TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 遅れましたがオリ主登場です。
 五年ぶりの本格的なオリ主ムーブなので流石のオリ主もブランクを感じたらしい。


お互いのヒロイン力に圧倒される奴ら

 

「優しい気持ちが籠もった、温かな歌声だ……この音色のように、世界が優しければいいのに……」

 

 静かな夜の町に響き渡る大天使の歌声を耳にして、グレイスフィアの堕天使はそれまでの激情が嘘のように鎮まり、輝きの無い瞳を震わせる。

 呟いた言葉は、彼の本心を表していた。

 

 

「君たちとは戦いたくない……それが、僕自身の気持ちなのかな……」

「アディシェス……」

「……メア、僕は諦めないからね……いい返事を期待している」

 

 

 そう言い残し、灰色の少年は黒い羽を羽ばたかせて夜空へと飛び去っていく。

 今のメアにはその背中を、追い掛けることができなかった。

 それは、風岡翼も同じである。

 

「……俺は……」

 

 立ち尽くす翼は、戦いを止めてしまった自分自身の行動に困惑している様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 メアと翼が歌の聴こえた場所へ赴くと、そこは河川敷の一角にある小さな公園だった。

 そのベンチの上にちょこんと腰を預けながら、黒髪の少女がハープを弾いている。

 少女は二人の到着に気づくと、キリの良いところで演奏を止めて顔を上げた。

 彼女は憂いを帯びた翠と黄金の瞳で二人を見据えると、困ったような微笑みを浮かべて出迎えの言葉を放った。

 

 

「やあ、今宵も月が綺麗だね。メア、ツバサ」

 

 

 五年間の成長で外見が大きく変化したメアに対して、原初の大天使である彼女の姿は驚くほど何も変わっていなかった。

 そんな彼女の飄々とした様子に、メアは思わず言葉を詰まらせ、翼は呆れたように溜め息を吐いて言った。

 

 

「月は見えねーよ……ゲートのせいで」

「あれー?」

 

 

 見上げた先の夜空に浮かんでいる筈の月は、彼の言う通りグレイスフィアが開いた異次元のゲートに隠れて見えなかった。

 それは彼女にとっても予想外だったのか、それとも一同をリラックスさせる為にわざと冗談を言ったのかは定かではないが……翼とエイトは思わず目を見合わせ、互いに忍び笑いを漏らした。

 

「……ふっ」

「ふふっ……」

 

 二人の間に流れる空気が、目に見えて綻んでいくのがわかる。

 特にメアが驚いたのが、あれほど張り詰めていた翼が一瞬にして常の落ち着きを取り戻したことである。

 

 そんな彼は一頻り笑った後、踵を返してメアの肩に手を置いた。

 

 

「んじゃ、俺は明宏さんのところへ戻るわ」

「えっ?」

 

 

 セイバーズを脱退してまで執着し、あれほど追い掛けていたT.P.エイト・オリーシュアを前にして──たったそれだけのやり取りで、翼はこの場から立ち去ろうとしたのである。

 メアは信じられないものを見る目で彼の顔を見上げると、戸惑いながら彼に問い掛けた。

 

「……いいの、翼さん? せっかくエイトさんに会えたのに……」

 

 話したいこと、聞きたいことは幾らでもある筈だろうに、ほんの一言交わしただけで彼女の元から離れていく。

 そんな彼の判断を理解できなかったメアに対して、翼は穏やかな眼差しを返して言った。

 

「会えたから、いいんだよ。……今はそれで」

 

 今はそれで、多くを語り合う必要も無いのだと。

 安心しきった彼の表情は、メアが未だかつて見たことがなかった。

 人の発する気配に対して特別敏感な彼女をしても、今の彼の真意を理解できないものだったのだ。

 そんなメアの困惑に対して、彼は苦笑を浮かべるばかりである。

 

「俺は探偵だぜ? 会いたい時が来たら、どこにいようと居場所を突き止めて、何度でも会いに行くだけさ……自力でな」

 

 彼女が無事で、ここにいる。

 あの時と変わり無く、T.P.エイト・オリーシュアという女性が誰よりも優しい存在だということを再確認することができた。

 今はそれだけでいいのだと、彼は言った。

 

