TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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チート原作主たちは完璧じゃなくてもいいそうです

 リインの目を通して事の顛末を見届けたグレイスフィアは、この世界に送り込んでいた全ての端末を引き上げさせた。各国の「邪悪の樹」も同様に、その全てが霞のように消え去ったとのことだ。あれほどの大樹が一夜にして消えた事実に、今頃世界は大慌てだろう。

 邪悪の樹に吸い取られていた星の力も大きな被害を出す前に吸い上げを止めてくれたようで、結果を見れば今回の事件の被害は最小限に留まったと言えた。

 

 

 グレイシェリダーとの死闘を終え、眩しい朝日が色とりどりの花々を照りつけている丘の上。

 全てが終わり、これから打ち上げにでも行こうかという賑やかな雰囲気の中、談笑を交わす戦士たちの元から遠ざかるように離れた場所で、一人青空を見上げているリインの姿を見てメアが呼びかけた。

 

「リインは、これからどうするの?」

 

 グレイスフィアにはもう、人間世界に牙を剥く意思は無い。

 ならば彼の為にこの世界に渡り来たリインは、その転機に何をして生きるのかと問い掛けたのである。そんな彼女の問いに、灰色の少年は力の抜けた笑みを浮かべて答えた。

 

「僕は虚無の世界──グレイスフィアのところへ帰るよ」

「それって……」

 

 彼にはこのまま、人間の世界に居座り続ける気は無かった。

 メアはそれを「自分がこの世界にとって危険な存在だから」という後ろめたさによる選択かと疑ったが、心配する彼女の思考を読んでリインは首を横に振った。

 

 確かにリインの中では、これだけのことをした自分自身に対する罪悪感は大きい。

 しかし今の彼を突き動かしているのはその気持ちだけではなく、自分が果たすべき使命はグレイスフィアの元にこそあるからだと語った。

 

「グレイスフィアは今回の件を通して、君たちのことをもっと深く理解したいと思い始めている。僕はそんな彼に、君が教えてくれたことを伝えてあげたいんだ。僕自身の言葉で……君が、君のお父さんに伝えたように」

「そっか……うん。いっぱい伝えてあげて、貴方の思いを」

「ふふっ……彼には故郷に帰るのをまた我慢してもらうことになるけど……そこは僕が、必ず説得するよ」

 

 メアたちと戦いたくないというリインの気持ちを受け取り、この世界から手を引いたグレイスフィアだが、故郷に帰りたいという彼自身の気持ちは依然として変わっていない。当面の問題はそこにあると、二人は考えていた。

 アビス・ゼロから切り離された存在であるグレイスフィアは、フェアリーワールドの世界樹サフィラにとってはただそこに居るだけで有害な存在である。

 その事実を覆さない限り、フェアリーワールドはどうあっても彼の帰還を許可することはないだろう。本質的な問題は山積みだった。

 

 だが、今はそれでもいい。

 今はまだ、完璧であることにこだわる必要は無いのだと……二人はお互いとの対話を通してそういう考え方ができるようになっていた。

 

 悲しいばかりではないこの世界なら、いつか必ず、グレイスフィアにとっても優しい未来を見つけることができると──リインの胸にも希望が芽生えていたのだ。

 

 尤も、彼にもうしばらくの間我慢を強いることになるのは、とても心苦しく思うが……

 

「僕らとしては、君やダァトがフェアリーワールドの王になってくれた方が都合良かったんだけどね」

「やめてよ貴方まで……私はそんな器じゃないってば。エイトお姉ちゃんなら、できると思うけど」

「君たちは優しいから好きだ。グレイスフィアはケテルと交渉するのを凄く嫌がってる……彼は、とても怖い王様だから」

「大丈夫だよ。仲介ならいつでも手伝うから」

「……ありがとう。何年後になるかはわからないけど……その時が来たら、頼りにさせてもらうね」

 

 だからこちらの問題を片付けたら、また会いに来ると。彼はそう言って笑った。

 彼もまた、自分自身の戦いに赴くのである。

 故郷に帰る為に誰かを傷つけるのはやめようと、そんな切実な思いを自らの「神」に伝える戦いに。

 

 決意の固まった目で見つめる彼に向かって、メアはおもむろに右手を差し出した。

 

