TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
異能怪盗T.P.エイト・オリーシュアの活躍によって、各地の被害は奇跡的に抑えられた。
テレポーテーションで現れた彼女が、次々に異形──「グレイスフィア」を駆逐していったのである。
場所、距離を選ばず自由自在に転移する能力を持つ彼女はその力で縦横無尽に駆け巡り、ゲートから舞い降りたグレイスフィアの魔の手から日本のみならず世界中の子供たちも救ってみせたのだと言う。
この数日間、子供たちから異能を盗んでいた彼女が、今度は未知なる敵の襲撃から子供たちを守った──その情報が一同の元へ映像付きでもたらされた時、やはり彼女は味方だったのだとメアは確信を抱いた。
そして一つ、つながった話がある。
アリスの時と同じように、ゲートから現れたグレイスフィアは意図して闇に纏わる異能使いの子供を優先的に狙っていたと言う。
異能怪盗として行動を再開したエイトが狙っていたのも、同じく闇の力を持つ子供たちだった。
それらの共通点を並び立てた瞬間、メアと翼、明宏が同じ仮説を立てた。
T.P.エイト・オリーシュアはグレイスフィアの脅威から子供たちを遠ざける為に、先んじて彼らの異能を盗んでいたのではないか? ──と。
エイトとグレイスフィアの狙いが闇の異能使いの子供に限定されているのだとすれば、偶然にしてはあまりにもできすぎている。
グレイスフィア、エイトの目的、邪悪の樹……それら全てが一つに結びついているように考えるのが自然に思えた。
もちろん、彼女に対する信頼ありきで立てた仮説ではあるが、T.P.エイト・オリーシュアという天使の性格を知る者たちからしてみればそうとしか思えなかった。
その場合、彼女は異能怪盗として活動を再開する以前から、未知なる敵グレイスフィアの来訪を予見していたことになる。
そのことも含めて真実を確かめるには彼女に直接会って聞いてみるのが最良の手段であったが、そこにはふらっと現れては何処かへと消え去ってしまう怪盗故の神出鬼没さが問題だった。
しかし、今この場には誰よりもエイト──ダァトのことについて詳しい彼女の姉カロンがいた。
それは一同にとって、何よりも貴重な情報源だった……のだが。
「……なあアリス、お前あの人の言ってることわかるか?」
「ぜんぜんわかんない。どうしよう……エイトさんも時々言ってること難解だったけど、カロンお姉様はもっと凄い……」
彼女が語る情報の数々はいずれも両世界にとって重大な話──の筈なのだが、その内容を理解するには彼女の説明は些か難解で、独特な言い回しとテンポもあってか上手く頭に入りにくかった。
『古の大戦により、闇の中に微かな光が生まれた。一つは深淵のクリファ……そしてもう一つが、グレイスフィア。彼らは闇にして光と言えるが、正確にはそのどちらでもない灰色の存在だ』
……具体的にはこんな感じである。
頭の回転が早い司令官の明宏と探偵の翼は、彼女の言葉を頭の中で自分の解釈で上手く噛み砕いている様子だったが、まだ若く社会人ほど対人経験が多くない闇雲兄妹はヒソヒソと忌憚の無い感想を述べていた。
それは、彼らの同級生であるメアも同じ意見である。
本当に申し訳ない。本当に申し訳ないのだが……カロンの説明は下手だった。それはもう、とてつもなく下手だったのだ。
だがそれを、彼女に対して面と向かって突きつけることができる者はここにはいない。この場にいる者たちはいずれも悪徳権力者にも物怖じしない猛き精神を持つ勇敢な者たちであったが、二つの世界で最も神に近い存在──それもすこぶる善人である彼女が相手となると、一同も反応に困りながらも受け入れるしかなかったのである。
そんな彼女を見て、メアが少しだけ頬を弛緩させる。
「ちょっと親近感」
「えっ?」
「私も話すのは、あまり得意じゃないから……」
「あー……時々レベル高いこと言い過ぎて、マスコミさんたち困らせることあるもんねメアちゃん。そっか、なんか既視感あると思ったらそれか」
他人のことを言えないからこそ、ほっこりする気持ちがある。
さらに言えば、わかりにくい言い回しを頭ごなしに否定せず、精一杯相手に寄り添って理解しようとしている明宏や翼の姿勢もまた、喋り方がたどたどしかった頃のメアが話している時の彼らの様子と似ているように見えた。
幼い頃のメアを知らないアリスも、そんな二人の姿にはどこか共通点を感じたらしく、カロンに聞こえないように小声で問い掛けてきた。
「お母さん、なんだよね?」
友人として、アリスも気になっていたのだろう。
メア自身も彼女に対して深く問い詰めたい気持ちはあったが、原初の大天使にして世界樹サフィラの意思という、サフィラスの王ケテルとは違った意味で大きすぎる存在に対して、どう声を掛けたら良いのかわからなかったのだ。
だからこそ、自分自身の気持ちを口に出す機会をくれた親友の問いかけにメアは感謝した。
