TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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勘違いさせる系のSSは非常に難しい

 セルフBGM(フェアリーセイバーズOP)を引っ提げて、伝説の超オリ主ことエイトちゃん参上っ!

 

 内心エンダアアアイヤアアアと高らかに祝詞を上げたかったところだが、幸せなキスは持ち越しのようで少し残念。いや、寧ろ後のお楽しみが増えたと言うべきか……今日も今日とて気ぶりのオリ主様は元気です。

 いやあ、ええもん見せてもらいましたわー。実を言うと陰でスタンバっていたのだが、原作よりも早く動いた原作公式カプの進展に見入ってしまい、危うくまた出遅れてしまうところだった。

 かーっ、第一クールから介入できたらなー! 二人のキテるシーンの積み重ねとか、ちゃんと見たかったのになー! やっぱ第二クールからの参戦はつれぇぜ! かーっ。

 

 因みに先ほどのハープの演奏には、指先の器用さを上げる補助魔法的な異能を使っていた。

 流石に僕も異能の補正無しではここまで上手く演奏できなかったからね。それでも、短期間で人前に出せるレベルに仕上げるのは楽じゃなかったけど……そのうち異能を使わなくても演奏できるようになりたいなと思っている。初めは街中でゲリラライブをしていたホームレスのおじさんを見て「何アレかっけぇ!」と思い衝動的に盗んだ異能だったのだが、気づけば趣味レベルまで気に入っていたようだ。こんなことなら前世の時点で興味を持っておけば良かったかな。

 えっ、ハープの練習なんてお前いつの間にそんなことやってたのって? オリ主の修行シーンはサラッと流すものなのだよ。商業誌の世界でもそうだが、反復練習をひたすら繰り返すことになる修行回はどうしても絵面が地味であり、読者人気を得るのが難しいのだ。そこを上手くやっている大人気バトル漫画の偉大さがよくわかると言うもの。

 あの時はハープを練習する為に適当な学校の音楽室に侵入したはいいが、うっかり鍵を掛け忘れて学生と鉢合わせるガバがあったものの、上手く誤魔化せたので良しとしよう。

 まあ、その話は後にして。

 

「どうかな? 受け入れてもらえないだろうか……」

 

 ……さて、最終決戦直前のイベントに水を差すような形で乱入してしまった僕だが、原作主人公メンバーに協力を取り付ける為にはこのタイミングがベストだと判断したのだ。

 見渡してみればそこには、司令官の明宏以外にもサブヒロイン枠である双子のオペ子、なんか胡散臭い雰囲気だけどめっちゃいい人だった副司令官、お馴染み機動部隊の皆さんまでセイバーズ明保野本部の顔ぶれが揃い踏みなこの状況である。ネームドキャラがこんなに集まっているのだから、こちらも顔を見せなければ無作法というものだ。

 

「……それは、我々に協力するという申し出かね?」

「うん。ボクはある事情で、フェアリーワールドのことはそれなりに知っている。メアのおぼろげな知識を補完するぐらいなら、役に立てると思うんだ」

「ある事情、ねぇ……」

 

 うん、ある事情というのはもちろん、転生オリ主最大のアドバンテージである「原作知識」だ。

 僕のことをサフィラス十大天使の一人だと疑っている風岡翼は訝しげな眼差しを向けてくるが、そんなにじろじろ見るなよ緊張するじゃないか。

 もちろん、ここでわざわざ自分が「原作知識」を持つ転生者などという事実を明かしたりはしない。そういう誠実なオリ主は個人的には好感が持てるが、オリ主たる者原作の世界観を台無しにする発言には細心の注意を払わなければならないのだ。

 故に、唐突なメタ視点はあくまでも僕の中だけに留めておく。そういうわけだから僕は、彼らの言及を躱す為に「怪盗ノート」という便利なチート能力を活用することにした。

 

「ボクは未来を占ったんだ。キミたち五人がフェアリーワールドへ向かった場合、辿り着くことになる未来をね」

「……盗んだ異能の一つか」

「そう受け取ってもらって構わないよ。ただボクの占いの的中率は高くてね……放っておけば、100%当たってしまう。キミやボク自身がいくらそれを否定しても、決まってしまう事実なんだ……」

「……そうか」

 

 実際、世の中そういう異能があってもおかしくないだろう。流石にまだそのような未来視的な能力を盗めてはいないが、ボクがストックしている異能を全部把握している者は僕しかいないわけで、このブラフを看破できる者はいないわけである。シュレディンガーのエイトちゃん、覗いてみなければわからないってことだ。

 ただ、やはりと言うべきか、自らの死の運命を突きつけるだけでは明宏という男は揺らがなかった。後ろにいる灯ちゃんはすんごい不安そうにしているけど……ごめん、君のことは原作よりは曇らせずに済むだろうと思っていたけど、早速曇らせてしまったようだ。しかしもう少し、もう少しだけ辛抱してくれ。

 頑張れ僕、何とかして言いくるめるんだよー!

