寧ろこの状況、アリかも……私に会いに来てくれる? また盗まれる? 盗まれちゃう? きゃー!」

「……おいメア、大丈夫なのかこの子セイバーズで働かせて」

「アリスは頼りになる仲間だよ。……エイトさんが絡まなきゃ」

「マジかよ……」

 

 重大な事実を知ったアリスに対して、必要なら「翼さん、アリスを威圧しないで!」と庇うつもりでいたメアだが……九歳の頃からエイトをキメている親友は思っていた以上にタフなメンタルをしており、その心配は杞憂に終わった。

 

 ──しかし、アリスのところに彼女が来るかもしれないというのは、メアからしても重大な情報だった。

 

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