 それに……と付け加えながら、彼はメアの顔を見下ろす。

 

「それに……今アイツの言葉が必要なのは、俺じゃない」

「……?」

「今回はお前に譲るよ。……今の内に、言いたいこと言っておけ」

「あ……」

 

 探偵である彼の洞察力は、メアや天使たちのように心や気配を読む力が無くとも的確だった。

 

 そう、彼は見抜いていたのだ。

 今この時、他でもない光井メアの心が──この場にいる誰よりも疲弊していたことを。

 

 ひらひらと手を振りながら、彼は公園を後にしていく。そんな彼の背中に、少女は呼びかけた。

 

 

「大人になったね、ツバサ」

「──!」

 

 

 ただ一言浴びせたその言葉は、今の風岡翼に対する素直な感想だった。

 そんな彼女の言葉に、ほんの少しだけ上擦った声で彼は応えた。

 

 

「……次に会う時は、ガキみたいになってるかもな」

「え?」

 

 

 意味深に返したその言葉の意味を、メアには読み解くことができなかった。

 それは言われたエイトの方も同じだったようで、珍しく不思議そうに小首を傾げていた。

 

 そんな彼女の様子を横目に見ながら翼は、どこかしてやったりとでも言いたげな微笑みを浮かべながら、今度こそこの場から立ち去っていった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時刻はもう、夜中の十時を回った頃だろうか。

 

 静まりきった夜の公園の中、メアは一人、ベンチに座り膝の上でハープを手入れしているT.P.エイト・オリーシュアと向かい合っていた。

 いざこうして彼女と対面してみると、肝心な言葉が出てこないものだ。

 しかし多くを語らずともこの場はそれで満足した翼と違って、このまま何も言わずに沈黙の時を過ごしていくのはメアの本意ではない。

 見かねたように先に口を開いたのは、エイトの方だった。

 

「キミと二人きりで話すのは、五年前のアディシェスと戦った頃以来だったかな?」

「……あの時は、ケセドとカバラちゃんがいました」

「あっそうか。となると、実はボクたちが本当に二人きりになるのは初めてなのか」

「はい、初めてです……」

「ふふ……なんか不思議な感じだね。久しぶり……本当に久しぶりだ。メア」

「……そう、ですね……エイトさん……」

 

 言いたいことが、色々とありすぎて。

 それでも彼女を前にすると、上手く出力することができない。

 アリスのことを言えないなと、本人の前では普段の自分ではいられなくなる初めての感覚に、メアは戸惑いを感じていた。

 そんなメアの前でエイトはベンチの右側に寄ると、空いた左側をポンポンと叩きながら呼びかけてくる。

 

「ま、座りなよ。まだ決戦の刻まで少し時間があるし、キミもここで休憩していくといい」

 

 おいでおいでと促されるがままに、メアは彼女の隣に身を寄せて着席する。

 肌寒い秋の風が吹く夜の中、彼女の隣はとても温かく……まるで家族と団欒するような安心を感じた。

 

 

 

 

 

 ──彼女がここにいるという現実をようやく受け止めたことで、少しずつ落ち着きを取り戻したメアはポツリ、ポツリと語り出した。

 

 

 それは、五年前彼女に言えなかったこと。

 

 何度も助けてくれた感謝の気持ち。

 

 何も知らなかったことへの懺悔の気持ち。

 

 そして、アビス・ゼロを封印する為に次元の彼方に残っていった彼女のことを、信じて見送ることしかできなかった後悔と謝罪の気持ちを、メアは幼い頃のようなたどたどしい拙い喋り方で包み隠さず明かしていった。

 

 

「ごめんなさい……っ、エイトさんはずっと世界を守る為に戦っていたのに……私はいつも、自分のことばかりで……」

 

 

 泣いているように声を震わせたのは、今のメアの精神が不安定になっていることの何よりの証だった。

 しかし、そんな彼女の口から真っ先に溢れ落ちたのが、エイトのような立派な存在の足元にも及ばない自分自身への不甲斐無さだった。

 

 

