TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
──時はアビス・ゼロとの死闘から四年後。
12月23日。来年には大学も卒業することになる暁月炎は、翌日のクリスマス・イヴを以て一世一代の決戦に赴こうとしていた。
それは、恋人である光井灯へのプロポーズ。
世界を救った英雄の一人でありながら、炎はその手の知識にはとんと疎く、四年間交際を続けてきた彼女にどのような言葉を伝えれば良いのかわからず、途方に暮れていた。
風岡翼に相談してみれば「何を今更……普通に伝えりゃいいだろ」と投げやりに返され、力動長太に相談してみれば「俺は馬鹿だけどよ……馬鹿だから黙ってることにするぜ!」と、親指を下に突き出し返される始末である。ここ数日は妹分のメアからも「早く結婚しろよ」と言わんばかりの無言の圧力を受け続けていた彼は、刻一刻と迫る聖夜へのカウントダウンにかつてない焦燥に駆られていた。
そんな中、突如として謎の空中要塞が現れ、街や人々を飲み込んでしまう。そして炎たちの前に、見た目はT.P.エイト・オリーシュアにそっくりだが真逆の信念を持つ敵・ダークエイトが立ちはだかる。
……馬鹿みたいなあらすじだろ? ノンフィクションなんだぜこれ。
はい。
僕は今、アニメ「フェアリーセイバーズ」でお馴染みのメインヒロインである灯ちゃんこと光井灯、現「暁月灯」と横並びに座りながら、木陰のベンチで共にソフトクリームを味わっていた。
味はオーソドックスなバニラ味。チョコにしようか迷ったが、やはりシンプルイズベストである! うむ、生き返るぜい。
カバラちゃん? カバラちゃんなら今灯ちゃんの膝の上で寝ているよ。なんだかすっごく安心しきった顔でうたた寝しているもふもふの背中を、灯ちゃんは地母神の如き微笑みをたたえながらトントンとマッサージしている。
まるで宗教画の一つを切り抜いたかのような尊い光景には、女神様っぽい人であるカロン姉さんもニッコリである。僕もニッコリ。
しかしそんなニッコリ笑顔の裏で僕はその時、先ほど彼女からもたらされた情報に言葉を失っていた。
一年前、暁月炎が彼女にプロポーズした……それはいい!
大学卒業まで律儀に待っていたのが何て言うか彼らしいが、やきもきする周りの人たちと灯ちゃんの様子が目に浮かぶようで微笑ましく思う。付き合った後も続くラブコメは名作である。ラブコメじゃないけど。
血生臭い戦いとかとは全く違うけれど、それ以上に大切な戦いにヒーローが悪戦苦闘するのってなんかこう、イイよね! 彼も男の子だったんだなぁとより強く親しみを持てるし、本編後の平和な日常回とはまさにこうあるべきだと思う。
そして、ダークエイト。
ダークエイト。
ダークエイト?
??????????????
それを聞いた瞬間、僕は背後に宇宙を広げてしまったものである。噴出しなかった自分を褒めてあげたい。
姉さんは姉さんで何故か得意げに『エイトは人気者だからな』と呟いていたが、この時の僕にはそんな彼女の反応にツッコむ余裕すら無かった。
だってよ……ダークエイトだぜ? 思わず僕も「……ごめん、もう一度言ってくれない?」と灯ちゃんに聞き返してしまったほどだ。
「ダークエイト。新しい時代の象徴よ! ……って、あの子は言ってたっけ。あれはノリノリだったなぁ。口調が全然違うから誰も勘違いしなかったけど」
灯ちゃんも灯ちゃんで、そのネーミングには困ったように笑うばかりだった。良かった。この子も旦那同様天然気質だから、ギャグ時空に引き摺り込まれたら僕がビュティさんみたいなツッコミキャラになってしまうのではないかと心配していたところである。
しかし、ダークエイト……ダークエイトかぁ……
何だか、凄く日本アニメ祭りって感じの悪役である。びっくりしたけど、そういう趣向も由緒正しき劇場版悪役キャラって感じでいいよね。
ダーク○○とかブラック○○とか○○オルタとか、ヒーローと対になる反転キャラが嫌いな男の子はいません。僕はTS美少女だけど。
──だけど、一つ問おう。なんで僕のダークバージョンにしたし。
そもそも「T.P.エイト・オリーシュアと真逆の信念」ってどういう信念だよ! 完璧なチート悪役でも目指すつもりか? ……悪くないな。いや駄目だろオリ主的に考えて。悪役サイドに立つオリ主もまたそれはそれで需要が高いけど、オリ主とは別に対となる関係無いオリ敵を生やすのはなんか違うのである。
『思うのだが……ダークエイトとはダァトではないのか?』
んん? ああ……ダークエイト、縮めてダート。すなわちダァトということだね。
上手い! メアとアリス、二人併せてメアリースーってぐらい安直もとい天才的な発想である! 姉さんに座布団一枚!
