TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
新たなる敵グレイスフィアの存在を知った僕たちが真っ先にケテルのところへ向かおうとしたのは、彼の大目標であるフェアリーワールドへの帰還において最も関わりの深い当事者に対して通すべき筋と言うか……そんな感じの理由である。
それと、最悪の事態に備えた最低限の報連相って奴だね。グレイスフィアのことは過去の因縁とかも踏まえると原初の大天使である僕たちが対処すべき問題なんだけど、彼を止められなかった場合、一番被害を受けることになるのは今のフェアリーワールドに住んでいる無関係な聖獣さんたちになる。
それはあまりにも可哀想だから、もしもの為の保険としてケテルにだけは洗いざらい情報を開示しておきたかったのだ。グレイスフィアのことなら僕よりも詳しそうだし。
──と、そういうわけで人間世界からこっそりゲートを開き、久しぶりにフェアリーワールドへやってきたエイトちゃん&カロン姉さんwithカバラちゃんである。
カロン様とジョグレス進化した超究極体オリ主である今の僕には、単独で次元の壁を突破するのもそう難しくはない。それに加えて五年前より大幅にパワーアップしたテレポーテーションの力は、今では日本からブラジルへ跳ぶことだって可能だった。うーん、これは完璧なチートだぁ……やっぱ瞬間移動能力ってズルいわ。
しかしケテルの居場所へ辿り着くまで、当初の予定より寄り道が長引いた分、少しだけ時間が掛かってしまったのはここだけの話である。
いやね、最初は彼の治めている第1の島「エヘイエー」に向かったんだけど、その島では予想以上に手厚い歓待を受けたのだ。
エヘイエーは原作「フェアリーセイバーズ」にも名前だけしか登場していなかったし、リブート作である「フェアリーセイバーズ∞」にもその町並みがどうなっているのかは明かされていなかった。
それには王様であるケテルが作中ではほとんど世界樹サフィラにいたからというのが理由だったが、この機会に観光も兼ねて足を運んでみたわけである。
その結果、どうなったか? ……即バレしました。
これには僕も少しびっくり。
人間世界にいた頃の感覚で擬態の能力を使うなり姿を変えなかった僕が迂闊だったのは確かにそうなのだが、流石は世界の王様が治める大聖都と言ったところであろう。そこに住んでいる聖獣さんたちは非常に良く教育されていたのだ。ちょっとぐらい雑踏に紛れて街中を歩くぐらいならバレへんやろ……と軽い気持ちで御当地グルメを食べ歩きしてたら秒でバレた。フフフ……自分の有名ぶりが怖いぜ。怖い。
もちろんエヘイエーの聖獣さんたちも民度が高かったので事件にはならなかったが、それはそれとして結構な騒ぎにはなってしまった。人間世界でも予想以上に英雄視されていた僕であるが、ここでのT.P.エイト・オリーシュアの名声はなんならあっち以上に凄まじく、多分お偉方の大天使さんたちのせいなのか世界中の人々に顔が知れ渡っていたのだ。
あとカバラちゃんも人気だった。あまりにもキャーキャー言われるものだから僕の帽子の中にモゾモゾと隠れたものである。今ではすっかり人慣れしてメアちゃんたちの通う学園のアイドルみたいになってる小動物だけど、そう言えば元々大勢の人の目とか苦手だったもんね君。
そんなわけで、僕たちの正体がバレた瞬間町はお祭り騒ぎ。気分はさながらミスターサタンだった。
ちょっとしたサービス精神で子供たちに手を振ってあげたら大喜びしてくれた。とても気持ち良かったです。
しかし想像以上に人が集まりすぎて、危うく怪我人が出そうになったのはよろしくなかった。
責任を感じた僕は大人たちの人混みに飲まれて息苦しそうにしていた子供をさりげない気遣いで救ってあげた後、テレポーテーションで一旦その場から撤退したものだ。あの子たちには申し訳ないことをしたね……こればかりは反省である。
そうして人気の少ない場所に移動した僕を、一人の天使さんが慌てた様子で追い掛けてきたのはその時だった。
他の聖獣さんたちとは桁違いの大きな聖なる力を感じたので、一瞬サフィラス十大天使の誰かが来たのかと疑ったものだが……僕の前に現れたその天使は初めて見る顔だった。
羽の枚数は六枚で、髪の毛は燃える炎のような灼熱の赤。二メートルをゆうに超す長身が特徴の美丈夫は、堂に入った動作で僕の前に片膝を突いて頭を下げると、その素性を簡潔に明かした。
『王ケテルの筆頭天使、メタトロンと申します。只今王は不在の為、私めが貴方様と謁見する無礼をお許しください』
なんか……めっちゃ堅苦しい人だった。
ただ僕はケテルに会いに行くついでに、彼の治めている町をちょっと観光しよっかなーっと軽く考えていたのがいたたまれなくなるほどに、僕の訪問は大事に受け止められていたらしい。それから彼の手で丁重に案内されたケテル城で受けたVIP待遇レベルでは済まない歓待には、僕の認識の甘さをまざまざと見せつけられる結果となった。
しかし違う、そうじゃないんだ。僕は目立つの好きだし大物として扱われるのも嬉しいのだが……そんな感じに恐れ敬われるのはなんかこう、違うのだ……!
