TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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世界の修正力って何だよ!

 

 

 青い空。

 白い雲。

 黄金の太陽。

 

 空を見上げれば、太陽の色が少し違う以外は人間の世界である地球とそう変わりはない。空気があることも、重力も地球と同じだ。

 しかし、周りを見ればその世界はまるで違う。

 10の島によって成り立つ地形とその島々を覆う雲の海が、ここが地球ではないことをまざまざと見せつけてくれた。

 

 ここはフェアリーワールド。聖獣たちの住む天上の世界だ。

 

 都会の空気とは比べ物にならないほど澄んでいる。見たことのない植物を始めとする大自然に覆われた領域は、まさに聖域と呼ぶに相応しい景色だった。

 いやあ、まさしく「ファンタジー世界にやってきましたー」って感じだ。

 僕はフェアリーワールドへの念願の到着に心が踊り、この気持ちをハープの音でポローンと表していた。

 

 

 

 ただ、ね……嬉しくないこともあるんだ。

 

 

 ここは、芝生に包まれた丘の上。

 一本の大木に寄り掛かって座れば、生い茂る森林やこの世界の特徴である「雲海」が一望でき、遠くには10の島の中心部である世界樹「セフィラス」が見える。ここからでも見えるってすげー大きさだ。流石は神様アイン・ソフが住む木だわ。

 いざという時は敵の襲撃も察知することができるこの丘は見晴らしが良く、ゲートを潜った先の着地点としては恵まれた地形である。

 

 しかし問題は……ここにいるのが僕と、原作主人公である暁月炎の二人だけだということだった。

 

 炎君? 彼なら寝ているよ? 僕の膝の上で。もちろん卑しい理由ではなく、気絶している彼を介抱しているだけだけどねー。

 

 

 

 

 

 ……いや、どうしてこうなった? 

 

 いや、わかっている。

 こうなった二割の責任は僕とメアの努力が足りなかったからだ。そして残り八割はあの天使のせいだった。

 

 

 時は、少し前に遡る。

 僕と炎が他の三人と逸れてしまったのは、ゲートの中で起こった想定外のアクシデントのせいだった。

 

 空のゲートへ突入し、メアのライディング必殺技「光の精霊鳥(ライトニング・ガルーダ)」でしばらくの間超空間を航行していた僕たちのもとへ、その動向を嗅ぎつけていた聖獣たちが襲い掛かってきたのである。

 

 それ自体は、原作アニメ通りの展開だった。

 

 あれは……原作の話数にすると第17話ぐらいの話だったかな? 炎たち五人は灯が解放したケセドの力「光の精霊鳥」に乗って、空のゲートに突入する。

 しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは聖獣エレメント・ワイバーンの軍勢だった。

 炎たちはフェアリーワールドへ向かう超空間の中で、聖獣たちによる奇襲を受けたのだ。

 カーチェイスさながらの脱出劇で炎たちは辛くも出口まで到達するものの、到着直前になって敵の砲撃に撃ち落とされてしまい、炎と灯、他三人がそれぞれバラバラにはぐれてしまうのだった。

 

 つまりフェアリーワールドへの到着早々、炎たち親善大使護衛隊は強制的に別行動になってしまうわけだ。

 

 辛うじて炎だけは超空間の中でもずっと繋いでいた灯の手を離さなかったので、異世界編の序盤は炎と灯withケセドの三人旅視点で展開していくことになる。

 旅の中で彼らはお互いの絆を深め合いながら、聖獣たちの世界の真実を知っていく……というエモいシナリオになっていた。

 

 しかし、この世界にはオリ主がいる。

 

 ケセド不在という不確定要素がある以上、わざわざセイバーズが不利になる原作の再現をするわけにはいかない。

 確かに原作から外れすぎるのは先の展開が読めずに収拾がつかなくなる危険性があるが、だからと言ってとことん原作沿いに拘るのは、それこそ何の為のオリ主かわからなくなる。

 原作のグッドイベントは頂戴するが、バッドイベントは悉く破壊する。気持ちの良いIFを求める読者にとって、鬱フラグクラッシュはオリ主の使命なのだ。

 完璧なチートオリ主を目指す者として、そこは譲れなかった。

 

 

