TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
さて、これからのことを考えよう。
脚の痺れが治まり、無事動けるようになった僕はカーバンクル公に別れの挨拶を告げた後、炎と共に歩き出した。
それに合わせて、後ろからついてくる小動物。
そ……そんなに名残惜しそうな鳴き声を出しても、連れていかないからね? 確かに可愛らしい小動物に理由なく懐かれたのは嬉しいけど、この旅は危険なのだ。まあ小さくても聖獣だし、自分の身は自分で守れるのかもしれないが……
……いや、待てよ。
未知の世界で初めて会った動物と心を通わせ、共に旅する仲間となる。これ、なんか主人公っぽくね?
フェアリーセイバーズにおけるそう言ったマスコット枠はケセドが担当していたが、彼が不在であるこの世界ではその枠が空いている状態だ。そう考えるとこの子は、現状で不足しているもふもふ分を補完する存在感になり得るかもしれない。
……アリだな。それでなくとも美少女と小動物の組み合わせは鬼に金棒、女騎士にオーク、黄金バッテリーのようなものだ。この子がついてくるなら、オリ主的に考えて受け入れるのもやぶさかではなかった。
「……来るかい?」
「おい」
トコトコとついてくるカーバンクルに振り向いて手を差し伸べると、横から炎が冷静にツッコミをいれてきた。
まあ確かに、常識的に考えて野生動物を連れていってはいかんだろう。
しかし、僕には秘策がある。第二クールの暁月炎は昔より遥かに改善されているが、それでも話術は得意ではないのだ。その点僕にとって翼より相性が良い。
と言うわけで、僕は無理矢理やり込めることにした。
「道案内してくれるってさ。ここは彼の厚意に甘えよう」
「……そいつの言葉がわかるのか?」
「何となくだけどね」
嘘です。流石に動物と話せる異能は盗んでいない。
しかしそう言うことにしておけば、これから行う予定の千里眼と原作知識を活かした道案内を誤魔化すことができる。味方とは言え、ストックしている能力はなるべくバラしたくないからね。
手際の良い地理の把握は、全て原生生物であるこの子の功績にするのだ。そうすれば彼視点でもカーバンクル公を連れて行くメリットになる。
「おいで」
「チチッ」
呼びかけるとこちらの言葉がわかっているように、小さな道案内人(ということになった)カーバンクルがポフっと僕の胸に飛び込んでくる。小さくてすまない。かわいい。前世では猫を飼いたかったのだがアレルギー体質で飼えなかったことを思い出し、十数年分の悲願を果たした僕はその時間を埋めるように彼の頭に頬を埋めてモフりまくった。かわいい。
流石聖獣、野生動物のくせに清潔な匂いしよるわ。
「……そうか……」
そんな僕らの姿に毒気を抜かれたのか、炎はそれ以上何も言わなかった。或いは呆れて何も言えなかったのかもしれないが、必要な時は僕もちゃんと対応するので許してくれ。むふふふ……この毛並みがたまらんのですよ。
──この時の原作アニメ「フェアリーセイバーズ」で起こった出来事である。
炎たち灯ちゃん護衛隊は超空間にて聖獣たちの奇襲を受け、炎と灯、他三人がそれぞれバラバラにはぐれてフェアリーワールドへと不時着することになる。
炎と灯が落ちたのはこの世界を構成する10の島の一つ、第7の島「アドナイ」にある小さな村だった。
森の中で気絶していた二人は、聖獣コボルド族の親切な老人に拾われ、介抱される。目を覚ました二人は自らを取り巻くその状況に驚くが、彼らの話を聞いて聖獣たち全員が人間のことを敵視しているわけではないのだと知った。
しかし、突如として彼らの住む村が「怪物」に襲われる。
人間にも聖獣にも当てはまらない、スライムのような不定形の姿をしたそれは、もはや生物とすら呼べるのかわからない禍々しい存在だった。
出現した「怪物」は、触れた物全てを灰にしながらコボルド族の住民に迫ってくる。
炎と灯は村人たちに加勢し、協力してこれを撃退する。
村人たちから感謝される二人は、彼らの口からこの世界に現れた「怪物」、そして今のフェアリーワールドを取り巻いている恐るべき事情を知るのだった。
……と、細部までの情報は覚えていないが、大まかな内容はそんな感じの回である。
そんな原作知識を「占いで知った未来」ということにして炎に伝えると、彼は頭痛を催したように頭を押さえた。
全く未知の世界である、フェアリーワールドの新情報を開示されたのだから当然の反応だろう。しかも原作と違って説明役が不完全なのだから、今までそれとなく知る機会も無かっただろうし。
もちろん灯ちゃんが出てくるところはメアに置き換えて誤魔化したが、それにしたって彼にとっては全てが聞き流せない情報だった筈だ。
「……その、「怪物」というのは……?」
「深淵より現れ出た、無の使者……天使たちからは「アビス」と呼ばれている、聖獣にとって天敵種と呼ぶべき存在だよ。キミたちの言葉で言うと、魔物とか魔獣と呼んだ方がわかりやすいかもね」
「アビス……魔獣か。いよいよ、ゲームみたいだな……」
「げえむ? 意外だね……キミもああいうの、やってるんだ」
「小さい頃にな」
「へぇー」
そう、アビスだ。
フェアリーワールドに存在する聖獣とは全く異なる邪悪な存在は、ファンタジーRPGで言うところの魔物みたいな存在である。
そういう表現で彼に伝わったのは意外だったが、原作を思い出してみると確かに暁月炎という青年は昔から今のようにストイックだったわけではない。両親が生きていた頃の回想シーンなんかでは普通の少年として元気に過ごしていたことを、僕は思い出した。
「会ってみたかったね。子供の頃のキミというのにも」
「俺は会いたくない」
えっ、そう?