だけどその言葉はオリ主的なクールさで呑み込んだ。僕に料理を作ってくれた城の料理長とかお芝居を見せてくれた劇団員とかすっごい楽しそうだったし、そんな彼らの姿を見ているカロン姉さんやカバラちゃんも楽しそうだったからだ。うん、僕も楽しかったし料理も美味しかったです。劇の題材が僕の知らない五年であったらしい人間世界とフェアリーワールドが友好を結ぶストーリーだったのも良かったね。天使と人間の淡い恋的なラブロマンスもあって、ハラハラドキドキ素直に見入ってしまったよ。
そんなこんなで賑やかな時間を過ごした僕たちであったが、城の中で一番話したケテルの筆頭天使を名乗る「メタトロン」という天使からは、ゲームとかで聞いたことのある強そうな名前通り、明らかにただ者ではなさそうな凄まじい力を感じた。
その名前は何となく悪役とかラスボスに使われていた印象があるのは、メガトロン的な語感だからだろうか。知らんけど。
そんなメタトロンさんだが、苦労人気質だけどとてもいい人そうな天使様だった。実力も相当強そうな感じで、羽は六枚だけど潜在能力は八枚羽のサフィラス十大天使にも匹敵するのではないかと思ったぐらいである。
「驚いたな……ケテルには人を育てる才能もあったんだ」
『王に恥じぬ筆頭天使となるよう、常日頃から研鑽を積んできたつもりです』
「おお、それは立派だねー。ボクのこと、出迎えてくれてありがとね。キミが来てくれて助かったよメタトロン」
流石は王様の筆頭天使ともなれば、他の島の筆頭天使よりも頭一つ抜けた実力を持っているということなのだろう。サフィラス大天使でもないのにそれほどの力を身につけた彼の努力をエラいエラいとオリ主目線から素直に賞賛すると、メタトロンさんは頭を下げた姿勢のまま何か噛みしめるような様子で返した。
『……身に余る、お言葉です』
……僕のこと、どう伝えてるんだよケテル……
軽い気持ちで島に足を運んだ僕に対して無礼を働くまいと、異様に畏まっていた。なんかごめんね。
それもこれも今自分の島にいない王様が悪い。そう責任転嫁しながら僕は、一日待っても自国に帰ってこなかったケテルに心の中で悪態をついた。もちろん本気ではないが。
「ケテルは、しばらく帰っていないのか……」
『王は世界樹サフィラの祠へ参拝に向かいました。今週中にお戻りになられるかは……』
「微妙なんだね」
『申し訳ありません」
「謝らなくていいよ。急に訪れたボクが悪いんだから」
表情固いよー? リラックスリラックス。そう微笑みかけてやると、メタトロンさんは恐縮そうに顔を上げると数拍の間ボーッと僕の顔を見つめた。なんだい僕に見惚れた? 冗談です調子に乗りました。
しかしケテル……アイツいつも世界樹にいるな。それでええんか王様?