「くっ……メア、もっと速く飛べねぇのか!?」

「やってみるっ!」

 

 光の精霊鳥(ライトニング・ガルーダ)を駆るメアはゲートの中で原作通り奇襲を仕掛けてきたエレメント・ワイバーンの軍勢と熱いデットヒートを繰り広げていた。超高速で超空間を疾走する足場の上で、炎たちは彼女の横で火炎や疾風を繰り出し、それぞれの遠距離攻撃で敵を牽制している。

 しかし超空間内での機動力は聖獣側に分があり、次第に彼らの口から放たれる熱光線がメアのバリアを捉え始めていた。

 

 やれやれ……僕の出番かな? 

 

 それまでハープの演奏で彼らを応援していた僕だが、いよいよその時が回ってきたようだ。

 このまま行けばメアの精霊鳥(ガルーダ)は撃ち落とされ、原作通りメンバーが離散してしまうか、最悪の場合ここで全員あの世逝きになるかもしれない。

 そんな誰得なバッドエンド、アンチヘイターは許してもエイトちゃんは許しませんよ! 

 

「さて……」

 

 そろそろ狩るか……♠と意気込み、僕は前に出る。

 皆さんお待ちかね、チートオリ主による無双の始まりである。

 そんな僕の初動に気づいた翼が、訝しむような視線を向けてきた。

 

「何をする気だ?」

「なに、手伝おうと思ってね」

 

 これから一緒に冒険することになる炎たちに、僕の誠意を見てもらう必要がある。

 それに……ここらで僕のSUGEEEところを見せておかないと、「アイツ思わせぶりなだけで何もしてねぇな……」と女神様っぽい人に怒られそうだからね。

 

 僕はハープを異空間に収納すると、それと入れ替えるように怪盗ノートを取り出す。

 盗んだ異能を使役する為には必ずしもノートを出さなくてもいいのだが、出しておいた方が精度が上がるのだ。これについては僕の中で「能力を引き出すという意識」がわかりやすく固定されるからだろうと考えている。「フェアリーセイバーズ」の世界における異能とは、創作活動同様イメージが大切なのだ。

 

 あと、ノートを片手に戦うのってくっそカッコ良くね? ぶっちゃけ片手が塞がるデメリットを補って余りあるメリットだと思う。

 

 

闇の障壁(ダーク・バリア)展開……闇の不死鳥(ダーク・フェニックス)と同調」

 

 明宏たちにも使った闇のバリアーでこの身を覆うと、同時に闇の不死鳥を召喚しその上に飛び乗る。引きこもり少女から盗んだ異能「闇の呪縛」の酷使である。

 そうして身に纏ったバリアーを闇パワーで強化し、さらにその他色々の異能を混ぜ込み地球と同じ空気をバリアー内に充満。これで超空間内でも、地球の空と同じぐらい動ける筈だ。

 

 まあ要するに、盗んだ異能でケセドの加護を疑似的に再現したのである。

 予めこのオリ主介入ポイントを知っていた僕は、この時の為に使えそうな異能を集めていたのだ。

 

 因みに、このバリアーの持ち主も引きこもりだった。何だろう? レア異能の持ち主は引きこもりが多いのかな。

 尤もこちらは好きで引きこもっていたんじゃなくて、過剰な防衛意識が少年の異能を暴走させてしまい、自分自身のバリアーから脱出することができなくなっていたという不可逆な引きこもりだったけど……まあ、その辺りのことは追々話そう。幕間の話を頻繁に入れた結果、本筋が全然進まず女神様っぽい人のSSがエタるのはゴメンだからね。

 この手の本筋に関わらないエピソードは、また暇な時に語るとしよう。

 

 さあそんなことより今はオリ主タイムだ。

 

「よく見ておくといい、メア」

「?」

 

 もちろんみんなを乗せた光の精霊鳥(ライトニング・ガルーダ)の運転を最優先してもらいたいが、君にも今一度見せてあげよう。

 

 純粋なチートオリ主のみが成立させる、真実の俺TUEEEを! 