「……私が天使だったら、そうなるのかな。フェアリーワールドの天使は世界樹サフィラから生まれる存在で、カロン様はその世界樹そのものみたいな存在だったから。そういうつながりになっちゃう」
「なっちゃうって……なりたくないの?」
「……わからない……」
人間で言うところの遺伝子的なつながりとは違うが、天使の生誕過程で言えば世界樹のカロンと世界樹で生まれたメアの関係は、確かに親子と呼んで差し支えない。それは世界樹について特に詳しい知識を持つ理解の大天使ビナーも言っていたことである。尤も彼女含むケテル以外の大天使たちはカロンではなく、自分たちの力の起源であるダァトの方こそを母として認識しているようだったが、姉である彼女が同等以上に偉大な存在であることは間違いなかった。
「あの人のこと、まだよく知らないのもそうだけど……恐れ多すぎて、ピンと来ないのが正直な気持ち」
「なるほど……」
例えるなら昨日、メアのことを天使の仲間だと思い込んでいる聖獣たちから「姫」と言われた時と、似たような心情である。
決して嫌な気はしないし、それが客観的な評価だと言うのであれば誇らしく思う気持ちも確かにあるのだ。
だが本当にそれでいいのかと……自分がどちら側の存在なのか、どこにいるのが本当に正しいことなのか……時が経つ度に、迷いがぶり返している自分がいた。
そしてそれを贅沢な悩みだとわかっているからこそ、メアは誰にも相談することができないでいたのだ。
「色々複雑なんだな。身内にとんでもなく優秀な奴がいる気持ちなら、オレもわかるけど……」
「エイトさんの姪になるんだから、もっと堂々とすればいいのにねー」
「あっそうか……姉の妹の子だからそうなるのか、エイトさんから見ると」
……本当に、贅沢な悩みである。
これを悩みだと人前で言えば、多くの者たちから怒られ、羨ましがられるだろう。
メアは贅沢な自分に対して自嘲の笑みを浮かべながら、今も自らの先鋭的なボキャブラリーで明宏たちと情報交換を行っているカロンの姿を見た。
今後はグレイスフィアという新たな敵について、必要な情報はこちらが調べるまでもなく彼女が教えてくれる筈だ。
そしてそれに対して最適な作戦を司令官が立案し、機動部隊が対応するのがいつものセイバーズである。
……合理的に考えてみると、メアがこの場にいる必要は既に無くなっている気がした。
アリスとカケルも、ここにいればどこよりも安全だろう。
そう思ったメアは彼女の方から視線を外すと、踵を返して会議室出口の扉に手を掛けた。
「……ゲートの様子を見てきます。町の人たちの避難状況も気になりますし、ここは皆さんにお願いします」
「それは助かるが……いいのか?」
「いいんです。私は今、私にできることを頑張ります」
高速で空を飛び回ることができる異能使いは、強力な異能使いが続々と台頭しているこの新世代においてもなお希少な存在である。暁月炎と力動長太が海外出張で離れている今、この町では光井メアただ一人だった。
緊急事態の今、その足を無用な場所で遊ばせておくわけにはいかない。メアはそう思った。
思い込むことにしたのだ。
『あ……』
情報収集にはこの場にいる者たちだけで事足りると判断したメアは、逃げるように会議室を後にした。
突如として出現して以来、明保野市に佇んでいる高さ1000メートルを超す「邪悪の樹」の姿は、出現当初の状態と比べて特に変わっていなかった。
……尤も、メア自身も本当に、自分が見に行ったところで何かが変わっているかもしれないと思っていたわけではない。
カロンが快く本部へと同行し、敵の説明に時間を費やしてくれている時点で、しばらくの間この町のゲートから再び敵が現れることはないだろうというのがメアの正直な考えだった。
町の人々の避難状況についても同じである。事件に慣れている──と言うと些か不謹慎だが、不測の事態に避難する市民たちも、彼らを誘導する者たちも皆手慣れたものであり、空から気配の動きを探ってみた限りでは逃げ遅れた者も、混乱に乗じて迷惑行為を働くような者たちも見当たらなかった。
特にメアの助けが必要な様子はなく……有り体に言えば、彼女の行動は無駄足だった。
それどころか、メアがいることで寧ろ避難の邪魔になってしまうぐらいだった。
現在、学園の制服姿のまま本部を出たメアは純白の羽を広げて明保野市の空を巡回している。
そんなメアの姿を見かけた人々は、多くの者が足を止めてこちらを注視してきたり、何人かは何故か真下の位置まで近寄ろうとしてきたものだ。
その為、メアが良かれと思って避難誘導を手伝おうとすれば、近づけば近づくほど人の列が滞ってしまう結果となった。
「邪魔しちゃった……」
こちらに対して手を振りながら声援を送ってくれるのは嬉しいのだが、今の状況においては不適切である。警察や他のセイバーズ隊員にも申し訳なくなったメアは、そこからも逃げるように飛び去っていった。
そうして一頻り町の空からパトロールを行った末にメアが降り立ったのは、町の様子とゲートの様子──邪悪の樹の姿も一望でき、かつ避難誘導の邪魔にもならない場所として選んだ「明保野タワー」の展望テラスだった。