 

「寂しくなったら戻ってきてね。ここもきっと、貴方の居場所だから」

「……! うん!」

 

 

 爽やかな風に草花が揺らめく中、何者でもなかった二人は固く握手を交わすと、お互いに再会を約束し合う。

 

 悪夢は終わり、澄み渡る青空に向かって飛び立っていく少年。

 彼の存在を祝福し、自分自身もまたまだ見ぬ明日に希望を抱く少女。

 

 少女は少年の姿がゲートの向こうへと消えるまで、月のような笑顔でいつまでも、いつまでもその手を振っていた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金(きん)のシンバル鳴らすように 囁くのはお日様

 

 「一緒においで 木々の宴に」 耳を澄ましましょう

 

 シャボンの雲で顔を洗い そよそよ 風と散歩

 

 「大丈夫きっと…」 羽根になるココロ

 

 ヒカリへと 放して ごらん

 

 

 虹を結んで空のリボン 君の笑顔へ 贈り物よ

 

 

 願いをかけましょう 夢日和

 

 明日また 幸せで あるように

 

 

 

 雲の綿菓子つまんでは 一休みの草原

 

 「風はどこへ帰っていくの?」 鳥に尋ねましょう

 

 夕日のレース肩にかけて 伸びてく影とかけっこ

 

 「見守ってる ずっと……」 光る宵月の

 

 優しさに 抱かれて ごらん

 

 

 星を並べて空のボタン 夜のカーテンを 留めてあげる

 

 

 明日も逢えるよ 夢日和

 

 その笑顔 忘れずに いるなら

 

 

 

 「大丈夫きっと……」 羽根になるココロ

 

 ヒカリへと 放して ごらん

 

 

 虹を結んで空のリボン 君の笑顔へ 贈り物よ

 

 

 願いをかけましょう 夢日和

 

 明日また 幸せで あるように

 

 

 

 

 ── 明日また幸せであるように ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分たちとは違って、どこまでも前向きな別れを終えた少女の様子を遠目に眺めながら──神の座に最も近しい大天使たちは、二人揃って寂しげな表情を浮かべていた。

 

 

『また……死に損なったか……』

 

 

 その内の一人であるフェアリーワールドの王が、遠い昔のことを思い出しながら、自嘲気味にぼそりと呟く。未来への希望に満ち溢れている彼の娘とは実に正反対な、酷く後ろ向きな言葉である。

 そんな彼の呟きに、旧時代の同胞である白き原初の大天使が反応を返した。

 

『まだ、その時ではないということなのだろう』

『…………』

 

 聖龍亡き今、カロンは最古のサフィラス大天使であるケテルに対して唯一対等な口を利くことができる人物だ。

 そんな彼女もまた、今の自分のように死ぬべき時に死ぬことができず、生命の使いどころを逃してしまった者同士であり──だからこそ、ケテルはずっと彼女のことを嫌っていた。

 

 今にして思えばそれは、同族嫌悪の感情だったのかもしれない。

 

 しかしそんな彼女が見せる横顔は、ケテルの知るカロンという陰気な大天使のそれではなかった。

 どこか、これから先の未来を楽しみにしているような……その黄金の瞳には、目も眩むほどの希望の光が射し込んでいるように見えた。

 

『この頃、私は思うのだ。我々にはまだ、この世界で為すべきことが残っているのではないか、と』

『……それが終わるまで、余らは還れぬと? ……残酷なことを言う』

『すまない』

『良い。それが、生きるということなのだ』

『……そうだな』

 

 彼女なりの励ましのつもりで掛けたのであろうその言葉を、ケテルは珍しく──いや、初めて素直に受け止めることができた。

 

 死に損ない同士仲良くする──ということは今後もできそうにないが、似たような立場になって初めて、かつての彼女に対してシンパシーを感じることができたのかもしれない。

 それはほんの僅かではあったが、この数年間で彼の中に起こっていた心境の変化だった。

 そんな彼に対して、カロンは言葉を続ける。

 

 

『だが、それだけではないということを……あの子たちが教えてくれた』

 

 

 ケテルは王として、カロンは世界樹として。

 この残酷な世界の中で永く生き過ぎてしまった二人にとって、尚も世界の為に生き続けることは残酷と言うほかないことである。

 