なんだよーそんなに冷たく言うなよー。
「……ガキの頃にあんたと会っていたら……何というか駄目になっていた気がする」
「?」
「そんなことはいい。それより、あんたが占った未来のことだ。今の状況は、その未来とどれぐらい近い?」
ふむ、情報の擦り合わせか。確かにそれは最優先に行っておくべきだろう。
安心せい。このオリ主、抜かってはおらぬわ。言われるまでもなく、森の中をこうして歩きながら僕は「千里眼」の異能と「サーチ」の異能を調合し、ハイパーセンサー的な能力によって有効距離内の地形を大体把握していた。
そこから算出した情報でわかったことだが……この状況は、割と
「落ちた場所に関しては、ほとんど同じだね。占いと違うのは、キミの隣にいるのがメアではなくボクという点ぐらいかな」
「そうか……と言うことは、あんたが見た占いでは、俺たちは元々あそこで全滅するわけじゃなかったんだな」
「うん。キミたちが力尽きる未来は、もう少し先だよ。あの時も、ボクが見た未来では襲ってくるのはワイバーンたちだけで、もう少し楽な展開になる筈だったんだ」
「天使、か……」
「美のサフィラス、ティファレト。彼女がやって来るのは、占いにはない未来だった」
思わぬアクシデントがあったとは言え、僕たちが落ちたこの場所はフェアリーワールドの第7の島「アドナイ」の森のどこかだ。原作で炎と灯ちゃんが落ちた島と同じである。ハイパーセンサー的な能力で探知したところ、森を出た付近の場所に集落っぽいものがあった。おそらくあれが、原作にも登場したコボルド族の村であろう。
「コボルド族と言うのは? 聖獣とは違うのか?」
「この世界の生き物という意味なら、彼らも聖獣だよ。キミたちで言えば、人種のようなものかな? このフェアリーワールドだってキミたちの世界と同じように、多くの種の生き物と文化がある。たとえばこの子はカーバンクル種という聖獣で、他にはオーク族や竜人族もいるね。天使は神様が生み出した特殊な存在だけど、大枠で言えば彼らもまた聖獣だ。緑の自然と一体になっているこの島の住民には、コボルド族が多いようだね」
モフモフがいっぱいあって、原作では灯ちゃんがすっごい目をキラキラさせていたことを思い出す。
僕たちが落ちたこの島「アドナイ」はとにかく緑が多い為、都会暮らしの彼らからしたら特に非日常感が強いエリアかもしれない。
「行ってみるかい? 彼らの村に。この子が言うには、そう遠くない場所にあるらしいよ」
「キュー?」
「……そうだな。意思疎通ができるなら、メアたちの情報も何か掴めるかもしれない」
「彼らならできるよ。コクマーが使っていたように、テレパシーが使えるからね」
「よし。案内頼む、えっと……その子の名前は?」
「カバラちゃんだよ」
「カバラちゃん? ……少し、ゴツくないか?」
「そんなことないさ。ね?」
「キュッ」
「そうか……」
うむ、この子の名前は今からカバラちゃんだ。種族名のカーバンクルにゴジラを足してカバラ。見た目は可愛らしい小動物だけど、ゴジラを足せば強そうな響きになるだろう? 僕について来るのなら、可愛いだけじゃいけないからね。何となく、この名前が一番しっくり来たのである。勝手に名付けてしまったが、カーバンクル公改めカバラちゃんも気に入っている様子だ。
そういうわけで原作では炎、灯withケセドで始まった二人旅は、炎、僕withカバラちゃんの二人一匹の旅として始まったのである。こうしてみるとまるで僕がメインヒロインに成り代わったみたいだけど、安心してほしい。元の性別以前にそもそも僕はNTR系SSは苦手だし、何より義理深い彼のことだ。仮に僕が誘惑しても歯牙にも掛けないだろうね。
そう考えるとイベントの絶えない原作主人公と二人っきりの状況は、やはりオリ主的に最良の展開だった。
そう思っていたのだが……
『見つけたぞ、人間共。貴様たちはネツァク様の筆頭天使、ハニエルが始末する!』
「!?」
森から出てさあコボルド族の村へ行こうとした矢先、空から知らない天使が降ってきた。筋肉ムキムキな美青年である。
何だお前新手のオリ主か? いや、本人が自己紹介した通り筆頭天使という大天使の部下か。
