TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 ……ような、気がします。異論は受け付ける。


チートオリ主介入編
冒険者のハーレム物は序盤で二人旅している時が面白い


 朝、目が覚めると、そこには美少女の寝顔があった。

 

 暁月炎がラブコメの一幕のような体験をするのは、これが初めてではない。基本的に相手側の過失で発生することが多いのだが、クラスメイトの男子たちや力動長太などからはよく嫉妬されたものだ。

 

 しかし、これほどまで心臓に悪い体験をしたのは、おそらくこれが初めてのことだった。

 

「すー……すー……」

「…………」

 

 そんな彼はバッチリ目が覚めてしまった今、その思考に何を浮かべていたかと言うと……フリーズしていた。

 

 と言うか、考える余裕も無かったのだ。

 端的に言うと、脳がバグっていた。

 

 えっ何これどういう状況だ?

 ここは異世界? みんなはどこだ?

 俺はどれぐらい眠っていた? どこで眠って……膝?

 顔近っ、綺麗な顔してるなコイツいい匂いするしなんなんだコイツ、なんなんなんなんだこの感じは……

 

 謎めいた異能怪盗と、間近に見るシルクハットの少女の無防備な寝顔が重なるまで、炎は彼女に膝枕された体勢のまましばらく固まっていた。

 珍しく父と母が生きていた頃の夢を見たかと思えば、現実で初めて目にした光景がこれである。混乱を声に出さなかっただけ、鍛え上げられた彼の精神が人並み外れていることの証跡だった。

 

 

「……ああ」

 

 それからしばらくして、炎はようやく眠る前の記憶を思い出した。

 

 

 ──負けたのだ。超空間を脱出する直前になって現れた、天使の攻撃を受けて。

 

 

 同時に思い出す。

 あの時、全員が死ぬ筈だった。今こうして自分が五体満足なのも、既(すんで)のところで彼女が攻撃に割り込み、バリアーを張ってくれたからなのだと理解している。

 額に掛かる小さな寝息と後頭部を支える柔らかな感触。間近に広がる少女の美貌と慎ましい双丘の誘惑に打ち勝ち、通常の精神を取り戻すまでに掛かった時間は約十五秒である。

 咄嗟に激怒する幼馴染の姿を思い出さなければ、セイバーズのエースである彼とて危なかったかもしれない。

 

 全て計算尽くでやっている魔性の女なのか、ただ単に天然なだけなのか。炎には判断がつかない。

 つかみどころのない女性は、彼の苦手なタイプでもあった。

 

「ん……ん、んん……」

「……T.P.エイト・オリーシュア」

「んー……うん? あ……」

 

 気持ち良く──それこそ起こしてしまうのが気が進まないほど気持ち良い寝顔をしていた彼女だが、炎はこの状況に甘えることなく淡々と呼び掛けてやった。

 三十センチも離れていない位置に彼女の鼻先があったからか、起床を促す為に大きな声を出す必要はなかった。

 少女の名前を呼ぶと、彼女──T.P.エイト・オリーシュアが炎の額に添えていた手を離し、その目を擦りながらゆっくりとまぶたを開いた。

 

 そんな彼女は睫毛の長いエメラルドグリーンの瞳を、膝上の炎の赤い瞳と交差させ──数拍の間を置いて、にこやかに微笑んだ。

 

 

「おはよう、エン。そしてようこそ、フェアリーワールドへ」

 

 

 炎は自身の額に掛かっていた彼女の手が離れたことで、逃げるようにその場から身を起こした。

 あのままだと何か、自分の中で大切なものが壊れてしまう気がしたのだ。

 怪盗T.P.エイト・オリーシュア──彼女には色々と言いたい言葉があったが、生真面目な彼はそれらの感情を飲み込むと、「ああ、おはよう……」と律儀に挨拶を返した。

 そして彼女の膝枕から解放された炎は、立ち上がって周囲を見回す。

 

 熱帯林に似ているが、見たことの無い植物。

 遠くに見える巨大な大樹。

 そして、水平線に広がる雲の海。

 どれも地球上に存在するものではなく、自分たちがフェアリーワールドに来たのだという事実をこの上なく示すものであった。

 

「ここが、フェアリーワールド……聖獣たちの世界か」

「そうだよ。メアたちもきっと、どこかに落ちているだろう」

「落ちている……ってことは……俺たちははぐれたのか、やっぱり」

「そうなるね。ごめんね、ボクがもう少し早くキミたちのところへ戻っていれば、防ぐことができた状況かもしれない」

「いや、いい」

 