 しかしそんな苦しみの中にも、何物にも変え難い幸福な救いがあったことを……カロンは穏やかな眼差しでケテルを見つめ、言い放った。

 

 

『ありがとう、ケテル』

 

 

 お礼を言えなくてごめんなさいと……まるで彼女にそう語った娘に倣うように、カロンはケテルに向かって真摯な態度で頭を下げた。

 

 それはケテルにとって、古の時代を思い返してみても初めて目にした光景だった。

 

 

『汝は、最高の王だ。世界を導いてくれて、ありがとう』

『……お前……』

 

 

 ケテルが彼女のことを嫌っている理由の一つには、同族嫌悪の他にもう一つある。

 

 

 それは自分に対して、心の中でいつも罪悪感を抱いていたからという理由だった。

 

 

 ……かつて、ダァトのことを一人で深淵の世界へ行かせたことが気に入らなかったのも確かにある。

 だが、ケテルとてあの時はそうする以外に世界を救う手立てが無かったことを理解している。何よりその後悔はケテルの中では彼女を憎む理由と言うよりも、非力だった自分自身への恨みとして刻まれていたのだ。

 故に、彼は決してその件で彼女のことを恨んでいたわけではなかった。

 

 

 それに……あの時、大切な妹を失って一番辛かったのが誰であったのか……他ならぬケテル自身が、誰よりも深く理解していた。

 

 

『王としての振る舞いは、貴様の為に行ったことではない。だが……礼は受け取る』

『助かる』

 

 

 ……何が、助かるものか。

 

 しかし、彼女から謝罪の気持ちではなく感謝の気持ちを受け取ったことで初めて、ケテルは昔からずっと苦手だったこの大天使と向き合えるような気がした。

 

 

『カロン』

『なんだ?』

 

 

 思えばこれほど含みのない感情で、彼女の名前を呼んだのはいつ以来のことだろうか? 

 もはや摩耗し切った古の記憶を思い返してみると、それはケテルがまだ生まれて間も無かった頃──彼女とダァトがいて、父なる聖龍アイン・ソフもいた束の間の平和な一時のことだった。

 

 後に生まれくる天使たちの「王」となるべく生み出されたケテルは、立派な大天使になる為に一心不乱に二人の背中を追い掛けていたものだ。

 あの頃と比べて少しは追いつくことができたかと、初めて前向きな気持ちになりながら、ケテルは彼女に問い掛けた。

 

 

『お前は今、幸福を感じているか?』

『……?』

 

 

 唐突に投げかけた突飛な質問に対して、カロンがキョトンとした眼差しを返す。

 その反応に思わず、ケテルは苦笑を溢した。

 

『いや……良い。今のお前には、必要の無い問いだろう』

『……そうか。そうだな』

 

 自分自身の感情を何故か他人事のように語るカロンの姿に、ケテルは昔のままだなと嘆息する

 わかり切っていたことを唐突に問い掛けたのは、今目の前にいる彼女があの時のような憑き物の落ちた、穏やかな顔をしていたからである。

 知らない者が見れば変化が乏しく思える彼女の表情であるが、腐れ縁故に今のケテルには容易く読み取ることができた。

 

 

 彼女は今、この世に生まれてから最も幸福を感じている。

 

 

 ……これも、彼女の影響なのだろうか。

 

 

 噂をすれば何とやらか──穏やかながらも奇妙なその空気の中に、良くも悪くも場に似つかわしくない無邪気な気配が割り込んできたのはその時だった。

 

 

「あっ、いたいた! お、ケテルも一緒か珍しいね」

 

 

 T.P.エイト・オリーシュアである。

 メアや暁月炎たちと短めな言葉を交わした後、テレポーテーションで二人の元に駆け寄ってきたのだ。

 次元に干渉する聖術「冥府夢鏡」を使ったことでカロンの力はもはや尽き掛けている。実体を維持するのが困難となり、既にかすれ始めていた彼女は、エイトにワンタッチされた瞬間再び実体が形成された。

 戦いが終わった以上は霊体に戻っても問題は無い筈なのだが、実体を維持させてあげたのは今回の功労者である彼女に気を遣ったのだろう。

 

