TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
今から6年前には劇場版アニメが公開され、その後も続編や外伝アニメなどの供給が精力的に続いているフェアリーセイバーズシリーズ。
そのシリーズには、現行コンテンツの稼ぎ頭としてソーシャルゲームの存在があった。
タイトルは「フェアリーセイバーズ
劇場版アニメ「フェアリーセイバーズ∞ Nightmare Reincarnation」が公開されて間もない頃、iOSおよびAndroidにてリリースされた基本プレイ無料のコンピュータRPGである。
プレイヤーは漫画・アニメで馴染み深い「フェアリーセイバーズ」の世界を生きる記憶喪失の「迷い子」として様々なキャラクターたちと出会い、自らのルーツを探して突如地球に発生した「異界」ダンジョンを巡ることとなる。
ゲームシステムとしてはターン制のコマンド式バトルを採用しており、プレイヤーは、最大4名のキャラクターから一つのパーティを編成して操作することになる。
プレイアブルとなるのはフェアリーセイバーズシリーズの原作でもお馴染みの「暁月炎」や「光井メア」といったキャラクターのほか、本作のメインコンテンツであるメインストーリーで活躍するオリジナルキャラクターたちが多数実装されている。
そんなキャラクターたちはそれぞれ異なる「属性」と「ロール」を持っており、属性には火、水、風、木、鉄、光、闇の7つが存在し、「ロール」にはダメージに特化した「アタッカー」やパーティメンバーの火力を補助する「バッファー」、相手のステータスに干渉する「デバッファー」、またはHP回復やシールド付与といった耐久性に秀でた「ヒーラー」や「タンク」などが存在する。
こちらもRPG界隈ではお馴染みのオーソドックスなシステムと言えるだろう。
本作のメインストーリーは「
また、やり込み要素としてはプレイヤー同士で直接ぶつかり合うPVP要素こそ実装されていないものの、定められたターン数以内に敵を倒すことを目的とする特殊バトルや「
──そう、廃課金者。
群雄割拠、治乱興亡たるソシャゲ界隈の例に漏れず、本作「フェアリーセイバーズ
ストーリーに魅力的な新キャラが登場する度に、人は無慈悲な確率に翻弄され、いつかは、やがてまたいつかはと欲望のまま自らのサイフポイントを支払っていく──それによってもたらされる養分もとい利益によって、この世に数多ある基本プレイ無料ゲームの運営は成り立っているものなのだ。
そんなごく一般的な闇深きソーシャルゲームの一作「フェアリーセイバーズ
大手企業から鳴物入りでリリースされたゲームが1年と持たずサービスを終了していくことも珍しくない業界で、本作が今も人々の支持を受け続けているのは「フェアリーセイバーズ」というIPが元々持っていた人気もさることながら、運営がサービス開始から今に至るまで飽くなき改良を続けてきた経営努力の賜物だろう。
特に初動のマーケティングについては6年前の映画公開によって引き上がったファンの熱が冷めやらぬ内に、「美麗なグラフィック!」「豪華声優陣!」「原作者監修! 書き下ろしシナリオ!」という売り文句で多くのファン層を取り込み、電撃戦から新規ユーザーの定着に成功したのが大きかった。
それは映画の公開とゲームのサービス開始、いずれかが一月でも延期してしまえば実現することがなかった相乗効果である。
そして何より、ファンの間で大きな反響を生んだのは原作者千葉流火氏の存在だろう。
世界中の大手企業が参戦し先鋭化した現代のソシャゲ界隈では、美麗なグラフィックと豪華声優陣という売り文句はもはやあって当たり前な前提条件である。故にそれだけをゲームのウリとするのは些か心許ないところだったが、実力が担保されたシナリオライターの存在は非常に大きなものだった。
人々は困惑を抱えながらも「マオウサマミズカラガ!?」「サスガダァ……」と期待に胸を膨らませ、実際にお出しされたクオリティーに感嘆の息を吐く。
特にこの頃は漫画家としても復活を果たし、フェアリーセイバーズのサイドストーリー「フェアリーセイバーズX」の不定期連載を開始したばかりのことである。
そんな千葉氏の監修とあっては界隈での衝撃も大きく、映画と漫画、ゲームの監修と積み重なるスケジュールに彼の体調を心配する声も絶えなかった。
しかし彼の存在はデザイン、シナリオ面含めたゲームの本質的なクオリティー向上という面で莫大な成果をもたらし、それまで長く続いてきた「フェアリーセイバーズ」というコンテンツに対してさらなる風を吹き込むこととなった。
それが本作「フェアリーセイバーズ
テレビでも大々的に宣伝を行っている6周年キャンペーン。
今年、アプリをダウンロードし、「迷い子」デビューを果たした少年もまた、このゲームのプレイヤーの一人だった。
今春、志望校への入学祝いとして晴れてスマホデビューを果たした少年は、以前から気になっていたフェアリーセイバーズのソシャゲを始めることとなった。そんな彼は現在、十五歳の高校生である。
彼が初めてシリーズに触れたのは、八歳の頃に放送された「フェアリーセイバーズ∞」をリアルタイムで視聴してからのことだ。両親はそのアニメのリブート前、20年前に放送された無印フェアリーセイバーズの世代であったことから、最終回まで親子仲良く視聴していたものである。
もちろん、それから1年後に上映された劇場版アニメ「フェアリーセイバーズ∞ Nightmare Reincarnation」のことも映画館で見届けており、以後のシリーズの動きも追ってきた7年来のファンであった。
友情、努力、勝利──彼にとって多感な時期に触れたそのアニメから受けた影響はあまりに大きく、「フェアリーセイバーズ∞」の存在はこれまで視聴してきた数あるアニメの中でも特に思い入れ深いものとなっていた。
何より……性癖的なダメージが大きかったのである。
好みのタイプはつかみどころのないクールでミステリアスな年上女性。胸はあまり大きくなくていい。それが少年だった。
彼のような中学生や高校生となれば、IPPAI-OPPAI=僕元気な年頃であろう。
大は小を兼ねる。大きいは正義。胸が大きい奴は器も大きい等々……なるほどそれは確かに道理である。
少年の周りでも軟派な男児たちの間ではちらほらそういう会話が聞こえたものであり、それを耳にした女子たちが「ちょっと男子ー」と軽蔑したり面白がったりするのは様式美でもあった。
だが、しかし。
やはり高校生……高校生はレベルが違う……!