『?』
ボケじゃなくて、素で言っていたのか……そうだよね姉さんだもの。姉さんはいつでも大真面目だもんね。
『……大丈夫か?』
混乱したテンションでごめんね。
あまりにも急なダークエイトの登場には、僕も平静ではいられなかったのだ。やめてよね……灯ちゃんに会えたら是非とも話してみたいこととか色々たくさんあった筈なのに、今はそのパワーワードのことが気になって仕方ないじゃないか。何だよダークエイトって……
仕方がないので、僕はまず最初にその話題から根掘り葉掘り聞き出すことにした。彼女も膝の上で眠るカバラちゃんに気を遣ってくれているのか、しばらくの間この場に留まってくれるらしい。ナイスアシストだカバラちゃん!
アニメ「フェアリーセイバーズ」のメインヒロインでお馴染みの光井灯は、まさしくヒロインのポジションに相応しいトラブル吸引体質である。そんな彼女ならばダークエイトなどという面白そうな存在……もとい奇妙な存在には間違いなく深い関わりがある筈だと、僕は彼女が物語の中で打ち立ててきた数々の実績から察していた。
その期待に、彼女は応える。
「実はその事件には私も巻き込まれて……おかげで私も炎も、二人して約束の時間に遅れちゃったなぁ」
突如として現れた敵・ダークエイトの事件があったが為に、二人の婚約はクリスマス・イヴが終わる直前になってしまったものだと、懐かしむように彼女は語る。
危うく日を跨ぎかねなかったその時刻に──暁月炎はインフィニティーバーストによる全速力で駆けつけると、ムードもへったくれも無い鬼気迫る勢いでプロポーズの言葉を掛けてきたのだと、彼女は薬指にはめた銀色の指輪に視線を下ろしながら言った。
割と酷い話なのだがそれをさも笑い話のように語る彼女の顔は、とても穏やかで……思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。
そしてそんな彼女の顔を見て、僕の心には晴れて幸せ夫婦になった二人に対する惜しみない祝福の他に、二つの感情が宿っていた。
一つは、僕もその時、この世界にいたかったな……というささやかな後悔の感情だ。
自分の意思でアビス・ゼロの封印に費やした時間に悔いは無いが、それはそれとして二人の大学生活とか平和な日常とか、馬に蹴られない範囲で近くから拝んでみたかったのである! 前世の姉夫婦の恋を応援していた時も凄く楽しかったからね。キューピットエイトちゃん再びである。
そしてもう一つは──ダークエイト、お前とんでもないタイミングで襲来してくれたな! という落胆の感情だった。
ベッタベタなネーミングは許す。何がどうして僕の反転キャラになろうとしたのか知らないけど、それも許そう。
だけどよりによって炎と灯ちゃんの婚約間際に来るなよー! 灯ちゃんの心底幸せそうな顔を見るに炎のプロポーズは上手くいったみたいだけど、お前のせいで二人が婚約のタイミングを逃すところだったじゃないか!
……頭が痛い。そう言うと天然なカロン姉さんに心配されるから言わないけど、まさに頭痛が痛くなるような珍妙な心境だった。
「ボクもこの世界に戻ってくるまでのことは、あまり知らないから教えてほしい。何者なんだい? そのダークエイトって……」
突然出てきたダークエイトに台無しにされるようなプロポーズ計画は練り直した方が良いという、サプライズダークエイト理論──実に無茶な話だが、台無しにされずに済んだ暁月炎は大した漢である。正直見直した。頑張ったんだね……今度会ったら改めて祝福してあげよう。
しかし名前はトンチキなダークエイトだが、今の炎や長太たちがいて丸一日掛かりきりになるぐらいだとするならば、相当な実力者だったのだろう。一体どこからそんな人物が生えてきたのかと疑問に思っていると、灯ちゃんは膝の上でスヤスヤ寝息を立てているカバラちゃんの背中を優しく撫でながら答えた。
その顔は依然穏やかだったが……どこか僕に対して気を遣っているのか、説明の言葉を選んでいるようにも見えた。
「……フェアリーチャイルドって言えば、わかります?」
なんだっけそれ?