 ……そういう気配りの良さは、驚くほど「ダァト」と変わっていなかった。

 

「二人ともお疲れ様! ケテルもありがとね、遥々助けに来てくれて」

『余は旧時代の不始末を片付けに来たまでだ』

『面目無い』

 

 今回の件にフェアリーワールドの王であるケテルが直々に対処に当たったことをエイトが改めて礼を言うが、聖龍と原初の大天使が為せなかったことの尻拭いである以上、彼にとっては当然の責務であった。

 故にケテルがこの場に赴いたのは、責任感と言うよりは義務感に突き動かされたようなものである。

 

 しかしそんな彼の前で、エイトは何が楽しいのやら……微笑ましいものを見るような目で見つめてきた。

 

 

「だけどメアのこと、助けてくれたじゃん? ふふ、ボクは嬉しかったなー」

 

 

 ……自分自身でも意外に思ったことを、あっけらかんとした調子で突いてくる。

 しかしその言葉を否定する感情は、今のケテルには無かった。

 

 

「……助けられたのは、余の方だ」

「ん?」

 

 

 ケテルは娘と──メアと対峙した時、この胸に抱いた正直な心情をこの世界の言葉で呟く。

 それは意図して聞き取れないように呟いた小さな声だった為、エイトにも不思議そうに首を傾げられたが……それで良かった。

 

 

 そんなケテルの姿に微笑みを浮かべた後、カロンが彼女に向かって別の話題を振った。

 

 

『エイト、今後はどうする?』

「今後? そうだね。とりあえず今回盗んだ力を持ち主に返すとして……」

 

 T.P.エイト・オリーシュアは今回の件で、世界の裏で誰よりも奔走していた人物と言えるだろう。

 そんな彼女はしばらくの間自分自身が起こした行動の後処理に追われることになるだろうが──彼女の目はさらにその後のことも見据えていた。

 

 ぼそりと、今度は彼女が聞き取りづらい声量で呟く。

 

 

「……ボクも、里帰りしようかな……」

 

 

 珍しくも不安そうな顔で、振り絞るように紡ぎ出した言葉だった。

 他の者たちであれば、それは大天使ダァトの故郷であるフェアリーワールドへの帰還を意味する呟きとして受け止めたことであろう。

 しかし彼女の姉であるカロンと──ケテルだけはその言葉の真意を、正確に読み取っていた。

 故に、問い掛ける。

 この五年間で心の整理が付いたからこそ言葉にすることができた、T.P.エイト・オリーシュアへの最大の質問だった。

 

 

『それは……どちらの里だ?』

 

 

 「知識」を司る原初の大天使ダァトの故郷は、ケテルたちの住むフェアリーワールドである。

 しかし彼女と共にあるもう一つの魂の故郷は──おそらくは自分たちとは別の世界であろうと、ケテルは察していたのだ。

 

 その質問が彼の口から投げかけられたことはエイトにとっても予想外だったのか、彼女は一瞬目を丸くした後、頭を掻きながらたははと微笑みを返した。

 

 ダァト同様に頭の回転が早い彼女は、ケテルの質問の意図を即座に理解した上で、困ったような眼差しでケテルの目を見つめる。

 

 

「凄いな……気づいてたんだ」

『ダァトがどういう天使であったのかは、他ならぬ余が理解していたつもりだ。だが……もう良い。奴の魂が、そこに在るのなら』

「うん……今もダァトは喜んでいるよ。立派になったキミの姿を見ることができて」

 

 

 頭から外したシルクハットから差し込む朝の光に目を細めながら、T.P.エイト・オリーシュアが自らの胸に手を当てながら万感の思いで語る。

 その言葉に、ケテルは後ろを向きながら返した。

 

「そうか……」

 

 ケテルの言葉はそれだけだ。

 しかし、その口元は綻んでいた。

 それこそが五年前にも聞いた、嘘偽りの無い──生まれ変わった「彼女」の想いであることを、ケテルは本当の意味で理解したのである。

 

 

 

 ──そうして、彼の見ていた悪夢もまた、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

   We'll meet again somewhere, someday.

 




 いい感じのエンディング曲と意味深なCパートでこれにて劇場版編完結です。最後まで読んでいただきありがとうございました!
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