入学式からしばらく経って新たな学校生活に慣れた頃、少年は内申点目当てで門戸を叩いた生徒会室で日々繰り広げられる先輩たちの熱い討論に、これまでの人生にない衝撃を受けていた。
「いや、それより幼女時代のメアちゃんだから可愛いの」
「はあ!? 夏服エイトちゃん超えられねーし!」
「テレ顔メアちゃんディスるとは屋上だな!」
「8ィ!? そっちこそふざけんな!」
「いや、それよりマルクト様を……」
「……成長しないっていいよね」
入試倍率が高く、全国的な偏差値は割と高い方にあるとある進学校の生徒会室。放課後となった今──そこには乙女ゲームや少女漫画もかくやとばかりに顔立ちが整った6人の男子生徒たちが円卓を囲み、会議を行っている光景があった。
ある者はホワイトボードの前で熱弁を振るい、ある者は卓を叩いて反論の声を上げていく。生徒会室で行われる学内会議としては理想的と言える活気に溢れた様子だった。
一つの議題に対して身振り手振り全力を尽くしていく姿勢は、まさに全校生徒の模範と評してもいいだろう。話の内容に触れなければ。
「いや、それはそうだけど! 俺らエイトちゃん派にそんなこと言われても困るんすよ。ミニスカガーターとかエッチすぎたし」
「もうトロピカル☆エイトちゃんの話はいいから!」
「それよりもみんな、語ることがあるだろ? ん? ……テメエら元気なカロン様に少しは触れろや!!」
「フェアリーセイバーズの性癖キャラについてみんなで議論するけどいいね!? 答えは聞いていない!」
「途中休憩にビナー様も頼むぜ」
「エイトは全部後回しだかんね!」
「な、なんでだよ!? 俺なんか6周年キャラがエイトちゃんだって知って椅子から転げ落ちたぐらい歓喜したってのに! こんなの絶対おかしいよ!!」
カロン様には敬意を払いたまえ……と誰かが呟いた声を片隅に置きながら、少年はヒートアップしていく先輩たちの会話をBGMに手元の書類の束をコツコツと纏めていく。
この光景を見ると新入生に仕事を押し付けてアニメ談義に花を咲かせている酷い先輩たちに見えるかもしれないが、一同も口を動かしながらその手は夏休み前の書類整理をこなしていた。
何ならまだ不慣れな新入生である少年が間違えた時には即座に的確なアドバイスを送るほどには、デキる先輩ムーブをこなしてくるのだから始末に負えない。マルチタスクの無駄遣いである。
そんな彼らの白熱した議論を諫めたのは、いち早く自分の仕事を終えていた生徒会長である。そんな彼の推しキャラはティファレトと女子大生時代の光井灯。包容力のある胸の大きな女性が好きという極めて素直な性癖だった。
「お前ら騒ぎすぎだ。貧乳派はこれだから困る」
「一般性癖は黙っていろ! 普通の生徒会とはやり方が違う!」
「むう……」
「いや歳上女性は一般性癖でしょう、常識的に考えて」
「む。やるな、新入り!」
少年を含む生徒会長メンバーの大半が貧乳派であるこの生徒会では、一般的には多数派である会長の性癖はややマイノリティ寄りである。
そんな肩身狭そうな様子を見かねた少年が後輩という立場から助け船を出すと、先ほどまで声を荒げていた副会長がたが一様に感心の顔を浮かべ、会長が「な? コイツ誘って良かっただろ?」と得意げに笑った。何故に。
「さて、夏休みまでまだあるし今日の分はここまでにしよう。ああそう新入り、お前も
「あ、助かります」
「おお、新入りもやってるのか! どうだ? もちろん星5コインはエイトちゃんを引き換えたよな!?」
「まだ一章の半分くらいです。やること多くてどこから手を付ければいいか迷ってます。あと星5コインは取り敢えず保留してます」
「新人ンンンンン!!! エイトは好きかぁーーーー?????」
「リリー・フンラキーはやめろ」
「このゲームはパーティ編成のバランスが大事だからな。特に序盤は育成リソースがカツカツだから育てるキャラはある程度絞った方がいいぞ!」
「寧ろ一番面白い時でもあるけどね、限られた素材でやりくりするのは。煮詰まるとどうしても作業ゲーになりがちだからな」
このキャンペーン中、ソーシャルゲーム「フェアリーセイバーズ
恒常星5キャラの入手手段は基本的に限定ガチャの擦り抜けで闇鍋の中から引き当てるしかない為、狙い通りのキャラを獲得するのは困難な仕様となっている。
そのため引換コインの存在はプレイヤーにとっては数少ない推しキャラの入手手段となっていた。
もちろん、コインは他キャラとの兼ね合いを吟味した上で大事に取っておくのも一つの手だ。少年は後先考えるタイプのプレイヤーであった。
……と言うよりも、一番欲しかった推しキャラは既に確保済みなので他に対する所有欲が落ち着いていたといったところか。
ゲームの6周年を記念する限定ピックアップガチャ。その目玉を飾るキャラの名は【T.P.エイト・オリーシュア(SUMMER STYLE)】、通称「夏服エイトちゃん」である。
ソーシャルゲーム特有のいつもと違う特別なコスチュームに身を包んだ怪盗天使ことT.P.エイト・オリーシュアの新たな姿こそが、少年がこのゲームをダウンロードした最大の理由だった。
かの怪盗は7年前にこの心を盗んでいったあの頃と何も変わらず、少年の衝動を掻き乱していた。つまるところ彼の推しキャラは7年経っても美しく、カッコ良く、可憐で、叡智だったのである。
そんな夏服エイトのリセマラを完了している少年が次なる悩みとして抱えていたのは、限定ガチャから引いたこのキャラをどう活かしていくかという問題だった。
「リセマラで夏服エイトは確保したんですけど、編成はどういうのがいいんですかね?」
このゲームはキャラ単体の性能だけでなく、パーティを構成する4体の相性が重要である。
基本システムはシンプルながら、総数100体を超える実装キャラたちで組むことができる編成の幅は非常に幅広く、その辺りの程よい奥深さが本ゲームが激戦区のソシャゲ業界を生き延びてきた一因となっていた。
そんな少年の現在のパーティ編成がこれである。
【T.P.エイト・オリーシュア(SUMMER STYLE) T.P.エイト・オリーシュア(カロンフォーム) ビナー 暁月炎(袴)】
とりあえず、強そうな星5キャラで固めてみたという具合である。
先輩たちに促されてスマホを開いた少年が現在のパーティを披露すると、彼らはうんうんと優しい目で応じてくれた。親身だったがちょっと気持ち悪かった。
「うむ、全員アタッカーとは潔い」
「袴炎にカロンフォームだと!? すり抜けで限定キャラを3人引けるとは屋上だな!」
「リセマラ、がんばりました」
