TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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敗北者たち

 アディシェスの生まれ変わりと名乗る少年は、メアに対して驚くほど友好的だった。

 

 メアと話すことが何がそこまで嬉しいのだろうか、一言一句コロコロと表情を変えながら、にこやかに笑んでいる。

 背中に生えた漆黒の羽が無ければ、その姿は人間の幼子と変わりないようにさえ見えた。

 

「ふふっ、何を話そうかなー? 君は僕と、何を話したい?」

「何をって……アディシェス……? 本当に……?」

「そうだよ。正確には元、だけどね。今ここにいる僕は、彼の記憶を受け継いで生まれ変わったグレイスフィアの堕天使だ」

「グレイスフィアの、堕天使……」

「この世界では、堕ちた天使のことをそう呼ぶんだろう? なんかイイ響きだし、僕たちのことはそう呼んでほしいな」

 

 メアは彼の告げたその正体と、彼の存在から感じ取れる異様な気配に戸惑っていた。

 彼の姿は天使ダァトと同じく黒翼の天使と呼ぶのが相応しい外見であったが、彼女のような神聖な力は感じない。

 人間でもなければ天使でもなく、しかしアビスのような禍々しさも無い。

 確かにそれは、あのゲートから出てきた異形たち──グレイスフィアと同じ種類の気配だった。

 

 ──堕天使とは、言い得て妙だと思う。しかし本当に深淵のクリファアディシェスの生まれ変わりだと言うのなら、彼が「天使」を名乗るのは冒涜的と言うほかないだろう。

 

 メア自身も、あまり良い気はしなかった。

 

「そう苛立たないでよ……いいじゃん、勝手に名乗るぐらい」

「っ……心を読めるの?」

「何となくだけどね。そっち方面の力はカロンほど強くない。だけど君の心ならよくわかるよ? 前の僕が一緒にいたからかな……多分、ケセドの心も読める」

「……本当に、アディシェスなんだね」

 

 しかし、深淵のクリファ「アディシェス」は五年前に倒された筈である。

 当時のメアはその戦いに何の貢献もできなかったが、炎たちセイバーズとホドらサフィラス十大天使、そして本来の力を解放したT.P.エイト・オリーシュアの活躍によって、彼の存在は跡形も残らず消滅したと記憶していた。

 なのに、彼は生まれ変わった。生まれ変わることができた。

 それは本来、起こり得ないことである。

 

「お兄ちゃんに倒された筈なのに……どうして生まれ変われたの? それに、その姿は……」

 

 確かに彼ら深淵のクリファ含む、アビスは不死の存在である。

 何度滅ぼされようと、彼らは時間を掛ければより強くなって深淵の世界から蘇る。何よりフェアリーワールドにとって脅威たらしめていたのがその特性である。

 そしてその特性を封殺できる唯一の存在こそが、この世界の異能使いであった。

 

 即ち……暁月炎という人間の異能使いの技に打ち倒された彼は、生まれ変われる筈がないのだ。

 

 そんなメアの疑問を、尤もだとばかりに堕天使は頷く。

 

「あの時、クリファとしての僕は間違いなく死んださ。アカツキ・エンの焔は、アディシェスというクリファをアビスの輪廻から解き放った」

 

 楽しい思い出を振り返るように、声を弾ませながら語る。

 

「だけど、彼の魂は完全には消えなかった。君やケセドと一緒にいた影響なのか、それともダァトが何かしたのか……理屈はわからないけど、存在を失った彼は魂だけになって漂っていたんだ。アビス・ゼロがいた次元の彼方とはまた違う、虚無の世界に」

「虚無の世界?」

「文字通り、空っぽな世界だよ。君たちが想像する死後の世界みたいな、そんな場所さ」

 

 魂の概念は未だ、人間の世界では解明されていない。

 しかしそれを当たり前の事実のように前提として語られた言葉に、メアは奇妙な説得力を感じた。

 それはアディシェスたちアビスが、そもそも実体を持たない謎多き不定形な存在だからこそ、完全に否定することができなかったからだ。

 