 

「志半ばでキミを失った結果……メアたちは聖龍のもとまでたどり着けず、ケテルの計画は実行される。そして聖獣たちの総攻撃を受けたこの世界は甚大な被害を受け、大勢の命を失うことになる。占いには、そう記されていた」

 

 可能性は実際、高いかもしれない。メアの頑張り次第では、そうならない可能性ももちろんあるが。

 実際キーパーソンのケセドが不在なので、代わりに入ったメアがどこまで彼の役割を果たすことができるのかはわからなかった。

 まあ、原作の難易度を100とすると、150ぐらいはハードモードになるだろうというのがこの辺りの僕の見立てだ。

 ハッピーエンド厨の僕としては、そんなことはもちろん許せないわけで。

 

「ボクはこの世界が好きなんだ。だからその未来、実現させるわけにはいかない」

「…………」

 

 さて、反応は……うーん、駄目かな。やっぱり疑っている顔だ。

 やはり、これでも彼は納得しなかったか。

 

 やむを得ない。ここは強硬手段を取らせてもらうことにしよう。僕はオリ主であっても善人ではなく、エイトちゃんは悪いお姉さんだからね。

 

 僕は怪盗ノートを具現化し、盗んだ異能を発動する。

 

 障壁を展開する異能「バリアー」と「闇の呪縛」を「調合」、影で覆い尽くされた闇のバリアーを目の前に展開すると、その中に彼の身体を閉じ込めてやった。

 

「!? 貴様っ」

「司令!?」

 

 すまぬ、みんな。

 いや、ここまでしないとこの司令、筋肉で突破してくるだろうから……救出に動いた者たちの動きも同じく闇のバリアーで封じておいた。うわ、今の僕すごい悪役っぽい……失望しましたアンチになります。

 しかし、これでも僕は君たちに害意は無いのだ。

 

「ゴメンね……大丈夫、少ししたら消えるから。あとは、ボクと救世主たちのことを信じてほしい」

「君を、信用できると思っているのか?」

「だけど、他にこの世界が助かる道は無い」

「……ッ!」

 

 そう、他に方法が無いのは紛れもない事実である。

 司令官として合理的な思考を持つ彼自身の言葉を、そっくりそのまま伝えてあげると、明宏は苦虫を噛み潰した顔で言葉を飲み込んだ。

 うーん……助ける為と言っておいて、さっきから曇らせてばっかりだな僕。やっぱコミュ力だよコミュ力。こればかりは異能を盗んでもカバーできないらしい。

 なんとかフォローしなければ……そうだ!

 

「……炎たちが出撃してしばらくしたら、あちらの世界から大量の「敵」が送られてくる」

「何っ?」

「キミが残らなければ、この世界の犠牲も増えるんだ……だから、キミにはこの世界に残って、町を守ってほしい。人の世界を……キミたちの生きる場所を」

「エイト・オリーシュア……君は……」

「わかって、ほしい」

 

 誠意を、誠意を見せよう! 光井明宏は顔は厳ついが人情派だ。ホラ僕の顔見て嘘ついているように見える!?

 帽子を外し深々と一礼しながら、全霊の祈りを込めて頼み込む。

 そしてこの後、念の為原作でこの先残された者たちの地球で起こる展開を闇のバリアーに囚われた彼にだけそっと耳打ちして伝えると、明宏はしばし考え込み、決心したように顔を上げて僕に問い質した。

 

「君は一体……何者なのだ? 人々の異能を盗んできたのも、この時の為だったと言うのか?」

 

 今一度、得体の知れない怪しい人物としてではなく。

 目の前に立つ僕を、僕だけを見て問い掛けてきた言葉だ。

 それはなんだか……なんだろうな? 昔、父が荒れていた頃の僕を叱ってくれた時のような感覚だった。

 ……転生オリ主が、原作以外の記憶を思い出すとは情けない。

 僕は人差し指を立てながら、彼の質問に対し正直に答えた。

 

「ボクは怪盗さ。異なる次元の世界から、キミたちを導きに来た……恥知らずで、傲慢な小娘だよ」

 

 おそらくその言葉は、聖獣側の世界からこの世界を助けに来た存在のように受け止められるだろう。

 彼はシリアスな顔で、僕の言葉に偽りが無いか確かめるようにじっと目を見つめてきた。

 嘘は吐いていないが、本当のことも話していない。

 我ながら、とんだ詐欺師である。勘違い系SSは多くとも勘違いさせる系のSSが少ないのは、意図的に人を騙す行為に対する読者の抵抗感が強いからなのだろうと僕は考えている。案外、嘘吐きが主人公を張るのは難しいのだ。

 

 やれやれだ。複数転生者の取り扱いにビビる以前に、僕の性格そのものが地雷要素だったかな?

