TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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【回想】そんなことよりおねショタだ(後編)

 事態は急を要する。

 扉を破壊して強引に中へ入り込むと、暗黒の闇で作られただだっ広い空間にそれはいた。

 

「アリス……なのか……?」

 

 一瞬、カケル君の言葉が詰まったのも無理は無い。

 そこにいたのは小学三年生の可愛らしい女の子ではなく、名状し難いウネウネした黒い闇そのものだったのだ。

 

「外なる世界からやって来たのかい? いや……ボクに言えた話ではないか」

 

 違う世界からやって来た転生者が語ることでもないが、アレは何か世界観が違う感じがする。

 見ているだけで引き摺り込まれてしまいそうな、何と言うかSAN値がゴリゴリ削られていくような気がした。

 ふむ、異能「サーチ」発動。ああ、あれ人間だわ。と言うことは、やはりあの中にアリスちゃんがいるのか。

 

「それじゃ、説得は任せたよ。ボクはあそこからお姫様を引き摺り出す」

「はい……! 気をつけて」

「平気さ。お姉さんは強いんだ」

 

 こんなことなら闇対策に光属性的な異能を盗んでおけば良かったかな。いや、それではメアと被るな。オリ主としてキャラ被りはNGである。

 それに、盗んだところで使いどころが限定される異能はページ数の無駄遣いに終わるリスクが高かった。

 

「アアア……」

 

 名状し難い闇から、悲鳴のような声が響く。

 近づこうとするボクに向かって、その身体から闇の触手を打ち出してきた。

 大人しく捕まってやるつもりはない。僕は念動力で自分の身体を動かすことで機動力を底上げし、放たれる無数の触手の乱打を掻い潜っていく。

 彼女はよほど、僕のことが嫌いなのだろう。

 近づけば近づくほど触手の勢いは加速していき、一発脇腹を掠めてしまった。体勢を立て直す為、一旦後退する。

 

「エイトさん!」

「心配無用。掠り傷さ」

 

 ごめん、実は結構痛い。この身体のスペックは基本的に高いが、痛いものは痛いのである。

 僕は服が裂かれ露出した地肌に「ヒーリングタッチ」を施すと、傷口を塞ぎ引いた痛みに安堵する。

 掠っただけでこれとは、あの触手の一本一本が闇で作られた剣山のようなものだということか。

 さて、どうするオリ主。

 

「アリス、もうやめよう!」

 

 苛烈になるアリスちゃんの攻撃を止める為、僕のバリアーに守られたカケル君が必死に呼びかける。そうそう、君はそれでいい。

 どこまで聞こえているのかはわからないが、何事もやってみなければ始まらないのだ。

 SSだって書いてみなければ始まらないのと同じように。

 

「……いや、お前をそんなに追い詰めたのは、オレのせいなんだろうな……母さんがいなくなって、誰とも話さなくなったお前になんて言えばいいのか……全然、頭がまわらなくて……本当に、ごめん!」

 

 念動力で触手の動きを妨害しながら、間髪を容れず稲妻を浴びせる。

 相手は不定形の闇そのもの。案の定念動力の効き目はイマイチだったが、稲妻を放つと触手の動きが僅かに鈍くなったような気がした。

 やはり、光か。

 

「……母さんを轢いた奴は、捕まったよ。異能使いの悪者で、逃げ回った後……セイバーズの人が捕まえてくれたらしい」

 

 定説通り、やはり闇は光に弱いということである。他にも殴ったり水をぶっかけたりと色々な攻撃を試してみたが、一番手応えを感じたのは雷属性の異能により、稲妻のまばゆい閃光を受けたその時だった。

 異世界編に登場する天使たちとの戦いに備えて、多種類の異能をストックしておいた甲斐があったというものだ。

 雑魚敵同様、稲妻を中心に攻撃を組み立てていけば、アレを弱らせることは十分にできそうだ。

 

「オレさ……その時、思ったんだ。オレもいつか、あの人たちのようになりたいって……何の異能も無いオレだけど、お前みたいに、悪いヤツに苦しめられてる人を助けたいと思ったんだ」

 

 だが、盗む際には華麗な動きが必要である。

 力技すぎるのは怪盗というより強盗っぽいし、何よりカッコ悪い。

 