 

「そこで彼の魂は拾われ、祝福された。かつて聖龍からもアビス・ゼロからも存在を否定された、灰色の球体(スフィア)──グレイスフィアにね」

 

 

 原初の大天使カロンが語っていた存在の名前が、少年の口から出てくる。

 彼はおもむろにメアの隣に立って身を乗り出すと、この明保野タワーのテラスから見える邪悪の樹と、夜空に広がる漆黒のゲートを崇拝の眼差しで見つめた。

 

「グレイスフィアはアディシェスの魂に、新しい肉体を与えてくれた。グレイスフィアは……そうだね。聖龍アイン・ソフに匹敵する、神様みたいな存在なんだよ」

「……その神様が、貴方を生まれ変わらせた」

 

 カロンの言い分ではグレイスフィアとはあの異形たちのことを指しているニュアンスであったが、彼の語るグレイスフィアとは勢力の名ではなく、唯一の個体を指しているようだった。

 

 それは聖獣にとっての聖龍アイン・ソフであり。

 アビスにとっての原初の闇アビス・ゼロのような。

 

 その認識で概ね合っているのだろう。グレイスフィアの堕天使を名乗るアディシェスの生まれ変わりは、メアの思考を読んで推察を肯定した。

 

「そういうこと。何なら今見せてあげようか? ほら、屈んで屈んで!」

 

 (見せる……? そもそも見せられるものなの……?)と思ったのも束の間、堕天使はずいっとメアの胸元近くまで詰め寄ると、上目遣いに捲し立ててきた。

 まるで母親の手を引っ張る幼児のような無邪気さに気圧されると、メアは思わず流されるまま、その要求に従ってしまった。

 

「えっ……あ……こう?」

「うん! そのまま、そのまま」

 

 押しの強い相手には、時々流されやすいところがある──とは友人のアリスからも言われたことがある。

 メアは両膝に手を当てながら前屈みになると、近くに寄ってきた灰色の堕天使の表情を窺う。

 それは頭一つ分の身長差がある少年に対して、至近距離から目線を合わせる体勢になった。

 

 すると、彼はイタズラっぽい笑みを浮かべながらメアの顔へさらに迫り──その額を、コツンと突き合わせた。

 

 

「──ッ」

 

 

 ──瞬間、メアの脳裏に見知らぬビジョンが映し出される。

 

 

 

 

 それは、巨影だった。

 

 

 この明保野タワーどころか邪悪の樹よりも遥かに大きな、巨大な影。

 光も闇も無い完全なる「無」の中で、その球体(スフィア)はゆっくりと回り続けている。

 その色は美しくも一片の輝きも感じない──丁度目の前に立つ少年の瞳のような色をしていた。

 

 

「……今のが、グレイスフィア?」

「名前通りの姿だろう? まるで、灰色の月のような」

 

 

 ハッと意識を復帰させたメアが、イタズラの成功を喜ぶようにくつくつと笑う堕天使の姿を見つめる。

 

 そうだ……まさしくそれは、灰色の球体(Grey Sphere)と呼ぶのが相応しい姿だった。

 見た目からは意思を持った生き物には思えない、無機質で巨大すぎる姿。それは神様と呼ぶより「星」と呼ぶ方が見合っているように思えた。

 だがこの身に走った悪寒は、天体観測で感じるようなものではない。

 メアたちはそれとよく似た姿をしていて、何よりも恐ろしい存在をかつて一度だけ、見たことがあったのだ。

 

「アビス・ゼロに、似ていた……」

「ふふっ、驚いた? アビス・ゼロとグレイスフィアは元々一つの存在だった、言わば親子みたいな関係だからね。姿はよく似ているさ」

「親子?」

 