 

 ……どうでもいいけど「TUEEE」を「TSUEEE」って書くと「TSうえええ」って読めて、なんだかTSに拒否反応起こした人みたいになるな。いや、今気づいたマジでどうでもいい話だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく見ておくといい、メア」

 

 

 そう言って光の精霊鳥から飛び出したのは、不敵な笑みを浮かべたT.P.エイト・オリーシュアだった。

 人間が聖獣の加護から逃れ、この超空間に飛び出すなど自殺行為だ。慌てて止めるメアの言葉も待たずして、振り向けば既に闇のオーラに包まれたエイトがメアのバリアから離れた後だった。

 

 ──しかし、エイトの肉体には何事も起こっていない。

 

 人間であれば決して耐えられない筈の超空間を縦横無尽に駆け巡り、エレメント・ワイバーンの軍勢に対し単独で大立ち回りを演じていた。

 これもまた、彼女が盗んできた異能の力なのだろうか? それとも……

 

闇の稲妻(ダーク・スパークリング)

 

 猜疑心が募る一同の前で、エイトは開いたノートのページから漆黒の稲妻を放射する。

 稲妻は発射と同時に拡散すると、それぞれ散開したワイバーンへと襲い掛かり、その身体を的確に撃ち抜いていく。色は禍々しいが、その力はまるで三人のセイバーを苦しめたサフィラス十大天使「コクマー」のようだった。

 

「エイトちゃんすげぇな……」

「ああ……」

 

 怪盗としての悪名はあれど、戦士としての力量は未知数だったT.P.エイト・オリーシュアの実力を目の当たりにして、闘技場のS級闘士である力動長太が素直な賞賛を溢す。隣の炎も……メアもまた、光の精霊鳥(ライトニング・ガルーダ)を操縦する傍ら彼女の動きに見入っていた。

 

 一体でも町に放たれれば甚大な被害を及ぼすエレメント・ワイバーンの複数体を、たった一人で相手取り、圧倒している。覚醒前とは言えワイバーンとは一度交戦しており、その強さをよく知っているメアはエイトの実力に戦慄さえ覚えていた。

 

『よく見ておくといい、メア』

 

 飛び出す際にそう言った彼女の言葉が、メアの脳裏に過ぎる。

 その言葉が示す通り、エイトの戦い方はまるで自らのマジックショーを群衆に見せつけているかのように派手なものだった。その光景で感じた意識の一つ一つが、瞳を通してメアの頭脳へと刻み込まれていく。

 

 そうしてエイトが繰り出す多彩な技の数々を見て、メアはようやく彼女の意図に気づいた。

 

 

「エイトは……メアに、天使の力の使い方を教えている……?」

 

 

 わかるのだ。メアには。

 完全ではないものの天使ケセドの因子が目覚めた今のメアは、彼女が使っている技が自分にも使える技なのだと思い至った。

 闇か、光かの違いはあるものの……稲妻を走らせる程度の技なら、メアにも同じことができる筈だった。

 そう考えると、漆黒の不死鳥を駆る彼女の動作一つ一つがメアへの指南に見えた。

 

「続けていくよ」

 

 漆黒の稲妻で痺れさせ、動きの鈍った敵に対してもエイトは追撃の手を緩めない。

 今度はおもむろに左手を振り上げると、その前方に三体の闇の不死鳥(ダーク・フェニックス)を召喚し、それを弾丸のように射出してみせた。

 

「調合・爆熱……」

 

 ぼそりと詠唱を唱えた瞬間、射出された不死鳥たちが一斉に紅蓮の炎を放ち、赤く燃え上がる。その姿はまさしく不死鳥の名に相応しく、ワイバーンたちの身体に次々と撃ち込んでは炎上させていった。

 

 ワイバーンたちからしてみれば超空間という圧倒的に優位だった筈の戦場で、たった一人の相手に防戦一方である。彼らの動揺は手に取るようにわかり、聞こえる唸り声は目の前の存在に怯えているようだった。

 

「グルル……!」

「キミたちでは勝てない。命までは取らないから帰りなよ……在るべき場所へ」

 

 彼女が涼しい顔で呼び掛けると、鱗とプライドをズタズタにされたワイバーンたちは完全に萎縮していた。

 それはまるで、本能で彼女との「格」の違いを理解しているかのようだった。

 上級と下級。

 高位と下位。

 彼らの間に窺える強制力にも似た力関係の正体を、天使ケセドの知識を受け継ぐメアは知っていた。

 