……いや、わかるよ。うん、わかるわかる。
久しぶりに聞いた固有名詞だったのでパッとすぐには出てこなかったが、うんうんと相槌を打っている間に完璧に思い出したわ。流石は僕の記憶力。さすエ。
フェアリーチャイルド──聖獣の因子を人間に定着させることで、人を超えた力を身に付けさせるPSYエンスによる非合法実験被験者の総称だったか。彼女の妹であるメアちゃんがそれである。
尤もあの子の場合はあの子自身の出生にそれどころではない特殊性があったからか、かつてはともかく今の僕としてはフェアリーチャイルド諸々よりケテルと姉さんの子という認識の方が強かった。僕の姪でもあるからね。
だけど、フェアリーチャイルドか……五年前に調べた時はメアちゃんが唯一の適合者と言われていた筈だけど、他にもまだ隠されていたのだろうか? 或いは後発で新しく生まれてしまったのか……何とも人の業を感じる胸糞悪い話である。
そんな存在を取り巻く事件に題を付けるならば、さしずめ「フェアリーセイバーズ∞外伝 ~もう1人の妖精~」ってところか。そんな子が、どうして「ダークエイト」なんて名乗ったのやら……今度は別の方向で謎が深まったが、思っていたよりもシリアスな話が出てきて僕も真顔になった。
「……察するに、それまで誰も知らなかったもう一人のフェアリーチャイルドが、ダークエイトを名乗って町に襲撃してきたわけか。PSYエンスの残党の仕業かな?」
アニオリ映画では、割とよくある話ではある。お前ら今までどこに潜んでいたんだよってぐらい大規模な悪の組織の残党は、いくら湧いてきても良いですからね……全然良くない早く散体しろ。
そんなオリ主的な僕の超理解はズバリ的中していたようで、灯ちゃんは「ほえー……」と感心の声を漏らしていた。かわいい反応をありがとう。灯ちゃんの生ほえー頂きました。いや別にこの子の持ちネタでも何でもないけど。
「流石ですね……フェアリーチャイルドと言っただけで、全部理解してしまうなんて」
「ふふん、それほどでもあるよ」
しかしPSYエンスの残党がフェアリーチャイルドをけしかけてきたとなると、そのダークエイトとやらは真の黒幕に利用されている系の哀れなヴィランだったのかもしれない。
もしくは「誰が生んでくれと頼んだ……私は私を生み出した全てを恨む!」って感じに自分のルーツに対して逆襲する感じだったのかもしれないが、いずれにせよ名前ほど単純な存在ではないように感じた。
メアちゃんが光の存在すぎるから良かったけど、本来ならダークサイドに立って当たり前だからねフェアリーチャイルドって境遇は。そう思うとダークエイトちゃんもただ悪として成敗されるのではなく、何かしらの救いがあったらいいなと思う感傷が僕にもあった。
「今この町が平和な以上、結末も概ね察しているけど……その子はどうなったんだい?」
「……色々と誤解やすれ違いもありましたが、ダーちゃん……あの子は炎とメアの説得に応えて、誰かを傷つける前に改心してくれましたよ。私も少しだけお話しましたけど、根はメアちゃんと一緒で心優しい子でした。罪状も黒幕に利用されていただけだからって、今はフェアリーワールドでイェソドくん……イェソド様のところで保護観察されています」
「わーお……」
思っていたよりも濃厚な情報が返ってきて、お姉さんびっくりである。
ふむ……どうやらダークエイトは思っていたほどダークではなかったようだ。その脅威が人間世界の歴史に刻まれずに済んだことに、一先ずは安堵した。
まあ、そもそもオリジナルの僕が闇属性だからね! 元々ダークでミステリアスな要素を持つエイトちゃんの反転キャラを目指すには、その子はまだまだ役者が足りていなかったということである。
何なら闇ではなく光、「ライトニングエイト」とかそっちの方がまだ良かったのではないかと思う。いや、それだとなんだか僕の強化形態みたいで嫌だな。
『……そうか……』
そうとも。
てか今、灯ちゃんイェソドのこと君付けで呼ぼうとしたよね? あまりにも自然な感じだったから普段も彼のことをそう呼んでいるのだろう。
サフィラス十大天使を相手に友達感覚で付き合うとは、流石のコミュ力と肝の太さである。今度は僕の方がほえー……と感心する番だった。
うん。RPGで言えば、いかにも「光属性ヒーラー」って感じの庇護欲を誘う見た目をしている灯ちゃんだけど、彼女の本質は寧ろガチガチの「炎属性アタッカー」である。
今の話でもダークエイトの説得には「私も少しだけお話した」と言っていたけど、僕にはそれが謙遜で、実際はガッツリ本筋に踏み込んで相手の改心に関わっていたように思えてならなかった。
『詳しいのだな……アカリとは、初めて会ったのではなかったのか?』
そうだね。
だからもちろん、実際に対面した彼女と創作で見た彼女のイメージとでは違ってくる印象はもちろんあるのだが……僕は目の前の彼女に対して、一目見た時から絶大な信頼を置いていた。
だってよ……あの炎くんがゾッコンで、メアちゃんに感情を与えた偉大なお姉ちゃんなんだぜ?