フェアリーワールドを構成する10の島を管理しているのは、それぞれの島に割り当てられたサフィラス十大天使である。
この第7の島「アドナイ」なら、勝利の天使「ネツァク」がこの島の管理者となる。聖龍アイン・ソフによって直々に生み出された大天使たちはそれぞれ、島のヒエラルキーの頂点に君臨する。
その下には大天使に仕える天使たち、その下にコボルド族のような他の一般聖獣が来るという序列だ。
今唐突に空からやって来た四枚羽の天使は、大天使に仕える天使たちの中でトップに立つ男──即ちサフィラス十大天使に最も近い課長職のような立場ということか。お勤めご苦労である。
「天使……サフィラスの仲間か?」
「そうだね」
「わかった。俺が話す」
おそらくこのフェアリーワールドに侵入した病原菌を排除しに動いたのだろう。原作では穏健派だったティファレトまでも殺意マシマシになっていた以上、他の天使も殺気立っていると思ったが悪い予想が当たってしまった。
炎はこちらに敵意が無いこと、戦いを止めてもらうように対話しに来たのだということを真摯に呼び掛けるが……案の定、筆頭天使殿は取り付く島もなかった。
『黙れ痴れ者が! もはや貴様たちに交渉の余地など無いわ!』
「……やはり、そうなるか……!」
うん、そうなるわな。初めから上手く行くぐらいなら、皆だって決死の思いでこの世界には来なかっただろう。
ネツァクの筆頭天使と称するハニエルという天使は怒り心頭の様子で、その両手にホーリーロッド的な上品な棒を携えて殴り掛かってきた。おおう、流石ネツァクの部下、武闘派である。
「ふっ!」
『む!?』
対する炎はその手に異能「焔」で形成した焔の剣を携え、彼の一閃を受け止める。カッコいい。彼の異能は単純に焔を放出するのはもちろん、拳に纏ったりこうして剣を作ったりすることもでき、派手な上に応用の幅も大きい画面映えする能力だった。流石主人公と言うべきか、彼の異能じゃなかったら真っ先に盗んでいたぐらいである。尤も、今は「闇の呪縛」で似たようなことができるから要らないけどね。
そんな彼は単身前に出て、不器用ながら説得の言葉も交えてハニエルとの交戦に入る。
僕はそれを見て──間が持たなかったので、とりあえずハープを鳴らして応援することにした。こら、カバラちゃん! ハープをゴシゴシしちゃ駄目でしょ。ドングリあげるから下がってなさい。
……小動物を肩に乗せたまま演奏するのに、慣れておいた方が良さそうだ。
「話は聞いた……この世界にはアビスというあんたたちの敵がいることを」
『ふん……ケセド様の紛い物から聞いたか!』
「俺たちも、そいつらの退治に協力する! だから俺たちの世界への攻撃をやめてほしい」
『笑わせるな! 貴様たちの協力程度何になる!? フェアリーを
うーん……この会話のドッジボール。炎らしい正義感と実利を併せ持った説得だが、それをするなら今回は相手が悪かったな。もっと上の偉い天使、ネツァクのような十大天使に持ち掛けるのならともかくとしても。
しかし炎も相変わらず、自己犠牲精神が強いと言うべきか。実際にアビスの脅威を見る前にそんなことを提案するとは、なんか一人にするのは凄い危ない感じがする男である。視聴者目線ではカッコ良くて推せたが、こうして近くで見ると「私が支えなきゃ」となる灯ちゃんの気持ちがわかるというもの。うむ、やはりあの二人はベストカップルである。
ん、そんなことを考えている場合か、お前も戦えだって?
いや、まだその必要は無いかなって。だって炎君、勝つし。
『己の利用価値を示し、交渉の材料にしたいのなら! 貴様の力を見せてみろォ!』
「……わかった」
『!?』
──瞬間、炎の身体から爆発的な量の焔が奔流し、その色が紅蓮から蒼に変わった。
おお、キタキタキタキタ──ッ!!
ポロローンという音でハープの演奏を締めながら、僕は訳知り顔で微笑む。いや、実際訳知ってるんだけどね、原作知識的に考えて。
そんな僕は、蒼炎を纏い圧倒的なパワーで一気にハニエルを圧していく炎の姿を見て、いい感じにミステリアスな雰囲気で呟いた。
「フェアリーバースト……それは、アイン・ソフが託した唯一の希望」
エイトちゃんスマイルで次回へ続く──というわけだあ!
オリ主とは動物に懐かれやすいもの……