誰もいないその場所から夜の暗闇に沈み始めた町を見渡しながら、メアは一人ぼそりと呟いた。
「メア……何してるんだろう……?」
合理主義気取りの愚か者の自分に対して、思わず幼い頃の口調が出てしまったものだ。
義父明宏には「自分にできることを頑張る」と偉そうなことを言っておいて、実際には何の役にも立てなかった。
あの場に留まっていれば自分もカロンの口から有益な情報を聞くことができただろうに、自らの意思で離れてしまった己の判断を振り返り、苦笑する。
「メアはメア。私は私……うーん……今でもするっと出ちゃうなぁ……昔の口調」
カロンの話し方を見て、思い出したことである。
この五年間であの頃よりも大きく情緒が育ったメアは、その過程で自然と今の呼び方になった。お手本にしたのは義姉の灯の口調だ。
しかし今みたいに、センチメンタルに浸っている時にはつい昔の口調に戻ってしまうことがある。
一人称が自分の名前なのは、一般的には子供っぽいことなのだと言う。メアの知る大人らしい大人と言えば父明宏やT.P.エイト・オリーシュアの姿が思い浮かぶが、確かに彼らがそのような話し方をすることはあり得ないだろう。
『エイトは、エイト。エイトは、悪いお姉さん……』
試しにエイトが自分のような話し方でシュンとしている様子を想像してみると、あり得なさすぎて少し吹き出しそうになったものである。
……やはりこの子供っぽい口調は、彼女のイメージとは掛け離れていると感じた。
「……まだまだ子供だね……私は……」
自戒するように、そう呟く。偉大な人物たちに比べて、考え無しの自分の何と幼いことか。
感情に振り回され、カロンのところから逃げるように飛び出してしまったのもそうだ。
カロンに対する自分の、オドオドとした煮え切らない態度も。
何よりメアは、自分のことを助けてくれた彼女に対してちゃんと礼も言えなかったことを今この場で大いに悔やんでいた。
「ん……」
屋外から吹き抜ける風が、物理的にも精神的にもメアの頭を冷やし、三色のリボンに結ばれた黒髪を揺らしていく。
少しずつ思考の冷静さを取り戻していったところで、メアはそろそろカロンの話が終わった頃だろうかと、本部に戻ろうと決心した。
「……よしっ」
戦おう。
この町の為に。愛する人たちの為に。自分自身の為にも。
今の自分にできることは結局のところ、どこまで行っても戦うことしかないのだ。
そう言い聞かせて自らを鼓舞したメアは、再び背中から八枚の羽を広げ、明保野タワーから飛び立とうとする──その時だった。
──それは間違いだよ、メア。
「──ッ!?」
「声」が聴こえた。
あの異形たち、グレイスフィアと対峙していた時にも聴こえた──白昼夢のような不可思議な声だ。
しかし、今回のそれは音声信号として、鼓膜からはっきりと聞き取ることができた声だった。
メアはハッと目を見開き、唐突なまでに現れた背後の気配に向かって振り返る。
そこには、いた。
「君は君を卑下しすぎている。彼らの為に戦うのは君の為にはならないし、あの死に損ないの天使には、君が礼を言う必要も無い」
じっと佇みながらメアの姿を見つめていた人影は小さく、まるで幼い少年のようだった。メアと比べて頭一つ小さな身長は、五年前の彼女とほとんど同じに見える。
髪は灰色、肌は褐色で。その顔は人形のように整っている。しかしあまりに精巧すぎて、夜空に浮かぶ月のような銀色の瞳に輝きは無く、生気を感じなかった。
「貴方は……っ」
メアにとってその人物の姿は、今初めて目の当たりにした筈である。しかし何故か心の奥底から想起する既視感を抱いた。
秋の夜風で常の冷静さを取り戻した思考でその既視感を辿ってみると、メアはそれがこの頃よく見る悪夢から来ている記憶であることに気づく。
そうだ……初対面ではない。この少年とは、夢の中で何度も会っている……!
メアは警戒の眼差しで彼を見つめ返すと、そんな彼女とは対照的に灰色の少年は至って子供らしい、和やかな笑みを返して言った。
「やっと会えたね、メア。この五年間僕はずっと……ずっと君に、会いたいと思っていた!」
「……え」
思わず毒気を抜かれるような、屈託の無い笑みだった。
呆気に取られるメアに向かって、少年は自らの両手と背中から生えたカラスのような二枚の羽を大きく広げながら、全身でその喜びを表現する。
それはいつだったかメアがアリスとショッピングモールに出掛けた時、迷子の幼子を助け、両親に引き渡した時に見たことがある──探し続けた家族をようやく見つけたかのような、安堵の笑みだった。
戸惑うメアの姿を銀色の瞳で見据えながら、無垢な少年のように彼は名乗った。
「僕、グレイスフィアの堕天使! 個体名は……まだ決まっていないけど、こう言えばわかるかな?
アディシェスの生まれ変わりだよ」
それはかつて一つだった者たちの次元を越えた──魂をも越えた、宿命の再会だった。