「母さんがずっと、オレたちにしてくれたように」

 

 カッコ良さは全てにおいて優先する。

 これは僕の行動原理の一つであるが、何より僕が思い描く「完璧なチートオリ主」とは、どんな鬱展開だろうと鮮やかにハッピーエンドを奪い取る、最高にカッコいい漢たちのことだからだ。僕はTSオリ主だけどねHAHAHA。

 

「母さんは……お前を恨んでなんかない。お前が無事で良かったって……そう言ってるよ、絶対」

 

 なので、僕は今最高に昂っていた。

 奇妙な話である。今僕がやっていることは本命の原作介入ではなく、言ってみればただの下積みである。

 にも拘らず、これほど高揚している自分の心に僕自身が驚いていた。

 

「……でも、お前はそうじゃないんだよな。許せないんだよな? 母さんを死なせてしまった自分が……誰もお前を責めなくても、お前はお前を許せなかったんだよな……? わかるよ……オレだってそうだ」

 

 そうだな……これはきっと──

 

「悪いのは轢いたヤツだけだと言われても、そんなことでオレたちの気持ちが晴れるわけなんてない。そうだよ……お前の心の闇は、慰めひとつで晴れるもんじゃないんだ……」

 

 ──今こうして、バッドエンドになろうとしている家族を気まぐれで救う自分のカッコ良さに酔いしれているからだろう。

 

「でもな、アリス……決して晴れなくたって、悲しみを分け合うことはできるんだ! 頼りない兄ちゃんかもしれないけど……お前の心の傷は、オレと父さんも一緒に背負っていくよ」

 

 だから──

 

 

「だから……一緒に苦しもう、アリス。オレがついてるから」

 

 

 これからも僕はオリ主していく。

 女神様っぽい人の意志は関係ない。僕自身の意志で。

 

 

「孤独の闇に囚われた絶望の姫よ……キミの異能、頂戴する」

 

 

 鏡の前で何度も練習したキメ顔で、僕はターゲットに予告状を叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、戦闘終了まで掛かった時間はおよそ30分ぐらいだった。

 

 もちろん、当初の想定を遙かに超えた激闘である。

 あまりにも壮絶……と言うか、こちらはアリスちゃんに怪我をさせないように威力を抑えていたのだが、それに対して彼女の闇が頑強過ぎた為、どうしても決め手に欠けてジリ貧になってしまったのだ。

 しかし、そこはチートオリ主たるT.P.エイト・オリーシュアちゃんの真骨頂。

 雷属性の稲妻異能を中心に「調合」や「念動力」、「テレポーテーション」等の異能をテクニカルに織り交ぜることによって、遂に全ての触手を封じることができた。

 戦闘の中で何度か脚や腕を絡め取られそうになるアクシデントはあったものの、その度に稲妻を「調合」した雷属性のハープでぶん殴って切断したので薄い本的な展開は最後まで無かった。残念だったな紳士諸君、僕は触手プレイは好かんのだよ! 咄嗟の思いつきだったが、案外ハープも殴ると痛い。いや、楽器を武器にするのは駄目なんだけどさ。

 

 そうして触手をやり過ごした僕は、後は念動力ジャンプで一気に詰め寄り、闇の中にいるアリスちゃんに触れるだけという状況まで追い込んでいた。

 

 

 しかしその時、アリスちゃん──いや、この城全体に変化が起こった。

 

 

「闇が、吸い込まれていく……? アリスッ!」

 

 城を構成していた黒い闇が、名状し難い闇の元に唸りを上げて吸い込まれ始めたのである。

 もしかしてこれは城の闇を取り込んで、第二形態にでも変身するのか!?と身構えたが、それにしてはどうにも様子がおかしいことに気づいた。

 

 名状し難い闇の姿まで、どんどん小さく収縮していったのである。

 

 追い詰められて闇が強くなったのではない。寧ろその逆……

 アリスちゃんは自らの意志で、ここに充満した闇の全てを抑え込もうとしているのだ。

 

 

「そうか……受け入れることができたんだね……キミ自身の心の闇を」

 

 