「天使様、なの……?」

 

 その「格」は、自分のようなまがい物とは違う、本物の天使のものなのだと。

 同じ疑念は炎や翼も抱いていたが……メアがそう思ったのは推理とは違う感覚的な部分で、別の視点から及んだ理解だった。

 

 しかし同時に、メアの中にあるケセドの心は彼女が天使であるという疑いを否定していた。

 彼らサフィラス十大天使はその名が示す通り、全員で十体存在している。

 

 1は王の天使ケテル。

 2は知恵の天使コクマー。

 3は理解の天使ビナー。

 4は慈悲の天使ケセド。

 5は峻厳の天使ゲブラー。

 6は美の天使ティファレト。

 7は勝利の天使ネツァク。

 8は栄光の天使ホド。

 9は基礎の天使イェソド。

 10は王国の天使マルクト。

 

 4の天使ケセドは他の十大天使全員と顔を合わせたことがあり、彼の記憶を受け継ぐメアもまた天使たちの姿を知っている。

 

 そしてその中に、T.P.エイト・オリーシュアの存在から感じ取れる存在はいなかった。

 

 仮にエイトの姿が擬態であったとしても、十大天使同士なら感覚でわかるのだ。

 そのケセドの心が彼女に対して何も感じていない以上、その正体はサフィラス十大天使のいずれかではない筈だった。

 

 ……なのだが、自信が持てない。メアの思考はこんがらがった。

 

 

「メア、今はここを突破することだけを考えよう」

「……うん」

 

 考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃして余計にわからなくなる気がした。謎を解明すると、別の謎が生えてくる。わけがわからなかった。

 そんな心情を見かねた炎の指示に頷き、メアは首を振って前方に集中する。

 

 彼女が何者であろうと、一緒に来た以上彼女も仲間だ。

 そして仲間である以上、とても頼もしい存在であることに違いはなかった。

 

 エイトの奮戦により光の精霊鳥(ライトニング・ガルーダ)の操縦に専念することができたメアはそのまま一気に加速し、後ろの追っ手たちからみるみる内にその距離を空けていった。

 

「よし、行けるぜ! 羽トカゲ共め、ざまあ見ろ!」

 

 品の無い長太の雄叫びが響く。

 超空間の向こうから、まばゆい光が差し込む。出口が近づいているのだ。

 

 これで、無事にフェアリーワールドへたどり着く。一同が安堵した──その時だった。

 

 

「……っ!? メア、避けろ!」

「えっ?」

 

 ──横合いから、暴力的な光の奔流が飛来してきたのである。

 

 ワイバーンの熱光線とは比べ物にならない、凄まじい威力だ。

 一番最初にそれに気づいた炎が慌ててメアの前に立つと、その両手から異能「焔」を放出する。

 彼が放出した火炎は飛来してきた光条と真っ向から衝突する──が、数秒の拮抗もあえなく押し返されてしまい、強烈な光の衝撃がメアたちを襲った。

 

「くっあああっ……!」

「な、なんだってんだよおおお!?」

 

 メアのバリアにより辛うじて四人を焼き尽くすことはなかったものの、それでも威力を殺しきることは叶わず、四人を乗せた光の精霊鳥(ライトニング・ガルーダ)はその制御を失い、為されるがまま押し返されていった。

 

 そんな四人の前で、砲撃を放った金髪の天使が舞い降りるように姿を現し──その八枚の翼を優雅に広げた。

 

「コクマー……じゃない!」

「ティファレト……!?」

「何っ!?」

 

 サフィラス十大天使、6の天使「ティファレト」──信じられない者を見る目で驚愕するメアに向かって、「美」の名を冠する金髪の女性天使が右手の錫杖を振り下ろした。

 

 ただ無慈悲に、その美しい瞳に怒りを滾らせて。

 

 

 ──そうして下された裁きの光は、メアたち四人の姿を飲み込んで滅ぼしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……僕がいなければ、の話だが。

 

 まあ致命傷は庇えたけど、完全に守り切ることはできなかったんだけどね。

 

 

 

 はい。そういうわけで僕たちは原作通りはぐれました。

 ものの見事に各自バラバラに、地上へ撃ち落とされたのである。

 

 しかしあの時、急いでテレポーテーションで戻って僕が盾にならなければ、炎たちの存在はフェアリーワールドにたどり着く前に超空間の彼方に消え去っていたことだろう。いやあそれを防いだ僕ってなんて凄いんだ! キャーエイトサンステキ──はぁ……

 

 

 なんてことだ……なんてことだ……! 