「このゲーム、リセマラ1回辺り30分ぐらい掛からなかったか?」
「周年のガチャは限定キャラもピックアップされるから助かるよねぇ」
いずれも現在開催中の夏服エイトがピックアップされている周年記念ガチャからすり抜けてきたキャラたちである。
このゲームは節目のガチャに過去の限定キャラが排出されるタイプのゲームだったのだ。それも目玉となる新キャラとピックアップの枠を食い合う形ではないので、この手のガチャの中では良心的な方かもしれない。
「他の3人も限定だったんですね。どーりでスキルの演出が派手だと」
「袴炎は最初の正月、ビナーは3周年の看板で、カロンフォームは1.5周年だったかな」
「ビナー様が3年目で実装って、随分遅かったんすね」
「メインストーリーは学園組以外基本ゲームのオリキャラで回してるからな! 原作キャラがどんなタイミングで実装されるかは……お楽しみって奴だ」
「ほえー」
外伝という立場のゲームとしては、ガチャの販促をしつつ過去の人気キャラに頼りきりにならないようにと長寿コンテンツとしての工夫が窺えるところだ。
だがそれはそれとして原作「フェアリーセイバーズ」シリーズのレギュラーメンバーによる集客、集金力は根強いものがある。エイトはその象徴だった。
「限定キャラは確かにみんな強いが、それだけで固めればいいってわけじゃあない。恒常キャラや低レアも、案外出番があるのよね」
「リリース当時は低レアのハーンフさんが長いこと環境だったな……」
「回復と同時にバフを配れる全体ヒーラーに隙は無かった」
そんなこんなでフェアリーセイバーズファンの集会場になっていた生徒会室では、新入りの少年はリアル「新人さんだ! 囲め囲め!」な目に遭っていた。
その時間は少年にとって悪くないものであった。
先輩たちは時々このように洋画の吹き替えボイスのようなテンションでヒートアップすることもあるが、基本的には優しい人たちであり、彼らには新人プレイヤーである少年の前ではネタバレをしない配慮をしつつ、今後の進め方について大きなお世話にならない程度に助言してくれる良識があったのだ。
──それから数日後の休日、品行方正な少年はリビングのソファーに腰を沈めながらゲームを進めていくと彼らの語っていた言葉を反芻していた。
それはこのゲーム、いかに限定キャラであろうとテキトーな編成だとある程度のところで行き詰まるという助言だった。
「……と、流石に苦しくなってきたな。ゴリ押しプレイもここまでか」
初めの頃と比べて段々とクリアタイムが長引くようになり、パーティメンバーの何人かが戦闘不能にされることが増えてきた。流石に最新の限定キャラである夏服エイトは生き残っているが、現状のパーティ編成では彼女のポテンシャルを活かしきれていないのは明白だった。
石も貯まってきたし、ガチャを引いて戦力を補強するか……? いや、この6周年キャンペーンでは後半に、この夏服エイトの他にもう1人限定キャラが来ると予告されている。
そのキャラの名は【カロン(SUMMER STYLE)】。原初の大天使ダァト(現エイト)の姉であり、かつての映画でも大活躍をしていた光井メアの母でもある。
夏服以外にも既に何着も限定衣装を貰っているエイトと違って、カロンは6周年目にしてようやくの2着目が実装とのことだ。こちらの期待が高まっている今、少年は可能な限りガチャを回す為の石を確保しておきたい心情だった。
「今ある石は、カロン様に取っておきたいな……穴埋めになりそうな低レアキャラはいるか?」
夏服エイトのすり抜けで引いた星5キャラたちは、その全員がアタッカーである。全員好きなキャラだからこそホクホク顔でリセマラを終了したものだが、編成としては論外なほど噛み合わせが悪かった。
そんな時、先輩たちが言っていた「強い低レア」の存在を思い出すが、少年は何とも言えない微妙な顔をした。
「ハーンフ……ハーンフさんかぁ……」
原作での出番は全部合わせても数分と無いちょい役のモブキャラ、ハーンフ・リー。
……嫌いなわけではないが、正直言ってもっと他にいないのかという気持ちは拭えなかった。
故に参考がてら一旦アプリを落とし、横のアイコンから動画サイトを開くことにした。
こういう時は解説動画を見るに限るという、極めて現代っ子的な判断である。
「フェアリーセイバーズx3」関連の動画を検索してみるとガチャに爆死して咽び泣く白饅頭クリーチャーのサムネイルが何故か上に表示されるが、今見たい動画ではないので華麗にスルーする。
すると少年は、おあつらえ向きに6周年キャンペーンから始めた初心者に向けられた「無課金初心者おすすめキャラランキング」なる動画を見つけることができた。
再生数も多く、ざっと目を通したところコメント欄の治安も良い。これなら信用できそうだと、少年は寝転がりながらその動画を再生した。
『6周年から始めたけど、やることが多くて困っている初心者迷い子のみなさーん! メインストーリーも高難度コンテンツも、とりあえずコイツらを育てておけばオールオーケー! ゆかりお姉さんがおすすめキャラベスト6を紹介しますよー!』
ほう……ゆかりさんですか……大したものですね。
おそらく界隈では最も引っ張りだこな生首では無くボーカロイドによる解説動画と来て、少年は奥ゆかしく目を細めた。
おそらく投稿者の手で描き下ろされたのであろう、T.P.エイト・オリーシュアを彷彿させる黒衣のオリジナル衣装に身を包んだ紫色の髪の少女の立ち絵は彼の精神を一目で充実させてくれた。
少年はボーカロイドの中ではゆかりさんが好きだった。理由はその慎ましいお姿である。
そんなゆかりさん実況によるランキングはまだるっこしい前置きや茶番が無く、さっさと本題に入ってくれる迅速さが好印象に映った。
『第6位、ダークエイト』
早速名前が上がったのはアニメ「フェアリーセイバーズ∞」には登場していない本ゲーム初出のオリジナルキャラクターの名前だった。
しかし少年はそのキャラの存在は以前から知っていた。
その情報が初めて公開された時、広告やプロモーションビデオが話題になったからだ。
後に放送された年末の特番アニメでも大々的に登場した彼女の姿は、少年視点でも中々にインパクトのあるものだった。
自らダークエイトを名乗る彼女はエイトとは似ても似つかない高飛車な性格をしており、ゴスロリ衣装を身に纏った金髪ツインテールの可愛らしいビジュアルは独自の人気を博している。
そんな彼女のことを、動画のゆかりさんは初心者へのネタバレ配慮をしつつゲーム内での性能視点で解説していった。