 中身が視認できるほど薄れ掛かっていく名状し難い闇の中で、僕はアリスちゃんと目が合った。

 辛くて、悲しくて、憎くて、数多の感情がグチャグチャになっているような、そんな目をしていた。

 カケル君もそんなアリスちゃんの目を見て一目散に駆け寄ったが、無能力者である彼の手では、異能の闇に覆われた彼女の身体に触れることすら苦痛を伴った。

 

「ぐ……! あああああ!!」

 

 彼女の身を覆う闇に触れた瞬間、激痛に苦悶の叫びを上げるカケル君。

 しかし、彼はその手を決して離さなかった。どんなに痛くても、苦しくても、絶対に妹の気持ちを共有してやるのだという意志で、彼はアリスちゃんの身体を強く抱きしめていく。

 

 なんだよお前、カッコいいじゃねぇか……!

 

 本当のヒーローには特別な力なんて要らないのだとすら思わせるその姿は、チートオリ主である僕とは実に対照的だったが……それもまたヒーローだと、賭け値なしに推せる姿だった。

 

「ぅ……! っあああああっっ!!」

「頑張れアリスッ! 負けるな!! オレが……オレがついてるからっ!」

 

 その小さな身体に膨大な闇を取り込もうとするアリスちゃんの口から、もがきあがく悲鳴の声が響き渡る。

 お兄ちゃんはそんな彼女の身体を傷だらけの姿になりながら強く抱きしめ、何度も、何度も励ましている。

 

 彼の行動は彼女の異能に対して、明らかな変化を与えていた。

 

 闇が晴れていく。

 

 城が消えていく。

 

 吸い込まれていく闇は、アリスちゃんの身体と再び一つとなろうとしていた。

 

 異能を盗むのなら絶好のチャンスである。

 それが成功すれば、すぐにでもこの闇を消し去ることができるだろう。

 しかし、僕にはできなかった。

 何だろう。何なんだろうかね……僕はこんなにハートフルな奴じゃなかったと思うのだが……

 

 この「物語」の結末は、彼ら家族の手でつけなければならないような気がしたのだ。

 

 ただ、このままではアリスちゃんよりも先にカケル君が死んでしまいそうなのも確かなわけで──

 

 

「ボクもついているさ」

「!!」

 

 

 ──僕は不躾ながら、手を貸してあげることにした。

 

 異能を盗むのではなく、文字通り「手を貸して」あげたのである。

 アリスちゃんの身体を抱きしめるカケル君の身体を、後ろから覆うように支えてやった。

 同時にヒーリングタッチを発動すると酷使された二人の身体がもう一踏ん張りできるようになり──数分後、闇の城が消滅し、全ての闇がアリスちゃんの身体に収まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 全てが終わった時、僕たち三人の姿は平凡な民家の屋根の上にあった。

 アリスちゃんが作り替えていた闇の城が、本来の闇雲さん宅に戻ったのだろう。

 しかしそんなことを気にしている余裕は今のカケル君には無く、彼は危険な足場を物ともせず僕が抱きかかえているアリスちゃんの元へ駆け寄ってきた。

 

「アリス!」

「大丈夫。疲れているだけだよ」

 

 ご心配無く。ヒーリングタッチを使ったのもあって、アリスちゃんの玉の肌には傷一つ付いていない。ただ、あれほどの力を解放したこともあり、今は極度の疲労に襲われている筈だ。彼女の将来有望な顔は、力無くぐったりとしていた。

 バースト状態の時には気づかなかったが、アリスちゃんは何も着ていなかった。一糸まとわぬその姿は、暴走時の反動で身につけていた衣服が弾け飛んでしまったからだろう。幼いとは言え、流石にそのままでは可哀想だったので僕は慌ててマントを外し、タオル代わりに彼女の身を包んであげた。完璧なチートオリ主は幼女相手にも紳士なのである。

 

 そんな彼女は僕の腕の中でゆっくりと目を開くと、カケル君の姿を見るなり大きな瞳に涙を浮かべた。

 

「おにい……ちゃん……わたし……っ」

「アリス……良かった……」

 

 声は震えていても、彼女には意識がある。

 先ずはそのことに安堵するカケル君だが、アリスちゃんはただただ申し訳なさそうに、ポツポツと言葉を紡いだ。

 