 セイバーズとサフィラス十大天使が総力を集めて挑み、それでも封印措置を施すので精一杯だった滅びの魔王。原初の闇と呼ばれたアビス・ゼロの姿と、その姿はあまりに酷似していたのである。

 グレイスフィアが灰色の月ならば、かの存在は暗黒の太陽だった。その脅威を思い出し、メアは震える腕で思わず自らの肩を抱き締めた。

 

 そんなメアの様子を見て何を思ったのか、灰色の少年は元気付けるような明るい声で言った。

 

「だけどグレイスフィアは、アビス・ゼロと違ってとても優しいんだ! この姿だって、アディシェスの意思を汲んで与えてくれたんだよ?」

 

 メアの前で両手を広げながら、くるりとターンを決めて己の姿を見せびらかす。

 その時になってようやく意識が向いたが、彼の着ている衣装が見知った人物に影響されたものであることに気づいた。

 

「ね! ダァトに似て、とてもカッコいいだろう?」

 

 紳士的な黒い燕尾服のようなブレザーに、ロイヤルブルーの差し色が入ったデザインだ。

 下に穿いているのはロングスカートではなく少年的なパンツルックではあるものの、その衣装から受ける全体的なイメージは原初の大天使ダァトことT.P.エイト・オリーシュアが愛着している怪盗衣装と似ていた。

 

「彼女ともっとお揃いの姿になるように、いっそ女の子にしてもらおうかなぁとも思ったんだけど……アディシェスは男の子寄りの性格だったからねー」

 

 思えば、衣装だけではない。彼がテレパシーではなく人間の言葉を話しているのも、知性的な大人っぽい喋り方をしているのも彼女の影響に見えた。

 アビスである深淵のクリファの生まれ変わりだと言うのに、敵対勢力である聖獣(フェアリー)──エイトという天使のことを強くリスペクトしている様子を、メアは不思議に思い問い掛ける。

 

 

「……好きなの? エイトさんのこと」

「うん、大好き! アディシェスの頃から大好きだったんだけど、今はアビスじゃなくなったおかげでもっと好きになったんだ!」

「そう、なんだ……」

 

 

 彼女に対する気持ちを包み隠さず明かしたその言葉に、メアは戸惑いながらも思わず口元が綻ばせた。

 メアは、その表情を浮かべる者たちのことを知っている。彼女に助けられたことのある子供たちは、皆して同じ顔で、嬉しそうに笑うのだ。

 それこそ友人のアリスのような屈託の無い笑顔は、エイトが大好きと吐いた言葉が偽りの無い真実であることを物語っていた。

 

 

 ……こんなにも彼女のことを想えるほど心豊かな存在ならば、今回の件も対話による解決ができるかもしれない。

 

 

 新たな敵、グレイスフィア。

 その存在に対してもっと理解したいと思ったメアは、今のところこちらに対して全く敵意を向けていない少年に対して、踏み込んで話し合うべきだと感じた。

 アディシェスの生まれ変わりだと言う彼だが、その事実が信じられないほどに今の彼は穏やかに見える。

 彼の方もまた、こちらの感情が警戒から興味に変わったのを感じたのだろう。灰色の堕天使はその黒い羽でふわりと空に舞い上がると、輝く月を背にしながらメアの姿を見下ろして言った。

 

 

「僕は君のことも好きだから、僕たちのことを特別に、色々教えてあげるよ。僕ならカロンより、ずっと上手く話せるし!」

 

 

 その言葉はこの状況において、渡りに船であった。

 しかし付け加えるような最後の一言に隠しきれないトゲを感じたメアは、首を傾げて訊ねた。

 

 

「さっきからなんでそんなに……あの人に当たりキツいの?」

 

 

 カロンのことである。

 同じ原初の大天使であるダァトに対しては迷うことなく大好きだと語っていながら、その姉に対して放つ言葉が先ほどからどうにも辛辣に聞こえる。

 そんなメアの問いに掛けに、彼はしばし考え込むように「むー……」と唇を締めて唸ると、プイッと顔を背けながら答えた。

 