仮にメインヒロインとして活躍していた「フェアリーセイバーズ」の知識が無かったとしても、今の僕にはその事実だけで十分なんだと思う。
ダァトも「初対面だがボクは既にキミのことが好きだ」と思ってるし。やっぱスゲェぜ……聖獣たらし! ダァトがチョロいとは言ってはいけない。
「ゴロゴロ……キュー」
アニメでもケセドを筆頭に数々の聖獣たちに癒しと安心を与えていた印象に相違なく、彼女の膝の上で寝返りを打つカバラちゃんは母猫に甘える子猫のように喉を鳴らしていた。カーバンクルをダメにする膝枕である。羨ましい。
そんな小動物の野生を失った寝顔にくすりと微笑んでいた彼女は、同じく力の抜けた笑みを溢していた僕の顔と向かい合って、笑う。
それはきっと、平和な日常の中でも際立って穏やかな木陰のひと時だった。
……そりゃあ、炎くんも命懸けでこの笑顔を守ってきたわけである。
何と言っても顔が良いよね。マイフレンドの知識によれば、原作者いわく光井灯という少女のデザインは、「クラスで3番目ぐらいの美少女」をイメージして描かれていたらしいが、とんでもない話である。
フェアリーセイバーズの原作者がいた学級には、ティファレトとかカロン姉さんレベルの美人でもいたのだろうか? ガバガバすぎるランクづけに苦笑を禁じ得ないほど、目の前で微笑んでいる女性の姿はとても美しかった。それには未だあどけなさを残しつつも年相応に成長した大人の色気という──アニメや漫画には無かったバフの影響もあるのかもしれないが、それにしたって彼女の容姿は過小評価されすぎている。
『……おそらくだが、バチカルの美的感覚はダァトが基準になっているのだろう』
厳しくね? 魔王かよ……魔王だったわあの人。
しかし彼にとっては美少女=ダァトのことだから、その辺りの美的感覚がバグってしまったのも致し方ないのかもしれない。まるで幼少期に美少女としか関わっていなかった少年のようなイカレた女性観である。
うーん……彼はまともに恋愛とかできたのだろうか? 家を見た感じ結婚している様子はなかったけど、その辺りの原因がダァトにあったのだとしたら彼女の来来世として僕も申し訳なく思った。
『…………そうだな』
何故言い淀むの姉さん。
『……のーこめんと、だ……』
あっ、そういう言葉の遣い方もできるようになったんだ。
段々と俗世に馴染んできた姉さんの姿に、僕は一人ほっこりしていた。灯ちゃんもほっこりしている。
……って、えっ? 今カロン姉さん霊体化しているんだけど、もしかして君、見えてるの?
「はい。私って無能力者だけど、そういう霊感は強いみたいで」
「すごっ」
『……ああ、汝はケテルと同等の霊感を持っていたのだったな……』
何それ知らん……怖っ。
やっぱり現実で会うと、見知ったキャラクターにもたくさんの発見があるよね。それもまた転生の醍醐味だと、改めてエイトはそう思います。
仮に灯ちゃんが異世界に着いてきた場合、眠っている聖龍の声を唯一直接聴き取ることができる巫女的なポジションで大活躍をしていたかもしれません。そうなるとケテルがより拗れるので最終的な攻略難度は変わりませんが(´・ω・`)