「わたし……イヤだったの……わたしのせいでママ、死んだのに……そうじゃないって、思おうとしてる自分が……イヤだったの……」

「うん……うん……!」

「ひとりに、なりたかったんじゃないの……わたしは……わたしの、こと……っ、ゆるせなくて……」

「いいんだよ……いいんだ……! 許したって! 生きようとしたって!」

「ずっと、眠っていたかった……そうしたらまた、ママにあえるかもって思ってたのに……あえなかったよ、おにいちゃん」

「当たり前だ……当たり前だよバカアリス! そんなことしたら、母さん怒って会わないに決まってるだろッ!」

「そう……そう、だね……」

 

 兄妹のシリアスな話には、空気を読んで口を挟まない。って言うか二人のやり取りにちょっとうるっとしてそれどころではなかったのだ。

 そんな僕は母親代わりをするつもりはないが、腕に抱き抱えた少女を寝かしつけるように静かに揺すってやった。そうすると、アリスちゃんは安心した顔で僕の目を見て、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

「つらくて悲しくてたまらなくても……みんなで一緒に、生きていこう」

「ごめん、ね……お兄ちゃん……」

 

 

 ──ミッション、コンプリートである。

 

 

 

 

 

 

 ただ、僕はお尋ね者の怪盗である。

 もちろんその事後も、色々あったわけで。

 

 まず、一連の流れが終わった後で「遅れてすまない!」とようやく駆けつけてきたセイバーズの人が、まさかの力動長太だったりした。お前管轄外だろなんでいるの?

 そんな彼はアリスちゃんを抱き抱えている僕と疲労困憊のカケル君、証人として前面に立って一部始終を語る闇雲パパを見て事態を把握すると、「えーっと、報告された事件は、勇気ある民間協力者のおかげで無事解決ッ! 感謝の極みッス! また後日、事情聴取に来ますんで……今日のところは休んでください! そんじゃ!」と言い残し、僕が怪盗T.P.エイト・オリーシュアであることに気づいていながら全力で見逃してくれたのである。

 まあ、この時点ではまだアリスちゃんから何も盗んでないしね。カケル君がそう弁護した時は、長太は「言いてぇ! あのセリフ言いてぇよ!」と何やら悶えていた。何だったんだろあれは?

 

 僕が言うのも何だが、治安維持組織の一員としてどうなんだろう?という思いもあったが、彼は原作からしてそんな感じだったので解釈一致である。おかげでテレポーテーションを使わずに済んだ。

 この日は僕も疲れたからね。テレポーテーションを使った先で警察や悪い人たちに出待ちでもされたら、流石にマズかったかもしれない。

 

 

 

 彼の粋な計らいによって見逃された僕は、パパさんとカケル君の強い要望もあって闇雲さん宅に招かれ、その日は夕食を共にすることになった。何ならお風呂も借りたし、途中で起きたアリスちゃんと一緒に背中を流し合ったりしたものだ。役得であるが今の僕の性自認はTSオリ主なので、その行為に性的な何かを感じることは無かった。年齢も年齢なので、仮に感じたら性自認以前にペドフィリア確定である。僕は健全なオリ主なのだ。

 風呂の中では色々と相談に乗ってあげたりした。その結果アリスちゃんに懐かれ、是非泊まっていってほしいと言われたものだが……僕は怪盗だ。そういうわけにはいかなかった。

 

 その日の深夜の内に目を覚ました僕は、仲良く眠る闇雲兄妹の姿を微笑んで見届けた後、一人物音も立てずに寝室から抜け出した。

 

 そして着替えを終えるなり二階のベランダから外に出ようとすると──後ろには、眠っていた筈のカケル君の姿があった。

 

「エイトさん……」

「おや?」

 

 勘の鋭い子である。

 川の字で寝ていたつもりが、カケル君だけ一人寝たふりをしていたのだろうか? あれだけ疲れていて、寝付けなかったわけでもあるまいし。

 抜け出した僕を呼び止めた彼の手には、僕が彼らの寝室に置いていったシルクハットとマントが抱えられていた。

 

「……忘れ物です」

 

 名残惜しそうに、彼はそう言って律儀に届けてくれたが……まあ、僕が置いていったのはわざとである。

 

「あげるよ」

「えっ」

「キミにあげると言ったんだ。同じ帽子とマントは、まだ何着か持っているしね」

 