『ダークエイトは夏服エイトちゃんの実装で注目度が上がっている闇属性アタッカー! リリース2年目のクリスマスイベントで実装された初の星5配布キャラですね! 当時は限定イベントのため再入手できないキャラクターとなっていましたが、現在はメインクエストの第一章クリアで解放される常設イベントからいつでも入手することができます! 本イベントシナリオは魔王様書き下ろしの神シナリオと名高いので、フェアリーセイバーズの原作ファンは絶対にスキップしないでくださいね! 3年前にはアニメ化もされているストーリーですが、マジおすすめです!』
なるほど……そう言えばメインを進めていた時なんか解放されていたなと、常設イベントの存在を思い出す。
少年としてはまずはメインストーリーが終わってからと寄り道をしないようにしていたが、有用な新キャラの入手方法はガチャだけに留まらないようだ。
『こちらのダークエイト、ダーちゃんはイベント配布キャラのため見た目のステータスは控えめとなっていますが、ガチャ産キャラと違って完凸が誰でも容易になっています! そのため、ぶっちゃけ下手な無凸限定アタッカーよりよっぽど火力を出しやすかったりします! 当時はこの子のせいで恒常星5闇アタッカーの皆さんが肩身の狭い思いをしていたものですねー。単体性能が高く育成難度が低いことから、初心者の方はとりあえず育てておけば間違いないでしょう! 何よりビジュが良い』
確かに。
キャラ紹介イラストで浮かべている悪そうな笑顔は本物のエイトとは似ても似つかないが、ゲーム広告やファンの呟き投稿などで麗しいイラストを見ることが多い人気キャラの一人でもあるため、件のイベントストーリーは少年が「フェアリーセイバーズx3」に興味を持つきっかけの一つでもあった。
非常に楽しみだが……惜しむらくは彼女のロールが現状限定キャラで間に合っているアタッカーであることか。
彼が今の編成に求めている補強ポイントからすると、そこまで優先度が高いとは言い難かった。
『第5位、光井メア』
ダークエイトの紹介をした後、ゲーム内の耽美なイラストと共に次のキャラが紹介された。
次にゆかりさんがおすすめしてきたのは少年も持っている……いや、本作「フェアリーセイバーズx3」のプレイヤーであれば一番最初に入手することとなる実質主人公キャラクターだった。
『はい、第5位はこのゲームの事実上の主人公にしてメインアイコン。みんなの妹でありお姉ちゃんでもあるメアちゃん先輩です! いやあー、あのメアちゃんが立派になって……! 何を隠そう私がキュービックを初めたのは、このゲームのコンセプトが主人公が赤ちゃんになってメアちゃんさんに甘やかされるゲームだったからなんですよねー!』
……屈託の無い笑顔を浮かべるゆかりさんの口から飛び出してきた変態的な発言に意表を突かれながらも、少しだけわかるような気がしてしまったのが少年である。
そう、実にフィルターのかかった表現ではあるが、このゲームのメインストーリーはまさにそんな感じの内容だったのだ。
プレイヤーの現し身である「迷い子」は、人間世界に突如として発生したフェアリーワールドとは全く異なる別の異界、「ダンジョン」で発見された正体不明の記憶喪失者である。
背中に羽のついた見た目は天使に似ているが、フェアリーワールドの天使ではなく、もちろん人間でもない。そんな何者でもない主人公が自分のルーツを知る為に様々なキャラクターと関わっていく──というのが基本的なシナリオの大筋だった。
……で、そんな主人公のことを発見した人物というのがセイバーズとしてダンジョン調査に訪れたメアである。
時系列的には映画「Nightmare Reincarnation」の前後あたり。十五歳になりテレビシリーズの経験を経て逞しく成長した少女メアは主人公の良き姉貴分として活躍し、彼女の献身的で世話好きな新しい一面を目にすることとなった。
プレイヤーのアバターとなるゲーム主人公の外見年齢は十三歳ぐらいでそこまで彼女と変わらないのだが、記憶喪失故に無知で情緒の幼い行動はプレイヤーから「赤ちゃん」と呼ばれるに足る危ういキャラ造形となっていた。
因みに性別は男女選択式でどちらとも見た目は凛々しい美形なため、こちらもこちらでコアなファン層を開拓していたりする。特に女主人公の方は薄い本界隈もなかなか活発であるという余談だ。
『そんな迷い子のお姉さん、メアちゃんさんは現時点で配布に恒常、限定とたくさん実装されていますが、今回おすすめするのはチュートリアルから加入する配布キャラの方ですね! 最初にパーティ入りする星5キャラだけあって、初期キャラながらバランスの取れた性能となっています! そして何より特殊なのがストーリーを進めていくごとに解放される特有のロール・チェンジ・システムです! はい、原作アニメで披露した三形態へのフォームチェンジが再現されているんですよね!』
三種のリボンからそれぞれの大天使の力を引き出す光井メア独自の力。
映画でも惜しみなく披露してくれたその能力は、このゲームでも贅沢に再現されていた。
『配布メアは編成画面から光アタッカーのサフィラフォーム、風デバッファーのケセドフォーム、鉄タンクのホドフォームとそれぞれの属性・ロールに転換できる独自のシステムを持っています。原作のように戦闘中に自在に変身することはできませんが、それでも序盤の戦力に心許ない新人迷い子さんには手薄な属性やロールの穴埋めに頼もしいキャラとなりますね!』
『特に無課金プレイや初心者の方におすすめしたいのはタンクのホドフォーム運用です! 限定ガチャを引く時はアタッカーを優先したい無課金初心者としては、配布キャラを貴重な耐久枠に回せるのはとても助かりますね!』
一体のキャラが三種の属性とロールを持つのはまさにメインアイコンキャラの面目躍如と言ったところだろう。少年の現在の進行度としては2番目のケセドフォームまでしか解放されていなかったが、なるほどタンク枠として扱えるようになるのであれば、現状の穴埋めになりそうだった。
『基本性能こそ限定タンクのホドや騎士長太などには劣りますが、こちらはメインクエストで誰でも貰える専用素材から凸を進めることができるため、高難易度クエストでも活躍できるポテンシャルを持っています! 唯一無二のロール・チェンジ・システムから採用できる編成の幅は非常に広く、一家に一台メアちゃんは迷い子の基本ですね! 何よりカワイイ(カワイイ)!!』
それはそう。