 女の子座りと呼ばれる正座の状態から少し崩した姿勢のまま、困ったようにエイトが笑う。

 そんな彼女と向き合い、炎はまず言わなければならない言葉を先に述べた。

 

「助けてくれて……ありがとう。あんたがいなかったら、全員やられていた」

 

 正直な感謝の気持ちである。

 炎はそれまで、彼女に対してはずっと猜疑的な視線を向けていた。もしかしたら彼女は天使の仲間で、こちらを罠に掛けようとしているのではないかと疑っていたのだ。

 彼女が人外の存在である──という疑いは未だあるにせよ、後者の部分に関しては見当外れだったのかもしれない。「あれだけの力を持つ天使が、俺たちを倒す為だけにわざわざそんな真似をするとは思えない」とは風岡翼の言葉だったが、この件に関しては彼が正しかったのだろう。確かに、サフィラス十大天使に密偵など不要だろう。

 

 それに……決して無防備な寝顔にほだされたわけではないが、あの時身を挺して自分たちを守ってくれた彼女の姿は、間違いなく本気だった。

 

 真意は不明でも、彼女は自分たちを助けてくれた。その事実だけで、助けられた者として頭を下げる理由には十分だった。

 

「ん……ふふっ」

 

 そんな殊勝な態度を見て何を感じたのか、エイトは唇を弛緩させる。

 

「当然の行いさ。キミたちの世界とこの世界、両方を守る為にはね」

 

 そんなエイトの見つめる目線は自身の膝の上。

 炎が先ほどまで眠っていた場所には入れ替わるようにしてリスのような小動物が乗りかかっており、その小動物は彼女のスカートに体毛やしわを付けるのも厭わず丸くなっていた。

 あまりにも野生を失ったその姿に炎たちは緊張感を削がれてしまい、呆気にとられるようにお互いに目を見合わせ、ふっと息を漏らしながら微笑み合った。

 

 

 ──どの世界でも、小動物の寝顔とはリラックス効果をもたらすものなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──脚、しびれたでござる。

 

 しーびーれーたー! あああああ前の人生も含めて初めてやってみたが、膝枕というものがこんなにも脚が痺れるものだとはっ! このエイトちゃん、一生の不覚ッ! 身体が柔らかくても全く関係ないわ!

 あわよくば起きた時、炎の照れ顔というレアなものが見れるのではないかと期待していた気持ちはゼロではなかったが、そんなことを言っている場合じゃねぇ! きちいぜこの痺れはよー!

 

 仮に今僕の足の裏を指先で突いたら、絶対変な声が出るわ。少なくとも今こうして保っているすまし顔が一瞬で崩れる自信がある。なんてこった、勘違い物SSの勘違いバレなどというアンタッチャブルな展開が、そんなことで起こるなんて許さんぞ! 意地でも耐えてやる! 僕は絶対に屈しないぞ!

 

「キュー」

 

 ……だからそこのカーバンクル公、申し訳ないけどそこ退いてくれませんかね? 炎に膝枕していた時よりかは幾分楽な姿勢だけど、今はちょっと脚がヤバいのである。んんっ。

 

 そんなことを考えながらも、僕は完璧なチートオリ主。シュールな内心は決して曝け出さないのである。

 ましてや今は原作主人公の面前。そういうギャップ萌え的なものは、僕の役割ではない。

 

「あんたの言う「占い」という奴で、他のみんなの居場所はわからないか?」

「占い、ね……そうだね、わからなくはない。だけど、もはやボクの占いを当てにするのは難しいかもね。実を言うとこの展開は、当初の占いにはなかった事象なんだ。おそらくはボクがキミたちのメンバーに加わったことで、本来訪れる筈の未来が早速ズレ始めたのかもしれないね」

「そうか……だが、それならお前が言った破滅の未来とやらも、俺たちの行動次第で変えられるってことだな?」

「もちろん。そうでなかったら、ボクもこんなことはしていないさ」

 

 「占い」と言った彼の言葉に僕は一瞬何のことだ?と疑問符を浮かべたが、それが光井明宏と話していた時の僕の台詞を指しているのだと理解すると、即座に話を合わせる。

 僕は事情通でカッコいいオリ主なのだ。この程度のアドリブなら息を吐くように容易いもの。けど物理的な苦痛は勘弁な? 正直、バーストアリスちゃんやティファレトの攻撃よりもこの脚の痺れの方がキツい。一日が始まったばかりでヒーリングタッチを使うのも、体力的にアホらしいしね。