「貴方をあの場所に置き去りにしたこと……アビス・ゼロと、五年間も戦わせてしまったこと……本当に、本当にごめんなさいっ」

 

 

 虚無の世界に孤独に浮かぶグレイスフィアの姿を見た時、メアはその光景から深い悲しみを感じた。

 それはアビス・ゼロから切り離されてから数億年もの間ずっとひとりぼっちだった彼に対する哀れみの気持ちであったが、メアにとってはもう一つ、五年前に働いた自らの罪をこの上無く自覚させられた光景でもあったのだ。

 

 かつて、次元の彼方に一人残してしまった彼女のことを。

 

 グレイスフィアと似たような目に合わせてしまった彼女に対して、メアはずっと悔やんでいた。

 

 腿にかかったスカートを握り締めながら、深々と頭を下げる。

 そんなメアに対して、エイトは言い放つ。

 

 

「悲しいことを言わないでくれ」

 

 

 ハープを異次元空間にしまうと、エイトはおもむろに取り外したシルクハットを膝の上に置く。

 そして両手をメアの頬に添えると、彼女は下げた頭を持ち上げるようにしてお互いの視線を突き合わせた。

 二色の澄んだ眼差しに宿した感情は、どこまでも穏やかで──しかし目の前の少女のことだけを見据えて憐憫を浮かべていた。

 そんな彼女が、メアの謝罪を受けた上で語った。 

 

 

「ボクはキミのことを悲しませる為に、アビス・ゼロのところに残ったんじゃない。ボクがそうしたいと思ったから、キミたちの反対を押しのけたんだ」

 

 

 そう言って彼女は──嬉しそうに、笑った。

 

 

 ポン、とメアの頭の上に柔らかな感触が乗せられる。

 彼女の手のひらがどこまでも優しく、メアの黒髪を撫でつけていったのだ。

 その行動を受けてメアは、呆気に取られるばかりだった。

 

「あ……」

「それが罪だと思うのなら、このT.P.エイト・オリーシュアはキミを赦すよ。そんなにも強く、ボクのことを想ってくれた──ボクはその気持ちだけで満足さ。いい子、いい子」

「……ぁぅ……」

 

 義兄や義姉に撫でられるのとはまた違った感触に対して、メアはまどろみのような心地良さと同時に羞恥心を感じた。

 あれから五年も経っているというのに、自分がまだまだ子供なのだと思い知らされるようで、気恥ずかしかったのだ。

 

 ……だけどそれは──それを含めてもメアは、とても嬉しいと思った。

 

 

「ありがとう、ございました……!」

 

 

 謝罪と、感謝。

 その惜しみない感情をメアは、あの時から一度たりとも忘れたことはなかった。

 言葉は拙くともその一言は何よりもシンプルで──きっと、彼女の心に響くものだったと思う。

 

 

「うん、どういたしまして」

 

 

 その言葉を待っていたとばかりに満面の笑みで頷き、エイトはメアの頭から手を離した。

 

 温かくて柔らかな感触が消え去ったことにメアは無意識に名残惜しそうな目を浮かべるが、次の瞬間にはその瞳は驚きの色に変わっていた。

 

 エイトはメアの頭から離したその両手に、どこからともなく一箱のケースを取り出したのだ。

 指輪や宝石が入っていそうな、手のひらサイズのケースである。

 

 照れくさそうにはにかんだ笑みを浮かべながら、エイトはそれをメアの目の前まで近づけて言った。

 

「実はキミに、渡したいものがあってね」

「……渡したいもの?」

「うん。入学祝いとか誕生日とか、五年分もすっぽかしてしまったからね……ボクたち(・・)からキミへの、せめてものプレゼントだよ」

「プレゼントだなんて……そんな、私なんかに……」

「いいからいいから! あの三人(・・)はキミにリボンをあげたのに、ボクから何も無いのもこう、エイトお姉さんとしては沽券に関わるのだよ」

「……三人?」

「あ……ごめん、何でもない。さ、受け取って! 受け取ってくれないと嫌だ」

「あ……ありがとうございます」

 