ビジュアル的にエイトと並べても炎と並べても映えるのは、まさに魔性の妹と言って良いだろう。その上同年代以下のキャラと並べると一転してお姉ちゃん味も出てさらにお得だと少年はゆかりさんの意見に同意した。
『第4位、光井灯&カバラちゃん』
そして次にゆかりさんが紹介するキャラは、少年が思わず「えっ、何そのコンビ」と呟いた予想外なキャラクター名であった。
切り替わった画面に表示されたのは、冬物のフワフワなコートに身を包んだ栗毛の女性とその肩に乗った毛玉──ヒロインとマスコットの競演にして、アニメ「フェアリーセイバーズ∞」作中では一度も実現したことのないツーショットイラストだった。
『正直、ここは迷いました。非っ常に迷いましたが、4位には恒常星5キャラから火属性バッファー、ヒロインとマスコットのフワモフコンビを推します! 私個人としては2位でも良いんじゃないかなーと思うぐらい、優秀な子たちです』
本編で接点の無かったキャラ同士の組み合わせは、この手のキャラゲーでは醍醐味の一つとも言えるだろう。それが本来どちらも戦うキャラでなかったら尚更だ。
因みに本作ではカーバンクルのカバラちゃんはキャラクターの攻撃力、守備力を向上させる(上限2000ポイント)育成用の強化素材として扱われている。ガチャ演出でも登場するとピックアップ星5キャラが確定する、大変ありがたい幸運の存在として崇められていたりもしていた。
『実装時期は2年目のクリスマスイベント……そう、実はこの子たち、配布でダークエイトちゃんが実装された時に開催された限定ガチャの目玉だったんですよね! 年数が経ったことで最近恒常入りしたキャラになるので、初心者さんが持ってる引換コインでお迎えすることができます!』
名前の時点でプレミア感のあるキャラクターだが、現在少年が温存している星5キャラ引換コインで交換可能なキャラだという。
恒常落ちした限定キャラというと見ようによってはネガティブな印象を受けるところだが……動画のゆかりさんは自信満々に胸を張っており、この光井灯&カバラちゃん、フワフワな灯ちゃんとモフモフなカバラちゃんで「フワモフコンビ」と呼称したキャラクターに太鼓判を押していた。
『これが私のような古参からすると本当に衝撃的でして……実装当時は最強バッファーの一角だったこのキャラは、今でも火属性主体の編成では最強パーティの一枠に入ります! 汎用バッファーとしても十分な補助性能を誇りますが、特に火属性のアタッカーに対しては驚異的なクリティカルバフを掛けることができます!』
やはりと言うべきか、火属性の火力補助に特化した性能デザインは誰を意識しているか露骨にわかりやすいものだった。
「はい、どう見ても旦那と一緒に編成してくださいと言っている健気な性能コンセプトですね! なのでスタートガチャで炎を引いた人や今やってるガチャで運良く袴炎を引けた人なんかは超おすすめです! このランキングでは4位とさせてもらいましたが、炎編成主体で行くなら今後も腐りにくいバッファーなのでマジおすすめです! 何よりフワモフカワイイヤッター!』
フワモフカワイイヤッター!(共振)
おあつらえ向きに強力な火属性アタッカー、暁月炎(袴)を引いているのが少年である。
現状の所持キャラで最強のパーティを作ろうとした際に、虎の子の引換コインを消費する相手として悪くない選択に思えた。
……ただ一つ難癖を付けるとするならば、少年の最推しは炎でも灯でもないことだろうか。フェアリーセイバーズの主人公とメインヒロインのことはもちろん大好きだが、彼がこのゲームをインストールした最大の理由である夏服エイトちゃんとの相性は良くなさそうというのが判断の足枷となった。
というわけで、少年はこちらを引換有力候補としながらも次のキャラ紹介を待つことにする。
『第3位、闇雲アリス』
いよいよ突入したベスト3。
ゆかりさんから読み上げられた名はかつて異能怪盗T.P.エイト・オリーシュアによって救われ、現在は光井灯のクラスメイト。飛び級の天才異能使い闇雲アリスだった。
キャラゲーとしての評価がそれなりに高い本作。映画以降のメディアミックスで度々見せた彼女の性格からして、どのような性能デザインをしているかは大凡察しはついた。
『3位も非常に迷いましたが、こちらもコインで引換可能な恒常星5キャラからエイト様ガチ勢、アリスちゃんがランクイン! それもその筈、なんとこの子はリリース当時から実装されている古株の星5キャラでありながら、未だに最前線で活躍している最優の闇属性バッファーなのです! なにせ6周年の目玉が周年キャラの名に相応しい最強の闇属性アタッカーですからね! 初心者の方が周年キャラを無事引けたなら、相方としてこの子を採用するのがおすすめです!』
光井灯が健気にも暁月炎をサポートするのと同じように、闇雲アリスは闇属性アタッカーであるT.P.エイト・オリーシュア(SUMMER STYLE)を全力でサポートしているキャラであるとゆかりさんは語る。やはりイメージ通りであった。
『特筆すべき点は何と言っても必殺技発動時に展開されるフィールド効果「闇人形の城」! 3ターンの間パーティの闇属性全員の与ダメージ上昇+ダメージカット+ゲージ上昇率アップと恒常キャラの癖にイカれたバフを味方全員にばら撒くことができます』
「つっよ……」
軽く解説されただけでもそれがエラいサポート性能であることは、初心者ながらある程度序盤を進めた少年にはわかった。
『昔から注目されていたフィールド効果ですが、かつてはバフ対象となる闇属性のキャラで有力なキャラがほとんどいなかったため、汎用性で他のバッファーに圧されていた歴史があったりします。当時ハーフアニバーサリーで闇属性としての実装が期待されていたT.P.エイト・オリーシュア(怪盗)も、いざ実装されてみたらまさかの木属性でしたからね! おかげでアリスちゃんは長い間相方不在な不遇の時代を歩んでいました』
あれ、普通のエイト闇属性じゃなかったんだ……と意外な新事実に驚く。
しかしよくよく考えてみると異能怪盗としてのエイトが愛用していた「怪盗ノート」は元々世界樹サフィラから錬成したものであり、表紙にもサフィラの絵が描かれている。そう考えると闇属性ではなく木属性というのも実に拘った原作再現であることが読み解けた。
『ですが今は違う! 6周年キャラを筆頭に闇属性の層が最強に充実している現在では、この子もすっかり人権級のキャラに成り上がりました! かつてはグレイスフィアの子たちにしかバフを配れない悲しい女でしたが、満を持して闇属性のエイト様が実装された今では現環境最強パーティの一角を担います! 夏服エイト様をフルパワーで扱いたいなら完凸を目指してみるのも大いにアリです!』