 そういうわけだから、今は座りながらですまない炎君。

 そして僕は、彼が気にしている占いの内容について思い出す。

 

 

『志半ばでキミを失った結果……メアたちは聖龍のもとまでたどり着けず、ケテルの計画は実行される。そして聖獣たちの総攻撃を受けたこの世界は甚大な被害を受け、大勢の命を失うことになる。占いには、そう記されていた』

 

 

 占いには、そう記されていた(キリッ)

 

 だっておwwwwwと机をバンバン叩くやる夫のAAが脳裏に過ぎり、思わず笑いが漏れてしまう。出力の際、その笑みを愛らしいエイトちゃんスマイルに切り替えるのは僕が完璧なTSオリ主である所以だった。可愛いは正義。ケセドもそう言っている。

 

「こんなこと、か……」

 

 ふーっ……やっと痺れが抜けてきたぞ。

 ホラ、今から動くから起きてカーバンクル公ちゃん! よし、いい子だ。乗るなら膝じゃなくてそうやって手のひらの上か、肩に乗っかってくれよな? よーしよしよしよし。

 僕がお利口な小動物を手のひらで弄んでムツゴロっていると、炎君が何やら難しい顔で考え込んでいた。

 

「あんたが人から異能を盗み回っていたのも、全てその為だったのか?」

 

 おう、君ならそう思うよな。クールぶっているけど、根っからのお人好しだもの。

 実際その通りなので、僕は肯定する。

 

「そうだよ。素の力では、とても彼らを止められそうになかった。望んだ未来を盗み取るには、それが一番の近道だったからね」

「何故、それを先に言わなかった? ……いや、あんたは試していたのか。セイバーズが、あんたの見た未来を覆す存在に足り得るかどうかを」

「……ふふっ」

 

 えっ、そうだったの?と僕は内心他人事のように驚くが……改めて僕の行動を顧みると、確かにそう受け取れるムーブをしていた気がする。

 

 まず彼らに認知される最初のきっかけになった予告状からして、「次元の壁より参上いたした」とかいう意味深なヒントが隠されていたのだ。

 それから相次いで発生する異能強奪事件。

 メアの覚醒の前に突如として意味深に登場する美少女怪盗。

 天使との戦いでは表立って参戦はしなかったが、力を貸した。

 その次は力動長太に擬態して会議を異世界行きへと誘導し……本当にヤバくなった時には、身を挺して庇ってくれた。

 

 ……うん。彼らからしてみれば、なんだか試されている感じだよねコレ。もはや露骨すぎて考察もされないレベルである。

 

 いや、僕は鈍感系主人公ではないので、自分がどう見られているかはわかっていた。オリ主として一目置かれる為にミステリアスなお姉さんムーブを貫いていた以上、すんなり仲間入りする気は無かったし、なれないだろうなとも思っていた。原作キャラがチョロいのってなんか嫌だし……しかしそうか、炎には試しているように見えたのか。

 

 なるほど、師匠ポジションなんて言うのは第二クールからの参戦となった時点で諦めていたが、これはひょっとしてひょっとするかもしれない。

 

「俺は……あんたのことを、普通の人間だとは思っていない。あんたが残してきた言葉は、どれもあんたが聖獣側の存在であることを仄めかしていたからな……」

「ふむふむ、それで?」

「……だが、あんたはあのコクマーのように、人間の世界を攻める気は無いんだろう。その気があったとしたら、ここまで俺たちに協力的な意味が無い」

「行動に意味の無い、トリックスター気取りの狂人かもしれないよ?」

「あんたはそういう奴じゃない。……そう、感じる」

「そうかい? それは、嬉しいね」

 

 ふっ、参ったな……ちょっとこれまでの僕のムーブがカッコ良すぎたようだ。

 いやー楽しいわー! 原作に介入できた時間は少ないのに、彼らの心に(オリ主)を刻み込むことができて楽しいわー!