寿命を迎えた聖龍アイン・ソフがカロン姉さんと入れ替わるような形で世界樹にその命を還したのが五年前のことだが、メタトロンさんの話によるとケテルは今でも頻繁に、一人で祠に通い詰めているらしい。
……まあ、彼は誰よりも長い間聖龍様に仕えていた身だからね。
死の間際のアイン・ソフとどこまで話せたのかはわからないけど、かの神を失ったことで今でも色々と思うことがあるのだろう。人間にとって五年はそれなりに長い時間だけど、彼にとっては一瞬だろうし。
存命だった頃もずっと眠っていたとは言え、父なるアイン・ソフの死を彼は今でも悲しんでいるのかもしれない。
ダァトはその辺り妙にサッパリしていると言うか……深淵の世界へ行くことを決めた頃から、聖龍アイン・ソフに対する未練には自分の中で踏ん切りがついていたらしい。
……で、カロン姉さんの方はと言うと。
『世界樹にいた頃には、彼と交信したこともあった。だからだろうか……私の中ではあまり、死んだ気がしないのだ』
──と言うのが今の、彼女の父親への認識である。
五年前は世界樹サフィラの意思として存在していたカロン姉さんは、永らくお眠りしていた頃のアイン・ソフの意識と時々交信したことがあったらしい。
尤もそれは夢を見ているような感覚で、あちらから一方的に語りかけてくるような感じではっきりと会話することができたわけではないようだが……まあ、それができてたら、五年前の戦いももう少し楽になっていただろうしね。さもありなん。
……よし、決めた。丁度良い機会だし、僕たちもお墓参りに行こうか!
『アイン・ソフも喜ぶだろう。かの神も、汝と話したがっていた……と、思う』
さよか。
うん、僕も彼とはずっと会いたいと思っていたんだよね! オリ主である僕のことを彼がどう思っていたのかとか、これでも割と気になっていたのだ。
尤もいざ会ったら「えっ、誰この美少女怪盗……知らん……怖っ」と反応されたらエイトちゃんとても悲しいけど、僕の中にいるダァトの為にも神様には言いたいことが色々とあった。
──と言うわけで、五年ぶりにやって来ました世界樹サフィラ!
いやあ、世界樹の迷宮は難関でしたねぇ……嘘です、僕は顔パスでした。
五年前は気絶している間に連れてこられたから最下層以外の中の景色はよくわからなかったが、サフィラの中は樹の中とは思えないぐらい広くて趣きがあって、どこも良いロケーションだったよ。
あと、凄く懐かしい感じがした。ダァトも昔はよくこの場所に来ていたらしい。小さい頃のケテルと一緒に修行したり、遊んだりしたみたい。
そんなこんなで名残惜しくもエヘイエーから立ち去り、僕たちは聖龍アイン・ソフが終生の地として選んだサフィラの祠に足を踏み入れた。
ここも変わらない──いや、割と変わっているな。前に来た時はラストバトルの直後だったからところどころ派手に荒れていた景色が、今ではピッカピカに磨き上げられた大理石みたいに整備されている。
世界樹の芯の前に佇む巨大なピラミッドのような祭壇の上には、かの神を祀る石碑が建てられており、辺り一面には色とりどりの花畑が広がっていた。
あれはティファレトあたりが彩ってくれたのだろうか? 彼女の監修があったことが窺えるほどに、今のこの場所にはとても美しい景色が広がっていた。
──そんな場所に、サフィラス十大天使の王ケテルはいた。
メタトロンさんから貰った情報通りである。ただ一人孤独に、じっと石碑の前に佇んでいる彼の姿は、僕が話しかけなければいつまでもハシビロコウのように延々とその場から動かなかったに違いない。
もしかしたらその時の彼は世界樹の中にいる聖龍と何か交信していたのかもしれないが、その姿は現世を蔑ろにしている世捨て人みたいで何というか……物悲しく感じてしまう。
思わずそんな感傷を抱いたのは、恐らくは今の僕に共存しているダァトとしての感情なのだろう。
しかし僕はT.P.エイト・オリーシュアである。
彼の事情は理解しているし、空気の読めるデキたオリ主でもある。
だからこそ僕はその背中に対して、あえてフランクに呼びかけることにした。
「いつまでそうしているんだい? 少年」
『…………』
胸中を推し量りながらも、僕は「ダァト」としての言葉を彼に浴びせる。こういう言い方をすれば、彼が反応を返してくれることをわかっていたからだ。我ながら腹黒い。
自分の世界に浸っているケテルの姿は遠目に見る分には画になっていたが、生憎僕は彼と話をしに来たのである。彼のお母さんでもあるまいし、一歩引いて穏やかに、温かく見守ってあげるほどエイトちゃんは優しくなかった。
『少年呼ばわりは、やめてもらいたい』
「ならキミもそうやって、いつまでも「僕迷ってます」って顔するのをやめなさい」
『……手厳しいな、ダァトは』
うん、ダァトはそう思います。僕自身、ちょっと言い過ぎたかなと思っている。
そう思っているんだけど、ダァトの場合は彼のことをついつい甘やかしてしまうので、僕が強く意識しないとあんまりキツい言い方ができないんだよね。彼女もなまじ大天使歴が長かった分、ケテルの心情を察しすぎてしまうのだ。だから同情してしまう。
しかし、僕はエイトなのでそんなことはお構いなしなのである!