「うおおおおおおおお!」
今まさに少年が求めていた夏服エイトちゃんとのシナジーに、少年の中で一気に最有力候補に躍り出る。
これも余談だが少年はセールストークに弱いタイプであるが故に、高校生になるまで両親からスマホを買い与えられなかった男だった。
『正直この子が2位でも良かったのですが、メインクエスト四章まではやたらと闇耐性持ちのキャラが多いことからこの順位となりました。この手のゲームは大体光と闇が強いんですけどね……当時は闇属性暗黒の時代でした。闇だけに!』
因みにこのゲーム、エネミーとして登場機会が多いアビスなどは闇属性に設定されていることが多い。同属性同士はダメージが半減されてしまうため、闇属性アタッカーは本領を発揮しにくいのが今少年が苦労している序盤だった。
だが夏服エイトちゃんと共にストーリーを駆け抜けると決めている少年にとって、その程度は取るに足らない逆風だ。闇属性に限界など無い。おお、フルパワーだ。これも人間らしくていいな……俺はアイツとの約束を守らなければならないんだ。
夏服エイトのポテンシャルを最大限引き出すサポーターとして、とりあえず引換コインの使い道は決まったなと少年は頭の中で新たなパーティ構築を形にしていった。
そんな中、画面は切り替わり、アリスよりもさらにおすすめ度の高いキャラが発表される。
『第2位、ハーンフ・リー』
はい、次。
……と行きたいところだが、少年は飛ばさず動画を続ける。
ガチ勢の先輩たちもこぞって「ハーンフはいいぞ」と言っていたが、ここで彼の具体的な強みを学んでおくのは今後のプレイで参考になるかもしれない。
というか少年は「ネタなのでは?」と、先輩たちには悪いが真偽そのものを疑っていたのだ。
そんな少年の怪訝な眼差しを読み取ったかのように、動画の中のゆかりさんが続けていく。
『はい、既プレイの方には毎度お馴染み、初心者の方は困惑すること間違いなしのおすすめ2位はこの男! ハーンフ・リーさんです! 他の方々の解説動画を見てもわかると思いますが、ネタじゃありませんからね!? ハーンフさんはガチャを回せばいつの間にか完凸している低レアリティのキャラですが、その性能はゲームリリース時から折り紙付きのミスター・キュービックと呼んで差し支えません! ある意味ではメアちゃんさんより主人公と言ってもいいガチキャラです!』
ハーンフさんが主人公のゲームって嫌だな……と無慈悲な意見を抱えながら、少年はその強さの秘密を聞き届ける。
『語らねばならない……ハーンフさんは鉄属性ヒーラー。基本ステータスとしては低レアということもあり全キャラ中最も低い攻撃力となっていますが、その反面低レアながらガチャ産星5キャラにも迫る高い耐久力を誇ります! 高レベルのボス相手に天使たちがバタバタと倒れていく中で、ハーンフさんだけが仁王立ちしていることもままあります。妙に頼もしいですねー!』
『戦闘スキルは全体HP回復+状態異常解除となっています! その回復力は無凸時点では雀の涙しかありませんが心配要りません! 完凸まで進めることで星5キャラ並みの回復量となります! そしてその凸難度も低く、ガチャを回していれば自然に重なっていくことでしょう! リリース当時はこの能力だけで汎用ヒーラーの最右翼に君臨していたほどです!』
なるほど自分自身が生存力の高い全体回復持ちということか。それは確かにどの編成に入っても活躍できそうな汎用性の高さである。
しかもそれほどのヒーラーを入手しやすい低レアの身で実現できるとなると、確かに無課金初心者にはとりあえず育てておけと言うのは道理だった。
『そして最も恐ろしいのが彼の必殺技「調・合神拳!」です! 相手に与えるダメージは無いに等しく、かつては通称「クソザコパンチ↑↑」と揶揄されていましたが……強化クエストによる魔改造を6年間受け続けた結果、現在ではこれを食らった相手を高確率でスタンさせ、確定で味方全体のスピードを上昇させついでに必殺技ゲージを回復することができます!』
なんて???
『はい、もはやツヨツヨパンチですね! この男、低レアの分際でデバッファーとバッファーも兼ね備えたスペシャルな性能をしているのです!』
強化クエストというのは、基本的に新規キャラの方が性能が高くなりがちなソシャゲにおけるインフレ対策、すなわち古いキャラのバランス調整である。キャラに応じた特別なステージをクリアすることでそのキャラの必殺技効果を強化する──という長寿ゲームならではのシステムだが、リリース当時から実装されていたハーンフ・リーは見事その恩恵に預かっているらしい。
誰でも簡単に入手できるキャラとしてはあまりに破格な盛りっぷりに、少年は大丈夫かこのゲームと驚きを通り越して不安を感じたほどだった。
『特にバフ効果がスピードと必殺技ゲージというのが憎いですねー。キュービックに限らずこの手のコマンドバトルではありがちな話ですが、敵に対して効率的にダメージを与えるのは一発の火力よりもいかに多く相手をぶん殴れるかという手数の方が重要になっていきます。もちろん攻撃力やクリティカル率も大事な要素ではあるのですが、スピードとゲージ上昇の2点はこのゲームでも特に重要になっています!』
『また、意図的なバランス調整のためかサフィラス十大天使のような高スペックのキャラは強力なステータスやスキルを持つ反面、「必殺技ゲージを溜めにくい」という共通の弱点を抱えています。だからゲージ回復をサポートするバッファーの存在が大切なんですよね!』
『で、ハーンフさんの何が凄いかって言うとそのありがたいバフをバッファーではなく、耐久枠であるヒーラーの身分でカバーしてやがることです! おかげでゲージの重い大天使アタッカーをハーンフさんと他の適当なバッファー2人でキャリーするパーティなんかも簡単に組めてしまいます! また、ハーンフさん自身の妙に高い耐久性と鉄属性ヒーラーである点を生かしたカッチカチの耐久編成なんか強いですね! こちらの編成メンバーはハーンフさんにホド、力動長太(王国騎士)、闇雲カケルを加えた本作随一のムキムキパーティとなっております! ガチャの目玉には美少女キャラが目立つ本作ですが、なんだかんだ男キャラが存在感を示し続けているのは良いことですね!』
パーティの汎用耐久枠として使っても強いし、専用編成を組んでも強いと。ここまで来ると、他のヒーラーが肩身の狭い思いをしてるのではないかと心配である。サービス開始時からいる低レアの姿か……これが?