 やだ、すっごい嬉しい。

 そう扱われるように仕向けたのは僕だけど、これほど強い印象を与えていたとはオリ主冥利に尽きると言うものだ。

 僕はワクワクした心持ちで、彼の考察を聞き届けた。

 

「あんたはメアに力を貸してくれた「ケセド」って天使と、同じ目的で動いているんじゃないか? 聖獣側の存在だが、あんたは天使たちが人間世界に侵攻するのを止めたがっている。だから俺たちを導いた」

「よく考えているね」

 

 その考察は、僕が彼らにそう勘違いしてくれたらいいなぁって思っていた通りのものだった。

 ふっ、流石僕の調整力だ。彼らから見ても、非常に美味しいポジションを確立していたらしい。

 流石にサフィラス十大天使の一柱だと思われるのはケテル激おこ案件なので、それとなく否定しておきたい。それでも彼の考察に点数を付けるなら95点と言ったところで、概ね合格点である。

 

 しかし、ここで「正解だよ」と全てを認めてしまうのはナシだ。そんなことをすれば、せっかくここまで積み上げてきたミステリアスなお姉さん像が台無しになってしまう。秘密は女を女にするという言葉があるように、基本的にミステリアスキャラは謎めいていた時の方が魅力があるものなのだ。

 故に僕は、今回も煙に巻くことにした。

 

 

「敵側の存在だけど、キミたちに味方をしてくれるって? ボクってそんなに都合の良い女に見えるかな」

 

 

 脚の痺れが落ち着いてきたので、僕はゆっくりと立ち上がり、気持ちちょっと高圧的になりながらシャフ度を決めて言い放った。

 そうすると炎はハッとしたように言葉を止めて、申し訳なさそうに俯いた。

 

「……そうだな。あんたが聖獣側の存在なら、俺たちの世界の人間に対して思うことがあって当然だ。おこがましいことを言って、すまなかった……」

 

 優しいかよ。

 優しいよ、この原作主人公!

 口調はちょっとぶっきらぼうだが、言葉の節々から聖獣側への思いやりを感じる。そして失言をしたと思ったらしゅんとした子犬みたいな顔をするとは……あざといぜ……流石は前世の姉者を夢女子にした男!

 僕は彼の真摯な態度に驚いて目を見開いたが、慌てて苦笑に切り替える。

 

「謝る必要は無いさ。もしかしたら本当に、ボクが無償の善意でキミたちに味方する、都合の良い女かもしれないだろう?」

 

 都合の良い展開は大好きだけどね。二次創作も一次創作も、多少強引でもハッピーエンドの方が好きである。

 

「……いや、あんたは俺たちの思い通りにはならないだろう。俺の想像だが……見極めているんだろう? 俺たちのことを」

 

 ん……見極める?

 登場人物の活躍的には、確かに色々と見極めていくつもりだ。これからも原作の展開と変わっていくだろうから、その度に彼らがどう動くのか見極めなくてはならない。

 

「そうだとしたら?」

「認めさせたい。俺たちの行動で。俺たちの世界には、確かにろくでもない人間もいるが……そんな奴ばかりじゃないってことを、あんたたちにわからせてやる」

「……キミって、案外強引なんだね」

「よく言われる」

 

 わからせだなんて、そんな……! 流石原作主人公の炎君、さす炎!

 

 ……と言うのは、もちろん冗談である。

 彼がそう言ったのは話の流れ的に考えて、僕がいかにも天使っぽい感じに「人間の善悪」とかを見極めていると思ったからであろう。

 だからこそ今、「俺たちを見ておけ」的な発言をしたのか。その心の熱さはまさにヒーローである。そういうわからせなら大歓迎だ。

 僕は手のひらのカーバンクルを木の上に移しながら、挑発的に言い放った。

 

 

「わかった。ボクはキミたちからこの瞳を逸らさない。だからキミは……ボクを、失望させないでくれたまえよ?」

「ああ、もちろん」

 

 

 チートオリ主による、ささやかなマウント取りである。原作主人公に対しても強そうな風格を見せておかないとね。

 ただし、この手の挑発は高圧的になりすぎると顰蹙を買ってしまうから注意が必要だ。冗談めかしたように人差し指を立てながら、ウインクを決めてにこやかに言うのがポイントである。こうすることで原作主人公に自分を大きく見せつつヘイトも緩和する寸法よ!

 

「……何なんだろうな、一体……」

 

 まあ実際の話、失望されないように気をつけなくてはならないのは僕の方なんだけどね。

 僕は前途多難な異世界二人旅に、期待と不安を半分ずつ抱いていた。

 

 




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