 

 無双の余韻が吹っ飛んだわ! おのれサフィラス十大天使! 

 僕にとってそれは望んだ展開では断じてなく、全ては原作には無かった出来事が二つ発生した結果だった。

 

 一つは、超空間の中で妨害を仕掛けてきたのがエレメント・ワイバーンたちだけではなく、サフィラス十大天使の一柱が直々に殺しに掛かってきたこと。

 

 そしてもう一つは、その天使がよりにもよって「ティファレト」だったことである。

 

 サフィラス十大天使6の天使「ティファレト」。

 十大天使の中で数少ない女性天使である彼女は、彼女が出るだけで作画のクオリティーが数段上がることで評判な美人キャラだった。僕も大好き。

 で、その地母神の如きご尊顔ととても素晴らしい母性の象徴を併せ持つ彼女は、天使の鑑とも言うべき穏やかな性格で、ケセドと共に戦ってくれた穏健派の一人だった。即ち、味方ポジである。

 

 ……そんな彼女が思いっきりメアたちを殺しに掛かってきたのだから、マジ怖かった。ビビり過ぎてちょっと漏れたかも。何がとは言わんが。

 いや、そう考えるとよく生きてたよ僕ら。イレギュラー発生にも硬直せず、彼らの助けに入った自分を手放しで褒めたいぐらいである。

 

 しかし、盗んだ異能を組み合わせたチートバリアを持ってしても彼女の大天使ビームを受けきることができなかった僕は、あえなく四人と一緒に吹っ飛ばされてしまい、各自バラバラにはぐれて地上に落ちることになった。

 一番近くにいた炎の腕を引っ張ってこなければ、僕も一人寂しくこの世界のどこかに不時着していたところだろう。

 

 世界の修正力、とは転生オリ主物SSでよく使われていた表現である。オリ主が突飛な行動をしても、何らかの理由で結局原作に沿った流れになってしまうという面白みの無いアレだ。僕は今、まさにそれを受けているような感覚だった。

 何というかまあ、ままならないものである。原作沿いに暴れようと思えば原作と違った展開が起こって、原作から外れようと思った矢先にこの始末だ。何だか物凄く、徒労に終わった気分。

 

 せっかく気持ち良く俺TUEEEを満喫していたというのに……消沈する僕は、気晴らしに膝の上に乗せた炎の髪を弄んでいると、いつの間にか僕の右肩に一匹の小動物が乗っかっていることに気づいた。

 

 おおう、額に輝くルビーが眩しい君はカーバンクル! 伝説上の生き物だ。実に異世界って感じの聖獣さんである。

 

「まあ……これはこれでボクらしいかな。キミもそう思うだろう?」

「キュー?」

「不思議そうに首を傾げるなよー。うりうり」

「キュキュッ」

 

 可愛らしいリスのような生き物は、僕の手にされるがままだ。

 ふはは、モフモフである。いやあ、疲れた心にこの毛並みはよく効く。

 

 ああそうだ、気を取り直していこう、僕。原作通りにみんな落っこちたのなら、この後の展開が予想しやすいということでもあるのだ。

 僕たちがここに落ちた以上、他の三人もこの世界のどこかに不時着している筈。

 

 それに……これはチャンスである。そう、オリ主チャンスだ! 

 

 何故ならば今の僕は原作主人公である炎と二人きり。これはもう、来てますわ。原作主人公のトラブルに巻き込まれる由緒正しきオリ主チャンスが! 

 

 もう一人のオリ主であるメアとはぐれたからこそ、彼と二人きりでいる間は何のしがらみなくオリ主することができる筈。

 フフフ、早く起きてくれよ炎君。僕は彼が目覚めた後、どんなオリ主ムーブをしようか? ワクワクした気分で待ち構えていた。

 




 本作はコメディーなので曇らせ展開はありません。現時点で曇っている奴ならいますが。

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