 

「だって……嫌いだから。僕たちからダァトを奪ったのがムカつくんだよ」

 

 

 予想外な言い分にメアは、目を丸くする。

 そしてその意味を理解するまでの間を置いた後で、溜め息交じりに返した。

 

「奪ったって……カロン様はエイトさんのお姉さんでしょ」

「違うよ。ダァトは僕たちのものだ」

「……貴方、嫉妬してる?」

「! そうか、これが嫉妬という感情か! ふふっ、そっか……だから僕は、アイツのこと嫌いなんだ」

 

 本当に幼い子供のようなその素振りも含めて、彼が彼女に対して抱いている感情は実にわかりやすかった。

 しかし彼自身はその気持ちの正体に今初めて気づいた様子であり、今度は彼の方が目を丸くし、笑っていた。

 

 

「……アディシェス、か……」

 

 

 その様子を見ると、つくづく彼の正体が深淵のクリファの生まれ変わりであることが信じられなかった。

 エイトのことが大好きで独占したがる、世界中どこにでもいる男の子のようだ。

 

 しかしそんな彼が笑みを消すと一転して──周囲の温度が急激に冷えたような、肌寒さを感じた。

 

 

 

「夜空を散歩しながら、昔話をしようか。まだサフィラス十大天使も生まれていなかった、神の時代の話だ」

 

 

 

 そう言って少年は手を差し伸ばし、メアを秋の夜空に連れ出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──昔々、この世界とは違う聖獣たちの世界で、大きな戦争がありました。

 

 

 

 

 雲海の深き底から、恐怖の魔王が現れたのです。

 魔王は十体の怪物を引き連れ、聖獣(フェアリー)たちの住む天界に来訪しました。ありとあらゆるものを消し去るその力で何の躊躇いも無く破壊の限りを尽くす魔王の存在は、生物と言うよりも逃れられない現象と言った方が良いものでした。

 

 魔王はその力で天界中の聖獣たちを恐怖に陥れ──長き時を戦い続けた果てに、最後は敗れ去りました。

 

 聖獣たちの守護者である聖龍アイン・ソフと原初の大天使たちの活躍によって、魔王アビス・ゼロは次元の彼方へと放逐されたのです。

 彼が置き土産として残していった怪物たちは、一部の間で個々に意思を持ち始め、聖獣たちから「深淵のクリファ」という名で呼ばれるようになりました。

 

 

 ──しかし、意思を持ち始めたのは、クリファだけではありませんでした。

 

 

 聖龍アイン・ソフの力で封印され、次元の彼方へ放逐される一瞬の間際──彼らの大元である原初の闇、アビス・ゼロもまた、長きに渡る戦いの中で意思──「心」が芽生え始めていたのです。そのことに気づいていたのは、聖獣たちの陣営ではダァトただ一人でした。

 

 

 アビス・ゼロは自らに生まれたその異変に、酷く戸惑いました。

 本来持つ筈の無かった、「心」という疾患。絶対的な闇そのものとして存在していた彼にとって、自分自身に生まれたほんの小さな光は、到底受け入れられない苦痛として彼に襲い掛かってきたのです。

 

 どうして自分は苦しんでいるのか。

 

 どうして自分がここにいるのか。

 

 聖獣たちの影響を受けた彼は、その時初めて彼らのような「生きた」存在になろうとしていたのかもしれません。

 しかし、彼はその祝福を拒絶しました。

 

 

 こんなものは要らない──と、彼は自らの変化を拒み、その心を自身から「球体(スフィア)」の形に切り捨てたのです。

 

 

 大いなる闇に生まれた、ほんの僅かな光。

 放逐されゆく彼の元から切り離されたその球体は、深淵の陣営たちとは似て非なる独立した存在として活動を続けていました。

 

 

 虚無の世界に存在する白でも黒でもない──灰色の星となって。

 

 

 




そろそろオリ主の出番です
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