 それは本当。しかし嘘も吐いていた。

 マントはアリスちゃんが、シルクハットはカケル君がそれぞれ凄い気に入っている様子だったから、最後にサービス精神を働かせたくなったのだ。

 寝る前に洗濯したそれらを二人で仲良く手入れしている姿を見て、なんて言うかほっこりしたのである。こう……僕の存在が、オリ主的存在感を持って二人の絆を繋いだんやなぁって。

 実のところ仮眠をとる前に、アリスちゃんの説得に関しては終始お兄ちゃんに投げっぱなしジャーマンだったので、その辺りオリ主的に気にしていたのである。

 

「……今日一日で、貴方からもらってばっかりですね、オレたち……本当に、ありがとうございました」

「さて、それはどちらだろうね」

 

 貰ったのはこちらも同じだ。アリスちゃんからは寝かしつけた後にちゃっかり異能を貰い受けたし、カケル君からはこの件に関わらせて貰った。

 うん、その報酬として僕が彼らを助けてあげたと思えば、お互いに得をしたので万々歳ではないか。

 そう言って踵を返し、窓を開けて夜風に身を晒す。ふわりとショートカットの黒髪が靡いた。

 うむ、大変心地が良い気分だ。今日はテレポーテーションで移動するよりも、この夜空を念動力ジャンプで跳びながら駆け抜けていくのもいいだろう。

 僕が身を乗り出したその瞬間、カケル君の強い言葉が響いたのはその時だった。

 

「あの……! オレ、貴方のようになりたい!」

 

 少年の決意が込められた言葉に、思わず反応してしまう。

 

「オレも貴方みたいに……大切な人を助けられる人になりたい……オレは無能力者で、一人じゃ妹も助けられなかったけど……そんなオレでもいつか、貴方みたいになれますか!?」

「無理だ」

「……!」

「この先、どんなに頑張ろうとキミはボクにはなれない」

 

 ……うん、びっくりしたが、そんな質問されたらこう答えるしかないわ。

 僕はチートオリ主でカケル君は無能力者。彼が僕みたいになるには、一度別の世界で死んで女神様っぽい人に謁見するところから始めなきゃならないし……そんなことを笑顔で奨められるほど、僕は鬼畜ではない。

 それに、チートオリ主はこの世に二人として存在してはならないのだ。この世界にはメアちゃんいるけどあの子は先輩なので例外です。

 

「と言うか、なってはいけないよ。ボクは怪盗だからね」

「……あ」

 

 そこのところ、大事だかんね? 確かに今日の僕は君らを助けることに乗り気だったけど、そうもキラキラした顔で英雄視されるのは胸の中がムズムズする。

 だから僕は今一度、はっきり言い聞かせる為に振り向くと、彼の頬に手を当てて目線を合わせ、間近に見つめ合いながら伝えた。

 

「誰でもヒーローになれる。簡単なことでいいんだ……傷ついた少年の肩にコートを掛けて、世界はまだ終わりではないのだと教えてあげればいい」

「──っ」

 

 言ってやった! 言ってやった!

 オリ主と言えばコレよコレ! 有名なヒーローの名言を引用するアレである!

 いやはや、よもやこの台詞を言える場面がやってくるとは思わなかったものだ。

 そう言う意味では紛れもなく、カケル少年は僕にとっての救世主であった。

 

「異能なんて無くたって、誰よりも人の弱さを知っているキミなら……そういう存在になれる筈さ」

「……エイト、さん……!」

 

 ヒーローの名言をバッチリ決めた後は、ちゃんと自分自身の言葉も付け足しておくのは忘れない。こうすることでオリ主の誠実さをアピールすることができるのだ。

 ボクはそう言って彼の手からマントを奪い取ると、それを彼の襟元に括り付けてやる。頭には帽子も被せて、小さなヒーローの完成である。

 

「頑張れ、男の子。キミの戦いは、これからだよ」

 

 そう言い渡して僕は、今度こそベランダから飛び出していった。その際、脳内にいい感じのエンディングテーマを流しておくのは忘れない。止めて引く演出、いいよね……。

 

 そうとも、少年の戦いはこれから。

 

 

 そして、僕の戦い(オリ主ライフ)はこれからだ!

 

 

 

 

 




 こういう話を無性にやりたくて始めたのが本作です。
 なお、カケル君の性癖は間に合わんもよう。

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