もちろん聖龍に先立たれた彼が誰よりも辛い思いをしているのはわかるが、いつまでも王様がそれじゃあダメでしょうよ。
メタトロンさんだって結構疲れた顔してたし……勝手なことを言える第三者の立場としては色々と、彼にはSEKKYOUしたいことがあったのだ。
もちろん、「世界樹には寄らねぇぞ……いい加減切り替えられねぇのか?」とまでは言わないが、死人に引っ張られて今にもどこかへ消えてしまいそうな彼の姿を見ると──僕も、悲しいと思った。そんな気持ちである。
「わかっているだろう? 時間の流れはキミを待ってくれないんだ……尤もこれから忙しくなるから、今のうちにその気持ちに踏ん切りをつけておくのもアリなのかな……」
いずれにせよ今後は近々この世界に新たな脅威が迫っているのだから、こうしてアイン・ソフのところには行きたくても行けない日々になるだろうと少し不穏な空気を出してみる。
すると彼も僕の抱えている事情を察したのか、『どういうことだ?』と振り向いて訊ねてきた。
「グレイスフィアが帰ってくる……と言えば、キミならわかるだろう?」
正直、僕はよくわかっていないけど。だけどそう遠くないうちに彼の力を必要とする未来が訪れることは、未来視なんてしなくてもわかっていた。こう、劇場版展開的に考えて。
しかし堕天使君の話を聞いた限りでは、グレイスフィアが初めてフェアリーワールドへ帰還しようとした時には既に、ケテルはこの世界の王だった筈だ。だから僕やダァトよりも今回の事情には詳しい筈……と期待を込めた眼差しを送ると、彼はその指を顎に当てながら、長考して頷きを返した。
『アディシェスの生まれ変わりを名乗るその者の話……詳しく聞きたい』
「オーケー。じゃあ、後はお願い姉さん」
『?』
『?』
? 何その二人して「お前が説明するんじゃないのか……」って顔して……いやカロン姉さんだってグレイスフィアの堕天使君の話を聞いていたでしょ? これもいい機会だと思って、ケテルとじっくり話し合いなよ。キミ、こっち来てからずっと僕の陰に隠れてるじゃないか。
『むぅ……』
むぅ……じゃありません。
唐突にキラーパスを出したのは申し訳ないが、ケテルに話をつけておく役目は僕よりも姉さんがやるべきだと思うのだ。この先のこととか考えて。
まあ……つまるところ僕もダァトも、キミたちがギクシャクしている姿を見たくないのである。オリ主らしいエゴだと思ってください。
『……頑張る』
よろしい。流石は姉さんである。さす姉!
と言うわけで、キミも無意識レベルで滲み出ているその威圧的なオーラを抑えなさいケテル。
『……善処しよう』
……やっぱ似た者同士だよね、キミら。お互いに「因縁の宿敵、会遇──!」みたいな雰囲気出してるけど、これでも二人とも前向きにわかり合おうとは思っているのだから、思わず苦笑してしまう。その不器用ぶりにはダァトも笑っていた。
そんな二人だから、腹割って話し合えば仲良くなれると思うんだ。いや、今も仲が悪いわけじゃないんだろうけどね? 姉さんはケテルのこと大好きだし、ケテルだって姉さんのことを本当に嫌っているわけではない……ハズ。
『…………』
『…………』
……ヨシッ!
多少強引ながら二人の大天使を向き合わせることに成功した僕は、その場から一人離れるように前に出ると、祠の前──聖龍アイン・ソフの眠る世界樹の芯と対面した。
仕方ないんや……こうでもしないとこの二人、一生向かい合わないんだもの。それはどう見ても両想いなのに、告白するのをお互いウザいほど迷っていた前世の姉夫婦よりも面倒くさい二人だった。じれったいぜ。
グレイスフィアの帰還対策会議は若い二人……若くないか。エラい二人に任せるとして、僕は僕で五年前には終ぞ出会うことの無かった龍の神様に対して、慎ましく黙祷でも捧げることにした。
そう思いながらその場に片膝を突いた僕は、両手を組んで祈りを捧げたのだった。我ながら敬虔なオリ主である。
※ここから二人の会話が始まるのに30分かかりました。