 

 だけど完璧なチートオリ主を目指す以上、僕に自分を曲げる気は無い。怪盗らしく、このしょうもない本心は誰にも明かさないまま、少なくとも女神様っぽい人のSSが完結するまではメアといい感じのダブルオリ主をこなしてみせよう。

 

 上手くできなかったけど、昔から結構好きだったんだ。こういう風に、自分が周りを動かす中心になるのってね。

 

 僕は言い捨てた後、踵を返し、光の巨鳥に乗り込んだメアたちの元へ向かう。

 正直彼らが明宏を助ける為に僕に攻撃を仕掛けてきたらどうしようかと思っていたが、根回しの甲斐があったのか風岡翼が三人を制止してくれた。

 

「そういう訳だから、よろしくしてくれるかな?」

 

 暁月炎が、溜め息を吐いて返す。

 

「あんたには恩がある。ついてきてくれるなら、正直頼もしい……だが、話は聞かせてもらうからな。あんたの正体と、本当の目的を」

「いいよ、向こうに着いたら教えてあげる」

 

 実際、彼らから見ても現場の戦力としては明宏より僕の方が適任だしね。おまけに聖獣疑惑のある僕なら、メアと共にフェアリーワールドの案内人が務まるかもしれない。そう判断してみると、司令官が直々に前線に乗り込むよりも合理的なのだ。

 尤も世界の平和が掛かった任務を未成年だけに任せるのか?とかそう言う常識的な思考や、バリバリの犯罪者である僕自身の信用の低ささえ度外視すればの話だけどね。

 だから僕は、穏便に矛を収めてくれた探偵君に礼を言っておくことにした。

 

「ありがとね、ツバサ」

「さて、何のことかね? 俺はこのむさ苦しい連中に一人くらい、イイ女が旅についてくれた方が嬉しいと思っただけさ。メアちゃんはまだ小さいし……」

 

 戯けたように言う彼の態度は、原作を見た通りの解釈一致である。が、それは場を和ませる彼なりの冗談だということはわかっている。

 これで実際のところ、下半身がだらしないわけじゃないのだから彼も中々罪な人柄(キャラ)をしている。

 

 いたずら心で、そんな彼に向かっておもむろに手を差し出してみると一瞬驚いた顔を浮かべるが、翼はすぐに気を取り直したように僕の手を引いて光の精霊鳥の背中までエスコートしてくれた。

 

「どうも」

「一人で飛び乗れるだろ?」

「野暮なことは言わないでほしいな。それがボクが、キミたちのことを信頼している証でもあるのだから」

「そうかい」

 

 あと、この高さで飛び乗ると大胆にスカートがめくれそうだし。

 TSオリ主である僕に女子的な羞恥心は無いが、絵面的にかっこ悪いと思ったのだ。

 ともあれ後から乗り込んできた僕の姿を見て、一同はそれぞれ何か言いたげな顔をしていた。

 

「仮にあんたを置いて四人で出発しても、あんたは一人で付いてくるだろ?」

「……ふふっ」

 

 流石に、お見通しだったか。

 僕は帽子を被り直しながら綻んだ頬を隠すと、鋭い探偵さんの目から逃れるように、顔を上げてケセドの代行者メアと目を合わせる。

 銀髪オッドアイの天使少女……これはオリ主ですわ、間違いない。一昔前に流行りすぎたせいか今時露骨なのは逆に珍しいが、女オリ主の銀髪率に関して言えば依然人気である。

 そんな彼女は、オロオロと言った擬音が似合いそうな顔で、僕に対してどう対応するべきか困っている様子だった。

 僕は彼女の肩にそっと手を置くと、同じオリ主のよしみで言ってあげた。

 

 

「共に行こう。ボクとキミが導くその先に、誰もが笑える未来がある」

「……! うん……っ」

 

 

 そうだ、踏み台転生者なんてどこにもいない。オリキャラ全てがオリ主なんだ。僕も君もオリ主なのだ。

 ケセドと灯と明宏が不在の異世界編、未来という物語の結末をいい感じに導けるのは僕たちだけだ。

 その為には君も僕もどちらも必要な存在なのだと、お互いに存在意義を示すことで初めてオリキャラ複数物のSSを成り立たせることができる。僕はそう思っていた。

 

「よっしゃ、行くぜ! フェアリーワールドへ!」

 

 おうとも、力動長太の快活な言葉が気持ち良い。

 

 いざ行かん! 聖域フェアリーワールドへ!

 

 光の精霊鳥が舞い上がり、僕たちメアちゃん守り隊は空のゲートへ飛び込んでいった。

 

 




 勘違い系より勘違いさせる系のSSが少ないのって、一歩間違えると主人公に不快感を感じてしまうからではないかと勝手に思っています。
 完成度高いのは腹筋が破壊されますが。

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