 そんな恐れ多い……と思いながらも、メアにはグイグイと押し付けるように差し出してきた彼女のそれを拒むことなどできなかった。

 こう言ったところもまた、「流されやすい」ということなのだろう。メアはエイトの押しの強さに根負けし、そのケースを慎重に、丁寧な手つきで受け取ってしまった。

 

 そして彼女は、促されるままにその蓋を開き──目を奪われる。

 

 

 

「……きれい……」

 

 

 

 ケースの中に入っていたのは、見るも美しいブローチだった。

 

 ガラス細工のように透き通った素材で精巧な造形に形成されたそれは、色鮮やかな蝶々の姿を模している。

 思わず吸い込まれるように手に取って見つめると、その色が透明から赤くなったり、青くなったりと多彩な変化を見せた。

 

「オーロラリウムって言うらしい。見る角度や光の当たり方で、色んな色に輝くんだ」

「……凄い……凄いです、エイトさん」

 

 それ以外の語彙を失ってしまうほどに、彼女から渡された蝶々のブローチは見事なものだった。

 一般的な学生のバイト代では手が届かなそうに見えるほど、美しく鮮やかなアクセサリーである。

 そんな身に余る物を受け取ってしまったメアに対して、エイトは弾むような声音で言った。

 

 

「キミにピッタリだと思って」

 

 

 ……何の裏も感じないその言葉と笑顔を見て、メアは何か、胸の奥にムズムズした感情を抱いた。

 それが彼女から贈られた純粋な好意に対する喜びであることを理解したメアは、目頭が焼けつくように熱くなった。

 

 早速着けてみてと彼女にせがまれたメアは、彼女自身もそうしたかった気持ちを隠すことができず、今身に着けている制服のブレザーの襟元にそのブローチを装着してみた。

 

 やっぱり自分にこのようなものは過ぎた代物ではないかと……伏し目がちになりながら恐る恐る感想を待つと、エイトは両手を叩いて言い放った。

 

「うん、似合う! ボクたち(・・)の思った通りだよー!」

「そ……そうですか?」

「最高だよっ! やっぱり着ける人の素材が良いからかな? ふふっ、頑張って作った甲斐があったよ」

「つ、作ったんですか!? 凄い……」

 

 まるで同級生の女子高生たちのように興奮しながら、キャッキャと歓声を上げていた。

 その姿を見てメアは、エイトさんもこういう顔するんだ……と安心感にも似た意外な感情を浮かべながら、このブローチが市販の物ではなくお手製の物であることを聞いて驚愕した。

 

 しかし確かにエイトさんならブローチを始めあらゆる宝飾品を造ることができそうだと、一切疑うこともなく納得するが……そんなメアの反応を見て彼女は鼻先を掻きながら補足を付け加えた。

 

 

「それはボクだけじゃなくて姉さん……キミのお母さんにも手伝ってもらった一品なんだよ」

「……!」

 

 

 エイトの姉──すなわち、カロンのことである。

 

 

 メアの母を名乗る彼女もまた、このブローチの製作に関わっていたのだ。

 ただメアに贈る為の、この世でただ一つのプレゼントの為に。

 

 それを聞いた瞬間、メアの心に大きな波が沸き立ち──

 

 

 

「生まれてきてくれてありがとね、メア」

 

 

 

 ──いつか五年前にも言われたその言葉が、最後の一押しとなって、決壊させた。

 

 

「メア!? メアちゃん!?」

 

 

 止めどなく溢れる雫が、彼女の膝を濡らしていく。

 しかしそれは、悲しみの涙ではない。

 

 思えばこの祝福の前では既に、自分が何者であろうとどうでも良かったのかもしれない。

 今、光井メアはようやく理解した。

 

 

「……ありがとう……エイトおねえちゃん……」

「────!」

 

 

 ──たったそれだけのことで、自分自身を肯定できるのだと。

 

 

 




 メアにとってエイトは心の師匠でありもう一人の姉であり罪悪感を抱いていた恩人であり自分には存在しないと思っていたお母さんみたいな存在でした。すなわちクソ重い(((;゚Д゚)))

 エイトにとってのメアは最近自分の姪であることを意識し始めた守護対象にして原作主人公兼メインヒロインでした。すなわち頭オリ主(´・ω・`)
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