しかしそれはそうとハーンフさんがパンチを繰り出した瞬間、パーティのコクマーやらホドやらの大天使たちが一斉に興奮し出すのは絵面的にシュールに感じた。この手のRPGでは割とよくある光景だが。
『そんな汎用性に優れたハーンフさんこそ、まさに「育てておいて損は無いキャラ」の代表格と言えるでしょう! ただ、流石にティファレトさんやラファエルさんのような限定星5ヒーラーを引けているのであればスタメン当確というわけではありません。特に最近は正月に実装された無印灯ちゃんのようなヒーラーでありながらアタッカー顔負けの火力を出せるキャラが増えていますからね! この動画の趣旨としては入手難度と育成難度の低さからハーンフさんを推せていただきましたが、決してハーンフさんが最強ヒーラーというわけではないのでそこは留意しておいてください』
ああ良かった……流石に星5ヒーラーは星5ヒーラーでさらに上の性能を持っているようで何よりである。
原作でちょい役だったキャラが異様に強いのは面白いが、大物は大物でしっかりと強いのはファンとしてありがたい塩梅だった。
それはそれとして何故ハーンフさんをこんなに強く……? という運営への困惑は拭えなかったが。
『さて、そんなハーンフさんを抑え、栄えある1位に輝いたのは──』
開発の中には、彼に熱心なファンが付いているのだろうか? 心無しかゆかりさんの解説にも熱が入っていたが、そんな彼すらも抑えてこのランキングの頂点──おすすめ第1位に輝いた次なるキャラの名を、彼女は数拍の溜めを置いて読み上げた。
『第1位、T.P.エイト・オリーシュア(SUMMER STYLE)』
知ってた。
『はい。当然ですね!』
限定キャラじゃねーか。
『限定キャラじゃねーかって? いえいえ! 本動画は恒常キャラやイベント配布キャラのおすすめではなく、「6周年から始めたけどやることが多くて困っている初心者迷い子」に向けたランキングですので!
はい。この動画を見ている皆さんなら既に引いているかもしれませんが、サマー・エイト様のことは絶対に引いてくださいね! 引けなかったら引けるまでアカウントを消してリセマラ開始です! 最初に配られたその30連分の無課金石を、エイト様の大切なガチャにぶち込んでください!』
言い方がやらしいな……
『そもそもこのランキングは夏服エイト様前提で作ってますからね! 何ならここで紹介した5人の中から適当な3人を選んでパーティに組み込めば、エイトパーティは形になります! おすすめはアリスちゃん、ダークエイトちゃん、灯ちゃん&カバラちゃんの3人と組んだ新旧ヒロインパーティですね! もちろんアリスちゃん以外のところをメアちゃんに替えてもOKです! その場合はデバッファーのケセドフォームかタンクのホドフォームで運用すると安定しますよ!』
『もちろんフワモフコンビをハーンフさんに替えてみるのも悪くないですが……夏服エイト様はアリスちゃんのバフが最大限載る闇属性アタッカーでありながら、戦闘スキルでは敵に与えたダメージに応じてパーティ全体のHPを全体回復したり、ハーンフさん以上の高倍率バフを撒いてくれるのでヒーラーは間に合ってるんですよね。これが6周年のインフレ……!』
『何よりかわいい(断言)。それ以上の言葉は要らないでしょう! 見てくださいこの短いスカートと涼しげな脇! 普段露出の少ないクールな美少女が見せる健康的な肌にこそ計り知れない価値があると、ワイトはそう思います』
僕もそう思います。
ゆかりさんの述べたハーンフさん以上に熱の入った性能解説……性能解説?に、少年は神妙な顔で頷く。
普段は闇夜をイメージした漆黒の怪盗衣装を纏っているエイトだが、この「SUMMER STYLE」では全くイメージの異なる「蒼」を中心とした明るい色調となっている。
何と言っても目に留まるのはミニスカートから伸びる眩しい太もも──を包む純白のガーターベルトとニーハイソックスである。
個人的にT.P.エイト・オリーシュアの神秘的でミステリアスな雰囲気は普段着ている漆黒の怪盗衣装から来るイメージが大きいと思っており、それを一新してしまうのは彼女の持ち味を損いかねない愚の骨頂だと考えていた。
故に「SUMMER STYLE」の名の通り、日本のクソ暑い夏に適応した新しい衣装に対し少年の頭脳は辛辣に解釈違いと判断する──筈だった。
実際はどうだ? 少年はその姿をCMで目にした時、7年前のあの日画面越しに彼女と出会った時と全く同じ衝動を覚え、気づけばアプリのインストールを終えリセマラを完了させていた。
ああ認めよう。自分は負けたのだと。異能怪盗T.P.エイト・オリーシュアの神秘性に対し面倒臭い解釈を抱えている厄介ファンのことなど、彼女をデザインした原作者の千葉流火氏は誰に言われずとも理解していたのだ。
怪盗を象徴するシルクハットはあえてそのままに。
夏服だから、熱を吸収しやすい黒い衣装から涼しげなイメージのある青い衣装に変えてみる。
夏服だから、露出の少ないロイヤルブルーのマントをメッシュ生地の透き通ったカーディガンに変えてみる。
夏服だから、神秘を闇で包み込んでいたロングスカートをエネルギッシュなミニスカートに変えてみる。
ブーツはパンプスに、足袋はニーハイソックスに、不屈の心はその胸に。
凡人であればそこで衣替えに満足する。しかし、魔王様は違った!
神はミニスカートから露わになったその太ももに対し、ガーターベルトを足すという荒技をもって怪盗衣装から離れたことで喪失した「超越者感」を補完してみせたのである。
ガーターベルトには妙齢の女性が身につけるイメージがあり、男としてはどうしてもこう、妖艶なイメージを抱えているものである。
少女でありながら時に無垢な少年のような一面を覗かせる普段のエイトのイメージからは掛け離れているソレをあえて身につけさせることで、軽装化したことで「少女」に傾き過ぎていた彼女の雰囲気を「どちらでもない」絶妙なアンバランスさへと引き戻したのだ。
その装いにはどこか、原初の大天使ダァト時代の面影も垣間見える。
仕上げとばかりに、彼女がその手に携えているのはシルクハットに加えた日除けとして担ぐ漆黒の日傘だ。
ひとたび開けば怪盗ノートの表紙絵を彷彿させる世界樹サフィラをイメージした紋様が広がっていくその傘は、ミステリアスな貴婦人の要素と中性的な大天使の要素を両立させた神秘的な小道具となっていた。
完璧にして混沌、混沌にして不変。
T.P.エイト・オリーシュアの魅力とは、まさしくそういった形容しがたいアンバランスさにこそあるのだと少年は解釈している。
要するに、少年の性癖はボロボロだということだ。
ガーターベルトから覗かせる不可侵な絶対領域をチラつかせながら、日傘越しに憂いの表情で微笑むT.P.エイト・オリーシュア(SUMMER STYLE)の一枚絵に少年は圧倒され、再び心を盗まれた。
リセマラながらガチャから引き当てた時にはその美しい特別なガチャ演出に「ふおおっ!?」と素っ頓狂な声を上げたものである。後で近所迷惑だったかなと反省したものだが、程なくして父の部屋からはもっとうるさい奇声が聴こえたので直ちに問題は無い。家族は父子揃ってエイトちゃん推しだった。
──それはそれとして。
今しがた見ていた動画の再生時間も、とうとう終盤に差し掛かっていた。
『夏服エイト様の詳しい性能解説は単品で動画を上げているので、良かったらそちらを見てください! では皆さん、良い6周年を! あっ、後半のガチャはカロン様が来るので、その時は彼女の性能次第でこのランキングも大きく動くことかと思います! 結局のところ本作はキャラゲーなので、引くべきキャラは自分の
推しキャラを使うのが正解というのは、確かにその通りだと思う。……今、少し字幕と音声が合ってなかった気がするが。
どんなことでも最終的な決断を下すのはいつだってこの心、他人の意見に従った結果後でこんな筈ではなかったと後悔するのはカッコ悪い生き方だ。
自分はそんなことをしたくない。
自らの手で未来を選び、掴み取る。それが少年が幼年だった頃、あの日出会った「フェアリーセイバーズ∞」の物語から学んだ彼の人生観だった。
「ご飯できるわよぉー、お皿準備しなさーい」
「うーっす」
「なぁにその気の抜けた返事? 乳酸菌足りてないのかしら」
「はーい。……乳酸菌関係ある?」
「あるわよぉ」
食欲をそそる良い香りと共に台所から聞こえてきた母の声が、動画再生中のスマホ画面から少年の意識を引き戻す。
時計を見れば昼の12時、昼食の時間だった。
母の声に従い少年が人数分の皿をテーブルに並べると、完成した料理の入ったフライパンを片手に台所から母がやってくる。
すると母の視線は、少年がソファーの上に出しっぱなしに放置していたスマホのもとへ留まった。
「あら……?」
動画はまだ再生されていたが、そこに映し出されていたのは解説動画ではない。残った時間で「おまけ」として、投稿主が夏服エイトを引いた時のガチャのダイジェスト映像を垂れ流していたのである。
そしてそこに流れていたのは、見るも無残なガチャ結果だった。
軽快なBGMに合わせて次々と映し出されていくコモン×9+最低保証の数々。時折画面が金色に輝いたと思えば当たり前のようにすり抜け、目当てではないキャラが凝った演出から颯爽と現れる。
その繰り返しが天井に達するまで淡々と繰り返されていく光景はこのゲームの暗黒面をまざまざと見せつけてきた。
うわっ、この人引き悪すぎ……すり抜けすら全然引けてない。
天井でようやく1体目とは酷い有様である。
『いくぜ限界突破〜!』
えっ、このザマで完凸まで狙うんですか!? 無茶だ! みすみす死にに行くようなものです!
『ああああ悪魔の力~!』
うわっ……1万円分の課金石をそんな簡単に……大人は汚いな。
無難な動画にしてはやけにコメント数が多いと思ったが、これが理由か!
いわゆる「おまけが本編」という奴である。しかし他所の爆死動画でもあまり見掛けないぐらい引きが悪い。
まだ3凸もしていないのに投稿主の出費が10万円を超えたあたりのところでギャラクティック・ノヴァが爆発し、不朽の名曲と共に本動画は終了となった。THE END。
……いや、しかし、ガチャを全力で回すということがどういうことか身をもって教えてくれたという意味で言えば、この動画の爆破オチは色々な意味でソシャゲ初心者向きと言えた。
見届けた少年がその心に感じたのは、次なるガチャへの期待感ではなく「次は……キミだ!」と言われたかのような嫌なリアル感である。
「こっわ……俺も気をつけよ」
「そうね、お金は大事よ」
ガチャの暗黒面からほんの一側面を見ただけでぶるぶると震えるピュアな少年の姿を横目に、母はテーブルの皿に料理を取り分けながら微笑ましげに忠告する。
他人が爆死した姿はそれだけでもエンターテイメントになり得る愉悦を視聴者にもたらしてくれるが、怖いのは動画を見ているこちらの金銭感覚まで麻痺しかねないことだ。
反面教師にできれば良いのだが、これを「あの人と比べれば俺の課金は大した出費じゃないから……」という方向になると危険な兆候だ。
最初は微課金から始まり、気づいた頃には万札を突っ込むことにどんどん抵抗感が薄れていく。軍資金を稼ぐ手段が社会人よりも限られる学生ならば、特に気をつけなければならない。
世界には自分以上の愚か者がいるからと自らの愚行を肯定してしまえば、やがて待っているのは廃課金者の仲間入りである。
そうならない為の戒めとして、少年はゆかりさんの爆死を心に刻むことにした。
母はそんなソシャゲデビュー間もない息子の初々しい健全さに目を細めると、うんうんと満足そうに頷きながら穏やかに言った。
「まあそれ、私が撮った動画なんだけど」
「マジで!?」
世界は自分が思っていたよりも愚か者に溢れている──まるでヴィランが誕生する時のような独白を胸に、少年が気付きを得た十五の昼である。
久しぶりなので糞長くなりましたがほとんどパロネタなのですまない……
母ちゃんはこっそりやってる配信や同人活動でやたらと儲けてるので家計に影響は無いがそれはそれとしてこの後夫と息子に叱られました。
最終的に少年のパーティは「夏服エイト、カロンフォームエイト、怪盗エイト、アリスちゃん」の4人に決定したようです。多分8周年あたりでダアトが実装されて全員エイトのパーティが完成する。